説明

掘削工具および掘削ビット

【課題】地盤の掘削と埋設物の掘削とを連続的に行う場合に、掘削ビットの本体の摩耗を抑えてチップの脱落を防ぎ、確実な掘削を行う。
【解決手段】軸線O回りに回転されるカッタリング11の先端部に、掘削ビット本体22よりも硬質の掘削チップ23が掘削ビット本体22の先端面25aから突出するように植設された掘削ビット21と、保護ビット本体32よりも硬質の保護チップ33が保護ビット本体32の軸線Oに対する径方向内外周面35bの少なくとも一方に露出するように植設された保護ビット31とを設け、この保護ビット31を、その先端が掘削ビット21の先端よりも軸線O方向に後退した位置にあって、軸線O回りの回転軌跡が掘削ビット21と重なり合うように配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸線回りに回転されるカッタリングの先端部に掘削ビットが設けられ、特に軟質層から中硬岩層の掘削と、鉄筋コンクリートや鋼材あるいは鋼材および無筋コンクリート等の埋設物の掘削とを連続的に行う場合に用いて好適な掘削工具、およびかかる掘削工具に用いて好適な掘削ビットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このような掘削工具および掘削ビットとしては、例えば特許文献1、2に、円筒状をなすケーシング本体の環状端に複数の掘削ビットが配列固定され、これらの掘削ビットのビット本体の中央部には超硬合金よりなる棒状チップを植込んだ掘削刃部材が配置されるとともに、その両脇、または掘削方向を基準にして先行する側には、掘削刃部材に向けて上り傾斜の案内面が形成された一対のガイド片をビット本体の側面に備えるガイド部材が設けられたものが提案されている。ここで、ガイド部材はチップよりも軟質の超硬合金とされている。
【0003】
また、本発明の発明者らも、特許文献3、4において、軸線回りに回転されるカッタリングの先端に取り付けられる掘削ビットとして、カッタリングの回転方向に沿って先端側に凸となる山型をなすビット本体に硬質のチップを山型に植設したものや、ビット本体の先端部に硬質のチップを先端側に向かうに従い回転方向に向かうように傾けて植設したものを提案している。さらに、これら特許文献3、4では、ビット本体の側面に、ビット本体よりも硬質で、チップと略同等あるいはこれよりも軟質な補助チップを植設することも提案されている。
【特許文献1】特開2002−322893号公報
【特許文献2】特開2002−317596号公報
【特許文献3】特開2000−291365号公報
【特許文献4】特開2000−291366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これら特許文献1〜4に記載された掘削ビットでは、超硬合金よりなる棒状あるいは軸状のチップが、その長手方向をカッタリングの軸線方向に向けるようにして鋼材等からなるビット本体に植設されているだけであり、特許文献1、2に記載のように掘削刃部材の両脇や回転方向にガイド部材が設けられていたり、あるいは特許文献3、4に記載のようにビット本体側面に補助チップが設けられていたりしても、これらガイド部材や補助チップ自体が掘削を行うわけではないので、ビット本体の側面が特に埋設物の鉄筋や鋼材部分と摺接することにより摩耗することが避けられず、これに伴いチップが寿命に達する前にビット本体から脱落してしまうことが多かった。
【0005】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のような軟質層から中硬岩層の掘削と、鉄筋コンクリートや鋼材あるいは鋼材および無筋コンクリート等の埋設物の掘削とを連続的に行う場合に、掘削ビットの本体の摩耗を抑えてチップの脱落を防ぎ、これにより確実な掘削を行うことが可能な掘削工具、およびかかる掘削工具に用いて好適な掘削ビットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の掘削工具は、軸線回りに回転されるカッタリングの先端部に、掘削ビット本体よりも硬質の掘削チップが該掘削ビット本体の先端面から突出するように植設された掘削ビットと、保護ビット本体よりも硬質の保護チップが該保護ビット本体の上記軸線に対する径方向内外周面の少なくとも一方に露出するように植設された保護ビットとが設けられ、この保護ビットは、その先端が上記掘削ビットの先端よりも上記軸線方向に後退した位置にあって、該軸線回りの回転軌跡が上記掘削ビットと重なり合うように配設されていることを特徴とする。
【0007】
すなわち、本発明の掘削工具では、カッタリングの先端部に掘削ビットと保護ビットとが設けられており、このうち掘削ビットは掘削ビット本体の先端面に掘削チップが突出するように植設させられて、カッタリングが回転しながら前進させられるのに伴いこの掘削チップによって断面円環状の溝を形成しながら軟質層から中硬岩層の地盤と埋設物とを掘削してゆく。さらに、こうして掘削が行われるのに従い、掘削チップが摩耗してその切れ味は鈍ることになるが、これとともに掘削ビット本体の先端面も摩耗して掘削チップの先端部が剥き出しとなり、さらにはこの剥き出しとなった掘削チップの先端部が掘削抵抗によって割損することにより新しい切刃が自生するので、切れ味を回復して効率的な掘削を行うことができる。
【0008】
そして、上記保護ビットにおいては、カッタリングの軸線に対する径方向内外周面の少なくとも一方に露出するように保護チップが保護ビット本体に植設されており、この保護ビットは掘削ビットの先端よりも後退した位置にあって軸線回りの回転軌跡が掘削ビットと重なり合うように配設されているので、軸線方向に先行する掘削ビットによって掘削された上記溝の壁面にこの保護ビットの保護チップが摺接することにより、掘削ビット本体と該壁面との摺接を抑えてその摩耗を防止することができる。また、上述のように掘削ビットが先端側から摩耗して掘削チップの切刃が自生するのに伴い、保護ビットも先端側からその保護ビット本体が摩耗するとともに保護チップが順次脱落してゆくことになるので、掘削チップの切刃の自生が妨げられることはなく、掘削チップの有効長さに亙ってその脱落を防いで確実な掘削を促すことができる。
【0009】
ここで、主として掘削を行う掘削ビットに対して保護ビットの数は少なくてもよいが、カッタリングの先端部には、掘削ビットの数に対して0.2〜0.8倍の数の保護ビットが設けられるのが望ましく、これよりも少ないと掘削ビットの保護効果が期待できなくなるおそれがある一方、逆に多すぎても掘削時の抵抗の増大を招くおそれがある。同様に、軸線回りの回転軌跡が掘削ビットと重なり合うように配設された保護ビットの径方向内外周面の少なくとも一方に露出した保護チップの端部は、この回転軌跡において掘削ビット本体の径方向に同じ側の内外周面に対して、2mmまでの範囲で突出または後退していることが望ましく、これよりも保護チップが後退していると掘削ビットの保護効果が不十分となる一方、逆に突出しすぎていると掘削抵抗の増大を招くことになる。
【0010】
また、カッタリングの先端面から掘削ビットの先端までの突出高さHに対して、保護ビットの先端は、上記軸線方向において掘削ビットの先端から0.2×H〜0.8×Hの範囲で後退しているのが望ましく、これよりも大きく後退していると掘削ビットの先端側が上記溝の壁面と摺接する部分が大きくなって確実な寿命の延長を図ることができなくなるおそれがある一方、逆に上記範囲よりも小さいと、カッタリングの送りや回転方向における掘削ビットと保護ビットとの間隔などによっては、掘削ビットの摩耗に対して保護ビットの摩耗が促進されすぎてその寿命が早期に費えてしまうおそれがある。
【0011】
さらに、掘削ビットの先端から上記軸線方向において掘削ビット本体に植設された掘削チップの最後端までの長さ、すなわち上記掘削チップの有効長さLに対しては、この掘削チップの最後端から上記軸線方向における保護ビットの先端までの高さが0.2×L〜0.8×Lの範囲とされていることが望ましく、これよりも保護ビットの高さが低いとやはり掘削ビットの先端側の摩耗が著しくなって掘削チップを有効に使用することができなくなるおそれがあり、逆にこれよりも保護ビットの高さが高いと保護ビットの摩耗が促進されて保護チップが早期に脱落し、その寿命が短縮してしまうおそれがある。
【0012】
一方、このような掘削工具に設けられる掘削ビットにあっては、上記掘削ビット本体の上記軸線に対する径方向内外周面の少なくとも一方に、上記掘削チップの一部が露出させられていて、上記保護ビット以外にこの掘削ビット自体によっても掘削ビット本体の摩耗の抑制を図るようにしてもよい。ただし、この場合には、掘削チップの露出した部分が大きすぎると容易に脱落を生じてしまうので、上記掘削ビット本体の径方向内外周面の少なくとも一方からの、上記掘削チップの露出した一部の突出量は、この掘削チップの上記軸線に対する径方向の寸法の1/2以下とされるのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明の掘削工具によれば、掘削チップの切刃の自生を損なうことなく保護ビットにより掘削ビットの摩耗を抑制して掘削チップの脱落を防止し、軟質層から中硬岩層の掘削と鉄筋コンクリートや鋼材あるいは鋼材および無筋コンクリート等の埋設物の掘削とを確実に連続して、しかも効率的に行うことが可能となる。また、本発明の掘削ビットによれば、掘削ビット自体にもその摩耗を抑制する効果を与えることができるので、一層効率的な掘削を促すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1ないし図3は本発明の掘削工具の一実施形態を示すものであり、図4ないし図8はこの掘削工具に用いられる本発明の掘削ビットの一実施形態を、図9ないし図11は保護ビットの一例をそれぞれ示すものである。本実施形態の掘削工具において、カッタリング11は鋼材等により軸線Oを中心とした円環状あるいは円筒状をなし、その軸線O方向の先端面12は該軸線Oに垂直な平面状とされるとともに、この先端面12には周方向に間隔をあけて複数(本実施形態では15)の凹部13が形成されていて、これらの凹部13に上記実施形態の掘削ビット21と保護ビット31とが配設されている。
【0015】
これらの掘削ビット21と保護ビット31はいずれも、それぞれカッタリング11と同様の鋼材よりなる掘削ビット本体22、保護ビット本体32に、超硬合金よりなる円柱状の掘削チップ23、保護チップ33が植設されて構成されている。さらに、各ビット本体22,32はともに、上記カッタリング11の径方向の厚さと略等しい厚さを有する概略長方形板状の取付部24,34と、この取付部24,34の長方形面の1の長辺に沿った側面24a,34aの長手方向中央部に突出して、この長手方向には取付部24,34より短く、かつ厚さは取付部24,34よりも厚くされた直方体ブロック状の植設部25,35とが一体に形成された構成とされ、この植設部25,35にチップ23,33が植設されている。
【0016】
なお、これら掘削ビット21と保護ビット31とは、本実施形態では上記取付部24,34の厚さ方向の中心を通る平面と、この平面と上記側面24a,34aに垂直で上記長手方向の中心を通る平面とに関してそれぞれ対称に形成されている。また、取付部24,34の上記長方形面と側面24a,34a以外の3つの側面との交差稜線部、およびこれら3つの側面同士の交差稜線部には面取りが施されているとともに、この取付部24,34の長方形面から植設部25,35にかけての部分と側面24a,34aから植設部25,35にかけての部分とは、それぞれ1/4凹円筒面によって連続させられており、取付部24,34の上記側面24a,34aから植設部25,35までの高さは、掘削ビット21と保護ビット31とで互いに等しくされている。
【0017】
このうち、掘削ビット21は、上記植設部25の先端面25aが扁平した山型をなしていて、その上記長手方向中央部が上記側面24aから最も突出して該側面24aと平行な平坦面とされるとともに、この中央部から長手方向両端に向けては漸次後退するように形成された傾斜面とされ、この先端面25aには上記側面24aに垂直とされた互いに平行な多数の凹孔が略千鳥状に穿設されていて、これらの凹孔に長尺円柱状の上記掘削チップ23が挿入されてろう付けされることにより植設されている。なお、これらの掘削チップ23は互いに同径で等しい長さを有するものであって、上記平坦面に植設されたものの先端が最も突出しているとともに、傾斜面に植設されたものは該傾斜面の傾斜に合わせてその先端が段階的に後退するようにされている。
【0018】
また、本実施形態の掘削ビット21では、こうして植設部25に植設された掘削チップ23のうち一部(本実施形態では8つ)の掘削チップ23aは、その外周面の一部が、上記カッタリング11に取り付けられた際にその径方向内外周に向けられる該植設部25の側面25bからそれぞれ突出して露出させられている。ただし、この掘削チップ23aの側面25bからの突出量Pは、該掘削チップ23aの上記径方向の寸法であるその直径dの1/2以下とされ、本実施形態では直径dが3mmに対して突出量Pが0.7mmと、1/4以下とされている。
【0019】
一方、保護ビット31の保護ビット本体32における植設部35は、その先端面35aが取付部34の側面34aに平行な平面で、該側面34aからの突出高さが、掘削ビット21の側面24aからの植設部25の突出高さよりも小さくされる一方、カッタリング11の径方向内外周に向けられる両側面35b間の幅は、掘削ビット21の植設部25の両側面25b間の幅より僅かに大きく、該側面25bから突出して露出した上記掘削チップ23aも含めた幅と等しくされている。なお、これら植設部25,35の上記長手方向の大きさは、互いに等しくされている。
【0020】
そして、この保護ビット31の植設部35には、上記両側面35bに垂直にそれぞれ多数の凹孔が千鳥状に穿設されていて、これらの凹孔に保護チップ33が挿入されてろう付けされることにより植設されている。ここで、これらの保護チップ33は互いに同径で等しい長さであり、かつ掘削チップ23とも同径で、ただし長さは短くされていて、その先端面を植設部35の側面35bと面一とするように露出させて植設されている。なお、1つの保護ビット31に植設される保護チップ33の数は、掘削ビット21よりも少なくされている。また、植設部35の両側面35bに穿設された凹孔の孔底同士の間には十分な間隔があけられている。
【0021】
このような掘削ビット21と保護ビット31とは、上記厚さ方向をカッタリング11の径方向に向けるとともに上記側面24a,34aをカッタリング11の先端面12と面一となるようにしてビット本体22,32の取付部24,34が上記凹部13に挿入され、溶接等により固着されてカッタリング11と一体化される。従って、保護ビット31は、その先端(植設部35の先端面35a)が掘削ビット21の先端(先端面25aの平坦面に植設された掘削チップ23の先端)よりも軸線O方向に後退した位置に配置されることになる。
【0022】
また、各ビット21,31は、そのビット本体22,32の取付部24,34の上記厚さ方向中心を通る平面が、上記長手方向の中心においてカッタリング11の径方向の厚さの中心を通る円筒面に接するように配設されている。従って、これら掘削ビット21と保護ビット31とは、軸線O回りの回転軌跡において、保護ビット31の保護チップ33が植設されたその植設部35が掘削ビット21の掘削チップ23が植設された植設部25と重なり合うように配設されることになり、特に本実施形態では、植設部35の両側面35bと面一に露出した保護チップ33の先端の間の幅が、掘削ビット21の植設部25の両側面25bに露出した上記掘削チップ23aの突端の間の幅と一致するように重なり合わされることになる。
【0023】
さらに、カッタリング11の先端部には、掘削ビット21の数よりも少ない数の保護ビット31が設けられている。より具体的に、本実施形態では、図1に示すようにカッタリング11の先端部に、周方向に等間隔に近接した3つの凹部13を1群として、5群の凹部13がこの近接した間隔よりも大きな間隔で周方向に等間隔に配設されており、各群の両端の凹部13にそれぞれ掘削ビット21が、中央の凹部13に保護ビット31が配設されていて、カッタリング11の先端部に、掘削ビット21の数に対して0.5倍の数、すなわち半分の数の保護ビット31が設けられることになる。なお、掘削ビット21同士、および保護ビット31同士は互いに同形同大である。
【0024】
このように構成された掘削工具は、軸線O回りに回転されつつ該軸線O方向先端側に送り出されて、軟質層から中硬岩層の地盤の掘削を行うとともに、これと連続して該地盤に埋設された例えば既設の下水道本管のシールドトンネルのような鉄筋コンクリートや鋼材あるいは鋼材および無筋コンクリート等の埋設物の掘削を行い、この下水道本管に後から枝孔を接続したりするのに使用される。そして、上記構成の掘削工具では、カッタリング11の先端部に、このような掘削を主として行う掘削ビット21に対して、軸線O方向に後退した位置に該掘削ビット21と回転軌跡が重なるように保護ビット31が設けられており、この保護ビット31により掘削ビット21を保護してその掘削チップ23の脱落を防ぎながら、確実かつ効率的な掘削を行うことが可能となる。
【0025】
すなわち、こうしてカッタリング11を軸線O回りに回転しながら先端側に送り出すと、保護ビット31よりも先端側に突出した掘削ビット21が先行して掘削チップ23により上記地盤や埋設物を掘削し、これらに掘削ビット21の回転軌跡に応じた断面円環状の溝を形成してゆく一方で、自身は掘削チップ23と掘削ビット本体22の植設部25が先端面25a側から摩耗してゆく。そして、これらが適当に摩耗したところで、掘削チップ23が先端側で割損して新たな切刃が自生し、これにより切れ味が回復するといった工程が繰り返されることで、掘削効率が維持される。
【0026】
一方、後続する保護ビット31においては、その保護チップ33が保護ビット本体32の植設部35においてカッタリング11の内外周を向く側面35bに露出させられておりこの保護ビット31の回転軌跡が掘削ビット21と重ね合わされていることから、これらの保護チップ33は上記掘削ビット21によって形成された環状溝の内壁面に摺接することになる。従って、掘削ビット21の植設部25の特に後端側においてその側面25bがこの溝の内壁面と摺接することにより摩耗を生じるのを抑えることができ、これにより掘削チップ23が上述のような正常な切刃の自生ではなく、根本から折れたり脱落したりするような事態を生じるのを防止することができて、上述のような地盤から埋設物を確実に連続して掘削することが可能となる。
【0027】
特に、上記実施形態の掘削ビット21では、その掘削ビット本体22の植設部25における一部の掘削チップ23aが、その外周面の一部分を、カッタリング11の径方向内外周を向く側面25bから突出させて露出するように植設させられており、これによっても該側面25bの摩耗の抑制を図ることができる。また、この場合において、上記一部の掘削チップ23aの側面25bからの突出量Pが、この掘削チップ23aのカッタリング111径方向の寸法(直径d)の1/2以下とされているので、この露出した一部の掘削チップ23aが容易に脱落することもない。
【0028】
なお、本実施形態の掘削ビット21では、この一部の掘削チップ23aも他の掘削チップ23と同じ長尺円柱状とされているが、例えば図12に示す上記実施形態の掘削ビット21の変形例のように正四角柱状など、側面25bに露出する一部の掘削チップ23aを他の掘削チップ23とは異なる形状の柱状あるいは軸状としてもよい。ただし、その場合でも、この一部の掘削チップ23aの側面25bからの突出量Pは、そのカッタリング11の径方向における寸法dの1/2以下とされるのが望ましい。
【0029】
また、掘削ビット21が上述のように先端側から摩耗して掘削チップ23が割損しながら切刃が自生してゆくと、保護ビット31の保護ビット本体32もその植設部35の先端面35aが掘削ビット21により形成された上記溝の底面に摺接することになって、この先端面35aから摩耗してゆくことになる。すると、植設部35に植設された保護チップ33も先端面35a側から順次脱落してゆくことになり、これにより掘削チップ23の先端が軸線O方向において先端側の保護チップ33から突出した状態が維持されるので、上述のような掘削チップ23の切刃の自生を妨げることがなく、その長さの大部分を使い切ることができる。
【0030】
さらに、このように主たる掘削は掘削ビット21によって行われ、保護ビット31はこの掘削ビット21を不必要な摩耗から保護するものであるのに対し、本実施形態ではこの保護ビット31の数が掘削ビット21よりも少なく、掘削ビット21の半数とされている。従って、保護ビット31が必要以上に多すぎてその保護チップ33が上記壁面に摺接することにより掘削抵抗が増大するような事態も防ぐことができ、一層効率的な掘削を促すことが可能となる。
【0031】
なお、このように掘削抵抗の増大を抑えて効率的な掘削を促すには、保護ビット31の数は少ないほどよいのであるが、保護ビット31が少なすぎると掘削ビット21の摩耗防止による保護効果も少なくなって確実な掘削を行うことができなくなるおそれが生じる。また、逆に保護ビット31の数が掘削ビット21の数に対して多すぎると上述のような掘削抵抗の増大を生じるので、保護ビット31の数は、掘削ビット21の数の0.2倍〜0.8倍程度の範囲とされるのが望ましい。
【0032】
また、本実施形態では、保護チップ33の先端が面一に露出した保護ビット31の植設部35における両側面35b間の幅が、掘削ビット21の植設部25においてその両側面25bに突出して露出した掘削チップ23aの突端同士の幅と等しくされており、これら掘削ビット21と保護ビット31とが互いの厚さ方向の中心をカッタリング11の厚さの中心に位置させて配設されているので、植設部25,35は、チップ23a,33も含めて軸線Oに対する径方向には互いの回転軌跡が一致するように重なり合わされることになる。このため、掘削ビット21によって形成した溝の内壁面に過不足なく保護チップ33を摺接させて掘削ビット21の保護を図ることができる。
【0033】
ただし、この回転軌跡において保護チップ33は掘削ビット21の植設部25に対して径方向に必ずしも一致するようにされていなくても、例えば図2に示すようにカッタリング11の軸線Oに対する径方向内外周において、それぞれ2mm程度の範囲Aであれば突出していたり、逆に後退していたりしてもよい。すなわち、保護チップ33がこれよりも大きく掘削ビット21の掘削ビット本体22の回転軌跡から突き出していると、この保護チップ33による掘削量が増大して抵抗も増大する一方、保護チップ33がこれよりも大きく後退していると、当該保護チップ33による切削ビット21の保護効果が不十分となるおそれが生じる。
【0034】
さらに、図3に示す上記軸線O方向における掘削ビット21の先端から保護ビット31の先端までの後退量Bについては、これが大きすぎると、掘削ビット21の植設部25の先端側において掘削ビット本体22の摩耗を抑制することができず、掘削当初における掘削チップ23の損耗が大きくなって長寿命化を損なうおそれがある。また、逆にこの後退量Bが小さすぎると、カッタリング11の回転速度と送り速度との関係や周方向における掘削ビット21と保護ビット31との間隔などによっては、掘削ビット21によって形成された溝の底面に保護ビット31が早期に摺接してその摩耗が促進されすぎるおそれがある。このため、上記保護ビット31の先端は、図3に示すようにカッタリング11の先端面12から掘削ビット21の先端までの突出高さHに対して、0.2×H〜0.8×Hの範囲で掘削ビット21の先端から後退しているのが望ましい。
【0035】
一方、この保護ビット31の先端は、同図3に示すように掘削ビット21の先端から軸線O方向において掘削ビット本体22の植設部25に植設された掘削チップ23の最後端までの長さ、すなわち掘削チップ23の有効長さLに対しては、この掘削チップ23の最後端から軸線O方向における保護ビット31の先端までの高さCが、0.2×L〜0.8×Lの範囲とされているのが望ましい。すなわち、この掘削チップ23最後端からの保護ビット31先端までの高さCが掘削チップ23の有効長さLに対して小さすぎると、やはり掘削ビット21の先端側において掘削ビット本体22の摩耗が促進されるおそれがあり、逆にこの高さCが有効長さLと同じくらいに大きいと、保護ビット31先端の摩耗が促進されて保護チップ33の脱落を生じる上、掘削抵抗の増大を招くことにもなる。
【0036】
なお、本実施形態では、個々の保護ビット31の保護ビット本体32において、その植設部35の両側面35bに保護チップ33が露出するように植設されており、これら両側面35bに露出する保護チップ33の間隔、すなわち植設部35の幅が、軸線O回りの回転軌跡において掘削ビット21の幅と等しく一致するようにされているが、保護ビット31として、その植設部35の径方向内周側を向く側面だけに保護チップ33が露出するように植設されたものと、径方向外周側を向く側面だけに保護チップ33が露出するように植設されたものとの2種類を配設するようにして、これらが軸線O回りの回転軌跡において掘削ビット21と重なり合うように構成してもよい。
【0037】
この場合において保護チップ33は、カッタリング11の内外周のうち該保護チップ33が露出したいずれか一方の側において、掘削ビット21の掘削ビット本体22における植設部25の両側面25bのうちこれと同じ側を向く一方に対し、その回転軌跡が上記2mmまでの範囲Aで突出または後退していればよい。また、この場合に保護ビット31の保護ビット本体32における植設部35は、保護チップ33が露出した側面35b側だけに偏って形成されていてもよい。
【0038】
同様に、掘削ビット21の掘削ビット本体22も、本実施形態ではその植設部25が掘削幅すなわち上記溝の幅と等しい幅を有していて、該植設部25の先端面25aの全面に掘削チップ23が突出するように植設されているが、例えば上記掘削幅を径方向に2分するように内外周に偏った植設部25を有する2種類の掘削ビットを周方向に交互に配設したり、あるいは同じ掘削ビットでもカッタリング11の先端部の内周側と外周側とにずらして交互に配設したりするようにして、これらの掘削ビットにおける掘削チップの軸線O回りの回転軌跡が重なり合うようにすることで、上記掘削幅の溝を形成するような掘削を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の掘削工具の一実施形態を示す軸線O方向先端側から見た正面図である。
【図2】図1に示す実施形態における1群の掘削ビット21および保護ビット31を示す拡大正面図である。
【図3】図1に示す実施形態におけるカッタリング11先端の掘削ビット21および保護ビット31を示す拡大側面図である。
【図4】図1に示す実施形態に配設される本発明の一実施形態の掘削ビット21を示す斜視図である。
【図5】図5に示す実施形態の正面図である。
【図6】図5に示す実施形態の側面図である。
【図7】図6における矢線X方向視の側面図である。
【図8】図6におけるYY断面図である。
【図9】図1に示す実施形態に配設される保護ビット31の正面図である。
【図10】図9に示す保護ビット31の側面図である。
【図11】図10における矢線X方向視の側面図である。
【図12】本発明の一実施形態の掘削ビット21の変形例を示す正面図である。
【符号の説明】
【0040】
11 カッタリング
12 カッタリング11の先端面
21 掘削ビット
22 掘削ビット本体
23 掘削チップ
24 掘削ビット本体22の取付部
25 掘削ビット本体22の植設部
25a 植設部25の先端面
25b カッタリング11の径方向内外周を向く植設部25の側面
31 保護ビット
32 保護ビット本体
33 保護チップ
34 保護ビット本体32の取付部
35 保護ビット本体32の植設部
35a 保護部35の先端面
35b カッタリング11の径方向内外周を向く植設部35の側面
O カッタリング11の軸線
A 保護ビット31の径方向内外周面の少なくとも一方に露出した保護チップ33の端部が、軸線O回りの回転軌跡において掘削ビット本体22の径方向に同じ側の内外周面に対して突出または後退する範囲
H カッタリング11の先端面12から掘削ビット21の先端までの突出高さ
B 軸線O方向における掘削ビット21の先端から保護ビット31の先端までの後退量
L 掘削ビット21の先端から軸線O方向において掘削ビット本体22に植設された掘削チップ23の最後端までの長さ(掘削チップ23の有効長さ)
C 掘削チップ23の最後端から軸線O方向における保護ビット31の先端までの高さ
P 掘削ビット本体22の径方向内外周面(側面25b)からの、露出した掘削チップ23の一部の突出量
d 掘削チップ23の外径(掘削チップ23の軸線Oに対する径方向の寸法)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転されるカッタリングの先端部に、掘削ビット本体よりも硬質の掘削チップが該掘削ビット本体の先端面から突出するように植設された掘削ビットと、保護ビット本体よりも硬質の保護チップが該保護ビット本体の上記軸線に対する径方向内外周面の少なくとも一方に露出するように植設された保護ビットとが設けられ、この保護ビットは、その先端が上記掘削ビットの先端よりも上記軸線方向に後退した位置にあって、該軸線回りの回転軌跡が上記掘削ビットと重なり合うように配設されていることを特徴とする掘削工具。
【請求項2】
上記カッタリングの先端部には、上記掘削ビットの数に対して0.2〜0.8倍の数の上記保護ビットが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の掘削工具。
【請求項3】
上記保護ビットの径方向内外周面の少なくとも一方に露出した上記保護チップの端部は、上記回転軌跡において上記掘削ビット本体の径方向に同じ側の内外周面に対し、2mmまでの範囲で突出または後退していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の掘削工具。
【請求項4】
上記カッタリングの先端面から上記掘削ビットの先端までの突出高さHに対して、上記保護ビットの先端が上記軸線方向において上記掘削ビットの先端から0.2×H〜0.8×Hの範囲で後退していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の掘削工具。
【請求項5】
上記掘削ビットの先端から上記軸線方向において上記掘削ビット本体に植設された上記掘削チップの最後端までの掘削チップ有効長さLに対して、この掘削チップの最後端から上記軸線方向における上記保護ビットの先端までの高さが0.2×L〜0.8×Lの範囲とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の掘削工具。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の掘削工具に設けられる掘削ビットであって、上記掘削ビット本体の上記軸線に対する径方向内外周面の少なくとも一方には、上記掘削チップの一部が露出させられていることを特徴とする掘削ビット。
【請求項7】
上記掘削ビット本体の径方向内外周面の少なくとも一方からの、上記掘削チップの露出した一部の突出量が、この掘削チップの上記軸線に対する径方向の寸法の1/2以下とされていることを特徴とする請求項6に記載の掘削ビット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−35932(P2009−35932A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−200923(P2007−200923)
【出願日】平成19年8月1日(2007.8.1)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】