説明

排水用配管部材の引き抜き治具

【課題】床スラブに埋設された排水用配管部材を床スラブから取り除くにあたり、排水用配管部材の外形や埋設状態による制約を受けずに排水用配管部材を引き抜き可能とする。
【解決手段】排水用配管部材11の下方に配置される引き上げ駒部材51と、排水用配管部材11を貫通して引き上げ駒部材51を吊り下げ支持する軸部材41と、軸部材41を床スラブSの上側で支持する支持部材31と、引き上げ駒51を軸部材41の軸方向に上昇させる上昇機構23と、を備え、引き上げ駒部材51は、排水用配管部材11の下端の内径より大きく形成されておって排水用配管部材11の下端を下方から支持できる構成とされており、該排水用配管部材11の下端を下方から引き上げ駒部材51で支持して上昇機構23により上昇させることにより排水用配管部材11を上昇させて床スラブSから引き抜く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水用配管部材の引き抜き治具に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅等の排水設備においては、立て管系統が各階の床スラブを貫いて配されており、例えば、図13に示されるように、排水管継手11が床スラブSに埋設されて固定されている。かかる排水設備を更新するにあたっては、既存の排水管継手を床スラブから撤去し、新たな排水管継手を配設する必要がある。従来、既存の排水管継手を床スラブから撤去する際には、下記特許文献1に示されるように、床スラブの貫通孔と排水管継手との間を埋める目地材としてのモルタルをダイアモンドカッターで破壊したうえで、作業者が排水管継手を引っ張り上げて、床スラブからを引き抜く方法が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−138428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
集合住宅等での排水設備の更新工事においては、できるだけ住人の日常生活を妨げないよう配慮が必要とされる。しかし、ダイアモンドカッターでモルタルを破壊すると、振動や騒音が床スラブを介して直接的に居住空間へ伝達される発生する問題がある。また、排水技術の進歩により、排水管継手はスリム化されており、撤去される旧型の排水管継手よりも新に配設される排水管継手のほうが小径であることが多い。そのため、モルタルを破壊することで床スラブの孔が拡大されると、新たな排水管継手を埋設する際には、孔と排水管継手との間隙を埋めるのに、より多くのモルタルを要することとなり、資材のロスを生じる問題もある。
【0005】
これらの問題を鑑みれば、モルタルを破壊することなく排水管継手を床スラブから引き抜くのが望ましい。そのため、排水管継手の床スラブから突出した部位の外周を把持し、ジャッキで引き上げて、排水管継手を床スラブから引き抜く場合もある。しかし、排水管継手が把持しにくい構成である場合には適用できない。例えば、図13に示される排水管継手11は、単管式排水システムの代表的な継手の一つである所謂ソベント継手であり、従来、集合住宅等で広く用いられていたものであるが、鋼板を溶接して形成されており、胴回りを把持すると撓み易く、引っ掛かりも少ないため、外側から把持してジャッキで持ち上げるのは難しい。また、このような継手に限らず、床スラブから突出した部位が短いか、若しくは床スラブから突出していない埋設状態の配管部材は、外側から把持することさえできないため、引き抜くことができない。
【0006】
そこで、本発明の課題は、床スラブに埋設された排水用配管部材を床スラブから取り除くにあたり、排水用配管部材の外形や埋設状態による制約を受けずに排水用配管部材を引き抜き可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は次の手段を採用する。
本発明は、床スラブに埋設された排水用配管部材を床スラブから取り除くための排水用配管部材の引き抜き治具であって、前記排水用配管部材の下方に配置される引き上げ駒部材と、前記排水用配管部材を貫通して前記引き上げ駒部材を吊り下げ支持する軸部材と、該軸部材を前記床スラブの上側で支持する支持部材と、前記引き上げ駒を前記軸部材の軸方向に上昇させる上昇機構と、を備え、前記引き上げ駒部材の外径は、前記排水用配管部材の下端の内径より大きく形成されておって前記排水用配管部材の下端を下方から支持できる構成とされており、該排水用配管部材の下端を下方から該引き上げ駒部材で支持して前記上昇機構により上昇させることにより前記排水用配管部材を上昇させて床スラブから引き抜くことを特徴とする排水用配管部材の引き抜き治具である。
【0008】
かかる排水用配管部材の引き抜き治具によれば、排水用配管部材(以下、単に配管部材と称することがある。)を引き上げる際に、引き上げ駒部材で排水用配管部材の下端を下方から支持して引き上げるため、どんな外形や埋設態様の配管部材でも床スラブから引き抜くことができる。
【0009】
上記本発明の前記引き上げ駒部材を上昇させる上昇機構は、前記軸部材にはその上部に雄螺子を形成した上部雄螺子部位を、前記支持部材には雌螺子を形成した雌螺子螺合孔部位を備えて、該上部雄螺子部位と該雌螺子螺合孔部位とが軸方向に相対移動自在に螺合して前記軸部材が前記支持部材に支持されており、前記軸部材の上部雄螺子部位と前記支持部材の雌螺子螺合孔部位との前記軸部材を上昇させる相対回転による前記軸部材の上昇に伴い、前記軸部材と一体的とされている前記引き上げ駒部材を上昇させる機構であることが好ましい。
【0010】
また、上記本発明の前記引き上げ駒部材を上昇させる上昇機構は、前記軸部材は前記支持部材に対して軸周りに回転自在に支持されており、その下部に雄螺子を形成した下部雄螺子部位を備え、前記引き上げ駒部材は雌螺子を形成した雌螺子螺合孔部位を備えて、該引き上げ駒部材の雌螺子螺合孔部位が前記軸部材の下部雄螺子部位に対して軸方向に移動自在に螺合して該引き上げ駒部材が前記軸部材に支持されており、前記軸部材の前記引き上げ駒部材を上昇させる回転により前記引き上げ駒部材を前記軸部材に沿って上昇させる機構であることも好ましい。
【0011】
また、本発明の排水用配管部材の引き抜き治具は、前記軸部材には該軸部材に微振動を与えることのできる加振手段具が連結配設されており、該加振手段具により前記引き上げ駒部材を微振動させながら上昇させることが好ましい。この場合、引き上げ駒部材から排水用配管部材に微振動が伝達されることで、排水用配管部材がモルタル等の目地材から剥がれやすくなり、円滑に排水用配管部材を床スラブから引き抜くことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排水用配管部材の引き抜き治具によれば、引き抜きの対象となる排水用配管部材の外形や埋設状態に制約されることなく、モルタル等の目地材を破壊せずに排水用配管部材を床スラブから引き抜き抜くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1に係る排水用配管部材の引き抜き治具の正面図であり、ソベント継手を引き抜く前の状態を示す図である。
【図2】図1に示される排水用配管部材の引き抜き治具の正面図であり、ソベント継手を引き抜いた後の状態を示す図である。
【図3】図1に示される排水用配管部材の引き抜き治具のIII−III線断面を拡大して示す図である。
【図4】実施形態1の変更例1に係る排水用配管部材の引き抜き治具の正面図であり、ソベント継手を引き抜く前の状態を示す図である。
【図5】本発明の実施形態1の変更例2に係る排水用配管部材の引き抜き治具の正面図であり、排水トラップを引き抜く前の状態を示す図である。
【図6】図5に示される排水用配管部材の引き抜き治具の正面図であり、排水トラップを引き抜いた後の状態を示す図である。
【図7】本発明の実施形態1の変更例3に係る排水用配管部材の引き抜き治具の正面図であり、排水管継手を引き抜く前の状態を示す図である。
【図8】図7に示される排水用配管部材の引き抜き治具の正面図であり、排水管継手を引き抜く過程を示す図である。
【図9】本発明の実施形態2に係る排水用配管部材の引き抜き治具の正面図であり、ソベント継手を引き抜く前の状態を示す図である。
【図10】図9に示される排水用配管部材の引き抜き治具の正面図であり、ソベント継手を引き抜いた後の状態を示す図である。
【図11】図9に示されるXI部分を拡大して示す図である。
【図12】図9に示される排水用配管部材の引き抜き治具のXII−XII線断面を拡大して示す図である。
【図13】従来の排水設備を構成するソベント継手の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施形態1]
図1〜3等を参照しながら本発明の一実施形態について説明する。本実施形態は、床スラブSに埋設された既存のソベント継手11を引き抜く実施形態の一例である。ソベント継手11は、図13に示されるように、胴部11aと、下階の立て管12bを接続するための下部接続部11bと、上階の立て管12cを接続するための上部接続部11cとを備えている。胴部11aは、略角柱状で下方が一方向に偏って窄んだ形状となっており、下部に直管状の下部接続部11bが延設されている。胴部11aの上部には、下部接続部11bとは軸線のずれた位置から上部接続部11cが延設され、屈曲しながら上方へ延びている。また、胴部11aの前記一方向の壁面には、上下に段違いで2つの横枝管接続口11d,11eが設けられている。ソベント継手11は、床スラブSを貫通した状態で床スラブSに固着されており、直管状の下部接続部11bが下階に延びている。
【0015】
図1に示されるように、本実施形態の排水用配管部材の引き抜き治具21は、支持部材31と、軸部材41と、引き上げ駒部材51と、引き上げ駒部材51を軸部材41とともに上昇させる上昇機構23と、を備えている。先ず、この引き抜き治具21を構成する各部材について説明する。
【0016】
<支持部材31について>
支持部材31は、床スラブSに立設される本体部33を備えている。本体部33は、互いに離間して配置された一対の脚部位33a,33aと、該脚部位33a,33aの上端部を連結する水平な支持部位33bとを有し、全体として門形である。脚部位33a,33aの下部には高さ調節機構35,35が設けられている。各高さ調節機構35は、アジャストボルト35aと、脚部位33aの下端に固定されたナット35bとで構成されている。アジャストボルト35aは、略全長にわたって雄螺子が形成されており、ナット35bに対して進退可能に螺合している。アジャストボルト35aのねじ込み量を調節することで支持部材31の高さを調節することができ、その位置で高さが保持される。
【0017】
支持部材31は、本体部33の支持部位33bの中央に軸部材41を挿通可能な垂直な貫通孔37が設けられているとともに、本体部33とは別体のナット39を有する。ナット39は、外形が支持部位33bの貫通孔37の内径より大きく、中央の貫通孔に雌螺子が形成されている。そして、支持部位33bの貫通孔37に挿通した軸部材41の貫通孔37より上方に突出した部分に螺合し、スラスト軸受40を介して貫通孔37に対して軸部材41を抜け止めしている。このナット39により支持部位33bに軸部材41が支持されている。ナット39は、軸部材41に対して軸方向に相対移動自在に螺合しており、本発明の雌螺子螺合孔部位に相当し、後で詳述するように、上昇機構23をも構成する。
【0018】
<軸部材41について>
軸部材41は、その上部に支持部材31の雌螺子螺合孔部位であるナット39と螺合する雄螺子が形成されている。この雄螺子が形成された部位を上部雄螺子部位43と称する。上部雄螺子部位43は軸方向に長く形成されており、ナット39に対して軸方向に相対移動自在に螺合している。軸部材41は、ソベント継手11を貫通して配置され、ソベント継手11の下端の開口部の中心を貫いている。つまり、直管状の下部接続部11bと同軸で配置されている。ソベント継手11では、図13に示されるように、上階の排水立て管12cとの接続に係る上部接続部11cが、下部接続部11bとは管軸のずれた位置から上方へ延びて屈曲している。したがって、ソベント継手11では、下部接続部11bの真上に、直線的に連通する開口がないため、天板に孔を開けて軸部材41を貫通される。図1に示されるように、ソベント継手11を貫通して下方に突出した軸部材41の下端部には、引き上げ駒部材51が取り付けられている。なお、本実施形態では、2本の棒状部材41a,41bを連結具42で連結して、1本の軸部材41としている。
【0019】
<引き上げ駒部材51について>
引き上げ駒部材51は、図3に示されるように、径の異なる略円盤状の部位を同心で上下に重ねたような形状であり、相対的に大径の支持部位55と、その上に一体形成された相対的に小径の位置決め部位57とを備え、支持部位55の上面周縁に段部55aが形成されている。支持部位55の外径は、ソベント継手11の下部接続部11bの内径αより大きく、下部接続部11bの外径βより小さい扁平な円筒状に形成されている。位置決め部位57の外径は、ソベント継手11の下部接続部11bの内径αよりも小さく形成されており、下部接続部11bに挿入可能とされている。位置決め部位57は、上方に向かって緩やかに窄まったテーパ形状であって、該テーパ形状により下部接続部11bへの挿入を案内することができる。
【0020】
引き上げ駒部材51は、中心に貫通孔53が形成されており、該貫通孔53に軸部材41が貫通された状態で、軸部材41に吊り下げ支持されている。軸部材41の下端に螺合したナット45で抜け止めされるとともに、引き上げ駒部材51の外周面から中心に向かって貫通形成されたネジ孔にボルト59aを締め込み、軸部材41の外周に形成された平面部41fにボルトの先端で押圧することで、軸周りの回転が規制された状態で軸部材41に取り付けられている。軸部材41は、引き上げ駒部材51の位置決め部位57が下部接続部11bに挿入され、支持部位55の段部55aが下部接続部11bの下端に押し当てられた状態となるように、引き上げ駒部材51を吊り下げ支持している。すなわち、図1に示されるように、このような吊り下げ支持状態となるように、支持部材31のナット39が軸部材41の上部雄螺子部位43にねじ込まれている。
【0021】
<上昇機構23について>
引き上げ駒部材51を上昇させる上昇機構23は、支持部材31の雌螺子螺合孔部位であるナット39を回転させることで、該ナット39に螺合する軸部材41が上昇し、それに追従して軸部材41の下部に取り付けられた引き上げ駒部材51が上昇する構造となっている。引き上げ駒部材51は、ソベント継手11の下部接続部11bの下端に押し当てられており、引き上げ駒部材51を介して軸部材41にかかるソベント継手11の重みが、軸部材41の上部雄螺子部位43とナット39との摩擦力に勝っているため、ナット39を回転させても、軸部材41はナット39に追従して回転はしない。そのため、ナット39をその場で回転させることで、軸部材41の上部雄螺子部位43の螺子溝とナット39の螺子溝との嵌め合いにより、軸部材41は上方へ案内される。したがって、例えば、ラチェットレンチやスパナなどの工具を用いてナット39を回すことで、図2に示されるように、引き上げ駒部材51を軸部材41とともに上昇させることができる。
【0022】
かかる構成の引き抜き治具21は、ナット39を回転させて引き上げ駒部材51を上昇させることで、引き上げ駒部材51でソベント継手11の下端を下方から支持しながら引き上げることができる。その引き上げる力により、床スラブSからソベント継手11が剥がされ、引き抜き可能となる。本実施形態では、上昇機構23による引き上げ駒部材51の上昇距離が、ソベント継手11の全長を床スラブSから引き抜くことが可能な距離となっている。すなわち、軸部材41の上部雄螺子部位43は、少なくともソベント継手11の全長を床スラブSから引き抜きくことが可能な距離だけは上昇可能とする範囲に設けられている。また、支持部材31は、支持部位33bが少なくともソベント継手11の全長が床スラブSから引き抜かれるまではソベント継手11とは干渉しない高さ位置に保持されている。また、ソベント継手11の上部接続部11c(図13参照)が軸部材41の上昇の妨げになる場合は、予め上部接続部11cを切除しておくのが望ましい。
【0023】
このような引き抜き治具21によれば、軸部材41に吊り下げ支持された引き上げ駒部材51でソベント継手11の下端を下方から支持して引き上げるため、ソベント継手11のように外側から把持しにくい形状の排水用配管部材であっても引き上げることができる。そのため、その引き上げ力により床スラブSからソベント継手11を引き剥がすことができ、床スラブSを破壊することなく、ソベント継手11を床スラブSから引き抜くことができる。
【0024】
なお、上記実施形態1は、その他種々の変更例が考えられるものである。
例えば、引き上げ駒部材51を上昇させるためのナット39は、所謂六角ナットに限定されない。例えば、軸部材41に対して所定の螺合位置付近まで無回転で挿入可能な所謂クイックナットや、軸周りに分割形成された分割ナット片を所定の螺合位置付近で連結させて締め付けることのできる分割ナットなどを用いることもできる。これらを用いれば、引き抜き治具21の組み立て・設置にあたり、軸部材41に対して、初期の螺合位置付近までナットをねじ込む作業が省略され、作業時間の短縮が可能である点で好ましい。
また、ナット39は、工具で回転操作するものに限らない。ナット39自体に把持して回転させることのできる部位を設ければ、工具を用いなくても回転操作を可能とすることができる。その一例を変更例1として後述する。
また、床スラブSから引き抜く対象となる排水用配管部材は、ソベント継手11に限らず、床スラブSを貫通して配設されている各種の配管部材を対象とすることができる。例えば、後で変更例2として例示する排水トラップや、変更例3として例示するソベント継手11とは異なる形態の排水管継手、或いは、排水管やそれを繋ぐソケット等の配管部材も引き抜きの対象とすることができる。
また、上記実施形態1の上昇機構23は、支持部材31の雌螺子螺合孔部位であるナット39を回転操作させることで軸部材41を上方へ移動させる構成であるが、これに限らず、支持部材31に雌螺子螺合孔部位を固定して設け、軸部材41を回転操作して上昇させる構成としてもよい。雌螺子螺合孔部位は、例えば、支持部材31にナットを固定したり、あるいは貫通孔37に雌螺子を形成したりして、支持部材31に固定して設けることができる。
【0025】
[変更例1]
図4を参照しながら変更例1について説明する。変更例1は、本発明の一実施形態であって、上記実施形態1の一部のみを変更した実施形態である。上記実施形態から変更を要しない部分については、図中に同じ符号で示し、詳細な説明は省略する。
【0026】
変更例1では、支持部材31の雌螺子螺合孔部位として、外周に外方へ延びるハンドル38a,38aを備えたナット38を用いている。そのため、ハンドル38a,38aを操作することにより工具を用いなくてもナット38を回転させて引き上げ駒部材51を上昇させてソベント継手11を引き抜くことができる。
【0027】
[変更例2]
図5,6を参照しながら変更例2について説明する。変更例2は、本発明の一実施形態であって、上記実施形態1の引き抜き治具21により、床スラブSに埋設された排水トラップ13を引き抜く実施形態である。上記実施形態から変更を要しない部分については、図中に同じ符号で示し、詳細な説明は省略する。
【0028】
排水トラップ13は、ワントラップ或いはわん型排水トラップ等と称される排水トラップであり、図5に示されるように、容器型の本体部が床スラブSに埋め込まれ、上部開口13aは床スラブSの上面と略面一とされ、排水管が接続される下部接続部13bは床スラブSの下面と面一とされている。排水トラップ13を床スラブSから引き抜く際には、ストレーナ(図示省略)や、わん(図示省略)が取り外され、上部開口13aと下部接続部13bとが垂直方向に直線的に連通した状態とされる。そして、軸部材41が上部開口13aと下部接続部13bとを貫通し、引き上げ駒部材51を下部接続部13bの下端に押し当てた状態として吊り下げ支持している状態とする。次いで、図6に示されるように、ナット39を回転させて引き上げ駒部材51を上昇させることで、排水トラップ13を床スラブSから引き抜くことができる。このように、引き抜き治具21によれば、配管部材が床スラブSから突起していなくても引き抜くことができる。なお、図5,6では、支持部材31の高さ調節機構35を構成するアジャストボルト35aのねじ込み量を最大とすることで、支持部材31が最低の高さ位置で保持されている様子を例示した。排水トラップ13は、垂直方向の寸法が比較的小さいく、床スラブSから完全に引き抜くのに必要な引き上げ駒部材51の上昇距離が短いため、支持部材31が比較的低くても引き抜き可能である。
【0029】
[変更例3]
図7,8を参照しながら変更例3について説明する。変更例3は、本発明の一実施形態であって、上記実施形態1の引き抜き治具21により、ソベント継手11とは異なる形態の排水管継手15を床スラブSから引き抜く実施形態である。
【0030】
排水管継手15は、上階の排水立て管との接続に係る上部接続部15aと、下階の排水立て管との接続に係る下部接続部15bとが同軸で配置されており、胴周りに複数の横枝管接続部15cを備えている。排水管継手15は、床スラブSを貫通した状態で床スラブSに固着されている。この排水管継手15を床スラブSから引き抜く際には、図7に示されるように、軸部材41が上部開口15aと下部接続部15bとを貫通し、引き上げ駒部材51を下部接続部15bの下端に押し当てた状態として吊り下げ支持している状態とする。次いで、ナット39を回転させて引き上げ駒部材51を上昇させる(図8参照)。それにより、引き上げ駒部材51で排水管継手15を下方から支持して引き上げ、排水管継手15を床スラブSから引き抜くことができる。
【0031】
[実施形態2]
図9〜12を参照しながら、本発明の別の実施形態について説明する。本実施形態は、床スラブSに埋設された既存のソベント継手11を引き抜く実施形態の一例である。ソベント継手11の構成は上記実施形態1と同様であるから、詳細な説明は省略する。
【0032】
図9に示されるように、本実施形態の引き抜き治具61は、支持部材71と、軸部材81と、引き上げ駒部材91と、引き上げ駒部材91を軸部材81に沿って上昇させる上昇機構63と、軸部材81に微振動を与えることのできる加振手段具としてのインパクトレンチ65と、を備えている。先ず、この引き抜き治具61を構成する各部材について説明する。
【0033】
<支持部材71について>
支持部材71は、床スラブSに立設される本体部73を備えている。本体部73は、互いに離間して配置された一対の脚部位73a,73aと、該脚部位73a,73aの上端部を連結する水平な支持部位73bとを有し、全体として門形である。支持部位73bの中央には、軸部材81を挿通可能な垂直な貫通孔77が形成されている。後で詳述するように、軸部材81は、この貫通孔77に挿通された状態で、軸周りに空転可能に支持部材71に支持されている。なお、脚部位73a,73aの下部には高さ調節機構75,75が設けられている。その構成は、上記実施形態1の高さ調節機構35と同様であるから詳細な説明は省略する。
【0034】
<軸部材81について>
軸部材81は、その上部が支持部材71の支持部位73bの貫通孔77に挿通された状態で、支持部材71に垂直に支持されている。図11に示されるように、軸部材81の上部には、雄螺子81cが形成されており、貫通孔77を挟んで上下位置にナット79a,79bが締めこまれて貫通孔77に対して抜け止めされ、支持部材71に支持されている。貫通孔77にはネジ溝は形成されておらず、軸部材81は、貫通孔77に対して軸周りに空転可能となっている。また、ナット79a,79bと支持部位73bとの間にはスラスト軸受80a,80bが介在しており、軸部材81を軸周りに回転させると、該軸部材81に追従してナット79a,79bも回転することで、軸部材81は、高さ位置を保持したままで空転可能となっている。
【0035】
図9に示されるように、軸部材81は、その下部に雄螺子が形成されている。この雄螺子が形成された部位を下部雄螺子部位83と称する。下部雄螺子部位83は軸方向に長く形成されており、引き上げ駒部材91に対して軸方向に相対移動自在に螺合し、引き上げ駒部材91を吊り下げ支持している。
なお、本実施形態では、2本の棒状部材81a,81bを連結具82で連結して、1本の軸部材81としている。
【0036】
<引き上げ駒部材91について>
引き上げ駒部材91は、図12に示されるように、径の異なる略円盤状の部位を同心で上下に重ねたような形状であり、相対的に大径の支持部位95と、その上に一体形成された相対的に小径の位置決め部位97とを備え、支持部位95の上面周縁に段部95aが形成されている。支持部位95の外形は、ソベント継手11の下部接続部11bの内径αより大きく、下部接続部11bの外径βより小さい扁平な円筒状に形成されている。位置決め部位97の外形は、ソベント継手11の下部接続部11bの内径αよりも小さく形成されており、下部接続部11bに挿入可能とされている。位置決め部位97は、上方に向かって緩やかに窄まったテーパ形状であって、該テーパ形状により下部接続部11bへの挿入を案内することができる。
【0037】
引き上げ駒部材91の中心には、貫通孔が設けられ、その内面に螺子溝が切られて雌螺子が形成されている。この雌螺子が形成された部位93を雌螺子螺合孔部位と称する。雌螺子螺合孔部位93は軸部材81の下部雄螺子部位83に対して進退可能に螺合しており、それにより、引き上げ駒部材91は軸部材81に吊り下げ支持されている。引き上げ駒部材91は、位置決め部位97がソベント継手11の下部接続部11bに挿入され、支持部位95の段部95aが下部接続部11bの下端に押し当てられるまで軸部材81の下部雄螺子部位83にねじ込まれている。
【0038】
<上昇機構63について>
引き上げ駒部材91を上昇させる上昇機構63は、軸部材81を軸周りに回転させることで、該軸部材81に沿って引き上げ駒部材91が上昇する構造となっている。引き上げ駒部材91は、ソベント継手11の下部接続部11bの下端に押し当てられており、引き上げ駒部材91にかかるソベント継手11の重みが、雌螺子螺合孔部位93と軸部材81の下部雄螺子部位83との摩擦力に勝っているため、軸部材81を軸周りに回転させても、引き上げ駒部材91は軸部材81に追従して回転はしない。そして、軸部材81だけが回転することで、軸部材81の下部雄螺子部位83と引き上げ駒部材91の雌螺子螺合孔部位93の螺子溝との嵌め合いにより、引き上げ駒部材91が上方へ案内される。
【0039】
<加振手段具について>
加振手段具としてのインパクトレンチ65は、軸部材81に微振動を与えながら該軸部材81を回転させることができ、延いては、引き上げ駒部材91を微振動させながら上昇させることができる。
【0040】
かかる構成の引き抜き治具61は、インパクトレンチ65で軸部材81を回転させて引き上げ駒部材91を上昇させることで、引き上げ駒部材91でソベント継手11の下端を下方から支持し、微振動を与えながら引き上げることができる。その引き上げる力により、床スラブSからソベント継手11が剥がされ、引き抜き可能となる。本実施形態では、軸部材81の下部雄螺子部位83が、少なくともソベント継手11の全長を床スラブSから引き抜きくことが可能な距離だけは引き上げ駒部材91を上方に移動させることのできる範囲に設けられている。したがって、ソベント継手11の全長を床スラブSから引き抜きくことができる(図10参照)。
【0041】
このような引き抜き治具61によれば、軸部材81に吊り下げ支持された引き上げ駒部材91でソベント継手11の下端を下方から支持して引き上げるため、ソベント継手11のように外側から把持しにくい形状の排水用配管部材に対しても効率よく引き上げ方向への力を作用させることができる。更に、インパクトレンチ65で引き上げ駒部材91に微振動を与えながら上昇させることで、ソベント継手11を微振動させながら引き上げることができ、より容易に床スラブSからソベント継手11を引き剥がして、引き抜き可能とすることができる。
【0042】
なお、実施形態2もその他種々の変更例が考えられるものである。
例えば、実施形態2でも、引き抜き治具61床スラブSから引き抜く対象となる排水用配管部材は、ソベント継手11に限らず、床スラブSを貫通して配設されている各種の配管部材を対象とすることができる。例えば、排水トラップや、ソベント継手11とは異なる形態の排水管継手、或いは、排水管やそれを繋ぐソケット等の配管部材も引き抜きの対象とすることができる。
【符号の説明】
【0043】
11 排水管継手(ソベント継手)
11b 下部接続部
13 排水トラップ
15 排水管継手
21 引き抜き治具
23 上昇機構
31 支持部材
33b 支持部位
37 貫通孔
38 ナット(雌螺子螺合孔部位)
38a,38a ハンドル
39 ナット(雌螺子螺合孔部位)
40 スラスト軸受
41 軸部材
43 上部雄螺子部位
45 ナット
51 駒部材
55a 段部
61 引き抜き治具
63 上昇機構
65 インパクトレンチ(加振手段具)
71 支持部材
73b 支持部位
77 貫通孔
79a,79b ナット
80a,80b スラスト軸受
81 軸部材
81c 雄螺子
83 下部雄螺子部位
91 駒部材
93 雌螺子螺合孔部位
95a 段部
S 床スラブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
床スラブに埋設された排水用配管部材を床スラブから取り除くための排水用配管部材の引き抜き治具であって、
前記排水用配管部材の下方に配置される引き上げ駒部材と、前記排水用配管部材を貫通して前記引き上げ駒部材を吊り下げ支持する軸部材と、該軸部材を前記床スラブの上側で支持する支持部材と、前記引き上げ駒を前記軸部材の軸方向に上昇させる上昇機構と、を備え、
前記引き上げ駒部材は、前記排水用配管部材の下端の内径より大きく形成されておって前記排水用配管部材の下端を下方から支持できる構成とされており、該排水用配管部材の下端を下方から該引き上げ駒部材で支持して前記上昇機構により上昇させることにより前記排水用配管部材を上昇させて床スラブから引き抜くことを特徴とする排水用配管部材の引き抜き治具。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2011−231577(P2011−231577A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105046(P2010−105046)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(390013516)株式会社小島製作所 (19)
【Fターム(参考)】