説明

接着箇所を備えたSAW素子及びその使用

特に弾性波によって作動する素子用の接着剤が提案され、前記接着剤は鉱物性充填剤粒子で充填されたポリマーマトリックスを有する。前記充填剤は、不導体又は半導体材料から選択され、かつ高い割合で接着剤中に含まれていて、接着剤の全体の密度は硬化した状態で2000kg/mよりも高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
機能方式が固体上での表面弾性波の送信及び受信に基づく、電子素子の作動時に、電子素子の場合に避けられない、表面弾性波の変換によっても生じることがある有害なバルク波の励起により信号品質の阻害が生じる。このようなバルク弾性波は、特にチップ背面側で反射することができ、弾性波を再び電気信号に変換する変換器内に再び達する。付加的に不所望なこの信号成分は、比較的長い音響路に基づいて、他の走行時間を有し、従って有効信号が歪曲され、それにより特別な場合にデジタル信号の誤解釈が生じかねない。しかしながら、少なくともこのような信号はバックグラウンドノイズを高めるか又は有効信号を歪ませてしまう。
【0002】
有害なバルク弾性波を抑制するために、このような素子の背面に減衰性の被覆を設けることが既に提案されている。不所望な信号を制御しかつそれによりあまり害を及ぼさないようにするために、背面を粗面化するか又は背面に切り込みが入れられることも提案されている。
【0003】
減衰性被覆の場合には、素子チップと被覆との間のインピーダンスの差により部分反射が生じることが避けられないため、それぞれの減衰性の層により不完全な減衰が生じるという他の問題が生じる。
【0004】
減衰性被覆のために、金属粒子、特に銀が充填されている反応性樹脂を使用することは公知である。しかしながら、この種の減衰材料の欠点は良好な導電性であり、この導電性が前記減衰材料の適用性を制限している。この場合、既に個々の粒子の導電性は妨害され、全体の材料の導電性自体はわずかである。前記の充填された材料を素子チップ上に不適切に塗布した場合には不所望な短絡が生じかねず、それにより素子機能を損ねることになりかねない。
【0005】
音響的適合が良好であり及びわずかな導電性又は非導電性を示す減衰材料は今まで公知ではなかった。前記素子に対して付加的な機能を満たす減衰材料を備えた素子も公知ではなかった。
【0006】
従って、本発明の課題は、音響的に圧電材料に適合し、かつ導電性を示さないか又はわずかな導電性を示し、かつ前記素子に対して付加的機能を満たす、弾性波の減衰のために適したプラスチック材料を備えた素子を提供することであった。
【0007】
この課題は本発明により、請求項1による素子によって解決される。他の請求項には本発明の有利な実施形態及び本発明の使用が示されている。
【0008】
本発明は、充填剤で充填されたポリマーマトリックスを有する接着剤を備えた素子が提案され、その際、充填剤として不導体の又は半導体の鉱物性粒子は十分に高く選択されている割合で含有されていて、接着剤の全体の密度は硬化された状態で2500kg/mよりも高い。
【0009】
素子中で、この接着剤層は、圧電材料、例えば石英、ニオブ酸リチウム又はタンタル酸リチウムに良好に適合した音響インピーダンスを有する。前記接着剤層は、従って弾性波によって作動する素子を接着する機能と、その際に有害なバルク弾性波又は表面弾性波を減衰する機能との2つの機能を満たす。バルク波の減衰は、圧電素子ボディの界面での反射が前記接着層中で低減されることにより達成される。
【0010】
鉱物性粒子を、炭化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム及び三酸化タングステンから選択する場合に、所望な密度を有する接着剤を得ることができる。前記粒子は、3000〜7300kg/mの密度を有する。前記粒子は、それぞれ4000kg/mを上回る密度を有する硫化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム及び三酸化タングステンから選択するのが有利である。充填剤の選択に応じて、充填剤もしくは鉱物性粒子の多様な割合で所望の密度を達成することができる。高い密度を有する鉱物性粒子の少ない割合により、全体の密度を変えずに、ポリマーマトリックスの割合が高められ、その結果より良好な接着挙動が生じる。高い密度を有する充填剤の選択により、鉱物粒子の割合を変えずに、より高い全体の密度を有する接着剤が得られ、前記接着剤は、弾性波によって作動する素子中で使用される圧電材料とさらに良好に適合される。
【0011】
本発明による素子中で使用される接着剤用のポリマーマトリックスは、任意の反応性樹脂及び硬化性材料から選択されていて、これらは一方で充填剤と混合可能であり、他方で接着剤として適している。前記ポリマーマトリックスは、例えばエポキシ樹脂、シロキサンゴム(シリコーン)、アクリラート、ポリウレタン又はポリイミドを有することができる。まだ硬化されていない接着剤中では、ポリマーマトリックス用の出発材料は低分子量〜オリゴマーの形で存在し、これらは効果反応によって固体の成形材料に硬化する。本発明による接着剤はモノマー化合物を有し、前記化合物は相応する硬化反応によりポリマーに硬化可能である。
【0012】
本発明による接着剤は二成分反応性樹脂系として構成されていて、前記系は樹脂成分と硬化剤成分とを有する。この場合、充填剤は、一方、又は有利に両方の成分中に含まれることができる。このような二成分反応性樹脂系は適用の直前に混合される、それというのも、両方の成分の混合物は限られた時間だけ貯蔵可能であるが、個々の成分は硬化性を生じさせるその化学的活性を失うことなしに数ヶ月〜数年貯蔵可能であるためである。一般に、接着剤製造元で個々の成分を混合して使用可能な完成された接着剤にすることが行われ、前記製造元は前記混合物を次いですぐに凍結し、更なる硬化を遅らせるか又は抑制する。
【0013】
有利に、本発明により使用可能な接着剤は光開始剤を含有し、前記光開始剤は、接着剤中で化学的な活性の開始化合物を形成し、前記開始化合物は更なる熱硬化を促進する。このような光開始剤を用いて、本発明による接着剤は、光照射又はUV線照射によって活性化されそれにより容易に硬化を行うことが可能である。このような光開始は通常では十分な硬化が行われない、それというのも十分な硬化は通常では熱によってのみ行われるためである。それに対して、光遮断下で前記接着剤は良好に貯蔵可能であり、許容できない粘度上昇は生じない。本発明により使用された接着剤が有する高い充填剤割合にもかかわらず、光又はUVを用いた完全な硬化又は硬化開始は、薄く塗布された接着剤層では良好に可能である。
【0014】
本発明による素子は、前記素子ボディが成形品と接着されている箇所を有する。本発明により使用される接着剤は、高い密度及びそれと関連する化学的/物理的特性、例えば高い伝熱性又は既に前記した圧電材料と適合した音響インピーダンスが望ましい場合に常に有利であり、前記音響インピーダンスは充填されていない接着剤又は従来の充填材料が充填された接着剤と比較して高くかつそれにより音響的適合が改善されている。
【0015】
本発明の実施態様の場合には、前記接着剤はわずかな導電性を有する接着剤が提供され、前記接着剤は相応する弱い導電性の充填剤の選択によって達成される。このような接着剤は、圧電素子ボディもしくは焦電素子ボディとの関連で、焦電効果により素子ボディ中に生じることがある静電気の不所望な電荷を排除することができるという利点を有する。
【0016】
本発明による素子は、その素子ボディが弾性波によって作動し、その際、前記素子ボディは、能動素子構造を有していない主面で、機械的安定性の基材と接着されているのが有利である。このような基材は、例えばセラミック材料又はプラスチックからなるリードフレーム又はプリント基板である。このようなプリント基板は、前記素子ボディのサイズに適合されていてもよく、例えば素子ハウジングの一部を形成していてもよい。前記プリント基板又は基材は大面積であることができ、例えば素子ボディが接着されているモジュール支持体であることができる。接着箇所との接続において電気的導体路が存在することができる、それというのも接着剤の良好な誘電特性は短絡を防止するためである。しかしながら、前記素子ボディは他の素子ボディと接着することもできる。
【0017】
有利に、本発明による接着剤により、マルチメディア用途のために使用されるSAW素子が接着される。マルチメディア用途は障害の影響が特に低レベルである信号伝達を必要とする。
【0018】
しかしながら、本発明による素子の場合に接着剤は表面波によって作動する素子ボディの背面に塗布されるだけでなく、ボディ又は基材又は支持体との接着のための接着箇所の形で使用することも可能である。例えば、前記接着剤を、素子ボディの素子構造を有する側に塗布することも可能である。この塗布が音響トラックの外側の領域中で行われた場合には、例えば散乱及び不所望な傾斜反射によって前記音響トラックを離脱する表面波の減衰が行われる。このような音響トラックからはずれた波成分の減衰は、同様にこのような波成分が隣接する構造で又は素子ボディのエッジで反射し、その結果、前記波成分は音響トラックに反射して戻され、かつそこで同様に不所望な信号成分を提供するのを抑制する。このような適用の場合に、前記接着剤は接着のためだけに使用されるのではなく、この場合、被覆としても用いることができる。前記接着剤は、フリップチップ技術を用いてボンディングされた素子の場合に、チップと基板との間の接合部の外側の封止のためにも適している。本発明による接着剤が、アンダーフィルとして使用される場合に、前記接着剤は同時に表面波の音響的減衰材料として利用することができる。
【0019】
前記接着剤をスクリーン印刷で塗布するのが有利である、それというのも、前記接着剤は高密度にもかかわらず、前記鉱物性材料の高い相対密度により生じる比較的わずかな充填材料割合を有するためである。この低い充填剤割合により、前記接着剤にスクリーン印刷技術で加工するために適した粘度を付与することができる。スクリーン印刷を用いて接着箇所に接着剤を塗布することは、この塗布が特に均質な層厚で実施できるという利点を有する。しかしながら、接着剤を他の方法で塗布する、例えば滴下塗布するか又は塗りつけることも可能である。スタンプ印刷も接着剤の塗布のために適している。
【0020】
ポリマーマトリックスの化学成分、特に樹脂成分と硬化剤成分との割合によって、光開始剤の割合によって、及び硬化反応のために適した基の反応性によって、本発明により使用される接着剤における硬化速度及びそのために必要な硬化条件は調節される。前記接着剤は、従来の硬化方法が穏和な温度で使用することができ、前記温度が素子に対して有害な熱的影響を素子に及ぼさないように調節するのが有利である。
【0021】
化学成分及び充填剤をさらに変更し、かつ本発明による接着剤中に使用することも本発明の範囲内にある。鉱物性充填剤のための有利な粒子の大きさは適用の種類に依存するが、できる限り小さく選択するのが有利である。鉱物性充填剤の粒度分布を保ち、ポリマーマトリックス中での充填剤のできる限り密な充填を可能にすることも有利である。最適な充填密度のためのこのような充填剤分布は自体公知である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックスと充填剤とを有する接着剤の層を備えたSAW素子において、充填剤として不導体又は半導体の鉱物性粒子が高い割合で含まれていて、接着剤の全体の密度が硬化した状態で2500kg/mよりも高いことを特徴とする、接着剤の層を備えたSAW素子。
【請求項2】
鉱物性粒子は、炭化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、硫化亜鉛、ZrO、BaSO及びWOから選択される、請求項1記載の素子。
【請求項3】
ポリマーマトリックスは、エポキシ樹脂、シロキサンゴム、アクリラート、ポリウレタン又はポリイミドから選択されている、請求項1又は2記載の素子。
【請求項4】
接着剤は、樹脂成分と硬化剤成分とを有する二成分反応性樹脂系として構成されていて、その際、充填剤は一方又は両方の成分中に含まれている、請求項1から3までのいずれか1項記載の素子。
【請求項5】
接着剤は光開始剤を有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の素子。
【請求項6】
接着剤を用いて接着箇所で成形品と接着されている素子ボディを有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の素子。
【請求項7】
素子ボディが機械的安定性の基材上に接着されている、請求項6記載の素子。
【請求項8】
素子ボディが圧電材料からなるチップであり、前記チップは能動素子構造を有していない主面で接着されている、請求項6又は7記載の素子。
【請求項9】
接着剤の層が、表面弾性波の減衰のために形成されかつ使用されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の素子。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれか1項記載の素子のマルチメディア用途のための使用。

【公表番号】特表2007−510339(P2007−510339A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537127(P2006−537127)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011779
【国際公開番号】WO2005/048449
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】