推進工法用エントランスの止水構造
【課題】外周面に凸設または凹設された部材や出隅部を有する推進函体であっても、発進口周辺における止水性能を向上させることができる推進工法用エントランスの止水構造を提供する。
【解決手段】発進口1の開口縁部に設けられたシール部材20と、推進函体10の出隅部11に対応する発進口1の角部3でシール部材20の内側に設けられたコーナー部材50とを備えており、角部3は、推進函体10の外周面12の通過位置よりも外側に膨らむように曲面状に形成され、コーナー部材50は、その外側面が角部3に沿うように曲面状に形成された外殻51と、この外殻51の内側に設けられた弾性部材55と、この弾性部材55を圧縮する圧縮手段60とを有しており、圧縮手段60で弾性部材55を圧縮変形させることで、外殻51の内側面および推進函体10の外周面に弾性部材55を接触させる。
【解決手段】発進口1の開口縁部に設けられたシール部材20と、推進函体10の出隅部11に対応する発進口1の角部3でシール部材20の内側に設けられたコーナー部材50とを備えており、角部3は、推進函体10の外周面12の通過位置よりも外側に膨らむように曲面状に形成され、コーナー部材50は、その外側面が角部3に沿うように曲面状に形成された外殻51と、この外殻51の内側に設けられた弾性部材55と、この弾性部材55を圧縮する圧縮手段60とを有しており、圧縮手段60で弾性部材55を圧縮変形させることで、外殻51の内側面および推進函体10の外周面に弾性部材55を接触させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法用エントランスの止水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルを掘削するに際しては、まず、立坑の側壁に形成された発進口から掘進機(または刃口)や推進函体を地盤内に挿入することとなる。このとき、地下水が立坑内空に流れ込まないように、掘進機または推進函体の外周面と発進口との隙間を止水するようになっている。この止水構造としては、発進口の周縁部にエントランスパッキンを設け、掘進機や推進函体の外周面にエントランスパッキンを摺接させる構造が一般的であった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
さらには、エントランスパッキンが立坑内空側に捲れるのを防止するための反転防止用押え板を設ける止水構造もあった。反転防止用押え板は、発進口の周縁部に沿って所定ピッチで複数配置されており、エントランスパッキンの立坑内空側に被されて設けられ、エントランスパッキンを押さえるようになっている。エントランスパッキンと反転防止用押え板は、推進函体の外周面に当接して、推進方向前方に傾斜した状態で保持される。なお、エントランスパッキンは、発進口の開口周縁部に沿うように環状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3721460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図9に示すように、推進函体110が断面矩形の場合、発進口100の角部103の反転防止用押え板102は、その舌片部102aが斜め内側(発進口100の開口部の中心側)に向かって延出するように配置されるが、推進函体の出隅部112が反転防止用押え板102の舌片部102aを外側(発進口100の開口部の外方側)に押し出してしまう。そのため、反転防止用押え板102によって角部103のエントランスパッキン101が外側に持ち上げられて、推進函体110とエントランスパッキン101との間に隙間が発生して、止水性能が低下してしまう問題があった。このことは、特に、大深度で高水圧下の条件でトンネルの掘削を行う場合に問題になる虞がある。なお、図9中、破線で示した符号105は、発進口100の内周面を示している。
【0006】
なお、特許文献1の止水構造は、シールド工法に適用されるものであり、推進工法には適用できない。すなわち、特許文献1は、シールド掘進機が推進した後は、発進口に構築されたセグメントの外周面に閉塞部材を固定することで発進口の止水を行う構造であるので、発進口に対して相対移動する推進函体に対応することができなかった。
【0007】
さらに、複数本のトンネルを並設する場合に用いられる推進函体の外周面には、先行トンネルの推進函体と後行トンネルの推進函体との間をシールするリップシールや、先行トンネルと後行トンネルとの離間距離を保持するためのガイド用レールやガイド用受け金物が設けられている。このような部材が凸設または凹設されている部分においても、止水性能が要求される。
【0008】
このような観点から、本発明は、外周面に凸設または凹設された部材や出隅部を有する推進函体であっても、発進口周辺における止水性能を向上させることができる推進工法用エントランスの止水構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために創案された本発明は、断面多角形状の推進函体に適用される推進工法用エントランスの止水構造において、発進口の開口縁部に設けられたシール部材と、前記推進函体の出隅部に対応する前記発進口の角部で前記シール部材の内側に設けられたコーナー部材とを備えており、前記角部は、前記推進函体の外周面の通過位置よりも外側に膨らむように曲面状に形成され、前記コーナー部材は、その外側面が前記角部に沿うように曲面状に形成された外殻と、この外殻の内側に設けられた弾性部材と、この弾性部材を圧縮する圧縮手段とを有しており、前記圧縮手段で前記弾性部材を圧縮変形させることで、前記外殻の内側面および前記推進函体の外周面に前記弾性部材を接触させることを特徴とする推進工法用エントランスの止水構造である。
【0010】
本発明における「内側」とは、立坑内空側から発進口を見たときの発進口の中心側を意味し、「外側」とは、発進口の外方側を意味する。本発明によれば、前記のように発進口の角部が外側に膨らむように曲面状に形成され、コーナー部材の外側面が角部に沿うように曲面状に形成されているので、シール部材がコーナー部材の外側面と発進口との間で滑らかに押圧され止水性能を向上させることができる。また、弾性部材を圧縮手段で圧縮変形させることで、推進函体の外周面に押圧させるように構成しているので、外周面に凸設または凹設された部材や出隅部に対して隙間無く接触でき、推進函体とコーナー部材間の止水性能を確保して向上させることができる。
【0011】
また、本発明は、前記圧縮手段は、前記弾性部材の前後からこの弾性部材を挟み込む一対のプレート材と、前記プレート材を互いに引き寄せ合うねじ部材とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、ねじ部材を回転させるだけで、一対のプレート材が引き寄せられ容易に弾性部材を圧縮できるとともに、圧縮量を調整することができる。また、ねじ部材を推進方向に沿って配置しているので、立坑側からねじ部材の回転を操作することができ、作業が行いやすい。
【0013】
さらに、本発明は、前記弾性部材が、前記ねじ部材の長手方向に沿って積層された複数のゴム板材によって構成されていることを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、各ゴム板材が薄くて変形しやすいので、弾性部材が推進函体の出隅部や外周面の凹凸形状に対して追従しやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、出隅部や外周面に凸設または凹設された部材を有する推進函体であっても、発進口周辺における止水性能を向上させることができるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る止水構造を示した正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る止水構造を示した断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る止水構造の発進口を示した正面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る止水構造のシール部材の取付状態を示した正面図である。
【図5】エントランスパッキンと反転防止用押え板の変形例を示した断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る止水構造の弾性部材と圧縮手段を示した断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る止水構造のゴムブロックの取付状態を示した斜視図である。
【図8】(a)は凸設されたガイド用レール周りに設けられた止水構造を示した正面図、(b)は凹設されたガイド用受け金物周りに設けられた止水構造を示した正面図である。
【図9】止水構造のコーナー部を示した拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための実施形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態では、断面矩形を呈する推進函体を用いた推進工法における推進工法用エントランスの止水構造を例に挙げて説明する。本実施形態の推進函体には、先行トンネルの推進函体との間に設けられるリップシールが外周面に凸設されている。
【0018】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよいが、本実施形態では、元押しジャッキの推力で掘進する推進工法が採用されている。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る推進工法用エントランスの止水構造W1は、立坑の土留壁に設けられた発進口1(図3参照)の止水構造である。止水構造W1は、シール部材20とコーナー部材50とを備えて構成されている。
【0020】
図3に示すように、発進口1は、立坑の側壁面に固定された枠体9の内側に設けられている。枠体9は、例えば鉄筋コンクリートまたは鋼材(本実施形態では鉄筋コンクリート造を図示)にて形成されており、その内側の開口部が発進口1を構成している。発進口1は、推進函体10が通過できるように、推進函体10の外形よりも大きく形成されている。発進口1の内周面2は、上下左右の角部3,3・・と、左右方向に隣り合う角部3,3間を直線状に結ぶ水平中間部4と、上下方向に隣り合う角部3,3間を直線状に結ぶ垂直中間部5とで構成されている。水平中間部4は発進口1の上下それぞれに水平方向に延びて配置され、垂直中間部5は発進口1の左右それぞれに上下方向に延びて配置されている。なお、掘削されるトンネルが最初の先行トンネルである場合、あるいは1本のトンネル掘削のみで工事が完了する場合は、発進口を立坑の側壁面に直接形成してもよい。この場合も、発進口の形状は、図3と同様である。
【0021】
角部3は、立坑内空側から見て(正面視)、推進函体10の出隅部11を含む外周面12の通過位置よりも外側に膨らむように形成されている。角部3は、水平中間部4の延長線4’および垂直中間部5の延長線5’よりも外側に位置している。角部3は、両端に位置する傾斜部3a,3aと、傾斜部3a,3aにそれぞれ繋がる平面部3b,3bと、中間部に位置する曲面部3cとを備えて構成されている。傾斜部3aは、各中間部4,5側から連続的に繋がり、直線状に傾斜している。平面部3b,3bは、それぞれが近接する側の各中間部4,5に平行に形成されている。曲面部3cは、推進函体10の出隅部11の通過位置の近傍に位置している。曲面部3cは、曲面状に形成され、両側の平面部3b,3bから滑らかに繋がっている。
【0022】
図2および図4に示すように、シール部材20は、エントランスパッキン21と反転防止用押え板30とで構成されている。エントランスパッキン21は、発進口1の開口縁部に設けられた弾性部材であって、発進口1の内周面2に沿って設けられた固定部材22に固定されている。固定部材22は、発進口1の内周面2に沿う固定板22aと、固定板22aに直交して設けられた係止板22bとで構成されている。係止板22は、発進口1の開口縁部の立坑側壁面に沿っている。図4に示すように、固定板22aは、発進口1の立坑内空側から見て、その周方向に沿って複数設けられている。固定板22aは、それぞれが互いに隣接して、周方向全周に渡って環状に設けられている。また、図2に示すように、固定板22aは、断面方向から見て、一端が発進口1の奥側(推進函体10の推進方向前方側)に挿入されており、他端が発進口1の開口端部から立坑内空側へ突出している。固定板22aの発進口1に挿入された部分の外側面は、発進口1の内周面2に面接触している。固定板22aの立坑内空側へ突出した部分には、ボルト33aおよびナット33bを利用して、エントランスパッキン21および反転防止用押え板30が固定される。係止板22bは、固定板22aの外側面に溶接等にて固定されている。係止板22bは、推進函体10の推進方向先端側の面が、発進口1の開口縁部の立坑側壁面に当接しており、シール部材20および固定部材22を発進口1の奥へ引き込もうとする応力を立坑側壁面で受けるようになっている。
【0023】
図2および図4に示すように、エントランスパッキン21は、例えば、プレート状のゴムにて構成されている。エントランスパッキン21は、一端が固定板22aの内側面に面接触して固定されている。そしてエントランスパッキン21の他端は、発進口1の内側(発進口1の開口部の中心側)に曲がって延出するように構成されている。エントランスパッキン21の他端部は、コーナー部材50の外側面または推進函体10の外周面12に面接触するリップ部23(図2参照)を構成している。四隅においては、エントランスパッキン21は、コーナー部材50の外側面に接触し、一方、水平中間部4と垂直中間部5においては推進函体10の外周面12と摺接する。
【0024】
図2に示すように、エントランスパッキン21と固定板22aとの間には、ゴムチューブ25が設けられている。ゴムチューブ25には、空気または流体が充填されており、ゴムチューブ25が、膨張することで、エントランスパッキン21をコーナー部材50や推進函体10の外側面に押圧させるようになっている。また、ゴムチューブ25が弾性変形することで、シール性を確保しながら、推進函体10の推進位置の変位を吸収できる。
【0025】
反転防止用押え板30は、地下水圧によるエントランスパッキン21の反転を防止するために、エントランスパッキン21を押さえる部材である。図4に示すように、反転防止用押え板30は、発進口1の開口縁部の周方向に沿って互いに間隔をあけて複数設けられている。図2に示すように、反転防止用押え板30は、金属製の板ばねにて構成されている。反転防止用押え板30の基端部31は、エントランスパッキン21の一端部を発進口1の内側(中心側)から覆うように配置されている。反転防止用押え板30は、固定用のボルト33aおよびナット33bによって固定板22aの立坑内空側への突出部分の内側面に、エントランスパッキン21と一体的に固定されている。反転防止用押え板30は発進口1の内側(中心側)に屈曲しており、その先端部32は、発進口1の開口部の中心側に向かって傾斜するとともに、推進方向前方に向かって延在している。この先端部32が、エントランスパッキン21の傾斜部分24を推進方向前方側に向かって押さえることで、エントランスパッキン21が立坑内空側へ反転するのを防止している。
【0026】
なお、エントランスパッキン21と反転防止用押え板30の形状は、本実施形態に限定されるものではない。たとえば、図5に示すように、エントランスパッキン21の基端側端部を枠体9の立坑内空側表面(または立坑壁面)に当接させて、その表面側から反転防止用押え板30の基端側端部で押さえて固定するような構成であってもよい。この場合、枠体9に埋設されたアンカーボルト35aとナット35bを用いてエントランスパッキン21と反転防止用押え板30を固定する。アンカーボルト35aは、先端が枠体9の立坑内空側表面から立坑内空に向かって突出しており、その突出部分をエントランスパッキン21と反転防止用押え板30に貫通させて、突出部分の先端側からナット35bを螺合させる。これによって、エントランスパッキン21と反転防止用押え板30が、ナット35bで枠体9の表面に締め付けられて固定される。なお、その他の構成は、図2に示した構成と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。このような構成によっても、前記実施形態と同等のシール性能を得ることができる。
【0027】
図1および図4に示すように、角部3に対応する位置における複数の反転防止用押え板30は、その先端を連ねた形状が発進口1の角部3の内周面形状に沿うように配置されている。角部3の傾斜部3a(図3参照)および平面部3b(図3参照)に対応する位置の反転防止用押え板30は、その先端を連ねた形状が直線状となるように配置されている。角部3の曲面部3c(図3参照)に対応する位置の反転防止用押え板30は、その先端を連ねた形状が曲線状となるように配置されている。一方、水平中間部4、垂直中間部5、および角部3の傾斜部3aと平面部3bにおける複数の反転防止用押え板(図示せず)は、発進口1の内周面2に沿って(内周面2と平行に)直線状に配置されている。
【0028】
図1および図2に示すように、コーナー部材50は、外殻51と、この外殻51の内側に設けられた弾性部材55と、この弾性部材55を圧縮する圧縮手段60とを有して構成されている。そして、弾性部材55を圧縮手段60で圧縮変形させると、外殻51の内側面52および推進函体10の外周面12に弾性部材55が接触する。圧縮手段60は、弾性部材55の接触圧が、地下水圧よりも高くなるように弾性部材55を圧縮する。
【0029】
外殻51は、鉄板にて構成されており、その外側面が発進口1の内周面2に沿うように形成されている。外殻51は、その一部(発進口1の曲面部3cに対向する部分)が曲面状に形成されている。弾性部材55は、外殻51の内側面に当接するように配置されており、圧縮手段60によって挟持されている。
【0030】
図1に示すように、弾性部材55は、発進口1の周方向に延在している。弾性部材55は、圧縮手段60で推進函体10の推進方向に圧縮されて、推進方向の直交方向に広がるように変形する。このとき、弾性部材55は、外殻51の内側面に当接しているので、推進函体10の外周面12側(発進口1の中心側)に押圧されて、外周面12に隙間が無いように面接触する。また、リップシール13(図1参照)が凸設されている部分には、弾性部材55に凹溝56が形成されている。凹溝56は、リップシール13の突出部分を挿入できるように、当該突出部分よりも僅かに大きく形成されている。弾性部材55が圧縮されると、凹溝56の断面が小さくなり、リップシール13の突出部分を挟持する。弾性部材55は、推進函体10の外周面12およびリップシール13との間に必要な止水性能を得られるとともに、これらが摺動可能な程度に押圧するように、圧縮手段60で圧縮される。そして、推進函体10が推進する際には、その外周面12およびリップシール13が弾性部材55に対して摺動する。
【0031】
図2に示すように、弾性部材55は、外殻51の内側面に当接した状態で設けられている。なお、本実施形態では、推進函体10の推進方向後方側(図2中、右側)と前方側(図2中、左側)の二箇所に弾性部材55が設けられている。後方側の弾性部材55(以下、「第一弾性部材55a」という場合がある)と、前方側の弾性部材55(以下、「第二弾性部材55b」という場合がある)は、互いに隙間をあけて設けられている。
【0032】
第一弾性部材55aは、推進方向に沿って積層された複数のゴム板材57,57…によって構成されている。各ゴム板材57,57…は同等の形状に形成されている。各ゴム板材57は、均一の材質によって構成されている。なお、ゴムの硬度は、例えば、推進方向前側を硬くして後側を軟らかくするというように、変化させてもよい。隣接するゴム部材57,57同士は、接着剤で固定されている。なお、ゴム部材57を付着性(粘着性)の高い材質で形成した場合は、接着剤を用いなくてもよい場合がある。
【0033】
一方、第二弾性部材55bは、一のゴムブロック58にて構成されている。ゴムブロック58は、ゴム板材57よりも厚く形成されている。ゴム板材57およびゴムブロック58には、後記する圧縮手段のねじ部材62用の貫通孔59が形成されている。なお、第一弾性部材55aと第二弾性部材55b間の隙間には、テールシーラ54等のシール材を充填して止水性能を高めている。
【0034】
圧縮手段60は、一対のプレート材61a,61bと、これらプレート材61a,61bを互いに引き寄せ合うねじ部材62とを備えて構成されている。一対のプレート材61a,61bは、推進方向の前後で間隔をあけて配置され弾性部材55を挟み込むように配置されている。圧縮手段60は、弾性部材55を推進函体10の推進方向に沿って圧縮する。一対のプレート材61a,61bは、いずれも推進方向に直交しており、互いに並行になるように配置される。
【0035】
推進方向前方側に位置するプレート材61aは、外殻51の内側面に溶接等によって固定されており、その中央部にねじ部材62用の貫通孔63と、ねじ部材62が螺合するボス部64が形成されている。推進方向後方側に位置するプレート材61bは、外殻51に直接固定されておらず、ねじ部材62で弾性部材55と一体に挟持されることで、プレート材61aを介して外殻51に固定されている。プレート材61bの中央部にはねじ部材62用の貫通孔65が形成されている。
【0036】
ねじ部材62は、棒ねじ62aとナット62bとを備えている。棒ねじ62aは、推進方向後方側から前方側に向かって、プレート材61bの貫通孔65および弾性部材55に挿入され、その先端がプレート材61aのボス部64に螺合している。そして、棒ねじ62aの推進方向後方側にはナット62bが螺合されている。弾性部材55を圧縮する際には、ナット62bを締め付け、プレート材61bをプレート材61a側へと押し付ければよい。プレート材61a,61bの弾性部材55と接する面には、凸部67(プレート材61b側のみを図1に破線にて示す)が形成されており、弾性部材55がプレート材61a,61bに対してずれ難くなるように構成されている。凸部67は、推進函体10の外周面12に対して直交方向に延在している。
【0037】
なお、プレート材61a,61bを互いに引き寄せ合う締付部材は、ねじ部材62に限定されるものではない。例えば、複数の鉤状段差からなる係止部を棒状部材の外周部に形成し、棒状部材を一方のプレート材側から他方のプレート材まで挿入して、他方のプレート材に固定されたノッチ部に前記係止部を係止させて、プレート材同士を引き寄せ合わせてもよい。また、棒状部材の先端に楔部を形成しておき、この棒状部材を一方のプレート材側から他方のプレート材まで挿入して、他方のプレート材に固定された楔固定用穴に前記楔部を押し込んで係止させて、プレート材同士を引き寄せ合わせてもよい。
【0038】
リップシール13(図1参照)に対応する部分では、突出した部分を覆うようにプレート材61a,61bに切欠き部66が形成されている。切欠き部66は、リップシール13の突出部分よりも僅かに大きく(変形前の弾性部材55の凹溝56の断面と同等の断面形状)形成されており、リップシール13が移動可能になっている。
【0039】
図2に示すように、第一弾性部材55aが位置する部分の外殻51は、立坑内空側端部51aが、推進方向前方側に向かうに連れて推進函体10に近づくように傾斜している。具体的には、外殻51の立坑内空側端部における推進函体10の外周面12との離間距離が、推進方向前方側における推進函体10の外周面12との離間距離よりも大きくなっている。言い換えれば、外殻51に固定されていないプレート材61bの圧縮時の移動方向(プレート材61aに向かう方向)に向かうほど、外殻51が推進函体10の外周面12に近づくようになっている。このようにすることで、ねじ部材62を締め付けると、第一弾性部材55aが推進方向前方側に押され、外殻51の立坑内空側端部51aに沿って推進函体10側に押し出されるので、推進函体10の外周面12との止水性能を高めることができる。
【0040】
なお、圧縮手段60の構成は前記構成に限定されるものではない。たとえば、推進方向前方側(図2中、左側)に位置する圧縮手段60のように、ねじ部材62がボルト62cとナット62dで構成されていてもよい。この場合、プレート材61aにボス部は設けなくてもよい。
【0041】
さらに、図6に示すように、二つの弾性部材55,55を一つのねじ部材62で圧縮するようにしてもよい。この場合、推進方向に隣り合う弾性部材55,55の内側(ねじ部材62の中間部側)に位置するプレート材61cが、外殻51の内側面に固定され、外側(ねじ部材62の両端部側)に位置するプレート材61dが、外殻51には直接固定されておらず、移動可能な状態となっている。一対の弾性部材55,55、プレート材61c,61c,61d,61dにボルト62cを貫通させて、その先端にナット62dを螺合させて締め付けることで、外側のプレート材61d,61dが弾性部材55,55側へとそれぞれ寄せられて、プレート材61c,61cとの間で、弾性部材55,55がそれぞれ圧縮される。
【0042】
また、図2においては、第一弾性部材55aが、複数のゴム板材57,57…によって構成されて、第二弾性部材55bが、一のゴムブロック58にて構成されているが、図6に示すように、両方の弾性部材55,55を複数のゴム板材57,57…で構成してもよいし、両方の弾性部材をゴムブロックで構成してもよい(図示せず)。また、弾性部材55の個数は2つに限定されるものではなく、推進方向に沿って単数であってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0043】
図1および図7に示すように、正面から見て、発進口1の傾斜部3aに対向する外殻51の外側面には、シール用ゴムブロック53が設けられている。このシール用ゴムブロック53は、出隅形状となるシール部材20の止水性能を高めるために設けられたものであって、エントランスパッキン21と反転防止用押え板30を外側に向かって発進口1の内周面2側に押圧する。シール用ゴムブロック53は、三角柱形状を呈し、各側壁面が、外殻51の外側面、シール部材20(図1参照)および推進函体10の外周面12(図1参照)にそれぞれ当接する。シール用ゴムブロック53は、外殻51の推進方向長さと同等の長さに形成されており、外殻51の外側面の傾斜部分の略全体に当接している。シール用ゴムブロック53のシール部材20に当接する面は、フラット形状に限定されるものではなく、中央が窪む球面状にしてもよい。また、シール用ゴムブロック53の推進函体10の外周面12に当接する面には、推進函体10の周方向に延在するスリットを形成してもよい。このようにすれば、テールシーラ54(図2参照)がスリット内に流れ込んで、シール用ゴムブロック53の推進函体10間の止水効果を向上できる。
【0044】
なお、図1においては推進函体10の外周面12に凸設された部材がリップシール13であるが、コーナー部材50がシールできる部材は、リップシール13に限定されるものではなく、他の部材であっても、推進用エントランスをシールすることができる。例えば、図8に示すように、先行トンネルの推進函体と後行トンネルの推進函体との離間距離を保持するためのガイド用レール14やガイド用受け金物15が設けられている場合であっても、推進用エントランスの止水性能を確保することができる。
【0045】
ガイド用レール14が設けられている場合は、図8の(a)に示すように、ガイド用レール14の先端部に沿って、圧縮手段60のプレート材61bと、弾性部材55に、それぞれ切欠き部70(プレート材61bの切欠き部),71(弾性部材55の切欠き部)をそれぞれ形成する。各切欠き部70,71は、同等の断面形状で形成されているが、弾性部材55の切欠き部71の内周面は、弾性部材55が圧縮されて弾性変形することで、ガイド用レール14の外周面に押圧されている。
【0046】
ガイド用受け金物15が設けられている場合は、図8の(b)に示すように、ガイド用受け金物15の内周面15aに沿うように、圧縮手段60のプレート材61bと、弾性部材55に、それぞれ突出部72(プレート材61bの突出部),73(弾性部材55の突出部)をそれぞれ形成する。各突出部72,73は、ガイド用受け金物15の内周面15aと隙間をあけて、同等の断面形状で形成されているが、弾性部材55の突出部73の外周面は、弾性部材55が圧縮されて弾性変形することで、ガイド用受け金物15の内周面15aに押圧されている。なお、プレート材61bの突出部72の立坑内空側表面には、補強リブ材74が設けられており、圧縮手段60のねじ部材62からプレート材61bにかかる圧縮応力を突出部72まで効率的に伝達できるように構成されている。
【0047】
コーナー部材50は、例えば、発進口1の開口縁部の立坑内空側に設けられた固定用鋼材(図示せず)を介して、発進口1の開口縁部に固定されている。固定用鋼材は、鉄骨を井桁状に組み合わせて構成されており、4つのコーナー部材50を一体的に固定している。コーナー部材50は、その外殻51を固定用鋼材に溶接することで、固定されている。固定用鋼材は、発進口1の開口縁部の立坑内空側表面に、立坑内空側に突出して設けられたブラケット(図示せず)を介して、発進口1の開口縁部に固定されている。固定用鋼材は、各コーナー部材50を取り囲むように形成されている。なお、コーナー部材50と固定用鋼材7の固定方法は、溶接に限定されるものではない。
【0048】
このような構成によれば、推進函体10の推進によってコーナー部材50を地山側に引き込もうとする応力を、固定用鋼材およびブラケットを介して発進口1の開口縁部に伝達して反力を取ることができる。逆に、地山側の土水圧によってコーナー部材50が立坑内空側へ押し出されることを防止することもできる。なお、コーナー部材40の固定方法は、前記構成に限定されるものではない。
【0049】
以上のような構成の推進工法用エントランスの止水構造W1によれば、発進口1の角部が外側に膨らむように曲面状に形成され、コーナー部材50の外側面(外殻51の外側面)が角部3に沿うように曲面状に形成されているので、シール部材20がコーナー部材50の外側面と発進口1との間で滑らかに押圧され、コーナー部材50と、発進口1の内周面2との間の止水性能を向上させることができる。
【0050】
また、外殻51の内側に設けられた弾性部材55を圧縮手段60で圧縮変形させることで、推進函体10の外周面12に押圧させるように構成しているので、外周面12の出隅部11や、外周面12に凸設または凹設された部材(リップシール13、ガイド用レール14やガイド用受け金物15等)に対して隙間無く接触して、これらの表面を押圧するので、推進函体10とコーナー部材50間の止水性能を確保して向上させることができる。また、推進函体10は、弾性部材55に対して摺動できる。
【0051】
さらに、本実施形態では、推進函体10は、弾性部材55に対して摺動するようになっているので、推進函体10が蛇行した場合でも弾性部材55が変形することで推進函体10の変位を吸収して、追従することができる。
【0052】
また、本実施形態では、圧縮手段60が、一対のプレート材61a,61bと、ねじ部材62とを備えて構成されているので、ねじ部材62を回転させるだけで、一対のプレート材61a,61bが互いに引き寄せられ容易に弾性部材55を圧縮できるとともに、圧縮量を調整することができる。また、弾性部材55を推進函体10の推進方向に圧縮しているので、弾性部材55は、推進方向に沿って縮んで、発進口1の内側へと膨らむ。これによって、弾性部材55が推進函体10の外周面12に向かって押圧するので、止水性能を確保し易くなる。さらに、ねじ部材62は、立坑内空側からねじ部材62の回転を操作することができ、作業が行いやすい。
【0053】
さらに、本実施形態では、弾性部材55が、ねじ部材62の長手方向(推進方向)に沿って積層された複数のゴム板材57によって構成されているので、各ゴム板材57が薄くて変形し易い。したがって、弾性部材55が推進函体10の出隅部11や外周面12の凹凸形状に対して追従しやすくなるので、止水性能を向上することができる。
【0054】
つまり、本発明によれば、出隅部11や外周面12に凸設または凹設された部材を有する推進函体10であっても、発進口1周辺における止水性能を向上させつつ、推進函体10の推進を許容することができる。
【0055】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、圧縮手段60は、弾性部材55を推進函体10の推進方向に沿って圧縮しているが、これに限定されるものではない。弾性部材55が、発進口1の中心側に向かって変形する方向であれば、例えば発進口1の周方向に沿って圧縮するようにしてもよい。
【0056】
さらに、本実施形態では、コーナー部材が四隅にそれぞれ別個に設けられているが、各コーナー部材を一体的に連結して枠状のものとしてもよい。このようにすれば、コーナー部材の相対位置が一定の状態に固定され、推進函体10の外周面12に対する距離を一定に保つことができる。
【符号の説明】
【0057】
W1 止水構造
1 発進口
2 内周面
3 角部
10 推進函体
11 出隅部
12 外周面
20 シール部材
50 コーナー部材
51 外殻
55 弾性部材
60 圧縮手段
61a プレート材
61b プレート材
62 ねじ部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法用エントランスの止水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルを掘削するに際しては、まず、立坑の側壁に形成された発進口から掘進機(または刃口)や推進函体を地盤内に挿入することとなる。このとき、地下水が立坑内空に流れ込まないように、掘進機または推進函体の外周面と発進口との隙間を止水するようになっている。この止水構造としては、発進口の周縁部にエントランスパッキンを設け、掘進機や推進函体の外周面にエントランスパッキンを摺接させる構造が一般的であった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
さらには、エントランスパッキンが立坑内空側に捲れるのを防止するための反転防止用押え板を設ける止水構造もあった。反転防止用押え板は、発進口の周縁部に沿って所定ピッチで複数配置されており、エントランスパッキンの立坑内空側に被されて設けられ、エントランスパッキンを押さえるようになっている。エントランスパッキンと反転防止用押え板は、推進函体の外周面に当接して、推進方向前方に傾斜した状態で保持される。なお、エントランスパッキンは、発進口の開口周縁部に沿うように環状に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3721460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図9に示すように、推進函体110が断面矩形の場合、発進口100の角部103の反転防止用押え板102は、その舌片部102aが斜め内側(発進口100の開口部の中心側)に向かって延出するように配置されるが、推進函体の出隅部112が反転防止用押え板102の舌片部102aを外側(発進口100の開口部の外方側)に押し出してしまう。そのため、反転防止用押え板102によって角部103のエントランスパッキン101が外側に持ち上げられて、推進函体110とエントランスパッキン101との間に隙間が発生して、止水性能が低下してしまう問題があった。このことは、特に、大深度で高水圧下の条件でトンネルの掘削を行う場合に問題になる虞がある。なお、図9中、破線で示した符号105は、発進口100の内周面を示している。
【0006】
なお、特許文献1の止水構造は、シールド工法に適用されるものであり、推進工法には適用できない。すなわち、特許文献1は、シールド掘進機が推進した後は、発進口に構築されたセグメントの外周面に閉塞部材を固定することで発進口の止水を行う構造であるので、発進口に対して相対移動する推進函体に対応することができなかった。
【0007】
さらに、複数本のトンネルを並設する場合に用いられる推進函体の外周面には、先行トンネルの推進函体と後行トンネルの推進函体との間をシールするリップシールや、先行トンネルと後行トンネルとの離間距離を保持するためのガイド用レールやガイド用受け金物が設けられている。このような部材が凸設または凹設されている部分においても、止水性能が要求される。
【0008】
このような観点から、本発明は、外周面に凸設または凹設された部材や出隅部を有する推進函体であっても、発進口周辺における止水性能を向上させることができる推進工法用エントランスの止水構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために創案された本発明は、断面多角形状の推進函体に適用される推進工法用エントランスの止水構造において、発進口の開口縁部に設けられたシール部材と、前記推進函体の出隅部に対応する前記発進口の角部で前記シール部材の内側に設けられたコーナー部材とを備えており、前記角部は、前記推進函体の外周面の通過位置よりも外側に膨らむように曲面状に形成され、前記コーナー部材は、その外側面が前記角部に沿うように曲面状に形成された外殻と、この外殻の内側に設けられた弾性部材と、この弾性部材を圧縮する圧縮手段とを有しており、前記圧縮手段で前記弾性部材を圧縮変形させることで、前記外殻の内側面および前記推進函体の外周面に前記弾性部材を接触させることを特徴とする推進工法用エントランスの止水構造である。
【0010】
本発明における「内側」とは、立坑内空側から発進口を見たときの発進口の中心側を意味し、「外側」とは、発進口の外方側を意味する。本発明によれば、前記のように発進口の角部が外側に膨らむように曲面状に形成され、コーナー部材の外側面が角部に沿うように曲面状に形成されているので、シール部材がコーナー部材の外側面と発進口との間で滑らかに押圧され止水性能を向上させることができる。また、弾性部材を圧縮手段で圧縮変形させることで、推進函体の外周面に押圧させるように構成しているので、外周面に凸設または凹設された部材や出隅部に対して隙間無く接触でき、推進函体とコーナー部材間の止水性能を確保して向上させることができる。
【0011】
また、本発明は、前記圧縮手段は、前記弾性部材の前後からこの弾性部材を挟み込む一対のプレート材と、前記プレート材を互いに引き寄せ合うねじ部材とを備えて構成されていることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、ねじ部材を回転させるだけで、一対のプレート材が引き寄せられ容易に弾性部材を圧縮できるとともに、圧縮量を調整することができる。また、ねじ部材を推進方向に沿って配置しているので、立坑側からねじ部材の回転を操作することができ、作業が行いやすい。
【0013】
さらに、本発明は、前記弾性部材が、前記ねじ部材の長手方向に沿って積層された複数のゴム板材によって構成されていることを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、各ゴム板材が薄くて変形しやすいので、弾性部材が推進函体の出隅部や外周面の凹凸形状に対して追従しやすくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、出隅部や外周面に凸設または凹設された部材を有する推進函体であっても、発進口周辺における止水性能を向上させることができるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る止水構造を示した正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る止水構造を示した断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る止水構造の発進口を示した正面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る止水構造のシール部材の取付状態を示した正面図である。
【図5】エントランスパッキンと反転防止用押え板の変形例を示した断面図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る止水構造の弾性部材と圧縮手段を示した断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る止水構造のゴムブロックの取付状態を示した斜視図である。
【図8】(a)は凸設されたガイド用レール周りに設けられた止水構造を示した正面図、(b)は凹設されたガイド用受け金物周りに設けられた止水構造を示した正面図である。
【図9】止水構造のコーナー部を示した拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための実施形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態では、断面矩形を呈する推進函体を用いた推進工法における推進工法用エントランスの止水構造を例に挙げて説明する。本実施形態の推進函体には、先行トンネルの推進函体との間に設けられるリップシールが外周面に凸設されている。
【0018】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよいが、本実施形態では、元押しジャッキの推力で掘進する推進工法が採用されている。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る推進工法用エントランスの止水構造W1は、立坑の土留壁に設けられた発進口1(図3参照)の止水構造である。止水構造W1は、シール部材20とコーナー部材50とを備えて構成されている。
【0020】
図3に示すように、発進口1は、立坑の側壁面に固定された枠体9の内側に設けられている。枠体9は、例えば鉄筋コンクリートまたは鋼材(本実施形態では鉄筋コンクリート造を図示)にて形成されており、その内側の開口部が発進口1を構成している。発進口1は、推進函体10が通過できるように、推進函体10の外形よりも大きく形成されている。発進口1の内周面2は、上下左右の角部3,3・・と、左右方向に隣り合う角部3,3間を直線状に結ぶ水平中間部4と、上下方向に隣り合う角部3,3間を直線状に結ぶ垂直中間部5とで構成されている。水平中間部4は発進口1の上下それぞれに水平方向に延びて配置され、垂直中間部5は発進口1の左右それぞれに上下方向に延びて配置されている。なお、掘削されるトンネルが最初の先行トンネルである場合、あるいは1本のトンネル掘削のみで工事が完了する場合は、発進口を立坑の側壁面に直接形成してもよい。この場合も、発進口の形状は、図3と同様である。
【0021】
角部3は、立坑内空側から見て(正面視)、推進函体10の出隅部11を含む外周面12の通過位置よりも外側に膨らむように形成されている。角部3は、水平中間部4の延長線4’および垂直中間部5の延長線5’よりも外側に位置している。角部3は、両端に位置する傾斜部3a,3aと、傾斜部3a,3aにそれぞれ繋がる平面部3b,3bと、中間部に位置する曲面部3cとを備えて構成されている。傾斜部3aは、各中間部4,5側から連続的に繋がり、直線状に傾斜している。平面部3b,3bは、それぞれが近接する側の各中間部4,5に平行に形成されている。曲面部3cは、推進函体10の出隅部11の通過位置の近傍に位置している。曲面部3cは、曲面状に形成され、両側の平面部3b,3bから滑らかに繋がっている。
【0022】
図2および図4に示すように、シール部材20は、エントランスパッキン21と反転防止用押え板30とで構成されている。エントランスパッキン21は、発進口1の開口縁部に設けられた弾性部材であって、発進口1の内周面2に沿って設けられた固定部材22に固定されている。固定部材22は、発進口1の内周面2に沿う固定板22aと、固定板22aに直交して設けられた係止板22bとで構成されている。係止板22は、発進口1の開口縁部の立坑側壁面に沿っている。図4に示すように、固定板22aは、発進口1の立坑内空側から見て、その周方向に沿って複数設けられている。固定板22aは、それぞれが互いに隣接して、周方向全周に渡って環状に設けられている。また、図2に示すように、固定板22aは、断面方向から見て、一端が発進口1の奥側(推進函体10の推進方向前方側)に挿入されており、他端が発進口1の開口端部から立坑内空側へ突出している。固定板22aの発進口1に挿入された部分の外側面は、発進口1の内周面2に面接触している。固定板22aの立坑内空側へ突出した部分には、ボルト33aおよびナット33bを利用して、エントランスパッキン21および反転防止用押え板30が固定される。係止板22bは、固定板22aの外側面に溶接等にて固定されている。係止板22bは、推進函体10の推進方向先端側の面が、発進口1の開口縁部の立坑側壁面に当接しており、シール部材20および固定部材22を発進口1の奥へ引き込もうとする応力を立坑側壁面で受けるようになっている。
【0023】
図2および図4に示すように、エントランスパッキン21は、例えば、プレート状のゴムにて構成されている。エントランスパッキン21は、一端が固定板22aの内側面に面接触して固定されている。そしてエントランスパッキン21の他端は、発進口1の内側(発進口1の開口部の中心側)に曲がって延出するように構成されている。エントランスパッキン21の他端部は、コーナー部材50の外側面または推進函体10の外周面12に面接触するリップ部23(図2参照)を構成している。四隅においては、エントランスパッキン21は、コーナー部材50の外側面に接触し、一方、水平中間部4と垂直中間部5においては推進函体10の外周面12と摺接する。
【0024】
図2に示すように、エントランスパッキン21と固定板22aとの間には、ゴムチューブ25が設けられている。ゴムチューブ25には、空気または流体が充填されており、ゴムチューブ25が、膨張することで、エントランスパッキン21をコーナー部材50や推進函体10の外側面に押圧させるようになっている。また、ゴムチューブ25が弾性変形することで、シール性を確保しながら、推進函体10の推進位置の変位を吸収できる。
【0025】
反転防止用押え板30は、地下水圧によるエントランスパッキン21の反転を防止するために、エントランスパッキン21を押さえる部材である。図4に示すように、反転防止用押え板30は、発進口1の開口縁部の周方向に沿って互いに間隔をあけて複数設けられている。図2に示すように、反転防止用押え板30は、金属製の板ばねにて構成されている。反転防止用押え板30の基端部31は、エントランスパッキン21の一端部を発進口1の内側(中心側)から覆うように配置されている。反転防止用押え板30は、固定用のボルト33aおよびナット33bによって固定板22aの立坑内空側への突出部分の内側面に、エントランスパッキン21と一体的に固定されている。反転防止用押え板30は発進口1の内側(中心側)に屈曲しており、その先端部32は、発進口1の開口部の中心側に向かって傾斜するとともに、推進方向前方に向かって延在している。この先端部32が、エントランスパッキン21の傾斜部分24を推進方向前方側に向かって押さえることで、エントランスパッキン21が立坑内空側へ反転するのを防止している。
【0026】
なお、エントランスパッキン21と反転防止用押え板30の形状は、本実施形態に限定されるものではない。たとえば、図5に示すように、エントランスパッキン21の基端側端部を枠体9の立坑内空側表面(または立坑壁面)に当接させて、その表面側から反転防止用押え板30の基端側端部で押さえて固定するような構成であってもよい。この場合、枠体9に埋設されたアンカーボルト35aとナット35bを用いてエントランスパッキン21と反転防止用押え板30を固定する。アンカーボルト35aは、先端が枠体9の立坑内空側表面から立坑内空に向かって突出しており、その突出部分をエントランスパッキン21と反転防止用押え板30に貫通させて、突出部分の先端側からナット35bを螺合させる。これによって、エントランスパッキン21と反転防止用押え板30が、ナット35bで枠体9の表面に締め付けられて固定される。なお、その他の構成は、図2に示した構成と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。このような構成によっても、前記実施形態と同等のシール性能を得ることができる。
【0027】
図1および図4に示すように、角部3に対応する位置における複数の反転防止用押え板30は、その先端を連ねた形状が発進口1の角部3の内周面形状に沿うように配置されている。角部3の傾斜部3a(図3参照)および平面部3b(図3参照)に対応する位置の反転防止用押え板30は、その先端を連ねた形状が直線状となるように配置されている。角部3の曲面部3c(図3参照)に対応する位置の反転防止用押え板30は、その先端を連ねた形状が曲線状となるように配置されている。一方、水平中間部4、垂直中間部5、および角部3の傾斜部3aと平面部3bにおける複数の反転防止用押え板(図示せず)は、発進口1の内周面2に沿って(内周面2と平行に)直線状に配置されている。
【0028】
図1および図2に示すように、コーナー部材50は、外殻51と、この外殻51の内側に設けられた弾性部材55と、この弾性部材55を圧縮する圧縮手段60とを有して構成されている。そして、弾性部材55を圧縮手段60で圧縮変形させると、外殻51の内側面52および推進函体10の外周面12に弾性部材55が接触する。圧縮手段60は、弾性部材55の接触圧が、地下水圧よりも高くなるように弾性部材55を圧縮する。
【0029】
外殻51は、鉄板にて構成されており、その外側面が発進口1の内周面2に沿うように形成されている。外殻51は、その一部(発進口1の曲面部3cに対向する部分)が曲面状に形成されている。弾性部材55は、外殻51の内側面に当接するように配置されており、圧縮手段60によって挟持されている。
【0030】
図1に示すように、弾性部材55は、発進口1の周方向に延在している。弾性部材55は、圧縮手段60で推進函体10の推進方向に圧縮されて、推進方向の直交方向に広がるように変形する。このとき、弾性部材55は、外殻51の内側面に当接しているので、推進函体10の外周面12側(発進口1の中心側)に押圧されて、外周面12に隙間が無いように面接触する。また、リップシール13(図1参照)が凸設されている部分には、弾性部材55に凹溝56が形成されている。凹溝56は、リップシール13の突出部分を挿入できるように、当該突出部分よりも僅かに大きく形成されている。弾性部材55が圧縮されると、凹溝56の断面が小さくなり、リップシール13の突出部分を挟持する。弾性部材55は、推進函体10の外周面12およびリップシール13との間に必要な止水性能を得られるとともに、これらが摺動可能な程度に押圧するように、圧縮手段60で圧縮される。そして、推進函体10が推進する際には、その外周面12およびリップシール13が弾性部材55に対して摺動する。
【0031】
図2に示すように、弾性部材55は、外殻51の内側面に当接した状態で設けられている。なお、本実施形態では、推進函体10の推進方向後方側(図2中、右側)と前方側(図2中、左側)の二箇所に弾性部材55が設けられている。後方側の弾性部材55(以下、「第一弾性部材55a」という場合がある)と、前方側の弾性部材55(以下、「第二弾性部材55b」という場合がある)は、互いに隙間をあけて設けられている。
【0032】
第一弾性部材55aは、推進方向に沿って積層された複数のゴム板材57,57…によって構成されている。各ゴム板材57,57…は同等の形状に形成されている。各ゴム板材57は、均一の材質によって構成されている。なお、ゴムの硬度は、例えば、推進方向前側を硬くして後側を軟らかくするというように、変化させてもよい。隣接するゴム部材57,57同士は、接着剤で固定されている。なお、ゴム部材57を付着性(粘着性)の高い材質で形成した場合は、接着剤を用いなくてもよい場合がある。
【0033】
一方、第二弾性部材55bは、一のゴムブロック58にて構成されている。ゴムブロック58は、ゴム板材57よりも厚く形成されている。ゴム板材57およびゴムブロック58には、後記する圧縮手段のねじ部材62用の貫通孔59が形成されている。なお、第一弾性部材55aと第二弾性部材55b間の隙間には、テールシーラ54等のシール材を充填して止水性能を高めている。
【0034】
圧縮手段60は、一対のプレート材61a,61bと、これらプレート材61a,61bを互いに引き寄せ合うねじ部材62とを備えて構成されている。一対のプレート材61a,61bは、推進方向の前後で間隔をあけて配置され弾性部材55を挟み込むように配置されている。圧縮手段60は、弾性部材55を推進函体10の推進方向に沿って圧縮する。一対のプレート材61a,61bは、いずれも推進方向に直交しており、互いに並行になるように配置される。
【0035】
推進方向前方側に位置するプレート材61aは、外殻51の内側面に溶接等によって固定されており、その中央部にねじ部材62用の貫通孔63と、ねじ部材62が螺合するボス部64が形成されている。推進方向後方側に位置するプレート材61bは、外殻51に直接固定されておらず、ねじ部材62で弾性部材55と一体に挟持されることで、プレート材61aを介して外殻51に固定されている。プレート材61bの中央部にはねじ部材62用の貫通孔65が形成されている。
【0036】
ねじ部材62は、棒ねじ62aとナット62bとを備えている。棒ねじ62aは、推進方向後方側から前方側に向かって、プレート材61bの貫通孔65および弾性部材55に挿入され、その先端がプレート材61aのボス部64に螺合している。そして、棒ねじ62aの推進方向後方側にはナット62bが螺合されている。弾性部材55を圧縮する際には、ナット62bを締め付け、プレート材61bをプレート材61a側へと押し付ければよい。プレート材61a,61bの弾性部材55と接する面には、凸部67(プレート材61b側のみを図1に破線にて示す)が形成されており、弾性部材55がプレート材61a,61bに対してずれ難くなるように構成されている。凸部67は、推進函体10の外周面12に対して直交方向に延在している。
【0037】
なお、プレート材61a,61bを互いに引き寄せ合う締付部材は、ねじ部材62に限定されるものではない。例えば、複数の鉤状段差からなる係止部を棒状部材の外周部に形成し、棒状部材を一方のプレート材側から他方のプレート材まで挿入して、他方のプレート材に固定されたノッチ部に前記係止部を係止させて、プレート材同士を引き寄せ合わせてもよい。また、棒状部材の先端に楔部を形成しておき、この棒状部材を一方のプレート材側から他方のプレート材まで挿入して、他方のプレート材に固定された楔固定用穴に前記楔部を押し込んで係止させて、プレート材同士を引き寄せ合わせてもよい。
【0038】
リップシール13(図1参照)に対応する部分では、突出した部分を覆うようにプレート材61a,61bに切欠き部66が形成されている。切欠き部66は、リップシール13の突出部分よりも僅かに大きく(変形前の弾性部材55の凹溝56の断面と同等の断面形状)形成されており、リップシール13が移動可能になっている。
【0039】
図2に示すように、第一弾性部材55aが位置する部分の外殻51は、立坑内空側端部51aが、推進方向前方側に向かうに連れて推進函体10に近づくように傾斜している。具体的には、外殻51の立坑内空側端部における推進函体10の外周面12との離間距離が、推進方向前方側における推進函体10の外周面12との離間距離よりも大きくなっている。言い換えれば、外殻51に固定されていないプレート材61bの圧縮時の移動方向(プレート材61aに向かう方向)に向かうほど、外殻51が推進函体10の外周面12に近づくようになっている。このようにすることで、ねじ部材62を締め付けると、第一弾性部材55aが推進方向前方側に押され、外殻51の立坑内空側端部51aに沿って推進函体10側に押し出されるので、推進函体10の外周面12との止水性能を高めることができる。
【0040】
なお、圧縮手段60の構成は前記構成に限定されるものではない。たとえば、推進方向前方側(図2中、左側)に位置する圧縮手段60のように、ねじ部材62がボルト62cとナット62dで構成されていてもよい。この場合、プレート材61aにボス部は設けなくてもよい。
【0041】
さらに、図6に示すように、二つの弾性部材55,55を一つのねじ部材62で圧縮するようにしてもよい。この場合、推進方向に隣り合う弾性部材55,55の内側(ねじ部材62の中間部側)に位置するプレート材61cが、外殻51の内側面に固定され、外側(ねじ部材62の両端部側)に位置するプレート材61dが、外殻51には直接固定されておらず、移動可能な状態となっている。一対の弾性部材55,55、プレート材61c,61c,61d,61dにボルト62cを貫通させて、その先端にナット62dを螺合させて締め付けることで、外側のプレート材61d,61dが弾性部材55,55側へとそれぞれ寄せられて、プレート材61c,61cとの間で、弾性部材55,55がそれぞれ圧縮される。
【0042】
また、図2においては、第一弾性部材55aが、複数のゴム板材57,57…によって構成されて、第二弾性部材55bが、一のゴムブロック58にて構成されているが、図6に示すように、両方の弾性部材55,55を複数のゴム板材57,57…で構成してもよいし、両方の弾性部材をゴムブロックで構成してもよい(図示せず)。また、弾性部材55の個数は2つに限定されるものではなく、推進方向に沿って単数であってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0043】
図1および図7に示すように、正面から見て、発進口1の傾斜部3aに対向する外殻51の外側面には、シール用ゴムブロック53が設けられている。このシール用ゴムブロック53は、出隅形状となるシール部材20の止水性能を高めるために設けられたものであって、エントランスパッキン21と反転防止用押え板30を外側に向かって発進口1の内周面2側に押圧する。シール用ゴムブロック53は、三角柱形状を呈し、各側壁面が、外殻51の外側面、シール部材20(図1参照)および推進函体10の外周面12(図1参照)にそれぞれ当接する。シール用ゴムブロック53は、外殻51の推進方向長さと同等の長さに形成されており、外殻51の外側面の傾斜部分の略全体に当接している。シール用ゴムブロック53のシール部材20に当接する面は、フラット形状に限定されるものではなく、中央が窪む球面状にしてもよい。また、シール用ゴムブロック53の推進函体10の外周面12に当接する面には、推進函体10の周方向に延在するスリットを形成してもよい。このようにすれば、テールシーラ54(図2参照)がスリット内に流れ込んで、シール用ゴムブロック53の推進函体10間の止水効果を向上できる。
【0044】
なお、図1においては推進函体10の外周面12に凸設された部材がリップシール13であるが、コーナー部材50がシールできる部材は、リップシール13に限定されるものではなく、他の部材であっても、推進用エントランスをシールすることができる。例えば、図8に示すように、先行トンネルの推進函体と後行トンネルの推進函体との離間距離を保持するためのガイド用レール14やガイド用受け金物15が設けられている場合であっても、推進用エントランスの止水性能を確保することができる。
【0045】
ガイド用レール14が設けられている場合は、図8の(a)に示すように、ガイド用レール14の先端部に沿って、圧縮手段60のプレート材61bと、弾性部材55に、それぞれ切欠き部70(プレート材61bの切欠き部),71(弾性部材55の切欠き部)をそれぞれ形成する。各切欠き部70,71は、同等の断面形状で形成されているが、弾性部材55の切欠き部71の内周面は、弾性部材55が圧縮されて弾性変形することで、ガイド用レール14の外周面に押圧されている。
【0046】
ガイド用受け金物15が設けられている場合は、図8の(b)に示すように、ガイド用受け金物15の内周面15aに沿うように、圧縮手段60のプレート材61bと、弾性部材55に、それぞれ突出部72(プレート材61bの突出部),73(弾性部材55の突出部)をそれぞれ形成する。各突出部72,73は、ガイド用受け金物15の内周面15aと隙間をあけて、同等の断面形状で形成されているが、弾性部材55の突出部73の外周面は、弾性部材55が圧縮されて弾性変形することで、ガイド用受け金物15の内周面15aに押圧されている。なお、プレート材61bの突出部72の立坑内空側表面には、補強リブ材74が設けられており、圧縮手段60のねじ部材62からプレート材61bにかかる圧縮応力を突出部72まで効率的に伝達できるように構成されている。
【0047】
コーナー部材50は、例えば、発進口1の開口縁部の立坑内空側に設けられた固定用鋼材(図示せず)を介して、発進口1の開口縁部に固定されている。固定用鋼材は、鉄骨を井桁状に組み合わせて構成されており、4つのコーナー部材50を一体的に固定している。コーナー部材50は、その外殻51を固定用鋼材に溶接することで、固定されている。固定用鋼材は、発進口1の開口縁部の立坑内空側表面に、立坑内空側に突出して設けられたブラケット(図示せず)を介して、発進口1の開口縁部に固定されている。固定用鋼材は、各コーナー部材50を取り囲むように形成されている。なお、コーナー部材50と固定用鋼材7の固定方法は、溶接に限定されるものではない。
【0048】
このような構成によれば、推進函体10の推進によってコーナー部材50を地山側に引き込もうとする応力を、固定用鋼材およびブラケットを介して発進口1の開口縁部に伝達して反力を取ることができる。逆に、地山側の土水圧によってコーナー部材50が立坑内空側へ押し出されることを防止することもできる。なお、コーナー部材40の固定方法は、前記構成に限定されるものではない。
【0049】
以上のような構成の推進工法用エントランスの止水構造W1によれば、発進口1の角部が外側に膨らむように曲面状に形成され、コーナー部材50の外側面(外殻51の外側面)が角部3に沿うように曲面状に形成されているので、シール部材20がコーナー部材50の外側面と発進口1との間で滑らかに押圧され、コーナー部材50と、発進口1の内周面2との間の止水性能を向上させることができる。
【0050】
また、外殻51の内側に設けられた弾性部材55を圧縮手段60で圧縮変形させることで、推進函体10の外周面12に押圧させるように構成しているので、外周面12の出隅部11や、外周面12に凸設または凹設された部材(リップシール13、ガイド用レール14やガイド用受け金物15等)に対して隙間無く接触して、これらの表面を押圧するので、推進函体10とコーナー部材50間の止水性能を確保して向上させることができる。また、推進函体10は、弾性部材55に対して摺動できる。
【0051】
さらに、本実施形態では、推進函体10は、弾性部材55に対して摺動するようになっているので、推進函体10が蛇行した場合でも弾性部材55が変形することで推進函体10の変位を吸収して、追従することができる。
【0052】
また、本実施形態では、圧縮手段60が、一対のプレート材61a,61bと、ねじ部材62とを備えて構成されているので、ねじ部材62を回転させるだけで、一対のプレート材61a,61bが互いに引き寄せられ容易に弾性部材55を圧縮できるとともに、圧縮量を調整することができる。また、弾性部材55を推進函体10の推進方向に圧縮しているので、弾性部材55は、推進方向に沿って縮んで、発進口1の内側へと膨らむ。これによって、弾性部材55が推進函体10の外周面12に向かって押圧するので、止水性能を確保し易くなる。さらに、ねじ部材62は、立坑内空側からねじ部材62の回転を操作することができ、作業が行いやすい。
【0053】
さらに、本実施形態では、弾性部材55が、ねじ部材62の長手方向(推進方向)に沿って積層された複数のゴム板材57によって構成されているので、各ゴム板材57が薄くて変形し易い。したがって、弾性部材55が推進函体10の出隅部11や外周面12の凹凸形状に対して追従しやすくなるので、止水性能を向上することができる。
【0054】
つまり、本発明によれば、出隅部11や外周面12に凸設または凹設された部材を有する推進函体10であっても、発進口1周辺における止水性能を向上させつつ、推進函体10の推進を許容することができる。
【0055】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、圧縮手段60は、弾性部材55を推進函体10の推進方向に沿って圧縮しているが、これに限定されるものではない。弾性部材55が、発進口1の中心側に向かって変形する方向であれば、例えば発進口1の周方向に沿って圧縮するようにしてもよい。
【0056】
さらに、本実施形態では、コーナー部材が四隅にそれぞれ別個に設けられているが、各コーナー部材を一体的に連結して枠状のものとしてもよい。このようにすれば、コーナー部材の相対位置が一定の状態に固定され、推進函体10の外周面12に対する距離を一定に保つことができる。
【符号の説明】
【0057】
W1 止水構造
1 発進口
2 内周面
3 角部
10 推進函体
11 出隅部
12 外周面
20 シール部材
50 コーナー部材
51 外殻
55 弾性部材
60 圧縮手段
61a プレート材
61b プレート材
62 ねじ部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面多角形状の推進函体に適用される推進工法用エントランスの止水構造において、
発進口の開口縁部に設けられたシール部材と、前記推進函体の出隅部に対応する前記発進口の角部で前記シール部材の内側に設けられたコーナー部材とを備えており、
前記角部は、前記推進函体の外周面の通過位置よりも外側に膨らむように曲面状に形成され、
前記コーナー部材は、その外側面が前記角部に沿うように曲面状に形成された外殻と、この外殻の内側に設けられた弾性部材と、この弾性部材を圧縮する圧縮手段とを有しており、前記圧縮手段で前記弾性部材を圧縮変形させることで、前記外殻の内側面および前記推進函体の外周面に前記弾性部材を接触させる
ことを特徴とする推進工法用エントランスの止水構造。
【請求項2】
前記圧縮手段は、前記弾性部材の前後からこの弾性部材を挟み込む一対のプレート材と、前記プレート材を互いに引き寄せ合うねじ部材とを備えて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の推進工法用エントランスの止水構造。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記ねじ部材の長手方向に沿って積層された複数のゴム板材によって構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の推進工法用エントランスの止水構造。
【請求項1】
断面多角形状の推進函体に適用される推進工法用エントランスの止水構造において、
発進口の開口縁部に設けられたシール部材と、前記推進函体の出隅部に対応する前記発進口の角部で前記シール部材の内側に設けられたコーナー部材とを備えており、
前記角部は、前記推進函体の外周面の通過位置よりも外側に膨らむように曲面状に形成され、
前記コーナー部材は、その外側面が前記角部に沿うように曲面状に形成された外殻と、この外殻の内側に設けられた弾性部材と、この弾性部材を圧縮する圧縮手段とを有しており、前記圧縮手段で前記弾性部材を圧縮変形させることで、前記外殻の内側面および前記推進函体の外周面に前記弾性部材を接触させる
ことを特徴とする推進工法用エントランスの止水構造。
【請求項2】
前記圧縮手段は、前記弾性部材の前後からこの弾性部材を挟み込む一対のプレート材と、前記プレート材を互いに引き寄せ合うねじ部材とを備えて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の推進工法用エントランスの止水構造。
【請求項3】
前記弾性部材は、前記ねじ部材の長手方向に沿って積層された複数のゴム板材によって構成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の推進工法用エントランスの止水構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2011−196044(P2011−196044A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61963(P2010−61963)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000252207)六菱ゴム株式会社 (41)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(000252207)六菱ゴム株式会社 (41)
【Fターム(参考)】
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