説明

掘削工具のネジ継手構造

【課題】不完全ネジ部における焼き付きや剥離、あるいは応力集中といった工具寿命を低下させる現象の発生を防止するとともに、ネジ摩耗が進行しても安定した締結を維持することが可能な掘削工具のネジ継手構造を提供する。
【解決手段】雄ネジ部が形成されたネジ軸と雌ネジ部が形成されたネジ穴との掘削工具のネジ継手構造であって、雄ネジ部と雌ネジ部とのうち少なくとも一方のネジ部2の不完全ネジ部におけるネジ山3は、他方のネジ部に対向する側の斜面3Aの少なくとも一部が、一方のネジ部2の軸線に沿った断面において完全ネジ部におけるネジ山3の同じ側を向く斜面3Aと等しい傾斜角をなすとともに、この完全ネジ部の斜面3Aをその捩れ角に沿って延長した延長面Xに対して凹むように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を掘削する掘削ビットとこの掘削ビットに掘削装置からの打撃力や回転力を伝える掘削ロッド、またはこの掘削ロッド同士、または掘削ロッドと掘削ロッド同士を連結するカップリングとを接続するための、雄ネジ部が形成されたネジ軸と雌ネジ部が形成されたネジ穴との掘削工具のネジ継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これら掘削工具のネジ継手構造を初めとして、一般的なネジでも、その雌雄ネジ部の両端における不完全ネジ部においては、ネジ山が面取りされ、あるいはヌスミが付けられるようにして切り欠かれることにより、雌雄ネジ部のネジ山における斜面同士の接触面積は完全ネジ部よりも減少する。従って、逆にこの不完全ネジ部においてネジ山の斜面が受ける圧力は高くなり、特に掘削時の回転力や打撃力、推力のような大きな力が作用する掘削工具のネジ継手においては、こうして圧力が高まることによって焼き付きや剥離といった現象が生じやすくなる。
【0003】
ここで、例えば特許文献1には、いわゆるTネジと称される断面等脚台形状のネジ山を有する掘削工具のネジ継手において、雌ネジ部のネジ山の幅と高さが減少する終端部すなわち不完全ネジ部を除去することにより、本質的に不変なネジプロファイルすなわち断面形状を維持するようにしたものが提案されている。また、特許文献2には、やはり断面等脚台形状をなす完全ネジ部に対して、不完全ネジ部を、そのネジ山が丸くされた断面形状とすることにより斜面を異なる形状としたものも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−125192号公報
【特許文献2】特表2002−507686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このうち、特許文献1に記載のネジ継手においては、不完全ネジ部が除去されているため、この不完全ネジ部の斜面に圧力が作用することもないが、その分の圧力は完全ネジ部の斜面に作用することになるので、結果的に早期のネジ摩耗を招くことになる。また、こうして雌雄ネジ部のうち一方のネジ部の不完全ネジ部を除去してしまうと、この不完全ネジ部を除去した除去面とネジ山の斜面との交差稜線部に鋭利なエッジが形成されることになり、このエッジから上述のような高い圧力が作用することによって、雌雄ネジ部のうち他方のネジ部のネジ山斜面に応力集中が生じ、工具寿命を短縮してしまう結果にもなる。
【0006】
一方、特許文献2に記載のネジ継ぎ手では、不完全ネジ部のネジ山が完全ネジ部のネジ山と異なる形状とされているため、ネジ摩耗が進行して雌雄ネジ部のネジ山の接触面が不完全ネジ部にまで広がると、この不完全ネジ部では完全ネジ部と異なる位置で部分的に雌雄ネジ部が接触することになる。従って、このようにネジ摩耗が進行すると、雌雄ネジ部の接触状態が変化してしまうために締結が不安定とならざるを得ず、また不完全ネジ部におけるネジ山の斜面同士の接触面積は小さいままであるので、やはり焼き付きや剥離を確実に防ぐことは困難である。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、不完全ネジ部における焼き付きや剥離、あるいは応力集中といった工具寿命を低下させる現象の発生を防止するとともに、ネジ摩耗が進行しても安定した締結を維持することが可能な掘削工具のネジ継手構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、掘削ビットと掘削ロッド、掘削ロッド同士、または掘削ロッドとカップリングとを接続する、雄ネジ部が形成されたネジ軸と雌ネジ部が形成されたネジ穴との掘削工具のネジ継手構造であって、上記雄ネジ部と雌ネジ部とのうち少なくとも一方のネジ部の不完全ネジ部におけるネジ山は、他方のネジ部に対向する側の斜面の少なくとも一部が、上記一方のネジ部の軸線に沿った断面において完全ネジ部におけるネジ山の同じ側を向く斜面と等しい傾斜角をなすとともに、この完全ネジ部の斜面をその捩れ角に沿って延長した延長面に対して凹むように形成されていることを特徴とする。
【0009】
このように構成されたネジ継手構造においては、まず不完全ネジ部が残されているので、多少なりとも雌雄ネジ部の接触面積を大きくして圧力を分散し、早期のネジ摩耗を防ぐことができる。また、斜面に鋭利なエッジが形成されてしまうのも避けることもできるため、他方のネジ部の斜面に応力集中が生じて破損に繋がったりするのを防止することが可能となる。
【0010】
そして、この雌雄ネジ部の少なくとも一方のネジ部の不完全ネジ部におけるネジ山は、その他方のネジ部に対向する側の斜面の少なくとも一部が、この完全ネジ部におけるネジ山の斜面と等しい傾斜角とされて、該完全ネジ部の斜面の延長面に対して凹んでいるので、圧力の増大による焼き付きや剥離は防ぎながら、ネジ摩耗が進行して不完全ネジ部に及んでも均一な摩耗であればネジ山の高さ方向に向けて斜面の全体を他方のネジ部に接触させることができる。このため、雌雄ネジ部の接触状態が大きく変化するのを抑制することができるとともに、接触面積もより大きく確保することが可能となる。
【0011】
ここで、このように不完全ネジ部の上記斜面を、傾斜角は完全ネジ部の斜面と等しくしたままその延長面に対して凹ませるには、例えばこの不完全ネジ部の斜面を完全ネジ部の斜面と並行する斜面によって階段状に形成してもよいが、その場合にはこの階段の段差が大きいと、特許文献1に記載されたネジ継手構造と同様に段差のエッジによる応力集中や早期のネジ摩耗を招くことになる。
【0012】
そこで、上記少なくとも一方のネジ部の不完全ネジ部におけるネジ山は、他方のネジ部に対向する側の上記斜面の少なくとも一部が、該完全ネジ部における捩れ角と異なる一定の捩れ角で上記延長面に対して漸次凹むように形成されるのが望ましく、これにより、上述のような鋭利なエッジが形成されるのを避けることができる。また、ネジ摩耗の進行による雌雄ネジ部の接触状態の変化が連続的となるので、一層安定的な締結を図ることができる。
【0013】
また、このような掘削工具のネジ継手としては、特許文献1、2に記載されたのと同様に、上記雄ネジ部と雌ネジ部の完全ネジ部におけるネジ山が一対の斜面と山頂部に平坦部を有する断面等脚台形状をなす、いわゆるTネジを用いることが可能であるが、この場合には、上記少なくとも一方のネジ部の不完全ネジ部におけるネジ山の山頂部にも、その少なくとも完全ネジ部側の一部に、この完全ネジ部におけるネジ山の上記平坦部に連なる平坦部が形成されるのが望ましく、これにより、この不完全ネジ部のネジ山も斜面と平坦部とは鈍角に交差することとなるので、鋭利なエッジによって他方のネジ部に応力集中が生じたりするのを一層確実に防止することができる。
【0014】
さらに、このようにTネジを用いた場合に、上記少なくとも一方のネジ部の不完全ネジ部におけるネジ山は、そのネジ山高さが上記完全ネジ部と等しいまま、その山頂部に形成された上記平坦部の幅が上記完全ネジ部における上記平坦部の幅よりも小さな幅となるように漸次小さくなり、次いでこの小さな幅で平坦部が一定幅とされたままネジ山高さが漸次低くなって山頂部が上記少なくとも一方のネジ部のネジ谷底面に交差させられるように形成されるのが望ましい。このように構成することにより、不完全ネジ部が無くなるまで平坦部を維持して鋭利なエッジが形成されるのをより確実に防止することができるとともに、ネジ摩耗が進行しても、不完全ネジ部において完全ネジ部側のネジ山高さが該完全ネジ部と等しい部分では、他方のネジ部との接触状態の変化をより小さく抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、不完全ネジ部における焼き付きや剥離、応力集中などは防ぎつつ、ネジ摩耗が進行しても雌雄ネジ部の接触状態が著しく変化するのは避けることができ、工具寿命の低下を防ぎながらも安定した締結を維持して効率的な掘削を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の掘削工具のネジ継手構造が適用される雌ネジ部1が形成されたネジ穴の開口部を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示す、図1における軸線Oを含んだ平面による断面図である。
【図3】(a)図2の直線Aの位置(完全ネジ部)における軸線Oを含んだ平面による断面図、(b)図2の直線Bの位置(完全ネジ部と不完全ネジ部との境界)における軸線Oを含んだ平面による断面図、(c)図2の直線Cの位置(不完全ネジ部)における軸線Oを含んだ平面による断面図、(d)図2の直線Dの位置(不完全ネジ部)における軸線Oを含んだ平面による断面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を示す、図1における軸線Oを含んだ平面による断面図である。
【図5】(e)図4の直線Eの位置(完全ネジ部)における軸線Oを含んだ平面による断面図、(f)図4の直線Fの位置(完全ネジ部と不完全ネジ部との境界)における軸線Oを含んだ平面による断面図、(g)図4の直線Gの位置(不完全ネジ部)における軸線Oを含んだ平面による断面図、(h)図4の直線Hの位置(不完全ネジ部)における軸線Oを含んだ平面による断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1ないし図3は、本発明の第1の実施形態を示すものであって、本発明を、掘削ビットと掘削ロッド、掘削ロッド同士、または掘削ロッドとカップリングとを接続する雄ネジ部が形成されたネジ軸と雌ネジ部が形成されたネジ穴との掘削工具のネジ継手構造のうち雌ネジ部が形成されたネジ穴を有するネジ継手に適用したものである。すなわち、この雌ネジ部1は、掘削ビットのビット本体や掘削ロッドのロッド本体、あるいはカップリングの本体などの掘削工具本体2において、ビット本体やロッド本体ではその後端側に形成された円筒状部分の内周部、また本体自体が円筒状に形成されたカップリングではその先端側と後端側の少なくとも一方の内周部に形成される。
【0018】
本実施形態における雌ネジ部1のネジ山3は、一対の斜面3A、3Bとこのネジ山3の山頂部に平坦部3Cとを有して、当該雌ネジ部1の軸線Oに沿った断面が等脚台形状をなす、いわゆるTネジとされている。ただし、これら一対の斜面3A、3Bと山頂部の平坦面とが交差する交差稜線部は、上記断面においてこれら斜面3A、3Bと平坦部3Cに滑らかに接する凸曲線をなすように丸められている。
【0019】
そして、この雌ネジ部1のネジ山3は、完全ネジ部においては、一定の寸法、形状のこのような断面等脚台形をなして、一定の捩れ角で上記軸線O回りに捩れるように形成されている一方、当該雌ネジ部1の始端または終端となる掘削工具本体2の上記内周部の開口部側端部に形成される不完全ネジ部においては、一対の斜面3A、3Bのうち、当該雌ネジ部1にねじ込まれる図示されない雄ネジ部(他方のネジ部)に対向する側の斜面3Aが、上記軸線Oに沿った断面において完全ネジ部における斜面3Aと等しい傾斜角(例えば、軸線Oに直交する平面に対する傾斜角)とされるとともに、この完全ネジ部の斜面3Aを上記一定の捩れ角に沿って延長した延長面Xに対して凹むように形成されている。
【0020】
ここで、本実施形態では、この雌ネジ部1の不完全ネジ部におけるネジ山3は、その斜面3Aが、完全ネジ部における斜面3Aの捩れ角と異なる一定の捩れ角で、延長面Xに対して漸次凹むように形成されており、雌ネジ部1に本発明を適用した第1の実施形態では、この不完全ネジ部における斜面3Aの捩れ角は完全ネジ部における斜面3Aの捩れ角よりも小さくなる。
【0021】
また、ネジ山3が一対の斜面3A、3Bと山頂部に平坦部3Cとを有して断面等脚台形状とされた本実施形態では、不完全ネジ部においても、その完全ネジ部側の山頂部に、完全ネジ部におけるネジ山3の平坦部3Cに連なる平坦部3Cが形成されている。この不完全ネジ部における平坦部3Cは、雌ネジ部1のネジ谷底面4からの高さが本実施形態では完全ネジ部の平坦部3Cと同じ高さ、すなわち軸線Oからの径が等しくされるとともに、当該不完全ネジ部においてネジ山3が面取りされ、あるいはヌスミが付けられるように切り欠かれることにより、完全ネジ部からその幅を漸次狭めるようにして、斜面3Aがこの面取りやヌスミと交差する部分において幅が潰えて0とされている。
【0022】
なお、この不完全ネジ部におけるネジ山3の斜面3A、3Bのうち、上記斜面3Aとは反対側の斜面3Bは、こうして不完全ネジ部においてネジ山3が面取りされ、あるいはヌスミが付けられるように切り欠かれることにより、雄ネジ部のネジ山に接することがないようにされている。
【0023】
このように形成された雌ネジ部1に、掘削ロッドのネジ軸外周に形成された雄ネジ部をねじ込んで構成される掘削工具のネジ継手構造では、まず不完全ネジ部が除去されることなく残されているので、不完全ネジ部の斜面3Aのうち完全ネジ部側のある程度の部分は雄ネジ部と接触させてその接触面積を確保することにより圧力を分散することができ、これによって完全ネジ部の摩耗の進行を抑えることができる。また、この雄ネジ部と接する部分では鋭利なエッジが形成されることもないので、雄ネジ部の斜面に応力集中が生じて破損を招くような事態も防止することができる。
【0024】
さらに、この不完全ネジ部において雄ネジ部に対向する側の斜面3Aは、完全ネジ部におけるネジ山3の同じ側を向いて雄ネジ部と接する斜面3Aと等しい傾斜角とされながら、完全ネジ部の同斜面3Aの延長面Xに対して凹むように形成されており、すなわち、図3(b)に示す完全ネジ部における雌ネジ部1のピッチPと比べ、不完全ネジ部では図3(c)に示すようにこの完全ネジ部の斜面3Aの延長面Xに対して凹み量Aだけ大きなピッチとされながらも、該不完全ネジ部の斜面3Aが延長面Xと同じ断面形状を維持するようにされている。
【0025】
従って、この不完全ネジ部の斜面3Aにおいて完全ネジ部側の上述した雄ネジ部とある程度接する部分は、完全ネジ部と同様にそのネジ山3の高さ方向の全体に亙って該雄ネジ部と接することになり、すなわち、この不完全ネジ部の斜面3Aが部分的に雄ネジ部と接したりすることがないため、焼き付きや剥離などが発生するのを防ぐことができる。また、たとえネジ摩耗が進行してこの不完全ネジ部の斜面3Aに及んでも、ネジ山3の高さ方向全体に亙って均一な摩耗となるので、雄ネジ部との接触状態が著しく変化することはなく、安定した締結を維持することができる。このため、上記構成のネジ継手構造によれば、このような焼き付きや剥離、あるいは上述のような摩耗の進行や応力集中による雄ネジ部の破損を防いで工具寿命の低下は抑えつつ、たとえ摩耗が進行しても雌雄ネジ部の接触状態は安定的に維持して、円滑かつ効率的な掘削を図ることが可能となる。
【0026】
特に、本実施形態では、この不完全ネジ部のネジ山3の斜面3Aが、完全ネジ部の同じ側を向く斜面3Aから、該完全ネジ部の斜面3Aがなす捩れ角と異なる捩れ角でその延長面Xに対し漸次離間するように後退させられており、従ってこれら完全ネジ部と不完全ネジ部の斜面3Aは図2に示すように鈍角に交差することになるため、上述のような鋭利なエッジが形成されるのをより確実に防ぐことができるとともに、ネジ摩耗が進行したときの接触状態の変化も一層緩やかなものとすることができる。
【0027】
ただし、このように捩れ角を変化させて不完全ネジ部の斜面3Aを延長面Xに対して後退させるのに代えて、例えば、この不完全ネジ部の斜面3Aを、延長面Xに対してその捩れ角の方向に沿うように並行しつつ段階的に凹む階段状に形成してもよく、このような場合でも、こうして凹んだ階段の段差が十分に小さければ、捩れ角を変化させたときと略同様の効果を得ることができる。
【0028】
また、本実施形態では、完全ネジ部におけるネジ山3が、その山頂部に平坦部3Cを有する断面等脚台形状のTネジとされており、この平坦部3Cが不完全ネジ部のネジ山3にも延長されて上記斜面3Aに交差させられている。このため、この不完全ネジ部においても、斜面3Aが上記延長面Xからある程度の凹み量Aで凹むまでは、該斜面3Aの山頂部側を平坦部3Cと鈍角に交差した形状としておくことができ、すなわち鋭利なエッジが形成されるのを避けることができるので、雄ネジ部への応力集中を一層確実に防止することが可能となる。
【0029】
ただし、この第1の実施形態では、上記平坦部3Cの高さが完全ネジ部から不完全ネジ部にかけて一定とされる一方で、不完全ネジ部においてネジ山3が面取りされ、あるいはヌスミが付けられるように切り欠かれるのに伴い、その幅は漸次狭められて、この面取りやヌスミと斜面3Aとが交差する部分で幅が0となるようにされているが、この場合にはこうして平坦部3Cの幅が0となった後は、斜面3Aと面取りやヌスミが直接交差して、その交差稜線部が図3(d)に示すように尖った鋭利な形状となってしまう。勿論、斜面3Aは不完全ネジ部で上記延長面Xに対し凹んでいるので、この交差稜線部が雄ネジ部に直接接触して応力集中を招くようなことは少ないが、こうして鋭利な交差稜線部が残されたままであると、該交差稜線部が潰れたりして変形し易くなり、雌雄ネジ部の円滑な着脱に支障を来すおそれがある。
【0030】
そこで、このような場合には、図4および図5に示す本発明の第2の実施形態のように、雌ネジ部1の不完全ネジ部におけるネジ山3を、そのネジ谷底面4からの高さが完全ネジ部と等しいまま、平坦部3Cの幅が完全ネジ部における平坦部3Cの幅よりも小さな幅にとなるように漸次幅狭とし、次いでこの小さな幅で平坦部3Cを一定幅としたままネジ山3の高さを漸次低くして、この一定幅を維持したまま山頂部が雌ネジ部1のネジ谷底面4に交差するように形成してもよい。なお、この第2の実施形態において、図1ないし図3に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配して説明を省略する。
【0031】
従って、このような第2の実施形態では、不完全ネジ部における斜面3Aと面取りやヌスミの間にも平坦部3Cが残されたまま、不完全ネジ部がネジ谷底面4に没することになるので、上述のような鋭利なエッジをなす交差稜線部は形成されることがなく、雌雄ネジ部をより円滑に着脱することが可能となる。また、この不完全ネジ部の完全ネジ部側では平坦部3Cの高さが完全ネジ部と等しい高さとされているので、ネジ摩耗が進行しても雄ネジ部と変わらない接触状態を維持することができる。
【0032】
ただし、このように不完全ネジ部におけるネジ山3の平坦部3Cを、完全ネジ部からネジ谷底面4への交差部分に向けて、完全ネジ部の幅からこれによりも小さな幅となるように漸次小さくし、次いでこの幅で一定の幅として上記交差部分に至るようにした場合には、この一定となる幅が小さすぎると、この平坦部3Cを挟んで位置する斜面3Aと面取りやヌスミとの間隔も小さくなってネジ山3の山頂部の変形を防止することができなくなるおそれがある。このため、ネジ谷底面4に交差する部分における平坦部3Cの一定幅は、完全ネジ部における平坦部3Cの幅の1/3までとされるのが望ましく、より望ましくは完全ネジ部における平坦部3Cの幅の1/2程度までとされる。
【0033】
なお、これら第1、第2の実施形態では、本発明のネジ継手構造を掘削工具本体2における円筒状部分の内周部のネジ穴に形成される雌ネジ部1に適用した場合について説明したが、この雌ネジ部2にねじ込まれるネジ軸の雄ネジ部に適用してもよく、これら雌雄ネジ部の双方に適用してもよい。ただし、ネジ軸をネジ穴にねじ込んで掘削工具の掘削ビットと掘削ロッド、掘削ロッド同士、または掘削ロッドとカップリングを接続した状態で、例えば雌ネジ部の不完全ネジ部を越えて雄ネジ部が延びている場合には、雄ネジ部に本発明は適用されていなくてもよく、すなわちこれら雌雄ネジ部のうち少なくとも一方のネジ部に本発明が適用されていればよい。
【0034】
また、本発明を雄ネジ部に適用した場合において、不完全ネジ部の斜面の捩れ角を完全ネジ部と異なる一定の捩れ角として延長面に対し凹ませるときには、この不完全ネジ部の斜面の捩れ角は完全ネジ部の斜面の延長面の捩れ角よりも大きくされる。さらに、不完全ネジ部のネジ山3の上記斜面3Aは、その少なくとも一部が完全ネジ部の斜面3Aと等しい傾斜角で上記延長面Xに対して凹んでいればよく、すなわち第1の実施形態における図2の直線Bの位置や第2の実施形態における図4の直線Fの位置など、不完全ネジ部が始まる位置から延長面Xに対して凹み始めていなくても、例えば完全ネジ部から凹み始めていたり、不完全ネジ部の途中から凹み始めていたりしていてもよい。また、上記傾斜角はこうして凹んだ斜面3Aの全体で完全ネジ部における斜面3Aと等しい傾斜角とされていなくてもよく、例えばネジ摩耗が進行しても雄ネジ部と接触する可能性の少ない不完全ネジ部がネジ谷底面に没入する側では、必ずしも等しい傾斜角とされていなくてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 雌ネジ部(少なくとも一方のネジ部)
2 掘削工具本体
3 雌ネジ部1のネジ山
3A ネジ山3の斜面(不完全ネジ部においては他方のネジ部に対向する側の斜面)
3B ネジ山3の斜面
3C ネジ山3の平坦部
4 雌ネジ部1のネジ谷底面
O 雌ネジ部1の軸線
X 完全ネジ部におけるネジ山3の斜面3Aを延長した延長面
P 雌ネジ部1の完全ネジ部におけるネジ山3のピッチ
A 不完全ネジ部におけるネジ山3の斜面3Aの延長面Xに対する凹み量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削ビットと掘削ロッド、掘削ロッド同士、または掘削ロッドとカップリングとを接続する、雄ネジ部が形成されたネジ軸と雌ネジ部が形成されたネジ穴との掘削工具のネジ継手構造であって、上記雄ネジ部と雌ネジ部とのうち少なくとも一方のネジ部の不完全ネジ部におけるネジ山は、他方のネジ部に対向する側の斜面の少なくとも一部が、上記一方のネジ部の軸線に沿った断面において完全ネジ部におけるネジ山の同じ側を向く斜面と等しい傾斜角をなすとともに、この完全ネジ部の斜面をその捩れ角に沿って延長した延長面に対して凹むように形成されていることを特徴とする掘削工具のネジ継手構造。
【請求項2】
上記少なくとも一方のネジ部の不完全ネジ部におけるネジ山は、他方のネジ部に対向する側の上記斜面の少なくとも一部が、上記完全ネジ部における捩れ角と異なる一定の捩れ角で上記延長面に対して漸次凹むように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の掘削工具のネジ継手構造。
【請求項3】
上記雄ネジ部と雌ネジ部とは完全ネジ部におけるネジ山が一対の斜面と山頂部に平坦部を有する断面等脚台形状をなすとともに、上記少なくとも一方のネジ部の不完全ネジ部におけるネジ山の山頂部には、その少なくとも完全ネジ部側の一部に、この完全ネジ部におけるネジ山の上記平坦部に連なる平坦部が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の掘削工具のネジ継手構造。
【請求項4】
上記少なくとも一方のネジ部の不完全ネジ部におけるネジ山は、そのネジ山高さが上記完全ネジ部と等しいまま、その山頂部に形成された上記平坦部の幅が上記完全ネジ部における上記平坦部の幅よりも小さな幅にとなるように漸次小さくなり、次いでこの小さな幅で平坦部が一定幅とされたままネジ山高さが漸次低くなって山頂部が上記少なくとも一方のネジ部のネジ谷底面に交差させられていることを特徴とする請求項3に記載の掘削工具のネジ継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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