搬送ローラーの製造方法、搬送ローラー、搬送装置及び印刷装置
【課題】高い搬送精度が得られる搬送ローラーを製造することができる搬送ローラーの製造方法、搬送ローラー、搬送装置及び印刷装置を提供する。
【解決手段】雌型上に配置された金属板を、金属板の上面（Ｃ２）側に配置された雄型を押圧して所定の形状に型抜きする抜き工程と、型抜きされた金属板の雄型が配置された側の面（Ｃ２）が外周面となるようプレス加工により円筒状に形成する曲げ工程と、を有することを特徴とする。
【解決手段】雌型上に配置された金属板を、金属板の上面（Ｃ２）側に配置された雄型を押圧して所定の形状に型抜きする抜き工程と、型抜きされた金属板の雄型が配置された側の面（Ｃ２）が外周面となるようプレス加工により円筒状に形成する曲げ工程と、を有することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、搬送ローラーの製造方法、搬送ローラー、搬送装置及び印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
従来から、印刷装置として種々のプリンターが提供されている。このようなプリンターでは、媒体を各種ローラーにより搬送する。具体的には、印刷用紙等の記録媒体を搬送ローラー及び従動ローラーにより印刷部に搬送する。そして、印刷部において記録媒体に画像や文字を印刷した後、印刷された記録媒体を排紙ローラー及び従動ローラーにより排出する。
【０００３】
搬送ローラーは、従動ローラーとの間に記録媒体を挟持し、その状態で回転駆動することにより記録媒体を搬送しており、高い搬送力と高い搬送精度が要求されている。
【０００４】
特許文献１には、このような搬送ローラーに高い摩擦力を保持させるため、金属製丸棒の周面に目打ち加工によって多数の突起を形成する技術が開示されている。しかし、特許文献１では、搬送ローラーとして中実の金属製丸棒材を用いるため、重量の削減が困難であり、例えば搬送ローラーを用いるプリンターの総重量が増大し、また製造コストも増大するという課題がある。
【０００５】
特許文献２には、中実軸のコストダウンを目的として、金属板を曲げ加工して中空円筒状の軸に成形することが記載されている。このような円筒軸では、金属板を曲げ加工して円筒状に形成する際に、金属板の一対の端面同士を突き合せている。そのため、円筒軸の全長に亘って金属板の一対の端面間に継ぎ目が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００６】
【特許文献１】特許第３２７１０４８号公報
【特許文献２】特開２００６−２８９４９６号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００７】
しかしながら、特許文献２では、プレス加工により型抜きされた金属板を曲げ加工して円筒軸を形成する場合、型抜きの際に端面に発生するバリ等の影響によって金属板の一対の端面の間に形成される継ぎ目の精度が低下する場合がある。このような円筒軸を搬送ローラーに用いると、媒体を搬送する際の精度が低下する虞があるという課題がある。
例えばインクジェットプリンター等の微細な液滴を吐出して画像を形成する装置では、非常に高い紙送り精度（例えば数μｍ〜数十μｍ）が要求される。そのため、金属板を型抜きした後にバリを除去する工程が必要であり、搬送ローラーの生産性を向上させることが困難であった。
【０００８】
そこで、本発明は、高い搬送精度が得られる搬送ローラーを製造することができる搬送ローラーの製造方法、搬送ローラー、搬送装置及び印刷装置を提供することを課題とするる。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
上記の課題を解決するために、本発明は、金属板の一対の端面を対向させ円筒状に形成された、媒体を搬送する搬送ローラーの製造方法であって、雌型上に配置された金属板を、前記金属板の上面側に配置された雄型を押圧して所定の形状に型抜きする抜き工程と、型抜きされた前記金属板の前記雄型が配置された側の面が外周面となるようプレス加工により円筒状に形成する曲げ工程と、を有することを特徴とする。
【００１０】
このように製造することで、抜き工程において型抜きされた金属板の端面には、金属板の上面（雄型側）から下面（雌型側）へ向かって、順次、ダレ、せん断面、破断面、バリが形成される。ダレは、型抜きされた金属板の端面の近傍において、金属板の上面が端面に近づくに従って下面の側に落ち込むよう変形した滑らかな曲面状の部分である。せん断面は、金属板のせん断により端面に形成された比較的平坦な面である。破断面は、金属板の破断により端面に形成された比較的凹凸の多い面である。バリは、金属板が破断する際に金属板の下面から突出して形成された髭状の部分である。
本発明では、型抜きされた金属板を円筒状に曲げ加工して一対の端面を対向させることで継ぎ目を有する円筒軸を形成する。その際、抜き工程において雄型側であった金属板の上面が円筒の外周面となるようにしている。そのため、ダレが発生した金属板の上面を円筒軸の外周側にして、バリや破断面に連続する金属板の下面を円筒軸の内周側にすることができる。これにより、金属板の一対の端面を突き合わせて継ぎ目を有する円筒軸を形成する際に、バリや破断面の凹凸が障害となって継ぎ目が開くことを防止できる。したがって、円筒軸の継ぎ目の精度を向上させることができる。また、バリが円筒の内周面側になり、円筒軸の外周面から突出することを防止できるので、バリ取り工程を省略することができる。
すなわち、本発明によれば、金属板により形成される円筒軸の継ぎ目の精度を向上させ、高い搬送精度が得られる搬送ローラーを製造することができる。また、バリ取り工程を省略して、搬送ローラーの生産性を向上させることができる。
【００１１】
また、本発明の搬送ローラーの製造方法は、前記抜き工程の後、前記曲げ工程の前に、前記金属板の前記雄型が配置された側の前記一対の端面を鍛造により整形する鍛造工程をさらに有することを特徴とする。
【００１２】
このように製造することで、金属板の一対の端面の継ぎ目における両端面間の隙間を減少させ、あるいは金属板の両端面を密着させることができる。さらに、抜き工程において発生したバリ、せん断面及び破断面等を平滑にすることができる。したがって、円筒状に形成した金属板の継ぎ目の精度をより向上させることができ、高い搬送精度が得られる搬送ローラーを製造することができる。
【００１３】
また、本発明の搬送ローラーの製造方法は、前記鍛造工程において、前記金属板の前記雄型が配置された側に落ち込んだ前記端面を、復元して平坦化することを特徴とする。
【００１４】
このように製造することで、鍛造工程において端面を平坦化するとともに、金属板の端面を上面の側に押し上げるように変形させ、金属板の上面の端面の近傍において下面側に落ち込んだ部分（ダレ）を復元することができる。これにより、金属板の上面を平坦化することができる。したがって、円筒状に形成した金属板の一対の端面の継ぎ目の近傍に凹部が発生することを防止して、搬送ローラーの精度を向上させることができる。
【００１５】
また、本発明の搬送ローラーの製造方法は、前記曲げ工程の後、円筒状に形成した前記金属板の外周面を研磨するセンターレス工程をさらに有することを特徴とする。
【００１６】
このように製造することで、抜き工程において金属板の上面の端面の近傍に発生したダレが、曲げ工程において残っていた場合であっても、金属板により形成した円筒軸の継ぎ目の近傍において外周面が陥没することを防止できる。これにより、円筒軸の外周面を均一かつ滑らかにすることができ、円筒軸の真円度を向上させることができる。また、金属板の一対の端面の継ぎ目の開きを減少させ、継ぎ目の精度を向上させることができる。
【００１７】
また、本発明の搬送ローラーは、雌型上に配置された金属板に、前記金属板の上面側に配置された雄型を押圧することで所定の形状に型抜きし、型抜きされた前記金属板の一対の端面を対向させて円筒状に形成された搬送ローラーであって、前記型抜きされた金属板の前記雄型が配置された側の面が、外周面となっていることを特徴とする。
【００１８】
このように構成することで、抜き工程において型抜きされた金属板に、ダレ、せん断面、破断面、バリが形成された場合でも、比較的滑らかなダレが形成された金属板の上面を円筒軸の外周側にして、バリや破断面に連続する金属板の下面を円筒軸の内周側にすることができる。これにより、金属板の一対の端面を突き合わせて継ぎ目を有する円筒軸を形成する際に、バリや破断面の凹凸が障害となって継ぎ目が開くことを防止できる。したがって、円筒軸の継ぎ目の精度を向上させることができる。また、バリが円筒の内周面側になり、円筒軸の外周面から突出することを防止できるので、バリ取り工程を省略することができる。
すなわち、本発明によれば、金属板により形成される円筒軸の継ぎ目の精度を向上させ、高い搬送精度が得られる搬送ローラーを提供することができる。
また、搬送ローラーに中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して重量を大幅に減少させることができる。また、搬送ローラーに中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、搬送ローラーの材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【００１９】
また、本発明の搬送装置は、上記の搬送ローラーを備えたことを特徴とする。
【００２０】
このように構成することで、上述のように高い搬送精度が得られる搬送ローラーを軸受により支持して回転させ、媒体支持領域により媒体を支持して高精度に搬送することができる。また、搬送ローラーに中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して装置全体の重量を大幅に減少させることができる。また、搬送ローラーに中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、搬送ローラーの材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【００２１】
また、本発明の印刷装置は、上記の搬送ローラーを備えたことを特徴とする。
【００２２】
このように構成することで、搬送ローラーによって媒体を高精度に搬送することができ、媒体に高い印刷精度で印刷処理を行うことが可能になる。また、搬送ローラーに中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して装置全体の重量を大幅に減少させることができる。また、搬送ローラーに中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、搬送ローラーの材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【００２３】
【図１】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
【図２】（ａ）は搬送部の平面図、（ｂ）は駆動系の側面図である。
【図３】（ａ）は搬送部の概略構成図、（ｂ）は軸受けの概略構成図である。
【図４】本発明の実施形態に係る搬送ローラーの製造装置の概略構成図である。
【図５】本発明の実施形態に係る抜き工程の工程断面図である。
【図６】同、鍛造工程の工程断面図である。
【図７】本発明の実施形態に係る鍛造工程後の金属板の平面図である。
【図８】（ａ）〜（ｃ）は本発明の実施形態に係る曲げ工程の工程図である。
【図９】（ａ）〜（ｃ）は本発明の実施形態に係る曲げ工程の工程図である。
【図１０】本発明の実施形態に係る曲げ工程における金属板の平面図である。
【図１１】（ａ）はローラ本体の斜視図であり、（ｂ）は拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００２４】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図１は、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
図２（ａ）はインクジェットプリンターの搬送ユニットを示す平面図、図２（ｂ）は搬送ユニットの駆動系を示す側面図である。
【００２５】
図１に示すように、インクジェットプリンター（印刷装置）１は、プリンター本体３と、プリンター本体３の後側上部に設けられた給紙部５と、プリンター本体３の前側に設けられた排紙部７と、を備えている。
【００２６】
給紙部５には給紙トレイ１１が設けられており、給紙トレイ１１には複数枚の用紙（媒体、記録媒体、搬送媒体）Ｐが積載されるようになっている。ここで、用紙Ｐとしては、普通紙、コート紙、ＯＨＰ（オーバーヘッドプロジェクタ）用シート、光沢紙、光沢フィルム等が用いられる。以下、用紙Ｐの搬送経路において、給紙トレイ１１側を上流側、排紙部７側を下流側という。給紙トレイ１１の下流側には、給紙ローラー１３が設けられている。
【００２７】
給紙ローラー１３は、対向する分離パッド（図示略）との間で給紙トレイ１１の最上部に位置する用紙Ｐを挟圧し、下流側へ送り出すように構成されている。給紙ローラー１３の下流側には、搬送ローラー機構１９が設けられている。
搬送ローラー機構１９は、下側に配置された搬送ローラー１５と、上側に配置された従動ローラー１７とを備えている。
【００２８】
搬送ローラー１５は、従動ローラー１７との間に用紙Ｐを挟圧し、図２に示す駆動部３０により回転駆動するように設けられている。これにより、搬送ローラー１５は、用紙Ｐを下流側に配置された印字ヘッド（印刷部）２１へ、搬送印刷処理に伴う精密で正確な搬送（紙送り）動作により搬送することができるようになっている。
【００２９】
印字ヘッド２１はキャリッジ２３に保持されており、キャリッジ２３は給紙方向（用紙Ｐの搬送方向）と直交する方向に往復移動するよう構成されている。印字ヘッド２１による印字処理（印刷処理）は、制御部ＣＯＮＴによって制御されるようになっている。印字ヘッド２１と対向する位置には、プラテン２４が配設されている。
プラテン２４は、キャリッジ２３の移動方向に沿って間隔をあけて配置された、複数のダイヤモンドリブ２５によって構成されている。
【００３０】
ダイヤモンドリブ２５は、印字ヘッド２１によって用紙Ｐに印刷を行う際に用紙Ｐを下側から支持するものであり、頂面が支持面として機能するようになっている。ダイヤモンドリブ２５と印字ヘッド２１との距離は、用紙Ｐの厚さに応じて調節可能になっている。これにより、用紙Ｐはダイヤモンドリブ２５の頂面上を滑らかに通過することが可能となっている。ダイヤモンドリブ２５及び印字ヘッド２１の下流側には、排紙ローラー機構２９が設けられている。
【００３１】
排紙ローラー機構２９は、下側に配置された排紙ローラー２７と上側に配置された排紙ギザローラー２８とを備え、排紙ローラー２７の回転駆動によって用紙Ｐを引き出し、排出するようになっている。
【００３２】
ここで、搬送ローラー機構１９及び排紙ローラー機構２９の駆動部３０及び搬送ローラー１５、排紙ローラー２７の駆動速度の関係について説明する。
プリンター本体３には、図２（ａ）及び図２（ｂ）に示すように、制御部ＣＯＮＴの制御下で駆動される搬送モーター３２が設けられている。この搬送モーター３２の駆動軸にはピニオン３３が設けられており、ピニオン３３には搬送駆動ギア３５が歯合しており、搬送駆動ギア３５には搬送ローラー１５が内挿されて連結されている。
このような構成のもとに搬送モーター３２等は、搬送ローラー１５を回転駆動する駆動部３０となっている。
【００３３】
また、搬送ローラー１５には、搬送駆動ギア３５と同軸にインナーギア３９が設けられており、このインナーギア３９には中間ギア４１が歯合しており、中間ギア４１には排紙駆動ギア４３が歯合している。排紙駆動ギア４３の回転軸は、図２（ａ）に示すように排紙ローラー２７の軸体４５となっている。
このような構成のもとに、搬送ローラー機構１９の搬送ローラー１５と排紙ローラー機構２９の排紙ローラー２７とは、同一の駆動源である搬送モーター３２からの回転駆動力を受け、駆動されるようになっている。
【００３４】
なお、排紙ローラー２７の回転速度は、各ギアのギア比を調整することにより、搬送ローラー１５の回転速度より速くなるように設定されている。したがって、排紙ローラー機構２９の排紙速度は、搬送ローラー機構１９の搬送速度より増速率だけ速くなっている。
また、搬送ローラー機構１９による用紙Ｐの挟持力（押圧力）は、排紙ローラー機構２９による挟持力（押圧力）よりも大きく設定されている。したがって、搬送ローラー機構１９と排紙ローラー機構２９とが共に用紙Ｐを挟持しているとき、その用紙搬送速度は、排紙ローラー機構２９の排紙速度とは関係なく、搬送ローラー機構１９の搬送速度で規定されるようになっている。
【００３５】
次に、搬送ローラー１５及びこれを備える搬送ローラー機構１９について説明する。
図３（ａ）は搬送ローラー機構１９の概略構成を示す図、図３（ｂ）は軸受けの概略構成を示す図である。
搬送ローラー１５は、中空円筒状のローラー本体（円筒軸）１６と、ローラー本体１６の表面の長手方向（軸方向）の一部に形成された高摩擦層（媒体支持領域）５０とを有している。
【００３６】
ローラー本体１６は、例えば亜鉛メッキ鋼板やステンレス鋼板等の金属板が巻回された鋼板コイルを母材として形成されている。ローラー本体１６は、鋼板コイルから巻き戻された帯状の金属板をプレスにより型抜きし、型抜きされた金属板の一対の端面が対向するように曲げ加工されて円筒状に形成された円筒軸である。例えば図５（ａ）及び図５（ｂ）に示されるような第１プレス機１３０による抜き工程よって、ローラー本体１６の母材である金属板Ｍの端面６１ａ，６１ｂには、ダレｓｄ、せん断面ｓｐ、破断面ｂｓが形成される。このように抜き加工された金属板Ｍは、雄型１３１に対向する上面Ｃ２が外周面となる円筒状に曲げ加工され、これによりローラー本体１６が形成されている。そのため、ローラー本体１６は、図１１（ａ）及び図１１（ｂ）に示すように、円筒状に曲げ加工された金属板Ｍの一対の端面６１ａ，６１ｂ間に形成された継ぎ目８０を有している。
【００３７】
高摩擦層５０は、図３（ａ）に示すようにローラー本体１６の両端部を除く中央部に選択的に形成されている。高摩擦層５０の表面には、無機粒子の鋭く尖った部分が露出した状態で固定され、高い摩擦力を発揮するようになっている。
高摩擦層５０は、ローラー本体１６の表面の高摩擦層の形成領域に樹脂粒子を例えば１０μｍ〜３０μｍ程度の均一な膜厚で選択的に塗布して樹脂膜を形成し、その樹脂膜の上に無機粒子を均一に散布した後、焼成することにより形成されている。樹脂粒子としては、例えばエポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等からなる、直径１０〜２０μｍ程度の微粒子が好適に用いられる。また、無機粒子としては、破砕処理によって所定の粒径分布に調整された酸化アルミニウム（アルミナ；Ａｌ２Ｏ３）や炭化珪素（ＳｉＣ）、二酸化珪素（ＳｉＯ２）等のセラミックス粒子が好適に用いられる。
【００３８】
搬送ローラー１５は、図３（ａ）に示すように、その両端部がプラテン２４（図１参照）に一体成形された軸受２６に回転可能に保持されている。図３（ｂ）に示すように、軸受２６は、上方に開口するＵ字形に形成され、このＵ字形部位に搬送ローラー１５を嵌め込むことで、搬送ローラー１５を前後側及び下側の３方向から軸支する。そして、軸受２６と搬送ローラー１５との接触面（搬送ローラー１５の表面）には、グリス等の潤滑油（潤滑液）が供給（塗布）される。また、搬送ローラー１５の一端又は両端には、インナーギア３９や搬送駆動ギア３５が回転不能に係合し連結するための係合部（図示略）が形成されている。搬送ローラー１５には、種々の連結部品に連結するため、種々の形態の係合部が形成可能になっている。
【００３９】
従動ローラー１７は、複数（例えば６個）のローラー１７ａが同軸に配列されて構成されたもので、搬送ローラー１５の高摩擦層５０に対向しかつ当接する位置に配置されたものである。これらローラー１７ａからなる従動ローラー１７には、付勢バネ（図示略）が取り付けられており、これによって従動ローラー１７は、搬送ローラー１５側に付勢されている。
【００４０】
したがって、従動ローラー１７は、搬送ローラー１５の高摩擦層５０に所定の押圧力（用紙Ｐに対する挟持力）で接し、搬送ローラー１５の回転動作に従動して回転するようになっている。また、搬送ローラー１５と従動ローラー１７との間で用紙Ｐを挟持する力が大きくなり、用紙Ｐの搬送性がより良好になっている。
なお、この従動ローラー１７の各ローラー１７ａの表面には、高摩擦層５０との摺接による損傷を緩和するため、例えばフッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【００４１】
以上の搬送ローラー１５、軸受２６、駆動部３０及び従動ローラー１７等により、インクジェットプリンター１の搬送部（搬送装置）２０が構成されている。
【００４２】
次に、インクジェットプリンター１の動作について、図１、図２を参照して説明する。
インクジェットプリンター１は、給紙トレイ１１の最上部に位置する用紙Ｐを給紙ローラー１３によって挟圧して下流側へ送り出す。送り出された用紙Ｐは搬送ローラー機構１９に至る。搬送ローラー機構１９は、用紙Ｐを搬送ローラー１５と従動ローラー１７との間で挟圧し、搬送ローラー１５の回転駆動による紙送り動作で印字ヘッド２１の下方に向けて定速で搬送する。印字ヘッド２１の下方に搬送された用紙Ｐは、ダイヤモンドリブ２５の頂面上を滑らかに通過しつつ、印字ヘッド２１によって高品質に印刷される。印字ヘッド２１で印刷された用紙Ｐは、排紙部７の排紙ローラー２７によって順次排出される。
【００４３】
排紙ローラー機構２９の搬送速度は搬送ローラー機構１９の搬送速度より速く設定されているため、用紙Ｐはバックテンションが掛かった状態で搬送される。ただし、搬送ローラー機構１９と排紙ローラー機構２９とが共に用紙Ｐを挟持しているときには、その用紙搬送速度は搬送ローラー機構１９の搬送速度で規定されている。したがって、このように排紙ローラー機構２９と搬送ローラー機構１９とによって排紙と搬送とを同時に行う際にも、その用紙の搬送速度は搬送ローラー機構１９の搬送速度で規定されている。そのため、搬送ムラのない正確で安定した紙送り（搬送）がなされるようになる。
【００４４】
ここで、本実施形態の搬送ローラー１５は、例えば図５（ａ）及び図５（ｂ）に示すような抜き加工によって型抜きされた金属板Ｍを母材として形成されたローラー本体１６を備えている。ローラー本体１６の母材である金属板Ｍは、図５（ａ）に示す雄型１３１に対向する上面Ｃ２が外周面となる円筒状に曲げ加工されている。そして、図１１（ａ）及び図１１（ｂ）に示すように、一対の端面６１ａ，６１ｂが対向して突き合わされた継ぎ目８０を有している。
【００４５】
そのため、抜き工程において図５（ｂ）に示すように型抜きされた金属板Ｍに、ダレｓｄ、せん断面ｓｐ、破断面ｂｓ、バリ（図示略）が形成された場合でも、比較的滑らかなダレｓｄが形成された上面Ｃ２を、ローラー本体１６の外周側にすることができる。そして、バリや破断面ｂｓに連続する金属板Ｍの下面Ｃ１をローラー本体１６の内周側にすることができる。これにより、金属板Ｍの一対の端面６１ａ，６１ｂを突き合わせて継ぎ目８０を有するローラー本体１６を形成する際に、バリや破断面ｂｓの凹凸が障害となって継ぎ目８０が開くことを防止できる。
【００４６】
したがって、本実施形態の搬送ローラー１５によれば、ローラー本体１６の継ぎ目８０の精度を向上させ、高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を提供することができる。また、バリがローラー本体１６の内周面側になり、ローラー本体１６の外周面から突出することを防止でき、バリ取り工程を省略して生産性を向上させることができる。
【００４７】
また、ローラー本体１６に中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して重量を大幅に減少させることができる。また、ローラー本体１６に中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、ローラー本体１６の材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【００４８】
また、搬送ローラー１５には高摩擦層５０が形成されており、従動ローラー１７がこの高摩擦層５０に当接する位置に配置されている。そのため、これら搬送ローラー１５と従動ローラー１７との間で用紙Ｐを挟持する力が大きくなり、用紙Ｐの搬送性がより良好になっている。
【００４９】
また、本実施形態の搬送部２０は、搬送ローラー１５とこれを支持する軸受２６とを備えている。そのため、上述のように高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を軸受２６により支持して回転させ、高摩擦層５０により用紙Ｐを支持して高精度に搬送することができる。また、搬送ローラー１５に中空のローラー本体１６を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して搬送部２０の重量を大幅に減少させ、環境負荷を低減することができる。
【００５０】
また、本実施形態のインクジェットプリンター１は、搬送部２０によって用紙Ｐを高精度に搬送することができ、用紙Ｐに高い印刷精度で印刷処理を行うことできる。また、搬送ローラー１５に中空のローラー本体１６を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して装置全体の重量を大幅に減少させることができ、環境負荷を低減することができる。
【００５１】
次に、搬送ローラー１５の製造装置について説明する。
図４は、本実施形態の搬送ローラー１５の製造装置の模式図である。
図４に示すように、製造装置１００は、アンコイラー１１０と、レベラー１２０と、第１プレス機１３０と、第２プレス機１４０とが、一方向に配置された構成となっている。また、製造装置１００は、コイルＣから巻き戻された金属板Ｍを一方向に送る不図示の搬送部と、加工された円筒軸を金属板Ｍから切り離す不図示の切断部とを備えている。
【００５２】
アンコイラー１１０は、金属板Ｍが圧延方向に巻回された円筒状のコイル（鋼板コイル）Ｃを軸回りに回転可能に支持し、コイルＣを巻き戻すためのものである。
レベラー１２０は、上下に交互に配置された複数のワークロール１２１を備え、これら上下のワークロール１２１の間に金属板Ｍを通すことで、金属板Ｍを平坦化するように構成されている。
【００５３】
第１プレス機１３０は、プレスにより金属板Ｍを所定の形状に型抜きする抜き加工に用いられる雄型（パンチ）１３１と雌型（ダイ）１３２とを備えている。また、第１プレス機１３０は、型抜きされた金属板Ｍの端面を鍛造プレスにより整形する上型１３３と下型１３４とを備えている。
【００５４】
第２プレス機１４０は、一方向に配置された複数の雌型（曲げダイ）１４１，１４３及び雄型（曲げパンチ）１４２，１４４、並びに、上型１４５及び下型１４６を備え、プレスにより金属板Ｍを曲げ加工をするように構成されている。そして、不図示の搬送部により金属板Ｍを一方向に間欠的に送りながら、順次、異なる型により曲げ加工を行うこと（順送）で、金属板Ｍを徐々に円筒に近づけるように構成されている。
【００５５】
次に、搬送ローラー１５の製造方法について説明する。
まず、例えば板厚が０．８ｍｍ〜１．２ｍｍ程度の冷間圧延鋼板や電気亜鉛めっき鋼板等の金属板Ｍが圧延方向に巻回されたコイルＣを用意する。そして、製造装置１００のアンコイラー１１０によってコイルＣを支持し、コイルＣを軸回りに回転させて金属板Ｍを巻き戻す。コイルＣから巻き戻された金属板Ｍは、コイルＣの内周側の面Ｃ１が凹面、外周面側の面Ｃ２が凸面となる側面視で円弧状の巻きぐせが残った状態になっている。巻き戻された金属板Ｍは不図示の搬送部によって一方向（圧延方向）に搬送され、レベラー１２０に到達する。
【００５６】
レベラー１２０に到達した金属板Ｍは、上下に配置された複数のワークロール１２１によって平坦化され、巻きぐせが矯正される。レベラー１２０によって平坦化された金属板Ｍは、不図示の搬送部によって一方向に搬送され、第１プレス機１３０に到達する。
第１プレス機１３０に到達した金属板Ｍは、雄型１３１と雌型１３２を用いたプレスにより抜き加工される。
【００５７】
図５（ａ）及び図５（ｂ）は、雄型１３１と雌型１３２を用いて金属板Ｍを抜き加工する抜き工程の工程断面図である。
図５（ａ）に示すように、抜き工程において雄型１３１と雌型１３２とを近接させると、雄型１３１と雌型１３２との間に配置された金属板Ｍの上面Ｃ２に雄型１３１の刃先が食い込む。これにより、金属板Ｍの上面Ｃ２には、図５（ｂ）に示すようにダレｓｄが発生する。
【００５８】
雄型１３１と雌型１３２とをさらに近接させると、雄型１３１の刃先が当接する上面Ｃ２にクラックが発生するとともに、雌型１３２の刃先が当接する金属板Ｍの下面Ｃ１にもクラックが発生する。雄型１３１と雌型１３２とをさらに近接させ、雌型１３２が雄型１３１に入り込んだ状態になると、金属板Ｍの双方の面Ｃ１，Ｃ２から発生したクラックが金属板Ｍの厚さ方向に成長して繋がることで、金属板Ｍが破断する。これにより、図５（ｂ）に示すように金属板Ｍが型抜きされて平板部６０が形成される。
【００５９】
型抜きされた金属板Ｍの平板部６０の端面６１ａ，６１ｂには、雄型１３１側の上面Ｃ２から雌型１３２側の下面Ｃ１に向けて、順次、ダレｓｄ、せん断面ｓｐ、破断面ｂｓが形成される。また、端面６１ａ，６１ｂの下面Ｃ１側の縁にはバリ（図示略）が形成される場合がある。ダレｓｄは型抜きされた金属板Ｍの端面６１ａ，６１ｂの近傍において、金属板Ｍの上面Ｃ２が端面６１ａ，６１ｂに近づくに従って下面Ｃ１の側に落ち込むよう変形した滑らかな曲面状の部分である。せん断面ｓｐは、金属板Ｍのせん断により端面６１ａ，６１ｂに形成された比較的平坦な面である。破断面ｂｓは、金属板Ｍの破断により端面６１ａ，６１ｂに形成された比較的凹凸の多い面である。バリは、金属板Ｍが破断する際に金属板Ｍの下面Ｃ１から突出して形成される髭状の部分である。
【００６０】
図６（ａ）及び図６（ｂ）は、本実施形態の鍛造工程の工程断面図である。
図４に示すように、上述の抜き工程において型抜きされた金属板Ｍの平板部６０は、不図示の搬送部によって圧延方向に搬送された後、第１プレス機１３０の上型１３３と下型１３４とによって整形される。
具体的には、図６（ａ）に示すように、まず、金属板Ｍの平板部６０が、下型１３４の所定の位置に配置される。次いで、図６（ｂ）に示すように、上型１３３によって平板部６０を叩くように、上型１３３と下型１３４とを近接させる。すると、平板部６０は下型１３４の凹部１３４ａの形状に対応して変形する。
【００６１】
ここで、下型１３４の凹部１３４ａの形状は、例えば底部１３４ｃにおける金属板Ｍの搬送方向（圧延方向）の寸法ｄ１が開口１３４ｄにおける同方向の寸法ｄ２よりも小さく、側壁１３４ｂが直線的に傾斜するように設けられている。そのため、鍛造による整形後の平板部６０の同方向の寸法は、上型１３３側の上面Ｃ２の寸法ｄ２が下型１３４側の下面Ｃ１の寸法ｄ１よりも大きくなっている。なお、寸法ｄ１及び寸法ｄ２は、それぞれ平板部６０を曲げ加工して形成する円筒軸（ローラー本体１６）の内径及び外径に対応して設定されている。
【００６２】
また、平板部６０の端面６１ａ，６１ｂは、下型１３４の側壁１３４ｂから受ける圧力によって内側に押し込まれるように変形するとともに、ダレｓｄが上型１３３側に押し上げられる。これにより、ダレｓｄが発生して下面Ｃ１側に落ち込んでいた平板部６０の上面Ｃ２の端面６１ａ，６１ｂの近傍が復元され、上面Ｃ２が平坦化される。同時に、端面６１ａ，６１ｂのせん断面ｓｐ、破断面ｂｓ、及びバリ等が、下型１３４の凹部１３４ａの形状に対応して押し潰されるように整形され、平坦化される。
【００６３】
図７は、第１プレス機１３０によって抜き加工された金属板Ｍの平面図である。
図７に示すように、金属板Ｍには、抜き加工により、搬送方向（圧延方向）に連続する枠部７１と、搬送方向と交差する方向に延びる帯状の平板部６０と、枠部７１と平板部６０とを連結する連結部７２とが形成される。本実施形態では、平板部６０は略長方形であり、短辺６０ａが圧延方向に平行で長辺６０ｂが圧延方向と直交するように型抜きされている。金属板Ｍを不図示の搬送部によって間欠的に搬送しながら繰り返しプレスを行うことで、平板部６０と連結部７２は金属板Ｍの搬送方向に等間隔に複数形成される。
第１プレス機１３０によって抜き加工された金属板Ｍの平板部６０は、端面６１ａ，６１ｂが鍛造により整形された後、不図示の搬送部によって搬送され、図４に示す第２プレス機１４０に到達する。
【００６４】
図８（ａ）〜図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）は、第２プレス機１４０による曲げ工程を示す側面図である。
第２プレス機１４０に到達した金属板Ｍの平板部６０は、プレスによって図７に示す短辺６０ａに平行な方向（圧延方向）に曲げ加工される。すなわち、平板部６０の両側の長辺６０ｂ，６０ｂに沿う一対の端面を近接させるように曲げ加工する。そして、図８（ａ）〜図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示すように、これら一対の端面を対向させて突き合わせるように円筒状に形成する。
【００６５】
具体的には、まず、図８（ａ）に示す雌型（曲げダイ）１４１と雄型（曲げパンチ）１４２とで金属板Ｍの平板部６０をプレスし、平板部６０の両側部６２ａ，６２ｂを円弧状（望ましくは略１／４円弧）に曲げる。なお、図８（ａ）においては、各部材を分かりやすくするため、平板部６０と雌型１４１と雄型１４２との間にそれぞれ間隔を開けてこれらの部材を記しているが、この間隔は実際には存在せず、平板部６０と雌型１４１、雄型１４２とはそれぞれの接触部においてほぼ密着している。これは、後述する図８（ｂ）、図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）においても同様である。
【００６６】
ここで、雌型１４１は、図５（ａ）に示す抜き工程において雄型１３１側であった上面Ｃ２（図８において平板部６０の上側の面）に対向するように配置されている。また、雄型１４２は、図５（ａ）に示す抜き工程において雌型１３２側であった下面Ｃ１（図８において平板部６０の下側の面）に対向するように配置されている。これにより、平板部６０の両側部６２ａ，６２ｂは、図５（ａ）に示す抜き工程において雌型１３２側であった下面Ｃ１側に曲げ加工される。
【００６７】
次に、金属板Ｍを一方向に送った後、図８（ｂ）に示す第２の雌型（曲げダイ）１４３と第２の雄型（曲げパンチ）１４４とで、平板部６０の短辺方向（曲げ方向）における中央部をプレスする。そして、図５（ａ）に示す抜き工程において雌型１３２側であった下面Ｃ１側に、平板部６０を円弧状（望ましくは略１／４円弧）に曲げる。
次に、金属板Ｍを一方向に送った後、図８（ｃ）に示すように、平板部６０の内側に芯型１４７を配置する。そして、図８（ｃ）に示す上型１４５と下型１４６とを用いて、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示すように、平板部６０の両側部６２ａ，６２ｂの各端面６１ａ，６１ｂを近接させる。
【００６８】
ここで、図８（ｃ）および図９（ａ）〜図９（ｃ）に示す芯型１４７の外径は、形成する中空円筒状のローラー本体１６の内径と等しくしてある。また、図８（ｃ）に示すように、下型１４６のプレス面１４６ｃの半径と上型１４５のプレス面１４５ａの半径は、それぞれ、研磨しろを考慮したローラー本体１６の外径の半径と等しくしてある。また、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示すように下型１４６は左右一対の割型であり、これら割型１４６ａ，１４６ｂは、それぞれ独立して昇降可能に構成されている。
【００６９】
すなわち、図８（ｃ）に示す状態から、図９（ａ）に示すように左側の割型１４６ａを上型１４５に近接させ、平板部６０の一方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。なお、上型１４５も下型１４６と同様左右一対の割型とし（割面１４５ｂ参照）、この図９（ａ）に示す工程の際に、同じ側の上型を割型１４６ａに近接させてもよい。
次いで、図９（ｂ）に示すように、芯型１４７を少し（一方の側の端面６１ａと他方の側の端面６１ｂとを近接させることができる程度に）上型１４５側へ移動させるとともに、他方の側の割型１４６ｂを上型１４５に近接させ、平板部６０の他方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。
【００７０】
その後、図９（ｃ）に示すように、芯型１４７および一対の割型１４６ａ，１４６ｂを共に上型１４５に近接させ、円筒状のローラー本体（中空パイプ）１６を形成する。この状態で、左右両側の端面６１ａ，６１ｂは互いに対向して突き合わされた状態となる。すなわち、この円筒状のローラー本体１６にあっては、基材である金属板Ｍの平板部６０の両側の端面６１ａ，６１ｂが互いに近接して、これらの端面６１ａ，６１ｂ間に継ぎ目が形成されている。ここで、雄型１３１側であった上面Ｃ２はローラー本体１６の外周面となり、図５（ａ）に示す抜き工程において雌型１３２側であった下面Ｃ１はローラー本体１６の内周面となっている。
【００７１】
図１０は、図８（ａ）〜図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示す工程を経て平板部６０が段階的に円筒状に形成された金属板Ｍを示す平面図である。
図７に示すように型抜きされた金属板Ｍは、図４に示す第２プレス機１４０に到達し、一方向に間欠的に送られながら、図８（ａ）〜図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示す工程により平板部６０がプレスにより順次曲げ加工される（順送プレス）。そのため、図１０に示すように、第２プレス機１４０に到達した平板部６０は、金属板Ｍの搬送方向の前方ほど円筒に近くなっていく。平板部６０が円筒状に形成された後は、不図示の切断部により連結部７２が切断されて中空円筒状のローラー本体１６となる。
【００７２】
次いで、本実施形態では、形成したローラー本体１６の真円度を高め、振れを少なくするべく、従来公知のセンターレス研磨加工を行い、ローラー本体１６の外周面を研磨する。すると、ローラー本体１６は、センターレス研磨加工前に比べその真円度がより良好になり、また、振れ量も小さくなる。また、このローラー本体１６にあっては、対向する端面６１ａ，６１ｂの間隔がより狭まることで、図１１（ａ）に示すように、これら対向する端面６１ａ，６１ｂ間の隙間がより狭くされた継ぎ目８０が形成される。
【００７３】
なお、本実施形態のセンターレス研磨加工では、従来の中実軸に対する研削加工を伴う場合と比較して、材料の快削性を低下させることが可能になる。
また、プレス加工やセンターレス研磨加工では、図１１（ｂ）に示すように、平板部６０の端面６１ａ，６１ｂ間の隙間が無くなるように、すなわち、対向する端面６１ａ，６１ｂが互いに当接するようにするのが好ましい。
【００７４】
このようにしてローラー本体１６を形成したら、このローラー本体１６の表面に図３に示す高摩擦層５０を形成する。
この高摩擦層５０の形成方法としては、乾式法及び湿式法（またはこれらを併用した方法）が採用可能であるが、本実施形態では乾式法が好適に採用される。乾式法では、まず、ローラー本体１６の表面の高摩擦層の形成領域に樹脂粒子を例えば１０μｍ〜３０μｍ程度の均一な膜厚で選択的に塗布して樹脂膜を形成する。そして、その樹脂膜の上に無機粒子を均一に散布した後、焼成する。
高摩擦層５０の形成材料としては、樹脂粒子と無機粒子を用いる。樹脂粒子としては、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等からなる、直径１０〜２０μｍ程度の微粒子が好適に用いられる。
【００７５】
また、無機粒子としては、酸化アルミニウム（アルミナ；Ａｌ２Ｏ３）や炭化珪素（ＳｉＣ）、二酸化珪素（ＳｉＯ２）等のセラミックス粒子が好適に用いられる。中でもアルミナは、比較的硬度が高く摩擦抵抗を高める機能が良好に発揮され、また、比較的安価であってコストダウンを妨げることもないため、より好適に用いられる。したがって、本実施形態では無機粒子としてアルミナ粒子を用いるものとする。このアルミナ粒子としては、破砕処理によって所定の粒径分布に調整されたものが用いられる。本実施形態では粒径が１５μｍ以上９０μｍ以下の範囲とされ、かつ、中心径となる加重平均の粒径（平均粒径）が、４５μｍとなるように調整されたものが用いられている。破砕処理によって製造されることにより、このアルミナ粒子は端部が比較的鋭く尖ったものとなり、この鋭く尖った端部によって高い摩擦力を発揮するようになる。
以上により、図３（ａ）に示すように樹脂膜中にアルミナ粒子が分散し露出してなる高摩擦層５０が形成され、搬送ローラー１５が得られる。
【００７６】
本実施形態では、型抜きされた平板部６０を曲げ加工して円筒軸であるローラー本体１６を形成する際に、抜き工程においてダレｓｄが発生する平板部６０の雄型１３１側の上面Ｃ２がローラー本体１６の外周面となるように曲げ加工している。そのため、バリや破断面ｂｓに連続する平板部６０の下面Ｃ１をローラー本体１６の内周側にすることができる。
【００７７】
これにより、平板部６０の一対の端面６１ａ，６１ｂを突き合わせて継ぎ目８０を有するローラー本体１６を形成する際に、バリや破断面ｂｓの凹凸が障害となって継ぎ目８０が開くことを防止できる。したがって、ローラー本体１６の継ぎ目８０の精度を向上させることができる。また、バリがローラー本体１６の内周面側になり、ローラー本体１６の外周面から突出することを防止できるので、バリ取り工程を省略することができる。
【００７８】
すなわち、本実施形態によれば、金属板Ｍにより形成されるローラー本体１６の継ぎ目８０の精度を向上させ、高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を製造することができる。また、バリ取り工程を省略して、搬送ローラー１５の生産性を向上させることができる。
【００７９】
また、本実施形態では、抜き工程の後、曲げ工程の前に、平板部６０の一対の端面６１ａ，６１ｂを鍛造により整形する鍛造工程を有している。そのため、図１１（ｂ）に示すように、ローラー本体１６の継ぎ目８０における平板部６０の端面６１ａ，６１ｂ間の隙間を減少させ、端面６１ａ，６１ｂを密着させることができる。さらに、抜き工程において平板部６０に発生したバリ、せん断面ｓｐ及び破断面ｂｓ等を平滑にすることができる。したがって、ローラー本体１６の継ぎ目８０の精度をより向上させることができ、高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を製造することができる。
【００８０】
また、図６（ｂ）に示すように、平板部６０の上面Ｃ２の曲げ方向の寸法ｄ２及び下面Ｃ１の曲げ方向の寸法ｄ１が、それぞれローラー本体１６の内径及び外径に対応して設定されている。また、平板部６０の端面６１ａ，６１ｂは断面視で直線的に整形されている。したがって、図１１（ｂ）に示すように、ローラー本体１６の継ぎ目８０において端面６１ａ，６１ｂを隙間なく密着させることが可能になる。
【００８１】
また、本実施形態では、抜き工程において平板部６０の下面Ｃ１の側に落ち込んだ上面Ｃ２の端面６１ａ、６１ｂの近傍のダレｓｄを、鍛造工程において復元して上面Ｃ２を平坦化している。そのため、平板部６０を曲げ加工して端面６１ａ，６１ｂ間に継ぎ目８０を形成する際に、継ぎ目８０の近傍に凹部が形成されることを防止できる。したがって、ローラー本体１６の精度を向上させることができる。
【００８２】
また、本実施形態では、ローラー本体１６の外周面を研磨するセンターレス工程を有している。そのため、抜き工程において平板部６０の上面Ｃ２の端面６１ａ，６１ｂの近傍に発生したダレｓｄが、曲げ工程において残っていた場合であっても、ローラー本体１６の継ぎ目８０の近傍において外周面が陥没することを防止できる。これにより、ローラー本体１６の外周面を均一かつ滑らかにすることができ、ローラー本体１６の真円度を向上させることができる。また、ローラー本体１６の継ぎ目８０の開きを減少させ、継ぎ目８０の精度を向上させることができる。
【００８３】
また、本実施形態では、コイルＣを巻き戻して金属板Ｍを一方向に送りながら順次加工する順送方式を採用している。そのため、搬送ローラー１５を効率的かつ連続的に製造することができ、生産性を向上させ、生産コストを低減することができる。
【００８４】
また、本実施形態では、ローラー本体１６の継ぎ目８０の一対の端面６１ａ，６１ｂ間の距離が、例えば外周面側では３０μｍとなり、内周面側では１０μｍとなっている。一方、ローラー本体１６に設けられる高摩擦層５０には、粒径が１５μｍ以上９０μｍ以下の範囲とされ、かつ、中心径となる加重平均の粒径（平均粒径）が、４５μｍとなるように調整されたアルミナ粒子が用いられている。このように、無機粒子の平均粒径が、ローラー本体１６の継ぎ目８０の、外周面側における一対の端面間６１ａ，６１ｂの距離（すなわち、外周面側の隙間の幅）より大となっている。そのため、ローラー本体１６の表面に無機粒子を配して高摩擦層５０を形成した際、継ぎ目８０が無機粒子によって覆われる。これにより、搬送ローラー１５には継ぎ目８０による溝が形成されなくなる。よって、このような継ぎ目８０による溝がないことにより、この溝に起因する搬送ムラが防止されたものとなる。
【００８５】
以上説明したように、本実施形態の搬送ローラー１５の製造方法によれば、高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を製造することができ、搬送ローラー１５の生産性を向上させることができる。
【００８６】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、上述した実施形態では本発明に係る搬送ローラーを、搬送ローラー機構における搬送ローラーに適用したが、排紙ローラー機構における排紙ローラーや排紙ギザローラーに適用することもでき、さらには、搬送ローラー機構における従動ローラーに適用することもできる。
また、金属板を曲げ加工して突き合わせる一対の端面に互いに嵌合する凹凸を設けてもよい。これにより一対の端面の継ぎ目をより開き難くすることができる。
また、金属板の端面を内周面側から外周面側に傾斜するように（断面視で金属板の端部の外周面側の角部が９０°未満、内周面側の角部が９０°より大になるように）に加工し、曲げ加工して一対の端面を突き合せたときに、端面の外周面側のみが接するようにしてもよい。これにより、外周面の継ぎ目に隙間ができることを防止して精度の高い搬送ローラーを製造することができる。
【符号の説明】
【００８７】
１ インクジェットプリンター（印刷装置）、１５ 搬送ローラー、１６ ローラー本体（円筒軸）、２０ 搬送部（搬送装置）、２１ 印字ヘッド（印刷部）、２６ 軸受、５０ 高摩擦層（媒体支持領域）、６０ 平板部（金属板）、６１ａ 端面、６１ｂ 端面、１３１ 雄型、１３２ 雌型、Ｃ１ 下面、Ｃ２ 上面、Ｍ 金属板、Ｐ 用紙（媒体）
【技術分野】
【０００１】
本発明は、搬送ローラーの製造方法、搬送ローラー、搬送装置及び印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【０００２】
従来から、印刷装置として種々のプリンターが提供されている。このようなプリンターでは、媒体を各種ローラーにより搬送する。具体的には、印刷用紙等の記録媒体を搬送ローラー及び従動ローラーにより印刷部に搬送する。そして、印刷部において記録媒体に画像や文字を印刷した後、印刷された記録媒体を排紙ローラー及び従動ローラーにより排出する。
【０００３】
搬送ローラーは、従動ローラーとの間に記録媒体を挟持し、その状態で回転駆動することにより記録媒体を搬送しており、高い搬送力と高い搬送精度が要求されている。
【０００４】
特許文献１には、このような搬送ローラーに高い摩擦力を保持させるため、金属製丸棒の周面に目打ち加工によって多数の突起を形成する技術が開示されている。しかし、特許文献１では、搬送ローラーとして中実の金属製丸棒材を用いるため、重量の削減が困難であり、例えば搬送ローラーを用いるプリンターの総重量が増大し、また製造コストも増大するという課題がある。
【０００５】
特許文献２には、中実軸のコストダウンを目的として、金属板を曲げ加工して中空円筒状の軸に成形することが記載されている。このような円筒軸では、金属板を曲げ加工して円筒状に形成する際に、金属板の一対の端面同士を突き合せている。そのため、円筒軸の全長に亘って金属板の一対の端面間に継ぎ目が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【０００６】
【特許文献１】特許第３２７１０４８号公報
【特許文献２】特開２００６−２８９４９６号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【０００７】
しかしながら、特許文献２では、プレス加工により型抜きされた金属板を曲げ加工して円筒軸を形成する場合、型抜きの際に端面に発生するバリ等の影響によって金属板の一対の端面の間に形成される継ぎ目の精度が低下する場合がある。このような円筒軸を搬送ローラーに用いると、媒体を搬送する際の精度が低下する虞があるという課題がある。
例えばインクジェットプリンター等の微細な液滴を吐出して画像を形成する装置では、非常に高い紙送り精度（例えば数μｍ〜数十μｍ）が要求される。そのため、金属板を型抜きした後にバリを除去する工程が必要であり、搬送ローラーの生産性を向上させることが困難であった。
【０００８】
そこで、本発明は、高い搬送精度が得られる搬送ローラーを製造することができる搬送ローラーの製造方法、搬送ローラー、搬送装置及び印刷装置を提供することを課題とするる。
【課題を解決するための手段】
【０００９】
上記の課題を解決するために、本発明は、金属板の一対の端面を対向させ円筒状に形成された、媒体を搬送する搬送ローラーの製造方法であって、雌型上に配置された金属板を、前記金属板の上面側に配置された雄型を押圧して所定の形状に型抜きする抜き工程と、型抜きされた前記金属板の前記雄型が配置された側の面が外周面となるようプレス加工により円筒状に形成する曲げ工程と、を有することを特徴とする。
【００１０】
このように製造することで、抜き工程において型抜きされた金属板の端面には、金属板の上面（雄型側）から下面（雌型側）へ向かって、順次、ダレ、せん断面、破断面、バリが形成される。ダレは、型抜きされた金属板の端面の近傍において、金属板の上面が端面に近づくに従って下面の側に落ち込むよう変形した滑らかな曲面状の部分である。せん断面は、金属板のせん断により端面に形成された比較的平坦な面である。破断面は、金属板の破断により端面に形成された比較的凹凸の多い面である。バリは、金属板が破断する際に金属板の下面から突出して形成された髭状の部分である。
本発明では、型抜きされた金属板を円筒状に曲げ加工して一対の端面を対向させることで継ぎ目を有する円筒軸を形成する。その際、抜き工程において雄型側であった金属板の上面が円筒の外周面となるようにしている。そのため、ダレが発生した金属板の上面を円筒軸の外周側にして、バリや破断面に連続する金属板の下面を円筒軸の内周側にすることができる。これにより、金属板の一対の端面を突き合わせて継ぎ目を有する円筒軸を形成する際に、バリや破断面の凹凸が障害となって継ぎ目が開くことを防止できる。したがって、円筒軸の継ぎ目の精度を向上させることができる。また、バリが円筒の内周面側になり、円筒軸の外周面から突出することを防止できるので、バリ取り工程を省略することができる。
すなわち、本発明によれば、金属板により形成される円筒軸の継ぎ目の精度を向上させ、高い搬送精度が得られる搬送ローラーを製造することができる。また、バリ取り工程を省略して、搬送ローラーの生産性を向上させることができる。
【００１１】
また、本発明の搬送ローラーの製造方法は、前記抜き工程の後、前記曲げ工程の前に、前記金属板の前記雄型が配置された側の前記一対の端面を鍛造により整形する鍛造工程をさらに有することを特徴とする。
【００１２】
このように製造することで、金属板の一対の端面の継ぎ目における両端面間の隙間を減少させ、あるいは金属板の両端面を密着させることができる。さらに、抜き工程において発生したバリ、せん断面及び破断面等を平滑にすることができる。したがって、円筒状に形成した金属板の継ぎ目の精度をより向上させることができ、高い搬送精度が得られる搬送ローラーを製造することができる。
【００１３】
また、本発明の搬送ローラーの製造方法は、前記鍛造工程において、前記金属板の前記雄型が配置された側に落ち込んだ前記端面を、復元して平坦化することを特徴とする。
【００１４】
このように製造することで、鍛造工程において端面を平坦化するとともに、金属板の端面を上面の側に押し上げるように変形させ、金属板の上面の端面の近傍において下面側に落ち込んだ部分（ダレ）を復元することができる。これにより、金属板の上面を平坦化することができる。したがって、円筒状に形成した金属板の一対の端面の継ぎ目の近傍に凹部が発生することを防止して、搬送ローラーの精度を向上させることができる。
【００１５】
また、本発明の搬送ローラーの製造方法は、前記曲げ工程の後、円筒状に形成した前記金属板の外周面を研磨するセンターレス工程をさらに有することを特徴とする。
【００１６】
このように製造することで、抜き工程において金属板の上面の端面の近傍に発生したダレが、曲げ工程において残っていた場合であっても、金属板により形成した円筒軸の継ぎ目の近傍において外周面が陥没することを防止できる。これにより、円筒軸の外周面を均一かつ滑らかにすることができ、円筒軸の真円度を向上させることができる。また、金属板の一対の端面の継ぎ目の開きを減少させ、継ぎ目の精度を向上させることができる。
【００１７】
また、本発明の搬送ローラーは、雌型上に配置された金属板に、前記金属板の上面側に配置された雄型を押圧することで所定の形状に型抜きし、型抜きされた前記金属板の一対の端面を対向させて円筒状に形成された搬送ローラーであって、前記型抜きされた金属板の前記雄型が配置された側の面が、外周面となっていることを特徴とする。
【００１８】
このように構成することで、抜き工程において型抜きされた金属板に、ダレ、せん断面、破断面、バリが形成された場合でも、比較的滑らかなダレが形成された金属板の上面を円筒軸の外周側にして、バリや破断面に連続する金属板の下面を円筒軸の内周側にすることができる。これにより、金属板の一対の端面を突き合わせて継ぎ目を有する円筒軸を形成する際に、バリや破断面の凹凸が障害となって継ぎ目が開くことを防止できる。したがって、円筒軸の継ぎ目の精度を向上させることができる。また、バリが円筒の内周面側になり、円筒軸の外周面から突出することを防止できるので、バリ取り工程を省略することができる。
すなわち、本発明によれば、金属板により形成される円筒軸の継ぎ目の精度を向上させ、高い搬送精度が得られる搬送ローラーを提供することができる。
また、搬送ローラーに中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して重量を大幅に減少させることができる。また、搬送ローラーに中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、搬送ローラーの材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【００１９】
また、本発明の搬送装置は、上記の搬送ローラーを備えたことを特徴とする。
【００２０】
このように構成することで、上述のように高い搬送精度が得られる搬送ローラーを軸受により支持して回転させ、媒体支持領域により媒体を支持して高精度に搬送することができる。また、搬送ローラーに中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して装置全体の重量を大幅に減少させることができる。また、搬送ローラーに中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、搬送ローラーの材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【００２１】
また、本発明の印刷装置は、上記の搬送ローラーを備えたことを特徴とする。
【００２２】
このように構成することで、搬送ローラーによって媒体を高精度に搬送することができ、媒体に高い印刷精度で印刷処理を行うことが可能になる。また、搬送ローラーに中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して装置全体の重量を大幅に減少させることができる。また、搬送ローラーに中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、搬送ローラーの材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【００２３】
【図１】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
【図２】（ａ）は搬送部の平面図、（ｂ）は駆動系の側面図である。
【図３】（ａ）は搬送部の概略構成図、（ｂ）は軸受けの概略構成図である。
【図４】本発明の実施形態に係る搬送ローラーの製造装置の概略構成図である。
【図５】本発明の実施形態に係る抜き工程の工程断面図である。
【図６】同、鍛造工程の工程断面図である。
【図７】本発明の実施形態に係る鍛造工程後の金属板の平面図である。
【図８】（ａ）〜（ｃ）は本発明の実施形態に係る曲げ工程の工程図である。
【図９】（ａ）〜（ｃ）は本発明の実施形態に係る曲げ工程の工程図である。
【図１０】本発明の実施形態に係る曲げ工程における金属板の平面図である。
【図１１】（ａ）はローラ本体の斜視図であり、（ｂ）は拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【００２４】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
図１は、本発明の実施形態に係るインクジェットプリンターの側断面図である。
図２（ａ）はインクジェットプリンターの搬送ユニットを示す平面図、図２（ｂ）は搬送ユニットの駆動系を示す側面図である。
【００２５】
図１に示すように、インクジェットプリンター（印刷装置）１は、プリンター本体３と、プリンター本体３の後側上部に設けられた給紙部５と、プリンター本体３の前側に設けられた排紙部７と、を備えている。
【００２６】
給紙部５には給紙トレイ１１が設けられており、給紙トレイ１１には複数枚の用紙（媒体、記録媒体、搬送媒体）Ｐが積載されるようになっている。ここで、用紙Ｐとしては、普通紙、コート紙、ＯＨＰ（オーバーヘッドプロジェクタ）用シート、光沢紙、光沢フィルム等が用いられる。以下、用紙Ｐの搬送経路において、給紙トレイ１１側を上流側、排紙部７側を下流側という。給紙トレイ１１の下流側には、給紙ローラー１３が設けられている。
【００２７】
給紙ローラー１３は、対向する分離パッド（図示略）との間で給紙トレイ１１の最上部に位置する用紙Ｐを挟圧し、下流側へ送り出すように構成されている。給紙ローラー１３の下流側には、搬送ローラー機構１９が設けられている。
搬送ローラー機構１９は、下側に配置された搬送ローラー１５と、上側に配置された従動ローラー１７とを備えている。
【００２８】
搬送ローラー１５は、従動ローラー１７との間に用紙Ｐを挟圧し、図２に示す駆動部３０により回転駆動するように設けられている。これにより、搬送ローラー１５は、用紙Ｐを下流側に配置された印字ヘッド（印刷部）２１へ、搬送印刷処理に伴う精密で正確な搬送（紙送り）動作により搬送することができるようになっている。
【００２９】
印字ヘッド２１はキャリッジ２３に保持されており、キャリッジ２３は給紙方向（用紙Ｐの搬送方向）と直交する方向に往復移動するよう構成されている。印字ヘッド２１による印字処理（印刷処理）は、制御部ＣＯＮＴによって制御されるようになっている。印字ヘッド２１と対向する位置には、プラテン２４が配設されている。
プラテン２４は、キャリッジ２３の移動方向に沿って間隔をあけて配置された、複数のダイヤモンドリブ２５によって構成されている。
【００３０】
ダイヤモンドリブ２５は、印字ヘッド２１によって用紙Ｐに印刷を行う際に用紙Ｐを下側から支持するものであり、頂面が支持面として機能するようになっている。ダイヤモンドリブ２５と印字ヘッド２１との距離は、用紙Ｐの厚さに応じて調節可能になっている。これにより、用紙Ｐはダイヤモンドリブ２５の頂面上を滑らかに通過することが可能となっている。ダイヤモンドリブ２５及び印字ヘッド２１の下流側には、排紙ローラー機構２９が設けられている。
【００３１】
排紙ローラー機構２９は、下側に配置された排紙ローラー２７と上側に配置された排紙ギザローラー２８とを備え、排紙ローラー２７の回転駆動によって用紙Ｐを引き出し、排出するようになっている。
【００３２】
ここで、搬送ローラー機構１９及び排紙ローラー機構２９の駆動部３０及び搬送ローラー１５、排紙ローラー２７の駆動速度の関係について説明する。
プリンター本体３には、図２（ａ）及び図２（ｂ）に示すように、制御部ＣＯＮＴの制御下で駆動される搬送モーター３２が設けられている。この搬送モーター３２の駆動軸にはピニオン３３が設けられており、ピニオン３３には搬送駆動ギア３５が歯合しており、搬送駆動ギア３５には搬送ローラー１５が内挿されて連結されている。
このような構成のもとに搬送モーター３２等は、搬送ローラー１５を回転駆動する駆動部３０となっている。
【００３３】
また、搬送ローラー１５には、搬送駆動ギア３５と同軸にインナーギア３９が設けられており、このインナーギア３９には中間ギア４１が歯合しており、中間ギア４１には排紙駆動ギア４３が歯合している。排紙駆動ギア４３の回転軸は、図２（ａ）に示すように排紙ローラー２７の軸体４５となっている。
このような構成のもとに、搬送ローラー機構１９の搬送ローラー１５と排紙ローラー機構２９の排紙ローラー２７とは、同一の駆動源である搬送モーター３２からの回転駆動力を受け、駆動されるようになっている。
【００３４】
なお、排紙ローラー２７の回転速度は、各ギアのギア比を調整することにより、搬送ローラー１５の回転速度より速くなるように設定されている。したがって、排紙ローラー機構２９の排紙速度は、搬送ローラー機構１９の搬送速度より増速率だけ速くなっている。
また、搬送ローラー機構１９による用紙Ｐの挟持力（押圧力）は、排紙ローラー機構２９による挟持力（押圧力）よりも大きく設定されている。したがって、搬送ローラー機構１９と排紙ローラー機構２９とが共に用紙Ｐを挟持しているとき、その用紙搬送速度は、排紙ローラー機構２９の排紙速度とは関係なく、搬送ローラー機構１９の搬送速度で規定されるようになっている。
【００３５】
次に、搬送ローラー１５及びこれを備える搬送ローラー機構１９について説明する。
図３（ａ）は搬送ローラー機構１９の概略構成を示す図、図３（ｂ）は軸受けの概略構成を示す図である。
搬送ローラー１５は、中空円筒状のローラー本体（円筒軸）１６と、ローラー本体１６の表面の長手方向（軸方向）の一部に形成された高摩擦層（媒体支持領域）５０とを有している。
【００３６】
ローラー本体１６は、例えば亜鉛メッキ鋼板やステンレス鋼板等の金属板が巻回された鋼板コイルを母材として形成されている。ローラー本体１６は、鋼板コイルから巻き戻された帯状の金属板をプレスにより型抜きし、型抜きされた金属板の一対の端面が対向するように曲げ加工されて円筒状に形成された円筒軸である。例えば図５（ａ）及び図５（ｂ）に示されるような第１プレス機１３０による抜き工程よって、ローラー本体１６の母材である金属板Ｍの端面６１ａ，６１ｂには、ダレｓｄ、せん断面ｓｐ、破断面ｂｓが形成される。このように抜き加工された金属板Ｍは、雄型１３１に対向する上面Ｃ２が外周面となる円筒状に曲げ加工され、これによりローラー本体１６が形成されている。そのため、ローラー本体１６は、図１１（ａ）及び図１１（ｂ）に示すように、円筒状に曲げ加工された金属板Ｍの一対の端面６１ａ，６１ｂ間に形成された継ぎ目８０を有している。
【００３７】
高摩擦層５０は、図３（ａ）に示すようにローラー本体１６の両端部を除く中央部に選択的に形成されている。高摩擦層５０の表面には、無機粒子の鋭く尖った部分が露出した状態で固定され、高い摩擦力を発揮するようになっている。
高摩擦層５０は、ローラー本体１６の表面の高摩擦層の形成領域に樹脂粒子を例えば１０μｍ〜３０μｍ程度の均一な膜厚で選択的に塗布して樹脂膜を形成し、その樹脂膜の上に無機粒子を均一に散布した後、焼成することにより形成されている。樹脂粒子としては、例えばエポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等からなる、直径１０〜２０μｍ程度の微粒子が好適に用いられる。また、無機粒子としては、破砕処理によって所定の粒径分布に調整された酸化アルミニウム（アルミナ；Ａｌ２Ｏ３）や炭化珪素（ＳｉＣ）、二酸化珪素（ＳｉＯ２）等のセラミックス粒子が好適に用いられる。
【００３８】
搬送ローラー１５は、図３（ａ）に示すように、その両端部がプラテン２４（図１参照）に一体成形された軸受２６に回転可能に保持されている。図３（ｂ）に示すように、軸受２６は、上方に開口するＵ字形に形成され、このＵ字形部位に搬送ローラー１５を嵌め込むことで、搬送ローラー１５を前後側及び下側の３方向から軸支する。そして、軸受２６と搬送ローラー１５との接触面（搬送ローラー１５の表面）には、グリス等の潤滑油（潤滑液）が供給（塗布）される。また、搬送ローラー１５の一端又は両端には、インナーギア３９や搬送駆動ギア３５が回転不能に係合し連結するための係合部（図示略）が形成されている。搬送ローラー１５には、種々の連結部品に連結するため、種々の形態の係合部が形成可能になっている。
【００３９】
従動ローラー１７は、複数（例えば６個）のローラー１７ａが同軸に配列されて構成されたもので、搬送ローラー１５の高摩擦層５０に対向しかつ当接する位置に配置されたものである。これらローラー１７ａからなる従動ローラー１７には、付勢バネ（図示略）が取り付けられており、これによって従動ローラー１７は、搬送ローラー１５側に付勢されている。
【００４０】
したがって、従動ローラー１７は、搬送ローラー１５の高摩擦層５０に所定の押圧力（用紙Ｐに対する挟持力）で接し、搬送ローラー１５の回転動作に従動して回転するようになっている。また、搬送ローラー１５と従動ローラー１７との間で用紙Ｐを挟持する力が大きくなり、用紙Ｐの搬送性がより良好になっている。
なお、この従動ローラー１７の各ローラー１７ａの表面には、高摩擦層５０との摺接による損傷を緩和するため、例えばフッ素樹脂塗装等の低摩耗処理が施されている。
【００４１】
以上の搬送ローラー１５、軸受２６、駆動部３０及び従動ローラー１７等により、インクジェットプリンター１の搬送部（搬送装置）２０が構成されている。
【００４２】
次に、インクジェットプリンター１の動作について、図１、図２を参照して説明する。
インクジェットプリンター１は、給紙トレイ１１の最上部に位置する用紙Ｐを給紙ローラー１３によって挟圧して下流側へ送り出す。送り出された用紙Ｐは搬送ローラー機構１９に至る。搬送ローラー機構１９は、用紙Ｐを搬送ローラー１５と従動ローラー１７との間で挟圧し、搬送ローラー１５の回転駆動による紙送り動作で印字ヘッド２１の下方に向けて定速で搬送する。印字ヘッド２１の下方に搬送された用紙Ｐは、ダイヤモンドリブ２５の頂面上を滑らかに通過しつつ、印字ヘッド２１によって高品質に印刷される。印字ヘッド２１で印刷された用紙Ｐは、排紙部７の排紙ローラー２７によって順次排出される。
【００４３】
排紙ローラー機構２９の搬送速度は搬送ローラー機構１９の搬送速度より速く設定されているため、用紙Ｐはバックテンションが掛かった状態で搬送される。ただし、搬送ローラー機構１９と排紙ローラー機構２９とが共に用紙Ｐを挟持しているときには、その用紙搬送速度は搬送ローラー機構１９の搬送速度で規定されている。したがって、このように排紙ローラー機構２９と搬送ローラー機構１９とによって排紙と搬送とを同時に行う際にも、その用紙の搬送速度は搬送ローラー機構１９の搬送速度で規定されている。そのため、搬送ムラのない正確で安定した紙送り（搬送）がなされるようになる。
【００４４】
ここで、本実施形態の搬送ローラー１５は、例えば図５（ａ）及び図５（ｂ）に示すような抜き加工によって型抜きされた金属板Ｍを母材として形成されたローラー本体１６を備えている。ローラー本体１６の母材である金属板Ｍは、図５（ａ）に示す雄型１３１に対向する上面Ｃ２が外周面となる円筒状に曲げ加工されている。そして、図１１（ａ）及び図１１（ｂ）に示すように、一対の端面６１ａ，６１ｂが対向して突き合わされた継ぎ目８０を有している。
【００４５】
そのため、抜き工程において図５（ｂ）に示すように型抜きされた金属板Ｍに、ダレｓｄ、せん断面ｓｐ、破断面ｂｓ、バリ（図示略）が形成された場合でも、比較的滑らかなダレｓｄが形成された上面Ｃ２を、ローラー本体１６の外周側にすることができる。そして、バリや破断面ｂｓに連続する金属板Ｍの下面Ｃ１をローラー本体１６の内周側にすることができる。これにより、金属板Ｍの一対の端面６１ａ，６１ｂを突き合わせて継ぎ目８０を有するローラー本体１６を形成する際に、バリや破断面ｂｓの凹凸が障害となって継ぎ目８０が開くことを防止できる。
【００４６】
したがって、本実施形態の搬送ローラー１５によれば、ローラー本体１６の継ぎ目８０の精度を向上させ、高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を提供することができる。また、バリがローラー本体１６の内周面側になり、ローラー本体１６の外周面から突出することを防止でき、バリ取り工程を省略して生産性を向上させることができる。
【００４７】
また、ローラー本体１６に中空の円筒軸を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して重量を大幅に減少させることができる。また、ローラー本体１６に中実軸を用いる場合と比較して材料の切削性に対する要求が低くなる。したがって、ローラー本体１６の材料として鉛等の有害物質を含まない材料を用いることが可能になり、環境負荷を低減することができる。
【００４８】
また、搬送ローラー１５には高摩擦層５０が形成されており、従動ローラー１７がこの高摩擦層５０に当接する位置に配置されている。そのため、これら搬送ローラー１５と従動ローラー１７との間で用紙Ｐを挟持する力が大きくなり、用紙Ｐの搬送性がより良好になっている。
【００４９】
また、本実施形態の搬送部２０は、搬送ローラー１５とこれを支持する軸受２６とを備えている。そのため、上述のように高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を軸受２６により支持して回転させ、高摩擦層５０により用紙Ｐを支持して高精度に搬送することができる。また、搬送ローラー１５に中空のローラー本体１６を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して搬送部２０の重量を大幅に減少させ、環境負荷を低減することができる。
【００５０】
また、本実施形態のインクジェットプリンター１は、搬送部２０によって用紙Ｐを高精度に搬送することができ、用紙Ｐに高い印刷精度で印刷処理を行うことできる。また、搬送ローラー１５に中空のローラー本体１６を採用することで、中実軸を用いる場合と比較して装置全体の重量を大幅に減少させることができ、環境負荷を低減することができる。
【００５１】
次に、搬送ローラー１５の製造装置について説明する。
図４は、本実施形態の搬送ローラー１５の製造装置の模式図である。
図４に示すように、製造装置１００は、アンコイラー１１０と、レベラー１２０と、第１プレス機１３０と、第２プレス機１４０とが、一方向に配置された構成となっている。また、製造装置１００は、コイルＣから巻き戻された金属板Ｍを一方向に送る不図示の搬送部と、加工された円筒軸を金属板Ｍから切り離す不図示の切断部とを備えている。
【００５２】
アンコイラー１１０は、金属板Ｍが圧延方向に巻回された円筒状のコイル（鋼板コイル）Ｃを軸回りに回転可能に支持し、コイルＣを巻き戻すためのものである。
レベラー１２０は、上下に交互に配置された複数のワークロール１２１を備え、これら上下のワークロール１２１の間に金属板Ｍを通すことで、金属板Ｍを平坦化するように構成されている。
【００５３】
第１プレス機１３０は、プレスにより金属板Ｍを所定の形状に型抜きする抜き加工に用いられる雄型（パンチ）１３１と雌型（ダイ）１３２とを備えている。また、第１プレス機１３０は、型抜きされた金属板Ｍの端面を鍛造プレスにより整形する上型１３３と下型１３４とを備えている。
【００５４】
第２プレス機１４０は、一方向に配置された複数の雌型（曲げダイ）１４１，１４３及び雄型（曲げパンチ）１４２，１４４、並びに、上型１４５及び下型１４６を備え、プレスにより金属板Ｍを曲げ加工をするように構成されている。そして、不図示の搬送部により金属板Ｍを一方向に間欠的に送りながら、順次、異なる型により曲げ加工を行うこと（順送）で、金属板Ｍを徐々に円筒に近づけるように構成されている。
【００５５】
次に、搬送ローラー１５の製造方法について説明する。
まず、例えば板厚が０．８ｍｍ〜１．２ｍｍ程度の冷間圧延鋼板や電気亜鉛めっき鋼板等の金属板Ｍが圧延方向に巻回されたコイルＣを用意する。そして、製造装置１００のアンコイラー１１０によってコイルＣを支持し、コイルＣを軸回りに回転させて金属板Ｍを巻き戻す。コイルＣから巻き戻された金属板Ｍは、コイルＣの内周側の面Ｃ１が凹面、外周面側の面Ｃ２が凸面となる側面視で円弧状の巻きぐせが残った状態になっている。巻き戻された金属板Ｍは不図示の搬送部によって一方向（圧延方向）に搬送され、レベラー１２０に到達する。
【００５６】
レベラー１２０に到達した金属板Ｍは、上下に配置された複数のワークロール１２１によって平坦化され、巻きぐせが矯正される。レベラー１２０によって平坦化された金属板Ｍは、不図示の搬送部によって一方向に搬送され、第１プレス機１３０に到達する。
第１プレス機１３０に到達した金属板Ｍは、雄型１３１と雌型１３２を用いたプレスにより抜き加工される。
【００５７】
図５（ａ）及び図５（ｂ）は、雄型１３１と雌型１３２を用いて金属板Ｍを抜き加工する抜き工程の工程断面図である。
図５（ａ）に示すように、抜き工程において雄型１３１と雌型１３２とを近接させると、雄型１３１と雌型１３２との間に配置された金属板Ｍの上面Ｃ２に雄型１３１の刃先が食い込む。これにより、金属板Ｍの上面Ｃ２には、図５（ｂ）に示すようにダレｓｄが発生する。
【００５８】
雄型１３１と雌型１３２とをさらに近接させると、雄型１３１の刃先が当接する上面Ｃ２にクラックが発生するとともに、雌型１３２の刃先が当接する金属板Ｍの下面Ｃ１にもクラックが発生する。雄型１３１と雌型１３２とをさらに近接させ、雌型１３２が雄型１３１に入り込んだ状態になると、金属板Ｍの双方の面Ｃ１，Ｃ２から発生したクラックが金属板Ｍの厚さ方向に成長して繋がることで、金属板Ｍが破断する。これにより、図５（ｂ）に示すように金属板Ｍが型抜きされて平板部６０が形成される。
【００５９】
型抜きされた金属板Ｍの平板部６０の端面６１ａ，６１ｂには、雄型１３１側の上面Ｃ２から雌型１３２側の下面Ｃ１に向けて、順次、ダレｓｄ、せん断面ｓｐ、破断面ｂｓが形成される。また、端面６１ａ，６１ｂの下面Ｃ１側の縁にはバリ（図示略）が形成される場合がある。ダレｓｄは型抜きされた金属板Ｍの端面６１ａ，６１ｂの近傍において、金属板Ｍの上面Ｃ２が端面６１ａ，６１ｂに近づくに従って下面Ｃ１の側に落ち込むよう変形した滑らかな曲面状の部分である。せん断面ｓｐは、金属板Ｍのせん断により端面６１ａ，６１ｂに形成された比較的平坦な面である。破断面ｂｓは、金属板Ｍの破断により端面６１ａ，６１ｂに形成された比較的凹凸の多い面である。バリは、金属板Ｍが破断する際に金属板Ｍの下面Ｃ１から突出して形成される髭状の部分である。
【００６０】
図６（ａ）及び図６（ｂ）は、本実施形態の鍛造工程の工程断面図である。
図４に示すように、上述の抜き工程において型抜きされた金属板Ｍの平板部６０は、不図示の搬送部によって圧延方向に搬送された後、第１プレス機１３０の上型１３３と下型１３４とによって整形される。
具体的には、図６（ａ）に示すように、まず、金属板Ｍの平板部６０が、下型１３４の所定の位置に配置される。次いで、図６（ｂ）に示すように、上型１３３によって平板部６０を叩くように、上型１３３と下型１３４とを近接させる。すると、平板部６０は下型１３４の凹部１３４ａの形状に対応して変形する。
【００６１】
ここで、下型１３４の凹部１３４ａの形状は、例えば底部１３４ｃにおける金属板Ｍの搬送方向（圧延方向）の寸法ｄ１が開口１３４ｄにおける同方向の寸法ｄ２よりも小さく、側壁１３４ｂが直線的に傾斜するように設けられている。そのため、鍛造による整形後の平板部６０の同方向の寸法は、上型１３３側の上面Ｃ２の寸法ｄ２が下型１３４側の下面Ｃ１の寸法ｄ１よりも大きくなっている。なお、寸法ｄ１及び寸法ｄ２は、それぞれ平板部６０を曲げ加工して形成する円筒軸（ローラー本体１６）の内径及び外径に対応して設定されている。
【００６２】
また、平板部６０の端面６１ａ，６１ｂは、下型１３４の側壁１３４ｂから受ける圧力によって内側に押し込まれるように変形するとともに、ダレｓｄが上型１３３側に押し上げられる。これにより、ダレｓｄが発生して下面Ｃ１側に落ち込んでいた平板部６０の上面Ｃ２の端面６１ａ，６１ｂの近傍が復元され、上面Ｃ２が平坦化される。同時に、端面６１ａ，６１ｂのせん断面ｓｐ、破断面ｂｓ、及びバリ等が、下型１３４の凹部１３４ａの形状に対応して押し潰されるように整形され、平坦化される。
【００６３】
図７は、第１プレス機１３０によって抜き加工された金属板Ｍの平面図である。
図７に示すように、金属板Ｍには、抜き加工により、搬送方向（圧延方向）に連続する枠部７１と、搬送方向と交差する方向に延びる帯状の平板部６０と、枠部７１と平板部６０とを連結する連結部７２とが形成される。本実施形態では、平板部６０は略長方形であり、短辺６０ａが圧延方向に平行で長辺６０ｂが圧延方向と直交するように型抜きされている。金属板Ｍを不図示の搬送部によって間欠的に搬送しながら繰り返しプレスを行うことで、平板部６０と連結部７２は金属板Ｍの搬送方向に等間隔に複数形成される。
第１プレス機１３０によって抜き加工された金属板Ｍの平板部６０は、端面６１ａ，６１ｂが鍛造により整形された後、不図示の搬送部によって搬送され、図４に示す第２プレス機１４０に到達する。
【００６４】
図８（ａ）〜図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）は、第２プレス機１４０による曲げ工程を示す側面図である。
第２プレス機１４０に到達した金属板Ｍの平板部６０は、プレスによって図７に示す短辺６０ａに平行な方向（圧延方向）に曲げ加工される。すなわち、平板部６０の両側の長辺６０ｂ，６０ｂに沿う一対の端面を近接させるように曲げ加工する。そして、図８（ａ）〜図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示すように、これら一対の端面を対向させて突き合わせるように円筒状に形成する。
【００６５】
具体的には、まず、図８（ａ）に示す雌型（曲げダイ）１４１と雄型（曲げパンチ）１４２とで金属板Ｍの平板部６０をプレスし、平板部６０の両側部６２ａ，６２ｂを円弧状（望ましくは略１／４円弧）に曲げる。なお、図８（ａ）においては、各部材を分かりやすくするため、平板部６０と雌型１４１と雄型１４２との間にそれぞれ間隔を開けてこれらの部材を記しているが、この間隔は実際には存在せず、平板部６０と雌型１４１、雄型１４２とはそれぞれの接触部においてほぼ密着している。これは、後述する図８（ｂ）、図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）においても同様である。
【００６６】
ここで、雌型１４１は、図５（ａ）に示す抜き工程において雄型１３１側であった上面Ｃ２（図８において平板部６０の上側の面）に対向するように配置されている。また、雄型１４２は、図５（ａ）に示す抜き工程において雌型１３２側であった下面Ｃ１（図８において平板部６０の下側の面）に対向するように配置されている。これにより、平板部６０の両側部６２ａ，６２ｂは、図５（ａ）に示す抜き工程において雌型１３２側であった下面Ｃ１側に曲げ加工される。
【００６７】
次に、金属板Ｍを一方向に送った後、図８（ｂ）に示す第２の雌型（曲げダイ）１４３と第２の雄型（曲げパンチ）１４４とで、平板部６０の短辺方向（曲げ方向）における中央部をプレスする。そして、図５（ａ）に示す抜き工程において雌型１３２側であった下面Ｃ１側に、平板部６０を円弧状（望ましくは略１／４円弧）に曲げる。
次に、金属板Ｍを一方向に送った後、図８（ｃ）に示すように、平板部６０の内側に芯型１４７を配置する。そして、図８（ｃ）に示す上型１４５と下型１４６とを用いて、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示すように、平板部６０の両側部６２ａ，６２ｂの各端面６１ａ，６１ｂを近接させる。
【００６８】
ここで、図８（ｃ）および図９（ａ）〜図９（ｃ）に示す芯型１４７の外径は、形成する中空円筒状のローラー本体１６の内径と等しくしてある。また、図８（ｃ）に示すように、下型１４６のプレス面１４６ｃの半径と上型１４５のプレス面１４５ａの半径は、それぞれ、研磨しろを考慮したローラー本体１６の外径の半径と等しくしてある。また、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示すように下型１４６は左右一対の割型であり、これら割型１４６ａ，１４６ｂは、それぞれ独立して昇降可能に構成されている。
【００６９】
すなわち、図８（ｃ）に示す状態から、図９（ａ）に示すように左側の割型１４６ａを上型１４５に近接させ、平板部６０の一方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。なお、上型１４５も下型１４６と同様左右一対の割型とし（割面１４５ｂ参照）、この図９（ａ）に示す工程の際に、同じ側の上型を割型１４６ａに近接させてもよい。
次いで、図９（ｂ）に示すように、芯型１４７を少し（一方の側の端面６１ａと他方の側の端面６１ｂとを近接させることができる程度に）上型１４５側へ移動させるとともに、他方の側の割型１４６ｂを上型１４５に近接させ、平板部６０の他方の側をプレス加工し、略半円形状に曲げる。
【００７０】
その後、図９（ｃ）に示すように、芯型１４７および一対の割型１４６ａ，１４６ｂを共に上型１４５に近接させ、円筒状のローラー本体（中空パイプ）１６を形成する。この状態で、左右両側の端面６１ａ，６１ｂは互いに対向して突き合わされた状態となる。すなわち、この円筒状のローラー本体１６にあっては、基材である金属板Ｍの平板部６０の両側の端面６１ａ，６１ｂが互いに近接して、これらの端面６１ａ，６１ｂ間に継ぎ目が形成されている。ここで、雄型１３１側であった上面Ｃ２はローラー本体１６の外周面となり、図５（ａ）に示す抜き工程において雌型１３２側であった下面Ｃ１はローラー本体１６の内周面となっている。
【００７１】
図１０は、図８（ａ）〜図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示す工程を経て平板部６０が段階的に円筒状に形成された金属板Ｍを示す平面図である。
図７に示すように型抜きされた金属板Ｍは、図４に示す第２プレス機１４０に到達し、一方向に間欠的に送られながら、図８（ａ）〜図８（ｃ）、図９（ａ）〜図９（ｃ）に示す工程により平板部６０がプレスにより順次曲げ加工される（順送プレス）。そのため、図１０に示すように、第２プレス機１４０に到達した平板部６０は、金属板Ｍの搬送方向の前方ほど円筒に近くなっていく。平板部６０が円筒状に形成された後は、不図示の切断部により連結部７２が切断されて中空円筒状のローラー本体１６となる。
【００７２】
次いで、本実施形態では、形成したローラー本体１６の真円度を高め、振れを少なくするべく、従来公知のセンターレス研磨加工を行い、ローラー本体１６の外周面を研磨する。すると、ローラー本体１６は、センターレス研磨加工前に比べその真円度がより良好になり、また、振れ量も小さくなる。また、このローラー本体１６にあっては、対向する端面６１ａ，６１ｂの間隔がより狭まることで、図１１（ａ）に示すように、これら対向する端面６１ａ，６１ｂ間の隙間がより狭くされた継ぎ目８０が形成される。
【００７３】
なお、本実施形態のセンターレス研磨加工では、従来の中実軸に対する研削加工を伴う場合と比較して、材料の快削性を低下させることが可能になる。
また、プレス加工やセンターレス研磨加工では、図１１（ｂ）に示すように、平板部６０の端面６１ａ，６１ｂ間の隙間が無くなるように、すなわち、対向する端面６１ａ，６１ｂが互いに当接するようにするのが好ましい。
【００７４】
このようにしてローラー本体１６を形成したら、このローラー本体１６の表面に図３に示す高摩擦層５０を形成する。
この高摩擦層５０の形成方法としては、乾式法及び湿式法（またはこれらを併用した方法）が採用可能であるが、本実施形態では乾式法が好適に採用される。乾式法では、まず、ローラー本体１６の表面の高摩擦層の形成領域に樹脂粒子を例えば１０μｍ〜３０μｍ程度の均一な膜厚で選択的に塗布して樹脂膜を形成する。そして、その樹脂膜の上に無機粒子を均一に散布した後、焼成する。
高摩擦層５０の形成材料としては、樹脂粒子と無機粒子を用いる。樹脂粒子としては、エポキシ系樹脂やポリエステル系樹脂等からなる、直径１０〜２０μｍ程度の微粒子が好適に用いられる。
【００７５】
また、無機粒子としては、酸化アルミニウム（アルミナ；Ａｌ２Ｏ３）や炭化珪素（ＳｉＣ）、二酸化珪素（ＳｉＯ２）等のセラミックス粒子が好適に用いられる。中でもアルミナは、比較的硬度が高く摩擦抵抗を高める機能が良好に発揮され、また、比較的安価であってコストダウンを妨げることもないため、より好適に用いられる。したがって、本実施形態では無機粒子としてアルミナ粒子を用いるものとする。このアルミナ粒子としては、破砕処理によって所定の粒径分布に調整されたものが用いられる。本実施形態では粒径が１５μｍ以上９０μｍ以下の範囲とされ、かつ、中心径となる加重平均の粒径（平均粒径）が、４５μｍとなるように調整されたものが用いられている。破砕処理によって製造されることにより、このアルミナ粒子は端部が比較的鋭く尖ったものとなり、この鋭く尖った端部によって高い摩擦力を発揮するようになる。
以上により、図３（ａ）に示すように樹脂膜中にアルミナ粒子が分散し露出してなる高摩擦層５０が形成され、搬送ローラー１５が得られる。
【００７６】
本実施形態では、型抜きされた平板部６０を曲げ加工して円筒軸であるローラー本体１６を形成する際に、抜き工程においてダレｓｄが発生する平板部６０の雄型１３１側の上面Ｃ２がローラー本体１６の外周面となるように曲げ加工している。そのため、バリや破断面ｂｓに連続する平板部６０の下面Ｃ１をローラー本体１６の内周側にすることができる。
【００７７】
これにより、平板部６０の一対の端面６１ａ，６１ｂを突き合わせて継ぎ目８０を有するローラー本体１６を形成する際に、バリや破断面ｂｓの凹凸が障害となって継ぎ目８０が開くことを防止できる。したがって、ローラー本体１６の継ぎ目８０の精度を向上させることができる。また、バリがローラー本体１６の内周面側になり、ローラー本体１６の外周面から突出することを防止できるので、バリ取り工程を省略することができる。
【００７８】
すなわち、本実施形態によれば、金属板Ｍにより形成されるローラー本体１６の継ぎ目８０の精度を向上させ、高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を製造することができる。また、バリ取り工程を省略して、搬送ローラー１５の生産性を向上させることができる。
【００７９】
また、本実施形態では、抜き工程の後、曲げ工程の前に、平板部６０の一対の端面６１ａ，６１ｂを鍛造により整形する鍛造工程を有している。そのため、図１１（ｂ）に示すように、ローラー本体１６の継ぎ目８０における平板部６０の端面６１ａ，６１ｂ間の隙間を減少させ、端面６１ａ，６１ｂを密着させることができる。さらに、抜き工程において平板部６０に発生したバリ、せん断面ｓｐ及び破断面ｂｓ等を平滑にすることができる。したがって、ローラー本体１６の継ぎ目８０の精度をより向上させることができ、高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を製造することができる。
【００８０】
また、図６（ｂ）に示すように、平板部６０の上面Ｃ２の曲げ方向の寸法ｄ２及び下面Ｃ１の曲げ方向の寸法ｄ１が、それぞれローラー本体１６の内径及び外径に対応して設定されている。また、平板部６０の端面６１ａ，６１ｂは断面視で直線的に整形されている。したがって、図１１（ｂ）に示すように、ローラー本体１６の継ぎ目８０において端面６１ａ，６１ｂを隙間なく密着させることが可能になる。
【００８１】
また、本実施形態では、抜き工程において平板部６０の下面Ｃ１の側に落ち込んだ上面Ｃ２の端面６１ａ、６１ｂの近傍のダレｓｄを、鍛造工程において復元して上面Ｃ２を平坦化している。そのため、平板部６０を曲げ加工して端面６１ａ，６１ｂ間に継ぎ目８０を形成する際に、継ぎ目８０の近傍に凹部が形成されることを防止できる。したがって、ローラー本体１６の精度を向上させることができる。
【００８２】
また、本実施形態では、ローラー本体１６の外周面を研磨するセンターレス工程を有している。そのため、抜き工程において平板部６０の上面Ｃ２の端面６１ａ，６１ｂの近傍に発生したダレｓｄが、曲げ工程において残っていた場合であっても、ローラー本体１６の継ぎ目８０の近傍において外周面が陥没することを防止できる。これにより、ローラー本体１６の外周面を均一かつ滑らかにすることができ、ローラー本体１６の真円度を向上させることができる。また、ローラー本体１６の継ぎ目８０の開きを減少させ、継ぎ目８０の精度を向上させることができる。
【００８３】
また、本実施形態では、コイルＣを巻き戻して金属板Ｍを一方向に送りながら順次加工する順送方式を採用している。そのため、搬送ローラー１５を効率的かつ連続的に製造することができ、生産性を向上させ、生産コストを低減することができる。
【００８４】
また、本実施形態では、ローラー本体１６の継ぎ目８０の一対の端面６１ａ，６１ｂ間の距離が、例えば外周面側では３０μｍとなり、内周面側では１０μｍとなっている。一方、ローラー本体１６に設けられる高摩擦層５０には、粒径が１５μｍ以上９０μｍ以下の範囲とされ、かつ、中心径となる加重平均の粒径（平均粒径）が、４５μｍとなるように調整されたアルミナ粒子が用いられている。このように、無機粒子の平均粒径が、ローラー本体１６の継ぎ目８０の、外周面側における一対の端面間６１ａ，６１ｂの距離（すなわち、外周面側の隙間の幅）より大となっている。そのため、ローラー本体１６の表面に無機粒子を配して高摩擦層５０を形成した際、継ぎ目８０が無機粒子によって覆われる。これにより、搬送ローラー１５には継ぎ目８０による溝が形成されなくなる。よって、このような継ぎ目８０による溝がないことにより、この溝に起因する搬送ムラが防止されたものとなる。
【００８５】
以上説明したように、本実施形態の搬送ローラー１５の製造方法によれば、高い搬送精度が得られる搬送ローラー１５を製造することができ、搬送ローラー１５の生産性を向上させることができる。
【００８６】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、上述した実施形態では本発明に係る搬送ローラーを、搬送ローラー機構における搬送ローラーに適用したが、排紙ローラー機構における排紙ローラーや排紙ギザローラーに適用することもでき、さらには、搬送ローラー機構における従動ローラーに適用することもできる。
また、金属板を曲げ加工して突き合わせる一対の端面に互いに嵌合する凹凸を設けてもよい。これにより一対の端面の継ぎ目をより開き難くすることができる。
また、金属板の端面を内周面側から外周面側に傾斜するように（断面視で金属板の端部の外周面側の角部が９０°未満、内周面側の角部が９０°より大になるように）に加工し、曲げ加工して一対の端面を突き合せたときに、端面の外周面側のみが接するようにしてもよい。これにより、外周面の継ぎ目に隙間ができることを防止して精度の高い搬送ローラーを製造することができる。
【符号の説明】
【００８７】
１ インクジェットプリンター（印刷装置）、１５ 搬送ローラー、１６ ローラー本体（円筒軸）、２０ 搬送部（搬送装置）、２１ 印字ヘッド（印刷部）、２６ 軸受、５０ 高摩擦層（媒体支持領域）、６０ 平板部（金属板）、６１ａ 端面、６１ｂ 端面、１３１ 雄型、１３２ 雌型、Ｃ１ 下面、Ｃ２ 上面、Ｍ 金属板、Ｐ 用紙（媒体）
【特許請求の範囲】
【請求項１】
金属板の一対の端面を対向させ円筒状に形成された、媒体を搬送する搬送ローラーの製造方法であって、
雌型上に配置された金属板を、前記金属板の上面側に配置された雄型を押圧して所定の形状に型抜きする抜き工程と、
型抜きされた前記金属板の前記雄型が配置された側の面が外周面となるようプレス加工により円筒状に形成する曲げ工程と、を有することを特徴とする搬送ローラーの製造方法。
【請求項２】
前記抜き工程の後、前記曲げ工程の前に、前記金属板の前記雄型が配置された側の前記一対の端面を鍛造により整形する鍛造工程をさらに有することを特徴とする請求項１に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項３】
前記鍛造工程において、前記金属板の前記雄型が配置された側に落ち込んだ前記端面を、復元して平坦化することを特徴とする請求項２に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項４】
前記曲げ工程の後、円筒状に形成した前記金属板の外周面を研磨するセンターレス工程をさらに有することを特徴とする請求項１ないし請求項３のいずれか一項に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項５】
雌型上に配置された金属板に、前記金属板の上面側に配置された雄型を押圧することで所定の形状に型抜きし、型抜きされた前記金属板の一対の端面を対向させて円筒状に形成された搬送ローラーであって、
前記型抜きされた金属板の前記雄型が配置された側の面が、外周面となっていることを特徴とする搬送ローラー。
【請求項６】
請求項５に記載の搬送ローラーを備えたことを特徴とする搬送装置。
【請求項７】
請求項５に記載の搬送ローラーを備えたことを特徴とする印刷装置。
【請求項１】
金属板の一対の端面を対向させ円筒状に形成された、媒体を搬送する搬送ローラーの製造方法であって、
雌型上に配置された金属板を、前記金属板の上面側に配置された雄型を押圧して所定の形状に型抜きする抜き工程と、
型抜きされた前記金属板の前記雄型が配置された側の面が外周面となるようプレス加工により円筒状に形成する曲げ工程と、を有することを特徴とする搬送ローラーの製造方法。
【請求項２】
前記抜き工程の後、前記曲げ工程の前に、前記金属板の前記雄型が配置された側の前記一対の端面を鍛造により整形する鍛造工程をさらに有することを特徴とする請求項１に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項３】
前記鍛造工程において、前記金属板の前記雄型が配置された側に落ち込んだ前記端面を、復元して平坦化することを特徴とする請求項２に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項４】
前記曲げ工程の後、円筒状に形成した前記金属板の外周面を研磨するセンターレス工程をさらに有することを特徴とする請求項１ないし請求項３のいずれか一項に記載の搬送ローラーの製造方法。
【請求項５】
雌型上に配置された金属板に、前記金属板の上面側に配置された雄型を押圧することで所定の形状に型抜きし、型抜きされた前記金属板の一対の端面を対向させて円筒状に形成された搬送ローラーであって、
前記型抜きされた金属板の前記雄型が配置された側の面が、外周面となっていることを特徴とする搬送ローラー。
【請求項６】
請求項５に記載の搬送ローラーを備えたことを特徴とする搬送装置。
【請求項７】
請求項５に記載の搬送ローラーを備えたことを特徴とする印刷装置。
【図１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【図２】
【図３】
【図４】
【図５】
【図６】
【図７】
【図８】
【図９】
【図１０】
【図１１】
【公開番号】特開２０１１−３８６０６（Ｐ２０１１−３８６０６Ａ）
【公開日】平成２３年２月２４日（２０１１．２．２４）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００９−１８７２６８（Ｐ２００９−１８７２６８）
【出願日】平成２１年８月１２日（２００９．８．１２）
【出願人】（０００００２３６９）セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２３年２月２４日（２０１１．２．２４）
【国際特許分類】
【出願日】平成２１年８月１２日（２００９．８．１２）
【出願人】（０００００２３６９）セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Ｆターム（参考）】
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