説明

揮発性有機化合物の除去システム

【課題】有用性及び経済性に優れた揮発性有機化合物の除去システムを提供する。
【解決手段】VOC吸着部、VOC放出部及びVOC回収部を備え、吸着部と放出部との間でVOC吸着用のオイルが循環するように構成する。チャンバ1の内部に細孔が無数に開いた多孔体2を設置し、その上部からオイルディストリビュータ5によりオイルを噴霧あるいは滴下することにより、多孔体2に油膜を形成する。そして、チャンバ1内を加圧状態にしてVOCを含むエアを供給し、油膜と接触させることにより、VOCを吸着除去する。吸着部においてVOCを吸着したオイルを放出部に導入し、VOC放出用チャンバ20内を減圧状態にして、オイルに吸着されたVOCを放出させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物の除去システムに係り、特に、多孔体を用いて、反応を伴わないで揮発性有機化合物を物理吸着する性質を持つオイルにより油膜を形成し、その油膜とVOCを含んだエアを接触させることにより、化学反応によらず、揮発性有機化合物を除去することができるようにした揮発性有機化合物の除去システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体製造のクリーンルームでは、微量のケミカル物質による汚染がデバイスの歩留まりを低下させることが問題になっている。このような汚染物質の1つとしては、揮発性有機化合物(以下、VOCと記す)が挙げられる。このVOCは、クリーンルームのエア中、プロセス装置内、ウェハボックス内等、至る所に存在し、これがウェハ搬送過程でシリコン表面に微量吸着することにより、多くの問題を引き起こす原因となっている。
【0003】
例えば、VOCは、デバイス製造工程の熱酸化膜形成前後に吸着して、熱酸化膜の信頼性を低下させる、また、ウェハを前処理後に長期保管してから化学気相成長(膜生成)を行うと、VOCの吸着により膜成長開始の遅延が生じ、膜厚のバラツキの原因となるといった問題が生じていた。
【0004】
さらに、VOCは、印刷工場、金属加工工場、自動車工場等、至るところで排出され、光化学スモッグや喘息を引き起こす原因となっている。例えば、大気中に放出されたVOCは、光化学反応によってオキシダント浮遊状微粒子の発生源として関与するとされている。また、VOCそのものの影響として、頭痛や吐き気、疲労感を引き起こす原因となっている。さらに、化学物質過敏症の原因ともなっている。
【0005】
このようなケミカル物質による汚染対策として、近年、ワッシャー等を用いて水に微量のケミカル物質を溶解し、除去する方法が採用されているが、VOCは水に不溶なため、この方法は適用できなかった。そこで、従来から、VOCを除去する方法として、活性炭フィルタやケミカルフィルタを用いる技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−20120号公報
【特許文献2】特開2006−142233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したような活性炭フィルタやケミカルフィルタを用いる方法は、頻繁にフィルタの交換が必要となるため、ランニングコストが非常に高くなるという問題点があった。
【0008】
また、VOCは、上述したように浮遊粒子状物質や光化学オキシダントの生成の原因となる物質の一つであるため、大気汚染防止の観点から、VOCを多量に使用する印刷工場等に対してVOCの排出規制が行われている。そのため、印刷工場等においては、VOCの排出抑制対策が重要な課題となってきている。
【0009】
このようなVOCの排出抑制に対して、大手の印刷工場等では高価且つ大規模な燃焼式VOC除去装置等が導入されているが、中小の印刷工場等では、それを購入することは困難である。しかしながら、VOCを効率良く分離・濃縮して除去するための安価且つ小規模なVOC除去装置の開発が進んでいないのが実情である。
【0010】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、フィルタの交換を不要とした、長期間にわたって使用することができる、有用性及び経済性に優れた揮発性有機化合物の除去システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、処理対象エアと油膜との接触面積を大きくすることができる多孔体を用いて、反応を伴わないでVOCを取り込む(物理吸着する)性質を持つオイルにより油膜を形成し、その油膜とVOCを含んだエアを接触させることにより、VOCのオイルへの吸着を促進し、高効率でVOCを吸着除去することができる揮発性有機化合物の除去システムを完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、請求項1に記載の揮発性有機化合物の除去システムは、処理対象となるエア中に含まれる所定の揮発性有機化合物をオイルに吸着させることにより除去する吸着部と、前記オイルに吸着された揮発性有機化合物を放出させる放出部とを備え、前記吸着部と放出部との間で前記オイルが循環するように構成し、前記吸着部に、オイルを供給することにより油膜を生成させる多孔体からなる油膜生成部を設け、前記吸着部を加圧状態にして、該吸着部に処理対象となるエアを供給すると共に、前記吸着部において、前記油膜と処理対象となるエアとを接触させるように構成したことを特徴とするものである。
【0013】
上記のような構成を有する請求項1に記載の発明によれば、オイルが化学反応を伴わずにVOCを取り込む(物理吸着する)性質を利用すると共に、エアが通る部分に設置された、オイルを供給することにより油膜を生成させる部材であって、処理対象エアと油膜との接触面積を大きくすることができる多孔体からなる油膜生成部において、その油膜とVOCを含んだエアとを接触させることにより、VOCのオイルへの吸着を促進し、高効率でVOCを吸着除去することができる。これにより、簡単な構成でVOCを高効率で除去することができ、長期間にわたって使用できる、極めて有用性の高い揮発性有機化合物の除去システムを提供することができる。
【0014】
請求項2に記載の揮発性有機化合物の除去システムは、請求項1に記載の発明をより具体的に規定したものであって、処理対象となるエア中に含まれる所定の揮発性有機化合物をオイルに吸着させることにより除去する吸着部と、前記オイルに吸着された揮発性有機化合物を放出させる放出部とを備え、前記吸着部と放出部との間で前記オイルが循環するように構成し、前記吸着部を構成する吸着用チャンバの内部に、オイルを供給することにより油膜を生成させる多孔体からなる油膜生成部を設置し、前記吸着用チャンバ内を加圧状態にして、前記処理対象となるエアを該チャンバ内に供給し、前記処理対象となるエアと前記オイルによる油膜とが接触できるように構成し、前記吸着部において揮発性有機化合物を吸着したオイルを前記放出部に導入し、前記放出部を構成する放出用チャンバ内を減圧状態にして、前記オイルに吸着された揮発性有機化合物を放出させるように構成したことを特徴とするものである。
【0015】
上記のような構成を有する請求項2に記載の発明によれば、吸着用チャンバ内を加圧状態にして、処理対象となるエアを該チャンバ内に導入すると共に、エアが通る部分に設置された、オイルを供給することにより油膜を生成させる部材であって、処理対象エアと油膜との接触面積を大きくすることができる多孔体からなる油膜生成部において、その油膜とVOCを含んだエアとを接触させることにより、オイルが化学反応を伴わずに揮発性有機化合物を取り込む(物理吸着する)性質をより高効率で利用することができるので、揮発性有機化合物のオイルへの吸着をさらに促進することができる。
【0016】
また、吸着部において揮発性有機化合物を吸着したオイルを放出部に導入し、放出部を構成する放出用チャンバ内を減圧状態にして、前記オイルに吸着された揮発性有機化合物を放出させるように構成することにより、再度オイルを吸着部に循環供給することができるので、簡単な構成でVOCを高効率で除去することができ、長期間にわたって使用できる、極めて有用性の高い揮発性有機化合物の除去システムを提供することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の揮発性有機化合物の除去システムにおいて、前記吸着部における前記処理対象となるエアの流れと、前記油膜生成部におけるオイルの流れが、十字流となるように構成されていることを特徴とするものである。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の揮発性有機化合物の除去システムにおいて、前記吸着部における前記処理対象となるエアの流れと、前記油膜生成部におけるオイルの流れが、対向流となるように構成されていることを特徴とするものである。
【0019】
上記のような構成を有する請求項3及び請求項4に記載の発明は、吸着部における前記処理対象となるエアの流れと前記油膜生成部におけるオイルの流れの接触形態を規定したものであり、本システムの機器構成に合わせて適宜設定することができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の除去システムにおいて、前記放出部を構成する放出用チャンバ内に貯留されたオイル中に、該チャンバ内を減圧しながら、揮発性有機化合物を含まないエアを供給することにより、該オイル中にバブルを発生させることができるように構成されていることを特徴とするものである。
【0021】
上記のような構成を有する請求項5に記載の発明によれば、放出用チャンバ内に貯留されたオイル中に、放出用チャンバ内を減圧しながらバブルを発生させると共に、そのエアを回収部へ排出させているので、オイルとエアとの接触効率を上げることができ、且つ、放出用チャンバ内のVOC濃度が飽和しないため、より短時間に、高効率でVOCをオイルから分離放出することができる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の除去システムにおいて、前記放出部によりオイルから放出された揮発性有機化合物を回収する回収部が設けられていることを特徴とするものである。
【0023】
上記のような構成を有する請求項6に記載の発明によれば、処理対象エア中に含まれる揮発性有機化合物を効率良く除去するだけでなく、オイルから放出された揮発性有機化合物を回収して再利用することができるので、揮発性有機化合物を大気中に排気することなく、環境への悪影響がなく経済的である。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の除去システムにおいて、前記オイルが、該オイルの周囲の気圧が高い場合に前記揮発性有機化合物を吸着し、該オイルの周囲の気圧が低い場合に前記揮発性有機化合物を放出するものであることを特徴とするものである。
【0025】
上記のような構成を有する請求項7に記載の発明によれば、揮発性有機物吸着用オイルが、該オイルの周囲の気圧が高い場合には揮発性有機化合物を吸着し、該オイルの周囲の気圧が低い場合に揮発性有機化合物を放出するという作用を有するため、化学反応を伴わず、揮発性有機化合物の搬送媒体としてのみ機能し、さらに、吸着部と放出部の間を循環して用いられるため、消耗したり劣化することもない。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の除去システムにおいて、前記オイルが、シリコーンオイル又は変性シリコーンオイルであることを特徴とするものである。
【0027】
請求項8に記載の発明は、本発明に用いられるオイルのなかでも、特にシリコーンオイル又は変性シリコーンオイルが適していることを規定したものである。シリコーンオイル又は変性シリコーンオイルは、常温大気中ではほとんど酸化されないため、半永久的に使用することができるので、経済性にも優れている。さらに、シリコーンオイル又は変性シリコーンオイルは、化学的に非常に安定な物質であるため、触れた場合でも健康被害がなく安全性にも優れている。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、フィルタの交換を不要とした、長期間にわたって使用することができる、有用性及び経済性に優れた揮発性有機化合物の除去システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る揮発性有機化合物の除去システムの構成を示す図である。
【図2】VOC吸着部の性能評価実験に用いた実験装置の概略構成を示す図である。
【図3】VOC放出部の性能評価実験に用いた実験装置の概略構成を示す図である。
【図4】図3に示した実験装置を用いて行った性能評価の結果を示す図である。
【図5】VOC吸着部の他の実施例の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る揮発性有機化合物の除去システムの具体的な実施例を、図面を参照して説明する。なお、本発明に係る揮発性有機化合物の除去システムの概要は、反応を伴わないでVOCを取り込む(物理吸着する)性質を持つオイルを、細孔が無数に開いた多孔体上に噴霧あるいは滴下することにより、多孔体の細孔内に油膜を形成して、その油膜とVOCを含んだエアを接触させることにより、VOCのオイルへの吸着を促進し、高効率でVOCを吸着除去することができる、小規模で安価な揮発性有機化合物の除去システムである。
【実施例】
【0031】
(1−1)実施例の構成
本実施例の揮発性有機化合物の除去システムは、図1に示したように、大別してVOC吸着部、VOC放出部、VOC回収部から構成されている。以下、各部について詳述する。
【0032】
(VOC吸着部)
VOC吸着部においては、図1に示すように、角柱状のVOC吸着用チャンバ1の内部に、細孔が無数に開いた多孔体2が設置されている。すなわち、前記VOC吸着用チャンバ1の略中央部には、前記多孔体2を前記VOC吸着用チャンバ1に支持するための上部支持容器3と下部支持容器4が、該チャンバ1の上下側壁を貫通するように設置され、それぞれシール材3a、4aを介して、前記多孔体2を支持固定している。
【0033】
また、前記下部支持容器4の底面には、該支持容器の下部に貯留されたVOCを吸着したオイルを、第1のオイル循環用配管13を介して、後述するVOC放出部へ送るための第1のオイル排出口14が設けられている。一方、前記上部支持容器3には、バー状のオイルディストリビュータ5が複数個設置され、前記多孔体2の上部からオイルを噴霧あるいは滴下することができるように構成されている。
【0034】
また、前記VOC吸着用チャンバ1の一方の側部には、印刷機械等から放出されたVOCを含むエアを該チャンバ1内に導入するための処理対象エア供給口6が設けられ、この処理対象エア供給口6には処理対象エア供給配管7が接続されている。そして、処理対象エア供給配管7に配設された加圧用ファン8によって、VOC吸着用チャンバ1内を所定の加圧状態にできるように構成されている。
【0035】
一方、VOC吸着用チャンバ1の他方の側部には、VOCが除去された処理後エアを再度印刷工場等へ戻すための処理後エア排出口9が設けられ、この処理後エア排出口9には処理後エア供給配管10が接続されている。そして、この処理後エア供給配管10に配設された第1の風量調節弁11によって、再度印刷工場等へ戻す処理後エア量を調節できるように構成されている。
【0036】
また、前記処理後エア供給配管10と処理対象エア供給配管7の間には第1のバイパス配管12が形成され、VOC吸着用チャンバ1内でVOCが除去された処理後エアの一部を該チャンバ1内に戻して、再度VOCの吸着処理を行えるように構成されている。このように本実施例においては、VOCを含んだエアの流れとオイルの流れは、十字流接触となるように構成されている。
【0037】
(VOC放出部)
VOC放出部においては、図1に示すように、減圧容器であるVOC放出用チャンバ20の上部に、前記第1のオイル循環用配管13を介して、VOCを吸着したオイルを該チャンバ20内に供給する処理対象オイル供給管21が配設されると共に、このVOC放出部で分離されたVOCを含むエアを、後述するVOC回収部へ送るための第1のエア回収管22が配設されている。
【0038】
また、VOC放出用チャンバ20の下部には、該チャンバ20内でVOCが放出された処理後オイルを、再度VOC吸着部へ送るための第2のオイル排出口23が設けられ、この第2のオイル排出口23には、第2のオイル循環用配管24が接続されている。
【0039】
さらに、本実施例においては、VOC放出用チャンバ20の底部に貯留されたオイル中に、VOCを含まないエアを供給してオイル内にバブルを発生させるエア供給配管25が設置されている。そして、このエア供給配管25に設置された第2の風量調節弁26の開度を適宜調節することにより、オイル中におけるバブルの発生量を調節して、オイルとエアとの接触効率を上げることができるように構成されている。
【0040】
また、前記第1のオイル循環用配管13には、上流側から、第1のオイル流量調節弁15及びオイルフィルタ16が順次配設され、オイルフィルタ16によってVOC吸着部から排出されたVOCを含むオイル中の固形物を除去した後、該オイルを前記処理対象オイル供給管21を介して、VOC放出用チャンバ20内に供給するように構成されている。
【0041】
一方、前記第2のオイル循環用配管24には、上流側から、ポンプ27及び第2のオイル流量調節弁28aが順次配設され、前記VOC吸着用チャンバ1の上部支持容器3内に設けられたバー状のオイルディストリビュータ5を介して、オイルを多孔体2上に供給するように構成されている。
【0042】
なお、前記第2のオイル循環用配管24と第1のオイル循環用配管13の間には第2のバイパス配管29が形成され、この第2のバイパス配管29には第3のオイル流量調節弁28bが配設され、VOC吸着用チャンバ1に供給されるオイルの一部を再度VOC放出用チャンバ20に戻して、オイルに吸着されたVOCをより高効率に除去することができるように構成されている。
【0043】
(VOC回収部)
VOC回収部においては、図1に示すように、加圧容器であるVOC回収用チャンバ30の上部にVOC回収管31が配設されると共に、該チャンバ30の下部にはVOC排出口32が設けられ、このVOC排出口32にはVOC回収バルブ33を備えたVOC排出用配管34が接続されている。
【0044】
また、前記VOC回収管31と前記VOC放出用チャンバ20の第1のエア回収管22の間には第1のエア循環用配管35が設けられ、この第1のエア循環用配管35には、上流側から、エアポンプ36、第3の風量調節弁37及び冷却器38が順次配設されている。そして、この冷却器38によって、前記VOC放出部で分離されたVOCを含むエアを冷却することにより、エア中のVOCを液化し、高効率に回収することができるように構成されている。
【0045】
さらに、VOC回収用チャンバ30の上部には第2のエア回収管39が配設され、この第2のエア回収管39に接続された第2のエア循環用配管40によって、該チャンバ30内のVOCを含むエアを、再度、前記VOC放出用チャンバ20の側壁に設けられたエア供給口41を介して該チャンバ20に戻すことができるように構成されている。このようにしてVOCを含むエアをVOC回収部に何度も循環させることにより、VOCを含むエア中からVOCを高効率で回収することができるように構成されている。
【0046】
なお、前記第1のエア循環用配管35に設けられたエアポンプ36によって、前記VOC放出用チャンバ20内が減圧状態とされると共に、前記VOC回収用チャンバ30内が加圧状態とされるように構成されている。
【0047】
(オイル)
オイルとしては、化学的に安定なシリコーンオイルや高真空ポンプオイル(アルキルジフェニールエーテル)等の変性シリコーンオイルが用いられる。これらのオイルは、加圧するとVOCを吸着し、減圧するとVOCを放出するだけで、化学反応を伴わず、搬送媒体としてしか機能しないため、オイルの劣化がなく、半永久的に使用できるので非常に経済的である。また、オイルは、無臭で、毒性がないので触れた場合でも健康被害がなく、安全性にも優れている。
【0048】
なお、オイルとしてジメチルシリコーンオイルを用いた場合には、主として、トルエン、ベンゼン、キシレン、シクロヘキサン等のVOCを吸着(溶解)することができる。
【0049】
(1−2)作用
上記のような構成を有する本実施例の揮発性有機化合物の除去システムは、以下のように作用する。
【0050】
(VOC吸着部における作用)
VOC吸着部においては、図1に示すように、まず、VOC吸着用チャンバ1内に設置された油膜生成部である、処理対象エアと油膜との接触面積を大きくすることができる多孔体2の上部から、前記第2のオイル循環用配管24及びオイルディストリビュータ5を介してオイルを供給することにより、前記多孔体2に油膜が形成される。
【0051】
続いて、加圧用ファン8を作動させることによりVOC吸着用チャンバ1内を所定の加圧状態にすると共に、処理対象エア供給配管7及び処理対象エア供給口6を介して、VOCを含むエアをVOC吸着用チャンバ1内に供給する。この加圧状態とされたチャンバ1内において、VOCを含むエアと多孔体2に形成された油膜とが接触することによってVOCのオイルへの吸着をさらに促進することができる。
【0052】
このようにしてVOCが除去されたエアは、VOC吸着用チャンバ1の側面に設けられた処理後エア排出口9及び処理後エア供給配管10を介して、再度印刷工場等へ戻される。なお、処理後エアの一部は、第1のバイパス配管12を介してVOC吸着用チャンバ1内に戻され、再度VOCの吸着処理が行われる。一方、VOCを吸着したオイルは、下部支持容器4の底面に設けられた第1のオイル排出口14及び第1のオイル循環用配管13を介して、VOC放出用チャンバ20に搬送される。
【0053】
(VOC放出部における作用)
上記のようにしてVOC吸着用チャンバ1から排出されたVOCを吸着したオイルは、第1のオイル循環用配管13に配設されたオイルフィルタ16によって固形物が除去された後、処理対象オイル供給管21を介して、VOC放出用チャンバ20内に供給される。また、本実施例においては、エア供給配管25により供給されるVOCを含まないエアを、VOC放出用チャンバ20内のオイル中に導入することにより、該オイル中にバブルを発生させて、オイルとエアの接触効率を上げている。
【0054】
さらに、VOC放出用チャンバ20内は、エアポンプ36によって減圧状態とされているため、オイルへのVOCの吸着率(吸着できる量)が低くなり、オイルに吸着されていたVOCがより高効率でVOC放出用チャンバ20内のエア中に放出される。そして、放出されたVOCを含むエアは、第1のエア回収管22及び第1のエア循環用配管35を介してVOC回収部に送られる。一方、VOC放出用チャンバ20内でVOCが放出された処理後オイルは、第2のオイル排出口23及び第2のオイル循環用配管24を介して、再度VOC吸着部へ送られる。
【0055】
このように、本実施例においては、エア供給配管25により供給されるVOCを含まないエアを、VOC放出用チャンバ20内のオイル中に導入することにより、該オイル中にバブルを発生させているので、オイルとエアとの接触効率を上げることができ、また、容器内エア中のVOC濃度が飽和しないように、そのエアを、容器内を減圧しながら排出することにより、短時間に高効率でVOCをオイルから分離放出することができる。
【0056】
なお、本実施例の揮発性有機化合物の除去システムにおいては、処理後オイルの一部は第2のバイパス配管29を介してVOC放出用チャンバ20内に戻され、再度VOCの放出処理が行われるように構成されているため、より高効率にVOCを除去することができる。このように、オイルは、VOC吸着部とVOC放出部の間を循環し、VOCを濃縮・分離してVOC吸着部から汲み出す働きをしている。
【0057】
(VOC回収部における作用)
上記のようにしてVOC放出用チャンバ20から排出されたVOCを含むエアは、第1のエア循環用配管35に設けられたエアポンプ36によって冷却器38に導入され、この冷却器38によってVOCを含むエアを冷却することにより、エア中のVOCを液化する。なお、VOC回収用チャンバ30内は、エアポンプ36によって加圧状態にされているため、VOCはさらに液化しやすくなる。
【0058】
このようにして液化されたVOCは、VOC回収用チャンバ30内に貯留され、VOC排出管32及びVOC排出用配管34を介して回収される。一方、液化しなかったVOCを含むエアは、第2のエア回収管39、第2のエア循環用配管40及びエア供給口41を介して、再度、減圧容器であるVOC放出用チャンバ20に戻される。このように、VOCを含むエアをVOC回収部とVOC放出部の間で何度も循環させることにより、VOCを含むエア中からVOCを高効率で回収することができる。
【0059】
(1−3)性能評価
(1−3−1)VOC吸着部の性能評価
本発明に係る揮発性有機化合物の除去システムのVOC吸着部の性能を評価した実験結果を以下に示す。なお、本性能評価試験においては、油膜生成部として気化式加湿膜(概略寸法:186mmW×186mmH×65mmD)を用い、図2にその概略構成を示す実験装置を用いた。
【0060】
すなわち、本性能評価に用いられる実験装置においては、図1に示したVOC吸着部と同様の構成を有するVOC除去装置51の内部に、上記気化式加湿膜52が設置されている。そして、ファン53により供給される室外空気と、トルエンガス発生器54から供給されるガス(VOCの一例)とを混合して試料ガス(トルエンガス濃度:660ppm、ガス流量:135mL/min)を生成し、この試料ガスを前記VOC除去装置51の側部より該装置内に導入した。一方、ペリスタポンプ55により、シリコーンオイル(粘度30cSt)を約150mL/minで前記気化式加湿膜52上に滴下した。なお、前記トルエンガス発生器54には、流量計56及びエアポンプ57が接続されている。
【0061】
また、トルエンの除去率は、前記VOC除去装置51の入口と出口で試料ガスをシリンジでサンプリングしてGC−FID(島津製作所製GC−14B)で分析して求めた。このようにしてVOC吸着部の性能評価を行ったところ、およそ30%除去できることが分かった。
【0062】
(1−3−2)VOC放出部の性能評価
次に、本発明に係る揮発性有機化合物の除去システムのVOC放出部の性能を評価した結果を以下に示す。なお、本性能評価試験に用いたトルエン(VOCの一例)の放出(揮発脱離)実験用容器の概略を図3に示した。
【0063】
すなわち、本性能評価試験に用いたVOC放出部としては、図3に示すように、三角フラスコ60が用いられ、この三角フラスコ60にトルエン濃度3%のシリコーンオイル(粘度30cSt)61を135.8g入れ、この三角フラスコ60の開口部62を、前記シリコーンオイル中にVOCを含まないエアを供給するエア供給管63と、エア排出管64を貫通させたシリコーン栓65で密封する。なお、エア供給管63には風量調節弁66が設置されると共に、エア排出管64には圧力計67とエアポンプ68が設置されている。
【0064】
そして、エアポンプ68により三角フラスコ60の内部圧力が−0.0099MPaになるように調整し、その後、風量調節弁66を開いて三角フラスコ60内のシリコーンオイル61中にVOCを含まないエアを供給し(およそ20mL/min)、シリコーンオイル61をバブリングしながら、10分間隔で三角フラスコ内のシリコーンオイルをサンプリングして、トルエンの離脱効果を測定した。
【0065】
シリコーンオイルをバブリングした場合としない場合の結果を図4に示した。図から明らかなように、バブリングした場合は、しない場合に比べて、トルエンの脱離(放出)が著しく促進され、脱離効率が良いことが分かった。このことから、シリコーンオイルをバブリングしながら減圧することにより、短時間に高効率でVOCを放出できることが実証できた。
【0066】
(1−4)効果
上述したように、本実施例の揮発性有機化合物の除去システムによれば、オイルが化学反応を伴わずにVOCを取り込む(物理吸着する)性質を利用すると共に、このオイルを細孔が無数に開いた多孔体上に噴霧あるいは滴下することにより、多孔体の細孔内に油膜を形成して、その油膜とVOCを含んだエアを接触させることにより、VOCのオイルへの吸着を促進することができる。これにより、簡単な構成でVOCを高効率で除去することができ、長期間にわたって使用できる、極めて有用性の高い揮発性有機化合物の除去システムを提供することができる。
【0067】
また、本実施例の揮発性有機化合物の除去システムで用いられるシリコーンオイルは、オイル周囲の気圧(全圧)が高いとVOCを吸着し、低いと放出するという作用を有し、化学反応を伴わず、VOCの搬送媒体としてのみ機能するため、劣化することがない。
【0068】
また、オイルとして不活性なシリコーンオイル、アルキルジフェニールエーテルを用いているので、オイルが劣化しないため半永久的に使用できるので経済性にも優れている。その上、不活性なシリコーンオイル、アルキルジフェニールエーテルは化学的に非常に安定な物質であるため、触れた場合でも健康被害がなく安全性にも優れている。
【0069】
また、本実施例の揮発性有機化合物の除去システムにおいては、VOCを大気中に排気することなく、VOC(液)として回収し再利用できるので、環境への悪影響がなく経済的である。
【0070】
(他の実施例)
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、具体的な各部材の形状、あるいは取付け位置及び方法は適宜変更可能である。例えば、前記VOC吸着部に設置される油膜生成部として、上述したような細孔が無数に開いた多孔体の代わりに、細孔が無数に開いた容器内に、ステンレスメッシュ、ラシヒリング、気化式加湿膜(例えば、ウエットマスター製気化式加湿膜 VHRのメディア)をそれぞれ充填して用いても良い。
【0071】
また、図5に示すように、VOC吸着部に設置される多孔体等の油膜生成部におけるオイルの流れとVOCを含んだエアの流れとが対向流となるように配置しても良い。すなわち、図5に示すように、筒状のVOC吸着用チャンバ71の内部に、多孔体72が設置され、その上部に設置されたオイルディストリビュータ73からオイルが噴霧又は滴下されるように構成されている。
【0072】
また、前記VOC吸着用チャンバ71の底面には、VOCを含むエアを該チャンバ71内に導入するための処理対象エア供給管74が設けられると共に、該チャンバ71の下部に貯留されたVOCを吸着したオイルをVOC放出部へ送るためのオイル排出口75が設けられている。一方、前記VOC吸着用チャンバ71の上面には、VOCが除去された処理後エアを再度印刷工場等へ戻すための処理後エア排出口76が設けられている。
【0073】
また、VOCの吸着・放出に用いるオイルとしては、ポーラスな空隙を持つ構造のオイルであって、化学反応を伴わずにその空隙内にVOCを取り込む(物理吸着する)性質を有するものであれば良く、上記の実施例に示したシリコーンオイルの他に、パラフィンオイル、植物油等を用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
1…VOC吸着用チャンバ
2…多孔体
3…上部支持容器
4…下部支持容器
3a、4a…シール材
5…オイルディストリビュータ
6…処理対象エア供給口
7…処理対象エア供給配管
8…加圧用ファン
9…処理後エア排出口
10…処理後エア供給配管
11…第1の風量調節弁
12…第1のバイパス配管
13…第1のオイル循環用配管
14…第1のオイル排出口
15…第1のオイル流量調節弁
16…オイルフィルタ
20…VOC放出用チャンバ
21…処理対象オイル供給管
22…第1のエア回収管
23…第2のオイル排出口
24…第2のオイル循環用配管
25…エア供給配管
26…第2の風量調節弁
27…ポンプ
28a…第2のオイル流量調節弁
28b…第3のオイル流量調節弁
29…第2のバイパス配管
30…VOC回収用チャンバ
31…VOC回収管
32…VOC排出口
33…VOC回収バルブ
34…VOC排出用配管
35…第1のエア循環用配管
36…エアポンプ
37…第3の風量調節弁
38…冷却器
39…第2のエア回収管
40…第2のエア循環用配管
41…エア供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象となるエア中に含まれる所定の揮発性有機化合物をオイルに吸着させることにより除去する吸着部と、前記オイルに吸着された揮発性有機化合物を放出させる放出部とを備え、
前記吸着部と放出部との間で前記オイルが循環するように構成し、
前記吸着部に、オイルを供給することにより油膜を生成させる多孔体からなる油膜生成部を設け、
前記吸着部を加圧状態にして、該吸着部に処理対象となるエアを供給すると共に、前記吸着部において、前記油膜と処理対象となるエアとを接触させるように構成したことを特徴とする揮発性有機化合物の除去システム。
【請求項2】
処理対象となるエア中に含まれる所定の揮発性有機化合物をオイルに吸着させることにより除去する吸着部と、前記オイルに吸着された揮発性有機化合物を放出させる放出部とを備え、
前記吸着部と放出部との間で前記オイルが循環するように構成し、
前記吸着部を構成する吸着用チャンバの内部に、オイルを供給することにより油膜を生成させる多孔体からなる油膜生成部を設置し、
前記吸着用チャンバ内を加圧状態にして、前記処理対象となるエアを該チャンバ内に供給し、前記処理対象となるエアと前記オイルによる油膜とが接触できるように構成し、
前記吸着部において揮発性有機化合物を吸着したオイルを前記放出部に導入し、前記放出部を構成する放出用チャンバ内を減圧状態にして、前記オイルに吸着された揮発性有機化合物を放出させるように構成したことを特徴とする揮発性有機化合物の除去システム。
【請求項3】
前記吸着部における前記処理対象となるエアの流れと、前記油膜生成部におけるオイルの流れが、十字流となるように構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の揮発性有機化合物の除去システム。
【請求項4】
前記吸着部における前記処理対象となるエアの流れと、前記油膜生成部におけるオイルの流れが、対向流となるように構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の揮発性有機化合物の除去システム。
【請求項5】
前記放出部を構成する放出用チャンバ内に貯留されたオイル中に、該チャンバ内を減圧しながら、揮発性有機化合物を含まないエアを供給することにより、該オイル中にバブルを発生させることができるように構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の除去システム。
【請求項6】
前記放出部によりオイルから放出された揮発性有機化合物を回収する回収部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の除去システム。
【請求項7】
前記オイルが、該オイルの周囲の気圧が高い場合に前記揮発性有機化合物を吸着し、該オイルの周囲の気圧が低い場合に前記揮発性有機化合物を放出するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の除去システム。
【請求項8】
前記オイルが、シリコーンオイル又は変性シリコーンオイルであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物の除去システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−55849(P2012−55849A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202829(P2010−202829)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000236160)株式会社テクノ菱和 (50)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】