説明

揮発性有機化合物の分解装置及び分解方法

【課題】光触媒活性が弱い条件下でも、揮発性有機化合物を分解し、かつ、コーキングを抑制できる手段を提供する。
【解決手段】光触媒能を有する第1の材料と揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備える第2の材料とを含む分解用組成物を有し、前記分解用組成物は、少なくとも一部が前記揮発性有機化合物を含む可能性のあるガスに暴露された状態で光照射及び加熱が可能に備えられるように構成する。熱触媒と光触媒とを複合化することにより、揮発性有機化合物の高い分解能力とコーキング抑制能力とを確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物の分解装置及び分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両をはじめとする各種機関からの排ガスに含まれる揮発性有機化合物を除去する方法が種々検討されている。従来この種の方法としては、光触媒を用いる方法が知られている。光触媒は、紫外線照射下で高い光触媒能を示すが、有機化合物が高濃度の場合には、触媒表面に炭素膜が付着するコーキングが生じてしまうため、実質的に高濃度の揮発性有機化合物の分解は困難であった。そこで、金属に担持した光触媒を光照射下に40℃〜250℃に加熱して有機化合物を分解する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−89935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機化合物の分解率とCO2生成率の差が小さいほどコーキング発生量が少なく有機化合物をCO2にまで完全に分解できる優れた触媒といえる。しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、加熱温度200℃、触媒温度130℃でもトルエン分解率に比べてCO2生成率の差は40%を超える程度であってコーキングの改善効果は小さく、加熱温度300℃、触媒温度190℃でも、同差が25%であった。光触媒を金属に担持させることで、有機化合物の分解率は向上しているもののコーキング傾向はほとんど改善されていなかった。しかも、金属担持光触媒のCO2生成率は、加熱温度200℃、触媒温度130℃のとき、初めて金属に担持されていない光触媒のCO2生成率を上回るに過ぎなかった。また、上記特許文献1に記載の方法でも、依然として高濃度の有機化合物の分解は困難であった。
【0005】
このように、現在までにおいて、依然として光触媒反応においてコーキングの改善は不十分であり、しかも、高濃度及び/又は高流量の揮発性有機化合物含有ガスの分解も困難であった。さらに、光触媒活性が弱い条件下では、揮発性有機化合物の分解率も低く同時にコーキングも増大することが予想された。
【0006】
そこで、本発明は、揮発性有機化合物の分解能力とコーキング抑制に優れた揮発性有機化合物の分解装置及び分解方法を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために種々検討したところ、熱触媒と揮発性有機化合物の吸着材とを光触媒に複合化し、この触媒組成物を加熱することでコーキングを効果的に抑制できるとともに、高濃度の揮発性有機化合物の分解能力が向上することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば以下の手段が提供される。
【0008】
本発明によれば、揮発性有機化合物の分解装置であって、光触媒能を有する第1の材料と揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備える第2の材料とを含む分解用組成物を有し、前記分解用組成物は、少なくとも一部が前記揮発性有機化合物を含む可能性のあるガスに暴露された状態で光照射及び加熱が可能に備えられる、分解装置が提供される。本発明の分解装置は、車両内における揮発性有機化合物の分解用とすることができる。
【0009】
本発明の分解装置においては、前記分解相は、100℃以下に加熱されるように構成されるものであってもよい。本発明の分解装置は、さらに、前記分解相を加熱する加熱手段を備えていてもよい。
【0010】
本発明の分解装置においては、前記第2の材料は、ゼオライト、リン酸カルシウム化合物及び金属酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含むことができ、なかでも、ゼオライトを含むことが好ましい。
【0011】
本発明の分解装置においては、前記分解用組成物は、前記第1の材料と前記第2の材料との複合粉末、前記第1の材料の粉末と前記第2の材料の粉末との混合粉末又はいずれかの粉末の成形体であってもよい。前記分解用組成物は、前記第1の材料と前記第2の材料とを、前記第1の材料100質量部に対して前記第2の材料10質量部以上60質量部以下含有することが好ましい。
【0012】
本発明によれば、揮発性有機化合物の分解方法であって、光照射下に、光触媒能を有する第1の材料と揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備える第2の材料とを含み、加熱された分解用組成物を加熱しながら、前記揮発性有機化合物を含む可能性のあるガスに接触させる分解工程、
を備える、分解方法が提供される。前記分解工程は、前記分解用組成物を100℃以下に加熱することを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例で用いるワンススルー法用の評価容器及び当該容器を含む評価システムの概要を示す図である。
【図2】実施例1におけるアセトアルデヒドの分解能の評価結果を示す図である。
【図3】実施例2におけるアセトアルデヒドの分解能の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、光触媒能を有する第1の材料と揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備える第2の材料とを含む分解用組成物を有し、
前記分解用組成物は、少なくとも一部が前記揮発性有機化合物を含む可能性のあるガスに暴露された状態で光照射及び加熱が可能に備えられる、分解装置に関する。
また、本発明は、光照射下に、光触媒能を有する第1の材料と揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備える第2の材料とを含み、熱が供給された分解用組成物に、前記揮発性有機化合物を含む可能性のあるガスに接触させる分解工程、を備える揮発性有機化合物の分解方法に関する。
【0015】
本発明によれば、前記第1の材料と前記第2の材料とを含む分解用組成物を用い、光照射と熱とを伴って揮発性有機化合物を含有する可能性のあるガス(以下、対象ガスというものとする。)と接触させることで、揮発性有機化合物を、コーキングを抑制して高い分解率で分解することができる。また、本発明によれば、第1の材料と第2の材料とを含むため、高流量又は高濃度の揮発性有機化合物をより効率的に分解することができる。さらに、本発明によれば、第1の材料と第2の材料とを含むため、光触媒活性が弱い条件下でも、揮発性有機化合物を効率的に分解し、かつコーキングも改善することができる。
【0016】
本発明においては、分解用組成物に光照射されることで、第1の材料による揮発性有機化合物の分解が促進される。また、分解用組成物に熱が供給されることで、第2の材料への揮発性有機化合物や揮発性有機化合物の分解中間体の吸着が促進されるとともに、吸着した揮発性有機化合物や揮発性の分解中間体が効果的に分解される。非揮発性の分解中間体は、さらに、第1の材料や第2の材料により分解される。
【0017】
以下、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
【0018】
(揮発性有機化合物の分解装置)
本発明の揮発性有機化合物の分解装置は、光触媒能を有する第1の材料と揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備える第2の材料とを含む分解用組成物を有する分解相を備えている。
【0019】
(分解用組成物)
第1の材料は、光触媒能を備えている。第1の材料は、公知の光触媒を特に限定しないで用いることができる。例えば、典型的には酸化チタン、含水酸化チタン、酸化チタン水和物、メタチタン酸、オルトチタン酸などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。他の原子がドープ等されたものであってもよいし、金属が担持されたものであってもよい。また、酸化チタンの結晶構造としては、アナターゼ型、ルチル型又はこれらの混合物であってもよい。
【0020】
第2の材料は、揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備えている。揮発性有機化合物とは、常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化合物を意味している。例えば、沸点が150℃以下の有機化合物が挙げられる。なかでも、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのアルデヒド類が挙げられる。熱触媒能とは、ここでは、揮発性有機化合物の分解反応を加熱下に触媒する能力をいう。なお、揮発性有機化合物の分解反応とは、必ずしも完全分解のみを意味するものではなく、中間性生物にまで分解する反応であってもよい。
【0021】
こうした第2の材料としては、ゼオライト、リン酸カルシウム化合物及び金属酸化物が挙げられる。これらのうち1種又は2種以上を選択して用いることができる。ゼオライトとしては、特に限定しないで公知のゼオライトを用いることができる。典型的には、天然ゼオライトであっても人工ゼオライトであってもよく、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、エリオナイト、L型ゼオライト、モルデライト、フェリオナイト、酸性白土、活性白土等であってもよい。リン酸カルシウムとしては、リン酸イオンおよびカルシウムイオンからなるリン酸カルシウムであればよく、特に限定されない。具体的には、第三リン酸カルシウムCa3(PO42、ヒドロキシアパタイトCa10(PO46(OH)2、第二リン酸カルシウム・2水塩CaHPO4・2H2O、オクタカルシウムホスフェートCa87(PO46・5H2O、テトラカルシウムホスフェートCa4O(PO42などが挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシアパタイトが好ましく、特にアモルファス状のヒドロキシアパタイトがより好ましい。チタン以外の遷移金属の酸化物としては、マンガン、鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、銀等が挙げられる。有機化合物の低温分解性能の観点から鉄が好ましい。鉄酸化物の種類については、特に定めないが、FeO、Fe34、Fe23等の酸化鉄、α−FeOOH、β−FeOOH、γ−FeOOH等のオキシ水酸化鉄、Fe(OH)3等の水酸化鉄、K2FeO4等の鉄酸塩化合物等、もしくは、それらの複合体が挙げられる。
【0022】
これらの第2の材料のなかでも、揮発性有機化合物を捕捉する観点からは、多孔質性材料が好ましく、ゼオライトやリン酸カルシウム化合物が好ましい。とりわけゼオライトが好ましい。
【0023】
分解用組成物は、第1の材料と第2の材料とを含んでいれば、どのような形態であってもよい。分解用組成物は、例えば、第1の材料の粉末と第2の材料の粉末の混合粉末であってもよいし、第1の材料と第2の材料とを複合化した複合粒子であってもよいし、こうしたいずれかの粉末の成形体又はコーティング膜であってもよい。入手容易性を考慮すると、分解用組成物は、第1の材料と第2の材料との混合粉末を含むことが好ましい。また、第1の材料と第2の材料とを複合化した複合粒子を含むことが好ましい。複合粒子であると、第1の材料と第2の材料とが極めて近接して存在することができるため、第1の材料と第2の材料との相乗効果を得られやすい。複合粒子の形態は特に限定しないが、例えば、平均粒径0.01μm以上1μm程度の第1の材料の粒子のに対して、平均粒径0.01μm以上1μm以下程度の第2の材料の粒子を複合化する形態が挙げられる。こうした複合粒子は、例えば、ゾルゲル法や水熱法等の公知のセラミックス粉末合成法により合成することができる。
【0024】
分解用組成物における第1の材料と第2の材料との比率は特に限定しないが、光触媒分解性能を考慮すると、第1の材料100質量部に対して第2の材料が10質量部以上60質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、第1の材料100質量部に対して第2の材料が20質量部以上50質量部以下である。特に、第1の材料と第2の材料とが複合粒子を形成している場合、第1の材料100質量部に対して第2の材料が30質量部以上50量部以下であることが好ましい。この範囲であると第2成分の有機化合物の吸着・分解能力と第1成分の光触媒分解性能のバランスが良好だからである。
【0025】
分解用組成物の成形体やコーティング膜は、当業者であれば、公知のセラミックス粉末の成形方法やコーティング方法に基づいて製造することができる。成形体やコーティング膜の三次元形態は特に限定しない。対象ガスの存在形態、発生形態、流通形態に応じて適宜設計される。
【0026】
分解用組成物は、他の材料と複合化されていてもいてもよい。メッシュ状、粒子状、膜状、多孔質材料、繊維状等の各種基材に複合化されていてもよい。こうした複合化の結果、分解用組成物は、フィルター状、カラム状等の基材の形態に応じた形態を容易に採ることができるようになる。
【0027】
分解用組成物は、その少なくとも一部が対象ガスに暴露可能に備えられている。対象ガスに対する分解用組成物の暴露形態は特に限定されない。対象ガスと接触可能に対象ガスが本来的に発生、流通、分離される流入する対象ガス含有雰囲気内に配置されてもよいし、分解装置の構成要素として対象ガスを強制的に流入させるために形成したキャビティを備えて、当該キャビティ内に配置するようにしてもよい。かかるキャビティは、対象ガスが流通する流路形態であってもよいし、対象ガスが貯留される形態であってもよい。
【0028】
分解用組成物は、また、光が照射されることが可能に備えられる。分解用組成物に照射される光の光源は、特に限定されないで、太陽のほか、蛍光灯などの人工光源等が挙げられる。波長も特に限定されないが、必要に応じて紫外光領域及び可視光領域から適宜選択されてもよい。本発明の分解用組成物は、熱触媒能を有する第2の材料を併せ有するため、可視光領域の波長の光照射であっても、高濃度の揮発性有機化合物をコーキングを抑制してより完全に分解できる。
【0029】
分解用組成物が光照射されることが可能に設けられる形態は特に限定しないで各種態様を採ることができる。例えば、光源を太陽光とする場合であって、太陽光が分解装置に直接照射可能な場合には、太陽光線が透過可能なケーシングに分解用組成物を配置することができる。また、太陽光を取り入れることができない場合であっても、太陽光を光ファイバー等で誘導したり集光したりして分解用組成物に対して照射するようにしてもよい。また、光源を人工光源とする場合には、分解用組成物に対して人工光源からの光が照射される位置に人工光源を配置すればよい。人工光源としては、キセノンランプ、水銀(高圧、低圧、超高圧)ランプ、ブラックライト等が挙げられる。なお、光源は同時に熱源としても利用でき、こうした光照射手段は、同時に分解用組成物の加熱手段としても用いることができる。
【0030】
なお、分解用組成物に対する光の照射は、対象ガスの分解時にあっては連続的であることが好ましいが、必ずしも連続的でなくてもよく、分解用組成物に熱が供給されていれば断続的であってもよいし、熱供給と交互であってもよい。
【0031】
分解用組成物は、加熱可能に備えられている。加熱により、第1の材料と第2の材料との相乗作用が生じて、高濃度の揮発性有機化合物を、コーキングを抑制しつつ分解できる。分解装置において、分解用組成物が加熱可能に備えられる形態は、特に限定しないが、分解装置に固有の加熱手段を備えていてもよいし、分解装置が設置される環境内にある装置や機器等の排熱や、太陽光等を熱源として受動的に利用する形態であってもよい。例えば、本発明の分解装置を車両内に配置する場合の加熱装置としては、適当な電源からの電力の供給に基づく加熱装置等の分解装置用に設けた熱源を利用する形態であってもよい。また、エンジンを初めととする各種装置からの排熱を利用することができる。典型的には、排熱をガスなどの流体媒体を利用して分解用組成物に供給する加熱装置が挙げられる。さらに、車室内に入射する太陽光を熱源として利用する熱装置が挙げられる。典型的には、太陽熱で加熱したガスを分解用組成物に供給する加熱装置や、太陽光は集光及び/又は誘導して分解用組成物に供給する形態が挙げられる。
【0032】
加熱温度は特に限定されないが、分解用組成物を少なくとも40℃とすることができるものであればよい。第2の材料による触媒活性等を考慮すると、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上であり、一層好ましくは75℃以上であり、最も好ましくは100℃以上である。また、上限温度は、特に限定しないが、熱コストや周辺環境等を考慮すると、150℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以下であり、さらに好ましくは、100℃以下である。揮発性有機化合物の分解率とCO2生成率の差を小さくする観点からは、50℃以上150℃以下であることが好ましく、より好ましくは、75℃以上150℃以下である。
【0033】
なお、分解用組成物が加熱された状態は、対象ガスの分解時を通じて維持されることが好ましいが、対象ガスの濃度等に応じて適宜調節可能であってもよい。
【0034】
本発明の分解装置は、例えば、対象ガスを吸気し揮発性有機化合物を分解除去して排気口から排出する形態を採ることもできる。この場合、対象ガスを単に通過させる形態であってもよいし、複数回分解用組成物に接触させるために一定時間循環させるものであってもよい。対象ガスは、建物内、車両内あるいは排ガス等とすることができるが、これれ対象ガス中の揮発性有機化合物の濃度が一定以上となったときに、吸気を開始するように制御することもできる。
【0035】
以上説明した本発明の分解装置によれば、第1の材料と第2の材料とを含有する分解用組成物を備えていることにより、光照射下での第1の材料による光触媒能と熱が供給された第2の材料による熱触媒能及び吸着能とが相乗的に作用して、高濃度の揮発性有機化合物をコーキングを抑制してより完全に分解することができる。こうした相乗効果は、光照射と熱の供給が同時に生じる場合に効果が高いが、光照射と熱の供給が交互である場合の他、いずれか一方が連続的であって他方が断続的であっても生じる。本発明の分解装置によれば、高濃度の揮発性有機化合物を分解しかつコーキングを抑制できることから、長期間継続して安定的に揮発性有機化合物分解能を発揮することができる。
【0036】
本発明の分解装置によれば、光が紫外光領域を含む場合、揮発性有機化合物の分解率は、75℃で50%以上であることが好ましく、100℃で70%以上であることが好ましく、同温度で75%以上であることがより好ましく、150℃で75%以上であることが好ましく、同温度で80%以上であることがさらに好ましい。こうした分解率は、揮発性有機化合物の濃度が50ppm〜200ppm程度の高濃度ガスであって、その流量も50ml/分以上100ml/分程度の高流量であっても確保される。
【0037】
本発明の分解装置によれば、また、光が紫外光領域を含まないで可視光のみの場合、揮発性有機化合物の分解率は50℃において40%以上であることが好ましく、75℃において50%以上であることが好ましく、又は100℃において60%以上であることが好ましい。可視光下では、第1の材料の光触媒能が弱いが、加熱により第2の材料の熱触媒能と吸着能との相乗効果により、分解率を確保することができる。こうした分解率は、揮発性有機化合物の濃度が50ppm〜200ppm程度の高濃度ガスであって、その流量も50ml/分以上100ml/分程度の高流量であっても確保される。特に、第2の材料がゼオライトを含むとき、加熱とともに分解率が向上するとともに、CO2生成率が顕著に向上し、分解率との差が顕著に小さくなる。
【0038】
本発明の分解装置によれば、例えば、揮発性有機化合物の分解率(%)とCO2生成率(%)の差を15%以下とすることができる。15%以下であると、コーキングを効果的に抑制して長期にわたる継続使用が可能となるからである。より好ましくは10%である。特に、紫外光領域を含んで光触媒の活性が強力で前記分解率が大きい(分解率が70%以上又は75%以上)ときであっても15%以下、より好ましくは10%以下とすることができる。ここで、CO2生成率は、揮発性有機化合物が完全に分解したときに理論上生成するCO2量に対する検出されたCO2量の比率(%)である。すなわち、CO2生成率は、揮発性有機化合物の完全分解率を意図している。一方、揮発性有機化合物の分解率は、分解前の揮発有機性化合物濃度に対する分解後の揮発性有機化合物の濃度の割合(%)である。したがって、揮発性有機化合物の分解率からCO2生成率を差し引いた数値が大きければ、揮発性有機化合物が完全には分解されずコーキング等の形態で残存していることを意味し、前記数値が小さければ、より完全に揮発性有機化合物が分解されてコーキングが抑制されていることを意味している。
【0039】
本発明の分解装置は、由来を問わずに揮発性有機化合物の除去に用いることができるが、特に、塗料、合成樹脂、接着剤、内燃機関の排ガス等に由来する揮発性有機化合物の除去に好ましく用いることができる。より具体的には、建物や自動車等の車両内の揮発性有機化合物の除去用に好ましく用いることができる。すなわち、本発明の分解装置は、建物や車両内の空気清浄装置としても利用できる。空気清浄装置は、エアコン等に付属するものであってもよい。また、揮発性有機化合物の除去は脱臭も伴うため、本発明の分解装置は、建物や車両内の脱臭装置としても利用できる。
【0040】
(揮発性有機化合物の分解方法)
本発明の揮発性有機化合物の分解方法は、光照射下に、光触媒能を有する第1の材料と揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備える第2の材料とを含み、加熱された分解用組成物に、前記揮発性有機化合物を含む可能性のあるガスに接触させる分解工程、を備えることができる。本発明の分解方法によれば、第1の材料と第2の材料との相乗作用により、高濃度の揮発性有機化合物をコーキングを抑制して、より完全に分解することができる。
【0041】
本発明の分解方法の分解工程における第1の材料、第2の材料及びこれらの実施態様並びに分解条件として、本発明の分解装置において既に説明した実施態様をそのまま適用でき、同様の効果を奏することができる。本発明の分解方法は、建物や車両内の空気清浄方法や脱臭方法としても利用できる。
【実施例】
【0042】
以下、発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定するものではない。
【実施例1】
【0043】
本実施例では、酸化チタン(ST01、石原産業株式会社製)とゼオライト(東ソー製)とを十分混合して得た混合粉末(酸化チタン:ゼオライト=1:1(重量比))を用いて、JIS R1701-2に準じて試料(本発明の分解用組成物に相当する。)及び測定容器を準備し、以下の条件で試料の揮発性有機化合物の分解能力を反応開始後60分における排出ガス中の残存アセトアルデヒド量及びCO2量をマイクロGCで測定することで評価した。対照例として、酸化チタン粉末のみで同様にして試料を準備し、評価した。なお、測定装置としては、図1に示すように、ワンスルー型の評価用装置を用いた。結果を図2に示す。
測定条件:
光源:キセノンランプ、フィルター:SN-750(紫外光含む)
強度:50μW/cm2/nm
検体ガス:アセトアルデヒド100ppm(人工空気で希釈、水分RH50%)
流量:100ml/分
【0044】
図2には、残存アセトアルデヒド量に基づく分解率と生成CO2量に基づくCO2生成率とを示す。図2から明らかなように、紫外光領域を含む光照射下で、酸化チタンとゼオライトとの混合粉末は、試料温度が50℃以上のとき、アセトアルデヒド量に基づく分解率が対照例を超えることができ、さらに、試料温度が100℃以上において、分解率は約80%〜90%程度であるとともに、アセトアルデヒド分解率とCO2生成率との差が10%程度となり、高濃度をアセトアルデヒドを効率的に分解すると同時にほとんどのアセトアルデヒドがCO2まで分解していることがわかった。これに対して、対照例では、全般に分解率が低く、さらに、CO2生成率が低いため、アセトアルデヒド分解率とCO2生成率との差は20%程度となっていた。以上のことから、紫外光領域を含む光照射下で、ゼオライトを用いることにより、高濃度のアセトアルデヒドをより効率的にしかもより完全に分解できることがわかった。
【実施例2】
【0045】
本実施例では、酸化チタン(TP-S201、住友化学工業株式会社製)と、ゼオライト(東ソー製)、ヒドロキシアパタイト(関東化学製)及びFeO(関東化学製)とをぞれぞれ十分混合して得た3種類の混合粉末(酸化チタン:ゼオライト、ヒドロキシアパタイト又はFeO=1:1(重量比))を用いて、実施例1と同様にして、JIS R1701-2に準じて試料(本発明の分解用組成物に相当する。)及び測定容器を準備し、以下の条件で揮発性有機化合物の分解能力を反応開始後60分における排出ガス中の残存アセトアルデヒド量及びCO2量をマイクロGCで測定することで評価した。対照例として、酸化チタン粉末のみで同様にして試料を準備し、評価した。結果を図3に示す。
測定条件:
光源:キセノンランプ、フィルター:SN-750+L-42(可視光のみ)
強度:50μW/cm2/nm
検体ガス:アセトアルデヒド50ppm(人工空気で希釈、水分RH50%)
流量:50ml/分
【0046】
図3には、残存アセトアルデヒド量に基づく分解率と生成CO2量に基づくCO2生成率とを示す。図3から明らかなように、可視光のみの照射下で、酸化チタンのほか、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト又はFeOとの混合粉末は、試料温度が50℃以上のとき、アセトアルデヒド量に基づく分解率が対照例と同等又はそれ以上であった。さらに、ゼオライトとの混合粉末は、試料温度が75℃以上のとき、アセトアルデヒド分解率が約50%〜70%であるとともに、CO2生成率との差が数%以下となり、可視光のみであって試料温度が100℃以下でも高濃度をアセトアルデヒドを効率的に分解すると同時にほとんどのアセトアルデヒドがCO2まで分解していることがわかった。
【0047】
以上のことから、酸化チタンと、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト又はFeOとの混合粉末は、加熱されることで、高濃度の揮発性有機化合物の分解率を向上させるとともに、特に、ゼオライトは、100℃以下の加熱であっても、高度に完全に高濃度の揮発性有機化合物を分解できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性有機化合物の分解装置であって、
光触媒能を有する第1の材料と揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備える第2の材料とを含む分解用組成物を有し、
前記分解用組成物は、少なくとも一部が前記揮発性有機化合物を含む可能性のあるガスに暴露された状態で光照射及び加熱が可能に備えられる、分解装置。
【請求項2】
さらに、前記分解相を加熱する加熱手段を備える、請求項1に記載の分解装置。
【請求項3】
前記分解相は、100℃以下に加熱されるように構成される、請求項1又は2に記載の分解装置。
【請求項4】
前記第2の材料は、ゼオライト、リン酸カルシウム化合物及び金属酸化物からなる群から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の分解装置。
【請求項5】
前記第2の材料は、ゼオライトである、請求項4に記載の分解装置。
【請求項6】
前記分解用組成物は、前記第1の材料と前記第2の材料との複合粉末前記第1の材料の粉末と前記第2の材料の粉末との混合粉末又はいずれかの粉末の成形体である、請求項1〜5のいずれかに記載の分解装置。
【請求項7】
前記分解用組成物は、前記第1の材料と前記第2の材料とを、前記第1の材料100質量部に対して前記第2の材料を10質量部以上60質量部以下含有する、請求項6に記載の分解装置。
【請求項8】
車両内における揮発性有機化合物の分解用である、請求項1〜7のいずれかに記載の分解装置。
【請求項9】
揮発性有機化合物の分解方法であって、
光照射下に、光触媒能を有する第1の材料と揮発性有機化合物の吸着能と熱触媒能とを備える第2の材料とを含み、加熱された分解用組成物に、前記揮発性有機化合物を含む可能性のあるガスに接触させる分解工程、
を備える、分解方法。
【請求項10】
前記分解工程は、前記分解用組成物を100℃以下に加熱することを含む、請求項9に記載の分解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−110546(P2011−110546A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272546(P2009−272546)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】