説明

探傷方法および探傷装置

【課題】対象物の密度が変動しても対象物の割れの有無を精度良く判定可能な探傷方法および探傷装置を提供する。
【解決手段】探傷装置1に、焼結品10の密度を算出する密度算出部51cと、焼結品10に打撃を付与する打撃付与装置2と、打撃付与装置2により打撃が付与された焼結品10が発する音波を検出する打撃音検出装置4と、密度算出部51cにより算出された焼結品10の密度と打撃音検出装置4により検出された音波の周波数特性と予め設定された焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係とに基づいて焼結品10の割れの有無を判定する割れ判定部51dと、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の探傷を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、焼結物等の対象物の割れの有無は、作業者が目視で判定していた。しかし、目視で小さな割れを発見することは容易でない。特に、判定の対象物の数が多く対象物に含まれる割れを有する対象物の割合が小さい、すなわち不良品率が低い場合、割れが有る対象物を確実に発見することは困難であった。
【0003】
このような問題を解決する方法として、焼結物等の対象物の割れの有無を音波を用いて判定する技術は公知となっている。例えば、特許文献1および特許文献2に記載の如くである。
特許文献1および特許文献2に記載の品質評価装置は、対象物に所定の周波数の音波を照射(送信)する送波手段と、対象物を透過した透過波または対象物により反射した反射波を受信する受波手段と、該受波手段が受信した透過波または反射波に基づいて対象物の評価を行う制御手段と、を具備するものである。
また、渦流センサを用いて対象物の表層部に渦電流を発生させ、該渦電流の大きさや変化等に基づいて対象物の割れの有無を判定する装置も知られている。
【0004】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載の装置は、効果的に音波を対象物に送信し、あるいは効果的に透過波または反射波を対象物から受信するために対象物と送波手段との間、および対象物と受波手段との間を水またはゲル状の媒体(グリース等)で満たす必要がある。そのため、対象物を水槽に浸漬したり対象物の表面にグリースを塗布したりする等の煩雑な作業を行わねばならず、作業時間の短縮や工数の削減という観点からは好ましくない。
【0005】
また、渦流センサを用いた装置は、渦流センサを対象物に沿って走査する必要があり、そのため、対象物の形状によって検出結果にバラツキが生じ、安定した検出結果を得ることができないという問題がある。さらに、渦流センサを用いた装置は一般的に高価であり、製造工程等に広く展開する場合には好ましくない。
【0006】
上記問題を解決する方法の一つとして、対象物を加振して対象物から発生する音(加振音)を検出することにより、対象物の割れの有無を判定する装置も知られている。例えば、特許文献3に記載の如くである。
【特許文献1】特開平6−18487号公報
【特許文献2】特開2004−177159号公報
【特許文献3】特開2001−235452号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献3に記載の装置は、焼結品のようにある程度の密度のバラツキがある対象物の探傷を行う場合、図4に示す如く対象物の共振周波数(ピーク周波数)が変動してある程度の幅を有する事から、小さい割れ(クラック)に起因する音(図4における太い実線のうち「割れ小」に対応するもの)が対象物の共振音(図4における太い点線で示すものであり、割れが無い対象物が通常発する音)に重複する。
そのため、小さい割れ(クラック)に起因する音と対象物の共振音とをピーク周波数の違いで分離することができず、小さな割れの有無を判定することが困難であるという問題がある。
【0008】
本発明は以上の如き状況に鑑み、対象物の密度が変動しても対象物の割れの有無を精度良く判定可能な探傷方法および探傷装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、
対象物の密度を算出する密度算出工程と、
前記対象物に打撃を付与する打撃付与工程と、
前記撃付与工程において打撃が付与された対象物が発する音波を検出する打撃音検出工程と、
前記密度算出工程において算出された対象物の密度と、前記打撃音検出工程において検出された音波の周波数特性と、予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係と、に基づいて対象物の割れの有無を判定する割れ判定工程と、
を具備するものである。
【0011】
請求項2においては、
前記割れ判定工程において、
前記打撃音検出工程において検出された音波のピーク周波数が、予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係から得られる検量線領域よりも低周波側にある場合に前記対象物に割れが有ると判定するものである。
【0012】
請求項3においては、
前記密度算出工程は、
前記対象物の重量を測定する重量測定工程と、
前記対象物の厚さを測定する厚さ測定工程と、
予め設定された前記対象物の断面積、前記重量測定工程において測定された対象物の重量、および前記厚さ測定工程において測定された対象物の厚さに基づいて対象物の密度を算出する算出工程と、
を具備するものである。
【0013】
請求項4においては、
前記割れ判定工程において、
予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係を前記対象物の温度に基づいて補正するものである。
【0014】
請求項5においては、
対象物の密度を算出する密度算出手段と、
前記対象物に打撃を付与する打撃付与手段と、
前記打撃付与手段により打撃が付与された対象物が発する音波を検出する打撃音検出手段と、
前記密度算出手段により算出された対象物の密度と、前記打撃音検出手段により検出された音波の周波数特性と、予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係と、に基づいて対象物の割れの有無を判定する割れ判定手段と、
を具備するものである。
【0015】
請求項6においては、
前記割れ判定手段は、
前記打撃音検出手段により検出された音波のピーク周波数が、予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係から得られる検量線領域よりも低周波側にある場合に前記対象物に割れが有ると判定するものである。
【0016】
請求項7においては、
前記密度算出手段は、
予め設定された前記対象物の断面積、測定された前記対象物の重量、測定された前記対象物の厚さに基づいて対象物の密度を算出するものである。
【0017】
請求項8においては、
前記割れ判定手段は、
予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係を前記対象物の温度に基づいて補正するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0019】
請求項1においては、対象物の密度にバラツキがある場合でも、対象物の割れの有無を容易かつ精度良く判定することが可能である。
【0020】
請求項2においては、対象物の割れが微小な場合でも、対象物の割れの有無を精度良く判定することが可能である。
【0021】
請求項3においては、簡便な方法で対象物の密度を算出することが可能であり、作業性に優れる。
【0022】
請求項4においては、対象物の温度にバラツキがある場合でも、対象物の割れの有無を容易かつ精度良く判定することが可能である。
【0023】
請求項5においては、対象物の密度にバラツキがある場合でも、対象物の割れの有無を容易かつ精度良く判定することが可能である。
【0024】
請求項6においては、対象物の割れが微小な場合でも、対象物の割れの有無を精度良く判定することが可能である。
【0025】
請求項7においては、簡便な方法で対象物の密度を算出することが可能であり、作業性に優れる。
【0026】
請求項8においては、対象物の温度にバラツキがある場合でも、対象物の割れの有無を容易かつ精度良く判定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下では、図1乃至図6を用いて本発明に係る品質評価装置の実施の一形態である探傷装置1の構成について説明する。
【0028】
探傷装置1は、焼結品10の探傷、すなわち、焼結品10の割れの有無の判定を行う装置である。
図1および図3に示す如く、焼結品10は本発明に係る対象物の実施の一形態であり、例えば無加圧焼結法(雰囲気焼結法)、通電加熱焼結法、放電プラズマ焼結法等の方法を用いて粉末状の材料(主として金属材料)を所定の型に収容して加圧し、所定の形状とした後加熱する、あるいは所定の型に収容して加圧した状態で加熱することにより略円筒形状に成型したものである。
【0029】
本発明に係る「対象物」は、探傷装置による探傷の対象となるものを広く指すものとする。
なお、本発明に係る探傷装置の対象物は焼結品10に限定されるものではないが、焼結品等、量産時に対象物の密度の変化が起こり易いものについて探傷を行う場合に特に効果が大きい。
【0030】
図1および図2に示す如く、探傷装置1は、主として打撃付与装置2、載置台3、打撃音検出装置4、制御装置5等を具備する。
【0031】
打撃付与装置2は本発明に係る打撃付与手段の実施の一形態であり、焼結品10に打撃を付与するものである。
打撃付与装置2は、主として焼結品10と衝突する部材であるハンマ部材21、ハンマ部材21を焼結品10に向かって衝突させるアクチュエータ等からなる駆動ユニット22等を具備する。本実施例では、駆動ユニット22によりハンマ部材21が側方に突出し、ハンマ部材21の突出方向に配置された焼結品10に衝突することにより焼結品10に打撃が付与される。
なお、本発明に係る打撃付与手段は、本実施例の打撃付与装置2に限定されず、対象物に打撃を付与可能であれば別の構成でも良い。
【0032】
載置台3は焼結品10を載置する台である。打撃付与装置2は載置台3に載置された焼結品10に打撃を付与する。
なお、載置台3の上面にはスポンジやゴム等の振動を減衰させることができる部材を敷いておき、その上に焼結品10を載置することが好ましい。
このようにすることにより、打撃が付与された焼結品10が発する音波が載置台3に伝播し、後述する打撃音検出装置4による音波の検出の外乱要素となることを防止することが可能である。
また、本実施例の探傷装置1を焼結品10の製造ラインにおける焼結品10の搬送経路の中途部に設ける場合には、載置台3に焼結品10を載置せず、搬送経路上の焼結品10に直接打撃を付与する場合も想定される。このような場合には、載置台3を省略することも可能である。
【0033】
打撃音検出装置4は、本発明に係る打撃音検出手段の実施の一形態であり、打撃付与装置2が打撃を付与した焼結品10が発する音波を検出するものである。
ここで、本出願における「音波」は、人間が聴覚により知覚可能な周波数の音波およびこれよりも高い周波数帯の音波(超音波)を指し、より具体的には周波数が10kHz以上かつ40kHz以下程度の周波数帯の音波を指す。
打撃音検出装置4は、主として所定の周波数帯の音波を検出可能な音響センサ41と、音響センサ41が検出した音波の信号を、例えば図4における太い実線および太い破線で示す如き周波数と強度との関係を示すデータに変換するFFT(Fast Fourier Transform)アナライザ42と、音響センサ41を所定の位置、例えば焼結品10とハンマ部材21とが接触(衝突)する位置の近傍に支持する支持部材43と、を具備する。
なお、本発明に係る打撃音検出手段は、本実施例の打撃音検出装置4に限定されず、打撃が付与された対象物が発する音波を検出可能であれば別の構成でも良い。
【0034】
制御装置5は、制御部51、入力部52、表示部53等を具備する。
【0035】
制御部51は、実体的には打撃付与装置2の動作を行うためのプログラム、焼結品10の密度の算出に係るプログラム、焼結品10の割れ判定に係るプログラム等を格納する格納手段、これらのプログラム等を展開する展開手段、これらのプログラム等に従って所定の演算を行う演算手段、焼結品10の割れ判定の結果等を記憶する記憶手段等を具備する。制御部51は、より具体的にはCPU、ROM、RAM、HDD等がバスで接続される構成であっても良く、あるいはワンチップのLSI等からなる構成であっても良い。
また、制御部51は専用品でも良いが、市販のパソコンやワークステーション等を用いて達成することも可能である。
【0036】
制御部51は打撃付与装置2の駆動ユニット22に接続され、打撃付与装置2を動作するための信号を送信することが可能である。
また、制御部51は打撃音検出装置4の音響センサ41に接続され、音響センサ41により検出された所定の周波数帯の音波(打撃音)に係る情報を取得することが可能である。
【0037】
制御部51は、記憶部51a、動作制御部51b、密度算出部51c、割れ判定部51dを具備する。
【0038】
記憶部51aは焼結品10の断面積、割れが無い焼結品10の密度と焼結品10に打撃を付与したときに発生する音波の周波数特性(図6に示す検量線領域12等)、探傷結果(割れの有無の判定結果)等の種々のデータを記憶するものである。
本実施例では、制御部51の記憶手段に上記種々のデータが記憶されることにより、記憶部51aとしての機能を果たす。
【0039】
動作制御部51bは打撃付与装置2の動作を制御するものである。
本実施例では、制御部51の格納手段に格納された打撃付与装置2の動作を行うためのプログラムが実行されることにより、動作制御部51bとしての機能を果たす。
【0040】
密度算出部51cは本発明に係る密度算出手段の実施の一形態であり、焼結品10の密度を算出するものである。本実施例では、制御部51の格納手段に格納された焼結品10の密度の算出に係るプログラム(密度算出プログラム)が実行されることにより、密度算出部51cとしての機能を果たす。
【0041】
密度算出部51cは、(a)予め設計値に基づいて算出され、設定値として記憶部51aに記憶された焼結品10の断面積、(b)作業者により測定され、入力部52を用いて入力された焼結品10の重量、(c)作業者により測定され、入力部52を用いて入力された焼結品10の厚さ、に基づいて焼結品10の密度を算出する。
【0042】
より具体的には、密度算出部51cは焼結品10の断面積と焼結品10の厚さの積を算出してこれを焼結品10の体積とし、焼結品10の重量を当該体積で割った値を算出してこれを焼結品10の密度とする。
ここで、対象物の体積は、対象物の真の体積でも良く、外形寸法から簡易的に算出された対象物の体積でも良い。
また、対象物の密度は、高精度な方法で測定された対象物の密度でも良く、簡便な方法により算出された対象物の体積で対象物の重量を割った値でも良い。
【0043】
割れ判定部51dは本発明に係る割れ判定手段の実施の一形態であり、密度算出部51cにより算出された焼結品10の密度と、打撃音検出装置4により検出された音波の周波数特性と、予め設定されて記憶部51aに記憶された割れが無い焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係と、に基づいて焼結品10の割れの有無を判定するものである。
本実施例では、制御部51の格納手段に格納された焼結品10の割れ判定に係るプログラム(割れ判定プログラム)が実行されることにより、割れ判定部51dとしての機能を果たす。
【0044】
図5に示す如く、X線観察等の他の手法により割れが無いことが予め判明している焼結品10・10・・・の密度と、これらの焼結品10・10・・・に打撃を付与したときに発生する音波のピーク周波数とは直線関係を有する。
ここで、「ピーク周波数」は、検出された音波について強度が所定のレベル以上となる周波数を指す。通常、割れの無い対象物のピーク周波数は対象物の共振周波数に略一致する。
【0045】
図6に示す如く、焼結品10の密度と焼結品10に打撃を付与したときに発生する音波のピーク周波数との関係を予め実験により求め、これらの実験結果から検量線11を算出する。
次に、検量線11を含み周波数方向に所定の幅を有する検量線領域12(図6中の二本の点線で挟まれた領域)を設定し、これを記憶部51aに記憶する。
検量線領域12は、割れが無い焼結品10に打撃を付与したときに発生する音波のピーク周波数の周波数−密度平面上における存在領域を示すものである。
【0046】
割れ判定部51dは、密度算出部51cにより算出された焼結品10の密度と、打撃音検出装置4により検出された音波の周波数特性に基づいて、図6に示す周波数−密度平面上に焼結品10の音波のピーク周波数をプロットする。
次に、割れ判定部51dは、当該プロットされた焼結品10の音波のピーク周波数と検量線領域12とを比較し、検量線領域12よりも低周波側に焼結品10から発生する音波のピーク周波数がプロットされた場合には焼結品10は割れを有すると判定し、検量線領域12よりも低周波側に焼結品10から発生する音波のピーク周波数がプロットされない場合には焼結品10は割れを有さないと判定する。当該割れの判定結果は記憶部51aに記憶される。
【0047】
図4に示す如く、焼結品10の周波数特性、すなわち、焼結品10から発生し、打撃音検出装置4により検出される音波の周波数と強度との関係だけを見た場合、焼結品10の密度のバラツキを考慮した割れが無い焼結品10の共振周波数(太い点線)と小さい割れに起因して発生するピーク周波数(太い実線のピークのうち、高周波側のもの)とを分離することが困難である。
しかし、図6に示す如く、焼結品10のピーク周波数を周波数−密度平面上にプロットすると、割れがある場合には当該ピーク周波数が検量線領域12から外れた位置にプロットされるので、焼結品10の割れの有無を容易かつ精度良く判定することが可能である。
【0048】
なお、検量線領域12の周波数方向の幅(特に、検量線領域12の低周波側の境界線12aと検量線11との距離)は対象物の大きさ、形状、材質等に応じて適宜選択することが必要である。
また、一般的には割れが大きくなるほど、焼結品10から発生する音波の中に、より低周波の成分が含まれることとなる。従って、焼結品10から発生する音波のピーク周波数が検量線領域12からどれだけ低周波側にずれているかを見ることにより、割れの大きさを判定することも可能である。
【0049】
さらに、図8に示す如く、同一の焼結品10の温度を変化させて打撃を付与した場合における当該温度とピーク周波数との間には直線関係が成立することから、焼結品10の温度に基づいて予め設定された焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係、すなわち図6に示す検量線領域12を補正することも可能である。
このように焼結品10の温度で検量線領域12を補正することにより、焼結品10の温度にバラツキがある場合でも、焼結品10の割れの有無を精度良く判定することが可能である。
【0050】
入力部52は、作業者等が探傷装置1の動作や焼結品10の判定結果に係るデータ等を制御部51に入力するものである。
入力部52は専用品でも良いが、市販のキーボードやタッチパネル等を用いて達成することも可能である。
【0051】
表示部53は、入力部52により入力されたデータや焼結品10の判定結果等を表示するものである。
表示部53は専用品でも良いが、市販のモニターや液晶ディスプレイ等を用いて達成することも可能である。
【0052】
本実施例の探傷装置1は密度算出部51cおよび割れ判定部51dを一体とする構成としたが、本発明に係る探傷装置はこれに限定されず、密度算出手段と割れ判定手段とが別体でも良い。
また、本実施例の探傷装置1は一種類の焼結品10について探傷を行う構成としたが、本発明に係る探傷装置はこれに限定されず、複数種類の対象物について探傷を行う構成としても良い。
【0053】
以下では、図1乃至図7を用いて本発明に係る探傷方法の実施の一形態について説明する。
本実施例の探傷方法は、探傷装置1を用いて焼結品10の割れの有無を判定する方法である。
【0054】
図7に示す如く、本発明に係る探傷方法の実施の一形態は、密度算出工程S100、打撃付与工程S200、打撃音検出工程S300、割れ判定工程S400を具備する。
【0055】
密度算出工程S100は焼結品10の密度を算出する工程である。
密度算出工程S100は重量測定工程S110、厚さ測定工程S120、算出工程S130を具備する。
【0056】
重量測定工程S110は焼結品10の重量を測定する工程である。
重量測定工程S110において、作業者は市販の重量計等を用いて焼結品10の重量を測定し、入力部52を用いて焼結品10の重量を制御部51に入力する。制御部51に入力された焼結品10の重量は記憶部51aに記憶される。
なお、本発明に係る重量測定工程における対象物の重量を測定する方法は特に限定されない。
【0057】
重量測定工程S110が終了したら厚さ測定工程S120に移行する。
【0058】
厚さ測定工程S120は焼結品10の厚さ(型抜き方向の厚さ)を測定する工程である。
厚さ測定工程S120において、作業者は市販のノギス等を用いて焼結品10の厚さを測定し、入力部52を用いて焼結品10の厚さを制御部51に入力する。制御部51に入力された焼結品10の厚さは記憶部51aに記憶される。
なお、本発明に係る厚さ測定工程における対象物の厚さを測定する方法は特に限定されない。
【0059】
厚さ測定工程S120が終了したら算出工程S130に移行する。
【0060】
算出工程S130は、(a)予め設定され、記憶部51aに記憶された焼結品10の断面積、(b)重量測定工程S110において測定され、記憶部51aに記憶された焼結品10の重量、および(c)厚さ測定工程S120において測定され、記憶部51aに記憶された焼結品10の厚さ、に基づいて焼結品10の密度を算出する工程である。
算出工程S130において、密度算出部51cは焼結品10の断面積と焼結品10の厚さの積から焼結品10の体積を算出し、続いて焼結品10の重量を当該体積で割って焼結品10の密度を算出する。算出された焼結品10の密度は記憶部51aに記憶される。
【0061】
算出工程S130が終了したら密度算出工程S100が終了する。密度算出工程S100が終了したら打撃付与工程S200に移行する。
【0062】
打撃付与工程S200は、焼結品10に打撃を付与する工程である。
打撃付与工程S200において、制御部51の動作制御部51bは打撃付与装置2の駆動ユニット22に信号を送信し、駆動ユニット22は当該信号に基づいてハンマ部材21を突出して焼結品10に衝突させる。
【0063】
打撃付与工程S200が終了したら、打撃音検出工程S300に移行する。
【0064】
打撃音検出工程S300は、打撃付与工程S200において打撃を付与した焼結品10が発する音波を検出する工程である。
打撃音検出工程S300において、打撃音検出装置4の音響センサ41は、打撃が付与されることにより焼結品10が発する音波を検出する。次に、FFTアナライザ42は、音響センサ41が検出した音波に係る信号を取得し、これに基づいて図4の太い実線で示す如き音波の周波数と強度との関係を示すデータに変換する。焼結品10が発する音波の周波数と強度との関係(を示すデータ)は記憶部51aに記憶される。
【0065】
打撃音検出工程S300が終了したら、割れ判定工程S400に移行する。
【0066】
割れ判定工程S400は、(a)密度算出工程S100において算出され、記憶部51aに記憶された焼結品10の密度と、(b)打撃音検出工程S300において検出され、記憶部51aに記憶された音波の周波数特性(音波の周波数と強度との関係)と、(c)予め設定され、記憶部51aに記憶された割れが無い焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係(検量線領域12)と、に基づいて、焼結品10の割れの有無を判定する工程である。
【0067】
割れ判定工程S400において、割れ判定部51dは、(a)密度算出工程S100において算出され、記憶部51aに記憶された焼結品10の密度と、(b)打撃音検出工程S300において検出され、記憶部51aに記憶された音波の周波数特性(音波の周波数と強度との関係)と、に基づいて、図6に示す周波数−密度平面上に焼結品10の音波のピーク周波数をプロットする。
次に、割れ判定部51dは、当該プロットされた焼結品10の音波のピーク周波数と検量線領域12とを比較し、検量線領域12よりも低周波側に焼結品10から発生する音波のピーク周波数がプロットされた場合には焼結品10は割れを有すると判定し、検量線領域12よりも低周波側に焼結品10から発生する音波のピーク周波数がプロットされない場合には焼結品10は割れを有さないと判定する。
【0068】
割れ判定工程S400が終了したら、本実施例の探傷方法は終了する。
【0069】
なお、本実施例では密度算出工程S100→打撃付与工程S200→打撃音検出工程S300→割れ判定工程S400の順に移行する構成としたが、本発明に係る探傷方法はこれに限定されず、打撃付与工程→打撃音検出工程→密度算出工程→割れ判定工程の順に移行する構成としても良い。
【0070】
本発明に係る探傷方法の実施の一形態は、焼結品10の一箇所に一回の打撃を付与する場合だけでなく、一箇所に複数回の打撃を付与する場合や、異なる複数の箇所に一回または複数回の打撃を付与する場合も含まれる。
【0071】
本発明に係る探傷方法の実施の一形態は、焼結品10の一箇所に複数回の打撃を付与し、それぞれの打撃に係る音波のピーク周波数の平均値を当該打撃付与位置のピーク周波数とすることにより、音波のピーク周波数の精度を向上させることが可能である。
【0072】
以上の如く、本発明に係る探傷方法の実施の一形態は、
焼結品10の密度を算出する密度算出工程S100と、
焼結品10に打撃を付与する打撃付与工程S200と、
打撃付与工程S200において打撃が付与された焼結品10が発する音波を検出する打撃音検出工程S300と、
密度算出工程S100において算出された焼結品10の密度と、打撃音検出工程S300において検出された音波の周波数特性(音波の周波数と強度との関係)と、予め設定された焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係(本実施例の場合、検量線領域12)と、に基づいて、焼結品10の割れの有無を判定する割れ判定工程S400と、
を具備するものである。
このように構成することにより、焼結品10の密度にバラツキがある場合でも、焼結品10の割れの有無を容易かつ精度良く判定することが可能である。
【0073】
また、本発明に係る探傷方法の実施の一形態は、
割れ判定工程S400において、
打撃付与工程S200において検出された音波のピーク周波数が、予め設定された焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係から得られる検量線領域12よりも低周波側にある場合に焼結品10に割れが有ると判定するものである。
このように構成することにより、焼結品10の割れが微小な場合でも、焼結品10の割れの有無を精度良く判定することが可能である。
【0074】
また、本発明に係る探傷方法の実施の一形態における密度算出工程S100は、
焼結品10の重量を測定する重量測定工程S110と、
焼結品10の厚さを測定する厚さ測定工程S120と、
予め設定された焼結品10の断面積、重量測定工程S110において測定された焼結品10の重量、および厚さ測定工程S120において測定された焼結品10の厚さに基づいて焼結品10の密度を算出する算出工程S130と、
を具備するものである。
このように構成することにより、簡便な方法で焼結品10の密度を算出することが可能であり、作業性に優れる。より具体的には、作業時間の短縮、労力の軽減に寄与する。
【0075】
また、本発明に係る探傷方法の実施の一形態は、
割れ判定工程S400において、予め設定された焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係(本実施例の場合、検量線領域12)を焼結品10の温度に基づいて補正するものである。
このように構成することにより、焼結品10の温度にバラツキがある場合でも、焼結品10の割れの有無を容易かつ精度良く判定することが可能である。
【0076】
また、本発明に係る探傷装置の実施の一形態である探傷装置1は、
焼結品10の密度を算出する密度算出部51cと、
焼結品10に打撃を付与する打撃付与装置2と、
打撃付与装置2により打撃が付与された焼結品10が発する音波を検出する打撃音検出装置4と、
密度算出部51cにより算出された焼結品10の密度と、打撃音検出装置4により検出された音波の周波数特性(音波の周波数と強度との関係)と、予め設定された焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係(本実施例の場合、検量線領域12)と、に基づいて焼結品10の割れの有無を判定する割れ判定部51dと、
を具備するものである。
このように構成することにより、焼結品10の密度にバラツキがある場合でも、焼結品10の割れの有無を容易かつ精度良く判定することが可能である。
【0077】
また、探傷装置1の割れ判定部51dは、
打撃音検出装置4により検出された音波のピーク周波数が、予め設定された焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係から得られる検量線領域12よりも低周波側にある場合に焼結品1に割れが有ると判定するものである。
このように構成することにより、焼結品10の割れが微小な場合でも、焼結品10の割れの有無を精度良く判定することが可能である。
【0078】
また、探傷装置1の密度算出部51cは、
予め設定された焼結品10の断面積、測定された焼結品10の重量、測定された焼結品10の厚さに基づいて焼結品10の密度を算出するものである。
このように構成することにより、簡便な方法で焼結品10の密度を算出することが可能であり、作業性に優れる。より具体的には、作業時間の短縮、労力の軽減に寄与する。
【0079】
また、探傷装置1の割れ判定部51dは、
予め設定された焼結品10の密度と音波の周波数特性との関係(本実施例の場合、検量線領域12)を焼結品10の温度に基づいて補正するものである。
このように構成することにより、焼結品10の温度にバラツキがある場合でも、焼結品10の割れの有無を容易かつ精度良く判定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る探傷装置の実施の一形態の全体構成を示す図。
【図2】本発明に係る探傷装置の実施の一形態のブロック図。
【図3】焼結品を示す図。
【図4】焼結品の打撃音の周波数と強度との関係を示す図。
【図5】焼結品の打撃音の周波数と密度との関係を示す図。
【図6】焼結品の割れの有無、焼結品の打撃音の周波数および密度の関係を示す図。
【図7】本発明に係る探傷方法の実施の一形態を示すフロー図。
【図8】焼結品の打撃音の周波数と温度との関係を示す図。
【符号の説明】
【0081】
1 探傷装置
2 打撃付与装置(打撃付与手段)
4 打撃音検出装置(打撃音検出手段)
10 焼結品(対象物)
51c 密度算出部(密度算出手段)
51d 割れ判定部(割れ判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の密度を算出する密度算出工程と、
前記対象物に打撃を付与する打撃付与工程と、
前記撃付与工程において打撃が付与された対象物が発する音波を検出する打撃音検出工程と、
前記密度算出工程において算出された対象物の密度と、前記打撃音検出工程において検出された音波の周波数特性と、予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係と、に基づいて対象物の割れの有無を判定する割れ判定工程と、
を具備することを特徴とする探傷方法。
【請求項2】
前記割れ判定工程において、
前記打撃音検出工程において検出された音波のピーク周波数が、予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係から得られる検量線領域よりも低周波側にある場合に前記対象物に割れが有ると判定することを特徴とする請求項1に記載の探傷方法。
【請求項3】
前記密度算出工程は、
前記対象物の重量を測定する重量測定工程と、
前記対象物の厚さを測定する厚さ測定工程と、
予め設定された前記対象物の断面積、前記重量測定工程において測定された対象物の重量、および前記厚さ測定工程において測定された対象物の厚さに基づいて対象物の密度を算出する算出工程と、
を具備することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の探傷方法。
【請求項4】
前記割れ判定工程において、
予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係を前記対象物の温度に基づいて補正することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の探傷方法。
【請求項5】
対象物の密度を算出する密度算出手段と、
前記対象物に打撃を付与する打撃付与手段と、
前記打撃付与手段により打撃が付与された対象物が発する音波を検出する打撃音検出手段と、
前記密度算出手段により算出された対象物の密度と、前記打撃音検出手段により検出された音波の周波数特性と、予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係と、に基づいて対象物の割れの有無を判定する割れ判定手段と、
を具備することを特徴とする探傷装置。
【請求項6】
前記割れ判定手段は、
前記打撃音検出手段により検出された音波のピーク周波数が、予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係から得られる検量線領域よりも低周波側にある場合に前記対象物に割れが有ると判定することを特徴とする請求項5に記載の探傷装置。
【請求項7】
前記密度算出手段は、
予め設定された前記対象物の断面積、測定された前記対象物の重量、測定された前記対象物の厚さに基づいて対象物の密度を算出することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の探傷装置。
【請求項8】
前記割れ判定手段は、
予め設定された対象物の密度と音波の周波数特性との関係を前記対象物の温度に基づいて補正することを特徴とする請求項5から請求項7までのいずれか一項に記載の探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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