接合部破壊判定方法
【課題】2つの被接合材が接合材で接合されている構造について、接合部の破壊を精度良く判定可能な方法を提供する。
【解決手段】2つの被接合材を樹脂により接合した構造体について、有限要素モデルを作成し、引張変形またはせん断変形し破壊に至るまでの破壊プロセスにおいて、接合材の応力−ひずみ曲線9をひずみで積分した面積値10を予め試験により求めた接合部の破壊エネルギーに関連付けた破壊プロセス11,12を導入し破壊条件を入力して有限要素解析を実施する。
【解決手段】2つの被接合材を樹脂により接合した構造体について、有限要素モデルを作成し、引張変形またはせん断変形し破壊に至るまでの破壊プロセスにおいて、接合材の応力−ひずみ曲線9をひずみで積分した面積値10を予め試験により求めた接合部の破壊エネルギーに関連付けた破壊プロセス11,12を導入し破壊条件を入力して有限要素解析を実施する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接合部破壊判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空宇宙やスポーツ分野などの限られた分野で適用されていた繊維強化複合材料の産業用途への適用が拡大している。特に、従来、金属が主として用いられてきた自動車などの産業分野ではエネルギー効率を高めるため、構造の軽量化が重要視され、金属材料に代わって、軽量でかつ比強度・比剛性に優れた繊維強化複合材料に置換する動きが増加している。特に繊維強化複合材料として、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維を熱硬化性あるいは熱可塑性の樹脂などをマトリックス材料とした繊維強化プラスチック(以下、FRPと略記することもある)が多く用いられている。
【0003】
FRPの場合、FRPどうしを互いにつなぎ合わせて一つの部材に加工する際に、
接着剤を用いることが多い。これは、ボルトやナットなどの機械的な直接接合した場合、接合するFRP本体にボルトを通すための孔を開ける必要があるが、接合部に大きな外力が作用した場合に、応力集中により穿孔の破断した繊維周りから破壊する可能性が高まるためである。また、FRPを使用する場合、その目的としてFRPの軽量性を利用することが多いため、ボルトやナットなどの付属部品を取り付けた構造では重量が逆に増加してしまうことも理由として挙げられる。
【0004】
このように、締結のための穿孔が破壊の起点となりやすい材料については接着剤などによる間接接合が多く適用されるが、接合の強度は機械的な接合に比べ、一般的に低くなる傾向にある。図7は接着接合において、接着部の破壊は接合材である接着剤内部にき裂が進行する凝集破壊と呼ばれる破壊形態である。そして、図8は被接合材と接着剤の界面から破壊する界面破壊と呼ばれる破壊形態である。また、これらの形態が複合した破壊形態も起こりうる可能性があり、接合部周辺の破壊は非常に複雑である。従来は、このような接合構造を設計する際には、機械締結も併用した接合方法が採られることが多かったが、構造物の重量軽減から接着剤単体で接合することも今後増えると考えられ、接合部の信頼性を保証する必要がある。
【0005】
従来、2つの被接合材を接合材によりつなぎ合わせた構造、例えば接着接合構造などの接合部の強度をFEM(Finite Element Method:有限要素法)など数値シミュレーションにより予測する手法には2つの手法が一般的であった。一つ目の手法としては、特許文献1にあるように接合部に作用する応力を算出し、応力に基づく接合部の破壊条件を適用・評価する方法が挙げられる。また、もう一つの方法としては、接合部の破壊エネルギーを算出し、応力と同様に破壊エネルギーに関する破壊条件を適用することで接合部の破壊の有無を判定する方法が挙げられる(非特許文献1、特許文献2)。
【0006】
ところが、応力による評価手法の場合、破壊起点部分には応力集中が発生するため、精度よく解析を実施しようとした場合、要素をより細かく配置する必要があり、小さな試験片程度では接合強度の検証は可能だが、大型の構造になるほど全体の要素数が格段に多くなり解析が困難になるという問題がある。また、応力の大きさは要素の形状にも影響を受けるため、解析を繰り返して、最適な要素数ならびに形状を探索する必要がある。更に、破壊条件で用いる応力は一般的に実験により得られるが、例えば接着接合構造の場合、接着部が破壊したときの破壊荷重を接着部の面積で割った応力、即ち接着接合部に作用する平均的な応力が用いられる。このような平均的な応力は、応力が集中した箇所の応力とは明らかに異なるため、このような応力による評価手法では、接合部の破壊を精度良く予測することは困難となる。
【0007】
そのため、このような接合部の破壊を精度よく行うため、応力ではなく破壊力学的な見地から接合部の破壊エネルギーを評価する方法が用いられている。図15は、接合部において、被接合材を結合要素によってモデル化した従来技術の接合部のモデルを表す概略図である。また、図16は結合要素に作用する結合力と結合要素の変形量の関係を表す、従来技術の破壊プロセスを表すグラフである。結合要素は非特許文献1に示されるように、被接合材24同士を接合する接合材部分に配置された一種のバネに相当する要素である。結合要素に作用する接合力は応力と等価であり、また、結合要素の変形量はひずみと等価である。従って、図16に示される破壊プロセスは、結合要素に作用する結合力(あるいは応力)と被接合材間の相対距離を表す結合要素の変形量(あるいはひずみ)によって、接合部が変形前の初期状態から最終的に破壊するまでの一連のプロセスを意味する。非特許文献1によると、図15に示す結合要素一つ一つに対し、図16の破壊プロセス26、27あるいは28を適用し、破壊プロセスを変形量(あるいはひずみ)で積分した面積を実験により測定される破壊エネルギーと等価になるよう関係付けている。この方法は結合要素の大きさによる解析精度への影響は小さく、また破壊エネルギーも種々の実験方法が定義されており、き裂などの破壊が発生あるいは進展する際のエネルギーを測定することで、応力による評価方法より精度よく破壊を判定可能である。しかし、結合要素の破壊を決定する破壊プロセスには、簡単な形状では図16の二直線(三角形)型26や台形型27のものから複雑なものでは指数型28など様々な近似手法があり、複雑な近似式を用いるものほど、多くの変数を用いる。そして、このような様々な近似方法を採った各々のケースで試験による結果とよく一致した結果が導き出されている。しかし、このような変数は実際の小型の試験片を用いた試験結果などに基づいて決定されるため、式が複雑なほど変数の決定に時間を要する。また、接合の条件が変わる都度、変数の大きさも変わる可能性があるため、接合部の評価に多大な時間を要し、汎用的な手法とは言えない。
【0008】
また、特許文献1では、接合部の強度を接合部の破壊エネルギーを評価している一方で、接合部のモデル化を簡略化して、非接合材に発生する応力から破壊エネルギーを絡めた破壊条件を定義しているが、接着剤のように、被着体と物性が大きく異なる構造体で、接合部のモデル化を簡略化して、評価する方法は精度の良い接合破壊の判定を期待することは困難である。
【特許文献1】特開2004−69638号公報
【特許文献2】特開2007−257531号公報
【非特許文献1】日本接着学会誌Vol.43 No.11 pp.434−442
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、上述の課題を解決し、2つの被接合材が接合材で接合されている構造について、接合部の破壊判定を精度良く実施可能な方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。即ち、
(1)2つの被接合材が接合材を間に挟んで一体化された接合部を有する構造体の有限要素モデルを作成する第1のステップと、前記有限要素モデルに前記2つの被接合材および前記接合材の材料データと前記接合材に作用する外力および境界条件と、前記接合部が前記被接合材と前記接合材との界面に垂直な方向に引張り変形、またはせん断変形し破壊に至るまでに、前記接合材に作用する応力とひずみの関係を表す破壊プロセスであって、前記各破壊プロセスをひずみで積分した面積値が、予め試験により求めた前記接合部を前記引張りあるいはせん断破壊させる各破壊エネルギーに等価になっている前記破壊プロセスと前記破壊エネルギーと該破壊エネルギーで構成された前記接合部の破壊条件とを入力する第2のステップと、前記有限要素モデルと前記入力データを用いて有限要素解析を実施し、前記有限要素モデルの前記接合材に相当する要素に対して、前記破壊プロセスより前記引張りとせん断の応力とひずみを算出し、さらに前記外力を与える前の接合材の厚みより、引張り方向および前記せん断方向のひずみエネルギーを算出する第3のステップと、前記接合材の各要素において、前記ひずみエネルギーが、前記破壊条件を満足しているかを判定し、前記破壊条件を満足する前記要素がある場合には、該要素に相当する接合部に破壊が生じたと判定する第4のステップとを有する、2つの被接合材が接合材を間に挟んで一体化された接合部の破壊を判定する方法であって、前記第2ステップにおいて、前記破壊プロセスを決定するに際し、前記接合材の引張りおよびせん断の応力−ひずみ曲線を設定し、該応力−ひずみ曲線上を経路として、応力ゼロの状態から応力−ひずみ曲線をひずみで積分した値が、予め試験により求められた前記各破壊エネルギーに等価になるまでの経路を第1の経路とし、前記第1経路の終点の応力からひずみが不変のまま前記応力が再びゼロになるまでを第2の経路とする、前記接合部の前記引張りおよびせん断方向の破壊プロセスを入力することを特徴とする接合部破壊判定方法。
(2)前記第2ステップにおいて、前記破壊プロセスを、複数の線形区間により近似することを特徴とする(1)に記載の接合部破壊判定方法。
(3)前記接合部に用いられる前記接合材が樹脂であることを特徴とする(1)または(2)に記載の接合部破壊判定方法。
(4)前記接合部に用いられる前記接合材が接着剤であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の接合部破壊判定方法。
【0011】
本発明において「被接合材」とは、接合材により接合される母材をいう。接合材に対する面においては、形状は平らである必要はなく、凹凸などの曲面を形成していても良い。また、接合材を間に介して対向する2つの被接合材はそれぞれ肉厚も材料も同じでなくても良い。
【0012】
本発明において「接合材」とは、2つの被接合材の間にあって両者を一体に接合する材料をいう。接合材としては、例えば、樹脂や接着剤など被接合材よりも一般的に弾性率の低い、被接合材と異なる材料が挙げられる。但し、必ずしも被接合材と異なる必要はない。例えば、レーザー溶着や振動溶着された樹脂の接合構造のように、被接合材を一度溶融し、再び固化させた場合等、溶融・固化した部分は被接合材と同じ材料となる。このように被接合部材と同一の材料であっても、元々2つの部材であった被接合部材を1つに接合するときには、その接合する材料は「接合材」に該当する。
【0013】
本発明において、「境界条件」とは、構造や部材の境界を表す条件のことをいう。例えば、変形量やたわみ角をゼロに固定する方法や、変形量だけゼロにしてたわみ角は拘束しない方法などがある。
【0014】
本発明において、「接合材の応力−ひずみ曲線」とは、接合材に固有の材料特性をいう。例えば、接合材が樹脂の場合は、JIS K 7113(1995年制定)にある引張り試験法により測定される。
【0015】
本発明において「接合材の初期厚み」とは、対向する2つの被接合材の初期間隙量をいう。数値シミュレーションにおける接合材の厚みは、例えば実際の接合構造体において、接合部の全体の厚みから2つの被接合材の厚みを差し引く方法や、顕微鏡などを用いて直接測定するなどにより決定できる。また、測定した複数点の厚みの平均値を接合材の厚みとして採用する方法を取ることもできる。
【0016】
本発明において「接合部」とは、2つの被接合材を、接合材を間に介して一体化された部分のうち、特に被接合材と接合材との界面および接合材そのものを併せた領域をいう。被接合材どうしが接合材を介して、結合されていなければ、接合部とは呼ばない。
【0017】
本発明において、「接合部の引張り変形」とは、接合材が接合材と被接合材の界面に垂直な方向に力を受けて変形することをいう。図6は接合部を接合材の厚み方向に引張り変形させたときの概略図である。例えば被接合材が図6のように互いに平行に接合されている場合は、力の作用方向6の正反対の力の作用方向が接合部を引張り変形させる方向になる。但し、被接合材同士が平行に接着されていない場合には、接合部の引張り変形の方向は図6の力の作用方向6のように正反対な方向にはならない。
【0018】
本発明において、「接合部のせん断変形」とは、接合材が接合材と同一平面の面内方向、あるいは接合材の平面に垂直な面外方向に力を受けて、面外方向にせん断変形することをいう。図9は、接合材が被接合材と面内でせん断変形する場合を示している。一方、図10は接合材が面外にせん断変形する場合を示している。
【0019】
本発明において「接合部の破壊」とは、前記被接合材と接合材との界面あるいは接合材内部にき裂が発生することをいう。「接合部の破壊」に被接合材そのものの破壊は含まない。
【0020】
本発明において「破壊プロセス」とは、接合部を含む構造体の有限要素モデルにおいて、前記構造体の接合材に相当する要素が、接合構造体の変形によって変形した場合に、前記要素が取りうる応力とひずみを一対一に対応付ける経路のことをいう。破壊プロセスでは、接合部を引張り変形させる引張り応力とせん断変形させるせん断応力の2種類の応力が採られる。
【0021】
本発明において、「予め求められた接合部の破壊エネルギー」とは、予め小型の試験片を用いて試験により測定した接合部を引張りあるいはせん断破壊させるためのエネルギーのことをいう。
【0022】
本発明において、「接合部の引張り破壊エネルギー」とは、接合部を被接合材の対向方向に引張り、接合部を破壊させるエネルギーのことをいう。図6の接合材1を力の作用方向6に引張り、接合材が図7のように接合材内部や、図8のように接合材1と被接合材2の界面7などの接合部に破壊を発生させるために必要なエネルギーと定義する。その測定方法は、例えば積層FRPでは、層間の接合の破壊エネルギーは、JIS K 7086に記載のDCB試験(Double Cantilever Beam 双片持ち張り試験)などの方法で測定が可能である。
【0023】
本発明において、「接合部のせん断破壊エネルギー」とは、接合材を面内方向にせん断変形させ接合部を破壊させる面内のせん断破壊エネルギーと、接合材を面外にせん断変形させ接合部を破壊させる面外せん断エネルギーのことを総称していう。例えば、面内のせん断破壊エネルギーは、積層FRPでは、層間の接合の破壊エネルギーは、JIS K 7086 に記載のENF試験(End Notch Flexure 端面切欠き曲げ試験)などの方法で測定が可能である。一方、面外のせん断破壊エネルギーについては、面内のせん断破壊エネルギーと等価として、面内のせん断破壊エネルギーの測定結果を用いることが可能である。
【0024】
本発明において「樹脂」は、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、更にはポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂も使用可能である。
【0025】
本発明において「接着剤」とは、接合部を共に形成する被接合材とは別の材料で構成される物質をいう。例えば、リベット接合や溶接構造とは異なり、被接合材との接合に際して、被接合材よりも低いヤング率を持った物質として被接合材表面に沿って密着し、次いで加熱や乾燥などによって硬化することにより、被接合材どうしを接合するための材料などをいう。例を挙げれば、前述の樹脂をベースとしたエポキシ系接着剤、フェノール系接着剤、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤など構造部材の接合全般に使用され接合部を剛に結合する構造用接着剤や、変形に追従できる機能を付与し、接合部が変形した際には応力を緩和可能な、例えばウレタン系、合成ゴム系、シリコン系、変性シリコン系などの弾性接着剤、金属の溶接などと併用できるウエルドボンド接着剤、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを使用したホットメルト性接着剤なども使用可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に関わる接合部破壊判定方法によれば、2つの被接合材を接合材により接合した構造体について、接合材の応力−ひずみ特性を接合部の破壊エネルギーに関連付けた破壊プロセスを導入することにより、FEMによる数値シミュレーションで接合部の応力状態とエネルギーをより精度よく評価可能となり、予め試験により測定した破壊エネルギーより構成した破壊条件と比較・判定することで、接合部の破壊を高精度に判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る接合部破壊判定法について、図面を参照しながら詳述する。
【0028】
図1は本実施形態におけるFEMを用いた数値シミュレーションによる接合部破壊判定法のフローチャートを示す概略図である。また図2は2つの被接合材2に対して接合材1を間に介して接合した接合構造体の接合部を表した概略図である。
【0029】
図1のフローチャートに基づいて説明する。
【0030】
まず第1ステップのS101では図2の接合部を含む構造体のFEMモデルを作成する。図3〜図5は、本実施形態における接合材のFEMモデルを表している。接合材1に相当する要素の厚み方向の分割方法には、図3に示すように図2の接合部の接合材1を2つの被接合材の対向方向に1つの要素でモデル化する方法や、あるいは図4および図5のように複数の分割数でモデルを作成する方法がある。なお、図4および5では接合材の厚み方向に3つの分割数で分割している。
【0031】
その後、第2ステップのS201において、2つの被接合材2や接合材1に相当する要素の材料データや構造体に作用する外力や境界条件などを入力項目として設定する。次にS202で、接合材1の破壊評価に関するデータ、即ち、破壊プロセスや破壊エネルギー、破壊条件を入力として設定する。これらの項目を入力する接合材要素の設定方法について次に詳述する。
【0032】
接合材に相当する要素については、接合材のモデル化の方法に応じて、必要な情報を入力する。例えば、図3のように接合材の厚み方向に1要素でモデル化する場合には、接合部の破壊は接合材の要素で発生すると考慮されるため、接合材に該当する全ての要素に対して、破壊プロセスおよび破壊エネルギーを入力する(第1のモデル化方法)。
【0033】
一方、例えば予め実施した破壊エネルギーの測定試験等で接合材と被接合材との界面側で接合部の破壊が起きたような場合では、実際に接合構造体でも同様の破壊が起きる可能性が高いため、図4の被接合材要素4に接する黒色で表示された、破壊を考慮する接合材要素3に対して、破壊プロセスや破壊エネルギーを入力する。一方、破壊を考慮する要素3に挟まれた白色で表示された、破壊を考慮しない接合材要素5については、破壊は起きないと考え、通常の接合材の材料データのみを入力し、破壊プロセスや破壊エネルギーは入力しない方法も採れる(第2のモデル化方法)。
【0034】
逆に図5のように、予め破壊エネルギーの測定試験等で、被接合材と接合材の界面側ではなく接合材内部に破壊が進行した場合には、実際の接合構造体でも被接合材と接合材の界面は十分に強く、接合材内部から破壊が生じる可能性が高くなる。そのため、前述の方法とは逆に、厚み方向に複数分割された要素のうち、より内側の要素を破壊を考慮する接合材要素3として、破壊プロセスと破壊エネルギーを入力する方法も採れる(第3のモデル化方法)。
【0035】
また、例えば破壊の発生部位が不明な場合や接合材内部や接合材と被接合材の界面の両方に破壊が起きることを考えた場合には、図4や図5の接合材を厚み方向に複数の要素で分割したモデルにおいて、全ての接合材要素に前述のような入力を設定した方法を採っても構わない(第4のモデル化方法)。
【0036】
但し、第2から第4のモデル化方法のように、接合材1について、厚み方向に複数の要素を配置することは、より詳細な接合部の破壊検討を行いたい場合に有効と考えられるが、構造体の規模が大きくなると、全体の要素数の増加を招くため、FEMによる解析に多大な時間を要することになる。一般的に、接合材1の厚みは被接合材2の厚みに比べて薄いため、図3のように接合材の要素を厚み方向に1要素でモデル化する方法が大型の構造体などにも要素数を多くすることなく解析が実施可能になるため、第1のモデル化方法を採ることがより好ましい。
【0037】
次に、入力する破壊エネルギーと破壊条件について詳述する。接合部の破壊を考慮する接合材要素3には、事前に試験によって測定された接合部の引張り破壊エネルギーとせん断の破壊エネルギー、および接合部の破壊条件を入力する。接合部の引張り破壊エネルギーは、例えばJIS K 7086(1993年制定)に記載のFRPの片端を上下に引き剥がすことで層間強度を測定する方法(DCB試験)などを応用することにより測定可能である。一方、せん断の破壊エネルギーについても、引張り破壊エネルギーと同様にJIS K 7086 (1993年制定)に記載のFRPを3点曲げしてせん断の層間強度の測定する方法(ENF試験)などを応用することにより測定可能である。
【0038】
また、接合部の破壊条件は、例えばASTM 6671-01(2003年制定)に記載のMMB(Mixed Mode Bending:混合モード曲げ試験)などにより引張りとせん断の破壊エネルギーの関係を測定することができる。そして、DCB試験やENF試験などにより測定された引張りならびにせん断の破壊エネルギーも考慮することにより、接合部の破壊条件を決定することが可能である。例えば、式(1)に記載のべき乗形式の破壊条件式を用いることができる。
【0039】
【数1】
【0040】
式(1)において、GCは試験により求められる破壊エネルギーを表しており、GはFEMによる数値シミュレーションによって算出されるひずみエネルギーを表している。なお、αは指数を表しているが、上述の試験より決定されるパラメータである。
【0041】
上述の破壊エネルギーと破壊条件と共に、別途引張試験などにより測定された接合材の応力−ひずみ曲線と前述の測定された接合部の破壊エネルギーを対応付けた破壊プロセスを入力する。本発明者は、従来の破壊プロセスを評価した手法では、近似式の選択と種々の変数を決定しなければならないという問題について解決方法を検討したところ、これらの2つの部材が接合された構造体については、接合部が如何なる破壊形態を取ろうとも、破壊に至るまでの過程の途中大部分は少なくとも必ず接合材の力学特性、即ち接合材の応力−ひずみ関係に従うはずと考えた。また、接合部の接合材あるいは接合材と被接合材の界面に破壊を生じさせる破壊エネルギーは全て、接合材に作用するエネルギーで定義づけが可能であると仮定した。これらの仮定に基づき、接合形態や破壊形態に依存せず、破壊エネルギーと破壊プロセスとを一義的に定義付け、接合部の強度を簡便に可能な手法を検討した結果、本発明に想到した。その詳細について、図11の接合部の破壊プロセスの決定方法を表す概略図を用いて、詳述する。
【0042】
図11の9は本実施形態における接合材の応力−ひずみ曲線を表している。接合部の破壊プロセスは、応力−ひずみ曲線9上の第1経路11と曲線9から外れる第2経路12からなる。第1経路11は、応力−ひずみ曲線9をひずみで積分し、その積分値が前述の方法等で予め測定された接合材の破壊エネルギーに等価となる応力−ひずみ曲線の一部して決定される。一方、第2経路12は第1経路11の終端から、ひずみは不変で応力だけゼロになる経路として決定される。このように、応力−ひずみ曲線をひずみで積分した領域10が予め測定された破壊エネルギーに等しくなるように接合部の破壊プロセスを決定することで、FEMによる数値シミュレーションで、接合材が破壊するまでに取りうる引張り応力とひずみの関係をより精度よく評価できるため、接合部の破壊判定をより高精度に行うことが可能となる。
【0043】
図12は、接合材に作用する応力−ひずみ曲線の別の一例を表している。図12に示すように、接合部の変形が大きくなるにつれ、被接合材と接合材間の界面の結合力が弱くなり、接合材に作用する応力は最大応力に達した後、応力−ひずみ曲線から外れ、ひずみの増加と共に応力が緩やかに減少する破壊プロセス14を取る場合も想定される。従って、測定される接合部の破壊エネルギーは図12の破壊プロセスの領域(領域15と16)の面積と等価になっている。このように応力がひずみの増加と共に緩やかに減少する場合には、予め小型の試験片を用いた試験などで、接合部にひずみゲージ等を貼り、接合材に発生する応力を測定して、測定結果に基づき破壊プロセス14を定義することも可能である。
しかし、本発明の破壊プロセス決定方法は、測定された破壊エネルギーに基づき決定しているので、最大応力後緩やかに応力が減少する破壊プロセス14の領域(領域15と領域16)と本発明に基づく破壊プロセス13の領域(領域15と領域17)は、破壊プロセス14に固有の領域16と破壊プロセス13に固有の領域17の異なる領域を生じるが、両者の面積は一致している。即ち、破壊プロセス13の領域(領域15と17)の面積は測定された接合部の破壊エネルギーに等価となっている。さらに、破壊プロセス13と破壊プロセス14の共通領域の領域15に比べて、共通しない領域16および領域17の面積は小さいため、FEMによる数値シミュレーションによる結果にほとんど差はない。従って、数値シミュレーション上の入力を簡単にするため、前述した本発明における破壊プロセスの決定方法を取るほうがより好ましい。
【0044】
なお、接合材の応力―ひずみ曲線は、図11の9ように一般的に非線形な曲線となることが多いため、FEM解析で入力をより簡略化する目的で複数の線形区間で近似することも可能である。例えば図13は、破壊プロセスを三角形型で近似した概略図であり、図14は四角形型で近似した概略図である。図13の19や図14の22のように、応力−ひずみ曲線に基づいた破壊プロセス19および22を、面積が一定のまま、図13の20や図14の23のように三角形や四角形で形状を近似しても、FEMによる数値シミュレーション結果は近似前の破壊プロセスを用いた場合と大きな差は生じない。但し、このような近似方法を採る際には、元の破壊プロセスから大きく形状が変更されないように、近似後の応力と元の破壊プロセスの応力の残差の2乗和が最小となるように近似後の破壊プロセスを決定することが望ましい。また、四角形で近似する場合には、形状がより簡単となるよう台形型で近似することが望ましい。
【0045】
図1の第3ステップS301では、第2ステップのS201で設定した外力・境界条件に基づきFEM解析を実施し、要素の応力・ひずみを算出する。破壊を考慮する接合材に相当する要素の応力とひずみは第2ステップS202で設定した破壊プロセスに基づいて算出する。更に第3ステップS302では、S301で算出された破壊を考慮する接合材の要素それぞれについて、S202で算出したひずみの範囲で破壊プロセスを積分し、得られた積分値に対して2つの被接合材の外力負荷前の初期間隙量である接合材厚みを乗ずることより、接合材の要素になされたひずみエネルギーを算出する。なお、破壊を考慮しない接合材の要素については、これらの算出プロセスを採る必要はない。
【0046】
そして、第4ステップS401において、第3ステップで算出された破壊を考慮する接合材要素になされたひずみエネルギーと第2ステップS202で入力した接合部の破壊条件と比較を行い、破壊条件を満足する要素がある場合には、その箇所の接合部が破壊したと判定する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明におけるFEMを用いた数値シミュレーションによる接合部破壊判定法のフローチャートを示す概略図である。
【図2】本発明における接合構造体の接合部を表す概略図である。
【図3】本発明の実施形態における接合材を第1のモデル化方法に基づきモデル化したFEMモデルの概略図である。
【図4】本発明の実施形態における接合材を第2のモデル化方法に基づきモデル化したFEMモデルを表す概略図である。
【図5】本発明の実施形態における接合材を第3のモデル化方法に基づきモデル化したFEMモデルを概略図である。
【図6】接合部を接合材の厚み方向に引張り変形させたときの概略図である。
【図7】接合部が接合材内で破壊したときを表す概略図である。
【図8】接合部が接合材と被接合材の界面で破壊したときを表す概略図である。
【図9】接合部が被接合材と面内でせん断変形したときを表す概略図である。
【図10】接合部が2つの被接合材の対向方向にせん断変形したときを表す概略図である。
【図11】本発明の実施形態における接合部の破壊プロセスを表している概略図である。
【図12】本発明の実施形態における接合部の破壊プロセスと最大応力後緩やかに応力が減少する破壊プロセスの概略図である。
【図13】本発明の実施形態における接合部の破壊プロセスを三角形で近似した場合を表す概略図である。
【図14】本発明の実施形態における接合部の破壊プロセスを四角形で近似した場合を表す概略図である。
【図15】接合部において、被接合材を結合要素によってモデル化した従来技術の接合部のモデルを表す概略図である。
【図16】結合要素に作用する結合力と結合要素の変形量の関係を表す、従来技術の破壊プロセスを表すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
S101 FEMモデルの作成するステップ
S201 被接合材や接合材の材料データおよび外力・境界条件を入力するステップ
S202 接合部の破壊評価に関するデータを入力するステップ
S301 接合材要素の応力・ひずみを算出するステップ
S302 接合材要素に発生したエネルギーを算出するステップ
S401 接合部の破壊判定を行うステップ
1 接合材
2 被接合材
3 破壊を考慮する接合材要素
4 被接合材要素
5 破壊を考慮しない接合材要素
6 力の作用方向
7 接合材と被接合材の界面
8 力の作用方向
9 接合材の応力−ひずみ曲線
10 接合材の応力−ひずみ曲線をひずみで積分した領域
11 破壊プロセスの第1経路
12 破壊プロセスの第2経路
13 本発明における破壊プロセス決定方法に基づく破壊プロセス
14 接合が弱くなったことにより、接合材の応力−ひずみ曲線から外れた場合の接合部の破壊プロセス
15 破壊プロセス13と破壊プロセス14の共通領域
16 破壊プロセス14に固有の領域
17 破壊プロセス13に固有の領域
18 接合材の応力−ひずみ曲線
19 応力−ひずみ曲線に基づく接合部の破壊プロセス
20 三角形に近似された破壊プロセス
21 接合材の応力−ひずみ曲線
22 応力−ひずみ曲線に基づく接合部の破壊プロセス
23 四角形に近似された破壊プロセス
24 被接合材
25 結合要素
26 2直線型の破壊プロセス
27 台形型の破壊プロセス
28 指数型の破壊プロセス
【技術分野】
【0001】
本発明は接合部破壊判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空宇宙やスポーツ分野などの限られた分野で適用されていた繊維強化複合材料の産業用途への適用が拡大している。特に、従来、金属が主として用いられてきた自動車などの産業分野ではエネルギー効率を高めるため、構造の軽量化が重要視され、金属材料に代わって、軽量でかつ比強度・比剛性に優れた繊維強化複合材料に置換する動きが増加している。特に繊維強化複合材料として、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維を熱硬化性あるいは熱可塑性の樹脂などをマトリックス材料とした繊維強化プラスチック(以下、FRPと略記することもある)が多く用いられている。
【0003】
FRPの場合、FRPどうしを互いにつなぎ合わせて一つの部材に加工する際に、
接着剤を用いることが多い。これは、ボルトやナットなどの機械的な直接接合した場合、接合するFRP本体にボルトを通すための孔を開ける必要があるが、接合部に大きな外力が作用した場合に、応力集中により穿孔の破断した繊維周りから破壊する可能性が高まるためである。また、FRPを使用する場合、その目的としてFRPの軽量性を利用することが多いため、ボルトやナットなどの付属部品を取り付けた構造では重量が逆に増加してしまうことも理由として挙げられる。
【0004】
このように、締結のための穿孔が破壊の起点となりやすい材料については接着剤などによる間接接合が多く適用されるが、接合の強度は機械的な接合に比べ、一般的に低くなる傾向にある。図7は接着接合において、接着部の破壊は接合材である接着剤内部にき裂が進行する凝集破壊と呼ばれる破壊形態である。そして、図8は被接合材と接着剤の界面から破壊する界面破壊と呼ばれる破壊形態である。また、これらの形態が複合した破壊形態も起こりうる可能性があり、接合部周辺の破壊は非常に複雑である。従来は、このような接合構造を設計する際には、機械締結も併用した接合方法が採られることが多かったが、構造物の重量軽減から接着剤単体で接合することも今後増えると考えられ、接合部の信頼性を保証する必要がある。
【0005】
従来、2つの被接合材を接合材によりつなぎ合わせた構造、例えば接着接合構造などの接合部の強度をFEM(Finite Element Method:有限要素法)など数値シミュレーションにより予測する手法には2つの手法が一般的であった。一つ目の手法としては、特許文献1にあるように接合部に作用する応力を算出し、応力に基づく接合部の破壊条件を適用・評価する方法が挙げられる。また、もう一つの方法としては、接合部の破壊エネルギーを算出し、応力と同様に破壊エネルギーに関する破壊条件を適用することで接合部の破壊の有無を判定する方法が挙げられる(非特許文献1、特許文献2)。
【0006】
ところが、応力による評価手法の場合、破壊起点部分には応力集中が発生するため、精度よく解析を実施しようとした場合、要素をより細かく配置する必要があり、小さな試験片程度では接合強度の検証は可能だが、大型の構造になるほど全体の要素数が格段に多くなり解析が困難になるという問題がある。また、応力の大きさは要素の形状にも影響を受けるため、解析を繰り返して、最適な要素数ならびに形状を探索する必要がある。更に、破壊条件で用いる応力は一般的に実験により得られるが、例えば接着接合構造の場合、接着部が破壊したときの破壊荷重を接着部の面積で割った応力、即ち接着接合部に作用する平均的な応力が用いられる。このような平均的な応力は、応力が集中した箇所の応力とは明らかに異なるため、このような応力による評価手法では、接合部の破壊を精度良く予測することは困難となる。
【0007】
そのため、このような接合部の破壊を精度よく行うため、応力ではなく破壊力学的な見地から接合部の破壊エネルギーを評価する方法が用いられている。図15は、接合部において、被接合材を結合要素によってモデル化した従来技術の接合部のモデルを表す概略図である。また、図16は結合要素に作用する結合力と結合要素の変形量の関係を表す、従来技術の破壊プロセスを表すグラフである。結合要素は非特許文献1に示されるように、被接合材24同士を接合する接合材部分に配置された一種のバネに相当する要素である。結合要素に作用する接合力は応力と等価であり、また、結合要素の変形量はひずみと等価である。従って、図16に示される破壊プロセスは、結合要素に作用する結合力(あるいは応力)と被接合材間の相対距離を表す結合要素の変形量(あるいはひずみ)によって、接合部が変形前の初期状態から最終的に破壊するまでの一連のプロセスを意味する。非特許文献1によると、図15に示す結合要素一つ一つに対し、図16の破壊プロセス26、27あるいは28を適用し、破壊プロセスを変形量(あるいはひずみ)で積分した面積を実験により測定される破壊エネルギーと等価になるよう関係付けている。この方法は結合要素の大きさによる解析精度への影響は小さく、また破壊エネルギーも種々の実験方法が定義されており、き裂などの破壊が発生あるいは進展する際のエネルギーを測定することで、応力による評価方法より精度よく破壊を判定可能である。しかし、結合要素の破壊を決定する破壊プロセスには、簡単な形状では図16の二直線(三角形)型26や台形型27のものから複雑なものでは指数型28など様々な近似手法があり、複雑な近似式を用いるものほど、多くの変数を用いる。そして、このような様々な近似方法を採った各々のケースで試験による結果とよく一致した結果が導き出されている。しかし、このような変数は実際の小型の試験片を用いた試験結果などに基づいて決定されるため、式が複雑なほど変数の決定に時間を要する。また、接合の条件が変わる都度、変数の大きさも変わる可能性があるため、接合部の評価に多大な時間を要し、汎用的な手法とは言えない。
【0008】
また、特許文献1では、接合部の強度を接合部の破壊エネルギーを評価している一方で、接合部のモデル化を簡略化して、非接合材に発生する応力から破壊エネルギーを絡めた破壊条件を定義しているが、接着剤のように、被着体と物性が大きく異なる構造体で、接合部のモデル化を簡略化して、評価する方法は精度の良い接合破壊の判定を期待することは困難である。
【特許文献1】特開2004−69638号公報
【特許文献2】特開2007−257531号公報
【非特許文献1】日本接着学会誌Vol.43 No.11 pp.434−442
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、上述の課題を解決し、2つの被接合材が接合材で接合されている構造について、接合部の破壊判定を精度良く実施可能な方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は以下の構成を採用する。即ち、
(1)2つの被接合材が接合材を間に挟んで一体化された接合部を有する構造体の有限要素モデルを作成する第1のステップと、前記有限要素モデルに前記2つの被接合材および前記接合材の材料データと前記接合材に作用する外力および境界条件と、前記接合部が前記被接合材と前記接合材との界面に垂直な方向に引張り変形、またはせん断変形し破壊に至るまでに、前記接合材に作用する応力とひずみの関係を表す破壊プロセスであって、前記各破壊プロセスをひずみで積分した面積値が、予め試験により求めた前記接合部を前記引張りあるいはせん断破壊させる各破壊エネルギーに等価になっている前記破壊プロセスと前記破壊エネルギーと該破壊エネルギーで構成された前記接合部の破壊条件とを入力する第2のステップと、前記有限要素モデルと前記入力データを用いて有限要素解析を実施し、前記有限要素モデルの前記接合材に相当する要素に対して、前記破壊プロセスより前記引張りとせん断の応力とひずみを算出し、さらに前記外力を与える前の接合材の厚みより、引張り方向および前記せん断方向のひずみエネルギーを算出する第3のステップと、前記接合材の各要素において、前記ひずみエネルギーが、前記破壊条件を満足しているかを判定し、前記破壊条件を満足する前記要素がある場合には、該要素に相当する接合部に破壊が生じたと判定する第4のステップとを有する、2つの被接合材が接合材を間に挟んで一体化された接合部の破壊を判定する方法であって、前記第2ステップにおいて、前記破壊プロセスを決定するに際し、前記接合材の引張りおよびせん断の応力−ひずみ曲線を設定し、該応力−ひずみ曲線上を経路として、応力ゼロの状態から応力−ひずみ曲線をひずみで積分した値が、予め試験により求められた前記各破壊エネルギーに等価になるまでの経路を第1の経路とし、前記第1経路の終点の応力からひずみが不変のまま前記応力が再びゼロになるまでを第2の経路とする、前記接合部の前記引張りおよびせん断方向の破壊プロセスを入力することを特徴とする接合部破壊判定方法。
(2)前記第2ステップにおいて、前記破壊プロセスを、複数の線形区間により近似することを特徴とする(1)に記載の接合部破壊判定方法。
(3)前記接合部に用いられる前記接合材が樹脂であることを特徴とする(1)または(2)に記載の接合部破壊判定方法。
(4)前記接合部に用いられる前記接合材が接着剤であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の接合部破壊判定方法。
【0011】
本発明において「被接合材」とは、接合材により接合される母材をいう。接合材に対する面においては、形状は平らである必要はなく、凹凸などの曲面を形成していても良い。また、接合材を間に介して対向する2つの被接合材はそれぞれ肉厚も材料も同じでなくても良い。
【0012】
本発明において「接合材」とは、2つの被接合材の間にあって両者を一体に接合する材料をいう。接合材としては、例えば、樹脂や接着剤など被接合材よりも一般的に弾性率の低い、被接合材と異なる材料が挙げられる。但し、必ずしも被接合材と異なる必要はない。例えば、レーザー溶着や振動溶着された樹脂の接合構造のように、被接合材を一度溶融し、再び固化させた場合等、溶融・固化した部分は被接合材と同じ材料となる。このように被接合部材と同一の材料であっても、元々2つの部材であった被接合部材を1つに接合するときには、その接合する材料は「接合材」に該当する。
【0013】
本発明において、「境界条件」とは、構造や部材の境界を表す条件のことをいう。例えば、変形量やたわみ角をゼロに固定する方法や、変形量だけゼロにしてたわみ角は拘束しない方法などがある。
【0014】
本発明において、「接合材の応力−ひずみ曲線」とは、接合材に固有の材料特性をいう。例えば、接合材が樹脂の場合は、JIS K 7113(1995年制定)にある引張り試験法により測定される。
【0015】
本発明において「接合材の初期厚み」とは、対向する2つの被接合材の初期間隙量をいう。数値シミュレーションにおける接合材の厚みは、例えば実際の接合構造体において、接合部の全体の厚みから2つの被接合材の厚みを差し引く方法や、顕微鏡などを用いて直接測定するなどにより決定できる。また、測定した複数点の厚みの平均値を接合材の厚みとして採用する方法を取ることもできる。
【0016】
本発明において「接合部」とは、2つの被接合材を、接合材を間に介して一体化された部分のうち、特に被接合材と接合材との界面および接合材そのものを併せた領域をいう。被接合材どうしが接合材を介して、結合されていなければ、接合部とは呼ばない。
【0017】
本発明において、「接合部の引張り変形」とは、接合材が接合材と被接合材の界面に垂直な方向に力を受けて変形することをいう。図6は接合部を接合材の厚み方向に引張り変形させたときの概略図である。例えば被接合材が図6のように互いに平行に接合されている場合は、力の作用方向6の正反対の力の作用方向が接合部を引張り変形させる方向になる。但し、被接合材同士が平行に接着されていない場合には、接合部の引張り変形の方向は図6の力の作用方向6のように正反対な方向にはならない。
【0018】
本発明において、「接合部のせん断変形」とは、接合材が接合材と同一平面の面内方向、あるいは接合材の平面に垂直な面外方向に力を受けて、面外方向にせん断変形することをいう。図9は、接合材が被接合材と面内でせん断変形する場合を示している。一方、図10は接合材が面外にせん断変形する場合を示している。
【0019】
本発明において「接合部の破壊」とは、前記被接合材と接合材との界面あるいは接合材内部にき裂が発生することをいう。「接合部の破壊」に被接合材そのものの破壊は含まない。
【0020】
本発明において「破壊プロセス」とは、接合部を含む構造体の有限要素モデルにおいて、前記構造体の接合材に相当する要素が、接合構造体の変形によって変形した場合に、前記要素が取りうる応力とひずみを一対一に対応付ける経路のことをいう。破壊プロセスでは、接合部を引張り変形させる引張り応力とせん断変形させるせん断応力の2種類の応力が採られる。
【0021】
本発明において、「予め求められた接合部の破壊エネルギー」とは、予め小型の試験片を用いて試験により測定した接合部を引張りあるいはせん断破壊させるためのエネルギーのことをいう。
【0022】
本発明において、「接合部の引張り破壊エネルギー」とは、接合部を被接合材の対向方向に引張り、接合部を破壊させるエネルギーのことをいう。図6の接合材1を力の作用方向6に引張り、接合材が図7のように接合材内部や、図8のように接合材1と被接合材2の界面7などの接合部に破壊を発生させるために必要なエネルギーと定義する。その測定方法は、例えば積層FRPでは、層間の接合の破壊エネルギーは、JIS K 7086に記載のDCB試験(Double Cantilever Beam 双片持ち張り試験)などの方法で測定が可能である。
【0023】
本発明において、「接合部のせん断破壊エネルギー」とは、接合材を面内方向にせん断変形させ接合部を破壊させる面内のせん断破壊エネルギーと、接合材を面外にせん断変形させ接合部を破壊させる面外せん断エネルギーのことを総称していう。例えば、面内のせん断破壊エネルギーは、積層FRPでは、層間の接合の破壊エネルギーは、JIS K 7086 に記載のENF試験(End Notch Flexure 端面切欠き曲げ試験)などの方法で測定が可能である。一方、面外のせん断破壊エネルギーについては、面内のせん断破壊エネルギーと等価として、面内のせん断破壊エネルギーの測定結果を用いることが可能である。
【0024】
本発明において「樹脂」は、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、更にはポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の熱可塑性樹脂も使用可能である。
【0025】
本発明において「接着剤」とは、接合部を共に形成する被接合材とは別の材料で構成される物質をいう。例えば、リベット接合や溶接構造とは異なり、被接合材との接合に際して、被接合材よりも低いヤング率を持った物質として被接合材表面に沿って密着し、次いで加熱や乾燥などによって硬化することにより、被接合材どうしを接合するための材料などをいう。例を挙げれば、前述の樹脂をベースとしたエポキシ系接着剤、フェノール系接着剤、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤など構造部材の接合全般に使用され接合部を剛に結合する構造用接着剤や、変形に追従できる機能を付与し、接合部が変形した際には応力を緩和可能な、例えばウレタン系、合成ゴム系、シリコン系、変性シリコン系などの弾性接着剤、金属の溶接などと併用できるウエルドボンド接着剤、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを使用したホットメルト性接着剤なども使用可能である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に関わる接合部破壊判定方法によれば、2つの被接合材を接合材により接合した構造体について、接合材の応力−ひずみ特性を接合部の破壊エネルギーに関連付けた破壊プロセスを導入することにより、FEMによる数値シミュレーションで接合部の応力状態とエネルギーをより精度よく評価可能となり、予め試験により測定した破壊エネルギーより構成した破壊条件と比較・判定することで、接合部の破壊を高精度に判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る接合部破壊判定法について、図面を参照しながら詳述する。
【0028】
図1は本実施形態におけるFEMを用いた数値シミュレーションによる接合部破壊判定法のフローチャートを示す概略図である。また図2は2つの被接合材2に対して接合材1を間に介して接合した接合構造体の接合部を表した概略図である。
【0029】
図1のフローチャートに基づいて説明する。
【0030】
まず第1ステップのS101では図2の接合部を含む構造体のFEMモデルを作成する。図3〜図5は、本実施形態における接合材のFEMモデルを表している。接合材1に相当する要素の厚み方向の分割方法には、図3に示すように図2の接合部の接合材1を2つの被接合材の対向方向に1つの要素でモデル化する方法や、あるいは図4および図5のように複数の分割数でモデルを作成する方法がある。なお、図4および5では接合材の厚み方向に3つの分割数で分割している。
【0031】
その後、第2ステップのS201において、2つの被接合材2や接合材1に相当する要素の材料データや構造体に作用する外力や境界条件などを入力項目として設定する。次にS202で、接合材1の破壊評価に関するデータ、即ち、破壊プロセスや破壊エネルギー、破壊条件を入力として設定する。これらの項目を入力する接合材要素の設定方法について次に詳述する。
【0032】
接合材に相当する要素については、接合材のモデル化の方法に応じて、必要な情報を入力する。例えば、図3のように接合材の厚み方向に1要素でモデル化する場合には、接合部の破壊は接合材の要素で発生すると考慮されるため、接合材に該当する全ての要素に対して、破壊プロセスおよび破壊エネルギーを入力する(第1のモデル化方法)。
【0033】
一方、例えば予め実施した破壊エネルギーの測定試験等で接合材と被接合材との界面側で接合部の破壊が起きたような場合では、実際に接合構造体でも同様の破壊が起きる可能性が高いため、図4の被接合材要素4に接する黒色で表示された、破壊を考慮する接合材要素3に対して、破壊プロセスや破壊エネルギーを入力する。一方、破壊を考慮する要素3に挟まれた白色で表示された、破壊を考慮しない接合材要素5については、破壊は起きないと考え、通常の接合材の材料データのみを入力し、破壊プロセスや破壊エネルギーは入力しない方法も採れる(第2のモデル化方法)。
【0034】
逆に図5のように、予め破壊エネルギーの測定試験等で、被接合材と接合材の界面側ではなく接合材内部に破壊が進行した場合には、実際の接合構造体でも被接合材と接合材の界面は十分に強く、接合材内部から破壊が生じる可能性が高くなる。そのため、前述の方法とは逆に、厚み方向に複数分割された要素のうち、より内側の要素を破壊を考慮する接合材要素3として、破壊プロセスと破壊エネルギーを入力する方法も採れる(第3のモデル化方法)。
【0035】
また、例えば破壊の発生部位が不明な場合や接合材内部や接合材と被接合材の界面の両方に破壊が起きることを考えた場合には、図4や図5の接合材を厚み方向に複数の要素で分割したモデルにおいて、全ての接合材要素に前述のような入力を設定した方法を採っても構わない(第4のモデル化方法)。
【0036】
但し、第2から第4のモデル化方法のように、接合材1について、厚み方向に複数の要素を配置することは、より詳細な接合部の破壊検討を行いたい場合に有効と考えられるが、構造体の規模が大きくなると、全体の要素数の増加を招くため、FEMによる解析に多大な時間を要することになる。一般的に、接合材1の厚みは被接合材2の厚みに比べて薄いため、図3のように接合材の要素を厚み方向に1要素でモデル化する方法が大型の構造体などにも要素数を多くすることなく解析が実施可能になるため、第1のモデル化方法を採ることがより好ましい。
【0037】
次に、入力する破壊エネルギーと破壊条件について詳述する。接合部の破壊を考慮する接合材要素3には、事前に試験によって測定された接合部の引張り破壊エネルギーとせん断の破壊エネルギー、および接合部の破壊条件を入力する。接合部の引張り破壊エネルギーは、例えばJIS K 7086(1993年制定)に記載のFRPの片端を上下に引き剥がすことで層間強度を測定する方法(DCB試験)などを応用することにより測定可能である。一方、せん断の破壊エネルギーについても、引張り破壊エネルギーと同様にJIS K 7086 (1993年制定)に記載のFRPを3点曲げしてせん断の層間強度の測定する方法(ENF試験)などを応用することにより測定可能である。
【0038】
また、接合部の破壊条件は、例えばASTM 6671-01(2003年制定)に記載のMMB(Mixed Mode Bending:混合モード曲げ試験)などにより引張りとせん断の破壊エネルギーの関係を測定することができる。そして、DCB試験やENF試験などにより測定された引張りならびにせん断の破壊エネルギーも考慮することにより、接合部の破壊条件を決定することが可能である。例えば、式(1)に記載のべき乗形式の破壊条件式を用いることができる。
【0039】
【数1】
【0040】
式(1)において、GCは試験により求められる破壊エネルギーを表しており、GはFEMによる数値シミュレーションによって算出されるひずみエネルギーを表している。なお、αは指数を表しているが、上述の試験より決定されるパラメータである。
【0041】
上述の破壊エネルギーと破壊条件と共に、別途引張試験などにより測定された接合材の応力−ひずみ曲線と前述の測定された接合部の破壊エネルギーを対応付けた破壊プロセスを入力する。本発明者は、従来の破壊プロセスを評価した手法では、近似式の選択と種々の変数を決定しなければならないという問題について解決方法を検討したところ、これらの2つの部材が接合された構造体については、接合部が如何なる破壊形態を取ろうとも、破壊に至るまでの過程の途中大部分は少なくとも必ず接合材の力学特性、即ち接合材の応力−ひずみ関係に従うはずと考えた。また、接合部の接合材あるいは接合材と被接合材の界面に破壊を生じさせる破壊エネルギーは全て、接合材に作用するエネルギーで定義づけが可能であると仮定した。これらの仮定に基づき、接合形態や破壊形態に依存せず、破壊エネルギーと破壊プロセスとを一義的に定義付け、接合部の強度を簡便に可能な手法を検討した結果、本発明に想到した。その詳細について、図11の接合部の破壊プロセスの決定方法を表す概略図を用いて、詳述する。
【0042】
図11の9は本実施形態における接合材の応力−ひずみ曲線を表している。接合部の破壊プロセスは、応力−ひずみ曲線9上の第1経路11と曲線9から外れる第2経路12からなる。第1経路11は、応力−ひずみ曲線9をひずみで積分し、その積分値が前述の方法等で予め測定された接合材の破壊エネルギーに等価となる応力−ひずみ曲線の一部して決定される。一方、第2経路12は第1経路11の終端から、ひずみは不変で応力だけゼロになる経路として決定される。このように、応力−ひずみ曲線をひずみで積分した領域10が予め測定された破壊エネルギーに等しくなるように接合部の破壊プロセスを決定することで、FEMによる数値シミュレーションで、接合材が破壊するまでに取りうる引張り応力とひずみの関係をより精度よく評価できるため、接合部の破壊判定をより高精度に行うことが可能となる。
【0043】
図12は、接合材に作用する応力−ひずみ曲線の別の一例を表している。図12に示すように、接合部の変形が大きくなるにつれ、被接合材と接合材間の界面の結合力が弱くなり、接合材に作用する応力は最大応力に達した後、応力−ひずみ曲線から外れ、ひずみの増加と共に応力が緩やかに減少する破壊プロセス14を取る場合も想定される。従って、測定される接合部の破壊エネルギーは図12の破壊プロセスの領域(領域15と16)の面積と等価になっている。このように応力がひずみの増加と共に緩やかに減少する場合には、予め小型の試験片を用いた試験などで、接合部にひずみゲージ等を貼り、接合材に発生する応力を測定して、測定結果に基づき破壊プロセス14を定義することも可能である。
しかし、本発明の破壊プロセス決定方法は、測定された破壊エネルギーに基づき決定しているので、最大応力後緩やかに応力が減少する破壊プロセス14の領域(領域15と領域16)と本発明に基づく破壊プロセス13の領域(領域15と領域17)は、破壊プロセス14に固有の領域16と破壊プロセス13に固有の領域17の異なる領域を生じるが、両者の面積は一致している。即ち、破壊プロセス13の領域(領域15と17)の面積は測定された接合部の破壊エネルギーに等価となっている。さらに、破壊プロセス13と破壊プロセス14の共通領域の領域15に比べて、共通しない領域16および領域17の面積は小さいため、FEMによる数値シミュレーションによる結果にほとんど差はない。従って、数値シミュレーション上の入力を簡単にするため、前述した本発明における破壊プロセスの決定方法を取るほうがより好ましい。
【0044】
なお、接合材の応力―ひずみ曲線は、図11の9ように一般的に非線形な曲線となることが多いため、FEM解析で入力をより簡略化する目的で複数の線形区間で近似することも可能である。例えば図13は、破壊プロセスを三角形型で近似した概略図であり、図14は四角形型で近似した概略図である。図13の19や図14の22のように、応力−ひずみ曲線に基づいた破壊プロセス19および22を、面積が一定のまま、図13の20や図14の23のように三角形や四角形で形状を近似しても、FEMによる数値シミュレーション結果は近似前の破壊プロセスを用いた場合と大きな差は生じない。但し、このような近似方法を採る際には、元の破壊プロセスから大きく形状が変更されないように、近似後の応力と元の破壊プロセスの応力の残差の2乗和が最小となるように近似後の破壊プロセスを決定することが望ましい。また、四角形で近似する場合には、形状がより簡単となるよう台形型で近似することが望ましい。
【0045】
図1の第3ステップS301では、第2ステップのS201で設定した外力・境界条件に基づきFEM解析を実施し、要素の応力・ひずみを算出する。破壊を考慮する接合材に相当する要素の応力とひずみは第2ステップS202で設定した破壊プロセスに基づいて算出する。更に第3ステップS302では、S301で算出された破壊を考慮する接合材の要素それぞれについて、S202で算出したひずみの範囲で破壊プロセスを積分し、得られた積分値に対して2つの被接合材の外力負荷前の初期間隙量である接合材厚みを乗ずることより、接合材の要素になされたひずみエネルギーを算出する。なお、破壊を考慮しない接合材の要素については、これらの算出プロセスを採る必要はない。
【0046】
そして、第4ステップS401において、第3ステップで算出された破壊を考慮する接合材要素になされたひずみエネルギーと第2ステップS202で入力した接合部の破壊条件と比較を行い、破壊条件を満足する要素がある場合には、その箇所の接合部が破壊したと判定する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明におけるFEMを用いた数値シミュレーションによる接合部破壊判定法のフローチャートを示す概略図である。
【図2】本発明における接合構造体の接合部を表す概略図である。
【図3】本発明の実施形態における接合材を第1のモデル化方法に基づきモデル化したFEMモデルの概略図である。
【図4】本発明の実施形態における接合材を第2のモデル化方法に基づきモデル化したFEMモデルを表す概略図である。
【図5】本発明の実施形態における接合材を第3のモデル化方法に基づきモデル化したFEMモデルを概略図である。
【図6】接合部を接合材の厚み方向に引張り変形させたときの概略図である。
【図7】接合部が接合材内で破壊したときを表す概略図である。
【図8】接合部が接合材と被接合材の界面で破壊したときを表す概略図である。
【図9】接合部が被接合材と面内でせん断変形したときを表す概略図である。
【図10】接合部が2つの被接合材の対向方向にせん断変形したときを表す概略図である。
【図11】本発明の実施形態における接合部の破壊プロセスを表している概略図である。
【図12】本発明の実施形態における接合部の破壊プロセスと最大応力後緩やかに応力が減少する破壊プロセスの概略図である。
【図13】本発明の実施形態における接合部の破壊プロセスを三角形で近似した場合を表す概略図である。
【図14】本発明の実施形態における接合部の破壊プロセスを四角形で近似した場合を表す概略図である。
【図15】接合部において、被接合材を結合要素によってモデル化した従来技術の接合部のモデルを表す概略図である。
【図16】結合要素に作用する結合力と結合要素の変形量の関係を表す、従来技術の破壊プロセスを表すグラフである。
【符号の説明】
【0048】
S101 FEMモデルの作成するステップ
S201 被接合材や接合材の材料データおよび外力・境界条件を入力するステップ
S202 接合部の破壊評価に関するデータを入力するステップ
S301 接合材要素の応力・ひずみを算出するステップ
S302 接合材要素に発生したエネルギーを算出するステップ
S401 接合部の破壊判定を行うステップ
1 接合材
2 被接合材
3 破壊を考慮する接合材要素
4 被接合材要素
5 破壊を考慮しない接合材要素
6 力の作用方向
7 接合材と被接合材の界面
8 力の作用方向
9 接合材の応力−ひずみ曲線
10 接合材の応力−ひずみ曲線をひずみで積分した領域
11 破壊プロセスの第1経路
12 破壊プロセスの第2経路
13 本発明における破壊プロセス決定方法に基づく破壊プロセス
14 接合が弱くなったことにより、接合材の応力−ひずみ曲線から外れた場合の接合部の破壊プロセス
15 破壊プロセス13と破壊プロセス14の共通領域
16 破壊プロセス14に固有の領域
17 破壊プロセス13に固有の領域
18 接合材の応力−ひずみ曲線
19 応力−ひずみ曲線に基づく接合部の破壊プロセス
20 三角形に近似された破壊プロセス
21 接合材の応力−ひずみ曲線
22 応力−ひずみ曲線に基づく接合部の破壊プロセス
23 四角形に近似された破壊プロセス
24 被接合材
25 結合要素
26 2直線型の破壊プロセス
27 台形型の破壊プロセス
28 指数型の破壊プロセス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの被接合材が接合材を間に挟んで一体化された接合部を有する構造体の有限要素モデルを作成する第1のステップと、前記有限要素モデルに前記2つの被接合材および前記接合材の材料データと前記接合材に作用する外力および境界条件と、前記接合部が前記被接合材と前記接合材との界面に垂直な方向に引張り変形、またはせん断変形し破壊に至るまでに、前記接合材に作用する応力とひずみの関係を表す破壊プロセスであって、前記各破壊プロセスをひずみで積分した面積値が、予め試験により求めた前記接合部を前記引張りあるいはせん断破壊させる各破壊エネルギーに等価になっている前記破壊プロセスと前記破壊エネルギーと該破壊エネルギーで構成された前記接合部の破壊条件とを入力する第2のステップと、前記有限要素モデルと前記入力データを用いて有限要素解析を実施し、前記有限要素モデルの前記接合材に相当する要素に対して、前記破壊プロセスより前記引張りとせん断の応力とひずみを算出し、さらに前記外力を与える前の接合材の厚みより、引張り方向および前記せん断方向のひずみエネルギーを算出する第3のステップと、前記接合材の各要素において、前記ひずみエネルギーが、前記破壊条件を満足しているかを判定し、前記破壊条件を満足する前記要素がある場合には、該要素に相当する接合部に破壊が生じたと判定する第4のステップとを有する、2つの被接合材が接合材を間に挟んで一体化された接合部の破壊を判定する方法であって、前記第2ステップにおいて、前記破壊プロセスを決定するに際し、前記接合材の引張りおよびせん断の応力−ひずみ曲線を設定し、該応力−ひずみ曲線上を経路として、応力ゼロの状態から応力−ひずみ曲線をひずみで積分した値が、予め試験により求められた前記各破壊エネルギーに等価になるまでの経路を第1の経路とし、前記第1経路の終点の応力からひずみが不変のまま前記応力が再びゼロになるまでを第2の経路とする、前記接合部の前記引張りおよびせん断方向の破壊プロセスを入力することを特徴とする接合部破壊判定方法。
【請求項2】
前記第2ステップにおいて、前記破壊プロセスを、複数の線形区間により近似することを特徴とする請求項1に記載の接合部破壊判定方法。
【請求項3】
前記接合部に用いられる前記接合材が樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の接合部破壊判定方法。
【請求項4】
前記接合部に用いられる前記接合材が接着剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の接合部破壊判定方法。
【請求項1】
2つの被接合材が接合材を間に挟んで一体化された接合部を有する構造体の有限要素モデルを作成する第1のステップと、前記有限要素モデルに前記2つの被接合材および前記接合材の材料データと前記接合材に作用する外力および境界条件と、前記接合部が前記被接合材と前記接合材との界面に垂直な方向に引張り変形、またはせん断変形し破壊に至るまでに、前記接合材に作用する応力とひずみの関係を表す破壊プロセスであって、前記各破壊プロセスをひずみで積分した面積値が、予め試験により求めた前記接合部を前記引張りあるいはせん断破壊させる各破壊エネルギーに等価になっている前記破壊プロセスと前記破壊エネルギーと該破壊エネルギーで構成された前記接合部の破壊条件とを入力する第2のステップと、前記有限要素モデルと前記入力データを用いて有限要素解析を実施し、前記有限要素モデルの前記接合材に相当する要素に対して、前記破壊プロセスより前記引張りとせん断の応力とひずみを算出し、さらに前記外力を与える前の接合材の厚みより、引張り方向および前記せん断方向のひずみエネルギーを算出する第3のステップと、前記接合材の各要素において、前記ひずみエネルギーが、前記破壊条件を満足しているかを判定し、前記破壊条件を満足する前記要素がある場合には、該要素に相当する接合部に破壊が生じたと判定する第4のステップとを有する、2つの被接合材が接合材を間に挟んで一体化された接合部の破壊を判定する方法であって、前記第2ステップにおいて、前記破壊プロセスを決定するに際し、前記接合材の引張りおよびせん断の応力−ひずみ曲線を設定し、該応力−ひずみ曲線上を経路として、応力ゼロの状態から応力−ひずみ曲線をひずみで積分した値が、予め試験により求められた前記各破壊エネルギーに等価になるまでの経路を第1の経路とし、前記第1経路の終点の応力からひずみが不変のまま前記応力が再びゼロになるまでを第2の経路とする、前記接合部の前記引張りおよびせん断方向の破壊プロセスを入力することを特徴とする接合部破壊判定方法。
【請求項2】
前記第2ステップにおいて、前記破壊プロセスを、複数の線形区間により近似することを特徴とする請求項1に記載の接合部破壊判定方法。
【請求項3】
前記接合部に用いられる前記接合材が樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の接合部破壊判定方法。
【請求項4】
前記接合部に用いられる前記接合材が接着剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の接合部破壊判定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
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【図5】
【図6】
【図7】
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【図10】
【図11】
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【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−32477(P2010−32477A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−197808(P2008−197808)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】
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