説明

排熱回収ハイブリッド膜処理システム及び方法

【課題】雑排水に対して浄化処理と水温低下処理を行い、再利用すること及び雨水系に放流することが可能となるシステム及び方法を提供する
【解決手段】雑排水を膜ろ過装置によって浄化し、浄化された排水の水温をヒートポンプによって低下させる。浄化は雑排水に依存して膜ろ過装置を設計してBODが2mg/lとなるようにし、水温の低下は25℃以下の所定の温度よりも低い温度となるようにする。これにより、再利用すること及び自然環境に影響を与えることなく雨水系に放流することが可能になる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物から排出される雑排水について、膜処理で浄化しながら排熱を回収し排水温を低下させる処理を行う、排熱回収ハイブリッド膜処理システム及び方法に関するものである

【背景技術】
【0002】
建物から排出される汚水・雑排水は下水道管に放流し下水処理場で処理した後河川等に放流されているが、以下に挙げるような問題点を抱えている。(1)東京都など全国191都市で有する、合流式下水処理区域では一定量以上の雨が降ると処理しないまま河川又は海に放流しており、赤潮発生の原因となっている。また、悪臭、公衆衛生上の観点からも大きな問題となっている。(2)下水処理された排水の水温が高く、生態系に影響を与えるといういわゆる「熱汚染」が発生している。例えばペットとして飼育されていた熱帯魚(ピラニア等の生態系を乱すものを含む)が河川において越冬して生息していたことが報告されている。(3)人工水循環系(河川上流で採水し、水道管、下水管を経て河口で放流)の影響で通常時の河川流量が減少し、魚の俎上に支障が生じている。
【0003】
宿泊施設、温浴施設等の多くの雑排水を排出する大規模排水事業者の立場で考えると、発生源で高度処理を行い再生水として再利用し、余剰水を雨水系に放流すれば上下水道料金の削減に繋がる。また、雑排水を浄化した後、温排熱を回収することで燃料費の節減、CO2排出量の削減が図れるとともに、排水水温を低下させて雨水系に放流するので、上記「熱汚染」の問題も解決でき、河川水量減少の問題も緩和される。しかし、これらの目的を持って雑排水の浄化と熱回収による排水温低下を行うシステムは知られていなかった。
【0004】
むろん、浄化のみを目的とするシステム及び水温低下のみを目的とするシステムは知られていた。
浄化を目的とする膜ろ過システムとしては、精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜、MBR(膜分離活性汚泥槽)の膜処理によるものが知られていた。
水温低下を行うシステムとしては、特許文献1に、ヒートポンプを用いて浴室排水から熱を回収して浴室給水に熱を供給するための装置が開示されている。
しかし、これらのシステムは、再利用する或いは雨水処理系に放流するという目的で設計されたものではなく、これらの目的に最適化されたシステムではなかった。
また、特許文献1に開示されたシステムでは、浴室排水をあまり浄化せずにヒートポンプに流入させることもあり、ヒートポンプの熱交換効率を保つために熱交換部を頻繁に清浄又は交換する必要性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−180398号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「液中膜のご紹介」:http://env.kubota.co.jp/ekityumaku/introduce.html
【非特許文献2】「About Heat Pump System」:http://www.zeneral.co.jp/sikumi/sikumi.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
雑排水に対して浄化処理と水温低下処理を行い、再利用すること及び雨水系に放流することが可能となるシステム及び方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の排熱回収ハイブリッド膜処理システムは、
雑排水(一次排水)を浄化するための排水処理装置を備え、
前記排水処理装置による処理後の排水(二次排水)から上水道水に熱を移動させるヒートポンプを備え、
前記ヒートポンプによる処理後の排水(最終排水)の温度が25℃以下の所定の温度よりも低い温度であることを特徴とする。
ここで、「雑排水」とは、施設又は家庭の排水のうちトイレ又は雨水以外のものを言う。温浴施設からの排水及びホテルの厨房からの排水が雑排水に含まれる。このように、雑排水の中には水温が高いものや汚染物質を含むものが多い。
雑排水に対して、排水処理理装置によって浄水処理を行い、ヒートポンプによって水温低下処理を行うことで、再利用すること及び雨水系に放流することが可能となる水質を実現する。
排水処理装置は、一次排水の水質に応じて、二次排水の汚染度合いが十分に低くなるようにするものである。二次排水は、水温低下処理を経て最終排水となるので、二次排水の汚染度合い(化学物質、生物等の含有量)がほぼ最終排水の汚染度合いとなる。排水処理装置の具体的な形態は、一次排水の汚染度合いに応じて設計すればよい。
水温低下処理は、ヒートポンプを用いる。ヒートポンプは、熱回収効率が高く、効率的に水温を低下させることができる。二次排水の熱を上水道水に移動させるが、温浴施設等では、熱を受けた水道水を浴用水として活用することができる。
最終排水を雨水系に放流して熱汚染を発生させないため、最終排水の温度は所定の温度よりも低い温度にする。ここで「所定の温度」は、周辺河川水温より低い温度であることが好ましい。しかし、季節によって変化する周辺河川水温に対応するようなシステムは大掛かりなものとなってしまう。そこで、大きな熱汚染が発生しないように25℃以下とする。なお、下水処理後の排水の温度が25℃以上であり熱汚染の原因となっているとの報告がある。所定の温度を、夏季は25℃、その他の季節は20℃というように季節変動させて熱汚染防止効果を高めてもよい。
以上により、汚染の度合いが低く、熱汚染のない低い温度の最終排水が得られる。この最終排水は散水、中水等に再利用することができる。また、雨水系に放流することもできる。
【0009】
本発明の排熱回収ハイブリッド膜処理システムは、
前記排水処理装置が、膜ろ過装置であり、
前記最終排水のBODが2mg/l以下であることを特徴とする。
最終排水の汚染度合いを測定する指標としては、河川放流の場合はBOD(生物化学的酸素要求量)を用いることが一般的である。排水処理装置として精密ろ過膜、限外ろ過膜、逆浸透膜、MBR(膜分離活性汚泥槽)を含む膜ろ過装置のいずれかを用いることで、2mg/lのBODを実現する。いずれの膜ろ過装置を用いるかは、一次排水の汚染度合いに応じて設計すればよい。
また、スクリーン等を用いて毛髪等の除去を行った後、膜ろ過装置によって、高度処理するので、BODが低下すると共に石鹸等油脂分などが除去され、ヒートポンプの熱交換部を頻繁に清浄又は交換する必要性もない。
【0010】
本発明の排熱回収ハイブリッド膜処理システムは、
前記最終排水を散水又は中水として利用するためのパイプと、
前記最終排水を雨水系に流出させるためのパイプとを備えることを特徴とする。
低い水温で汚染の度合いが低い最終排水は、散水若しくは中水として利用しても問題がなく、雨水溝に放流しても熱汚染がない。
散水又は中水として利用するためのパイプと雨水系に流出させるためのパイプとを別々に備えることにより、散水又は中水としての利用を優先し、散水若しくは中水として利用されずに残った分を雨水系に放流することができる。
ここで、「散水」とは、後に回収することなく撒かれる水を言い、植栽に撒かれる水、池、滝等の修景用水として利用される水、気温を下げるために路上や屋上に撒かれる水及び融雪のために撒かれる水を含む。
「中水」とは、循環利用され又は下水道に放流される水であって上水道から直接に用いられる「上水」以外のものを言い、冷却塔の補給水及びトイレ洗浄水(ただし「上水」ではない)を含む。
【0011】
本発明の排熱回収ハイブリッド膜処理方法は、
雑排水(一次排水)を浄化するための浄化処理と、
ヒートポンプを用いて前記浄化処理後の排水(二次排水)から上水道水に熱を移動させる熱交換処理とを含み、
前記熱交換処理後の排水(最終排水)の温度が25℃以下の所定の温度よりも低い温度であることを特徴とする。
【0012】
本発明の排熱回収ハイブリッド膜処理方法は、
前記浄化処理が、膜ろ過装置を用いるものであり、
前記最終排水のBODが2mg/l以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の排熱回収ハイブリッド膜処理方法は、
前記最終排水を散水又は中水として利用させ、散水又は中水として利用されない分を雨水系に流出させることを特徴とする。
散水若しくは中水として利用し、残った分を雨水系に放流することにより、最終排水が効率的に活用される。
【発明の効果】
【0014】
雑排水を処理して、再利用すること及び雨水系に放流することが可能になる。
この結果、雑排水を下水系に放流する場合と比較して、放流された河川又は海洋の生物化学的汚染及び熱汚染が緩和され、河川水量減少の問題も緩和される。
事業者にとっては、再利用によって上水道料金の、雨水系への放流によって下水道料金の節約となる。
また、ヒートポンプの熱交換部を頻繁に清浄又は交換する必要性もない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、排熱回収ハイブリッド膜処理システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を用いた実施例を示す。
【実施例1】
【0017】
図1は、排熱回収ハイブリッド膜処理システムの構成を示す図である。
排水を処理するためのタンクとして、原水槽1、調整槽2、膜分離槽3及び処理水槽4が設けられており、排水はこの順に移動される。
膜分離層3には、排水処理装置5が設けられている。排水処理装置5としては、市販されている膜ろ過システムを用いることができる。例えば非特許文献1に示される液中膜である。空気供給具6から膜ろ過システムの散気管7に空気が送出される。
処理水槽4には、ヒートポンプ8が接続されている。ヒートポンプ8としては、市販されているものを用いることができる。例えば非特許文献2に示されるヒートポンプである。ヒートポンプ8は図において左側の排水から図において右側の水道水に熱を移動させる。
【0018】
浴室排水等の雑排水は、原水槽1に流入する。原水槽1には1本又は複数本の排水管からの排水が集約される。
原水槽1の雑排水は、スクリーン9を介して調整槽2に流入する。スクリーン9によって、排水中の大きな夾雑物が除去される。
調整槽2は、排水量が時間によって変動することに対応し、一時貯留することにより後段の膜分離層に流入する単位時間当たりの排水の量を均等化するものである。合わせて、排水元に依存して或いは時間に依存して変化する排水の汚染度合いについて、調整槽3内で混合することで汚染度合いを均質化する。空気供給具10から供給される空気が、空気噴出口11から噴出して調整槽3内の排水を曝気する。
調整層2内の排水(一次排水)は、図示しないポンプによって汲み上げられ、膜分離槽3の上部に流入する。このポンプは、膜分離槽3の水位が所定の水位を下回り、膜分離槽3内に設けられた排水処理装置5が追加の排水を処理できる時にONになり一時排水を膜分離槽3の上部に流入させる。
【0019】
膜分離槽3においては、排水処理装置5によって一次排水が浄化される。空気供給具6から排水処理装置5の散気管7に空気が送出され、生物処理のための酸素供給が行われると共に、排水処理装置5の分離膜を振動させることによる膜面の洗浄が行われる。
出願人の経験によれば、温浴施設の排水に対して排水処理装置5としてMBRを用いた浄化処理を行うことで、2mg/l以下のBODとなる。ここで、MBRに代えて精密ろ過膜、限外ろ過膜又は逆浸透膜による膜ろ過による浄化処理を行うことも可能である。ただし、雑排水を2mg/l以下のBODとすることができるような方法を用いるものとする。また、雑排水の水質に対応して油脂分を除去して後段のヒートポンプの熱交換部を頻繁に清浄又は交換する必要性がないような浄化処理を行うことが好ましい。
排水処理装置5によって分離された汚泥は、バキュームカー等によってシステムの外に排出される。
排水処理装置5によって浄化された排水(二次排水)は、膜吸引ポンプ17によって吸引され、処理水槽4の上部に流入する。このポンプは、排水処理装置の処理能力に応じた一定の水量を常時吸引する。
【0020】
処理水槽4においては、ヒートポンプ8によって二次排水が低温化される。ヒートポンプ8は、処理水槽4の上部の二次排水を低温化して、処理水槽4の下部に排出する。低温化された二次排水(最終排水)は低温化前の二次排水よりも比重が大きく、処理水槽4の下部に停留し、低温化前の二次排水と混合されない。
なお、雑排水の種類によっては二次排水の水温が低い(例えば25℃以下)場合も考えられる。この場合には二次排水と最終排水とが混合し得るが、二次排水が低温化処理を行わずに再利用・雨水系放流しても問題がないものであるので、混合しても差し支えない。
【0021】
ヒートポンプ8は、上水道水に熱を移動して温水とする。この温水は、貯湯タンク16に貯蔵され、例えば温浴施設への給湯に用いられる。貯湯タンク16に貯蔵されことにより、給湯の需要がない時間帯においても上水道水を流して二次排水を低温化することができ、給湯の需要がある時に湯を使用することができる。
【0022】
低温化された処理水槽4内の最終排水は、BODが2mg/l以下であり、低水温のものである。
再利用用ポンプ12は、処理水槽4の下部から最終排水を汲み上げ、再利用用パイプ13を経由して再利用に供する。ユーザは、散水又は中水の需要のある時に再利用用ポンプ12をONにして最終排水を利用することができる。
雨水系放流用ポンプ14は、処理水槽4の水位が所定の水位を上回った時にONになり、雨水系放流用パイプ15を経由して最終排水を雨水系に放流する。散水又は中水の需要のない最終排水の量が処理水槽4の容量を超えたときに限り雨水系への放流が行われるものである。
【産業上の利用可能性】
【0023】
雑排水を処理して、再利用すること及び雨水系に放流することが可能になるシステム及び方法であり、宿泊施設、温浴施設の運営者を含む多くの者による活用が期待できる。
【符号の説明】
【0024】
1 原水槽
2 調整槽
3 膜分離槽
4 処理水槽
5 排水処理装置
6 空気供給具
7 散気管
8 ヒートポンプ
9 スクリーン
10 空気供給具
11 空気噴出口
12 再利用用ポンプ
13 再利用用パイプ
14 雨水系放流用ポンプ
15 雨水系放流用パイプ
16 貯湯タンク
17 膜吸引ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雑排水(一次排水)を浄化するための排水処理装置を備え、
前記排水処理装置による処理後の排水(二次排水)から上水道水に熱を移動させるヒートポンプを備え、
前記ヒートポンプによる処理後の排水(最終排水)の温度が25℃以下の所定の温度よりも低い温度であることを特徴とする、排熱回収ハイブリッド膜処理システム。
【請求項2】
前記排水処理装置が、膜ろ過装置であり、
前記最終排水のBODが2mg/l以下であることを特徴とする、請求項1に記載の排熱回収ハイブリッド膜処理システム。
【請求項3】
前記最終排水を散水又は中水として利用するためのパイプと、
前記最終排水を雨水系に流出させるためのパイプとを備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の排熱回収ハイブリッド膜処理システム。
【請求項4】
雑排水(一次排水)を浄化するための浄化処理と、
ヒートポンプを用いて前記浄化処理後の排水(二次排水)から上水道水に熱を移動させる熱交換処理とを含み、
前記熱交換処理後の排水(最終排水)の温度が25℃以下の所定の温度よりも低い温度であることを特徴とする、排熱回収ハイブリッド膜処理方法。
【請求項5】
前記浄化処理が、膜ろ過装置を用いるものであり、
前記最終排水のBODが2mg/l以下であることを特徴とする、請求項4に記載の排熱回収ハイブリッド膜処理方法。
【請求項6】
前記最終排水を散水又は中水として利用させ、散水又は中水として利用されない分を雨水系に流出させることを特徴とする、請求項4又は5に記載の排熱回収ハイブリッド膜処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−148258(P2012−148258A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10871(P2011−10871)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(300039339)日本管財株式会社 (1)
【出願人】(511019960)株式会社ERSホールディングス (1)
【Fターム(参考)】