説明

接着剤組成物

【課題】
半導体ウエハーなどの基板を、支持体に任意の厚みで面内均一に固定化することができる溶液型の接着剤組成物であって、ウエハーの加工処理時においては堅固で高耐熱の接着能を有するとともに、加工処理後においては支持体からウエハーを容易に剥離することが可能な接着剤組成物を提供すること。
【解決手段】
本発明の接着剤組成物は、溶融温度が50〜300℃であり、溶融温度幅が30℃以下であり、かつ、溶融温度における溶融粘度が0.1Pa・s以下である接着機能成分と、溶剤と、必要に応じて添加剤とを含む溶液型の接着剤組成物であって、該接着機能成分の含有量が5〜30wt%であり、かつ、該組成物の25℃における溶液粘度が5〜100mPa・sの範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハーなどの基板を加工処理する際にウエハーを支持体に固定化する接着剤組成物に関する。さらに詳しくは、ウエハーと支持体の貼り合わせ厚みを容易に設定することができ、ウエハー加工処理におけるプロセス温度においても充分な接着能を有するとともに、ウエハーの加工処理後に支持体からウエハーを容易に剥離することができ、ウエハーに付着した接着剤を容易に除去することができる溶液型の接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程において、略円板形状である半導体ウエハーの表面にIC、LSIなどの回路を格子状に多数形成し、該回路が形成された各領域を所定の切断ラインに沿ってダイシングすることにより、個々の半導体素子が製造されている。このようにして半導体素子を製造するに際し、半導体素子の放熱性を良好にするとともに、携帯電話などのモバイル機器の小型化および低コスト化を実現するために、半導体素子の厚さをできるだけ薄く形成することが望まれている。そのため、半導体ウエハーを個々の素子に分割する前に、その裏面を研削して所定の厚さに加工する研削工程が行われている。この研削工程において、半導体素子は、研削機の定盤などの支持体に、仮止め接着剤にて堅固に固定されている必要があるが、研削終了後は支持体から剥離する必要がある。
【0003】
従来、このような半導体ウエハーの仮止め接着剤としてワックスが広く用いられており、種々のワックスが提案されている。たとえば、特開平7−224270号公報(特許文献1)にはHLB値が7〜13のポリグリセリン類を有効成分とするワックスが開示され、特開平9−157628号公報(特許文献2)には、酸価が100以上のロジン樹脂、ロジン樹脂の誘導体、ロジン樹脂の変成物、スチレン・アクリル共重合体の1種または2種以上を含むワックスが開示されている。
【0004】
しかしながら、このような従来のワックスは、
(1)耐熱性が低いことから、ウエハーの研削処理におけるプロセス温度では接着強度が保てないこと、
(2)ウエハー研削厚みの面内バラツキ精度が充分でないこと、
(3)薄く研削された半導体ウエハーまたは半導体素子を支持体から剥離する際に剥離性が悪く、ウエハーが破損しやすいこと、
(4)接着面に気泡などが残るとウエハーの裏面に凹凸が生じ、この状態で研削処理するとウエハーが破損しやすいこと
などの問題点があった。
【特許文献1】特開平7−224270号公報
【特許文献2】特開平9−157628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、半導体ウエハーなどの基板を、支持体に任意の厚みで面内均一に固定化することができる溶液型の接着剤組成物であって、ウエハーの加工処理時においては堅固で高耐熱の接着能を有するとともに、加工処理後においては支持体からウエハーを容易に剥離することが可能な接着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、分子内にステロイ
ド骨格および/または水酸基を有する化合物またはその誘導体(ただし、エステル誘導体を除く)からなる接着機能成分および溶剤を含有する接着剤組成物は、従来のワックスよりも耐熱性が高く、支持体に任意の厚みで面内均一に固定化することができ、ウエハー加工処理におけるプロセス温度においても堅固な接着性を有するとともに、加工処理後に溶融温度以上に加熱することにより被着物を容易に剥離できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明の接着剤組成物は、溶融温度が50〜300℃であり、溶融温度幅が30℃以下であり、かつ、溶融温度における溶融粘度が0.1Pa・s以下である接着機能成分と、溶剤と、必要に応じて添加剤とを含む溶液型の接着剤組成物であって、該接着機能成分の含有量が5〜30wt%であり、かつ、該組成物の25℃における溶液粘度が5〜100mPa・sの範囲にあることを特徴とする。なお、本発明の接着剤組成物は、1μm以上のパーティクル数が10個/mL以下であり、アルカリ金属イオンおよび重金属イオン含有量の合計が100ppm以下であることが好ましい。
【0008】
上記接着機能成分は、好ましくは、分子量が1000以下の脂肪族化合物もしくは脂環式化合物であり、より好ましくは、分子内にステロイド骨格および/または水酸基を含有する化合物またはその誘導体(ただし、エステル誘導体を除く)であり、接着強度の温度依存性が小さいことを特徴とする。なお、エステル誘導体は、融点が低い、熱分解したときに酸性となって接着面を浸食する可能性があるなどの理由から好ましくない。
【0009】
上記溶剤は、25℃における溶液粘度が1〜50mPa・sであることが好ましく、好ましい例としては、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、t−アミルアルコール、テルピネオール、テトラヒドロフランおよびフェノールなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接着剤組成物を用いれば、簡便な方法で、支持体または接着固定する半導体ウエハーなどの基板に、所定量の接着機能成分を面内に均一に配置させることができる。また、前記接着機能成分を加熱溶融して支持体と基板とを貼り合わせた後、冷却固化することにより、支持体と基板とを任意の厚みで、容易かつ均一に接着させることができる。さらに、前記接着機能成分を再度加熱溶融することにより、基板を支持体から容易に剥離することができる。したがって、本発明の接着剤組成物は、現代の経済活動の場面で要求される様々な加工処理、たとえば、半導体基板の極薄研削処理、各種材料表面の微細加工処理などの際に基板を仮止めする接着剤として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る接着剤組成物について、半導体ウエハーの仮止め用途を例に詳細に説明するが、本発明の接着剤組成物は、半導体ウエハー以外にもガラス基板、樹脂基板、金属基板、金属箔、研磨パッド等の板状エラストマーなどの平面同士をある一定の間隙で容易に接着・剥離する用途に用いることもできる。
【0012】
本発明に係る接着剤組成物は、接着機能成分、溶剤および必要に応じて添加剤を含有する溶液型の接着剤組成物である。
<接着機能成分>
本発明の接着剤組成物を構成する接着機能成分は、溶融温度が50〜300℃、好ましくは60〜260℃、より好ましくは100〜240℃である。ここで、溶融温度とは、示差走査熱量分析装置(DSC)で測定したメインの溶融ピーク曲線におけるピーク温度をいう。接着機能成分の溶融温度が上記範囲にあることにより、接着時の耐熱温度を向上させることができる。
【0013】
上記接着機能成分は、分子量が1000以下、好ましくは150〜800、より好まし
くは200〜600であることが望ましい。接着機能成分の分子量が上記範囲を超えると、接着機能成分の溶剤への溶解性が低くなるため、溶剤による剥離・洗浄が不十分となることがある。
【0014】
また、上記接着機能成分は、半導体ウエハー上に形成される配線および絶縁膜に対してダメージを与えず、汚染源ともならず、溶融時に接着剤が変性しないなどの観点から、カルボン酸基やアミノ基などの活性な官能基を有しない中性化合物であること、ならびに、媒質中に拡散して絶縁性に悪影響を及ぼすアルカリ金属等(例えば、Na、K、Ca、Fe、Cu、Ni、Cr、Al等)の金属含有量の合計が100ppm以下、好ましくは10ppm以下となるまでメタルフリー化処理したものであることが望ましい。なお、金属酸化物など安定な形態で含有するものはこの限りではない。
【0015】
このような接着機能成分を構成する化合物としては、1,3,5−トリニトロベンゼン、2,3,6-トリニトロフェノール、2,4,5-トリニトロトルエン等のニトロ化合物なども挙
げることができるが、取扱上の安全性が高く、溶融時の耐熱性に優れ、着色が少ないなどの観点から、N元素を含まないC,H,Oの元素のみからなる有機化合物が好ましい。具体的には、以下に例示するような芳香族化合物、脂肪族化合物および脂環式化合物などが挙げられる。
【0016】
上記芳香族化合物としては、たとえば、9H-キサンテン、ベンゾフラン-3(2H)-オン、1
,5-ジフェニル-2,4-ペンタジエン-1-オン、ジ-2-ナフチルエーテル、cis-1,8-テルピ
ン、2,3-ジメチルナフタレン、1,2-ナフタレンジオール、ジ-1-ナフチルメタン、ビフ
ェニル-2,2'-ジオール、ジ-1-ナフチルエーテル、ビス(ジフェニルメチル)エーテル、9,10-ジヒドロアントラセン、2,3,5,6-テトラメチル-p-ベンゾキノン、2,6-ジメチルナフタレン、シリンガアルデヒド、バニリルアルコール、1,3-ジフェニルイソベンゾフラ
ン、2,3'-ジヒドロキシベンゾフェノン、イソヒドロベンゾイン、4,4'-ジメチルビフェニル、1,3-ナフタレンジオール、4-フェナントロール、3,3-ジフェニルフタリド、ペンタメチルフェノール、ヘキサエチルベンゼン、3,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンゾフェノン、4,5,9,10-テトラヒドロピレン、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン、ヘマトキシリン、2-イソプロピル-5-メチルヒドロキノン、1,9-ジフェニル-1,3,6,8-ノナテトラエン-5-オン、9-フェニ
ルフルオレン、1,4,5-ナフタレントリオール、1-アントロール、1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン、ガルビノキシル、ピレン、9-フェニルアントラセン、トリフェニルメタノ
ール、1,1'-ビナフチル、m-キシレン-2,4,6-トリオール、4,4'-メチレンジフェノール、ヘキサメチルベンゼン、ジベンゾ-18-クラウン-6、ジフェノキノン、ビフェニル-4-オ
ール、1H-フェナレン、10-ヒドロキシアントロン、フラボノール、ベンゾアントロン、9H-キサンテン-9-オン、テトラフェニルフラン、2-メチルアントラキノン、4-ヒドロキシ-1-ナフトアルデヒド、1,7-ナフタレンジオール、2,5-ジエトキシ-p-ベンゾキノン、クルクミン、2,2'-ビナフチル、1,8-ジヒドロキシアントラキノン、1,4-ナフタレンジオール、1-ヒドロキシアントラキノン、3,4-ジヒドロキシアントロン、p-テルフェニル、4,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、アントラセン、2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノ
ン、1,8-アントラセンジオール、テトラフェニルエチレン、1,7-ジヒドロキシ-9-キサ
ンテノン、2,7-ジメチルアントラセン、エピカテキン、ナリンゲニン、2-アントロール、1,5-ナフタレンジオール、ベンジリデンフタリド、2-フェニルナフタレン、cis-デカヒ
ドロ-2-ナフトール(cisoid)、(2R,3R)-2,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、trans-1,2-ジベンゾイルエチレン、trans-1,4-ジフェニル-2-ブテン-1,4-ジオン、ビス(2-
ヒドロキシエチル)テレフタラート、フルオランテン、ビフェニレン、イソバニリン、フ
ルオレン、9-アントロール、p-フェニレンジアセタート、trans-スチルベン、ビフェニル-3,3'-ジオール、2,5-ジヒドロキシベンゾフェノン、ピノールヒドラート、ベンゾイン、ヒドロベンゾイン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、2,4-ジヒドロキシベン
ゾフェノン、1,8-ナフタレンジオール、1,2-ナフトキノン、2,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、5-ヒドロキシ-1,4-ナフトキノン、1-フェナントロール、アントロン、9-フルオレノール、トリフェニルホスフィンオキシド、ベンゾ[a]アントラセン、1,2-アントラセンジオール、2,3-ナフタレンジオール、2,4,6-トリヒドロキシベンゾフェノン、ジ-2-ナフチルケトン、3,3'-ジヒドロキシベンゾフェノン、アルブチン、1,2,3,5-ベン
ゼンテトラオール、ジフェニルキノメタン、2-フェナントロール、2,3,4-トリヒドロキシアセトフェノン、カプサンチン、1,3,5-トリフェニルベンゼン、3,4,5-トリヒドロキシベンゾフェノン、ベンゾ[a]ピレン、トリフェニルメチルペルオキシド、ヘキセスト
ロール、1,1,2,2-テトラフェニル-1,2-エタンジオール、1,8-ジヒドロキシ-3-メチ
ルアントラキノン、ショウノウキノン、2,2',5,6'-テトラヒドロキシベンゾフェノン
、エスクリン、3,4'-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,4,5-トリヒドロキシアセトフェノン、9,10-フェナントレンキノン、1,1,2,2-テトラフェニルエタン、ルチン、 (-)-ヘスペレチン、2,3',4,4',6-ペンタヒドロキシベンゾフェノン、7-ヒドロキシクマリン、dl-ヘスペレチン、ニンヒドリン、トリプチセン、フルオレシン、クリセン、ジエチ
ルスチルベストロール、ジベンゾ[a,h]アントラセン、ペンタセン、1,6-ジヒドロキシ
アントラキノン、3,4',5,7-テトラヒドロキシフラボン、2,6-アントラセンジオール
、ゲニステインなどが挙げられる。
【0017】
上記脂肪族化合物としては、たとえば、リビトール、D-アラビトール、フリル、γ-カ
ロテン、β-カロテン、カンタリジン、ペンタエリトリトール、trans,trans-1,4-ジア
セトキシブタジエン、D-グルシトール、D-マンニトール、イドース、デカナール、α-カ
ロテン、2,4,6-トリメチルフロログルシノール、ガラクチトール、エキリン、エキレニン、trans-1,2-シクロベンタンジオール、マノオール、1-ヘプタデカノール、1-オクタ
デカノール、1-イコサノール、ジヒドロキシアセトン、γ-テルピネオール、1-ヘキサコ
サノール、1-ヘントリアコンタノール、ステアロンなどが挙げられる。
【0018】
上記脂環式化合物としては、たとえば、コプロスタノール、チモステロール、エルゴカルシフェロール、β-シトステロール、ラノステロール、11-デオキシコルチコステロン、コレスタノール、コレステロール、テストステロン、エルゴステロール、スチグマステロール、エストラジオール、コルチコステロン、エピコレスタノール、アンドロステロン、17α-ヒドロキシ-11-デオキシコルチコステロン、ギトキシゲニン、エピコプロスタノー
ル、カルシフェロール、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステロン、7-デヒドロコレステロール、アグノステロール、11-デヒドロコルチコステロン、プレドニソロン、ジ
ギトキシゲニン、エストロン、β-エストラジオール、コルチソン、D-フルクトース(α形)、D-リキソース(α形)、D-リキソース(β形)、イソマルトース、D-タロース(β形)、D-
タロース(α形)、D-アロース(β形)、D-マンノース(β形)、D-マンノース(α形)、D-キシロース(α形) D-ガラクトース(β形)、L-フコース(α形)、D-グルコース(α形)、2-デオ
キシ-D-グルコース、マルトトリオース、D-altro-ヘプツロース、L-アラビノース(ピラノースα形)、D-アラビノース、カフェストール、L-アラビノース(ピラノースβ形)、D-ガ
ラクトース(α形)、リコペン、アウクビン、スクロース、フリーデリン、cis-1,3,5-シクロヘキサントリオール、D-イノシトール、ルテイン、ジオスゲニン、チゴゲニン、ゼアキサンチン、myo-イノシトール、セロビオース、ジベレリンA3、ヘマテイン、ベツリン、D-フルクトース(β形)、D-アルトロース(β形)、ジベンゾ-24-クラウン-8、メチル-D-グ
ルコピラノシド(β形)、D-ジギタロース、サリノマイシン、メチル-D-ガラクトピラノシ
ド(α形)、α,α-トレハロース、ビキシン(全trans形)、パラチノース、trans-1,4-テルピン、D-キノボース(α形)、D-glycero-D-galacto-ヘプトース、D-フコース(α形)、D-グルコース(β形)、D-manno-ヘプツロース、D-glycero-D-gluco-ヘプトース、ソホロース、サルササポゲニン、L-ソルボース、D-altro-3-ヘプツロース、ツイスタン、(+)-ボルネオール、イノシトール、(-)-イソボルネオール、L-アラビノース(フラノース形)、L-ガラクトース(α形)、α-サントニン、メチル-D-ガラクトピラノシド(β形)、シクロペンタデカ
ノン、δ-バレロラクトン、cis-2-メチルシクロヘキサノール、下記化学式(1)〜(8
)で表される化合物などが挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
上記化合物の中では、コレステロール、コプロスタノール、チモステロール、エルゴカルシフェロール、β-シトステロール、ラノステロール、11-デオキシコルチコステロン、コレスタノール、テストステロン、エルゴステロール、スチグマステロール、エストラジオール、コルチコステロン、エピコレスタノール、アンドロステロン、17α-ヒドロキシ-11-デオキシコルチコステロン、ギトキシゲニン、エピコプロスタノール、カルシフェロ
ール、プロゲステロン、デヒドロエピアンドロステロン、7-デヒドロコレステロール、アグノステロール、11-デヒドロコルチコステロン、プレドニソロン、ジギトキシゲニン、
エストロン、β-エストラジオール、コルチソンおよび上記化学式(1)〜(8)で表さ
れる化合物などのステロイド骨格を有する化合物;trans‐1,2-シクロベンタンジオール、マノオール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、1-イコサノール、γ-テルピ
ネオール、1-ヘキサコサノール、1-ヘントリアコンタノールなどの水酸基含有化合物;およびこれらの誘導体が特に好ましい。ただし、エステル誘導体は、融点が低く、熱分解したときに酸性となって接着面を浸食する可能性があるなどの理由から好ましくない。
【0021】
上記接着機能成分は、後述する溶融特性および接着特性を損なわない限り、これら化合物を単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよく、接着剤組成物中の含有量が5〜30wt%、好ましくは5〜20wt%の範囲になるように用いられる。接着機能成分の含有量が上記範囲内にあることにより、溶融特性および接着特性を損なうことなく基板等に薄く均一に塗り広げることができる。
【0022】
上記のような接着機能成分は、溶融温度幅が0.5〜30℃、好ましくは1〜20℃、特に好ましくは1〜10℃であり、溶融温度における溶融粘度が0.0001〜0.1Pa・s、好ましくは0.001〜0.05Pa・s、特に好ましくは0.001〜0.01Pa・sである。ここで、溶融温度幅とは、示差走査熱量分析装置(DSC)で測定したメインの溶融ピーク曲線における始点の温度と終点の温度との差をいう。溶融温度幅および溶融粘度が上記範囲にあることにより、剥離容易性が向上するため、ウエハーを支持体から剥離する際に加える外力を小さくすることができる。
【0023】
すなわち、接着機能成分としては、溶融温度が50〜300℃、溶融温度幅が1〜30℃、溶融温度における溶融粘度が0.0001〜0.1Pa・sのものが好ましい。
接着機能成分の溶融温度幅を狭くし、溶融粘度を低減し、さらに遊離金属イオン量を低減するために、接着機能成分の精製を行うことが好ましい。接着機能成分の精製方法としては、たとえば、
(a)接着機能成分を溶剤に溶解し、溶剤を徐々に留去して再結晶化させることで純度を高める方法、および
(b)接着機能成分を溶剤に溶解し、その溶液をイオン交換樹脂に接触させて遊離金属を除去することで金属含有量を減らす方法などが挙げられる。
【0024】
上記接着機能成分の接着強度は、25±2℃において0.5MPa以上、好ましくは1MPa以上、特に好ましくは5MPa以上である。接着強度が上記範囲よりも低いと接着後の加工条件によっては接着面が部分的に剥がれ加工の面内均一性が損なわれる場合がある。
【0025】
また、上記接着機能成分の25±2℃における接着強度をA(MPa)とし、該接着機能成分の溶融温度より20℃低い温度における接着強度をB(MPa)とした場合、該接着強度AおよびBが、0<A−B<0.5(MPa)の関係式を満たすことにより、接着強度の温度依存性が小さく、溶融温度以下の広い範囲で良好な接着状態を保持できる。なお、測定方法および条件等については後述する。
【0026】
<溶剤>
本発明の接着剤組成物を構成する溶剤は、25℃における溶液粘度が1〜50mPa・s、好ましくは3〜30mPa・s、特に好ましくは5〜25mPa・sの範囲である。溶剤の溶液粘度が上記範囲よりも低いと、接着剤組成物を基材に厚く塗布することが困難となったり、基材への濡れ性が悪化してハジキが生じたりすることがあり、上記範囲を越えると、接着剤組成物としての溶液粘度が高くなりすぎて基材への塗布性が悪化すること
がある。
【0027】
また、上記溶剤は、上記接着機能成分を5%〜80%、好ましくは10%〜60%の溶解度(40℃)で溶解するものが望ましい。接着機能成分に対する溶解度が上記範囲よりも低いと、接着剤組成物を塗布・乾燥した際に残留する接着機能成分の量が少なくなり、支持体と基材の固定化厚みを厚くすることが困難となる傾向にある。
【0028】
上記溶剤を構成する化合物としては、たとえば、テトラヒドロフルフリルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、t−アミルアルコール、テルピネオールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類;2−ヘプタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;およびこれら以外にもフェノールやo−ジクロロベンゼンなどが挙げられる。これらの中では、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、t−アミルアルコール、テルピネオール、テトラヒドロフランおよびフェノールが、溶解度および溶液粘度が高く好ましい。上記化合物は、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
<添加剤>
本発明の接着剤組成物は、基材への濡れ性および/または接着性を調整するために、あるいは、接着剤組成物の溶融粘度を調整するために、必要に応じて表面張力調節剤などの添加剤を、目的とする機能を損なわない範囲で添加することができる。
【0030】
上記表面張力調節剤としては、非イオン系界面活性剤などが挙げられ、たとえば、パーフルオロアルキル基などのフッ化アルキル基を有するフッ素系界面活性剤や、オキシアルキル基を有するポリエーテルアルキル系界面活性剤などを用いることができる。
【0031】
上記フッ素系界面活性剤としては、たとえば、C919CONHC1225、C817SO2NH−(C24O)6H、「エフトップEF301、同EF303、同EF352」(新秋田化成(株)製)、「メガファックF171、同F173」(大日本インキ(株)製)、「アサヒガードAG710」(旭硝子(株)製)、「フロラードFC−170C、同FC430、同FC431」(住友スリーエム(株)製)、「サーフロンS−382、同SC101、同SC102、同SC103、同SC104、同SC105、同SC106」(旭硝子(株)製)、「BM−1000、同1100」(B.M−Chemie社製)、「Schsego−Fluor」(Schwegmann社製)、「FS1265」(東レダウコーニングシリコーン(株)製)などが挙げられる。
【0032】
上記ポリエーテルアルキル系界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。具体的には、「エマルゲン105、同430、同810、同920」、「レオドールSP−40S、同TW−L120」、「エマノール3199、同4110」、「エキセルP−40S」、「ブリッジ30、同52、同72、同92」、「アラッセル20」、「エマゾール320」、「ツィーン20、同60」、「マージ45」((株)花王製)、「ノニボール55」(三洋化成(株)製)、「SH−28PA、同−190、同−193」、「SZ−6032」、「SF−8428」(東レダウコーニングシリコーン(株)製)などが挙げられる。
【0033】
上記以外の非イオン系界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリアルキレンオキサイドブロック共重合体などが挙げられ、具体的には「ケミスタット2500」(三洋化成工業(株)
製)、「SN−EX9228」(サンノプコ(株)製)、「ノナール530」(東邦化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0034】
上記表面張力調節剤は、上記接着機能成分100重量部に対して0.1〜50重量部、好ましくは1〜30重量部の量で用いることができる。使用量が上記範囲を超えると、常温における接着剤の硬度が低くなりすぎることがあり、使用量が上記範囲よりも低いと、濡れ性および/または接着性の改善効果が表れないことがある。
【0035】
また、本発明の接着剤組成物は、接着する基材と支持体との間隙を制御するために、必要に応じて酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ケイ素などの金属酸化物、または、ポリスチレン架橋粒子(たとえば、積水化学製「ミクロパールSPN、同SPSシリーズ」等)などの粒度分布の狭い微粒子を、上記接着機能成分100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の範囲の量で含有してもよい。含有量が上記範囲を超えると、微粒子が被着体面内に広がりにくく、微粒子が凝集することによって基板間の間隙が制御できないことがあり、上記範囲よりも低いと間隙を制御する効果が表れないことがある。
【0036】
<使用方法>
本発明の接着剤組成物を用いた半導体ウエハーの加工処理方法は、通常、
本発明の接着剤組成物を支持体または半導体ウエハーに塗布・乾燥する工程、
均一に塗布された接着機能成分で、半導体ウエハーを支持体に固定化する工程、
支持体に固定化した半導体ウエハーを加工処理する工程、
加工処理した半導体ウエハーを支持体から剥離する工程、および
剥離した半導体ウエハーを洗浄する工程を含む。
【0037】
上記半導体ウエハーの加工処理に用いられる本発明の接着剤組成物は、25℃における溶液粘度が5〜100mPa・s、好ましくは10〜80mPa・s、より好ましくは15〜50mPa・sの範囲である。溶液粘度が上記範囲内にあることにより、接着剤組成物を支持体等に薄く均一に塗り広げることができる。
【0038】
上記接着剤組成物を支持体または半導体ウエハーに塗布・乾燥する工程においては、接着剤組成物の溶液粘度に応じた塗布方法を選択することができ、たとえば、スピンコート、スプレーコート、流延塗布、ディップコートなどの塗布装置を用いることができる。半導体ウエハーの場合は、一般的にスピンコート塗布法が採用されている。
【0039】
上記接着機能成分の塗布量は、接着剤組成物の固形分濃度、ディスペンス量および/またはスピンコート条件によって定めることができる。また、ディスペンス量、スピンコート条件の設定によっては、基材面内の特定箇所の塗布量を制御することも可能であり、接着機能成分の塗布面積および位置を制御することにより、基材と支持体の接着均一性を改善する手段として活用することができる。たとえば、複数のディスペンスノズルを有し、各々のディスペンス量を独立に制御できれば、基材を回転させることなく所望の塗布状態に設定することが可能である。
【0040】
接着剤層の厚みは、接着剤組成物の塗布量および接着時の圧力によって制御することができ、0.01μm〜2mm、好ましくは0.05μm〜1mm、より好ましくは0.1μ
m〜0.5mmの範囲である。接着剤層の厚みが上記範囲よりも薄いと充分に接着されないことがあり、上記範囲を超えると接着強度が低下し、接着面からの剥がれ、接着剤の材破が生じることがある。
【0041】
本発明の接着剤組成物を半導体ウエハーなどに塗布するに際して、溶融した接着機能成
分の面内への広がりを均一にするため、ウエハーまたは支持体表面を予め疎水化処理しておくことが好ましい。
【0042】
疎水化処理の方法としては、ウエハーまたは支持体表面に予め表面処理剤を塗布する方法などが挙げられる。このような表面処理剤としては、たとえば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノ
ニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベン
ジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどのカップリング剤が挙げられる。
【0043】
上記半導体ウエハーを支持体に固定化する工程は、接着機能成分中の気泡、ならびに、ウエハーおよび支持体中の凹凸部に起因の気泡を除去し、接着層の厚みを一定にするため、200Torr以下の減圧下で行うことが好ましい。
【0044】
本発明の接着機能成分を加熱溶融させる温度は、その「溶融温度+2℃」〜「溶融温度+50℃」、好ましくは「溶融温度+2℃」〜「溶融温度+30℃」、特に好ましくは「溶融温度+5℃」〜「溶融温度+20℃」の範囲の温度で加熱する。加熱温度が上記範囲よりも低いと、接着機能成分の被着体面内での広がりが不十分となり接着ムラが生じることがあり、上記範囲を超えると、接着機能成分の揮発や分解が部分的に進行し、所望の接着特性を得られないことがある。
【0045】
なお、本発明の接着機能成分の溶融温度幅は狭いため、ウエハーの温度と支持体の温度とを精密に制御する必要があり、両者の温度差を5℃以下、好ましくは3℃以下、特に好ましくは2℃以下に制御することが望ましい。上記温度差が5℃よりも大きいと、溶融した接着剤組成物が支持体上で固化して気泡が生じたり、貼り合わせ面内での接着剤層の厚みの均一性が損なわれることがある。
【0046】
貼り合わせ操作においては、ウエハーおよび/または支持基材に膜厚ムラがある場合も考慮し、ウエハーと支持体の距離を機械的に制御する機構を備えた熱プレス装置などを用いることが好ましい。このような熱プレス装置を用いることにより、プレス圧力制御によって接着剤層の厚みを制御したり、上下プレス板間の距離制御によって貼り合わせ物の平坦度を所定の範囲に制御することができる。
【0047】
上記のようにしてウエハーと支持体とを貼り合せた後、溶融温度以下、好ましくは「溶融温度−20℃」以下、特に好ましくは「溶融温度−40℃」以下にまで冷却することにより、ウエハーと支持体とが強固に接着される。
【0048】
上記のようにして支持体に固定化したウエハーの加工処理は、使用した接着機能成分の溶融温度より低い温度で実施することが好ましい。
ウエハーの加工処理後は、支持体からウエハーを剥離する。この剥離工程に際しては、ウエハーおよび支持体の少なくとも一方を、使用した接着剤組成物の溶融温度以上に加熱することにより、ウエハーを支持体から剥離することができる。
【0049】
剥離後の面に接着剤が残存している場合は、上記溶剤で洗浄して除去することができる。洗浄方法としては、ウエハーを洗浄液に浸漬する方法、ウエハーに洗浄液をスプレーする方法などが挙げられる。洗浄液の温度は特に限定されないが、好ましくは20〜80℃、より好ましくは30〜50℃である。
【0050】
[実施例]
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
なお、以下の実施例で用いた接着機能成分は、予めテトラヒドロフラン溶液とし、20重量部のイオン交換樹脂を加えて10時間攪拌混合することによって脱イオン化処理を行い、Na,K,Ca,Fe,Cu,Ni,Cr,Alの各金属含有量が1ppmであることを確認して用いた。また、溶融温度、溶融温度幅、溶融粘度および接着強度の測定は以下のようにして行った。
【0052】
<溶融温度および溶融温度幅>
示差走査熱量装置(セイコー社製「RDC220」)を用い、2℃/min、空気中での値を測定した。メインの溶融ピーク曲線のピーク温度を溶融温度とし、該溶融ピーク曲線の始点と終点との温度差を溶融温度幅とした。
【0053】
<溶融粘度>
B型粘度計(東機産業社製)を用い、溶融温度にて測定した。
<接着強度>
各接着機能成分固有の接着強度として、25±2℃における接着強度A(MPa)および該接着機能成分の溶融温度より20℃低い温度における接着強度B(MPa)を、以下のようにして測定し、接着強度差(A−B)を求めた。
【0054】
図1に示すように、650μm厚のシリコンウエハー片(50mm×12mm)と0.7mm厚の無アルカリガラス片(50mm×12mm)とを、シリコンウエハーの表面(製品状態において研磨されている面)を接着面として、各接着機能成分を用いて接着した試験片(接着面積:12mm×12mm、接着厚み:10μm)を準備し、試験片を縦にして端をつかんで上下に一定加重で引張り、両基板が剥がれたときの引張りせん断強度を測定し、その値を接着強度とした。
【0055】
なお、試験片を作製する際に用いたシリコンウエハー(bare silicon)および無アルカリガラス(コーニング社製「#1737」)は、予めRCA洗浄[W.Kern, D.A.Puotinen, RCA Review, 31, p187 (1970) 参照]したものを用いた。具体的には、シリコンウエハーをSC−1液(H2O:NH4OH:H22=5:1:1)80℃の槽に10分程度入れ、有機物汚染および金属汚染を除去し、これを超純水で洗浄した。次に、HF:H22=1:50の液を用いて、前工程でシリコンウエハー上に生じたシリコン酸化膜を除去した。この後、再び超純水で洗浄し、さらに、SC−2液(H2O:HCl:H22=6:1
:1)80℃の槽内で残留の金属汚染を除去し、超純水で洗浄して乾燥した。
【0056】
測定はテンシロン型引張り試験機を用い、引張速度1.67×10-4m/s、所定温度で行った。試験片を所定温度に保つために、試験片に触れないようにリボンヒーターを巻いたガラス管(サンプル加温用ヒーター)を配置し、試験片に取り付けた熱電対の温度が
所定の温度になるように温度コントローラーでリボンヒーターを加熱制御した。なお、図1の左上図は、接着強度測定用試験片を上から見た図であり、左下図はこの試験片を横から見た図である。
【0057】
〔実施例1〕
(接着剤組成物の調製)
接着機能成分として上記化学式(8)で表される化合物(分子量;402.7、溶融温度;220℃、溶融温度幅;2℃、溶融粘度;2mPa・s、25℃における接着強度Aと200℃における接着強度Bとの差;0.2MPa、以下「化合物(8)」ともいう。)5gを、シクロヘキサノール28gとt−アミルアルコール28gとの混合溶剤(溶液粘度;12mPa・s)に溶解し、固形分濃度8.2%、溶液粘度20mPa・sの接着剤溶液(1)を得た。この溶液を0.5μmのメンブレンフィルターで3回ろ過精製することで、1μm以上のパーティクル数が1個/mLまで減少した。この液を用いて以下の接着試験を行った。
【0058】
(接着試験)
接着試験に用いる支持板として、予めヘキサメチルジシラザンの5%イソプロピルアルコール溶液をスピンコート塗布・乾燥して表面の疎水化処理を行った6インチシリコンウエハー(厚さ650μm)を用いた。
【0059】
水平に配置したホットプレート上に上記支持板を置き、その中央に精製した接着剤溶液(1)4.45gをディスペンスすると、該溶液は支持板の約80%の面積に広がった。次いで、ホットプレートを5℃/minの昇温速度で150℃まで昇温して10分間保持した。この時点で溶剤はほぼ蒸発し、ウエハー上には化合物(8)の白い結晶が薄い膜状に広がっていた。
【0060】
得られた支持板の上に新品の6インチシリコンウエハー(厚さ650μm)を載置し、これを真空熱プレス装置に入れて100Torrまで減圧にし、5分間ホールドした。次いで、プレスの上下ヒーターを240℃に昇温し、240℃に到達した時点で直ちに上下プレス板の間隔を1320μmに設定してプレスし、常圧に戻すと同時に225℃まで約10℃/minの冷却速度で急冷した。その後、225℃〜215℃までは1℃/minの冷却速度で徐冷した後、室温まで約30℃〜50℃/minの冷却速度で急冷した。
【0061】
得られた貼り合わせ物の厚みをマイクロメーターで測定したところ、1320±1μmとなっており、接着層の厚みは目標通りウエハーのバラツキ込みで20±1μmに制御されていた。
【0062】
次に、市販の研磨装置を用いて、貼り合わせたウエハーの裏面をウエハー厚みが30μmになるまで研磨した。この時、ウエハーの温度は60℃に達したが、ウエハーが剥がれ取れることはなかった。再び貼り合わせ物の厚みを測定すると、面内の厚みバラツキは±1μmの範囲にあり、面内均一に研磨できていることを確認した。
【0063】
30μmに薄化したウエハーの研磨面全面にチタンを0.1μm、その上に銅を0.3μmの厚みでスパッタ成膜し、これをシード層として電解メッキにて銅を2μmの厚みに成長させた。さらに、その銅の上に感光性絶縁膜(JSR(株)製「WPR1201」)を膜厚15μmとなるように成膜し、190℃で1時間硬化した。メッキ、絶縁膜塗布および硬化処理によっても薄化ウエハーが支持体から剥がれることはなかった。
【0064】
得られたサンプルを、240℃に加熱したバキュームチャック機能付きホットプレート上に絶縁膜層を下にして置き、上の支持板を横に移動する事により支持板を容易に剥離す
ることができた。次いで、剥離した薄化ウエハーをチャッキングしたまま室温まで冷却し、40℃のイソプロピルアルコールをスプレーして残留する接着機能成分を除去した。 支持体を剥離しても薄化ウエハーが反ることはなく、また、ウエハーの剥離面を反射型FT―IRで表面観察したが、有機化合物に帰属される吸収は一切観察されず、張り合わせに用いた接着剤は洗浄で除去されたことを示した。
【0065】
〔実施例2〕
実施例1において、化合物(8)の代わりに、スチグマステロール(分子量;412.7、溶融温度;170℃、溶融温度幅;2℃、溶融粘度;2mPa・s、25℃における接着強度Aと150℃における接着強度Bとの差;0.2MPa)5gおよび界面活性剤「SF−8428」(東レダウコーニングシリコーン(株)製)0.5gを、シクロヘキサノール30gとt−アミルアルコール7gとの混合溶剤(溶液粘度;20mPa・s)に溶解し、固形分濃度13%、溶液粘度34mPa・sの接着剤溶液(2)を得た。接着剤溶液(2)を0.5μmのメンブレンフィルターで2回ろ過したところ、1μm以上のパーティクル数が3個/mLまで減少した。
【0066】
精製した接着剤溶液(2)の塗布量を2.8gとし、溶融温度および冷却温度を各々50℃下げたこと以外は、実施例1と同様に6インチシリコンウエハー2枚を貼り合わせて30μm厚に研磨することによって、実施例1と同様に支持体に固定された状態の30μm厚6インチウエハーを得ることができた。
【0067】
〔実施例3〕
(接着剤組成物の調製)
接着機能成分としてコレステロール(分子量;386.7、溶融温度;150℃、溶融
温度幅;1℃、溶融粘度;2mPa・s、25℃における接着強度Aと130℃における接着強度Bとの差;0.2MPa) 5gを、シクロヘキサノール11gとシクロヘキサノン26gとの混合溶剤(溶液粘度;10mPa・s)に溶解し、固形分濃度13%、溶液粘度20mPa・sの接着剤溶液(3)を得た。接着剤溶液(3)を0.5μmのメンブレンフィルターで1回ろ過したところ、1μm以上のパーティクル数が6個/mLまで減少した。この液を用いて以下の評価試験を行った。
【0068】
(評価試験)
水平に配置したホットプレート上に新品の6インチシリコンウエハーを置き、その中央にシクロヘキサノール10gをディスペンスした後、精製した接着剤溶液(3)0.7gをディスペンスすると、該溶液はウエハー全面に広がった。次いで、ホットプレートを5℃/minの昇温速度で140℃まで昇温して30分間保持した。この時点で溶剤はほぼ蒸発し、ウエハー上にはコレステロールの白い結晶が薄い膜状に広がっていた。
【0069】
得られた支持板の上に新品の6インチシリコンウエハー(厚さ650μm)を載置し、真空熱プレス装置に入れて10Torrまで減圧にし、5分間ホールドした。次いで、プレスの上下ヒーターを170℃に昇温し、170℃に到達した時点で直ちに上下プレス板の間隔を1305μmに設定してプレスし、常圧に戻すと同時に155℃まで約10℃/minの冷却速度で急冷した。その後、155℃〜145℃までは1℃/minの冷却速度で徐冷した後、室温まで約30℃〜50/minの冷却速度で急冷した。
【0070】
得られた貼り合わせ物の厚みをマイクロメーターで測定したところ、1305±1μmとなっており、接着層の厚みは目標通りウエハーのバラツキ込みで5±1μmに制御されていた。
【0071】
〔比較例1〕
実施例1において、接着剤溶液(1)の代わりに液状ワックス(日化精工(株)製「スカイリキッドKNシリーズ」、溶融温度;90℃、溶融温度幅;35℃、溶融粘度;50m
Pa・s)3gを用い、溶融温度に合わせて温度制御を変更したこと以外は、実施例1と同様にして6インチシリコンウエハーを貼り合わせる試験を試みた。その結果、上記液状ワックスをウエハーにディスペンスしただけではウエハー全体の10%程度の面積にしか広がらなかった。また、真空プレス装置で110℃に昇温して直ちにプレスを行ったが、プレス板の間隔を目標値の1320μmにすることはできなかった。そして、そのまま冷却して接着物を取り出してみると、ウエハー外周部に隙間があり、ワックスがウエハー外周まで広がっていないことを確認した。
【0072】
〔比較例2〕
エルゴステロール(分子量;396.7、溶融温度;157℃)0.35gと、界面活性剤「SF−8428」(東レダウコーニングシリコーン(株)製)0.03gと、微粒二酸化珪素粒子(塩野義製薬(株)製、平均粒径;2μm)0.01gとの混合物(溶融温度;157℃、溶融温度幅;1℃、溶融粘度;1mPa・s)を、直径10mmの柱状加圧成型器に秤量し、200kg・cm-2の圧力を3分間かけ、直径10mm、厚さ4.5mmの円柱状タブレットを得た。
【0073】
得られたタブレットを新品の6インチシリコンウエハー(厚さ650μm)上に置き、その上に厚み0.7mm、1辺15cmの正方形ガラス基板を載置し、真空オーブンに入れて10Torrで177℃に昇温した。タブレットは、ウエハー温度が157℃程度で溶解した。この時点で真空吸引を停止し、減圧下で溶融したエルゴステロールの脱気を2分間行ったところ、エルゴステロールが6インチシリコンウエハーに徐々に広がったが、全面均一には広がらず周辺部に気泡が残った。真空オーブンから貼り合わせたサンプルを取り出すと直ちにエルゴステロールが結晶化し、両基板は強固に接着されたが、外周部に気泡が残ったままであった。接着層の厚みバラツキを、貼り合わせサンプルの総厚みおよび基板の厚みから算出すると、20〜30μmの範囲で厚みバラツキがあることが分かった。
【0074】
〔比較例3〕
比較例2において、接着層の厚みを5μmとするために、エルゴステロールの量を0.09g、界面活性剤「SF−8428」(東レダウコーニングシリコーン(株)製)の量を0.0007g、微粒二酸化珪素粒子(塩野義製薬(株)製、平均粒径;2μm)の量を0.0002gに変更したこと以外は比較例2と同様に、直径10mmの柱状加圧成型器に秤量し、200kg・cm-2の圧力を3分間かけてタブレットの作成を試みたが、厚さが1.0mmと薄く成型器から取り出して用いることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施例における接着強度の測定方法を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融温度が50〜300℃であり、溶融温度幅が30℃以下であり、かつ、溶融温度における溶融粘度が0.1Pa・s以下である接着機能成分と、溶剤と、必要に応じて添加剤とを含む溶液型の接着剤組成物であって、
該接着機能成分の含有量が5〜30wt%であり、かつ、該組成物の25℃における溶液粘度が5〜100mPa・sの範囲にあることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
上記接着機能成分が、分子量が1000以下の脂肪族化合物もしくは脂環式化合物であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
上記接着機能成分が、分子内にステロイド骨格および/または水酸基を含有する化合物またはその誘導体(ただし、エステル誘導体を除く)であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
上記接着機能成分の25±2℃における接着強度をA(MPa)とし、該接着機能成分の溶融温度より20℃低い温度における接着強度をB(MPa)とした場合、該接着強度AおよびBが下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
0<A−B<0.5(MPa) ・・・(1)
【請求項5】
1μm以上のパーティクル数が10個/mL以下であり、アルカリ金属イオンおよび重金属イオン含有量の合計が100ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
上記溶剤の25℃における溶液粘度が1〜50mPa・sであることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
上記溶剤が、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、t−アミルアルコール、テルピネオール、テトラヒドロフランおよびフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
上記添加剤が非イオン系界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−328104(P2006−328104A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149365(P2005−149365)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】