説明

採血器具

【課題】血液採取量が微量な場合であっても、より確実に分離でき、血清の自動分析を高精度に行うことを可能とする。
【解決手段】直管状の細径部2と、該細径部2の一端に接続し、該細径部2より内径の大きな大容積部8と、該大容積部8の細径部2とは反対側の端部または細径部2の他端のいずれかに取り付けられ、細径部2および大容積部8により区画される内部空間と外部空間とを連通させる注射針7とを備える採血器具1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検査に使用する採血器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液検査は、シリンジによる採血、採血の一部のヘマトクリット値測定用容器への入れ替えおよび遠心分離容器への移し替え、遠心分離、ヘマトクリット値測定、血清吸引により吸引された血清を自動分析器にかける検査を行っていた。
しかしながら、老人や幼児、あるいは犬猫等の小動物においては、血管が細く、あるいは固く、あるいは外部から血管の位置を特定し難いために、的確な位置への注射針の穿刺が困難である等の理由により、検査に必要な十分な量の血液を採血することができないという不都合がある。
【0003】
このため、採血された微量の血液をヘマトクリット値測定用容器に入れ替えたり、遠心分離容器へ移し替えたりすると、各容器に付着して残る血液が無駄になり、自動分析に必要十分な量の血清を採取することが困難になる。また、移し替えの際に血液が大気に触れるため精度の高い血液分析結果を得ることができないという不都合がある。
【0004】
この問題を解決するために、採血後遠心分離容器への移し替えを行う必要のない採血器具が考案されている(例えば、特許文献1参照。)。
この採血器具は、シリンジ状を有し、ピストンの先端に取り付けた内栓具をシリンダ内に残したままでピストンのシャフトを取り外すことにより、採血したままの状態で遠心分離を行うことができるようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開平3−167471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、遠心分離の際には、シリンダ内を摺動可能に密封する内栓具の方向に向けて遠心力をかけることとなるため、強い遠心力をかけるとシリンダと内栓具との隙間から血液が漏洩することが考えられ、強い遠心力をかけることができない。このため、十分な遠心分離を行うことができず、ヘマトクリット値測定の精度が低下し、かつ、血清内に存在する不純物のために血清の自動分析も精度が低下するという不都合がある。
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、血液採取量が微量な場合であっても、より確実に分離でき、血清の自動分析を高精度に行うことを可能とする採血器具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、直管状の細径部と、該細径部の一端に接続し、該細径部より内径の大きな大容積部と、該大容積部の前記細径部とは反対側の端部または前記細径部の他端のいずれかに取り付けられ、前記細径部および前記大容積部により区画される内部空間と外部空間とを連通させる注射針とを備える採血器具を提供する。
【0009】
本発明によれば、注射針をヒトや動物の静脈に穿刺すると、静脈内の圧力によって、注射針を介して細径部および大容積部により区画される内部空間に、微量の血液を採取することができる。この場合に、内部空間には大容積部が設けられているので、該大容積部によって内部空間の圧力変動を吸収し、血液を内部空間内にスムーズに取り込むことができる。逆に、大容積部を設けて血液の内部空間内へのスムーズな取り込みを可能にしているので、細径部の内径を十分に小さくすることができる。
【0010】
内部空間内に採取された血液を大容積部より十分に内径の小さい直管状の細径部に収容すると、血液が微量であっても細径部の長い範囲にわたって血液を直線状に配置することができる。その結果、遠心分離を行うことにより血球成分と血清成分との境界面を明確に形成することができ、血球成分を含まない血清成分の採取を容易にすることができる。また、容器を移し替えることなく遠心分離を行うことができ、移し替えにより容器に付着して無駄になる血液をなくし、微量の血液を有効に利用することができる。
【0011】
上記発明においては、前記大容積部の前記端部に着脱可能に取り付けられ、前記大容積部を密封する蓋体を備えることとしてもよい。
このようにすることで、蓋体を大容積部の端部に取り付けて内部空間を密封することができる。一方、蓋体を大容積部の端部から取り外すことで、比較的大きな口径の大容積部を開放することができ、大容積部を介して細径部内への吸引ノズルの挿入を容易にすることができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記細径部の他端が閉塞され、前記注射針が前記蓋体に固定されていることとしてもよい。
このようにすることで、細径部の閉塞端を半径方向の外側に配置して、強い遠心力をかけても血液が外部に漏洩することがなく、より明確に血球成分と血清成分とを分離させて、血清成分内に含まれる血球成分等の不純物含有量をより低下させ、精度の高い自動分析を行うことができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記細径部の他端が閉塞され、前記大容積部の前記端部が前記蓋体によって密封された状態で前記内部空間を減圧してなる器具本体を備え、前記注射針が、前記大容積部の前記端部に取り付けられる際に前記蓋体を貫通することとしてもよい。
このようにすることで、ヒトまたは動物の静脈に注射針を刺した状態で、該注射針により器具本体の蓋体を貫通させると、減圧状態の器具本体内の圧力によって、血液が内部空間内に吸引され、より多くの血液を採取することができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記細径部の他端が閉塞され、前記注射針が前記蓋体に固定され、前記細径部および前記大容積部が前記蓋体に対して密封状態を維持しつつ長手方向に移動可能に設けられていてもよい。
【0015】
このようにすることで、ヒトまたは動物の静脈に注射針を刺した状態で、細径部および大容積部を蓋体に対して移動させると、大容積部の容積が増大させられる結果、内部空間が減圧され、血液が内部空間に吸引されるので、より多くの血液を採取することが可能となる。また、細径部の他端が閉塞されているので、強い遠心力による十分な遠心分離が可能となり、血清の自動分析の精度向上を図ることができる。また、蓋体を大容積部の端部から取り外すことで、比較的大きな口径の大容積部を開放することができ、大容積部を介して細径部内への吸引ノズルの挿入を容易にすることができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記注射針が前記細径部の他端に固定され、前記蓋体に、大容積部の容積を変化させる吸引機構が備えられていてもよい。
このようにすることで、ヒトまたは動物の静脈に注射針を刺した状態で、吸引機構を作動させて大容積部の容積を変化させることにより、内部空間を減圧させて、血液の採取を容易にすることができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記細径部が透明な材質により構成されていることが好ましい。
このようにすることで、遠心分離により細径部内に形成される血球成分と血清成分との境界面を外部から視認することができる。これにより、容器を移し替えることなく、ヘマトクリット値測定を精度よく行うことができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記細径部の少なくとも一部が弾性材料からなり、長手方向の途中位置を外部からの圧力により閉塞可能に構成されていてもよい。
このようにすることで、細径部の外部から視認された血球成分と血清成分との境界面の近傍で、細径部の外部から圧力をかけて細径部の長手方向の途中位置で細径部内を閉塞し、分離された血球成分が血清成分に混じらないようにすることができる。したがって、搬送等により振動が与えられても、血清に血球成分が混入する不都合を防止することができる。特に、遠心分離作業と自動分析作業とが別の場所で行われる場合に有効である。
【0019】
また、上記発明においては、前記細径部の全体が弾性材料からなり、該細径部を直管状に維持する支持部材を備えていてもよい。
このようにすることで、支持部材により細径部が直管状に維持され、ヘマトクリット値測定を可能にし、かつ、血清成分の取り出しを容易にするとともに、細径部を圧力で閉塞して、血球成分が血清成分に混入しないようにすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、血液採取量が微量な場合であっても、より確実に分離でき、血清の高精度の自動分析を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の一実施形態に係る採血器具1について、図1〜図6を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る採血器具1は、図1および図2に示されるように、一端が閉塞された直管状の細径部2と、該細径部2の他端に設けられた大径部3と、細径部2から大径部3に向けて徐々に内径が大きくなる拡径部4とを備える器具本体5と、該器具本体5の大径部3側の開口部5aに着脱可能に取り付けられ吸引孔6aを有する蓋体6と、該蓋体6の吸引孔6aに着脱可能に取り付けられる注射針7とを備えている。
【0022】
器具本体5の大径部3に蓋体6を取り付け、蓋体6の吸引孔6aに注射針7を取り付けると、図2に示されるように、一端が閉塞された直管状の細径部2の他端に、大径部3と蓋体6とにより形成された大容積部8が配置され、該大容積部8が注射針7により外部空間に連通する採血器具1が構成されるようになっている。
【0023】
細径部2は、大径部3と比較して十分に小さい一様な内径寸法を有している。細径部2の内径寸法は、該細径部2内に分離された血清成分を吸引するための吸引ノズル9(図6参照。)を挿入可能な寸法を有している。吸引ノズル9の外径寸法は、例えば、0.8mmであり、細径部2の内径寸法はそれより大きな寸法、例えば2mmである。
【0024】
また、細径部2は、採取される微量の血液を収容可能な十分な容積となるように、十分に長い長さ寸法、例えば、50mm程度の長さ寸法を有する直管状に形成されている。器具本体5は、透明な材質の弾性体により構成されている。これにより、細径部2は、外部から内部の血液を視認することを可能とし、かつ、外部からの半径方向内方に向かう圧力によって、容易に潰れ、長手方向の途中位置において内部空間を密封状態に分離することができるようになっている。また、細径部2は、外力をかけない状態では、直管状の状態を維持する程度の剛性を有している。
【0025】
このように構成された本実施形態に係る採血器具1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る採血器具1を用いて採血を行うには、図2に示されるように組み立てられた採血器具1の注射針7をヒトまたは動物の血管A、例えば、静脈に刺す。すると、図3に示されるように、血管Aに刺した瞬間に、血管Aの内圧によって注射針7を介して、いくらかの血液Bが採血器具1の内部空間に入る。
【0026】
この場合において、本実施形態に係る採血器具1によれば、採取した血液Bを収容したい細径部2は非常に細く、その容積が小さいが、この細径部2には大容積部8が接続されているので、内部空間の総容積は十分に確保されている。このため、大容積部8を圧力変動を抑制するバッファとして機能させ、血圧の低い老人や血管Aの細い幼児、あるいは、小動物の場合であっても、採血器具1の内部空間に血液Bの導入による過度の内圧上昇を抑制して、100〜150μL程度の血液Bを注射針7を介して採血器具1の内部空間に容易に導入することができる。
【0027】
この状態で、図4に示されるように、採血器具1を細径部2の先端が半径方向外方に向かうように遠心分離機に設置して遠心分離を行う。図中、符号10はキャップである。これにより、注射針7側に採取された全ての血液Bが大径部3および拡径部4を介して細径部2に導入される。
【0028】
注射針7から細径部2に導入するまでの間に、血液Bは大径部3および拡径部4を通過し、その内壁に付着することとなるが、強い遠心力をかけることによって内壁に付着した血液Bも残ることなく、細径部2に導入される。したがって、採取した血液Bを無駄なく細径部2に導入することができる。
【0029】
また、細径部2の内径寸法は約2mmに設定されているので、細径部2内に導入された100〜150μLの血液は、細径部2内に約30〜50mmの長さにわたって配されることになる。そして、この状態から、さらに遠心分離を行うことにより、細径部2内の血液Bは、図4に示されるように、比重の相違によって、血球成分B1と血清成分B2とに分離される。
【0030】
このようにして細径部2において分離された血球成分B1と血清成分B2との比率を測定することにより、ヘマトクリット値を測定することができる。この場合に、本実施形態によれば、血液Bが、透明な細径部2に約30〜50mmの長さにわたって配されているので、血球成分B1と血清成分B2との量の比率をその長さの比率として、外部から目視によって測定することができる。
【0031】
すなわち、血液採取量が100〜150μLと少なくても、血球成分B1の量および血清成分B2の量が、長さによって明確に測定でき、ヘマトクリット値を簡易かつ精度よく測定することができるという利点がある。
【0032】
そして、ヘマトクリット値測定が終了した時点で、図5に示されるように、例えばピンチバルブ11のような任意の手段によって、血球成分B1と血清成分B2との境界面C近傍の若干血清成分B2側に配される位置で、細径部2を半径方向に潰すことにより、細径部2の内部を密封状態に分離する。これにより、以降の操作あるいは搬送中に血清成分B2内に血球成分B1が混入することを防止して、不純物を含まない血清成分B2を採血器具1の内部空間から取り出すことが可能となる。
【0033】
血清成分B2の採血器具1からの取り出しは、図6に示されるように、大径部3から蓋体6を取り外すことで大径部3を開口させ、その開口部5aから吸引ノズル9を細径部2内に挿入することにより行われる。細径部2の内径寸法は約2mmであり、吸引ノズル9の外形寸法は約0.8mmであるため、挿入の際の位置決めは困難である。しかし、本実施形態に係る採血器具1によれば、細径部2から漸次内径を拡大させる拡径部4と、細径部2より十分に内径の大きな大径部3とを備えているので、吸引ノズル9を細径部2に精度よく位置決めしなくても、大径部3に挿入するだけで拡径部4によって細径部2内に導かれ、細径部2内の血清成分B2を吸引することができる。
【0034】
このように本実施形態に係る採血器具1によれば、老人や幼児あるいは小動物のように微量の血液Bしか採血できない場合であっても、血液Bの無駄をなくして、簡易かつ精度よくヘマトクリット値測定を行うことができ、また、不純物を含まない血清成分B2の抽出を容易にして、血清成分B2の自動分析を精度よく行うことができるという利点がある。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態に係る採血器具20について、図7〜図11を参照して以下に説明する。
本実施形態の説明においては、上述した第1の実施形態に係る採血器具1と構成を共通とする箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
本実施形態に係る採血器具20は、図7に示されるように、細径部2、拡径部4および大径部3を備えている点において第1の実施形態に係る採血器具1と共通しているが、細径部2の先端に注射針7が備えられ、大径部3の開口部5aを閉塞する蓋体21に吸引機構22が備えられている点において相違している。
【0037】
吸引機構22は、例えば、弾性材料からなる蛇腹機構(以下、蛇腹機構22とも言う。)であり、圧縮した状態から解放することにより弾発力によって伸長し、内部空間の総容積を拡大させて、内部空間内を減圧状態にすることができるようになっている。
【0038】
また、本実施形態においては、血液B採取後に、注射針7に被せるキャップ23が備えられている。キャップ23内にはパテ24が充填されており、注射針7にキャップ23を被せると、キャップ23内のパテ24が注射針7内に浸入し、注射針7の基端部までを埋めるようになっている。これにより、細径部2の先端を密閉することができ、一様な内断面積の細径部2に配される血液Bによってヘマトクリット値測定を行うことができるようになっている。
【0039】
このように構成された本実施形態に係る採血器具20の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る採血器具20を用いて採血を行うには、蛇腹機構22を圧縮した状態で、細径部2の先端の注射針7をヒトまたは動物の血管A、例えば、静脈に刺す。すると、図8に示されるように、血管Aに刺した瞬間に、血管Aの内圧によって注射針7を介して、いくらかの血液Bが採血器具20の内部空間に入る。
【0040】
次いで、圧縮していた蛇腹機構22を解放することにより伸長させると、内部空間が減圧状態となって血管A内の血液Bがさらに内部空間内に吸引される。このようにすることで、血管Aの内圧が足りずに、最初に採取できる血液Bが十分でなくても、蛇腹機構22の作動により、図9に示されるように、十分な量の血液Bを採取することができる。
【0041】
そして、100〜150μL程度の血液Bが注射針7を介して採血器具20の内部空間に導入された時点で、キャップ23を注射針7に被せることによりパテ24を注射針7内に浸入させて密閉する。この状態で、採血器具20を細径部2の先端が半径方向外方に向かうように遠心分離機に設置して遠心分離を行う。これにより、細径部2内の血液Bは、図10に示されるように、比重の相違によって、血球成分B1と血清成分B2とに分離されるので、簡易かつ精度よくヘマトクリット値測定を行うことができる。
【0042】
そして、ヘマトクリット値測定が終了した時点で、図11に示されるように、ピンチバルブ11によって、細径部2を半径方向に潰して内部を密封状態に分離することにより、以降の操作あるいは搬送中に血清成分B2内に血球成分B1が混入することを防止する。その後、蓋体21を取り外した大径部3の開口部5aから吸引ノズル9を細径部2内に挿入して、不純物を含まない血清成分B2を採血器具20の内部空間から取り出すことができる。
【0043】
なお、本実施形態に係る採血器具20においては、注射針7を大容積部8に設け、該大容積部8の側面に蛇腹機構22を設けることにしてもよい。このようにすることで、キャップ23およびパテ24を用いずに済むという利点がある。
【0044】
次に、本発明の第3の実施形態に係る採血器具30について、図13および図14を参照して以下に説明する。
本実施形態の説明においては、上述した第1の実施形態に係る採血器具1と構成を共通とする箇所に同一符号を付して説明を省略する。
【0045】
本実施形態に係る採血器具30は、図13に示されるように、注射針7を取り付けるシリンダ31と、該シリンダ31内に摺動可能に配置されるピストン32とを備えるシリンジ状に形成されている。ピストン32は、第1の実施形態の器具本体5と同様に、細径部2と拡径部4と大径部3とを備え、大径部3の外周部に、シリンダ31の内面との隙間を密封するパッキン33を備えている。
【0046】
細径部2は、第1および第2の実施形態と同様にして、透明な細管状に形成され、半径方向に潰れる弾性を有する一方、長手方向への引張強度が十分に高く、伸長しにくい性質の材料により構成されている。細径部2の端部には、ピストン32をシリンダ31に対して引き抜く方向に操作するためのハンドル34が備えられている。
【0047】
このように構成された本実施形態に係る採血器具30を用いて採血を行うには、図14に示されるように、注射針7を血管に刺した状態で、シリンダ31に対してピストン32を引き抜く方向に移動させることにより、内部空間を減圧状態にして、血液Bの採取を促進することができる。100〜150μLの血液Bが採取された後は、第1の実施形態と同様にして、遠心分離、ヘマトクリット値検査およびピンチバルブ11による血清成分B2の分離を行う。そして、蓋体としてのシリンダ31をピストン32から取り外して、大径部3の開口部32aから吸引ノズル9を挿入して、内部の血清成分B2を吸引する。
【0048】
このように本実施形態に係る採血器具30によれば、第2の実施形態と同様に、注射針7を血管Aに刺しただけでは、検査に十分な量の血液Bが採取できない場合においても、シリンダ31に対してピストン32を移動させるだけで、さらなる血液Bを吸引し、ヘマトクリット値測定や血清成分B2の自動分析を精度よく行うことができるという利点を有する。
【0049】
次に、本発明の第4の実施形態に係る採血器具40について、図15および図16を参照して以下に説明する。
本実施形態の説明においても、上述した第1の実施形態に係る採血器具1と構成を共通とする箇所に同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態に係る採血器具40は、図15に示されるように、器具本体41と注射針7を支持するホルダ42とを備えている。
【0050】
器具本体41は、第1の実施形態と同様、細径部2、拡径部4および大径部3を有し、大径部3の開口部41aに、該開口部41aを密閉する弾性材料からなる膜状の蓋体43を備えている。そして、器具本体41の内部空間が減圧状態にされている。
【0051】
また、ホルダ42は、血管Aに穿刺される一端7aと、前記蓋体43に穿刺される他端7bとを備える注射針7を保持し、前記蓋体43により閉塞された大径部3を嵌合させるシリンダ状に形成されている。図16に示されるように、注射針7の一端7aを血管Aに穿刺させた状態で、ホルダ42に器具本体41の大径部3を嵌合させて、器具本体41の蓋体43に注射針7の他端7bを貫通させることにより、内部空間の圧力によって血液Aを器具本体41内に吸引することができる。
【0052】
このように構成された本実施形態に係る採血器具40によっても、第2,第3の実施形態と同様に、注射針7を血管Aに刺しただけでは、検査に十分な量の血液Bが採取できない場合においても、器具本体41の内部空間の減圧状態を利用して、さらなる血液Bを吸引し、ヘマトクリット値測定や血清成分B2の自動分析を精度よく行うことができるという利点を有する。
【0053】
なお、上記各実施形態においては、細径部2全体を弾性材料により構成することとしたが、ピンチバルブ11によって潰す部分の近傍のみを弾性材料により構成してもよい。また、細管状の弾性材料からなる細径部2がそれ自体では直立状態を維持できない場合には、細径部2を直立状態に支持する支持部材(図示略)を細径部2の外部に取り付けることにしてもよい。
【0054】
また、上記各実施形態においては、細径部2として弾性材料からなるものを採用したが、遠心分離した直後に搬送したり振動を与えたりすることなく、血清成分B2を採取できる場合には、圧力によって半径方向に潰れることができなくてもよい。したがって、ガラス等のさらに硬質な材料により構成することとしてもよい。
【0055】
また、細径部2を半径方向に潰す方法としては、ピンチバルブ11に代えて、超音波誘導加熱やヒータ加熱による圧着、あるいは、細径部2を捩ることにより潰すこととしてもよい。また、血清成分B2と血球成分B1とを混ざらないように区画する方法としては、細径部2を変形させる方法に代えて、遠心分離により血清成分B2と血球成分B1との境界面Cに配置されることとなる分離剤や凝固剤を血液Bに混合することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る採血器具を示す分解縦断面図である。
【図2】図1の採血器具の組み立てられた縦断面図である。
【図3】図1の採血器具を用いた採血作業を説明する図である。
【図4】図1の採血器具に採血された血液を遠心分離した状態を示す図である。
【図5】図4により遠心分離された血清成分をピンチバルブにより血球成分から隔離した状態を示す図である。
【図6】図5により血球成分から隔離された血清成分を採血器具から取り出す作業を説明する図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る採血器具を示す縦断面図である。
【図8】図7の採血器具を用いた採血作業において、注射針を血管に穿刺した状態を示す図である。
【図9】図8の採血作業において、吸引機構の作動により血液を吸引する工程を説明する図である。
【図10】図9により採血された血液を遠心分離した状態を示す図である。
【図11】図10により遠心分離された血清成分をピンチバルブにより血球成分から隔離して、採血器具から取り出す作業を説明する図である。
【図12】図7の採血器具の変形例を示す縦断面図である。
【図13】本発明の第3の実施形態に係る採血器具による採血作業を説明する図である。
【図14】図12の採血作業において、シリンダに対してピストンを引き抜く方向に移動させて血液を吸引する工程を説明する図である。
【図15】本発明の第4の実施形態に係る採血器具を示す分解縦断面図である。
【図16】図14の採血器具を用いた採血作業を説明する図である。
【符号の説明】
【0057】
1,20,30,40 採血器具
2 細径部
5,41 器具本体
6,21,43 蓋体
7 注射針
8 大容積部
22 蛇腹機構(吸引機構)
31 シリンダ(蓋体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直管状の細径部と、
該細径部の一端に接続し、該細径部より内径の大きな大容積部と、
該大容積部の前記細径部とは反対側の端部または前記細径部の他端のいずれかに取り付けられ、前記細径部および前記大容積部により区画される内部空間と外部空間とを連通させる注射針とを備える採血器具。
【請求項2】
前記大容積部の前記端部に着脱可能に取り付けられ、前記大容積部を密封する蓋体を備える請求項1に記載の採血器具。
【請求項3】
前記細径部の他端が閉塞され、
前記注射針が前記蓋体に固定されている請求項2に記載の採血器具。
【請求項4】
前記細径部の他端が閉塞され、前記大容積部の前記端部が前記蓋体によって密封された状態で前記内部空間を減圧してなる器具本体を備え、
前記注射針が、前記大容積部の前記端部に取り付けられる際に前記蓋体を貫通する請求項2に記載の採血器具。
【請求項5】
前記細径部の他端が閉塞され、
前記注射針が前記蓋体に固定され、
前記細径部および前記大容積部が前記蓋体に対して密封状態を維持しつつ長手方向に移動可能に設けられている請求項2に記載の採血器具。
【請求項6】
前記注射針が前記細径部の他端に固定され、
前記蓋体に、大容積部の容積を変化させる吸引機構が備えられている請求項2に記載の採血器具。
【請求項7】
前記細径部が透明な材質により構成されている請求項1から請求項6のいずれかに記載の採血器具。
【請求項8】
前記細径部の少なくとも一部が弾性材料からなり、長手方向の途中位置を外部からの圧力により閉塞可能に構成されている請求項7に記載の採血器具。
【請求項9】
前記細径部の全体が弾性材料からなり、
該細径部を直管状に維持する支持部材を備える請求項8に記載の採血器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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