説明

接合剤

【課題】固体酸化物形燃料電池のセルの空気極とインターコネクタとを接合する接合剤であって、焼成温度を比較的低温に設定しても十分に電気抵抗が小さく且つ接合強度が十分に大きいものを提供すること。
【解決手段】スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(MnCo)を構成する各金属元素(Mn,Co)の粉末が出発原料とされる。この粉末の混合物を含むペーストを、空気極とインターコネクタとの間に介在させた状態で焼成することによって、本発明に係る接合剤が得られる。この接合剤は、「共連続構造」を有していて、「共連続構造」において多数の基部同士を互いに連結する腕部の太さが0.3〜2.5μmである。スピネル系材料(MnCo)の粉末を出発原料として形成された接合剤に比して、電気抵抗が小さく、且つ、接合強度が大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの導電性接続部材を接合する接合剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)のセル(単電池)は、固体電解質と、固体電解質と一体的に配置された燃料極と、固体電解質と一体的に配置された空気極とを備えている。このSOFCのセルに対して、燃料極に燃料ガス(水素ガス等)を供給するとともに空気極に酸素を含むガス(空気等)を供給することにより、下記(1)、(2)式に示す化学反応が発生する。これにより、燃料極と空気極との間に電位差が発生する。この電位差は、固体電解質の酸素伝導度に基づく。
(1/2)・O+2e−→O2− (於:空気極) …(1)
+O2−→HO+2e− (於:燃料極) …(2)
【0003】
SOFCでは、通常、燃料極と空気極のそれぞれに集電用の導電性接続部材(以下、インターコネクタと呼ぶ。)が接合剤により接合・固定され、それぞれのインターコネクタを介して前記電位差に基づく電力が外部に取り出される。以下、特に、空気極とインターコネクタとの接合に着目する。
【0004】
従来、空気極とインターコネクタとを接合して空気極とインターコネクタとを電気的に接続する接合剤として、高価なPt材料が用いられてきた。コスト低減のため、Pt材料の代替材料として、メタル系では銀系材料、セラミック系では導電性セラミック材料が考えられる。例えば、特許文献1では、空気極とインターコネクタとを強固に接合する導電性セラミック材料として、La−Sr−Co−Fe系ペロブスカイト型複合酸化物が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−339904号公報
【発明の概要】
【0006】
ところで、本発明者は、空気極とインターコネクタとを接合して空気極とインターコネクタとを電気的に接続する導電性セラミック材料として、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(例えば、MnCo、CuMn)に注目している。導電性のスピネル型酸化物は、上述したペロブスカイト型酸化物に比して導電性は若干劣るものの、焼結性に優れる特徴を有する。
【0007】
係るスピネル系材料が接合剤として用いられる場合、空気極の接合部とインターコネクタの接合部との間にその接合剤の前駆体であるペーストが介在した状態でペーストが焼成される。これにより、焼結体である接合剤によって空気極とインターコネクタとが接合され且つ電気的に接続される。ここで、空気極側のインターコネクタの材料として、通常、フェライト系SUS材料等が使用される。フェライト系SUS材料は、一般に、予備酸化処理によって表面に一様なクロミア(Cr)の膜が形成された状態で使用される。
【0008】
クロミア(Cr)は、温度が高いほどより形成され易い。従って、その後の組立処理において、過度に高温の熱処理(ガラス等からなる接合剤に与える熱処理等)が行われると、インターコネクタにおける接合剤との界面にクロミア(Cr)が過度に形成され得る。クロミア(Cr)の電気抵抗は比較的大きい。故に、前記界面にクロミア(Cr)が過度に形成されると、SOFC全体としての電気抵抗が増大し、SOFC全体としての出力が低下し易くなる。以上より、接合剤の前駆体であるペーストの焼成時にてインターコネクタにおける接合剤との界面にクロミア(Cr)が過度に形成されることを抑制するためには、このペーストの焼成が比較的低い温度でなされる必要がある。
【0009】
このように比較的低い温度で接合剤の前駆体であるペーストの焼成がなされる場合において、焼結体である接合剤として、以下の2つが要求される。
1.十分に緻密化されて高い導電率が得られること(電気抵抗が小さいこと)。
2.高い接合強度が得られること。
【0010】
本発明者は、スピネル系材料を有する接合剤であって、前駆体であるペーストの焼成が比較的低い温度でなされても上記2つの要求が十分に達成され得るものを見出した。
【0011】
即ち、本発明に係る接合剤は、第1導電性接続部材と、前記第1導電性接続部材とは別体の第2導電性接続部材と、を接合するとともに、前記第1、第2導電性接続部材を電気的に接続する接合剤であり、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物を含んで構成される。前記第1導電性接続部材としては、「固体電解質、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料極、及び前記固体電解質と一体的に配置されるとともに酸素を含むガスと接触して前記酸素を含むガスを反応させる空気極を備えた固体酸化物形燃料電池のセル」における前記空気極や、前記セルの前記燃料極に固定され且つ前記燃料極と電気的に接続された化学式La1−xCr1−y+z(ただし、A:Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素、B:Co,Ni,Alから選択される少なくとも1種類の元素、xの範囲:0.05〜0.2、yの範囲:0.02〜0.22、zの範囲:0.02〜0.05)で表わされるランタンクロマナイトからなる導電部、前記セルの前記燃料極に固定され且つ前記燃料極と電気的に接続された化学式(A1−x,B1−z(Ti1−y,D)O(ただし、A:アルカリ土類元素から選択される少なくとも1種類の元素、B:Sc,Y,及びランタノイド元素から選択される少なくとも1種類の元素、D:第4周期、第5周期、第6周期の遷移金属、及びAl,Si,Zn,Ga,Ge,Sn,Sb,Pb,Biから選択される少なくとも1種類の元素、xの範囲:0〜0.5、yの範囲:0〜0.5、zの範囲:−0.05〜0.05)で表わされるチタン酸化物からなる導電部などが挙げられる。
【0012】
本発明に係る接合剤の特徴は、共連続構造を有することにある。ここで、「共連続構造」とは、セラミック粒子が集合して隣り合う粒子の接点同士が焼結により点接触的に繋がった構造ではなく、2以上の(太い)腕部が延びる基部が3次元的(立体的)に多数配置され、異なる前記基部から延びる前記腕部同士が3次元的(立体的)に互いに接続し合うことで多数の前記基部が前記腕部を介して3次元的(立体的)に(ネットワーク状に)互いに連結された構造を指す。共連続構造内において基部及び腕部を除いた領域には3次元的(立体的)に(ネットワーク状に)連続する空隙(気孔)が形成されている。共連続構造は、三次元網目構造と言い換えることもできる。
【0013】
前記共連続構造において、多数の基部同士を互いに連結する腕部の太さは、0.3〜2.5μmであることが好ましい。また、前記遷移金属酸化物は、MnCo、及びCuMnのうちの1つを含むことが好ましい。
【0014】
このようなスピネル系材料からなる共連続構造を有する接合剤は、前記遷移金属酸化物を構成する各金属元素の粉末の混合物を含むペーストを前記第1、第2導電性接続部材の間に介在させた状態で焼成することで形成され得る。このように、出発原料としての前記各金属元素の粉末を焼成時に酸化させることでスピネル系材料からなる接合剤が形成される場合、焼成温度を比較的低温(例えば、700〜900℃)に設定しても、十分に緻密化されて十分に高い導電率を有し(電気抵抗が小さく)、且つ、接合強度が十分に大きい接合剤が得られる。
【0015】
上記本発明に係る接合剤においては、前記遷移金属酸化物に加えて貴金属が含まれていてもよい。貴金属としては、例えば、Pt,Agが挙げられる。接合剤に貴金属を含ませることにより、接合剤そのものの電気抵抗を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る接合剤によりSOFCのセルの空気極とインターコネクタとが接合された構成を示した模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る接合剤を走査電子顕微鏡で5000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図3】本発明の実施形態に係る接合剤を走査電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図4】比較例に係る接合剤を走査電子顕微鏡で5000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図5】比較例に係る接合剤を走査電子顕微鏡で10000倍に拡大して観察した様子を示した図である。
【図6】接合強度評価用のサンプルの構成を示した模式図である。
【図7】図6に示したサンプルを引張試験に供する際の構成を示した模式図である。
【図8】燃料極に固定されたLCを含んで構成される導電部とインターコネクタとが接合剤により接合された様子を示した模式図である。
【図9】燃料極に固定されたSrTiOを含んで構成される導電部とインターコネクタとが接合剤により接合された様子を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る接合剤によりSOFCのセルの空気極とインターコネクタとが接合された構成(接合体)の一例を示す。図1に示す接合体では、SOFCのセル100は、燃料極110と、燃料極110の上に積層された電解質120と、電解質120の上に積層された反応防止層130と、反応防止層130の上に積層された空気極140と、からなる積層体である。このセル100を上方からみた形状は、例えば、1辺が1〜30cmの正方形、長辺が5〜30cmで短辺が3〜15cmの長方形、又は直径が1〜30cmの円形である。セル100の厚さは0.1〜3mmである。
【0018】
燃料極110(アノード電極)は、例えば、酸化ニッケルNiOとイットリア安定化ジルコニアYSZとから構成される多孔質の薄板状の焼成体である。燃料極110の厚さT1は0.1〜3mmである。セル100の各構成部材の厚さのうち燃料極110の厚さが最も大きく、燃料極110は、セル100の支持基板として機能している。
【0019】
電解質120は、YSZから構成される緻密な薄板状の焼成体である。電解質120の厚さT2は3〜30μmである。
【0020】
反応防止層130は、セリアからなる緻密な薄板状の焼成体である。セリアとしては、具体的には、GDC(ガドリニウムドープセリア)、SDC(サマリウムドープセリア)等が挙げられる。反応防止層130の厚さT3は3〜20μmである。なお、反応防止層130は、セル作製時、又はSOFCの作動中のセル100内において、電解質120内のYSZと空気極140内のストロンチウムとが反応して電解質120と空気極140との間の電気抵抗が増大する現象の発生を抑制するために、電解質120と空気極140との間に介装されている。
【0021】
空気極140(カソード電極)は、ベース層141と、最外層142との2層からなる。ベース層141は、ランタンストロンチウムコバルトフェライトLSCF(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8)からなる多孔質の薄板状の焼成体である。最外層142は、マンガンを含むペロブスカイト構造を有する多孔質の薄板状の焼成体である。最外層142は、例えば、ランタンストロンチウムマンガナイトLSM(La0.8Sr0.2MnO)、ランタンマンガナイトLM(LaMnO)等から構成される。空気極140において、ベース層141の厚さT41は5〜50μmであり、最外層142の厚さT42は5〜50μmである。
【0022】
なお、空気極140が2層となっているのは、LSMよりもLSCFの方が活性が高くて上記(1)式に示す化学反応の反応速度が速いという事実、並びに、LSCFよりもLSMの方がスピネル系材料を有する接合剤との接合強度が大きいという事実に基づく。即ち、空気極140内での上記(1)式に示す化学反応の反応速度を大きくし、且つ、空気極と接合剤との接合強度を大きくするために、空気極140が2層とされている。
【0023】
なお、上記の例ではベース層141がLSCF層の1層から構成されているが、ベース層141が複数の層から構成されてもよい。例えば、ベース層141が、反応防止層130の上に積層されたLSCF層(空気極)と、そのLSCF層の上に積層された(即ち、LSCF層と最外層(LSM層)142との間に介装された)ランタンストロンチウムコバルトLSC(La0.8Sr0.2CoO)層(集電層)との2層から構成されてもよい。更に、LSC層と最外層(LSM層)142との間にLSCF層(熱応力緩衝層)が介装されてもよい(即ち、ベース層141が3層から構成されてもよい)。また、空気極の材料として、LSCFに代えて、LSC、ランタンストロンチウムフェライトLSF(La0.8Sr0.2FeO)、ランタンニッケルフェライトLNF(LaNi0.6Fe0.4)等が使用されてもよい。
【0024】
インターコネクタ200は、フェライト系SUS材料からなる導電性接続部材である。複数の同形のインターコネクタ200のそれぞれの接合部とセル100の空気極140の最外層142(即ち、LSM層等)の接合部とが、接合剤300により接合され且つ電気的に接続されている。
【0025】
接合剤300は、スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物から構成される焼成体であり、例えば、MnCo、CuMn等から構成される。接合剤300の層の厚さTAは20〜500μmである。接合剤300に、Pt,Ag等の貴金属が含まれていてもよい。接合剤300に貴金属を含ませることにより、接合剤そのものの電気抵抗を小さくすることができる。
【0026】
(製造方法)
次に、図1に示した接合体の製造方法の一例について説明する。先ず、セル100の製造方法の一例について説明する。
【0027】
燃料極層110は、以下のように製造された。即ち、NiO粉末60重量部とYSZ粉末40重量部が混合され、この混合物にバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)が添加されてスラリーが作製された。このスラリーがスプレードライヤーで乾燥・造粒され、燃料極用の粉末が得られた。この粉末が金型プレス成形法により成形され、その後、電気炉で空気中にて1400℃で3時間焼成されて、燃料極110が製造された。
【0028】
電解質120は、以下のように燃料極110の上に形成された。即ち、YSZ粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、燃料極110上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1400℃で2時間共焼結されて、燃料極110上に電解質120が形成された。なお、燃料極110の上に後に電解質120となる膜を形成するに際し、テープ積層法、印刷法等が用いられてもよい。
【0029】
反応防止層130は、以下のように電解質120の上に形成された。即ち、GDC粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、電解質120上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1350℃で1時間焼成されて、電解質120上に反応防止層130が形成された。なお、電解質120の上に後に反応防止層130となる膜を形成するに際し、テープ積層法、印刷法等が用いられてもよい。また、反応防止層130が共焼結により形成されてもよい。
【0030】
空気極140のベース層141は、以下のように反応防止層130の上に形成された。即ち、LSCF粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、反応防止層130上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1000℃で1時間焼成されて、反応防止層130上に空気極140が形成された。
【0031】
最外層142は、以下のようにベース層141の上に形成された。即ち、LSM粉末に水とバインダーが加えられ、この混合物がボールミルで24時間混合されてスラリーが作製された。このスラリーが、ベース層141上に塗布・乾燥され、電気炉で空気中にて1000℃で1時間焼結されて、ベース層141上に最外層142が形成された。以上、セル100の製造方法の一例について説明した。
【0032】
インターコネクタ200は、フェライト系SUS材料を機械加工等により所定の形状に加工することにより作製された。同形のインターコネクタ200が複数準備された。
【0033】
接合剤300による最外層142とインターコネクタ200との接合は以下のように達成された。スピネル系材料がMnCoである場合を例にとって説明する。先ず、出発原料としてのマンガンMnの金属粉末とコバルトCoの金属粉末とが1:2のモル比率で秤量され混合された。金属粉末の粒径は0.5〜5μmであり、平均粒径は2μmであった。Pt,Ag等の貴金属の粉末が加えられてもよい。この混合物に、必要に応じてバインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールが加えられ、この混合物が乳鉢で混合されて接合用のペーストが作製された。セル100の空気極140の最外層142(即ち、LSM層)の表面とインターコネクタ200の接合部とにこの接合用ペーストが塗布され、最外層142とインターコネクタ200とが貼り合わされた。その後、このペーストが100℃で1時間乾燥された後、空気中にて比較的低い850℃で1時間焼成されることで、焼結体である接合剤300が形成された。
【0034】
即ち、出発原料としてスピネル系材料を構成する各金属元素の粉末が使用され、この粉末が焼成時に酸化させられることで、スピネル系材料を有する接合剤300が形成された。ペーストの焼成温度が比較的低くてもペーストが十分に焼き締まるのは、各金属元素の粉末の酸化反応(=発熱反応)に起因して発生する熱により粉末表面の温度が局所的に上昇してスピネル型結晶(複合酸化物の結晶)が合成・成長していくことに基づくと考えられる。この接合剤300により、最外層142とインターコネクタ200とが接合され且つ電気的に接続された。以上、図1に示したSOFCのセルの空気極とインターコネクタとの接合体の製造方法の一例について説明した。
【0035】
なお、特開2009−16351では、マンガンスピネル化合物からなる空気極を、マンガンスピネル化合物からなる接着剤によって金属インターコネクタと接合することが記載されている(特に、段落0029を参照)。しかしながら、具体的な実施例が一切記載されていない。一般に、マンガンスピネル化合物は、酸化マンガン粉末と酸化コバルト粉末などをスピネル比率で混合し、その混合物を焼結することで製造される。即ち、本実施形態に係る接合剤300の製造方法は、通常のマンガンスピネル化合物の製造方法とは全く異なる。
【0036】
(接合剤の特徴)
次に、上記実施形態に係る接合剤300、即ち、スピネル系材料(MnCo)を構成する各金属元素の粉末(出発原料)が焼成時に酸化させられて形成された接合剤の特徴について図2、図3を参照しながら説明する。図2、図3はそれぞれ、接合剤300の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で5000倍、10000倍に拡大して観察した様子(SEM画像)を示す。
【0037】
図2、図3から理解できるように、この接合剤300は、「共連続構造」を有しているといえる。そして、「共連続構造」において、多数の「基部」(2以上の腕部が延びる部分)を3次元的(立体的)に互いに連結する「腕部」の太さは、0.3〜2.5μmであった。ここで、「腕部の太さ」は、本例では、以下のように算出された。即ち、先ず、SEM画像より、共連続構造を呈する部位が10箇所任意に抽出された。抽出された部位の画像から測長された腕部の太さのデータが各部位につき3点収集された。得られた計30点のデータに基づき「腕部の太さ」が算出された。なお、「共連続構造」が形成されるのは、上述した「ペースト焼成中における酸化反応に起因する熱によるスピネル型結晶の成長作用」に関係があるものと考えられる。
【0038】
このように、上記実施形態では、出発原料として金属を使用するとともに熱処理時の反応熱を利用して上記特徴を有する接合剤が合成されている。これに代えて、出発原料として有機金属が使用されてもよい。例えば、マンガンを含む有機金属としては、ジ−i−プロポキシマンガン(II)(化学式:Mn(O-i-C))が、コバルトを含む有機金属としては、ジ−i−プロポキシコバルト(II)(化学式:Co(O-i-C))が、銅を含む有機金属としては、ビス(ジビバロイルメタナト)銅(化学式:Cu(C1118))が使用され得る。
【0039】
(作用・効果)
次に、上記実施形態に係る接合剤300の作用・効果について説明する。接合剤300の作用・効果を説明するため、比較例として、予め合成されたスピネル系材料の粉末を出発原料として形成された接合剤を導入する。比較例に係る接合剤は、以下のように形成された。
【0040】
先ず、所定の手順にて合成されたスピネル系材料(MnCo)がポットミルで粉砕され、スピネル系材料(複合酸化物)の粉末が得られた。この粉末の粒径は0.2〜2μmであり、平均粒径は0.5μmであった。この粉末に、必要に応じてバインダーとしてエチルセルロース、溶剤としてテルピネオールが添加されて接合用のペーストが作製される。そして、このペーストを用いて最外層142とインターコネクタ200とが貼り合わされ、このペーストが100℃で1時間乾燥される。その後、空気中にて高温の1000℃で1時間焼成されることで、焼結体である比較例に係る接合剤が形成された。
【0041】
なお、比較例の場合、上記実施形態のようにペーストの焼成温度を低くするとペーストが十分に焼き締まらない。これは、比較例の場合、既に酸化された酸化物のペーストが使用されているので、上記実施形態と異なり、ペーストの焼成中にて酸化反応に起因する熱によるスピネル型結晶の成長作用が望めないことに基づく。
【0042】
図4、図5はそれぞれ、比較例に係る接合剤の表面を走査電子顕微鏡(SEM)で5000倍、10000倍に拡大して観察した様子を示す。図4、図5から理解できるように、この比較例に係る接合剤では、「共連続構造」は見られず、これに代えて、出発原料の粉末が単純に集合・焼結した構造が見られた。
【0043】
<接合強度の評価>
本発明者は、比較例に係る接合体に対して本実施形態に係る接合体が、最外層142と接合剤との間での接合強度が大きいことを見出した。以下、このことを確認した試験Aについて説明する。
【0044】
(試験A)
試験Aでは、本実施形態に係る接合体及び比較例に係る接合体のそれぞれに対して、接合剤の材質、接合剤の出発原料である粉末の平均粒径、及び接合剤形成時の焼成温度(熱処理温度)の組み合わせが異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表1に示すように、18種類の水準(組み合わせ)が準備された。そして、各水準に対して5つのサンプルが作製された。表1において、出発原料がスピネル系材料を構成する各金属元素の粉末(金属粉末)であるもの(水準1〜8,12〜15)が本実施形態に対応し、出発原料が予め合成されたスピネル系材料の粉末(セラミック粉末)であるもの(水準9〜11,16〜18)が比較例に対応する。
【0045】
【表1】

【0046】
図6に示すように、これらのサンプルでは、インターコネクタ200及び接合剤が共に、上方からみた形状がセル100を上方からみた形状と同じ板状とされた。即ち、上方からみた形状が同じ空気極140(具体的には最外層142)とインターコネクタ200とが接合面の全域に亘って接合剤により接合されている。
【0047】
これらのサンプルにおいて、燃料極110(NiO−YSZ)の厚さT1は500μm、電解質120(3YSZ)の厚さT2は5μm、反応防止層130(GDC)の厚さT3は5μm、空気極140のベース層141(LSCF)の厚さT41は30μm、最外層142(LSM)の厚さT42は20μm、接合剤300の厚さTAは200μm、インターコネクタ200の厚さTBは450μmで一定とされた。また、これらのサンプルを上方からみた形状は、直径が30cmの円形とされた。
【0048】
図7に示すように、各サンプルの上下面に対して、引張試験用の治具がエポキシ樹脂によりそれぞれ貼り付けられた。エポキシ樹脂としては、接着力が大きいスリーボンド社の熱硬化型エポキシ系接着剤(商品名:TB2222P)が用いられた。このように接着力が大きいエポキシ樹脂が用いられたのは、接合剤300による接合部位の接合強度よりも高い接合強度を得るためである。エポキシ樹脂を硬化するための条件(接着条件)は、100℃で60分とされた。
【0049】
上下の治具を上下方向に引き離す力が加えられることで、各サンプルに対して上下方向に引っ張り力が加えられた。そして、接合剤による接合部位が破壊する際の引っ張り力の大きさ(以下、「引張強度」と呼ぶ。)が計測された。ここで、各サンプルにおいて、破壊される接合部位(最弱部位)は、本実施形態(水準1〜8,12〜15)では、最外層142と接合剤との間の接合部位(界面)であり、比較例(水準9〜11,16〜18)では、接合剤内部であった。この結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2から理解できるように、本実施形態に係る接合剤300の方が比較例に係る接合剤よりも引張強度が大きい傾向がある。即ち、本実施形態に係る接合剤300の方が比較例に係る接合剤よりも、最外層142と接合剤との間での接合強度が大きいということができる。
【0052】
<電気抵抗の評価>
本発明者は、比較例に係る接合体に対して本実施形態に係る接合体が、電気抵抗が小さい(導電率が高い)ことを見出した。以下、このことを確認した試験Bについて説明する。
【0053】
(試験B)
試験Bでも、本実施形態に係る接合体及び比較例に係る接合体のそれぞれに対して、試験Aと同様の組み合わせを有する図1に対応する複数のサンプルがそれぞれ作製された。具体的には、試験Aと同様、上述の表1に示す18種類の水準(組み合わせ)が準備された。そして、各水準に対して3つのサンプルが作製された。試験Aと同様、出発原料がスピネル系材料を構成する各金属元素の粉末(金属粉末)であるもの(水準1〜8,12〜15)が本実施形態に対応し、出発原料が予め合成されたスピネル系材料の粉末(セラミック粉末)であるもの(水準9〜11,16〜18)が比較例に対応する。これらのサンプルにおいて、インターコネクタ及び接合剤を除く部分の形状・寸法は、試験Aにおけるサンプルと同じである。
【0054】
また、この試験Bでは、各サンプルについて、燃料極110の表面に燃料極側のインターコネクタ(Ni製)が接合された。この接合は、Niからなる接合用のペーストを焼成することで達成された。
【0055】
各サンプルに対して、燃料極110側に窒素ガス、空気極140側に空気を供給しながら、800℃まで昇温し、800℃に達した時点で燃料極110に水素ガスを供給しながら還元処理が3時間行われた。この還元処理後、空気極140側のインターコネクタ200と燃料極110側のインターコネクタと介して外部に取り出される出力(出力密度)が計測された。出力密度として、温度が800℃で定格電圧0.8Vでの値が使用された。出力密度が大きいことは電気抵抗が小さいことを意味する。この結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表3から理解できるように、本実施形態に係る接合体の方が比較例に係る接合体よりも出力密度が大きい傾向がある。即ち、実施形態に係る接合剤300の方が比較例に係る接合剤よりも、電気抵抗が小さいということができる。
【0058】
以上、スピネル系材料(MnCo)を構成する各金属元素(Mn,Co)の粉末を出発原料として形成された本実施形態に係る接合剤では、予め合成されたスピネル系材料(MnCo)の粉末を出発原料として形成された比較例に係る接合剤に比して、導電率が大きく(電気抵抗が小さく)、且つ、接合強度が大きい。即ち、本実施形態に係る接合剤300によれば、焼成温度を比較的低温(例えば、700〜900℃)に設定しても、ペーストが十分に焼き締まることにより、電気抵抗が十分に小さく、且つ、接合強度が十分に大きい接合剤が得られる。
【0059】
以上、空気極140(前記「第1導電性接続部材」に対応)とインターコネクタ200(前記「第2導電性接続部材」に対応)とが「スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(MnCo、CuMn等)」を含んだ接合剤により接合される場合において、接合剤がスピネル系材料(MnCo)を構成する各金属元素(Mn,Co)の粉末を出発原料として形成された本実施形態では、接合剤が予め合成されたスピネル系材料(MnCo)の粉末を出発原料として形成された比較例に比して、導電率が大きく(電気抵抗が小さく)、且つ、接合強度が大きいことを説明した。
【0060】
同様に、図8に示すように、燃料極110に固定され且つ燃料極110と電気的に接続されたランタンクロマナイトLCを含んで構成される導電部150(前記「第1導電性接続部材」に対応)とインターコネクタ200(前記「第2導電性接続部材」に対応)とが「スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(MnCo、CuMn等)」を含んだ接合剤により接合される場合についても、接合剤がスピネル系材料(MnCo)を構成する各金属元素(Mn,Co)の粉末を出発原料として形成される場合、接合剤が予め合成されたスピネル系材料(MnCo)の粉末を出発原料として形成される場合に比して、導電率が大きく(電気抵抗が小さく)、且つ、接合強度が大きいことの結果が得られることが判明している。
【0061】
ランタンクロマナイトLCの化学式は、下記(3)式にて表される。下記(3)式において、Aは、Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素である。Bは、Co,Ni,V,Mg,Alから選択される少なくとも1種類の元素である。xの範囲は、0〜0.4であり、更に好ましくは、0.05〜0.2である。yの範囲は、0〜0.3であり、更に好ましくは、0.02〜0.22である。zの範囲は、0〜0.1であり、更に好ましくは、0.02〜0.05である。δは0を含む微小値である。
【0062】
La1−xCr1−y+z3−δ …(3)
【0063】
ここで、図8では、導電部150が、LCからなるベース層151とLSMからなる最外層152との2層となっている。このように、最外層(LSM層)が設けられているのは、最外層(LSM層)が設けられない場合に比して、導電部150と接合剤300との接合強度が大きくなるという事実に基づく。
【0064】
また、図9に示すように、導電部150において、LCからなるベース層151に代えて、チタン酸化物からなるベース層151が採用されてもよい。
【0065】
チタン酸化物の化学式は、下記(4)式にて表される。下記(4)式において、Aは、アルカリ土類元素から選択される少なくとも1種類の元素である。Bは、Sc,Y,及びランタノイド元素から選択される少なくとも1種類の元素である。Dは、第4周期、第5周期、第6周期の遷移金属、及びAl,Si,Zn,Ga,Ge,Sn,Sb,Pb,Biから選択される少なくとも1種類の元素である、xの範囲は、0〜0.5であり、yの範囲は、0〜0.5であり、zの範囲は、−0.05〜0.05である。δは0を含む微小値である。チタン酸化物としては、例えば、AとしてストロンチウムSrが使用された「ストロンチウムチタネートSrTiO」が採用され得る。
【0066】
(A1−x,B1−z(Ti1−y,D)O3−δ …(4)
【0067】
なお、図8、図9に示すように、燃料極側の端子電極としてLCやチタン酸化物(特に、ストロンチウムチタネートSrTiO)が用いられるのは、端子電極の一端(内側)が還元雰囲気に曝され且つ他端(外側)が酸化雰囲気に曝されることに基づく。酸化・還元の両雰囲気で安定な導電性セラミックスとしては、現状では、LCとSrTiOとが優れている。
【0068】
以上より、一般に、第1導電性接続部材と第2導電性接続部材とが「スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物(MnCo、CuMn等)」を含んだ接合剤により接合される場合においては、接合剤がスピネル系材料(MnCo)を構成する各金属元素(Mn,Co)の粉末を出発原料として形成される場合、接合剤が予め合成されたスピネル系材料(MnCo)の粉末を出発原料として形成される場合に比して、導電率が大きく(電気抵抗が小さく)、且つ、接合強度が大きい、ということができる。
【符号の説明】
【0069】
100…セル、110…燃料極、120…電解質、130…反応防止層、140…空気極、141…ベース層、142…最外層、150…導電部、151…ベース層、152…最外層、200…インターコネクタ、300…接合剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電性接続部材と、前記第1導電性接続部材とは別体の第2導電性接続部材と、を接合するとともに、前記第1、第2導電性接続部材を電気的に接続する接合剤であって、
スピネル型結晶構造を有する遷移金属酸化物を含んで構成され、且つ、共連続構造を有する接合剤。
【請求項2】
請求項1に記載の接合剤において、
前記共連続構造において多数の基部同士を互いに連結する腕部の太さが0.3〜2.5μmである接合剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の接合剤において、
前記遷移金属酸化物は、MnCo、及びCuMnのうちの1つを含む接合剤。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の接合剤において、
前記遷移金属酸化物を構成する各金属元素の粉末の混合物を含むペーストを前記第1、第2導電性接続部材の間に介在させた状態で焼成することによって形成された接合剤。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の接合剤において、
前記遷移金属酸化物に加えて貴金属を含む接合剤。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の接合剤において、
前記第1導電性接続部材が、
固体電解質、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料極、及び前記固体電解質と一体的に配置されるとともに酸素を含むガスと接触して前記酸素を含むガスを反応させる空気極を備えた固体酸化物形燃料電池のセルにおける前記空気極である、接合剤。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の接合剤において、
前記第1導電性接続部材が、
固体電解質、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料極、及び前記固体電解質と一体的に配置されるとともに酸素を含むガスと接触して前記酸素を含むガスを反応させる空気極を備えた固体酸化物形燃料電池のセルにおける前記燃料極に固定され且つ前記燃料極と電気的に接続された化学式La1−xCr1−y+z(ただし、A:Ca,Sr,Baから選択される少なくとも1種類の元素、B:Co,Ni,Alから選択される少なくとも1種類の元素、xの範囲:0.05〜0.2、yの範囲:0.02〜0.22、zの範囲:0.02〜0.05)で表わされるランタンクロマナイトを含んで構成される導電部である、接合剤。
【請求項8】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の接合剤において、
前記第1導電性接続部材が、
固体電解質、前記固体電解質と一体的に配置されるとともに燃料ガスと接触して前記燃料ガスを反応させる燃料極、及び前記固体電解質と一体的に配置されるとともに酸素を含むガスと接触して前記酸素を含むガスを反応させる空気極を備えた固体酸化物形燃料電池のセルにおける前記燃料極に固定され且つ前記燃料極と電気的に接続された化学式(A1−x,B1−z(Ti1−y,D)O(ただし、A:アルカリ土類元素から選択される少なくとも1種類の元素、B:Sc,Y,及びランタノイド元素から選択される少なくとも1種類の元素、D:第4周期、第5周期、第6周期の遷移金属、及びAl,Si,Zn,Ga,Ge,Sn,Sb,Pb,Biから選択される少なくとも1種類の元素、xの範囲:0〜0.5、yの範囲:0〜0.5、zの範囲:−0.05〜0.05)で表わされるチタン酸化物を含んで構成される導電部である、接合剤。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−105582(P2011−105582A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110703(P2010−110703)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】