説明

揮発性有機化合物処理装置

【課題】小型化が可能で低ランニングコストであると共に、安全性が高く処理効率の高い、揮発性有機化合物処理装置を提供する。
【解決手段】揮発性有機化合物処理装置1は、ガスを流通させる連通孔部が形成された電気伝導性発熱体2、及び、電気伝導性発熱体へ通電するための電極21a,21bを備え、通電による電気伝導性発熱体の発熱によって連通孔部を流通するガスを加熱する加熱部20と、揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体3を備え、加熱部よりガス流通の下流側に設けられ加熱部で加熱されたガスに含まれる揮発性有機化合物を酸化分解させる触媒部30とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物処理装置に関するものであり、特に、工場や事業所から排出されるガス中の揮発性有機化合物を分解し、処理済みのガスを大気中に放出するために使用される揮発性有機化合物処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
揮発性有機化合物(VOC)は、浮遊粒子状物質や光化学オキシダントの原因物質の一つであり、平成18年に施行された大気汚染防止法改正法により、一定規模以上の工場や事業所はVOCの排出規制の対象となると共に、規制対象外の中小規模事業所に対しても自主的にVOCの排出を抑制することが求められている。出願人らが所在する東海地方は、他地方に比べてVOCの排出量が多く、平成16年のデータによれば全国のVOC排出量の約四分の一を占めている。また、本地方では中小規模の事業所の割合も高い。そこで、VOC排出の抑制に対する中小規模の事業所の自主的な取り組みを進めるために、中小規模の事業所でも導入し易い、小型で低ランニングコストのVOC処理装置が望まれる。
【0003】
従来のVOC処理装置は、吸着法、薬液吸収法、生物分解法、プラズマ分解法、燃焼酸化法(直接燃焼式、蓄熱燃焼式、触媒燃焼式)を用いた装置に大別される。そのうち、燃焼酸化法では、加熱の手段としてバーナを使用した装置(例えば、特許文献1参照)や、電気ヒータを使用した装置(例えば、特許文献2参照)が一般的である。
【0004】
【特許文献1】特開平11−221430号公報
【特許文献2】特開2005−279570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、吸着材や薬液の交換が必要でランニングコストがかかる吸着法や薬液吸収法、生物の維持管理に手間や経費がかかる生物分解法、装置が大型でコスト高のプラズマ分解法を用いた装置は、中小規模の事業所には不向きであった。また、加熱する手段としてバーナを用いる装置では、可燃性のVOCに引火するおそれがあった。加えて、電気ヒータを用いる装置では、熱効率が悪く加熱に時間がかかるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、小型化が可能で低ランニングコストであると共に、安全性が高く処理効率の高い揮発性有機化合物処理装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、「ガスを流通させる連通孔部が形成された電気伝導性発熱体、及び、該電気伝導性発熱体へ通電するための電極を備え、通電による前記電気伝導性発熱体の発熱によって前記連通孔部を流通するガスを加熱する加熱部と、揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体を備え、前記加熱部よりガス流通の下流側に設けられ前記加熱部で加熱されたガスに含まれる揮発性有機化合物を酸化分解させる触媒部とを」具備している。
【0008】
「電気伝導性発熱体」としては、導電性セラミックス、半導体セラミックス、金属を使用することができる。
【0009】
「ガスを流通させる連通孔部」は、電気伝導性発熱体を多孔質構造とした場合の連続気孔や、電気伝導性発熱体に設けた貫通孔によって構成させることができる。
【0010】
「揮発性有機化合物」(以下、単に「VOC」と称することがある)は、大気中に排出され又は飛散した時に気体である有機化合物であって、浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の原因とならない物質として政令で定める物質を除いたものであり、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、エチルベンゼン、ベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。特に、トルエンやキシレンは、印刷や塗装関係の工場や事業所で溶剤として多用されており、排出量が多い。
【0011】
「揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒」としては、白金、パラジウム、ロジウム、金、イリジウム、ルテニウム等の金属触媒や、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化マンガン、酸化タンタル等の金属酸化物触媒を使用することができる。或いは、複数の金属触媒、複数の金属酸化物触媒、または金属触媒と金属酸化物触媒を組み合わせた複合触媒を使用することもできる。なお、VOCの酸化分解温度は650〜800℃であるが、上記の触媒の作用により200〜400℃で酸化分解させることができる。
【0012】
「触媒部」は、「加熱部よりガス流通の下流側に設けられる」ことから、加熱部と触媒部とは別個の構成である。
【0013】
触媒体の構成としては、ガスが流通可能な多孔質体に触媒を担持させた構成、触媒自体に設けた連続気孔や貫通孔にガスを流通させる構成、ガスを流通させる管状や筒状のガス流通路の内部に、ガスが流通可能な空隙を残しつつ触媒が充填された構成を例示することができる。
【0014】
上記構成により、本発明によれば、通電によって電気伝導性発熱体を発熱させた状態で、電気伝導性発熱体の連通孔部に、工場や事業所から排出されたVOCを含有する未処理ガスを流通させることにより、未処理ガスを加熱することができる。そして、電気伝導性発熱体を備える加熱部で加熱された未処理ガスは、その下流側に設けられた触媒部に流入し、触媒の作用を受ける。従って、予め加熱部において、未処理ガスの温度を触媒存在下でのVOCの酸化分解温度まで高めてから、触媒部に導入することにより、直接燃焼により酸化分解させる場合より低温でVOCを分解させることができる。そして、本発明では、ガスを流通させる構成をヒータやバーナ等の外部熱源によって外部から加熱するのではなく、ガスを流通させる構成自体が通電により発熱する。これにより、電気エネルギーを未処理ガスの加熱に効率良く利用することができる。
【0015】
ここで、触媒体の構成を、電気伝導性発熱体の連通孔部に触媒を担持させた構成とすることも想定し得る。しかしながら、この場合は、未処理ガスが充分に加熱される前に触媒体を通過してしまい、VOCの酸化分解が不充分となるおそれがある。これに対し、本発明では、加熱部と触媒部は別個の構成であり、加熱部で予め未処理ガスの温度を充分に高めてから、下流側の触媒部に導入することができるため、触媒を充分に作用させ、低温でVOCを確実に酸化分解することが可能となる。
【0016】
また、本発明では、バーナを使用する従来装置のようにVOCに引火するおそれがないため、安全性の高い装置となっている。更に、吸着法や、薬液吸収法を用いた従来装置のように定期的に交換すべき部材がなく、生物分解法を用いた従来装置のように生物の維持管理の問題もないため、ランニングコストが低廉で、取り扱いの容易な装置となる。加えて、電気伝導性発熱体と触媒体とを主な構成とする極めて簡易な構成であるため、装置全体を小型化することが可能となる。
【0017】
本発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、上記構成に加え、「前記加熱部は、前記電極と前記電気伝導性発熱体の外表面との間に介在させたスチールウール層を備える」ものとすることができる。
【0018】
上記構成により、本発明によれば、スチールウールによって、電極と電気伝導性発熱体とを多くの接触点で電気的に接続させることができる。これにより、電気伝導性発熱体の外表面が平滑であるか否か等の表面状態によらず、電気伝導性発熱体に通電させ易いものとなる。また、スチールウールという極めて簡易な構成を用いることにより、コストをかけずに上記の作用効果を得ることができる。
【0019】
本発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、上記構成に加え、「前記加熱部は、前記電極を前記電気伝導性発熱体に圧着させる方向に付勢するバネ部材を備える」ものとすることができる。
【0020】
上記構成により、本発明によれば、バネ部材によって電極と電気伝導性発熱体との密着度を高めることができるため、電気伝導性発熱体に通電させ易いものとなる。加えて、バネ部材の弾性変形により、電気伝導性発熱体の熱膨張を吸収することができる。
【0021】
本発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、上記構成に加え、「前記電気伝導性発熱体は多孔質体であり、前記加熱部は、前記電気伝導性発熱体よりガス流通の上流側に設けられてガスの流路を分散させるガス流路分散部材を備える」ものとすることができる。なお、多孔質体における連続気孔が上記の「連通孔部」に相当する。
【0022】
「ガス流路分散部材」としては、ガスを流通させる小さな貫通孔が多数穿設された平板状の部材、漏斗状の面に沿ってガス流路を拡径させるファンネル、フィンや羽根に沿ってガスの流通をガイドする部材を例示することができる。
【0023】
多孔質体は多数の連通孔部を有するため、本来であれば多数の連通孔部にガスをそれぞれ流通させて、効率良くガスを加熱することができる。しかしながら、仮に、多くの連通孔部の内の一部にしかガスが流通しない場合は、電気伝導性発熱体が多孔質である上記の利点を発揮することができない。例えば、加熱部にガスを導入する流路の径に比べて電気伝導性発熱体の断面積が大きいにも関わらず、ガスが直進性高く流通する場合などである。これに対し、本発明では、ガス流路分散部材を具備することにより、電気伝導性発熱体に流入する前のガスの流路を分散させることができる。これにより、電気伝導性発熱体の断面積を大きなものとしても、多孔質の発熱体に全体的にガスを流通させ易く、発熱体全体の発熱を有効に利用してガスを効率良く加熱することができる。
【0024】
加えて、多孔質体である電気伝導性発熱体のフィルタリング作用により、加熱部において未処理ガス中に含まれる微小な塵や粒子状物質を除去することができる。ここで、仮に、触媒が多孔質の電気伝導性発熱体に担持されているとすると、フィルタリング作用によって捕集された物質が触媒の表面を被覆し、触媒の作用が充分に得られないおそれがある。これに対し、本発明では触媒部は加熱部と別個の構成であるため、多孔質体のフィルタリング作用に影響を受けることなく、触媒作用を充分に発揮させることができる。
【0025】
本発明にかかる揮発性有機化合物処理装置は、「前記電気伝導性発熱体は複数個が設けられ、その内の二以上は電気的に直列接続されている」ものとすることができる。
【0026】
例えば、体積が同一の電気伝導性発熱体で対比すれば、複数個に分割して直列に接続した方が、電気伝導性発熱体中を電気が流れる距離が長くなり電気抵抗が増加する。従って、電気伝導性発熱体の電気抵抗値が小さい場合であっても、電流値が過大となることを防止しつつ、大きな発熱量を得ることができる。これにより、特別な設備を要することなく商用電源を利用して、大きな発熱量でガスを加熱することが可能となる。従って、上記の構成により、本発明にかかる揮発性有機化合物処理装置を、中小規模の事業所にとって導入し易い装置とすることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明の効果として、小型化が可能で低ランニングコストであると共に、安全性が高く処理効率の高い揮発性有機化合物処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の最良の一実施形態である揮発性有機化合物処理装置について、図1乃至図6に基づいて説明する。ここで、図1は本実施形態の揮発性有機化合物処理装置の概略構成を示す構成図であり、図2は図1の揮発性有機化合物処理装置の主要部の正面図(加熱部側から見た図)であり、図3は図1の揮発性有機化合物処理装置の主要部の背面図(触媒部側から見た図)であり、図4は図2におけるX−X線断面図であり、図5は図2におけるY−Y線断面図であり、図6はガスの分散を説明する説明図である。
【0029】
本実施形態の揮発性有機化合物処理装置1(以下、単に「VOC処理装置1」と称する)は、ガスを流通させる連通孔部(図示しない)が形成された電気伝導性発熱体2(以下、単に「発熱体2」と称する)、及び発熱体2へ通電するための電極21を備え、通電による発熱体2の発熱によって連通孔部を流通するガスを加熱する加熱部20と、揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体3を備え、加熱部20よりガス流通の下流側に設けられ加熱部20で加熱されたガスに含まれる揮発性有機化合物を酸化分解させる触媒部30とを具備している。
【0030】
ここで、本実施形態の発熱体2は、多孔質の炭化珪素質セラミックスで構成され、単一の方向に延びて列設された複数の隔壁により区画された複数のセルを備えたハニカム構造体によって構成されている。なお、本実施形態のセル及び多孔質の隔壁中の連続気孔が、本発明の「連通孔部」に相当する。
【0031】
また、VOC処理装置1は、ガスを吸引口6から加熱部20に導くガス導入路8と、触媒部30から排出口7までガスを導くガス排出路9と、ガス導入路8を流通するガスとガス排出路9を流通するガスとの間で熱交換を行う熱交換器4とを具備している。更に、吸引口6には、モータ(図示しない)の駆動によりガスを吸引するファン18が取り付けられている。なお、詳細な図示は省略しているが、熱交換器4はガス導入路8にガス排出路9を巻回させた構成となっている。
【0032】
加熱部20では、主に図4に示すように、ガスの流通方向(図示、紙面下から上に向かう方向)に二列の発熱体2が設けられており、ガス流通方向に略直交する方向に、三列の発熱体2が設けられている。そして、主に図2に示すように、それぞれの列は、三つの発熱体2が上下に積層された三段構成となっている。そして、ガス流通方向の二列では、図5に示すように、それぞれ最下段の発熱体2が電気伝導性の導通部22で接続されている。本実施形態の導通部22は、ステンレス製の板材を用いている。また、ガス流通方向の二列のうち、上流側の最上段の発熱体2の上面に正極及び負極の一方の電極21aが取り付けられていると共に、下流側の列の最上段の発熱体2の上面に対極の電極21bが取り付けられている。
【0033】
このような構成により、ガス流通方向の二列の計六つの発熱体2は、電極21a,21bに通電することによって電気的に直列接続される。そして、本実施形態では、六つの発熱体2が直列に接続された列の三つが、並列に接続されている。なお、以下では、電極21a及び電極21bを区別する必要がない場合は、電極21と総称して説明する。
【0034】
電極21と発熱体2との間、隣接する発熱体2の間、及び、発熱体2と導通部22との間には、それぞれスチールウール層23が設けられている。また、加熱部20のケーシング29の天板29tには貫通孔が穿設されており、この貫通孔には電極21を押し下げて発熱体2に対して固定するためのボルト25が挿通されている。更に、天板29tの上面には略コ字状の支持板26が下向きに固定されており、支持板26には下方からコイル状のバネ部材27が留め付けられている。そして、ボルト25の軸部の上部がバネ部材27に下方から挿通されていると共に、軸部の外周に沿って設けられたフランジ部がバネ部材27の底面に当接している。このような構成により、バネ部材27はボルト25のフランジ部と支持板26との間で圧縮され、ボルト25を介して電極21を押し下げる方向、すなわち電極21を発熱体2に圧着させる方向に付勢している。なお、電極21a及び電極21bがボルト25及び天板29t等を介して短絡することを防止するために、ボルト25と電極21との間には断熱絶縁層24を介在させている。
【0035】
また、主に図4に示すように、発熱体2とケーシング29との間、及び、ガス流通方向に略直交する方向に隣接する発熱体2の間には、断熱絶縁層24が充填されている。一方、ガス流通方向では、発熱体2と発熱体2の間には断熱絶縁層は充填されておらず、空間28が形成されている。
【0036】
触媒部30では、主に図5に示すように、触媒体3がケーシング39の内部に収納されており、ガスを流通させる断面を除いた触媒体3の外表面が、断熱材34で全体的に被覆されている。本実施形態の触媒体3は、多孔質のコージェライトセラミックスのハニカム構造体に、貴金属触媒が担持されて形成されている。
【0037】
次に、本実施形態のVOC処理装置1におけるガスの処理について説明する。まず、工場や事業所から排出されたVOCを含有する未処理ガスは、ファン18によって吸引口6から吸引された後、ガス導入路8を流通し加熱部20に導入される。このとき加熱部20では、電極21a及び電極21bに通電することによって発熱体2が発熱している。そのため、未処理ガスはハニカム構造体である発熱体2を通過する際に加熱される。
【0038】
本実施形態の加熱部20では発電体2がガス流通方向に二列に設けられており、その間に空間28が形成されているため、上流側の列の発熱体2を通過したガスは、下流側の列の発熱体2に流入する前にその前面に当たり、空間28内で拡散し易い(図6参照)。これにより、ガス導入路8の端部から加熱部20に導入されたガスが、発熱体2のごく一部のみを通過することが防止される。なお、本実施形態では発熱体2が約300℃に保持されるよう、発熱体2への通電を調整している。
【0039】
また、発熱体2は複数のセルが列設されたハニカム構造体であるため、ガスはセル内を流通する際に発熱している隔壁によって効率良く加熱される。加えて、発熱体2は多孔質であるため、ガス中に微小な塵や粒子状物質が存在した場合は隔壁の気孔内に捕集される。
【0040】
発熱体2を通過することによって加熱された未処理ガスは、次に、触媒部30に流入し、触媒が担持されたハニカム構造体である触媒体3を通過する。この際、未処理ガスは既に加熱部30において、触媒存在下でVOCが酸化分解可能な約300℃まで加熱されているため、触媒体3を通過する際に触媒と接触することにより、ガス中のVOCは直接燃焼により酸化分解する場合より低温で酸化分解される。
【0041】
そして、VOCが酸化分解された後の処理済みガスは、ガス排出路9を流通して熱交換器4に入り、そこでガス導入路8を流通する未処理ガスに熱を与えて低温となり、排出口7から外気中に排出される。
【0042】
上記のように、本実施形態のVOC処理装置1によれば、ガスを流通させる構成をヒータやバーナ等の外部熱源によって外部から加熱するのではなく、ガスを流通させる構成である発熱体2自体が発熱するため、エネルギー効率良く流通するガスを加熱することができる。加えて、発熱体2と触媒体3とを主な構成とする簡易な構成であるため、装置全体を小型化することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態では、発熱体2である多孔質の炭化珪素質セラミックスに触媒が担持されているのではなく、加熱部20とは別個の構成として、加熱部20より下流側に触媒部30が設けられている。そのため、触媒存在下でのVOCの酸化分解に充分な300℃まで、未処理ガスの温度を予め加熱部20で高めてから触媒部30に導入することができる。これにより、触媒の作用を充分に発揮させて、VOCを低温で確実に酸化分解することが可能となる。
【0044】
加えて、多孔質のハニカム構造体のフィルタリング作用により、未処理ガス中に含まれる微小な塵や粒子状物質は発熱体2に捕集される。この際、触媒体3と発熱体2とは別個の構成であり、発熱体2であるハニカム構造体に触媒が担持されているのではないため、捕集された物質によって触媒が被覆されることがない。これにより、触媒体3を長期にわたって使用することができる。
【0045】
更に、発熱体2として用いている炭化珪素質セラミックスは、高強度であると共に耐熱性、耐熱衝撃性に優れている。そのため、使用に伴って加熱と冷却が繰り返される発熱体2として適している。加えて、炭化珪素質セラミックスは、耐酸化性、耐食性にも優れるため、種々のVOCを含有する未処理ガスを加熱する構成として適している。加えて、炭化珪素セラミックスは熱伝導率が高く速やかに昇温するため、通電による発熱で効率良く未処理ガスを加熱することができる。
【0046】
また、スチールウール層23を電極21と発熱体2との間に介在させているため、発熱体2の外表面が平滑であるか否か等の表面状態によらず、電極21と発熱体2とが多くの接触点でしっかりと密着し、発熱体2に通電させ易い構成となっている。更に、隣接する発熱体2の間、発熱体2と導通部22との間にもスチールウール層23を介在させているため、これらの構成間で電気伝導し易く、確実に六個の発熱体2を電気的に接続することができる。
【0047】
加えて、三段に積層された発熱体2には、バネ部材27によって下方に押圧する力が作用している。そのため、電極21と発熱体2との間、上下に隣接する発熱体2の間、発熱体2と導通部22との間に配されたスチールウール層23も、バネ部材27の押圧力によって圧縮されている。これにより、スチールウールによる電気的な接触点がより多数となり、スチールウール層23による電気的な接続作用をより有効に発揮させることができる。
【0048】
更に、加熱により発熱体2等が熱膨張しても、その熱膨張はバネ部材27によって吸収される。これにより、加熱部20の各構成間で熱応力が緩和され、歪みや亀裂等の発生を有効に防止することができる。
【0049】
また、本実施形態で発熱体2に使用している炭化珪素質セラミックスは、温度の上昇に伴って電気抵抗が減少するNTC特性を有するところ、本実施形態では六つの発熱体2を直列接続することにより電気抵抗値を増加させている。これにより、電流値を過大とすることなく、商用電源を利用して大きな発熱量を得ることができる。従って、特別な設備を要することなく、大きな発熱量でガスを加温することができる本実施形態のVOC処理装置1は、中小規模の事業所で導入される装置として適している。
【0050】
また、本実施形態のVOC処理装置1は熱交換器4を備えているため、処理済みガスの排熱を有効に利用し、予め未処理ガスを加熱してから加熱部30に導入することができる。これにより、発熱体2への通電量を低減することができ、ランニングコストを抑えることができる。加えて、処理済みガスが高温状態のまま大気中に排出され、環境に悪影響を及ぼすことを防止することができる。
【0051】
本実施形態のVOC処理装置1は、上記の構成に加え、加熱部20において発熱体2よりガス流通の上流側に、ガスの流路を分散させるガス流路分散部材を備えた構成とすることができる。例えば、図6に示すように、ガス導入路8の末端の近傍に、多数の小さな貫通孔が穿設された分散プレート41を設けることができる。そして、更に下流側の発熱体2の前面近傍に、断面円錐形の基体の外表面に複数枚の羽根が設けられた分散羽根42を設けることができる。ここで、分散プレート41及び分散羽根42は、共に「ガス流路分散部材」に相当する。
【0052】
上記のような構成にすることにより、ガス導入路8の末端から流出したガスは、まず分散プレート41の多数の貫通孔を通過することによって、種々の方向に分散する。そして、分散したガスは次に分散羽根42にガイドされて流通し、ガスの流通路が拡径する。これにより、複数個が列設された発熱体2の全断面積がガス導入路8の断面積に対して大きい場合であっても、ハニカム構造の発熱体2全体に満遍なくガスを通過させ、発熱体2全体の発熱を有効に活用してガスを加熱することができる。
【実施例】
【0053】
本実施形態のVOC処理装置を用いて、実際に工場からの排気ガスを処理し、VOCの処理効率について調べた。発熱体としては、炭化珪素質セラミックスのハニカム構造体(気孔率約58%、平均気孔径約19μm、セル密度169 cpsi、寸法約90mm×90mm×30mm)の計九個を使用し、図2及び図4等を用いて説明したように、ガス流通方向に二列、ガス流通方向に略直交する方向に三列、上下方向に三段となるように配置すると共に、ガス流通方向に二列を直列接続し、ガス流通方向に略直交する三列を並列接続した。触媒体としては、コージェライトのハニカム構造体(気孔率60〜70%、平均気孔径約20μm、セル密度300 cpsi、寸法約150mm×150mm×50mm)に貴金属触媒を担持させたもの四個を、上下左右に二個ずつ重ねて配置した。VOC分解装置全体の寸法は、およそ幅1.8m×奥行き0.9m×高さ1.3mであり、総重量は約300kgであった。
【0054】
印刷工場でグラビア印刷機からの排気ガスを20分間採取すると共に、排気ガスをVOC処理装置で処理した後のガスを同じく20分間採取し、それぞれガス中のVOC濃度を測定して、処理前後のVOC濃度の対比により処理効率を求めた。測定は複数回行い、処理効率の平均値を算出した。また、貴金属触媒の種類を異ならせた場合について、それぞれ測定を行い比較した。貴金属触媒としては、(A)パラジウム触媒(日揮ユニバーサル社製NHX−724)、及び(B)白金触媒(日揮ユニバーサル社製NH−124)の二種類を使用した。測定結果を表1に示す。なお、表1のVOC処理効率は、処理前の濃度が1ppm以上であったVOC成分についての結果をまとめたものである。
【0055】
【表1】

【0056】
本実施例のVOC処理装置は、従来の装置と比べて小型で、安価に製造することができたが、総VOC処理効率は約80%であり、実用的な処理能力であった。また、触媒としてパラジウムを使用した場合は、加熱部で排気ガス温度を約300℃に高めておくことにより、触媒部での温度も250〜300℃に保持された。一方、白金触媒を使用した場合は、触媒部への導入ガス温度より触媒部からの排出温度が高く、VOCの酸化分解による反応熱によるものと考えられた。このことから、触媒部でのVOCの分解反応が始まった後は、触媒部の温度を測定してフィードバックすることにより、加熱部の温度を数十℃低下させるよう制御しても、触媒部でのVOCの分解反応を継続的に行わせることができることが示唆された。このように加熱部の温度を制御することにより、エネルギー消費を節減してVOCの処理を行うことができる。
【0057】
また、本実施例のVOC処理装置では、排出ガスと導入ガスとの間で熱交換させることにより、常温で装置内に吸引されたガスの温度を予め150〜200℃という高温まで上昇させてから、加熱部に導入することができた。
【0058】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0059】
例えば、上記の実施形態では、ガス流通方向の二列の発熱体計六つを直列接続する場合を例示したが、これに限定されるものではなく、発熱体の接続の仕方は発熱体の種類(電気抵抗値)、サイズ等によって適宜変更することができる。特に、上記の実施形態では、三つの発熱体2が上下に積層された列の二つが、空間を介して離隔していると共に導通部によって接続された構成となっているため、その二列が直列ではなく並列に接続された構成に容易に変更することができる。すなわち、図7に示すように、上下に三つ積層された発熱体の列において、最上段及び最下段の発熱体にそれぞれ電極21a,21bを取り付けることにより、三つの発熱体が直列に接続された列が、それぞれ他の列とは並列に接続されている構成とすることができる。
【0060】
また、触媒部に触媒体を一層設けた場合を例示したが、これに限定されず、ガス流通方向に複数の触媒体が列設された構成とすることができる。その場合、触媒の種類は同一であっても異なっていても良い。
【0061】
加えて、触媒体として多孔質体に触媒を担持させたものを例示したが、これに限定されず、例えば、発泡金属など触媒自体を多孔質構造として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本実施形態の揮発性有機化合物処理装置の概略構成を示す構成図である。
【図2】図1の揮発性有機化合物処理装置の主要部の正面図(加熱部側から見た図)である。
【図3】図1の揮発性有機化合物処理装置の主要部の背面図(触媒部側から見た図)である。
【図4】図2におけるX−X線断面図である。
【図5】図2におけるY−Y線断面図である。
【図6】ガスの分散を説明する説明図である。
【図7】他の実施形態の揮発性有機化合物処理装置の正面図(加熱部側から見た図)である。
【符号の説明】
【0063】
1 VOC処理装置(揮発性有機化合物処理装置)
2 発熱体(電気伝導性発熱体)
3 触媒体
20 加熱部
21,21a,21b 電極
23 スチールウール層
27 バネ部材
30 触媒部
41 分散プレート(ガス流路分散部材)
42 分散羽根(ガス流路分散部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを流通させる連通孔部が形成された電気伝導性発熱体、及び、該電気伝導性発熱体へ通電するための電極を備え、通電による前記電気伝導性発熱体の発熱によって前記連通孔部を流通するガスを加熱する加熱部と、
揮発性有機化合物の酸化分解温度を低下させる触媒体を備え、前記加熱部よりガス流通の下流側に設けられ前記加熱部で加熱されたガスに含まれる揮発性有機化合物を酸化分解させる触媒部と
を具備することを特徴とする揮発性有機化合物処理装置。
【請求項2】
前記加熱部は、前記電極と前記電気伝導性発熱体の外表面との間に介在させたスチールウール層を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の揮発性有機化合物処理装置。
【請求項3】
前記加熱部は、前記電極を前記電気伝導性発熱体に圧着させる方向に付勢するバネ部材を備える
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の揮発性有機化合物処理装置。
【請求項4】
前記電気伝導性発熱体は多孔質体であり、
前記加熱部は、前記電気伝導性発熱体よりガス流通の上流側に設けられてガスの流路を分散させるガス流路分散部材を備える
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載の揮発性有機化合物処理装置。
【請求項5】
前記電気伝導性発熱体は複数個が設けられ、その内の二以上は電気的に直列接続されている
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載の揮発性有機化合物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−279482(P2009−279482A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131732(P2008−131732)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(391016842)岐阜県 (70)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【出願人】(307044286)加藤電気炉材製造有限会社 (2)
【Fターム(参考)】