説明

接着剤組成物、接着方法、及びそれを用いた接着体

【課題】耐水性に優れ、ホルムアルデヒドを放散する原料を使用せず、保存安定性に優れ、増粘や発泡が少なく作業性も良好である等の特徴を有し、木工、紙工、繊維などの用途に極めて有用な接着剤組成物、接着方法、接着体を提供することである。
【解決手段】酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)、ブロック化多価イソシアネート化合物(B)を含有することを特徴とする接着剤組成物であり、同接着剤組成物を塗布後、接着層を加熱することを特徴とする接着方法であり、同接着剤組成物を用いて、突き板、化粧紙、または吸水性シート状素材を接着した接着体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性に優れ、ホルムアルデヒドを放散する原料を使用せず、保存安定性に優れ、作業性も良好である等の特徴を有し、特に突き板、化粧紙、または吸水性シート状素材などの接着に好適な接着剤組成物であり、この接着剤組成物を用いた接着体、接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木工、紙工、繊維加工などの用途に使用される接着剤において、高度な接着力、耐水性などが求められる場合には、メラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化性樹脂、またはN−メチロールアクリルアミドなどの架橋性モノマーを共重合させた酢酸ビニル樹脂エマルジョンなどが使用されてきた。しかし、これらの樹脂はいずれもホルムアルデヒドを放散する。ホルムアルデヒドは有害性を持つことが知られていたが、建築基準法の改正によって一定基準以上のホルムアルデヒドを放散する部材の使用が禁止、または制限されたことから、これまで以上にホルムアルデヒドを放散する接着剤及びこれを用いて製造された部材の使用が避けられる傾向にある。
【0003】
これに対応する手段として、ポリビニルアルコール(以下 PVAと略す)にアセトアセチル基を導入したアセトアセチル化ポリビニルアルコールを保護コロイドとして使用するとともに、アセトアセチル基含有モノマーと酢酸ビニルとを乳化共重合させ、アセトアセチル基の架橋により耐水性、接着力強化などを実現する方法が検討されてきた。一方、接着剤の保存中にアセトアセチル基同士の自己架橋反応が進行していまい、増粘、固化してしまうという問題がある。添加剤等による改善検討も行われているが、未だ有効な方法は見出されていない。
【0004】
また、架橋剤としてジフェニルメタンジイソシアネート等の多価イソシアネート化合物を用いる方法も検討されているが、イソシアネート化合物は配合後の増粘が著しい、水と反応することにより二酸化炭素を発生して接着剤が発泡する、塗布具(木工用に関しては多くの場合スプレッダーロール)の洗浄性が悪い等の作業上の問題があった。
【特許文献1】特開昭61−197649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題を解決すべく、耐水性に優れ、ホルムアルデヒドを放散する原料を使用せず、保存安定性に優れ、増粘や発泡が少なく作業性も良好である等の特徴を有し、木工、紙工、繊維などの用途に極めて有用な接着剤組成物、接着方法、接着体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題に対し、通常条件下においては安定であり、特定の条件下においてブロック基が脱離することによって活性なイソシアネート基を生成するブロック化イソシアネート化合物に着目し、鋭意研究を行った結果、本発明が完成するに至った。
【0007】
本発明は、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)、ブロック化多価イソシアネート化合物(B)を含有することを特徴とする接着剤組成物であり、同接着剤組成物を塗布後、接着層を加熱することを特徴とする接着方法であり、同接着剤組成物を用いて、突き板、化粧紙、または吸水性シート状素材を接着した接着体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明になる接着剤組成物は、耐水性に優れ、ホルムアルデヒドを放散する原料を使用しないため環境安全性、保存安定性に優れるため、取り扱いが容易である。また、接着作業時の増粘や発泡が少なく、塗布器具の洗浄が容易なため、木工、紙工、繊維などの用途に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)は、PVA、界面活性剤等の存在下で酢酸ビニルまたは酢酸ビニルと他のモノマーを共重合して得られる樹脂エマルジョンである。モノマー組成により、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、エチレン・酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン(以下、EVAエマルジョン略す)と、酢酸ビニル・アクリル共重合系樹脂エマルジョン、エチレン・酢酸ビニル・アクリル共重合系樹脂エマルジョン等がある。また、樹脂エマルジョンの存在下で酢酸ビニル等を重合したものであっても良い。
【0010】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)は、接着用途によって適切な選択が必要となる必要がある。例えば、合板に突き板を接着する天然木化粧合板を製造する場合、突き板の干割れを防ぐため、接着剤皮膜が柔軟であることが必要である。このような場合は、EVAエマルジョン又は/及び造膜温度が0℃以下の樹脂エマルジョンの存在下で酢酸ビニルまたは酢酸ビニルと共重合可能なモノマーを重合して得られた酢酸ビニル系樹脂エマルジョンが好ましい。酢酸ビニルのみを重合して得られた樹脂エマルジョンの場合は干割れが発生しやすい。これは可塑剤の添加により改善が可能であるものの、可塑剤は広義のVOC成分であり、環境面からは好ましくない。
【0011】
ブロック化多価イソシアネート化合物(B)は、ブロック基によって保護されたイソシアネート基を複数持つ化合物である。熱、pH調整、適当な触媒の添加等の方法により、ブロック基を脱離させ、活性なイソシアネート基を生成する。多価イソシアネート化合物をブロック化したものに限らず、ポリアリルアミンのようなアミンを含有する化合物をメトキシカルボニル化し、メトキシ基が脱離することにより結果的にイソシアネートを生成するようなものであっても良い。
【0012】
多価イソシアネート化合物をブロック化することによりブロック化多価イソシアネート化合物を得る方法としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、イソホロンジイソシアネート、前記イソシアネート類由来の3官能体(アダクト体、イソシアヌレート体、ビュレット体)、前記イソシアネート類由来のポリイソシアネートなどに対して、メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、ラウリルアルコール、t−ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類や、キシレノール、ナフトール、4−メチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノールなどのフェノール類などをブロック化剤として反応させる方法が挙げられる。
【0013】
接着剤組成物の配合、被着材への塗布時にはイソシアネート基が保護されており架橋反応が進行しないため、増粘、発泡が少なく、塗布器具の洗浄性も良好である。接着剤組成物を被着材に塗布後、好ましくは被着材を貼り合わせ後に、ブロック基の脱離条件を与えることによってブロック基が脱離し、イソシアネート基が生成して架橋反応が進行し、耐水性が得られる。接着剤組成物を被着材に塗布後、または被着材を貼り合わせ後にブロック基を脱離させるためには、ブロック化多価イソシアネート化合物(B)が、熱によって脱離するブロック基を有することが好ましい。熱脱離型ブロック基であれば、熱盤、熱ロール、熱風、高周波等の方法によって加熱を行うことで、容易にイソシアネート基を生成させることができる。また、圧締と加熱は熱盤による圧締、ヒートロール、高周波プレス等の方法により同時に行っても良いし、別々に行っても良い。圧締と加熱を別々に行う場合、予め加熱を行い、次いで圧締を行う方法が好ましい。酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)の固形分100重量部に対するブロック化多価イソシアネート化合物(B)の割合は、固形分で0.1〜10重量部が好ましい。0.1重量部未満の場合、十分な耐水性が得られない。また、10重量部を超えて配合しても、耐水性はこれ以上向上しないためコスト的に不利となる。
【0014】
本発明の接着剤組成物の第三成分として、木粉、椰子粉、クルミ粉、小麦粉、米粉、動物性蛋白質、炭酸カルシウム、ゼオライト、クレーから選ばれる群の少なくとも1種類以上(C)を用いることができる。これらは、接着剤組成物を適度に増粘する、被着材の表面へ接着剤組成物が染み出すことを防止する、接着剤組成物の固形分を上げる、などの効果がある。酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)の固形分100重量部に対する(C)の割合は、0〜300重量部が好ましい。300重量部を超えると接着剤組成物中の樹脂割合が低くなり、接着性能が低下する。また、これらの添加によって接着剤組成物が増粘する場合があるが、水を添加する等の方法により適宜粘度調整を行うことができる。
【0015】
その他、必要に応じて粘着付与樹脂、充填剤、増粘剤、分散剤、レベリング剤、耐水化剤、防腐剤、消泡剤、界面活性剤などを添加することができる。また、被着体を熱盤で加熱する場合、離型剤を添加しておくことによって、熱盤に接着剤組成物が付着した場合でも容易に除去できる。なお、本発明の接着剤組成物はホルムアルデヒドやホルムアルデヒドを放散する原料を使用していないが、合板のようなホルムアルデヒドを放散するおそれがある被着材に対して使用する場合については、アルデヒドと反応する公知のホルムアルデヒドキャッチャー剤を添加しても良い。
【0016】
本発明の接着剤組成物は、耐水性に優れ、ホルムアルデヒドを放散する原料を使用しないため環境安全性、保存安定性に優れる。また、接着作業時の増粘や発泡が少なく、塗布器具の洗浄が容易なため、木工、紙工、繊維などの用途に有用である。特に突き板、化粧紙、吸水性シート状素材等の接着に関しては、シワの発生を防ぎ、生産性を向上させるため、熱圧を行うことが一般的であり、このような場合に熱によって脱離するブロック基を有するブロック化多価イソシアネート化合物を用いれば、新規に加熱設備を導入する必要がないため極めて有用である。なお、接着後に塗装を行ったり、さらに別の被着材を貼り合わせることができる。
【0017】
以下、実施例、比較例により本発明を更に説明する。なお表1に表示する配合量は重量部である。また、当然のことながら本発明は実施例、比較例に制約されるものではない。
【実施例】
【0018】
樹脂エマルジョンAの合成
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコ中に水530部、ポリビニルアルコールとしてB−05(電気化学工業株式会社製、平均重合度約500、ケン化度88%、商品名)50部とを仕込んで80℃に加熱して溶解させ、アクリル樹脂エマルジョンであるD−30(ガンツ化成株式会社、固形分55%、最低造膜温度0℃、商品名)43部を配合したのち、80℃に保つた状態で 水20部に過硫酸アンモニウム1部を溶解させた重合開始剤溶液と酢酸ビニル340部を3時間かけて滴下しながら乳化重合を行い、酢酸ビニル系樹脂エマルジョンである樹脂エマルジョンA(固形分42%)を合成した。
【0019】
樹脂エマルジョンA、EVAとしてデンカEVAテックス♯55(電気化学工業株式会社、固形分56%、エチレン含有率22%、商品名)、充填材として小麦粉、ブロック化多価イソシアネート化合物としてPAA−U7030CL(日東紡績株式会社製、部分メトキシカルボニル化ポリアリルアミン、固形分15%、商品名)、多価イソシアネート化合物としてコロネート3520(日本ポリウレタン工業株式会社製、ジフェニルメタンジイソシアネート、商品名)、粘度調整用の水を配合し、表1記載の実施例及び比較例の接着剤組成物を得た。各接着剤組成物について、性能評価を行った。
【0020】
【表1】

評価方法
JAS1類浸せきはく離試験 :2.5mmJAS1類合板に接着剤組成物を90g/m塗布し、突き板(0.3mmハードメープル杢目)を貼り合せた後、105℃の熱盤で0.7MPaの圧力で60秒間加圧することにより圧締した。23℃雰囲気下で3日間養生し、75mm×75mmの試験片を作製してJAS規格に準じて1類浸せきはく離試験を行った。(1辺における剥離長さ25mm未満 ○、25mm以上 ×)
増粘性 :23℃雰囲気下で接着剤組成物を調製直後に粘度測定を行い、23℃雰囲気下で2時間放置後、再度粘度を測定した。調製直後の粘度に対する2時間後の粘度の倍率を増粘倍率とした。(○:増粘倍率2倍以内、×:増粘倍率2倍超)
洗浄性 :幅520mm、金属製ドクターロール、ゴム製コーターロールからなるスプレッダーを使用し、ドクターロールとコーターロールのクリアランス0、速度20m/分の条件で、ロール上に接着剤組成物を2kg載せて2時間空転後、水で洗浄した。(○:容易に洗浄可能、×:洗浄に手間がかかる)
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明からなる接着剤組成物は、耐水性に優れ、ホルムアルデヒドを放散する原料を使用しないため環境性に優れ、保存安定性にも優れるため、取り扱いが容易である。また、接着作業時の増粘や発泡が少なく、塗布器具の洗浄が容易なため、木工、紙工、繊維などの用途に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)の固形分100重量部に対して、ブロック化多価イソシアネート化合物(B)を固形分で0.1〜10重量部含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)、ブロック化多価イソシアネート化合物(B)、木粉、椰子粉、クルミ粉、小麦粉、米粉、動物性蛋白質、炭酸カルシウム、ゼオライト、クレーから選ばれる群の少なくとも1種類以上(C)を含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項3】
前記ブロック化多価イソシアネート化合物(B)が、熱によって脱離するブロック基を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(A)が、エチレン酢酸ビニル共重合系樹脂エマルジョン又は/及び造膜温度が0℃以下の樹脂エマルジョンの存在下で酢酸ビニルまたは酢酸ビニルと共重合可能なモノマーを重合して得られた酢酸ビニル系樹脂エマルジョンであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物を塗布後、接着層を加熱することを特徴とする接着方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の接着剤組成物を用いて、突き板、化粧紙、または吸水性シート状素材を接着した接着体。

【公開番号】特開2007−246728(P2007−246728A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73463(P2006−73463)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】