説明

接着剤組成物

【課題】ポリオレフィンと金属の接着において、組成物の貯蔵安定性・初期接着強度に優れ、特に耐塩温水接着性に優れた接着剤組成物を提供する。
【解決手段】酸変性ポリオレフィン系樹脂分散体(A)とS(イオウ)元素を含有する化合物(B)とを含む接着剤組成物。また、S(イオウ)元素が接着剤組成物の固形分中に1〜10重量%である接着剤組成物。好ましくは、S(イオウ)元素を含有する化合物(B)がエポキシ樹脂(C)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィンと金属の接着に用いられる接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、家電外板、建築構造材の内装用部材、家具用素材などには、鋼板表面に塩化ビニル樹脂(以下、単に塩ビ樹脂ともいう)を被覆ないし積層(ラミネート)してなる、いわゆる塩ビ鋼板が使用されてきた。こうした塩ビ鋼板に用いられる塩ビ樹脂は、配合処方により良好な加工性、耐久性を示し、また着色等が容易なことから化粧性にも優れており、加えて安価なことから各方面に広く使用されている。
しかしながら、昨今環境問題が大きくクローズアップされ、塩ビ樹脂中のフタル酸系可塑剤ならびに塩ビ樹脂の焼却時等に発生するとされているダイオキシン類の一部が、内分泌撹乱作用が疑わしい化学物質(環境ホルモン)にリストアップされている。
そのため、こうした塩ビ樹脂の代替として各種ポリオレフィン系樹脂が提案されている。ポリオレフィン系樹脂は毒性がなく、酸、アルカリ、有機溶剤等に対して強い抵抗力を有し、機械的強度、耐磨耗性にも優れ、安価であることから、家電外板、建築構造材の内装用部材、家具用素材などに使用されつつある。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は非極性であることから、金属との接着が困難であった。
【0003】
従来かかるポリオレフィン系樹脂と金属(家電外板、建築構造材の内装用部材、家具用素材などに用いられる鋼板等)との接着のため、種々の接着剤、塗料、プライマー等が提案されている。典型的なものとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル系樹脂などの熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂を有機溶剤に溶解したベース接着剤や塗料に、溶剤分散型変性ポリオレフィン樹脂を混合したものであった。すなわち前記熱硬化性あるいは熱可塑性樹脂で金属部分へ接着させ、変性ポリオレフィン樹脂でポリオレフィンへ接着させるものであった。(特許文献1,2)
しかしながら、これらの接着剤は一定レベルの接着性は得られるものの、苛酷な加工を施される用途においては十分な接着性を有しているとは言い難い。ラミネート鋼板メーカーでは、顧客要求レベルの向上とともに、内部試験として煮沸後のエリクセン試験(JIS K6744(1992)参照)や塩温水試験を行うところが増えている。エリクセン試験に対しては、酸変性ポリオレフィン系樹脂溶剤分散体とエポキシ樹脂とからなる組成物に、新たな成分として1,2−ジヒドロキシベンゼン、1,2,3−トリヒドロキシベンゼンおよびこれらの誘導体よりなる群から選ばれてなる少なくとも1種のものを加えることで改善が見られた。(特許文献3)
しかし、上記接着剤はさらに苛酷な条件である塩温水試験後に剥離を生じさせないという要求特性(塩温水試験後の密着性)を十分に満足するとは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭47−131972号公報
【特許文献2】特公平7−68502号公報
【特許文献3】特開2003−261847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、金属とポリオレフィン系樹脂双方へ良好な接着性を有し、組成物の貯蔵安定性・初期接着強度に優れ、特に耐塩温水接着性に優れた接着剤組成物、ならびにこれを用いてなるポリオレフィンラミネート鋼板およびポリオレフィン金属接着構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行い、酸変性ポリオレフィン系樹脂分散体(A)とS(イオウ)元素を含有する化合物(B)とを含む接着剤組成物あることを発明した。即ち、
[1] 酸変性ポリオレフィン系樹脂分散体(A)とS(イオウ)元素を含有する化合物(B)とを含む接着剤組成物。
[2]S元素含有量が接着剤組成物の固形分中に1〜10重量%である[1]記載の接着剤組成物。
[3]S元素を含有する化合物(B)がエポキシ樹脂(C)である[1]または[2]記載の接着剤組成物。
[4]酸変性ポリオレフィン系樹脂溶剤分散体(A)の固形分換算100重量部に対し前記エポキシ樹脂(C)が50〜1000重量部である[3]記載の接着剤組成物。
[5]前記エポキシ樹脂(C)が、ポリサルファイド変性エポキシ樹脂である[3]記載の接着剤組成物。
[6]更に、S元素を含有するエポキシ樹脂(C)以外のエポキシ樹脂(D)を含む [1]記載の接着剤組成物。
[7]前記エポキシ樹脂(D)がビスフェノールA型エポキシ樹脂である[6]記載の接着剤組成物。
[8]前記接着剤組成物が有機溶剤中に溶解もしくは分散している[8]記載の接着剤組成物。
[9]金属とポリオレフィン系樹脂とを、[1]記載の接着剤組成物を用いて接着してなるポリオレフィン/金属接着構造体。
[10]鋼板とポリオレフィン系樹脂のフィルムまたはシートとを、[1]記載の接着剤組成物を用いてラミネート接着してなるポリオレフィンラミネート鋼板。
尚、ここでS(イオウ)はイオウ元素の意味である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ポリオレフィンと金属の接着において、組成物の貯蔵安定性・初期接着強度に優れ、特に耐塩温水接着性に優れた接着剤組成物であり、各種接着剤・ヒートシール剤に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明について以下、詳細に説明する。
本発明は、酸変性ポリオレフィン系樹脂分散体(A)とS元素を含有する化合物(B)とを含む接着剤組成物である。S元素の含有量は、該組成物の固形分中に通常1〜10、好ましくは2〜7、更に好ましくは4〜6重量%である。S元素の含有量が上記範囲であれば、耐塩温水接着性の点で好ましい。
尚、本発明でのS元素の含有量は、イオンクロマトグラフ法によりDionex社製DX−500を使用して測定された元素分析である。
【0009】
[酸変性ポリオレフィン系樹脂溶剤分散体(A)]
本発明に用いる酸変性ポリオレフィン系樹脂溶剤分散体(A)は、酸変性されたポリオレフィン樹脂を溶媒中に分散させたものである。ポリオレフィン樹脂としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、ポリ4−メチルペンテン−1等、エチレン又は炭素原子を3〜20個含むα−オレフィンのホモ重合体、エチレンと炭素原子を3〜20個含むα−オレフィンとの共重合体、及び、2種類以上の、炭素原子を3〜20個含むα−オレフィンの共重合体等が挙げられる。
【0010】
前記ポリオレフィン樹脂の変性に用いる酸は、不飽和ジカルボン酸無水物としては具体的に、無水マレイン酸、無水ハイミック酸、4−メチルシクロヘキセ−4−エン−1,2−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、1,2,3,4,5,8,9,10−オクタヒドロナフタレン−2,3−ジカルボン酸無水物、2−オクタ−1,3−ジケトスピロ[4.4]ノン−7−エン、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、x−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、x−メチル−ノルボルネン−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、ノルボルン−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物などを挙げることができる。
不飽和ジカルボン無水物の中では、特に無水マレイン酸または無水ハイミック酸が好ましい。勿論、必要に応じてこれらの不飽和ジカルボン酸無水物の開環物も使用することができる。また、上記不飽和カルボン酸無水物を2種以上組み合せて使用することもできるし、不飽和ジカルボン酸無水物と不飽和ジカルボン酸無水物の開環物を組み合わせて使用することもできる。
【0011】
前記酸変性ポリオレフィン系樹脂及び後述のエポキシ樹脂を溶解、または分散させるための有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロへキサン等の脂環族炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオール、フェノール等のアルコール、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノン等のケトン系溶媒、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ等のセルソルブ類、酢酸メチル、酢酸エチル酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチル等のエステル類、トリクロルエチレン、ジクロルエチレン、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素等を挙げることができる。
これらの中では、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素類が好ましい。
分散状態にある酸変性ポリオレフィン系樹脂の粒子形状は一般に、また好ましくは球状であるが、必ずしも球状である必要はない。粒子の平均粒径(測定機:Multisizer 3 Coulter Counter)は通常1ないし20μ、好ましくは5ないし15μである。また分散物中の不揮発分(固形分濃度)は通常5〜40重量%である。
【0012】
[S元素を含有する化合物(B)]
本発明のS元素を含有する化合物(B)は、チオール樹脂、硫黄樹脂、ポリサルファイドポリマー、S元素を含有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの中で、ポリサルファイドポリマー、S元素を含有するエポキシ樹脂が好ましく、S元素を含有するエポキシ樹脂が更に好ましい。
【0013】
S元素を含有するエポキシ樹脂(C)
S元素を含有するエポキシ樹脂(C)としては、ポリサルファイド骨格(−SS−)を主鎖に持つポリサルファイド変性エポキシ樹脂、例えばFLEP−50及びFLEP−60(東レファインケミカル(株)製)等を挙げることができる。金属密着性及び防食性の点から、ポリサルファイド変性エポキシ樹脂は好適である。
前記(C)のエポキシ当量は、耐塩温水接着性の点で、通常200〜4000、好ましくは200〜1000、更に好ましくは200〜500である。また、前記(C)は耐腐食性、特に耐塩温水接着性の向上に寄与する。
【0014】
上記酸変性ポリオレフィン系樹脂溶剤分散体(A)と上記エポキシ樹脂(C)との量比は、初期接着強度及び耐腐食性の点で、(A)成分の固形分換算100重量部に対し、エポキシ樹脂成分が通常50〜1000、好ましくは100〜700更に好ましくは150〜400重量部である。
本発明では、S元素を含有するエポキシ樹脂(C)以外のエポキシ樹脂(D)を更に、好適に用いることができる。エポキシ樹脂(D)としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、可撓性エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、高分子型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等を用いることができる。これらの中で、初期接着強度の向上の点でビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の分子量は、初期接着強度の点で、1万〜5万、好ましくは3万〜5万である。
【0015】
また、S元素を含有するエポキシ樹脂(C)とそれ以外のエポキシ樹脂(D)との割合は、物性のバランスの点で、(C)100重量部に対して、(D)が通常50〜400、好ましくは50〜200、更に好ましくは50〜150重量部である。
本発明の接着剤組成物は溶剤中に溶解もしくは分散していることが好ましい。溶剤として水又は有機溶剤が上げられる。溶剤の量は、全成分の固形分換算100重量部に対し、通常、500〜1000重量部である。使用する有機溶剤は前記の種類が挙げられる。
本発明の接着剤組成物は、上記(A)〜(D)成分を室温で混合するか、混合後に晶析(加熱溶解及び冷却)をすることにより得ることができる。
【0016】
本発明は、本発明の接着剤組成物を用いた、ポリオレフィン/金属接着構造体である。
また、本発明は、鋼板とポリオレフィン系樹脂のフィルムまたはシートとを本発明の接着剤組成物を用いてラミネート接着してなるポリオレフィンラミネート鋼板である。
これら接着構造体の製造方法は、鋼板表面に接着剤樹脂を塗布し、その接着剤樹脂を焼き付け・乾燥した後、接着剤樹脂層が溶融状態にある間に、その上面にポリオレフィンフィルムを連続的に積層して接着する。
本発明の接着剤組成物は、初期接着強度・低温貯蔵安定性に優れ、特に耐塩温水接着性に優れた接着剤組成物であるので船舶・自動車部品等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
[塗布、焼き付け、接着工程]
ステンレス基板(SUS430 No.4)表面にバーコーターNo.12でサンプル溶液を塗布した。溶剤を乾燥させた後、200℃で60秒焼き付けを行った。ヒートシーラーの上段のみを加熱し、300μm厚、巾25mmの、PPシート、またはTPOシートの上に塗布面が下になるようステンレス基板を重ね、200℃、1kg/cm2、1秒ヒートシールを行った。
【0019】
[接着性:剥離強度の測定]
島津製オートグラフを使用して、剥離角度180°、剥離速度100mm/minで剥離を行った。ヒートシールを行ったサンプルの剥離強度を測定し、3点の平均値をもとめた。
【0020】
[貯蔵安定性の評価]
調製サンプルを0℃で30日間保管した後に溶液状態(固化、ゲル化の有無等)の確認を行い、ゲル化しなかったものを○、ゲル化したのを×とした。
【0021】
[耐塩温水接着性]
接着したPPシート/ステンレス基板を5wt%、50℃の塩水に浸漬した。浸漬後の剥離の有無から接着性を評価した。
【0022】
[実施例1]
酸変性ポリオレフィン系樹脂溶剤分散体(A)としてユニストールR−200A(三井化学製;固形分25%)、S元素を含有するエポキシ樹脂(C)としてFLEP50(東レファインケミカル(株)製)を、エポキシ樹脂(D)としてビスフェノールA型エポキシ樹脂であるEXA−123(DIC(株)製)をそれぞれ使用した。
【0023】
酸変性ポリオレフィン系樹脂溶剤分散体(A)/S(イオウ)元素を含有する化合物(B)/ビスフェノールA型エポキシ樹脂を重量比30/35/35の割合で室温において混合した。前記の方法で塗布、焼き付け、接着を行い、剥離強度の測定及び耐塩温水接着試験を行った。その結果を表2に示す。
尚、本例のS元素のイオンクロマトグラフ法によりDionex社製DX−500を使用して測定された含有量は0.51wt%であり、計算値は0.49wt%であった。
【0024】
[実施例2〜5]
実施例1と同様の化合物を使用し、表1に示す割合で混合した。また、実施例1と同様の方法で塗布、焼き付け、接着を行い、剥離強度の測定及び耐塩温水接着試験を行った。
その結果を表2に示す。
【0025】
[比較例1]
実施例1と同様の化合物を使用し、表1に示す割合で混合した。また、実施例1と同様の方法で塗布、焼き付け、接着を行い、剥離強度の測定及び耐塩温水接着試験を行った。
その結果を表2に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン系樹脂分散体(A)とS(イオウ)元素を含有する化合物(B)とを含む接着剤組成物。
【請求項2】
S元素含有量が接着剤組成物の固形分中に1〜10重量%である請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
S元素を含有する化合物(B)がエポキシ樹脂(C)である請求項1または2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
酸変性ポリオレフィン系樹脂溶剤分散体(A)の固形分換算100重量部に対し前記エポキシ樹脂(C)が50〜1000重量部である請求項3記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂(C)が、ポリサルファイド変性エポキシ樹脂である請求項3記載の接着剤組成物。
【請求項6】
更に、S元素を含有するエポキシ樹脂(C)以外のエポキシ樹脂(D)を含む請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記エポキシ樹脂(D)がビスフェノールA型エポキシ樹脂である請求項6記載の接着剤組成物。
【請求項8】
前記接着剤組成物が有機溶剤中に溶解もしくは分散している請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項9】
金属とポリオレフィン系樹脂とを、請求項1記載の接着剤組成物を用いて接着してなるポリオレフィン/金属接着構造体。
【請求項10】
鋼板とポリオレフィン系樹脂のフィルムまたはシートとを、請求項1記載の接着剤組成物を用いてラミネート接着してなるポリオレフィンラミネート鋼板。

【公開番号】特開2010−163579(P2010−163579A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9086(P2009−9086)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】