説明

接触抵抗の高い純Si粉末

【課題】 本発明により、抵抗を高く保つことが重要視される目的で用いられる純Siにとって、充填、成形、塗布などに用いた際に、極めて重要な特性である電流遮断性である接触抵抗の高い純Si粉末を提供する。
【解決手段】 平均円形度が0.75〜1.00であり、かつ相対密度が65%以上を有するSiおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする接触抵抗の高い純Si粉末。(なお、ここでいう相対密度とは、タップ密度を純Siの真密度2.33Mg/m3 で除して100を乗じた値(%)である)。また、上記相対密度が65〜80%である接触抵抗の高い純Si粉末。さらに、上記Si粉末をガスアトマイズ法にて製造する接触抵抗の高い純Si粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充填、成形、塗布などに用いた際に、接触抵抗の高い純Si粉末に関し、特に、高い抵抗を有する軟磁性焼結部材や軟磁性圧粉体などに用いられる接触抵抗の高い純Si粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、純Siは半導体であり固有抵抗が高いことが大きな特徴であり、FeやNiなどの金属と比較すると、固有抵抗が2〜5桁も大きい。また、FeやNiなどの金属のような塑性変形能がなく極めて脆性であるなど、様々な特徴を持った元素である。
一方、粉末状のSiは、Si自身の固有抵抗の高さと、これを充填した場合に粉末同士が点接触になることによる粉末充填体ならではの接触抵抗の高さという特徴を活かし、電流が流れることが好ましくない2つの金属体の間に充填、塗布されるなどして用いられる。例えば、軟磁性金属粉末と純Si粉末を混合、成形し、軟磁性金属粉末同士の接触を避けることで、渦電流損失を低減した圧粉コアなどに用いられる。
【0003】
さらに、例えば特開2005−60830号公報(特許文献1)に開示されている、軟質性原料粉末表面に、Si粉末を被覆する工程により得られる、Si微粉被覆磁性粉末を所定の形状に圧粉成形後、焼結する軟磁性焼結部材の製造方法や特開2008−288525号公報(特許文献2)に開示されている、Feと44〜50質量%のNiと2〜6質量%のSiとを含有する組成からなり粒子間にSiが偏在する焼結軟磁性粉末による成形体が提案されている。
【特許文献1】特開2005−60830号公報
【特許文献2】特開2008−288525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載されている、軟磁性金属粉末にSiを被覆し、これを焼結した軟磁性焼結部材や特許文献2に記載されている、FeとNiにSiを含有する組成の粒子間にSiが偏在する焼結軟磁性粉末による成形体などに用いられる、抵抗を高く保つことが重要視される純Si粉末にとって、充填した時にどの程度電流を流しにくいか(以下、電流遮断性と記す)は極めて重要な特性と考えられる。しかし、このいずれの特許文献も純Si粉末の充填体においての電流遮断性を解決したものではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、上述した充填された純Si粉末の電流遮断性について発明者らは、鋭意検討した。通常市販されている純Si粉末は、バルク体を機械的に粉砕して製造された粉砕粉末であることから、その形状は不定形状である。発明者らは、純Si粉末充填体の電流遮断性に及ぼす純Si粉末の形状依存性に着目し、平均円形度および相対密度を数水準に変化させた純Si粉末を作製し、これらの電流遮断性を評価した結果、所定の平均円形度および相対密度を有する純Si粉末を充填体として用いることにより、高い電流遮断性を有することを見出した。なお、円形度とは、粒子画像から、面積(A)と周囲長(p)を測定し、これらより、(円形度)=4πA/(p2 )で評価される。真球に近い形状の粉末ほど円形度の数値は大きくなり、形状が真球から離れるに従い円形度は小さな値となる。
【0006】
その発明の要旨とするところは、
(1)平均円形度が0.75〜1.00であり、かつ相対密度が65%以上を有するSiおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする接触抵抗の高い純Si粉末。
(なお、ここでいう相対密度とは、タップ密度を純Siの真密度2.33Mg/m3 で除して100を乗じた値(%)である)
(2)前記(1)に記載の相対密度が65〜80%であることを特徴とする接触抵抗の高い純Si粉末。
(なお、ここでいう相対密度とは、タップ密度を純Siの真密度2.33Mg/m3 で除して100を乗じた値(%)である)
(3)前記(1)または(2)に記載のSi粉末をガスアトマイズ法にて製造することを特徴とする接触抵抗の高い純Si粉末にある。
【発明の効果】
【0007】
上述したように、本発明により、抵抗を高く保つことが重要視される目的で用いられる純Siにとって、充填、成形、塗布などに用いた際に、極めて重要な特性である電流遮断性である接触抵抗の高い純Si粉末を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、平均円形度を0.75〜1.00とした理由は、円形度は、粉末の形状が球状に近いかどうかを示す数値であり、真球に近い粉末が高い値となるもので、完全な真球では1.00である。この円形度の平均値が0.75未満の純Si粉末では、充填体の電流遮断性が悪くなってしまう。また、平均円形度が1.00を超えることは原理的にない。したがって、その範囲を0.75〜1.00とした。好ましくは、0.85〜1.00である。
【0009】
また、実施例により後述するが、純Si粉末のタップ密度を同時に評価したが、タップ密度の大きい粉末のほうが電流遮断性が良好な傾向が見られた。直感的にはタップ密度が高いほど粉末同士の接触点が多くなるため、粉末充填体の電流遮断性は悪くなるように思われるが、しかし、詳細な原因は定かでないが、この直感とは異なることが判明した。
【0010】
また、電流遮断性の良好な供試粉末の相対密度については、65%以上であることを解明した。すなわち、相対密度が65未満、特に供試粉末の相対密度が60〜65%未満の供試粉末であると電流遮断性が悪いことを解明した。このことから、相対密度の比較的高いものが良好な電流遮断性を有していることが分かる。すなわち、特に相対密度が65%以上、好ましくは65〜74%のものが 良好な電流遮断性を得ることが分かった。
【0011】
一方、ガスアトマイズで製造した粉末は一般に概ね球形状であり、これを粉砕することにより形状は球形状から離れてくる。さらに、粉砕前が概ね球形状で粒度が異なる粉末を用いて、粉砕し、同じ106μm以下に分級することにより、意図的に形状を変化させることができることから、ガスアトマイズで製造した粉末を粉砕し106μm以下に分級し、その際の形状を種々測定した。例えば、ガスアトマイズで製造した粉末の粉砕前が概ね球形状で粒径が200μmの粉末を粉砕し約100μmとなった場合、その形状は概ね球形状粉末が1/8に割れた程度となることが想定される。これに対し、粉砕前が概ね球形状で粒径が1000μmの粉末を粉砕し約100μmとなった場合は、元の球形状はほとんど見られないほぼ完全な不定形状粉末となることが想定されるものである。
【0012】
上述したように、ガスアトマイズで製造した粉末を粉砕することにより形状は球形状から離れ、ガスアトマイズで製造したほぼ球状の粉末を異なる粒径に分級し、これら異なる粒径の粉末を粉砕して、最終的に106μm以下に分級した各々の平均円形度を測定して、その時の電流遮断性、相対密度を測定した。
【実施例】
【0013】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
平均円形度の異なる数種類の純Si粉末を作製するために、ガスアトマイズ法により作製した純Si粉末を、106μm以下、106〜300μm、300〜500μm、500〜700μm、700〜1000μmに分級し、106μm以下の粉末以外を遊星ボールミルにより粉砕した。粉砕条件は、内径100mm、深さ70mmのメノウ製ポットに、各粒度に分級した純Si粉末を50g、直径10mmのメノウ製ボールを80個入れ、300rpmで2分間粉砕した。粉砕した粉末を106μm以下にし、供試粉末とした。106μm以下のガスアトマイズ粉末はそのまま供試粉末とした。また、市販されている、バルク体からの粉砕粉末も106μm以下に分級し比較粉末とした。さらに、平均円形度の異なる粉末を混合することにより、平均円形度を変化させた粉末も評価した。
【0014】
上記、平均円形度の評価としては、純Si粉末の平均円形度を測定した。平均円形度はセイシン企業社製のPITA−1により評価した。その原理の概略は次の通りである。セル内にキャリア液とともに粒子を流し、CCDカメラで多量の粒子の画像を撮り込み、個々の粒子画像から、面積(A)と周囲長(p)を測定する。これらより、(円形度)=4πA/(p2 )で評価される。なお、真球の場合、CCDカメラで取り込まれる画像は真円であるため、この真円の半径をrとすると、A=πr2 、p=2πrとなり、(円形度)=4π(πr2 )/(2πr)2 =1.00となる。また、真球に近い形状の粉末ほど円形度の数値は大きくなり、形状が真球から離れるに従い円形度は小さな値となる。供試粉末ごとに、それぞれ2500〜3500個の粒子について円形度を測定し、その平均値を平均円形度とした。
【0015】
また、相対密度(タップ密度)の評価としては、各供試粉末についてタップ密度を測定し、純Siの真密度2.33Mg/m3 で除して100を乗じた値を相対密度(%)で示した。その結果を表1に供試粉末の製造工程、平均円形度、電流遮断性、相対密度を示す。また、表1では、106μm以下の粒度を−106μm、X〜Yμmの粒度を−Y/+Xμmと記す。
【0016】
さらに、電流遮断性の評価としては、直径30mm、厚さ2mmの銅製の円盤を2枚用意し、上下に配置したこの円盤の間に0.5gの各供試粉末を挟み込み、上円盤に100gのおもりを載せた。この状態で上下の銅円盤に端子を接続し、10Vの電圧を掛けたときに電流値が1μA未満であったものを○、電流値が1μA以上であったものを×として評価した。
【0017】
【表1】

表1に示す試料No.A〜Dは本発明例であり、試料No.E〜Iは比較例である。
【0018】
表1に示すように、比較例試料No.E〜Iは、いずれも平均円形度が0.75未満であり、かつ相対密度が65%未満であることから、電流遮断性に劣ることが分かる。これに対し、本発明例試料No.A〜Dは、いずれも平均円形度が0.75以上であり、かつ相対密度が65%以上であることから、良好な電流遮断性を有していることが分かる。
【0019】
以上述べたように、抵抗を高く保つことが重要視される目的で用いられる純Si、特に高い抵抗を有する軟磁性焼結部材や軟磁性圧粉体などに用いられる純Siにとって、充填、成形、塗布などに用いた際に、電流遮断性である接触抵抗の高い純Si粉末を提供できる工業的に極めて優れた効果を奏するものである。



特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均円形度が0.75〜1.00であり、かつ相対密度が65%以上を有するSiおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする接触抵抗の高い純Si粉末。(なお、ここでいう相対密度とは、タップ密度を純Siの真密度2.33Mg/m3 で除して100を乗じた値(%)である)
【請求項2】
請求項1に記載の相対密度が65〜80%であることを特徴とする接触抵抗の高い純Si粉末。(なお、ここでいう相対密度とは、タップ密度を純Siの真密度2.33Mg/m3 で除して100を乗じた値(%)である)
【請求項3】
請求項1または2に記載のSi粉末をガスアトマイズ法にて製造することを特徴とする接触抵抗の高い純Si粉末。