説明

推力発生装置

【課題】簡素な構成で、船舶の推力発生装置における冷却性を向上させる。
【解決手段】水中に配置されて水を噴射することで推力を発生させる推力発生装置10であって、ロータ本体43の一方側の側面及び外周面に対面配置されてスラスト方向及びラジアル方向の荷重を支える第1水潤滑軸受40と、ロータ本体43の他方側の側面及び外周面に対面配置されてスラスト方向及びラジアル方向の荷重を支える第2水潤滑軸受41と、プロペラ翼13bの一方側の流路に向けて開口した第1取水口37aと、プロペラ翼13bの他方側の流路に向けて開口した第2取水口38aと、第1取水口37aに流入する水を第2水潤滑軸受41に導く第1導水管37と、第2取水口38aに流入する水を第1水潤滑軸受40に導く第2導水管38と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶等の推進力を発生するための推力発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の船舶では、エネルギー資源不足の問題等から、推進力を発生するための推進システムの効率を向上することが求められている。船舶の推進システムでは、各種原動機の中でディーゼル機関が最も熱効率に優れており、ディーゼル機関を直接または減速機を介して推力発生装置たるプロペラに結合した推進方式が主流となってきている。ところが、ディーゼル機関は、環境性能の面で大気汚染の問題があることが指摘されている。そこで、ディーゼル機関の環境対策として、電動機でプロペラを駆動して推進力を発生させる電気推進方式が注目され始めている。例えば、特許文献1には、リング状の電動機のロータに径方向内側に突出するプロペラ翼を設けた潜水船用のリング状推進装置が開示されている。この推進装置によれば、電動機で駆動されるプロペラ翼の回転により水流が噴射され、推進力が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6692319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動機でプロペラ翼を回転させる推進装置の場合には、電動機が発熱することにより熱損失が生じて効率が低下する。よって、電気推進システムの場合、電動機で生じた熱を如何にして冷却するかが重要となる。しかし、前記リング状推進装置では、電動機が一体化されているため、電動機を冷却するための冷却装置を追加しようと思えば、推進装置自体が複雑化及び大型化してしまい望ましくない。
【0005】
そこで本発明は、簡素な構成で冷却性の良好な推力発生装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、第1の発明に係る推力発生装置は、液中に配置され、液を噴射することで推力を発生させる推力発生装置であって、複数のコイルが設けられた環状のステータと、複数の磁石と、前記磁石が取り付けられた磁性体からなるロータコアと、前記ロータコアが取り付けられた環状のロータ本体とを有する正逆回転可能なロータと、前記ロータ本体の径方向内側に一体的に設けられたプロペラ翼と、前記ロータ本体を挟んだ一方側に配置され、前記ロータ本体の一方側の側面及び外周面に対面してスラスト方向及びラジアル方向の荷重を支える第1液潤滑軸受と、前記ロータ本体を挟んだ他方側に配置され、前記ロータ本体の他方側の側面及び外周面に対面してスラスト方向及びラジアル方向の荷重を支える第2液潤滑軸受と、前記プロペラ翼を挟んだ一方側の流路に向けて開口した第1取液口と、前記プロペラ翼を挟んだ他方側の流路に向けて開口した第2取液口と、前記第1取液口に流入する液を前記第2液潤滑軸受に導く第1導液管と、前記第2取液口に流入する液を前記第1液潤滑軸受に導く第2導液管と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
前記第1の発明の構成によれば、プロペラ翼が正回転したときには、プロペラ翼の一方側から他方側に向けて液体が噴射されて第2取液口が高圧となるので、圧力差により第2取液口から第2導液管を介して第1液潤滑軸受に液が供給される。プロペラ翼が逆回転したときには、プロペラ翼の他方側から一方側に向けて液体が噴射されて第1取液口が高圧となるので、圧力差により第1取液口から第1導液管を介して第2液潤滑軸受に液が供給される。よって、ロータと共にプロペラ翼が正逆回転する構成において、当該液により、第1及び第2液潤滑軸受とロータ本体との間の摺動面を潤滑することができるとともに、その近傍に配置されて渦電流により発熱するロータコアを冷却することができる。
【0008】
また、プロペラ翼の正回転時には、プロペラ翼の一方側から他方側に向けて液体が噴射されるため、その反力でプロペラ翼及びロータは他方側から一方側へと第1液潤滑軸受に近接する方向に移動しようとするが、そのとき、前記したように第2取液口から第2導液管を介して第1液潤滑軸受に液が供給されるので、第1液潤滑軸受とロータ本体との間は好適に潤滑される。プロペラ翼の逆回転時には、プロペラ翼の回転軸線方向の他方側から一方側に向けて液体が噴射されるため、その反力でプロペラ翼及びロータは一方側から他方側へと第2液潤滑軸受に近接する方向に移動しようとするが、そのとき、前記したように第1取液口から第1導液管を介して第2液潤滑軸受に液が供給されるので、第2液潤滑軸受とロータ本体との間は好適に潤滑される。よって、ロータと共にプロペラ翼が正逆回転する構成において、回転方向ごとに場所が異なる摺動圧の高い部分を簡素な構成で的確に潤滑することができる。
【0009】
前記第1導液管及び前記第2導液管には、前記第1取液口及び前記第2取液口から前記第2液潤滑軸受及び前記第1液潤滑軸受へ向かう流れのみを許容する逆止弁がそれぞれ設けられていてもよい。
【0010】
前記構成によれば、第1及び第2取液口から第2及び第1液潤滑軸受に向けて水が一方向に流れることが補償されるため、第1及び第2導液管の内部に液が滞留しにくく、冷却性が向上する。
【0011】
第2の発明に係る推力発生装置は、液中に配置され、液を噴射することで推力を発生させる推力発生装置であって、複数のコイルが設けられた環状のステータと、複数の磁石が設けられた環状のロータ本体を有するロータと、前記ロータ本体の径方向内側に一体的に設けられたプロペラ翼と、を備え、前記ステータは、アウターケーシングと、前記アウターケーシングの内周側に配置されたインナーケーシングと、前記アウターケーシングと前記インナーケーシングとの間で形成された冷却空間と、前記冷却空間を前記プロペラ翼が配置される主流路に連通させる連通口とを有していることを特徴とする。
【0012】
前記第2の発明の構成によれば、主流路を流れる液が連通口を介してステータ内の冷却空間に導入されるため、その冷却空間内の液によりコイル等の発熱部材を冷却することができる。しかも、冷却空間は新しい液が流れる主流路と連通口を介して連通しているので、冷却空間内の液の昇温を抑制することができる。よって、特別な冷却装置を設けることなく、簡素な構成で冷却性を向上することができる。
【0013】
前記連通口は、前記プロペラ翼の両側にそれぞれ配置されていてもよい。
【0014】
前記構成によれば、プロペラ翼の回転時には、その下流側が上流側に比べて高圧となるので、主流路の液はプロペラ翼の下流側の連通口から冷却空間内に流入し、冷却空間内の液はプロペラ翼の上流側に連通口から主流路に流出される。よって、圧力差により冷却空間内に液が滞留することが抑制され、冷却性を向上することができる。
【0015】
前記アウターケーシングは、ダクト状であり、前記インナーケーシングは、前記ロータ本体の両側に配置されて、前記ロータ本体から離反するにつれて拡径するようにファンネル状に形成されたフェアリングを有し、前記フェアリングの拡径側の端部と前記アウターケーシングとの間には、前記連通口として隙間が形成されていてもよい。
【0016】
前記構成によれば、フェアリングの外端部とアウターケーシングとの間に隙間を設けるだけで、主流路と冷却空間を繋ぐ連通口が形成できるので、簡素な構成で冷却性を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、簡素な構成で冷却性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態に係る推力発生装置を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す水力発生装置を図1の左側から見た図面である。
【図3】図1に示す推力発生装置の船体への搭載状態を説明する断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る推力発生装置を示す縦断面図である。
【図5】図4に示す水力発生装置を図4の左側から見た図面である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
【0020】
(第1実施形態)
図1及び2に示すように、第1実施形態の推力発生装置10は、船体に固定される環状のステータ11と、そのステータ11に対して正逆回転可能な環状のロータ12と、ロータ12の径方向内側に一体的に設けられたプロペラ部材13と、プロペラ部材13の径方向内側の先端に一体的に設けられてロータ12の回転軸線X上に配置されたボス14とを備えている。
【0021】
ステータ11は、環状のアウターケーシング21と、その内周側に配置された環状のインナーケーシング22とを備え、それらの間に形成された略円筒状の空間を冷却空間S1としている。アウターケーシング21は、一部分にケーブル挿通孔21aが形成された円筒のダクト状であり、ケーブル挿通孔21aは蓋23で閉鎖されている。インナーケーシング22は、第1〜第4ケーシング24〜27、支持リング28,29及びフェアリング30,31を互いにボルトで連結することで形成されている。インナーケーシング22(具体的には第2ケーシング25)は、アウターケーシング21から径方向内側に突出したブラケット39にボルトで着脱可能に固定されている。なお、ブラケット39は周方向において部分的に設けられており、冷却空間S1を仕切っていない。
【0022】
第1ケーシング24と第2ケーシング25とは、互いをボルトで連結することでコイル収容空間S2を形成している。コイル収容空間S2には、磁束の通路となる磁性体からなるステータコア32が配置され、ステータコア32に電機子コイル33が巻き付けられている。この電機子コイル33は、電気ケーブル34,35を介して船体内に設けられた電源(図示せず)に接続される。電気ケーブル34,35は、冷却空間S1内において防水コネクタ34a,35aで互いに結合されており、船体側の電気ケーブル35は蓋23を水密的に貫通している。第2ケーシング25のステータコア32の内周面に対応する部分には環状切欠部25aが設けられており、環状切欠部25aは絶縁性及び耐水性を有する渦電流損の小さい材料からなる薄肉のキャン36で水密的に閉鎖されている。
【0023】
第3及び第4ケーシング26,27は、第2ケーシング25にボルトで固定されるフランジ部26a,27aと、そのフランジ部26a,27aの内周端から回転軸線X方向の外側に向けて延びる円筒部26b,27bとを有している。一対の支持リング28,29は、円筒部26b,27bの外側端部にボルトで固定されており、それぞれ第1及び第2導水管37,38(導液管)の一端部を支持している。第1及び第2導水管37,38の一端部の開口である第1及び第2取水口37a,38a(取液口)は、支持リング28,29の内周面と同一面上に位置して主流路Rに向けて開口している。(なお、図1において、第2導水管38の第1導水管37と重なる部分は一部破断して図示省略し、第1導水管37のコネクタ34a,35aと重なる部分は一部破断して図示省略している。)
フェアリング30,31は、支持リング28,29に近接する側の内端部30a,31aから離反する側の外端部30b,31bに向けて拡径するように形成されている。フェアリング30,31の内端部30a,31bは、支持リング28,29にボルトで固定されている。つまり、フェアリング30,31とアウターケーシング21とは間接的に着脱可能に一体化されている。フェアリング30,31の外端部30b,31bは、アウターケーシング21と隙間C1,C2をあけている。フェアリング30,31には、それを支持リング28,29に固定したボルトの延長軸線と重なる位置に孔30c,31cが形成されている。そして、隙間C1,C2及び孔30c、31cが、冷却空間S1を主流路Rに連通させる連通口の役目を果たしている。
【0024】
ステータ11とロータ12との間には第1及び第2水潤滑軸受40,41(液潤滑軸受)が介設され、ロータ12が回転自在に支持されている。第1及び第2水潤滑軸受40,41は、後述するロータ本体43の回転軸線X方向の両側面及び外周面に対面配置され、ロータ本体43に働くスラスト方向及びラジアル方向の荷重を支えている。第1及び第2水潤滑軸受40,41は、フランジ部40a,41aと、そのフランジ部40a,41aの内周端から回転軸線X方向の外側に向けて延びる円筒部40b,41bとを有している。第1及び第2水潤滑軸受40,41のロータ本体43との摺動面にはセラミックが溶射されている。但し、第1及び第2水潤滑軸受40,41自体をセラミックソリッドとしてもよいし、第1及び第2水潤滑軸受40,41のロータ本体43との摺動する部分のみ別体のセラミック部材を取り付けてもよい。
【0025】
第1及び第2水潤滑軸受40,41と第3及び第4ケーシング26,27との間には水を一時的に貯める環状のバッファ空間S3,S4が形成されている。第3及び第4ケーシング26,27には、逆止弁46,47を介して第2及び第1導水管38,37の他端部が接続されており、第2及び第1導水管38,37内の流路は逆止弁46,47を介してバッファ空間S3,S4に連通している。この逆止弁46,47は、第2及び第1取水口38a,37aから第1及び第2水潤滑軸受40,41へ向かう流れのみを許容するものである。よって、第1及び第2取水口37a,38aから第1及び第2導水管37,38内に流入した水は、逆止弁47,46を介してバッファ空間S4,S3に導かれる。第1及び第2水潤滑軸受40,41のフランジ部40a,41aには、周方向に等間隔に複数の吐出孔40c,41cが形成されており、それらの吐出孔40c,41cの一端がバッファ空間S3,S4に連通し、その他端がロータ本体43に向けて開口している。
【0026】
ロータ12は、ロータ本体43と、ロータ本体43に外嵌されて防食皮膜が塗布された磁性体からなる環状のロータコア44と、ロータコア44に取り付けられて電機子コイル33による磁力が作用する永久磁石45とを備えている。ロータコア44とステータコア32とは対向する位置に設けられ、電機子コイル33への給電の仕方を変えることによりロータ12の回転方向を逆転させることが可能となっている。ロータ本体43は、第1水潤滑軸受40に対面する側面及び外周面を有する第1部材48と、第2水潤滑軸受41に対面する側面及び外周面を有する第2部材49と、ロータコア44の内周面に当接する支持面を有する第3部材50とを有している。
【0027】
第1〜第3部材48〜50は、互いにボルトで着脱可能に固定されている。第1及び第2部材48,49は、フランジ部48a,49aと、そのフランジ部48a,49aの内周端から回転軸線X方向の外側に向けて延びる円筒部48b,49bとを有している。第1及び第2部材48,49のフランジ部48a,49aの回転軸線X方向の外方の側面は、第1及び第2水潤滑軸受40,41のフランジ部40a,41aに対面したスラスト摺動面となっている。第1及び第2部材48,49の円筒部48b,49bの外周面は、第1及び第2水潤滑軸受40,41の円筒部40b,41bに対面したラジアル摺動面となっている。つまり、第3部材50には、第1及び第2水潤滑軸受40,41との摺動面は存在せず、ロータ本体43の全ての摺動面は、第3部材50に対してボルトで着脱される第1及び第2部材48,49に設けられている。第1及び第2部材48,49のフランジ部48a,49aは、第3部材50よりも径方向外側に突出している。第1及び第2部材48,49のフランジ部48a,49aと第3部材50の外周面(支持面)との間で形成される環状凹部にロータコア44が外嵌配置されている。
【0028】
第3部材50の内周面には、プロペラ部材13がボルトで着脱可能に固定されている。プロペラ部材13は、第3部材50に内嵌固定される外円筒部13aと、外円筒部13aの内周面から周方向に等間隔をあけて径方向内側に突出する複数のプロペラ翼13bと、複数のプロペラ翼13bの径方向内側の先端を繋ぐ内円筒部13cとを有している。内円筒部13cの回転軸線X方向の両側端は、先端に向けて徐々に縮径する弾頭形状の一対の分割ボス51,52の拡径端で挟持されている。一方の分割ボス51の内部には、他方に向けて開口するボルト穴を有するボルト取付部51aが設けられ、他方の分割ボス52の内部には、ボルト取付部51aのボルト穴と合致するボルト穴を有するボルト取付部52aが設けられている。そして、ボルト取付部51a,52aのボルト穴にボルト53を締結することで、分割ボス51,52が内円筒部13cを圧接挟持して互いに一体化される。よって、内円筒部13cと分割ボス51,52とにより、回転軸線X方向の両側に向けて徐々に縮径する流線形の中空部材であるボス14が形成される。そして、適宜ボルトを取り外すことにより、ロータ本体43とプロペラ翼13bと分割ボス51,52とが互いに離脱できるようになっている。
【0029】
プロペラ翼13bが配置される主流路Rは、外円筒部13a、第1及び第2部材48,49、支持リング28,29及びフェアリング30,31の各内周面により画定されている。主流路Rは、円柱状部分と、その回転軸線X方向の両側に連続して回転軸線X方向の両側に向けて拡径した拡径状部分とを有しており、第1及び第2取水口37a,38aは、その円柱状部分と拡径状部分との境界部分に配置されている。
【0030】
推力発生装置10は、水上又は水中を水に対して相対移動可能な移動体に取り付けられ、例えば、大型船舶の左右方向への推力を発生させるサイドスラスタとして適用される。具体的には、図3に示すように、船体60には左右方向に貫通する開口61,62が設けられており、その開口61,62から船体内側に円筒壁63,64が突出している。この一対の円筒壁63,64の対向端は互いに離隔しており、その対向端に推力発生装置10のアウターケーシング21の両端が溶接固定される。
【0031】
次に、推力発生装置10の動作について説明する。電機子コイル33に給電して発生した磁界が永久磁石45に作用することで、ロータ12、プロペラ部材13及びボス14が一体的に回転する。プロペラ翼13bが正回転すると、プロペラ翼13bから図1中右側に向けて水が噴射されるので、第2取水口38aの近傍はプロペラ翼13bの図1中左側(上流側)に比べて高圧となる。この圧力差によりポンプ無しで主流路Rの水が第2取水口38aを介して第2導水管38に流入し、その第2導水管38内の水が逆止弁46を介してバッファ空間S3に導かれる。そして、バッファ空間S3の水は吐出孔40cからロータ本体43の第1部材48に向けて吐出される。その水は、第1部材48と第1水潤滑軸受40との摺動面を潤滑及び冷却し、その一部の水は第1部材48と支持リング28との隙間から主流路Rへと流れる。その残りの水は、ロータコア44の外周面とキャン36との隙間を通って第2部材49と第2水潤滑軸受41との摺動面を潤滑及び冷却する。また、プロペラ翼13bが正回転すると、プロペラ翼13bから図1中右側に向けて水が噴射されるので、その反力でロータ本体43は図1中右側から左側へと第1水潤滑軸受40に近接する方向に移動しようとする。しかし、そのとき第2取水口38aから第2導水管38に流入した水が第1水潤滑軸受40の吐出孔40cからロータ本体43に向けて吐出されるので、その吐出された水でロータ本体43を支持することができ、第1水潤滑軸受40とロータ本体43との間は好適に潤滑される。
【0032】
一方、プロペラ翼13bが逆回転すると、プロペラ翼13bから図1中左側に向けて水が噴射されるので、第1取水口37aの近傍はプロペラ翼13bの図1中右側(上流側)に比べて高圧となる。この圧力差によりポンプ無しで主流路Rの水が第1取水口37aを介して第1導水管37に流入し、その第1導水管37内の水が逆止弁47を介してバッファ空間S4に導かれる。そして、バッファ空間S4の水は吐出孔41cからロータ本体43の第2部材49に向けて吐出される。その水は、第2部材49と第2水潤滑軸受41との摺動面を潤滑及び冷却し、その一部の水は第2部材49と支持リング29との隙間から主流路Rへと流れる。その残りの水は、ロータコア44の外周面とキャン36との隙間を通って第1部材48と第1水潤滑軸受40との摺動面を潤滑及び冷却する。また、プロペラ翼13bが逆正回転すると、プロペラ翼13bから図1中左側に向けて水が噴射されるので、その反力でロータ本体43は図1中左側から右側へと第2水潤滑軸受41に近接する方向に移動しようとする。しかし、そのとき第1取水口37aから第1導水管37に流入した水が第2水潤滑軸受41の吐出孔41cからロータ本体43に向けて吐出されるので、その吐出された水でロータ本体43を支持することができ、第2水潤滑軸受41とロータ本体43との間は好適に潤滑される。
【0033】
以上のようにして、ロータ12と共にプロペラ翼13bが正逆回転する構成において、第1及び第2水潤滑軸受40,41とロータ本体43との間の摺動面を水で潤滑することができるとともに、その近傍に配置されて渦電流により発熱するロータコア44等を冷却することができる。また、プロペラ翼13bの正回転時に摺動圧が高まる場所(第1部材48と第1水潤滑軸受40との間の摺動面)と、プロペラ翼13bの逆正回転時に摺動圧が高まる場所(第2部材49と第2水潤滑軸受41との間の摺動面)とは異なるが、プロペラ翼13bの回転方向に応じて摺動圧の高い部分を簡素な構成で的確に潤滑することができる。
【0034】
また、第1及び第2導水管37,38には逆止弁46,47が設けられているため、第1及び第2取水口37a,38aから第2及び第1水潤滑軸受41,40に向けて水が一方向に流れることが補償され、第1及び第2導水管37,38の内部に水が滞留しにくく、冷却性が向上する。さらに、主流路Rを流れる水は、隙間C1,C2及び孔30c,31cを連通口として、アウターケーシング21とインナーケーシング22との間に形成された冷却空間S1に進入するため、その冷却空間S1内の水によりコイル33、ステータコア32及びロータコア44等を冷却することができる。しかも、冷却空間S1は新しい水が流れる主流路Rと連通しているので、冷却空間S1内の水の昇温を抑制することができる。また、連通口である隙間C1,C2及び孔30c,31cは、プロペラ翼13bから見て上流と下流とに分かれて配置されているため、その圧力差により冷却空間S1内の水の入れ替わりが促進される。
【0035】
次に、推力発生装置10のメンテナンス作業について説明する。例えば、第1及び第2水潤滑軸受40,41とロータ本体43との摺動面の劣化により、第1及び第2部材48,49又は第1及び第2水潤滑軸受40,41を新品に交換するメンテナンスを行う場合には、適宜ボルトを外すことで、フェアリング30,31、支持リング28,29、第3及び第4ケーシング26,27を互いに分解する。そうすると、第1及び第2水潤滑軸受40,41及びロータ本体43に容易にアクセスすることができるようになる。
【0036】
ロータ本体43については、適宜ボルトを外すことで、第1及び第2部材48,49を第3部材50から取り外して、その第1及び第2部材48,49を新品と交換して第3部材50に固定しなおす。そうすると、ロータコア44を第3部材50から引きずり出さなくても、ロータコア44が第3部材50に外嵌された状態を保ったまま、ロータ本体43の全ての摺動面の交換作業を行うことができる。よって、作業者はロータコア44の防食皮膜の剥がれを心配する必要がなく、メンテナンス性が向上する。
【0037】
また、ロータ本体43とプロペラ部材13と分割ボス51,52とは、ボルトで互いに着脱可能に固定されているため、プロペラ翼13bの破損時などには、プロペラ部材13をロータ本体43及び分割ボス51,52から取り外すことで、プロペラ部材13を容易に交換することができ、メンテナンス性が向上する。
【0038】
(第2実施形態)
図4及び5に示すように、第2実施形態の推力発生装置110のステータ111は、環状のアウターケーシング121と、その内周側に配置された環状のインナーケーシング22とを備え、それらの間に形成された円筒状の空間を冷却空間S1としている。アウターケーシング121は、上面開口130iを有するケーシング本体130と、そのケーシング本体130の上面開口130iを閉鎖するカバー131とを備えている。なお、推力発生装置110のアウターケーシング121以外の部品群は第1実施形態と共通するため、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0039】
ケーシング本体130は、左右に対向する垂直壁部130a,130bと、それら垂直壁部130a,130bの側面開口130f,130gを形成すべく回転軸線X方向の外側に突出した内円筒部130d,130eと、垂直壁部130a,130bの上端に形成されたフランジ部130hとを備えている。そして、内円筒部130d,130e、支持リング28,29、ロータ本体43及び外円筒部13aの各内周面により、主流路Rが画定されている。カバー131は、ケーシング本体130のフランジ部130hに対してボルトBで着脱可能に固定されている。カバー131は、一部分にケーブル挿通孔131aが形成された平板であり、ケーブル挿通孔131aを蓋23で閉鎖している。
【0040】
ケーシング本体130と支持リング28,29との間には隙間C3,C4が形成されている。その隙間C3,C4が、冷却空間S1を主流路Rに連通させる連通口の役目を果たしている。インナーケーシング22(具体的には第2ケーシング25)は、アウターケーシング121のカバー131とブラケット39を介して接続されており、ケーシング本体130には固定されていない。よって、メンテナンス時には、ボルトBを外してカバー131をケーシング本体130から離脱するだけで、推力発生装置110のアウターケーシング121以外の部品群を上面開口130iから上方に取り出すことができる。
【0041】
なお、前述した各実施形態の推力発生装置は、通常の大型船舶に取り付けられるものを例示したが、水上又は水中を水に対して相対移動可能な移動体に取り付けられるものであればよく、潜水艇、タグボート、水上の一定位置に留まる調査船や石油掘削リグなどに適用してもよい。また、前述した各実施形態では、水潤滑軸受に水を供給する圧力源としてポンプを用いてないが、一部期間(例えば、プロペラ翼が回転駆動し始める始動時や強制的に水潤滑軸受に水を供給する時)にポンプを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明に係る水力発生装置は、冷却性が良好となる優れた効果を有し、船舶等に広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0043】
10,110 推力発生装置
11,111 ステータ
12 ロータ
13 プロペラ部材
13b プロペラ翼
14 ボス
21 アウターケーシング
22 インナーケーシング
30,31 フェアリング
32 ステータコア
33 電機子コイル
37 第1導水管(第1導液管)
37a 第1取水口(第1取液口)
38 第2導水管(第2導液管)
38a 第2取水口(第2取液口)
40 第1水潤滑軸受(第1液潤滑軸受)
41 第2水潤滑軸受(第2液潤滑軸受)
43 ロータ本体
44 ロータコア
45 永久磁石
S1 冷却空間
R 主流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液中に配置され、液を噴射することで推力を発生させる推力発生装置であって、
複数のコイルが設けられた環状のステータと、
複数の磁石と、前記磁石が取り付けられた磁性体からなるロータコアと、前記ロータコアが取り付けられた環状のロータ本体とを有する正逆回転可能なロータと、
前記ロータ本体の径方向内側に一体的に設けられたプロペラ翼と、
前記ロータ本体を挟んだ一方側に配置され、前記ロータ本体の一方側の側面及び外周面に対面してスラスト方向及びラジアル方向の荷重を支える第1液潤滑軸受と、
前記ロータ本体を挟んだ他方側に配置され、前記ロータ本体の他方側の側面及び外周面に対面してスラスト方向及びラジアル方向の荷重を支える第2液潤滑軸受と、
前記プロペラ翼を挟んだ一方側の流路に向けて開口した第1取液口と、
前記プロペラ翼を挟んだ他方側の流路に向けて開口した第2取液口と、
前記第1取液口に流入する液を前記第2液潤滑軸受に導く第1導液管と、
前記第2取液口に流入する液を前記第1液潤滑軸受に導く第2導液管と、を備えていることを特徴とする推力発生装置。
【請求項2】
前記第1導液管及び前記第2導液管には、前記第1取液口及び前記第2取液口から前記第2液潤滑軸受及び前記第1液潤滑軸受へ向かう流れのみを許容する逆止弁がそれぞれ設けられている請求項1に記載の推力発生装置。
【請求項3】
液中に配置され、液を噴射することで推力を発生させる推力発生装置であって、
複数のコイルが設けられた環状のステータと、
複数の磁石が設けられた環状のロータ本体を有するロータと、
前記ロータ本体の径方向内側に一体的に設けられたプロペラ翼と、を備え、
前記ステータは、アウターケーシングと、前記アウターケーシングの内周側に配置されたインナーケーシングと、前記アウターケーシングと前記インナーケーシングとの間で形成された冷却空間と、前記冷却空間を前記プロペラ翼が配置される主流路に連通させる連通口とを有していることを特徴とする推力発生装置。
【請求項4】
前記連通口は、前記プロペラ翼の両側にそれぞれ配置されている請求項3に記載の推力発生装置。
【請求項5】
前記アウターケーシングは、ダクト状であり、
前記インナーケーシングは、前記ロータ本体の両側に配置されて、前記ロータ本体から離反するにつれて拡径するようにファンネル状に形成されたフェアリングを有し、
前記フェアリングの拡径側の端部と前記アウターケーシングとの間には、前記連通口として隙間が形成されている請求項3又は4に記載の推力発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−5927(P2011−5927A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150524(P2009−150524)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)