説明

接着用プライマー組成物及びその使用方法

【課題】強酸性雰囲気下でも耐久性を有し、シリコーンゴムの流動性を促す接着用プライマー組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】金属若しくは樹脂からなる基材に、シリコーンゴムを一体形成する際に、基材に予め塗布する接着用プライマー組成物であって、a.1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1個含む化合物と、b.シリコーンレジンと、c.1分子中にアルケニル基を2個以上含む化合物とを含有することを特徴とする接着用プライマー組成物。
【効果】a成分が酸に耐える接着成分で、b成分が耐酸化膜を形成すると共にa成分の保持作用を発揮する。また、c成分は硬化遅延作用を発揮する。a成分及びb成分の総合作用により、強酸性雰囲気下でも耐久性を有し、さらに、c成分により、シリコーンゴムの流動性を促す接着用プライマー組成物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属若しくは樹脂からなる基材に、シリコーンゴムを接着させる接着剤としての接着用プライマー組成物の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
基材にシリコーンゴムを一体成形する技術の類似例として、燃料電池のセパレータ(基材)にシール材を付着する技術がある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−22817公報(図17)
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図5は従来の燃料電池の要素を製造する方法の説明図であり、先ず膜・電極接合体101とセパレータ102、103を準備する。セパレータ102、103には予め液状のシール材104、105を付着させておく。
【0004】
なお、膜・電極接合体101は、高分子電解質膜の両面にカーボンペーパーからなるアノード側電極膜及びカソード側電極膜を貼り合わせてなり、MEA(Membrane Electrode Assembly)と呼ばれ、酸素と水素とを合成させつつ、電気と水を生成させる重要な要素である。
【0005】
ただし、1枚の膜・電極接合体101では発電量が小さいため、多数枚を重ねて発電量を高め、その際に膜・電極接合体101同士を絶縁するためにセパレータ102、103を介在させる。一般にセパレータ102、103に溝を設けることで、空気(酸素)、水素及び水の通路を確保する。
【0006】
図(a)において、台106に一方のセパレータ102を載せる。なお、シール材104は上になるようにする。そこへ、膜・電極接合体101を載せ、別のセパレータ103を載せる。なお、シール材105は下になるようにする。
【0007】
(b)において、台106へ抑え107を付勢することで、膜・電極接合体101の上下面にセパレータ102、103を貼り付けて、一体化する。
すなわち、(a)に示すシール材104、105を押し広げ、硬化させることでセパレータ102、103を膜・電極接合体101に接着するとともに、シール材104、105でセパレータ102、103と膜・電極接合体101との間の隙間を塞いで、空気、水素、水の漏れを防止する。
【0008】
ところで、セパレータ102、103の材質は、一般に金属若しくは樹脂である。それに対してシール材104、105はゴム系材料であり、セパレータ102、103とは物性が大きく異なる異種材料である。異種材料であるため、繰り返し使用すると、シール材104、105がセパレータ102、103から剥離することがあり、この剥離は燃料電池の品質を維持する上で許容できない。
したがって、剥離防止対策を講じる必要がある。
【0009】
剥離防止対策の一つに基材とシール材との間に接着用プライマー組成物を介在させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献2】特許第2657438号公報(請求項1)
【0010】
特許文献2は、要約すれば、(A)オルガノポリシロキサン、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)白金系触媒及び(D)有機ケイ素化合物を、特許文献2の請求項1に示す重量割合で構成した接着用プライマー組成物である。
このような接着用プライマー組成物を基材とシール材との間に介在させることにより、シール材が基材から剥離することを防止することができると、説明されている。
【0011】
本発明者等が特許文献2の接着用プライマー組成物を、燃料電池に適用して耐久テストを実施した。すると、シール材が基材から剥離することが判明した。
燃料電池内部は、多量の水素イオンが発生するため、強酸性雰囲気になり、強酸で前記(A)から(D)までの成分の一部が変質し、劣化したためと考えられる。
【0012】
そこで、強酸性雰囲気下でも耐久性を有する接着用プライマー組成物が必要となった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、強酸性雰囲気下でも耐久性を有する接着用プライマー組成物及びその使用方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る接着用プライマー組成物は、金属若しくは樹脂からなる基材に、シリコーンゴムを一体形成する際に、基材に予め塗布する接着用プライマー組成物であって、a.1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1個含む化合物、b.シリコーンレジン、c.1分子中にアルケニル基を2個以上含む化合物(ただし、シリコーンレジンは除く。)を含有することを特徴とする。
【0015】
本発明のa成分は、1分子中に芳香環(通常1〜4価、好ましくは1〜2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等)を少なくとも1個、好ましくは1〜20個含有するものである。分子中に芳香環を有することで、シリコーンゴムと各種基材(被着体)との界面での接着性が向上する。
【0016】
また、a成分は、グリシドキシ基等のエポキシ基を1分子中に少なくとも1個含有するものである。このグリシドキシ基等のエポキシ基は、接着性を発現するために必要なものであり、好ましくはそのエポキシ当量は100〜5000g/1mol、より好ましくは100〜2000g/1mol、特に好ましくは120〜1000g/1molの範囲である。このエポキシ当量が、100g/1mol未満では合成が困難になることがあり、5000g/1mol超では接着性が不十分になることがある。
【0017】
加えて、本発明のa成分は、1分子中に少なくとも1個のSi−H基(即ち、ケイ素原子に結合した水素原子)を含有するものである。このSi−H基は、1分子中に少なくとも1個、好ましくは1〜100個、より好ましくは1〜50個、特に好ましくは2〜20個程度含有し、且つケイ素原子数を好ましくは1〜500、より好ましくは1〜200、特に好ましくは1〜50とするオルガノシラン又は直鎖状若しくは環状構造等のオルガノポリシロキサン等のSi−H基を含有する有機ケイ素化合物を好適に使用することができる。
【0018】
さらに、a成分は、特には、エポキシ当量が100〜5000g/1mol、好ましくは100〜1000g/1molの範囲として、1分子中にフェニル骨格(即ち、2〜4価のフェニレン基)又はフェニル基を少なくとも1個含有し、且つ1分子中に少なくとも1個、好ましくは1〜10個、特には2〜6個程度のSi−H基を含有する有機ケイ素化合物を好適に使用することができる。
【0019】
以上のように、本発明の接着用プライマー組成物のa成分としては、エポキシ当量が100〜5000g/1molのエポキシ基を有し、1分子中に芳香環としてフェニル骨格(即ち、2〜4価のフェニレン基)又はフェニル基に代表されるベンゼン環、ナフタレン環及びアントラセン環等を少なくとも1個含有し、少なくとも1個のSi−H基を含有する有機化合物又はオルガノシラン若しくはオルガノシロキサンなどの有機ケイ素化合物を使用することが好ましい。さらに好ましくは、エポキシ当量が100〜5000g/1molのエポキシ基を有し、分子中にフェニル骨格又はフェニル基等のベンゼン環を少なくとも1個含有し、少なくとも1個のSi−H基を含有する有機ケイ素化合物を使用する。
【0020】
ここで、本発明で使用されるa成分の具体例を下記に示す。
【化1】

から選ばれる基であり、R、Rは置換又は非置換の一価炭化水素基である。q=1〜50、h=0〜50、好ましくはq=1〜20、h=1〜10である。)で示される基であり、R”は、
【化2】

(R、Rは上記と同様であり、y=0〜100である。)から選ばれる基であり、Y’は、
【化3】

(R、R、q、hは上記と同様である。)である。z=1〜10である。〕
【0021】
上記R、Rの置換又は非置換の一価炭化水素基としては、炭素数1〜12、特に1〜8のものが好ましく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基等、R’で例示したものと同様のものが挙げられる他、置換一価炭化水素基としてアルコキシ基、アクリル基、メタクリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基、アルキルアミノ基等で置換したものが挙げられる。
【0022】
なお、接着性付与成分であるa成分は、上記成分を単独で用いても併用してもよい。或いは、上記成分の反応物でもよい。
【0023】
このような化合物としては、下記に示すものが挙げられる。
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
本発明のb成分であるシリコーンレジンは、三官能性シロキサン単位及び/又はSiO4/2単位を1分子中に含有する三次元網状構造のオルガノポリシロキサンを有し、プライマー表面を被膜化して、末端がメチル基、Si−H基、脂肪族不飽和基などで構成するもの、又は、1分子内にメチル基だけでなく、フェニル基を含んで使用することができ、好ましくはa成分との親和性が高いフェニル基を有するものを使用するのがよい。ここで、フェニル基を含有したシリコーンレジンの例として、トリクロロシラン・ジフェニルジクロロシラン・ジクロロシランの混合物を加水分解したもの等を挙げることができる。
【0026】
シリコーンレジンは、特に下記平均組成式(1ー1)で示される、好ましくはフェニル基を含有するものを使用することができる。
【化6】

(式中、Rは水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜6のアルキル基、又は、ビニル基、アリル基等の炭素数2〜4のアルケニル基であり、p、qは0.8≦p+q<2、好ましくは1≦p+q≦1.8、更に好ましくは1≦p+q≦1.5であり、且つ0≦q/(p+q)≦0.9、好ましくは0.1≦q/(p+q)≦0.80、更に好ましくは0.25≦q/(p+q)≦0.70を満たす数である。)
【0027】
なお、シリコーンレジン中の三官能性シロキサン単位(RSiO3/2単位又は(C)SiO3/2単位)及び/又はSiO4/2単位の含有量は、全シロキサン単位に対して25〜100モル%、特に30〜70モル%であることが望ましい。
【0028】
シリコーンレジンの配合量は、a成分100質量部に対して、10〜1000質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜100質量部である。シリコーンレジンの配合量が少なすぎると有効な接着被膜が形成されない場合があり、多すぎると接着成分の濃度が下がり十分な接着性が得られない場合がある。
【0029】
本発明のc成分は、シリコーンレジン以外で1分子中にアルケニル基を2個以上含むものであればいかなる化合物でもかまわないが、ビニル価として好ましくは0.001〜0.035モル/g、より好ましくは0.002〜0.030モル/gの範囲である。0.001モル/g以下では、接着力向上の効果が不十分となることがあり、0.035モル/g以上の化合物は接着用プライマー組成物中で不安定となることがある。
【0030】
このようなc成分として、ヘキサビニルジシロキサン、テトラビニルジメチルジシロキサン、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、ジメチルシロキサン・ビニルメチルシロキサン共重合体等のシリコーンレジン以外のアルケニル基を含有する有機ケイ素化合物、フタル酸ジアリル、マロン酸ジアリル、ピロメリット酸テトラアリル等のアルケニル基を含有する有機化合物などが挙げられる。
【0031】
また、c成分の配合量は、a成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは0.01〜50質量部、特に好ましくは0.1〜20質量部である。
【0032】
請求項2に係る接着用プライマー組成物は、b成分のシリコーンレジンが、フェニル基を含有するレジンであることを特徴とする。
【0033】
請求項3に係る接着用プライマー組成物は、請求項1又は請求項2記載の接着用プライマー組成物に、エポキシ基を含有するシランカップリング剤を加えたことを特徴とする。
【0034】
請求項4に係る接着用プライマー組成物は、a成分を、100質量部含有し、b成分を、10〜1000質量部含有し、c成分を、50質量部以下含有することを特徴とする。
【0035】
請求項5に係る接着用プライマー組成物は、エポキシ基を含有するシランカップリング剤を、1000質量部以下含有することを特徴とする。
【0036】
請求項6に係る接着用プライマー組成物は、請求項1〜5のいずれか1項記載の接着用プライマー組成物を、燃料電池に用いることを特徴とする。
【0037】
請求項7に係る接着用プライマー組成物の使用方法は、請求項1〜5のいずれか1項記載の接着用プライマー組成物を基材に塗布する工程と、この塗布物を、少なくとも120℃で加熱処理することでエポキシ基を開環させ、基材と反応させて造膜する工程と、この造膜した膜に未加硫のシリコーンゴムを被せる工程と、このシリコーンゴムを加硫処理する工程と、からなることを特徴とする。
【0038】
請求項8に係る接着用プライマー組成物の使用方法は、シリコーンゴムが、付加硬化型シリコーンゴムであることを特徴とする。
【0039】
請求項9に係る接着用プライマー組成物の使用方法は、シリコーンゴムを被せる工程では、シリコーンゴムの厚さを1.0mm以下にすることを特徴とする。
【0040】
請求項10に係る接着用プライマー組成物の使用方法は、請求項7〜9のいずれか1項記載の接着用プライマー組成物の使用方法を、燃料電池の製造方法に適用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0041】
請求項1に係る発明では、a成分(1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1個含む化合物)が酸に耐える接着成分で、b成分(シリコーンレジン)が耐酸化膜を形成すると共にa成分の保持作用を発揮する。また、c成分(1分子中にアルケニル基を2個以上含む化合物)が後の工程で実施するシリコーンゴムの流動性を促す。
a成分及びb成分の総合作用により、強酸性雰囲気下でも耐久性を有し、c成分により、狭いキャビティへシリコーンゴムを十分に充填させることができる接着用プライマー組成物を提供する。
【0042】
また、1分子中にアルケニル基を2個以上含む化合物(c成分)は、主に一体成形されるシリコーンゴムが付加硬化型である場合に、シリコーンゴムの硬化(速度)調整剤として働き、且つ接着力向上に効果的である。更に、一体成形されるシリコーンゴムの厚さが薄い場合、ゴムの硬化速度が速くなるため、通常接着が難しくなるが、c成分の添加により薄いシリコーンゴムでも接着が可能になる。その効果は、ゴム厚さが5mm以下、特には2mm以下、より好適には1mm以下の場合において、接着力向上が期待できる。
【0043】
請求項2に係る発明では、b成分のシリコーンレジンが、フェニル基を含有するレジンであることを特徴とする。
フェニル基を含有することにより、請求項1のa成分との相溶性が増し、接着力が向上する。
【0044】
請求項3に係る発明では、接着用プライマー組成物に、エポキシ基を含有するシランカップリング剤を加えた。シランカップリング剤は接着力を増加させる。
したがって、請求項3によれば、請求項1よりも接着力を向上させることができる。
【0045】
請求項4に係る発明では、a成分100質量部に対して、b成分10〜1000質量部とc成分50質量部以下含有させる。
a成分は接着作用、b成分は有効成分保持作用を発揮するが、b成分が10質量部未満では有効成分保持作用が不足し、又、1000質量部を超えると接着性能が低下する。
a成分100質量部に対して、b成分10〜1000質量部含有させることで、接着作用と有効成分保持作用を両立させることができる。
また、c成分50質量部以下含有させることで、硬化遅延作用を発揮するが、50質量部を超えると逆に硬化が進まなくなり、生産時間が延び、生産性に悪影響が出る。
【0046】
請求項5に係る発明では、エポキシ基を含有するシランカップリング剤を、1000質量部以下含有させる。
エポキシ基を含有するシランカップリング剤の添加により接着力を向上させることができるが、1000質量部を超えると、請求項1のa成分の相対濃度が薄くなってしまい、逆に接着力が低下してしまう可能性が高い。
【0047】
請求項6に係る発明では、接着用プライマー組成物は、燃料電池に用いる。燃料電池内部は強い酸化雰囲気で且つ高温雰囲気である。
本発明の接着用プライマー組成物は耐酸化性能及び耐熱性能を有するため、燃料電池に適用できる。
【0048】
請求項7に係る発明では、接着用プライマー組成物を基材に塗布する工程と、この塗布物を、少なくとも120℃で加熱処理することでエポキシ基を開環させ、基材と反応させて造膜する工程とを含む。
エポキシ基を開環させたので、接着用プライマー組成物を基材及びシリコーンゴムの両方に強固に結合させることができる。
【0049】
請求項8に係る発明では、シリコーンゴムが、付加硬化型シリコーンゴムであることを特徴とする。
付加硬化型シリコーンゴムであれば、短時間での成形が可能となり、工程が短縮でき、経済的である。
【0050】
請求項9に係る発明では、シリコーンゴムの厚さを1.0mm以下にすることができる。
通常、プライマーを被着体に塗布するシリコーンゴムの一体成形の場合、ゴムの厚さが薄くなると接着力が低下してしまう。しかし、本発明の接着用プライマー組成物は、ゴムの厚さを1mm以下、更には0.5mm以下にしても、所望の接着力を発揮させることができる。
【0051】
請求項10に係る発明では、接着用プライマー組成物の使用方法は、燃料電池の製造方法に適用する。
燃料電池内部は強い酸化雰囲気で且つ高温雰囲気である。本発明の接着用プライマー組成物は耐酸化性能及び耐熱性能を有するため、燃料電池に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0052】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る接着用プライマー組成物の塗布工程及び造膜工程の説明図である。
(a)にて、金属若しくは樹脂からなる基材11に、スプレーガン12を用いて液状の接着用プライマー組成物13を塗布する。
【0053】
接着用プライマー組成物13の組成を詳細に説明する。
本発明者等は、酸に耐える接着成分として、1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1個含む化合物(以下、第1の化合物と記す。)に着目した。
【0054】
この第1の化合物を有効に保持するには保持成分が必要である。本発明者等は、酸に耐える保持成分として、シリコーンレジンに注目した。
【0055】
接着用プライマー組成物13は、第1の化合物に、シリコーンレジンと、1分子中にアルケニル基を2個以上含む化合物(以下、第2の化合物と記す。)とを混合したものを基本とした。
そして、必要に応じて、エポキシ基を含むシランカップリング剤、希釈溶剤としてのアセテート系溶剤を加える。
【0056】
接着用プライマー組成物13の厚さは3μm〜10μmが適当である。
スプレーや刷毛塗りで塗布すると、膜厚が不可避的に変動する。膜厚が不足すると塗り漏れ、すなわち塗膜の欠損部が発生する。3μmの厚さであれば、塗り漏れを十分に防止することができる。
【0057】
また、強度の小さな膜で且つ厚い膜は、剪断力を受けると厚さの中央で破断する。剪断破壊を防止するには、10μmに止めることが望ましい。
したがって、本発明の接着用プライマー組成物13の厚さは3μm〜10μmの範囲で塗布することが望ましい。
【0058】
(b)にて、基材11と共に接着用プライマー組成物13を、加熱炉14に入れる。そして、120℃〜200℃の温度条件で加熱する。
この加熱により、接着用プライマー組成物13中のエポキシ基を開環させ、基材11と反応させて造膜することができる。120℃〜200℃の温度条件については後述する。
【0059】
図2は本発明に係るシリコーンゴム被覆工程及びゴム加硫工程の説明図である。
(a)にて、接着用プライマー組成物の膜15に型16を被せ、1.0mm以下の厚さのキャビティ17を形成する。そして、ゴム射出機ゲート18より、未加硫のシリコーンゴム19をキャビティ17へ注入し、金型内加硫を行う。
(b)にて、基材11と共にシリコーンゴム19を、適当な加硫装置20に入れ、加硫温度に加熱することで、シリコーンゴム19を2次加硫化処理する。
【0060】
図3は本発明品の評価方法の説明図であり、接着試験用の試験片22を用いて、加硫処理済のシリコーンゴム23の一端を引き上げ、剥離時の力Fを計測する。この力Fを接着力と呼ぶ。
【0061】
接着力Fを測定するための実験手順は次の通りである。
1、準備:
1−1、基材:SUS304板
1−2、接着用プライマー組成物の配合割合:
第1の化合物(詳細後述):100質量部
シリコーンレジン(詳細後述):100質量部
エポキシ基を含むシランカップリング剤(詳細後述):50質量部
第2の化合物(詳細後述):4質量部
アセテート系溶剤:300質量部
【0062】
1−3、接着用プライマー組成物の詳細
第1の化合物は、次に示す化学式のものを使用した。
【0063】
【化7】

【0064】
シリコーンレジンはフェニル基含有レジン[CSiO3/2単位、CHSiO3/2単位、(CHSiO2/2単位からなる共重合体(フェニル基とメチル基との合計に対するフェニル基量:30モル%、OH基含有量:2.5質量%、全シロキサン単位に対するCSiO3/2単位とCHSiO3/2単位の合計の比率:40モル%)]を使用した。
【0065】
エポキシ基を含むシランカップリング剤はCFシラン[γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403、信越化学工業(株)製)]を使用した。
第2の化合物は、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンを使用した。
【0066】
2、塗布工程:
2−1、塗布方法:スプレー
2−2、塗布厚さ(平均値):3μm
【0067】
3、造膜工程:
3−1、加熱温度:20℃、30℃、40℃・・・200℃、210℃
3−2、加熱時間:60分
【0068】
4、ゴム被覆工程:
4−1、ゴムの種類:シリコーンゴム
4−2、被覆厚さ:1.0mm
【0069】
5、加硫工程:
5−1、加硫温度:150℃
5−2、加硫時間:1分
【0070】
6、試験片:
6−1、試験片の幅:25mm
【0071】
7、試験片の処理:
7−1、酸性溶液の種類:pH3の硫酸
7−2、酸性溶液の温度:95℃
7−3、酸性溶液への浸漬時間:3000時間
【0072】
8、接着力測定:図3参照
測定した接着力グラフを次に説明する。
【0073】
図4は加熱温度と接着力の相関グラフ図であり、横軸は造膜工程での加熱温度、縦軸は接着力Fを示す。
加熱温度120℃で接着力Fは急増し始める。そして、加熱温度170℃付近で接着力Fの増加が鈍り、それ以降、横ばいになった。
【0074】
なお、加熱温度210℃では、基材(SUS304)の表面に酸化膜が認められた。加熱温度200℃以下では酸化膜は確認できないか、確認できたとしても許容できる程度に微量であった。また、基材がPPS(ポリフェ二レンサルファイト)樹脂であっても樹脂の使用限界を超えるため、200℃超の温度は採用できない。
【0075】
また、燃料電池で要求される機能限界強度は、25mm幅で1.0kgと言われている。1.0kg/25mmは120℃で達成できる。
【0076】
したがって、造膜工程における加熱温度は、120〜200℃が適当であり、省エネルギーの点から、120〜170℃が好適であると言える。
【0077】
次に、第2の化合物を評価する実験を実施したので、その内容及び結果を説明する。
11、準備:
11−1、基材:SUS304(幅25mm、長さ50mm、厚さ0.2mm)
11−2、接着用プライマー組成物の配合割合:
第1の化合物(詳細後述):100質量部
シリコーンレジン(詳細後述):250質量部又は無し
第2の化合物(1)(詳細後述):表1参照
第2の化合物(2)(詳細後述):表1参照
シランカップリング剤(詳細後述):50質量部又は無し
希釈溶剤(詳細後述):500質量部
【0078】
11−3、接着用プライマー組成物の詳細
第1の化合物は、次に示す化学式のものを使用した。すなわち1−3項と同じ。
【0079】
【化8】

【0080】
シリコーンレジンは、フェニル基含有レジン[CSiO3/2単位、CHSiO3/2単位、(CHSiO2/2単位からなる共重合体(フェニル基とメチル基との合計に対するフェニル基量:30モル%、OH基含有量:2.5質量%、全シロキサン単位に対するCSiO3/2単位とCHSiO3/2単位の合計の比率:40モル%)]を使用した。
【0081】
第2の化合物(1)は、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサンを使用した。
第2の化合物(2)は、ヘキサビニルジシロキサンを使用した。
【0082】
シランカップリング剤は、CFシラン[γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−403、信越化学工業(株)製)]を使用した。
希釈溶剤は、酢酸エチルを使用した。
【0083】
12、塗布工程:
12−1、塗布方法:スプレー
12−2、塗布厚さ(平均値):3μm
12−3、塗布面の大きさ:25mm×10mm
【0084】
13、造膜工程:
13−1、乾燥手段:オーブン
13−2、加熱温度(乾燥温度):180℃
13−3、加熱時間(乾燥時間):30分
【0085】
14、ゴム被覆工程:
14−1、ゴムの種類:付加硬化型シリコーンゴム組成物(信越化学工業(株)製、商品名:KE1950−50A/B、配合比100/100)
14−2、被覆厚さ:4mm、1mm又は0.2mm
【0086】
15、加硫工程:
15−1、加硫温度:150℃
15−2、加硫時間:5分
【0087】
16、乾燥工程:
16−1、乾燥手段:オーブン
16−2、加熱温度(乾燥温度):200℃
16−3、加熱時間(乾燥時間):2時間
【0088】
17、試験片:
17−1、試験片の幅:25mm
【0089】
18、接着試験:図3と同様にゴムを引張り、剥離部位又は破断部位が界面かゴムかを調べた。
【0090】
19、接着試験の評価:
接着用プライマー組成物の接着強度が十分であれば、ゴムの部位で破断する。逆に、接着用プライマー組成物の接着強度が不十分であれば、界面の部位で剥離する。接着用プライマー組成物の接着強度を評価する訳であるから、評価は次の基準で行うことにした。
【0091】
19−1、ゴムの部位のみで破断したものを合格、すなわち「○」と評価する。
19−2、界面の部位のみで剥離したものを不合格、すなわち「×」と評価する。
19−3、界面の部位の剥離が20%未満で残部がゴムの部位での破壊であったものは、不合格であるが比較のために「△○」と評価する。
19−4、界面の部位の剥離が20%以上100%未満で残部がゴムの部位での破壊であったものは、不合格であるが比較のために「△」と評価する。
【0092】
以上に述べた条件で実施した、比較例及び実施例を次の表にまとめた。
【0093】
【表1】

【0094】
比較例1は、第1の化合物とシランカップリングを主成分とし、シリコーンレジン及び第2の化合物を含まない。そして、ゴムの厚さは4mmとした例である。評価は「△○」であった。
比較例2は、第1の化合物とシランカップリングを主成分とし、シリコーンレジン及び第2の化合物を含まない。そして、ゴムの厚さは1mmとした例である。評価は「△○」であった。
比較例3は、第1の化合物とシランカップリングを主成分とし、シリコーンレジン及び第2の化合物を含まない。そして、ゴムの厚さは0.2mmとした例である。評価は「×」であった。
【0095】
比較例4は、第1の化合物を主成分とし、シリコーンレジン、第2の化合物及びシランカップリング剤を含まない。そして、ゴムの厚さは4mmとした例である。評価は「△○」であった。
比較例5は、第1の化合物を主成分とし、シリコーンレジン、第2の化合物及びシランカップリング剤を含まない。そして、ゴムの厚さは1mmとした例である。評価は「△」であった。
比較例6は、第1の化合物を主成分とし、シリコーンレジン、第2の化合物及びシランカップリング剤を含まない。そして、ゴムの厚さは0.2mmとした例である。評価は「×」であった。
【0096】
比較例7は、第1の化合物、シリコーンレジン、第2の化合物(1)及びシランカップリング剤を主成分とし、ゴムの厚さは4mmとした例である。評価は「△」であった。
実施例1は、第1の化合物、シリコーンレジン、第2の化合物(1)及びシランカップリング剤を主成分とし、ゴムの厚さは1mmとした例である。評価は「○」であった。
実施例2は、第1の化合物、シリコーンレジン、第2の化合物(1)及びシランカップリング剤を主成分とし、ゴムの厚さは0.2mmとした例である。評価は「○」であった。
【0097】
比較例8は、第1の化合物、シリコーンレジン、第2の化合物(1)及びシランカップリング剤を主成分とし、ゴムの厚さは4mmとした例である。評価は「△○」であった。
実施例3は、第1の化合物、シリコーンレジン、第2の化合物(1)及びシランカップリング剤を主成分とし、ゴムの厚さは1mmとした例である。評価は「○」であった。
実施例4は、第1の化合物、シリコーンレジン、第2の化合物(1)及びシランカップリング剤を主成分とし、ゴムの厚さは0.2mmとした例である。評価は「○」であった。
【0098】
比較例9は、第1の化合物、シリコーンレジン及び第2の化合物(2)を主成分とし、ゴムの厚さは4mmとした例である。評価は「△○」であった。
実施例5は、第1の化合物、シリコーンレジン及び第2の化合物(2)を主成分とし、ゴムの厚さは1mmとした例である。評価は「○」であった。
実施例6は、第1の化合物、シリコーンレジン及び第2の化合物(2)を主成分とし、ゴムの厚さは0.2mmとした例である。評価は「○」であった。
【0099】
ゴムの厚さを4mmにした場合は、満足する結果が得られなかった。ゴムの厚さを1mm以下にすると、第2の化合物は、(1)テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、(2)ヘキサビニルジシロキサンの何れも満足できる結果が得られた。
【0100】
以上に述べた実験と同様に、接着用プライマー組成物の組成割合を変更することで多数の追加実験を実施した。実験の詳細は省略し、結果のみを以下に述べる。
【0101】
A、基本成分:
A−1、内訳:
第1の化合物(1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なとも1個含む化合物)+シリコーンレジン+第2の化合物(1分子中にアルケニル基を2個以上含む化合物)
A−2、第1の化合物の配合量:100質量部
A−3、シリコーンレジンの配合量:10〜1000質量部
A−4、第2の化合物の配合量:1〜50質量部
【0102】
シリコーンレジンの配合量が10質量部未満であると第1の化合物を被着体表面に固定できなくなるため好ましくない。また、シリコーンレジンの配合量が1000質量部を超えると、相対的に第1の化合物の量が不足し、必要な接着力が得られなくなる。
したがって、第1の化合物100質量部+シリコーンレジン10〜1000質量部の配合とする。
【0103】
また、第2の化合物の配合量は、1〜50質量部とした。
第2の化合物の配合量が、1質量部未満のときは、図2(a)において、液状のシリコーンゴム19をキャビティ17の末端や隅へ到達させることが困難になる。これは、第2の化合物の配合量が不十分であるため、硬化遅延作用が低下したためである。
一方、第2の化合物の配合量が、50質量部を超えると、シリコーンゴムが硬化しなくなってしまう不具合が発生する。
【0104】
以上に述べた基本成分で接着用プライマー組成物を構成することは可能であるが、接着性能の強化、粘度調整などに補助物を添加することが実用的である。補助成分の詳細を次に説明する。
【0105】
B、接着性能強化成分としての補助成分:
B−1、種類:エポキシ基を含有するシランカップリング剤
B−2、配合量:10〜1000質量部
配合量が10質量部未満であると接着性能強化が見込めない。また、配合量が1000質量部を超えると、第1の化合物の効果が十分に発揮できなくなってしまうという不具合が発生する。
【0106】
C、粘度調整成分としての補助成分:
C−1、種類:アセテート系溶剤
C−2、配合量:10〜10000質量部
本発明の接着用プライマー組成物は、塗料の一種であるため、希釈溶剤で適度な粘度にすることは有益である。
【0107】
しかし、配合量が10質量部未満であると十分な希釈効果が見込めない。また、配合量が10000質量部を超えると、乾燥時間が長くなり、生産性の低下が起こる。
【0108】
次に、本発明の接着用プライマー組成物の好適な使用例を説明する。
燃料電池(固体電解質型燃料電池)では、金属又は樹脂製のセパレータに、シール材としてシリコーンゴムを一体形成する。
しかも、燃料電池の内部では、水素分子に酸素分子を結合する酸化発熱反応が発生するため、90℃程度の高温になる。加えて、水素イオンが豊富に存在するために、強い酸性雰囲気になる。
【0109】
本発明によれば、95℃でpH3の条件下で接着力が確保できる。したがって、本発明を、燃料電池、特にそのセパレータに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、燃料電池に内蔵するセパレータに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明に係る接着用プライマー組成物の塗布工程及び造膜工程の説明図である。
【図2】本発明に係るシリコーンゴム被覆工程及びゴム加硫工程の説明図である。
【図3】本発明品の評価方法の説明図である。
【図4】加熱温度と接着力の相関グラフ図である。
【図5】従来の燃料電池の要素を製造する方法の説明図である。
【符号の説明】
【0112】
11…基材、13…接着用プライマー組成物、15…造膜した膜、19…シリコーンゴム、102、103…燃料電池のセパレータ、104、105…セパレータに付着させたシール材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属若しくは樹脂からなる基材に、シリコーンゴムを一体形成する際に、前記基材に予め塗布する接着用プライマー組成物であって、
a.1分子中にエポキシ基、Si−H基及び芳香環をそれぞれ少なくとも1個含む化合物
b.シリコーンレジン
c.1分子中にアルケニル基を2個以上含む化合物(ただし、シリコーンレジンは除く。)
を含有することを特徴とする接着用プライマー組成物。
【請求項2】
前記b成分のシリコーンレジンが、フェニル基を含有するレジンであることを特徴とする請求項1記載の接着用プライマー組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の接着用プライマー組成物に、エポキシ基を含有するシランカップリング剤を加えたことを特徴とする接着用プライマー組成物。
【請求項4】
前記a成分を、100質量部含有し、
前記b成分を、10〜1000質量部含有し、
前記c成分を、50質量部以下含有する
ことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3記載の接着用プライマー組成物。
【請求項5】
前記エポキシ基を含有するシランカップリング剤を、1000質量部以下含有することを特徴とする請求項3又は請求項4記載の接着用プライマー組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の接着用プライマー組成物は、燃料電池に用いることを特徴とする接着用プライマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の接着用プライマー組成物を前記基材に塗布する工程と、
この塗布物を、少なくとも120℃で加熱処理することでエポキシ基を開環させ、基材と反応させて造膜する工程と、
この造膜した膜に未加硫のシリコーンゴムを被せる工程と、
このシリコーンゴムを加硫処理する工程と、からなることを特徴とする接着用プライマー組成物の使用方法。
【請求項8】
前記シリコーンゴムが、付加硬化型シリコーンゴムであることを特徴とする請求項7記載の接着用プライマー組成物の使用方法。
【請求項9】
前記シリコーンゴムを被せる工程では、シリコーンゴムの厚さを1.0mm以下にすることを特徴とする請求項7又は請求項8記載の接着用プライマー組成物の使用方法。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項記載の接着用プライマー組成物の使用方法は、燃料電池の製造方法に適用することを特徴とする接着用プライマー組成物の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−146147(P2007−146147A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292972(P2006−292972)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】