説明

揚げ物用加熱処理小麦粉

【課題】揚げ物種との結着性に優れ且つ風味および食感の良好な衣を有する揚げ物類が得られる揚げ物用加熱処理小麦粉を提供すること。
【解決手段】RVAのピーク粘度が4700mPa・s以上の小麦粉を加熱処理してなり、グルテンバイタリティが30%以下であることを特徴とする揚げ物用加熱処理小麦粉。好ましくは、RVAのピーク時間が、加熱処理前の小麦粉よりも30秒以上早い上記揚げ物用加熱処理小麦粉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ、天ぷら、から揚げなどの揚げ物類の製造に用いられる揚げ物用加熱処理小麦粉および該小麦粉を含有する揚げ物用ミックス粉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、小麦粉食品の風味、食感、色などを改良するために、小麦粉を加熱処理することが行われている。
例えば、特許文献1には、小麦粉食品の生地のべたつきを抑えるなどの加工適性を向上させ、且つ粉臭さを解消し適度な焙焼香を有する小麦粉を得るために、小麦粉を品温110〜160℃の条件下で50〜150分間焙焼し、グルテンバイタリティを10〜65%とした焙焼小麦粉の製造法が記載されている。
また、特許文献2には、油脂と加熱焙焼した小麦粉とからなるバッターミックスが記載されており、このバッターミックスは、水に対する分散性または溶解性が良好であり、バッターミックス液にした時の粘度が安定したものであることなどが記載されている。
しかし、これらの特許文献1または2に記載されているような従来の焙焼小麦粉を用いたバッターミックスは、衣の風味や食感などの改良効果が認められるものの十分とは言い難く、また衣と揚げ物種との結着性に改良の余地があるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−345421号公報
【特許文献2】特開平9−84541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、揚げ物種との結着性に優れ且つ風味および食感の良好な衣を有する揚げ物類が得られる揚げ物用加熱処理小麦粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、種々検討した結果、特定の粘度特性を有する小麦粉を加熱処理し、グルテンバイタリティを特定値以下とした加熱処理小麦粉が、上記目的を達成する小麦粉であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、RVAのピーク粘度が4700mPa・s以上の小麦粉を加熱処理してなり、グルテンバイタリティが30%以下であることを特徴とする揚げ物用加熱処理小麦粉を提供するものである。
また、本発明は、上記の本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉を含有することを特徴とする揚げ物用ミックス粉を提供するものである。
また、本発明は、上記の本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉または本発明の揚げ物用ミックス粉を用いて製造されたことを特徴とする揚げ物類を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉によれば、フライ、天ぷら、から揚げなどの揚げ物類の製造に際し、バッター用小麦粉として使用することにより、揚げ物種との結着性に優れ且つ風味および食感の良好な衣を有する揚げ物類を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉について説明する。
本発明で原料として用いられる小麦粉は、RVAのピーク粘度が4700mPa・s以上の小麦粉であれば特に制限されるものではなく、強力粉、中力粉、薄力粉のいずれも用いることができ、2種以上の小麦粉を併用することもできる。
上記小麦粉のRVAのピーク粘度は、5000〜6000mPa・sであることが好ましく、5000〜5500mPa・sであることがより好ましい。
RVAのピーク粘度が4700mPa・s未満である小麦粉を用いると、衣と揚げ物種との結着が弱くなるので好ましくない。また、RVAのピーク粘度が過大な小麦粉を用いると、引きのある食感となる。
【0009】
上記小麦粉のRVAのピーク粘度の値は、ラピッドビスコアナライザー(RVA)(Newport Scientific 社製) を使用し、次のようにして測定されたものである。
アルミ缶に小麦粉4g(小麦粉の水分値が14%含有時に4g必要であり、水分値が異なる際は小麦粉の固形分が3.44gとなるように換算する)および小麦粉との合計重量で29gになるように蒸留水を加えた後、パドル(攪拌子)を入れタワーにセットする。更にパドルを回転(160rpm/min)させながら加温上昇させて粘度を測定する。この時の加温上昇条件は、50℃で1分間保持した後、7分30秒をかけて95℃まで昇温し、95℃で5分間保持する。次いで7分30秒を要して50℃まで降温し、50℃で2分間保持する。このようにして得られた粘度曲線より、最高粘度値を求める。この最高粘度値がピーク粘度の値である。
【0010】
上記小麦粉の加熱処理は、該加熱処理後の小麦粉のグルテンバイタリティが30%以下となる加熱処理であれば特に制限されるものではなく、具体的には、例えば、小麦粉を品温160〜240℃の条件下で10〜100分間焙焼することが好ましく、小麦粉を品温180〜220℃の条件下で20〜80分間焙焼することがより好ましい。
焙焼温度が低すぎると、焙焼香が弱く、引きのある食感となり、結着も弱くなる。また焙焼温度が高すぎると、焦げが生じるため、風味が悪くなる。また、焙焼時間が短すぎると、焙焼香が弱く、引きのある食感となり、結着も弱くなる。、また焙焼時間が長すぎると、焦げが生じるため、風味が悪くなる。
【0011】
上記加熱処理後の小麦粉(加熱処理小麦粉)は、グルテンバイタリティが30%以下である必要があり、グルテンバイタリティが10〜25%であることが好ましく、15〜20%であることがより好ましい。
グルテンバイタリティが30%を超えると、衣と揚げ物種との結着性が悪くなり、また衣の風味および食感も低下し好ましくない。また、グルテンバイタリティが低すぎると、食感が低下する。
【0012】
本発明において、上記グルテンバイタリティは下記の方法により測定されたものである。
〔グルテンバイタリティの測定法〕
(1)小麦粉の可溶性粗蛋白含量の測定:
(a)100ml容のビーカーに試料(小麦粉)を2g精秤して入れる。
(b)上記のビーカーに0.05規定酢酸40mlを加えて、室温で60分間攪拌して懸濁液を調製する。
(c)上記(b)で得た懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(d)上記で用いたビーカーを0.05規定酢酸40mlで洗って洗液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離を行った後、濾紙を用いて濾過し、濾液を回収する。
(e)上記(c)および(d)で回収した濾液を一緒にして100mlにメスアップする。
(f)ティケーター社(スウェーデン)のケルテックオートシステムのケルダールチューブに上記(e)で得られた液体の25mlをホールピペットで入れて、分解促進剤(日本ゼネラル株式会社製「ケルタブC」;硫酸カリウム:硫酸銅=9:1(重量比))1錠および濃硫酸15mlを加える。
(g)上記したケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック分解炉(DIGESTION SYSTEM 20 1015 型) を用いて、ダイヤル4で1時間分解処理を行い、さらにダイヤル9または10で1時間分解処理を自動的に行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれているケルテック蒸留滴定システム(KJELTEC AUTO 1030型) を用いて、その分解処理を行った液体を蒸留および滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白含量を求める。
【0013】
可溶性粗蛋白含量(%)= 0.14 ×(T−B)×F×N×(100 /S)×(1 /25)
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定するかまたは力価の表示のある市販品を用いる)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0014】
(2)小麦粉の全粗蛋白含量の測定:
(a)上記(1)で用いたのと同じティケーター社のケルテックオートシステムのケルダールチューブに、試料(小麦粉)を0.5g精秤して入れ、これに上記(1)の(f)で用いたのと同じ分解促進剤1錠および濃硫酸5mlを加える。
(b)上記(1)で用いたのと同じケルテックオートシステムのケルテック分解炉を用いて、ダイヤル9または10で1時間分解処理を行った後、この分解処理に続いて連続的に且つ自動的に、同じケルテックオートシステムに組み込まれている上記(1)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、前記で分解処理を行った液体を蒸留および滴定して(滴定には0.1規定硫酸を使用)、下記の数式により、試料(小麦粉)の全粗蛋白含量を求める。
【0015】
全粗蛋白含量(%)=( 0.14 ×T×F×N)/S
式中、
T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価(用時に測定)
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
【0016】
(3)グルテンバイタリティの算出:
上記(1)で求めた試料(小麦粉)の可溶性粗蛋白含量および上記(2)で求めた試料(小麦粉)の全粗蛋白含量から、下記の数式により、試料(小麦粉)のグルテンバイタリティを求める。
【0017】
グルテンバイタリティ(%)=(可溶性粗蛋白含量/全粗蛋白含量)/100
【0018】
本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉は、RVAのピーク時間(ピーク粘度が現れるまでの時間)が、加熱処理前の小麦粉(原料小麦粉)のRVAのピーク時間よりも30秒以上早いものが好ましく、40〜70秒早いものがより好ましい。
RVAのピーク時間を上記範囲内とすることにより、衣と揚げ物種との結着性を一層改善することができる。
【0019】
次に、本発明の揚げ物用ミックス粉について説明する。
本発明の揚げ物用ミックス粉は、ミックス用小麦粉として、上述の本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉を含有するものである。
本発明の揚げ物用ミックス粉には、油脂を配合しても良い。斯かる油脂としては、あまに油、桐油、サフラワー油、かや油、くるみ油、えごま油、けし油、ひまわり油、綿実油、なたね油、大豆油、からし油、カポック油、米糠油、ごま油、とうもろこし油、落花生油、オリーブ油、つばき油、茶油、ひまし油、やし油、パーム油、パーム核油、カカオ脂、シア脂、ボルネオ脂などの植物油脂や、魚油、鯨油、牛脂、豚脂、羊油、などの動物油脂が挙げられ、さらにこれらの油脂をエステル交換、硬化、分別などの処理を施した油脂を用いることもできる。また、大豆粉、全粉乳などの油脂を含有する素材を使用しても良い。
これらの油脂を配合する場合、その配合量は、本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉100質量部に対し、好ましくは0.05〜10質量部、より好ましくは0.1〜3質量部である。
これらの油脂を上記範囲内で配合することにより、結着性を更に高めることが出来る。
【0020】
上記油脂の配合方法としては、本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉と油脂とを混合、攪拌する方法でもよいが、加熱処理前の小麦粉と油脂とを予め混合しておき、この混合物を加熱処理する方法が、加熱処理小麦粉と油脂との均一混合物が得られるため好ましい。
【0021】
本発明の揚げ物用ミックス粉には、従来より揚げ物用ミックス粉に配合されている穀粉類、澱粉類や、添加成分を適宜配合することができる。斯かる穀粉類、澱粉類や、添加成分としては、例えば、タピオカ澱粉、コーンスターチなどの澱粉、グアーガム、キサンタンガムなどの増粘多糖類が挙げられる。
これらの穀粉類、澱粉類や、添加成分を配合する場合、その配合量は、本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉の含有量が、本発明の揚げ物用ミックス粉中、好ましくは50質量%以上となる量であり、より好ましくは90質量%以上となる量である。
【0022】
本発明の揚げ物用加熱処理小麦粉および該小麦粉を含有する揚げ物用ミックス粉が使用される揚げ物類としては、特に制限されるものではなく、フライ、天ぷら、から揚げなどのいずれにも使用することができる。また、揚げ物種の種類にも制限されることなく使用することができる。
【実施例】
【0023】
次に本発明をさらに具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
実施例1〜2および比較例1〜5(揚げ物用加熱処理小麦粉の製造)
下記表1に示すRVAのピーク粘度を有する原料小麦粉(日清製粉株式会社製の「ちくご麦畑」または「雪」)を、下記表1に示す加熱処理条件によりホットプレートで焙焼し、揚げ物用加熱処理小麦粉をそれぞれ得た。
得られた揚げ物用加熱処理小麦粉のグルテンバイタリティおよび揚げ物用加熱処理小麦粉と原料小麦粉とのRVAのピーク時間差(原料小麦粉のRVAのピーク時間−加熱処理小麦粉のRVAのピーク時間)を下記表1に示す。
【0025】
実施例1〜2および比較例1〜5で得られた揚げ物用加熱処理小麦粉を用いて下記配合処方によりプレミックスを作製し、更にバッター液をそれぞれ調製した。このバッター液にトンカツ用豚肉を浸し、パン粉をまぶし、170℃で6分間油ちょうして、トンカツをそれぞれ得た。
得られたトンカツについて、下記表2に示す評価基準に従って、衣の風味、食感、および衣と揚げ物種との結着性を10名のパネラーで評価した。その評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表1に示す。
【0026】
プレミックスの配合処方
揚げ物用加熱処理小麦粉 94.9質量部
タピオカ澱粉 5質量部
グアーガム 0.1質量部
バッター液の配合処方
プレミックス 100質量部
水 170質量部
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
RVAのピーク粘度が4700mPa・s以上の小麦粉を加熱処理してなり、グルテンバイタリティが30%以下であることを特徴とする揚げ物用加熱処理小麦粉。
【請求項2】
RVAのピーク時間が、加熱処理前の小麦粉よりも30秒以上早い請求項1記載の揚げ物用加熱処理小麦粉。
【請求項3】
請求項1或いは2に記載の揚げ物用加熱処理小麦粉を含有することを特徴とする揚げ物用ミックス粉。
【請求項4】
請求項1或いは2に記載の揚げ物用加熱処理小麦粉または請求項3記載の揚げ物用ミックス粉を用いて製造されたことを特徴とする揚げ物類。