説明

揚げ物

【課題】含油量の少ない揚げ物を提供すること。
【解決手段】本発明の揚げ物は、米粉を5〜95質量%含有する揚げ物用衣材を用いた揚げ物であって、パームオレイン、菜種油、及びコーン油からなる群から選択される少なくとも1種以上の油脂で油ちょうすることを特徴とする。好ましくは、前記油脂がパームオレインを含有し、前記油脂中の前記パームオレインの含有量が5〜100質量%である。また、好ましくは、前記米粉は平均粒子径が10〜120μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油量が少ない揚げ物に関し、詳細には、特定の衣材と油脂とを用いる揚げ物の含油量を低減させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、天ぷら、フライ等の揚げ物は、揚げ種に小麦粉、片栗粉等の穀粉を主材とする粉末状の衣材又は該衣材に加水して得られたバッター液を付着させ、高温の油で揚げることにより得られる。このような揚げ物には、油で揚げた際の吸油量の少なさ、揚げた後の油切れの良さ、食感の良さ等が求められており、従来から、揚げ物の含油量を低減させるための検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1では、揚げ物用の生地又は衣バッター中にグルテンやデンプンに作用し易い液晶状態あるいはα結晶ゲル状態の乳化剤を適当量添加することによって、揚げ物の吸油率を低減させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−328914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、衣材の改良という観点からのみ検討がなされている特許文献1に開示された技術には、更なる改良の余地があった。そこで、本発明では、衣材だけでなく、最終的な揚げ物に含まれる油の量に影響を与えうる他の要素にも改良を加えることにより、含油量の少ない揚げ物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、特定の衣材と特定の油脂とを組み合わせて油ちょうすることで、含油量の少ない揚げ物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0007】
(1)米粉を5〜95質量%含有する揚げ物用衣材を用いた揚げ物であって、パームオレイン、菜種油、及びコーン油からなる群から選択される少なくとも1種以上の油脂で油ちょうすることを特徴とする揚げ物。
【0008】
(2)上記油脂はパームオレインを含有し、上記油脂中の前記パームオレインの含有量が5〜100質量%である(1)に記載の揚げ物。
【0009】
(3)上記パームオレインは、ヨウ素価が66〜80である(2)に記載の揚げ物。
【0010】
(4)上記米粉は、平均粒子径が10〜120μmである(1)〜(3)いずれかに記載の揚げ物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の揚げ物は、含油量が少ないので、油っぽさがなく、また、低カロリーである。更に、本発明の揚げ物によれば、含油量が少ないので、揚げ物の外部に染み出す油の量が少なく、油じみが生じ難い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
本発明の揚げ物は、米粉を5〜95質量%含有する揚げ物用衣材を用いた揚げ物であって、パームオレイン、菜種油、及びコーン油からなる群から選択される少なくとも1種以上の油脂で油ちょうすることを特徴とする。従来、揚げ物中の油の量を低減させる試みとしては、衣材を改良することが一般的に行われていた。これに対して、本発明は、衣材を改良するとともに、該衣材に最適な揚げ油を選択することで、含油量の少ない揚げ物が得られることを見出したものである。
【0014】
[衣材]
本発明の揚げ物は、米粉を5〜95質量%含有する揚げ物用衣材(以下、衣材という。)を用いた揚げ物である。
【0015】
<米粉>
本発明において、衣材に用いる米粉の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、上新粉、白玉粉、寒ざらし粉、道明寺粉等が挙げられ、これらの中でも上新粉が良好な食感が得られるという点において好ましい。本発明では、平均粒子径が10〜120μmである米粉を用いることが好ましく、10〜60μmである米粉を用いることがより好ましく、10〜40μmである米粉を用いることが更により好ましい。上記範囲の平均粒子径を有する米粉を含有する衣材によれば、揚げ物の含油量をより低減させることが可能となる。平均粒子径が小さい米粉を衣材として用いた場合、油ちょう後の衣の表層部の空洞が大きくなり、衣から油が抜け易くなる(油切れが良くなる)ため、より含油量が低減するものと考えられる。なお、所望の粒子径の米粉は、一般的な気流粉砕機や衝撃式粉砕機を使用し粉砕することにより得ることができる。米粉の平均粒子径は、マスターサイザー2000(シスメックス社製,分析条件:湿式,粒子屈折率:1.52,分散媒:Propan−2−ol,散乱強度:8.54)により測定することができる。
【0016】
本発明では、米粉を5〜95質量%、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%含有する衣材を用いる。上記範囲の米粉を含有する衣材を用いることで、含油量の少なく、食感の良い揚げ物を得ることができる。なお、米粉の含有量が5質量%未満の衣材を用いると、揚げ物の含油量の低減効果が得られない。また、米粉の含有量が95質量%超える衣材を用いると、衣が硬くなりすぎる等好ましい食感が得られない。
【0017】
<その他の成分>
本発明では、衣材は、米粉を5〜95質量%含有していれば、本発明の目的を損なわない範囲において、衣材として通常用いられる他の穀粉、添加剤、パン粉等のその他の成分を任意に配合してもよい。上記穀粉としては、例えば、小麦粉、片栗粉、コーンスターチ、大豆粉等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を配合してもよい。なお、これらの中でも小麦粉が好ましい。小麦粉のグルテンがバッターの粘度を保持し、米粉の沈降を防ぐからである。上記添加剤としては、例えば、乳化剤、増粘剤、膨張剤、保存剤、調味料、香辛料等が挙げられる。
【0018】
[油脂]
本発明の揚げ物は、パームオレイン、菜種油、及びコーン油からなる群から選択される少なくとも1種以上の油脂で油ちょうする。
【0019】
<パームオレイン>
本発明において、パームオレインとは、アブラヤシの果実から採取した油を分別・精製して得られる、食用に適した液体油を意味する。本発明では、上記パームオレインのうち、ヨウ素価が66〜80の範囲にあるものを選択することが好ましく、67〜70の範囲にあるものがより好ましい。上記範囲のヨウ素価を含有するパームオレインを用いることで、軽い食感を有する揚げ物を得ることができる。なお、ヨウ素価は、例えば、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1−1996」等に記載の方法により容易に測定することができる。また、本発明では、炭素数が18であり、不飽和結合を少なくとも1つ有する脂肪酸を、パームオレインの全構成脂肪酸中に58〜68質量%含有するものがより好ましく、58〜66質量%含有するものが更に好ましい。上記範囲の上記脂肪酸を含有するパームオレインを用いることで、軽い食感を有する揚げ物を得ることができる。
【0020】
上記パームオレインは、パーム油から分別して得ることができる。具体的には、アブラヤシの果房を蒸気で処理した後、圧搾法により採油する。採油された油は、遠心分離により繊維や夾雑物を取り除き、乾燥する。その後、脱ガム、脱酸、脱色、脱臭の精製を経て、パーム油を得る。精製方法としては、化学的精製や物理的精製等があるが、いずれを用いてもよい。パームオレインを得るためのパーム油の分別方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、冷却による自然分別、界面活性剤による分別、溶剤による分別等が挙げられ、通常は、冷却による自然分別法を用いる。パームオレインは、パーム油を分別して得られる中融点部分又は低融点部分であり、分別は、2回分別、3回分別でもよく、本発明では、複数回分別処理して得られる低融点部分であって、且つ、ヨウ素価が上記範囲であるものが好適である。
【0021】
<菜種油>
本発明では、菜種油は、特に限定されるものではなく、一般に流通している食用の菜種油を用いることができ、例えば、全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油、全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%以上の高オレイン酸低リノレン酸種キャノーラ油等が挙げられる。本発明では、コスト面を考慮すると、全構成脂肪酸中のオレイン酸含量が70質量%未満のキャノーラ油を用いることが好ましい。
【0022】
<コーン油>
本発明では、コーン油は、特に限定されるものではなく、一般に流通している食用のコーン油を用いることができる。
【0023】
<その他の成分>
本発明では、油脂は、パームオレイン、菜種油、及びコーン油からなる群から選択される少なくとも1種以上であれば、本発明の目的を損なわない範囲において、食用油に通常用いられる添加剤等のその他の成分を任意に配合してもよい。該添加剤としては、例えば、乳化剤、酸化・劣化防止剤、結晶調整剤、消泡剤等が挙げられる。
【0024】
乳化剤としては、例えば、モノグリセリド、ジグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル及び有機酸モノグリセリド、レシチン等が挙げられる。
【0025】
酸化・劣化防止剤としては、例えば、トコフェロール類、フラボン誘導体、コウジ酸、没食子酸誘導体、カテキン及びそのエステル、フキ酸、ゴシポール、セサモール、テルペン類、有機酸等が挙げられる。結晶調整剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。消泡剤としては、例えば、微粉末シリカ、シリコーン等が挙げられる。
【0026】
<油脂の配合>
本発明では、油ちょうに用いる油脂は、パームオレイン、菜種油、及びコーン油からなる群から選択される少なくとも1種以上であればよい。すなわち、パームオレイン、菜種油、及びコーン油をそれぞれ単独で用いてもよいし、これらの油脂を2種又は3種混合したものを用いてもよい。油ちょうに用いる油脂中のパームオレイン、菜種油、及びコーン油の含有量は、特に限定されないが、本発明の目的を達成するためには、少なくともパームオレインを含有し、パームオレインと、菜種油及び/又はコーン油との質量比が、100:0〜5:95であることが好ましく、100:0〜30:70であることがより好ましく、70:30〜30:70であることが更に好ましい。パームオレインと、菜種油及び/又はコーン油との質量比が上記範囲である油脂によれば、揚げ物の含油量をより低減させることが可能となる。
【0027】
更に、本発明では、油ちょうに用いる油脂中のパームオレインと、菜種油と、コーン油との質量比が、100:0:0〜5:47:48であることが好ましく、100:0:0〜30:35:35であることがより好ましく、70:15:15〜30:35:35であることが更に好ましく、50:25:25〜30:35:35であることが最も好ましい。パームオレインと、菜種油と、コーン油との質量比が上記範囲である油脂によれば、揚げ物の含油量をより低減させることが可能となる。
【0028】
<油脂の調製方法>
油ちょうに用いる油脂が、上記パームオレイン、菜種油、及びコーン油からなる群から選択される2種又は3種を混合したものである場合の油脂の調製方法は、特に限定されるものではなく、上記パームオレイン、菜種油、及びコーン油を攪拌混合すればよい。また、これらの油脂の混合順序も、特に限定されるものではない。
【0029】
[揚げ物]
本発明において、揚げ物とは、揚げ種に粉末状の衣材又は該衣材に加水して得られたバッター液を付着させ、油ちょうする揚げ物を意味する。揚げ種としては、特に限定されるものではなく、例えば、エビ、イカ、アジ、イワシ等の魚介類、豚肉、鶏肉、牛肉等の畜肉類、サツマイモ、ジャガイモ、カボチャ、玉ねぎ、ゴボウ等の野菜類、シイタケ、マイタケ、シメジ等のキノコ類が挙げられる。本発明の揚げ物は、例えば、上記揚げ種を適当な大きさに切り、粉末状の上記衣材を付着させるか、又は、上記衣材に加水して得られたバッター液を付着させた後、高温の上記油脂にて油ちょうすることにより製造することができる。このようにして製造された本発明の揚げ物は、含油量が少ないので、食した際の油っぽさがなく、また、低カロリーである。更に、本発明の揚げ物によれば、含油量が少ないので、揚げ物の外部に染み出す油の量が少なく、油じみが生じ難い。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0031】
[油脂]
実施例及び比較例では、油脂としてパームオレイン(ヨウ素価:68,INTERCONTINENTAL SPECIALTY FATS SDN.BHD社製)、菜種油(商品名:日清キャノーラ油,日清オイリオグループ株式会社製)及びコーン油(商品名:日清コーン油,日清オイリオグループ株式会社製)を表1に示す割合で配合した油脂Aと、大豆油(商品名:日清大豆白絞油,日清オイリオグループ株式会社製)からなる油脂Bとを使用した。
【0032】
【表1】

【0033】
[衣材]
実施例及び比較例では、米粉(商品名:瑞穂菓子用米粉,平均粒子径:23μm,熊本製粉社製)、薄力小麦粉(商品名:マル菓蛇の目,熊本製粉社製)、及び膨張剤(商品名:赤エースベーキングパウダー,奥野製薬工業社製)を、表2に示す割合で配合した衣材A〜Eを使用した。
【0034】
【表2】

【0035】
<試験例1>吸油抑制効果の検討(1)
上記衣材A,D,Eに対して、加水率がそれぞれ150%,120%,110%となるように水を加え、良く練ってバッターを調製した。次いで、解凍した尾付きムキ伸ばしエビ(ブラックタイガー,26−30尾/ポンド,各衣につき1匹使用)に、上記衣材A,D,Eでそれぞれ打ち粉をして、上記バッター液に浸した後、油脂A,Bを用いて170℃で2分30秒間揚げてエビ天を得た。該エビ天をザルの上で10分間放冷した後、衣を剥がし、衣の重量(g)を測定した。また、ソックスレー法により衣の油脂量(g)を測定した。そして、衣の油脂含量(質量%)を次式により求めた。
【0036】
衣の油脂含量(質量%)=衣の油脂量/衣の重量×100
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
【表5】

【0040】
米粉を含有しない衣材を用い、且つ、パームオレイン、菜種油、及びコーン油を含有する油脂で油ちょうしたエビ天(比較例1)は、米粉を含有しない衣材を用い、且つ、大豆油で油ちょうしたエビ天(比較例2)に比べて、衣の油脂含量が多かった(表3)。
米粉を含有する衣材を用い、且つ、パームオレイン、菜種油、及びコーン油を含有する油脂で油ちょうしたエビ天は、大豆油で油ちょうしたエビ天に比べて、衣の油脂含量が少なかった(表4の実施例1と比較例3、表5の実施例2と比較例4)。
【0041】
<試験例2>吸油抑制効果の検討(2)
上記衣材B,C,Eに対して、加水率がそれぞれ140%,130%,110%となるように水を加え、良く練ってバッターを調製した。次いで、該バッターを20mLシリンジに10mL充填し、15cmの高さから10秒間落下させ、油脂A,Bを用いて170℃で30秒間揚げて揚げ玉を得た。ここで、落下したバッターの重量を落下前後のシリンジの重量差から求めた後、加水率から衣材の重量A(g)を算出した。得られた揚げ玉は、ザルの上で10分間放冷し、油きりをした後、重量B(g)を測定した。その後、更に揚げ玉を135℃で1時間乾燥した後、重量C(g)を測定した。そして、揚げ玉の油脂含量を次式により求めた。
【0042】
揚げ玉の油脂含量(質量%)={(重量C−重量A)/重量B×100}
【0043】
【表6】

【0044】
【表7】

【0045】
【表8】

【0046】
米粉を含有する衣材を、パームオレイン、菜種油、及びコーン油を含有する油脂で油ちょうした揚げ玉は、大豆油で油ちょうした揚げ玉に比べて、油脂含量が少なかった(表6の実施例3と比較例5、表7の実施例4と比較例6、表8の実施例5と比較例7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉を5〜95質量%含有する揚げ物用衣材を用いた揚げ物であって、
パームオレイン、菜種油、及びコーン油からなる群から選択される少なくとも1種以上の油脂で油ちょうすることを特徴とする揚げ物。
【請求項2】
前記油脂はパームオレインを含有し、前記油脂中の前記パームオレインの含有量が5〜100質量%である請求項1に記載の揚げ物。
【請求項3】
前記パームオレインは、ヨウ素価が66〜80である請求項2に記載の揚げ物。
【請求項4】
前記米粉は、平均粒子径が10〜120μmである請求項1〜3いずれかに記載の揚げ物。

【公開番号】特開2012−135225(P2012−135225A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288056(P2010−288056)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【出願人】(000164689)熊本製粉株式会社 (17)
【Fターム(参考)】