説明

接着剤組成物、および接着フィルム

【課題】常温における接着強度が優れた接着剤層を形成し得る接着剤組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る接着剤組成物は、スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とし、さらにイオン性液体を含み、イオン性液体の含有量が、ポリマーの含有量を100重量部としたときに、3重量部以上、30重量部以下である。これにより、常温における接着強度が優れている接着剤層を形成し得る接着剤組成物を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物に関するものである。さらに詳しくは、半導体ウェハー等の半導体製品や光学系製品等に対して研削等の加工をする工程において、当該半導体製品にシートや保護基板を一時的に固定するための接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、デジタルAV機器およびICカード等の高機能化にともない、搭載される半導体シリコンチップ(以下、チップ)の小型化、薄型化、および高集積化への要求が高まっている。例えば、CSP(chip size package)およびMCP(multi-chip package)に代表されるような複数のチップをワンパッケージ化する集積回路についてもその薄型化が求められている。その中において、一つの半導体パッケージの中に複数の半導体チップを搭載するシステム・イン・パッケージ(SiP)は、搭載されるチップを小型化、薄型化および高集積化し、電子機器を高性能化、小型化かつ軽量化を実現する上で非常に重要な技術となっている。
【0003】
薄型商品へのニーズに応えるためには、チップを150μm以下にまで薄くする必要がある。さらに、CSPおよびMCPにおいては100μm以下、ICカードにおいては50μm以下にチップを薄化加工する必要がある。
【0004】
従来、SiP製品には、積層したチップごとのバンプ(電極)と回路基板とを、ワイヤ・ボンディング技術により配線する手法が用いられている。また、このような薄型化や高集積化への要求に応えるためには、ワイヤ・ボンディング技術ではなく、貫通電極を形成したチップを積層し、チップの裏面にバンプを形成する貫通電極技術も必要となる。
【0005】
薄型のチップは、例えば、高純度シリコン単結晶などをスライスしてウェハーとした後、ウェハー表面にICなどの所定の回路パターンをエッチング形成して集積回路を組み込み、得られた半導体ウェハーの裏面を研削機により研削して、所定の厚さに研削後の半導体ウェハーをダイシングしてチップ化することにより製造されている。このとき、上記所定の厚さは、100〜600μm程度である。さらに、貫通電極を形成する場合は、厚さ50〜100μm程度にまで研削している。
【0006】
半導体チップの製造では、半導体ウェハー自体が肉薄で脆く、また回路パターンには凹凸があるので、研削工程やダイシング工程への搬送時に外力が加わると破損しやすい。また、研削工程においては、生じた研磨屑を除去したり、研磨時に発生した熱を除去するために精製水を用いて半導体ウェハー裏面を洗浄したりしながら研削処理している。このとき、洗浄に用いる上記精製水によって回路パターン面が汚染されることを防ぐ必要がある。
【0007】
そこで、半導体ウェハーの回路パターン面を保護するとともに、半導体ウェハーの破損を防止するために、回路パターン面に加工用粘着フィルムを貼着した上で、研削作業がおこなわれている。
【0008】
また、ダイシング時には、半導体ウェハー裏面側に保護シートを貼り付けて、半導体ウェハーを接着固定した状態でダイシングし、得られたチップをフィルム基材側からニードルで突き上げてピックアップし、ダイパッド上に固定させている。
【0009】
このような加工用粘着フィルムや保護シートとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの基材フィルムに接着剤組成物から形成した接着剤層が設けられたものが知られている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0010】
また、加工用粘着フィルムや保護シートの代わりに窒化アルミニウム−窒化硼素気孔焼結体にラダー型シリコーンオリゴマーを含浸せしめた保護基板を用い、この保護基板と半導体ウェハーとを熱可塑性フィルムを用いて接着する構成も開示されている(特許文献4)。また保護基板として半導体ウェハーと実質的に同一の熱膨張率のアルミナ、窒化アルミニウム、窒化硼素、炭化珪素等の材料を用い、また保護基板と半導体ウェハーとを接着する接着剤としてポリイミドなどの熱可塑性樹脂を用い、この接着剤の適用法として、10〜100μmの厚さのフィルムとする構成と、接着剤組成物をスピンコートし、乾燥させて20μm以下のフィルムにする方法が提案されている(特許文献5)。
【0011】
また、半導体素子の多層配線化に伴って、回路が形成された半導体ウェハーの表面に接着剤組成物を用いて保護基板を接着し、半導体ウェハーの裏面を研磨し、その後、研磨面をエッチングして鏡面にし、この鏡面に裏面側回路を形成するプロセスが実施されている。この場合、裏面側回路が形成されるまでは、保護基板は接着したままになっている(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−173993号公報(平成15年6月20日公開)
【特許文献2】特開2001−279208号公報(平成13年10月10日公開)
【特許文献3】特開2003−292931号公報(平成15年10月15日公開)
【特許文献4】特開2002−203821号公報(平成14年7月19日公開)
【特許文献5】特開2001−77304号公報(平成13年3月23日公開)
【特許文献6】特開昭61−158145号公報(昭和61年7月17日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、従来の加工用粘着フィルムなどは、貫通電極の形成のように、CVD等の高温プロセスおよび高真空プロセスを必要とする工程に用いるには、高温環境下における接着強度の不足、高真空環境下におけるガスの発生などによる接着不良が生じるという問題点、さらには、高温プロセス後における剥離時に残渣物が残存するなどの剥離不良が生じるという問題点を有している。
【0014】
例えば、貫通電極の形成では、半導体チップにバンプを形成した後、半導体チップ間を接続するとき、200℃程度まで加熱して、さらに高真空状態にするプロセスを要する。しかし、特許文献1および特許文献2にかかる保護テープの接着剤層を構成する接着剤組成物は、200℃もの高温に対する耐性が無い。また、加熱により接着剤層にガスが発生するため接着不良となる。
【0015】
また、薄型の半導体ウェハーは、研削またはダイシングの後、保護基板から剥離することが必要となる。しかし、特許文献3に開示される保護テープの接着剤層を構成する接着剤組成物は、エポキシ樹脂組成物であり、200℃もの高温ではエポキシ樹脂が変質して硬化するため、剥離時に残渣物が残り、剥離不良が生じるという問題点を有する。
【0016】
さらに、特許文献4および特許文献5にかかる保護基板と半導体ウェハーとの接着に用いられる熱可塑性フィルムでは、吸湿した水分に由来するガスを生じるため、接着不良の問題が生じる。特許文献6にかかる半導体基板の加工方法では、エッチング液による鏡面化プロセスや真空蒸着による金属膜形成がおこなわれるため、保護基板と半導体ウェハーとを接着するための接着剤組成物には、耐熱性、剥離性が要求される。しかし、特許文献6には、接着剤組成物の組成について全く開示がなされていない。
【0017】
また、本発明者らの調査では、半導体ウェハーやチップの加工において、アクリル系樹脂材料を用いた接着剤が、クラック耐性が良好であることから、好ましいとされている。しかし、このようなアクリル系樹脂材料を用いた接着剤においても、以下のような問題点を有することが判明した。
【0018】
(1)接着剤層と保護基板とを熱圧着したとき、接着剤層が吸湿した水分がガスとなって接着界面に泡状の剥がれを生じるため、高温環境下における接着強度が低い。また、このようなガスの発生は、高温環境下における接着強度を低下させるのみならず、真空条件による加工プロセスなどをおこなう場合において、真空環境の作製または保持に支障を来たす。
【0019】
(2)半導体ウェハーがアルカリ性スラリーやアルカリ性現像液などのアルカリ性の液体に触れる工程を有する場合、アルカリ性の液体によって接着剤組成物の接触面が剥離、溶解、分散などにより劣化してしまう。
【0020】
(3)約200℃に加熱した場合、耐熱性が低いため接着剤組成物が変質し、剥離液に不溶な物質が形成されるなど、剥離不良を生じる。
【0021】
これらの問題点を解決する方法として、本発明者らは、(1)樹脂のガラス転移温度を高くする方法、および(2)樹脂の分子量を増大させる方法を検討した。ガラス転移温度が高い樹脂を採用した場合には、高温環境下における接着強度が向上するものの、その一方で常温環境下(例えば、室温付近)における接着強度が低下するという問題が生じた。また、樹脂の分子量を増大させた場合には、樹脂の有機溶剤への溶解性が低下するという問題が生じた。有機溶剤への溶解性が低下すると、剥離液により保護基板と半導体ウェハーとを剥離させる際に、接着剤層の溶解速度が低下し、剥離に時間がかかってしまう。
【0022】
そこで、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温環境下における高い接着強度、高い耐熱性、および耐アルカリ性を有し、さらに、常温環境下における接着強度が高く、高温および/または高真空環境下における加工プロセスなど(以下、単に「高温プロセス」と表記する)を経た後でも半導体ウェハーおよびチップなどからの剥離が容易であり、かつその剥離速度が向上した接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明に係る接着剤組成物は、上記の問題を解決するために、スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物であって、イオン性液体をさらに含み、該イオン性液体の含有量が、上記ポリマーの含有量を100重量部としたときに、3重量部以上、30重量部以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る接着剤組成物は、特定の単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とし、かつイオン性液体を含んでいる。そのため、本発明に係る接着剤組成物によれば、常温環境下(特に、10℃〜30℃)における接着強度が優れた接着剤層を形成することができる。さらに、接着剤層を溶剤剥離する際に、剥離液に対する溶解速度が優れた接着剤層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔接着剤組成物〕
本発明の接着剤組成物は、接着剤としての用途に用いるのであれば、その具体的な用途は特に限定されるものではない。本実施の形態では、本発明の接着剤組成物をウェハーサポートシステムのために半導体ウェハーをサポートプレートに一時的に接着する用途に用いた場合を例に挙げて説明する。
【0026】
本発明に係る接着剤組成物は、スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とする。この構成により、接着剤組成物は、耐熱性、高温環境下における接着強度、耐アルカリ性、および高温プロセス後の剥離の容易性を備える。
【0027】
そして、後述するイオン性液体を含むことにより、本発明に係る接着剤組成物には、常温環境下における優れた接着強度、剥離液に対する優れた溶解速度がさらに備わっている。
【0028】
本明細書において「主成分」とは、本発明の接着剤組成物に含まれる他の何れの成分よりも、その含量が多いことをいう。よって、主成分の含有量は、接着剤組成物中に含まれる成分のうち、最も多い量である限り、限定されるものではないが、好ましくは、接着剤組成物の総量を100重量部としたとき、主成分の含有量は50重量部以上、100重量部以下が好ましく、さらに好ましくは70重量部以上、100重量部以下である。50重量部以上であれば、本発明の接着剤組成物が備える高い耐熱性、高温環境下(特に140℃〜200℃)における高い接着強度、および耐アルカリ性、高温プロセス後の剥離の容易性に係る効果が良好に発揮される。
【0029】
なお、本明細書における「サポートプレート」とは、半導体ウェハーを研削するときに、半導体ウェハーに貼り合せることによって、研削により薄化した半導体ウェハーにクラックおよび反りが生じないように保護するために用いられる基板のことである。
【0030】
(スチレン)
本発明に係る接着剤組成物は、単量体組成物に、スチレンを含む。スチレンは、200℃以上の高温環境下においても変質することが無いため、接着剤組成物の耐熱性が向上する。
【0031】
スチレンの混合量は、単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進む限り、限定されるものではなく、目的とする接着強度、耐熱性などの接着剤組成物の性質に応じて、適宜定めればよいが、スチレン、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、および鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルの総量を100重量部としたとき、スチレンの混合量が10重量部以上、55重量部以下であることが好ましく、より好ましくは、20重量部以上、40重量部以下である。10重量部以上であれば、耐熱性をさらに向上させることが可能であり、55重量部以下であれば、クラック耐性の低下を抑制することができる。
【0032】
(環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル)
本発明に係る接着剤組成物は、単量体組成物に、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを含む。これにより、接着剤組成物の耐熱性が向上する。また、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルを含むことにより、接着剤組成物におけるアクリル酸の必要量を削減し、剥離液による良好な剥離性を確保することが可能となる。
【0033】
環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸におけるカルボキシル基の水素原子が、環式基または環式基を有する有機基に置換された構造を有する。また環式基を有する有機基としては、特に限定されるものではないが、水素原子の一つが環式基に置換された、アルキル基が好ましい。
【0034】
環式基は、例えば、ベンゼン、ナフタレンおよびアントラセンなどから1個以上の水素原子を除いた芳香族性の単環式基および多環式基であってもよく、脂肪族環式基であってもよい。環式基は、さらに、後述する置換基を有していてもよい。
【0035】
なお、環式基の基本の環となる環状構造は、炭素原子および水素原子のみからなることに限定されず、酸素原子や窒素原子を含んでもよいが、炭素原子および水素原子のみからなる炭化水素基であることが好ましい。また炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよいが、飽和であることが好ましい。さらに、脂肪族多環式基であることが好ましい。
【0036】
脂肪族環式基の具体例としては、例えば、モノシクロアルカン、ならびにジシクロアルカン、トリシクロアルカンおよびテトラシクロアルカンなどのポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基等を例示できる。さらに具体的には、シクロペンタンおよびシクロヘキサンなどのモノシクロアルカン、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンなどのポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。中でも、シクロヘキサンまたはジシクロペンタンから1個以上の水素原子を除いた基が好ましい。また、シクロヘキサンおよびジシクロペンタンは、さらに後述する置換基を有していてもよい。
【0037】
置換基としては、例えば、水酸基、カルボキシル基、シアノ基、酸素原子(=O)およびアルキロール基などの極性基、ならびに炭素数1〜4の直鎖または分岐状の低級アルキル基が挙げられる。環式基が、さらに置換基を有する場合には、極性基、低級アルキル基、または極性基および低級アルキル基の両方を有することが好ましい。極性基としては、特に酸素原子(=O)が好ましい。
【0038】
水素原子の一つが環式基に置換されたアルキル基におけるアルキル基としては、炭素数が1〜12のアルキル基であることが好ましい。このような環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、シクロヘキシル−2−プロピルアクリレートが挙げられる。
【0039】
また、アルキロール基としては、炭素数1〜4のアルキロール基が好ましい。このような環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、フェノキシエチルアクリレートおよびフェノキシプロピルアクリレートが挙げられる。
【0040】
本明細書において「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、および化合物等を意味するものである。例えば「脂肪族環式基」とは、芳香族性を持たない単環式基または多環式基であることを示す。
【0041】
また、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルは、環式構造上に置換基を備える環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、環式構造上に置換基を有さない環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとを含む(メタ)アクリル酸エステルを用いてもよい。
【0042】
なお、接着剤組成物の主成分であるポリマーを構成する環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルは、1種類のみを用いてもよいし、また2種類以上を混合して用いてもよい。
【0043】
環式構造上に置換基を備える環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、環式構造上に置換基を有さない環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルとを同時に含むことによって、耐熱性および柔軟性を向上させることができる。
【0044】
環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルの混合量は、単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進む限り、限定されるものではなく、目的とする接着強度、耐熱性などの接着剤組成物の性質に応じて、適宜定めればよいが、スチレン、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、および鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルの総量を100重量部としたとき、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルの混合量が5重量部以上、60重量部以下であることが好ましく、より好ましくは、10重量部以上、40重量部以下である。5重量部以上であれば、耐熱性をさらに向上させることが可能であり、60重量部以下であれば、良好な剥離性を得ることができる。
【0045】
(鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステル)
本発明に係る接着剤組成物は、単量体組成物に、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む。これにより、接着剤組成物から得られる接着剤層の柔軟性、クラック耐性が向上する。
【0046】
本明細書において、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、炭素数15〜20のアルキル基を有するアクリル系長鎖アルキルエステルおよび炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルを意味する。
【0047】
アクリル系長鎖アルキルエステルとしては、アルキル基がn−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基もしくはn−エイコシル基などからなるアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なお、アクリル系長鎖アルキルエステルのアルキル基は、直鎖状であってもよいし、または分岐鎖を有していてもよい。
【0048】
炭素数1〜14のアルキル基を有するアクリル系アルキルエステルとしては、従来の(メタ)アクリル系接着剤に用いられている公知のエステルが挙げられる。例えば、アルキル基がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ラウリル基もしくはトリデシル基などからなるアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルを挙げることができる。
【0049】
なお、接着剤組成物の主成分であるポリマーを構成する鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種類のみを用いてもよいし、また2種類以上を混合して用いてもよい。
【0050】
鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合量は、単量体組成物に含まれる他の化合物と共重合反応が進む限り、限定されるものではなく、目的とする接着強度、耐熱性などの接着剤組成物の性質に応じて、適宜定めればよいが、スチレン、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、および鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルの総量を100重量部としたとき、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合量が10重量部以上、60重量部以下であることが好ましい。10重量部以上であれば、得られる接着剤層の柔軟性およびクラック耐性をさらに向上させることが可能であり、60重量部以下であれば、耐熱性の低下、剥離不良および吸湿性を抑制することができる。
【0051】
(イオン性液体)
本発明に係る接着剤組成物は、イオン性液体を含む。イオン性液体は、「イオン液体」、「常温溶融塩」とも称し、室温で液体状として存在する有機化合物の塩である。本発明に係る接着剤組成物は、イオン性液体を含むことにより、常温環境下(特に10℃〜30℃)における接着強度が優れた接着剤層を形成することができる。さらに、接着剤層を溶剤剥離する際の、剥離液に対する溶解速度が優れた接着剤層を形成することができる。
【0052】
一般的に、イオン性液体は沸点が高いため、高温プロセスにおいてもイオン性液体の蒸発が抑えられる。したがって、高温プロセスを経た後においても、接着剤組成物中にはイオン性液体が残存している。そのため、接着剤組成物が高温プロセスを経ても、常温環境下における優れた接着強度が維持されている。また、剥離液に対する優れた溶解速度も維持されているため、高温プロセスを経た後のサポート基板の剥離時間を短縮でき、スループットを向上させることができる。
【0053】
イオン性液体としては、ピリジニウム塩誘導体、イミダゾリウム塩誘導体、脂肪族アミン塩誘導体、脂環式アミン塩誘導体、脂肪族ホスホニウム塩誘導体および芳香族アミン塩誘導体が挙げられる。
【0054】
上述の通り、本明細書において「脂肪族」とは、芳香族性を持たない基、および化合物等を指す。また、「脂環式」とは、芳香族性を持たず、かつ環式構造を有する基、および化合物等を意味するものである。
【0055】
上記ピリジニウム塩誘導体は、カチオン成分がピリジニウム骨格を有する化合物であるイオン性液体であり、好ましくは、カチオン成分が下記一般式(1)で表される化合物である。
【0056】
【化1】

【0057】
(式(1)中、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基を表す。)
上記一般式(1)で表されるカチオンとしては、例えば、1−メチルピリジニウムカチオン、1−ブチルピリジニウムカチオン、1−ヘキシルピリジニウムカチオン、1−オクチルピリジニウムカチオン、1−ブチル−3−メチルピリジニウムカチオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムカチオン、1−ヘキシル−4−メチルピリジニウムカチオンおよび1−オクチル−4−メチルピリジニウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
一方、本発明に用いるイオン性液体におけるアニオン成分としては、カチオン成分と塩を形成した際にイオン性液体の性質を呈するものであれば特に限定されず、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、硝酸イオン、チオシアン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオンおよび下記一般式(7)で表される化合物を挙げることができる。
【0059】
【化2】

【0060】
(式(7)中、R22は、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基またはフッ素化アルキレン基を表す。)
また、上記一般式(7)で表される化合物としては、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドイオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドイオンおよびビス(パーフルオロブチルスルホニル)イミドイオンなどが挙げられる。
【0061】
本発明に用いられるピリジニウム塩誘導体のイオン性液体は、上記カチオン成分と上記アニオン成分との組み合わせから適宜選択して用いられる。また当該組み合わせのうち、1種類のみを用いてもよく、または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0062】
ピリジニウム塩誘導体のイオン性液体としては、例えば、1−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ヘキシルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−オクチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ヘキシル−4−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ヘキシル−4−メチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、1−オクチル−4−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチルピリジニウムビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドおよび1−メチルピリジニウムビス(パーフルオロブチルスルホニル)イミドなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
上記イミダゾリウム塩誘導体は、カチオン成分がイミダゾリウム骨格を有する化合物であるイオン性液体であり、好ましくは、カチオン成分が下記一般式(2)で表される化合物である。
【0064】
【化3】

【0065】
(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜5の炭化水素基を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
上記一般式(2)で表されるカチオンとしては、例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオンおよび1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
アニオン成分については、上述のアニオン成分の説明を準用できる。
【0067】
本発明に用いられるイミダゾリウム塩誘導体のイオン性液体は、上記カチオン成分と上記アニオン成分との組み合わせから適宜選択して用いられる。また当該組み合わせのうち、1種類のみを用いてもよく、または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0068】
イミダゾリウム塩誘導体のイオン性液体としては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよび1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
上記脂肪族アミン塩誘導体は、カチオン成分が脂肪族アミン化合物であるイオン性液体であり、好ましくは、カチオン成分が、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0070】
【化4】

【0071】
(式(3)中、R,R,RおよびR10は、それぞれ独立に、炭素数1〜10の直鎖状または分枝鎖状の炭化水素基を表す。)
上記一般式(3)で表されるカチオンとしては、例えば、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラペンチルアンモニウムカチオン、トリオクチルメチルアンモニウムカチオン、トリメチルヘキシルアンモニウムカチオン、トリメチルプロピルアンモニウムカチオン、N,N−ジメチル−N,N−ジデシルアンモニウムカチオン、N,N−ジアリル−N−ヘキシル−N−メチルアンモニウムカチオンおよびトリメチルエチルアンモニウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
アニオン成分については、上述のアニオン成分の説明を準用できる。
【0073】
本発明に用いられる脂肪族アミン塩誘導体のイオン性液体は、上記カチオン成分と上記アニオン成分との組み合わせから適宜選択して用いられる。また当該組み合わせのうち、1種類のみを用いてもよく、または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0074】
脂肪族アミン塩誘導体のイオン性液体としては、例えば、N,N−ジアリル−N−ヘキシル−N−メチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリオクチルメチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリオクチルメチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸塩、トリオクチルメチルアンモニウム−p−トルエンスルホン酸塩、トリオクチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩、トリオクチルメチルアンモニウムトリフルオロ酢酸塩、トリオクチルメチルアンモニウム硝酸塩、トリオクチルメチルアンモニウムドデシルベンゼンスルホン酸塩、トリメチルヘキシルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、テトラブチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよびN,N−ジメチル−N,N−ジデシルアンモニウムチオシアン酸塩などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
上記脂環式アミン塩誘導体は、カチオン成分が脂環式アミン化合物であるイオン性液体であり、好ましくは、カチオン成分が、下記一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0076】
【化5】

【0077】
(式(4)中、R11およびR12は、それぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R13は、炭素数2〜5の2価の炭化水素基またはエーテル結合を有する炭素数2〜5の2価の有機基を表す。)
上記一般式(4)で表されるカチオンとしては、例えば、1−メチル−1−ブチルピペリジニウムカチオン、1−メチル−1−エチルピロリジニウムカチオン、1−メチル−1−ブチルピロリジニウムカチオン、4−メチル−4−ヘキシルモルホリニウムカチオン、1−メチル−1−エチルピペリジニウムカチオンおよび4−メチル−4−エチルモルホリニウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
アニオン成分については、上述のアニオン成分の説明を準用できる。
【0079】
本発明に用いられる脂環式アミン塩誘導体のイオン性液体は、上記カチオン成分と上記アニオン成分との組み合わせから適宜選択して用いられる。また当該組み合わせのうち、1種類のみを用いてもよく、または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0080】
脂環式アミン塩誘導体のイオン性液体としては、例えば、1−メチル−1−ブチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチル−1−エチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチル−1−ブチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、4−メチル−4−ヘキシルモルホリニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチル−1−エチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよび4−メチル−4−エチルモルホリニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
上記脂肪族ホスホニウム塩誘導体は、カチオン成分が脂肪族ホスホニウム化合物であるイオン性液体であり、好ましくは、カチオン成分が、下記一般式(5)で表される化合物であることが好ましい。
【0082】
【化6】

【0083】
(式(5)中、R14,R15,R16およびR17は、それぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖状または分枝鎖状の炭化水素基を表す。)
上記一般式(5)で表されるカチオンとしては、例えば、テトラブチルホスホニウムカチオン、トリイソブチルメチルホスホニウムカチオン、テトラペンチルホスホニウムカチオンおよびテトラヘキシルホスホニウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
アニオン成分については、上述のアニオン成分の説明を準用できる。
【0085】
本発明に用いられる脂肪族ホスホニウム塩誘導体のイオン性液体は、上記カチオン成分と上記アニオン成分との組み合わせから適宜選択して用いられる。また当該組み合わせのうち、1種類のみを用いてもよく、または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0086】
脂肪族ホスホニウム塩誘導体のイオン性液体としては、例えば、テトラブチルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、テトラペンチルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよびテトラヘキシルホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0087】
上記芳香族アミン塩誘導体は、カチオン成分が芳香環を有するアミンであるイオン性液体であり、好ましくは、カチオン成分が、下記一般式(6)で表される化合物であることが好ましい。
【0088】
【化7】

【0089】
(式(6)中、R18,R19,R20およびR21は、それぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝鎖状の炭化水素基、または芳香環を有する炭素数6〜14の炭化水素基を表し、R18,R19,R20およびR21の少なくとも1つは芳香環を有する炭化水素基である。)
上記一般式(6)で表されるカチオンとしては、例えば、フェニルトリメチルアンモニウムカチオン、ジメチルエチルフェニルアンモニウムカチオンおよびジエチルメチルフェニルアンモニウムカチオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
アニオン成分については、上述のアニオン成分の説明を準用できる。
【0091】
本発明に用いられる芳香族アミン塩誘導体のイオン性液体は、上記カチオン成分と上記アニオン成分との組み合わせから適宜選択して用いられる。また当該組み合わせのうち、1種類のみを用いてもよく、または2種類以上を混合して用いてもよい。
【0092】
芳香族アミン塩誘導体のイオン性液体としては、例えば、フェニルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ジメチルエチルフェニルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよびジエチルメチルフェニルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
なお、本発明に係る接着剤組成物に含有されるイオン性液体は、ピリジニウム塩誘導体、イミダゾリウム塩誘導体、脂肪族アミン塩誘導体、脂環式アミン塩誘導体、脂肪族ホスホニウム塩誘導体および芳香族アミン塩誘導体のうち、1種類のみを用いてもよいし、また2種類以上を混合して用いてもよい。
【0094】
上記したイオン性液体の中でも、上記一般式(1)で表されるカチオン成分を含むピリジニウム塩誘導体のイオン性液体であることがより好ましい。このピリジニウム塩誘導体のイオン性液体は、他のイオン性液体よりも接着剤組成物における相溶性が良好である。そのため、他のイオン性液体よりも添加量を増やすことができる。
【0095】
その中でも、下記一般式(8)で表される化合物であるイオン性液体を用いることが、さらに好ましい。
【0096】
【化8】

【0097】
(式(8)中、R23は、炭素数1〜8のアルキル基を表し、R24は、水素原子またはメチル基を表し、R25は、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基または炭素数1〜3のフッ素化アルキレン基を表す。)
その中で特に好ましいイオン性液体は、それぞれ下記式(9)〜(11)で表される、1−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ヘキシル−4−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドおよび1−オクチル−4−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである。
【0098】
【化9】

【0099】
【化10】

【0100】
イオン性液体の含有量は、主成分として含まれるポリマー、ならびに接着剤組成物の用途および使用環境に応じて適宜決定すればよいが、接着剤組成物の主成分であるポリマーの含有量を100重量部としたときに、3重量部以上、30重量部以下であることが好ましく、10重量部以上、27重量部以下であることがより好ましく、15重量部以上、23重量部以下であることが最も好ましい。3重量部以上とすることにより、常温環境下における接着強度を向上させ、剥離液に対する溶解速度を向上させることができる。また、30重量部以下とすることにより、イオン性液体を接着剤組成物中に良好に混合することができる。そのため、イオン性液体を含むことによる上記効果を確実に得ることができる。
【0101】
(接着剤組成物におけるその他の成分)
本実施の形態に係る接着剤組成物には、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、混和性のある添加剤、例えば接着剤の性能を改良するための付加的樹脂、可塑剤、接着助剤、安定剤、着色剤および界面活性剤などの慣用されているものをさらに添加することができる。
【0102】
さらに、接着剤組成物は、本発明における本質的な特性を損なわない範囲において、粘度調整のために有機溶剤を用いて希釈してもよい。有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールまたはジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類およびその誘導体;ジオキサンなどの環式エーテル類;および乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特に、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、ジプロピレングリコールまたはジプロピレングリコールモノアセテートのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテルまたはモノフェニルエーテルなどの多価アルコール類およびその誘導体がより好ましい。
【0103】
有機溶剤の使用量は、接着剤組成物を塗布する膜厚に応じて適宜設定されるものであり、接着剤組成物が半導体ウェハーなどの支持体上に塗布可能な濃度であればよく、特に限定されるものではない。一般的には、接着剤組成物の固形分濃度が20〜70重量%、より好ましくは25〜60重量%の範囲内となるように用いられる。
【0104】
〔接着剤組成物の調製方法〕
(共重合反応)
単量体組成物の共重合反応は、公知の方法により行えばよく、特に限定されるものではない。例えば、既存の攪拌装置を用いて、単量体組成物を攪拌することにより、本発明に係る接着剤組成物を得ることができる。
【0105】
共重合反応における温度条件は、適宜設定すればよく、限定されるものではないが、60℃〜150℃であることが好ましく、さらに好ましくは70℃〜120℃である。
【0106】
また、共重合反応においては、適宜、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、上記した有機溶剤を用いることができ、中でもプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、「PGMEA」と表記する)がより好ましい。
【0107】
また、本実施の形態に係る共重合反応においては、適宜、重合開始剤を用いてもよい。重合開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などのアゾ化合物;デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、適宜2種以上を混合して用いてもよい。また、重合開始剤の使用量は、単量体組成物の組み合わせや反応条件などに応じて適宜設定すれば良く、特に限定されるものではない。
【0108】
本発明に用いるポリマーの重量平均分子量の好ましい範囲としては、10000〜300000が好ましく、20000〜200000がより好ましく、30000〜150000特に好ましい。10000以上とすることにより、良好な柔軟性を持たせることができる。300000以下とすることにより、耐熱性が良好となる。
【0109】
(イオン性液体の混合)
接着剤組成物である樹脂液にイオン性液体を所望の濃度で添加し、混合することにより、本発明に係るイオン性液体を含む接着剤組成物を得ることができる。
【0110】
〔接着フィルム〕
上述した本発明に係る接着剤組成物は、用途に応じて様々な利用形態を採用することができる。例えば、液状のまま、半導体ウェハーなどの被加工体の上に塗布して接着剤層を形成する方法を用いてもよいし、本発明に係る接着フィルム、すなわち、予め可撓性フィルムなどのフィルム上に上記のいずれかの接着剤組成物を含む接着剤層を形成した後、乾燥させておき、このフィルム(接着フィルム)を、被加工体に貼り付けて使用する方法(接着フィルム法)を用いてもよい。
【0111】
このように、本発明に係る接着フィルムは、フィルム上に、上記のいずれかの接着剤組成物を含有する接着剤層を備える。
【0112】
そのため、接着剤層を構成する接着剤組成物の耐熱性が向上し、耐熱性、高温環境下における接着強度の優れた接着フィルムを得ることができる。また、接着剤組成物が、イオン性液体を含有することにより、接着剤層の常温環境下における接着強度が向上した接着フィルムを得ることができる。また、剥離液に接触させたときの溶解速度が向上した接着フィルムを得ることができる。
【0113】
接着フィルムは、接着剤層にさらに保護フィルムを被覆して用いてもよい。この場合には、接着剤層上の保護フィルムを剥離し、被加工体の上に露出した接着剤層を重ねた後、接着剤層から上記フィルムを剥離することによって被加工体上に接着剤層を容易に設けることができる。
【0114】
したがって、この接着フィルムを用いれば、被加工体の上に直接、接着剤組成物を塗布して接着剤層を形成する場合と比較して、膜厚均一性および表面平滑性の良好な接着剤層を形成することができる。
【0115】
接着フィルムの製造に使用する上記フィルムとしては、フィルム上に製膜された接着剤層を当該フィルムから剥離することができ、接着剤層を保護基板やウェハーなどの被処理面上に転写できる離型フィルムであれば限定されるものではない。例えば、膜厚15〜125μmのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、およびポリ塩化ビニルなどの合成樹脂フィルムからなる可撓性フィルムが挙げられる。上記フィルムには、必要に応じて、転写が容易となるように離型処理が施されていることが好ましい。
【0116】
上記フィルム上に接着剤層を形成する方法としては、所望する接着剤層の膜厚や均一性に応じて適宜、公知の方法を用いてフィルム上に接着剤層の乾燥膜厚が10〜1000μmとなるように、本発明に係る接着剤組成物を塗布する方法が挙げられる。
【0117】
また、保護フィルムを用いる場合、保護フィルムとしては、接着剤層から剥離することができる限り限定されるものではないが、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリエチレンフィルムが好ましい。また、各保護フィルムは、シリコンをコーティングまたは焼き付けしてあることが好ましい。接着剤層からの剥離が容易となるからである。保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが15〜125μmが好ましい。保護フィルムを備えた接着フィルムの柔軟性を確保できるからである。
【0118】
接着フィルムの使用方法は、特に限定されるものでは無いが、例えば、保護フィルムを用いた場合には、これを剥離した上で、被加工体の上に露出した接着剤層を重ねて、フィルム上(接着剤層の形成された面の裏面)から加熱ローラを移動させることにより、接着剤層を被加工体の表面に熱圧着させる方法が挙げられる。このとき、接着フィルムから剥離した保護フィルムは、順次巻き取りローラなどのローラでロール状に巻き取れば、保存し再利用することが可能である。
【0119】
本実施形態の接着剤組成物は接着剤組成物として接着用途に用いられる限り、特に限定されるものではないが、半導体ウェハーの精密加工用保護基板を半導体ウェハーなどの基板に接着するための接着剤組成物として好適に用いることができる。本発明の接着剤組成物は、特に、半導体ウェハーなどの基板を研削して薄板化する際に、当該基板をサポートプレートに貼り付けるための接着剤組成物として、好適に用いることができる(例えば、特開2005−191550号公報)。
【0120】
〔剥離液〕
本実施形態に係る接着剤組成物を取り除くための剥離液、すなわち接着剤組成物を溶解させ、本接着剤組成物より形成されている接着剤層を剥離させる剥離液としては、通常用いられる剥離液を用いることができるが、特にPGMEAおよび酢酸エチル、ならびにメチルエチルケトンを主成分とする剥離液が環境負荷および剥離性の点で好ましい。
【0121】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0122】
まず、接着剤組成物の具体的な調製方法について説明する。
【0123】
接着剤組成物の主成分であるポリマーAを以下の方法により調製した。
【0124】
還流冷却器、撹拌機、温度計、窒素導入管を備えた容量300mlの4つ口フラスコに、溶剤としてPGMEA53.85g、ならびに、モノマー単量体として、表1に示すように、フェノキシエチルアクリレート3g、メタクリル酸メチル27g、イソボルニルメタクリレート18g、およびスチレン52gを仕込み、Nの吹き込みを開始した。攪拌をはじめることで重合を開始させ、攪拌しながら90℃まで昇温した後、PGMEA38.45gおよびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.2gからなる混合液を滴下ノズルより、2時間かけて連続的に滴下した。滴下速度は一定とした。
【0125】
滴下終了後に得られた重合反応液を、そのまま1時間、90℃で熟成した後、PGMEA25.10gおよびt−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート0.3gからなる混合液を1時間かけて滴下した。その後、重合反応液を、さらにそのまま1時間、90℃で熟成した後、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート1.0gを一括投入した。次に、重合反応液を、そのまま3時間、90℃で熟成した後、溶剤の還流が認められるまで重合反応液を昇温して、1時間熟成し、重合を終了させポリマーAを合成した。
【0126】
ポリマーBは、単量体組成物中に、さらにアクリル酸5gを含んでいる点以外は、ポリマーAと同様にして調製した。
【0127】
ポリマーAおよびポリマーBにおける単量体組成物の組成、および重合により得られたポリマーの平均分子量を表1に示す。表1の組成は、フェノキシエチルアクリレートと、メタクリル酸メチルと、イソボニルメタクリレートと、スチレンとの総量を100重量部としたときの重量部で表している。
【0128】
【表1】

【0129】
上記ポリマーAまたはポリマーB、およびイオン性液体をそれぞれPGMEAに溶解して、アクリル系ポリマーの濃度が35重量%の接着剤組成物となるように実施例1〜7および比較例1〜3に係る接着剤組成物を調製した。
【0130】
なお本実施例では、イオン性液体として、下記化学式(9)、(10)または(11)で表される化合物を用いた。
【0131】
【化11】

【0132】
【化12】

【0133】
実施例1〜7および比較例1〜3に係る実施例に係る各接着剤組成物におけるポリマーおよびイオン性液体、ならびにイオン性液体の添加量を表2に示す。表2に示しているイオン性液体の添加量は、ポリマーを100重量部としたときの重量部で表している。
【0134】
【表2】

【0135】
実施例1〜7および比較例1〜3に係る各接着剤組成物を6インチシリコンウェハー上に塗布した後、110℃、150℃、および200℃でそれぞれ3分間、合計9分間乾燥して、上記シリコンウェハー上に、膜厚15μmの塗膜を形成した。
【0136】
以下に、このシリコンウェハー上に調製した各接着剤組成物を用いて、測定した結果について説明する。
【0137】
(相溶性の評価)
シリコンウェハー上に塗布した後の、塗膜層の白濁の有無を目視により観察し、白濁が有ったものを「×」、無しのものを「○」として評価した。
【0138】
(接着強度の評価)
シリコンウェハー上に形成した接着剤組成物の塗膜層に、ガラス基板を200℃、1kgの加重で接着させた。そのガラス基板を引っ張り、ガラス基板がシリコンウェハーから剥がれたときの接着強度を縦型電動計測スタンドMX−500N(株式会社イマダ社製)を用いて算出した。25℃における接着強度が、イオン性液体を添加していない接着剤組成物における接着強度の110%以上である場合を「○」とし、110%未満である場合を「×」として評価した。
【0139】
(溶解速度の測定)
各シリコンウェハーをPGMEAに浸漬させ、PGMEAに浸漬させてから塗膜が完全に溶解するまでの時間を計測し、塗膜の厚さと、溶解時間との関係から溶解速度(nm/sec)を算出した。溶解速度が、イオン性液体を添加していない接着剤組成物における溶解速度の105%以上である場合を「○」とし、105%未満である場合を「×」として評価した。
【0140】
実施例1〜7および比較例1〜3の接着剤組成物に対して、相溶性、25℃における接着強度、および溶解速度を比較した。その結果を表3に示す。なお、比較例2に関しては、イオン性液体の相溶性が良好でなかったために、接着強度および溶剤溶解性についての評価は実施しなかった。
【0141】
【表3】

【0142】
表3に示すように、本発明に係る接着剤組成物を用いた実施例においては、いずれも常温における接着強度が高まり、塗膜層の溶剤に対する溶解速度が向上することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明に係る接着剤組成物および接着フィルムは、高い耐熱性を有し、高温および室温における接着強度、および高温プロセス後における溶解性に優れている。よって、高温プロセスを経る半導体ウェハーまたはチップの加工工程に、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンと、環式構造を有する(メタ)アクリル酸エステルと、鎖式構造からなる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとを含む単量体組成物を共重合してなるポリマーを主成分とする接着剤組成物であって、
イオン性液体をさらに含み、該イオン性液体の含有量が、上記ポリマーの含有量を100重量部としたときに、3重量部以上、30重量部以下であることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記イオン性液体が、ピリジニウム塩誘導体、イミダゾリウム塩誘導体、脂肪族アミン塩誘導体、脂環式アミン塩誘導体、脂肪族ホスホニウム塩誘導体および芳香族アミン塩誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの化合物であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記ピリジニウム塩誘導体のカチオン成分が、下記一般式(1)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載の接着剤組成物。
【化1】

(式(1)中、Rは、炭素数1〜10の炭化水素基を表し、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基を表す。)
【請求項4】
上記イミダゾリウム塩誘導体のカチオン成分が、下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載の接着剤組成物。
【化2】

(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜5の炭化水素基を表し、Rは、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を表す。)
【請求項5】
上記脂肪族アミン塩誘導体のカチオン成分が、下記一般式(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載の接着剤組成物。
【化3】

(式(3)中、R,R,RおよびR10は、それぞれ独立に、炭素数1〜10の直鎖状または分枝鎖状の炭化水素基を表す。)
【請求項6】
上記脂環式アミン塩誘導体のカチオン成分が、下記一般式(4)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載の接着剤組成物。
【化4】

(式(4)中、R11およびR12は、それぞれ独立に炭素数1〜10の炭化水素基を表し、R13は、炭素数2〜5の2価の炭化水素基またはエーテル結合を有する炭素数2〜5の2価の有機基を表す。)
【請求項7】
上記脂肪族ホスホニウム塩誘導体のカチオン成分が、下記一般式(5)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載の接着剤組成物。
【化5】

(式(5)中、R14,R15,R16およびR17は、それぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖状または分枝鎖状の炭化水素基を表す。)
【請求項8】
上記芳香族アミン塩誘導体のカチオン成分が、下記一般式(6)で表される化合物であることを特徴とする請求項2に記載の接着剤組成物。
【化6】

(式(6)中、R18,R19,R20およびR21は、それぞれ独立に炭素数1〜10の直鎖状もしくは分枝鎖状の炭化水素基、または芳香環を有する炭素数6〜14の炭化水素基を表し、R18,R19,R20およびR21の少なくとも1つは芳香環を有する炭化水素基である。)
【請求項9】
上記イオン性液体のアニオン成分が、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、硝酸イオン、チオシアン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオンおよび下記一般式(7)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の接着剤組成物。
【化7】

(式(7)中、R22は、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基またはフッ素化アルキレン基を表す。)
【請求項10】
上記イオン性液体が、下記一般式(8)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【化8】

(式(8)中、R23は、炭素数1〜8のアルキル基を表し、R24は、水素原子またはメチル基を表し、R25は、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基または炭素数1〜3のフッ素化アルキレン基を表す。)
【請求項11】
フィルム上に、請求項1から10の何れか1項に記載の接着剤組成物を含有している接着剤層を備えていることを特徴とする接着フィルム。

【公開番号】特開2011−6595(P2011−6595A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152215(P2009−152215)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】