説明

搬送装置

【課題】通常パスと反転パスの両方で精度良く用紙を搬送可能な搬送装置を提供する。
【解決手段】搬送装置は、第1の搬送ローラ対10,11と、第2の搬送ローラ対6,7と、第1の搬送ローラ対10,11が第2の搬送ローラ対6,7の下流側に位置するようにシートが搬送される第1の搬送経路と、第1の搬送ローラ対10,11が第2の搬送ローラ対6,7の上流側に位置するようにシートが搬送される第2の搬送経路と、を備えている。シートが第1の搬送経路を搬送される際には|Va|>|Vb|、シートが第2の搬送経路を搬送される際には|Va|≦|Vb|という条件を満たすように、第1の搬送ローラ対10,11と第2の搬送ローラ対6,7の少なくとも一方の周速が切り換えられる。ここで、|Va|は第1の搬送ローラ対10,11の周速の絶対値であり、|Vb|は第2の搬送ローラ対6,7の周速の絶対値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートを搬送する搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
用紙に印字を行う記録装置には、記録装置本体の下部に用紙を略水平に積載保持し、用紙に印字する前に略U字状の搬送経路(以下、Uターンパスと呼ぶこともある。)に沿って用紙を搬送する、いわゆるUターン給紙を行う搬送装置を有するものがある。このような搬送装置は、搬送経路の上流側に配置された給紙ローラ対や、搬送経路の下流側に配置された搬送ローラ対が設けられている。また、小サイズの用紙の搬送に対応するため、これらのローラ対の他に、搬送経路の途中に配置された中間ローラ対を備えたものもある。これらのローラ対は、用紙を狭持した状態で回転することにより用紙を搬送する。
【0003】
このような構成の搬送装置においては、用紙の搬送過程で発生する用紙の傾き(斜行)を矯正する動作が行われることがある。具体的には、中間ローラ対による用紙の搬送中に、停止または逆転する搬送ローラ対に搬送中の用紙の先端を突き当て、用紙の先端を搬送ローラ対のニップラインに合わせることで用紙の斜行が矯正される。この突き当て動作によって、用紙の先端部において用紙の傾きが矯正されることになる。しかし、用紙の搬送をしている中間ローラ対は、用紙の中央部または後方を用紙が傾いた状態で狭持(ニップ)したままとなっており、その結果、用紙の先端と用紙の中央部または後方との間で用紙のねじれが生じる。用紙の先端部の斜行が矯正されると、停止または逆転していた搬送ローラ対を正転させて用紙の先端を狭持し搬送するが、この用紙のねじれは、再び用紙が傾むいて用紙の斜行を引き起こす原因となる。
【0004】
この課題に対処する方法として、特許文献1に開示されたように、固定された軸の周りに揺動するアームに取り付けられたローラ(スイングアーム方式のローラ)を有する中間ローラ対を用いる方法がある。スイングアーム方式のローラは、ローラが受ける用紙からの搬送抵抗の増加に伴ってニップ圧を上昇させ、逆に搬送抵抗を取り除くとニップ圧を低下またはニップを解除させるというものである。ここで、ニップ圧とは、狭持されている用紙へのローラ対からの圧力のことを言う。そして、用紙の傾きの矯正の直後に、ローラの駆動を停止して用紙からの搬送抵抗を受けない状態にすることで、用紙のニップを解除し用紙の傾きの矯正時に生じたねじれを解消することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7533878号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年インクジェット記録装置に代表される記録装置に用いられる搬送装置おいては、小型化および低コスト化が求められている。そのため、搬送ローラ対と中間ローラ対にはそれぞれ別のモータを設けず、単一のモータにより駆動させることが望ましい。単一のモータで両ローラを駆動する場合、特許文献1のように中間ローラ対のみ駆動を停止することは難しい。
【0007】
また、スイングアーム方式のローラにおいては、一対のローラにより狭持された用紙がスイングアーム方式のローラの周速より速い速度で引っ張られると、用紙の搬送抵抗が低下または無くなるため、当該用紙のニップが解除される。この場合、搬送方向下流側の搬送ローラ対の周速を、搬送方向上流側の中間ローラ対の周速より速くすることにより、用紙の斜行矯正時に生じたねじれを解消することが可能である。
【0008】
記録装置には、用紙の両面に印字を行うものがある。このような記録装置は、搬送経路(Uターンパス)を通して用紙の表面を印字部に対向させて印字を行った後、用紙を別の搬送経路(以下、反転パスと呼ぶこともある。)に通して、用紙の表裏を逆転させた状態で再び用紙を印字部まで搬送することができる搬送装置を有する。
【0009】
反転パスは、搬送ローラ対から中間ローラ対に向けて、Uターンパスとは別の経路を通って用紙を搬送するものとすることができ、この場合、中間ローラ対に達した用紙はUターンパスのときと同様に再び搬送ローラ対に向けて搬送される。この場合、Uターンパスでは搬送ローラ対は中間ローラ対の下流に位置するが(図1(a)も参照)、反転パスでは搬送ローラ対は中間ローラ対の上流に位置することになる(図1(b)も参照)。したがって、用紙がいずれか一方のパスを搬送されている場合には、下流側のローラ対の搬送速度が上流側の搬送ローラの搬送速度よりも遅くなる。これにより、ローラ対同士の間で、用紙がパスの外周に張り付いた後に座屈し、斜行やジャムを引き起こすという第1の課題がある。
【0010】
上述のように、スイングアーム式のローラでは、スイングアーム式のローラを有する中間ローラ対の周速より搬送ローラ対の周速を速くする。そのため、これらのローラ対を単一のモータで駆動すると両ローラ対の速度関係を変化することが困難であるため、上記の課題の解決は必須の問題となる。
【0011】
また、上記のように2つ以上の搬送経路に用紙を搬送する搬送装置においては、用紙の搬送方向を振り分けるように可動する振り分け部材が設けられる。このような振り分け部材は、小型化および低コスト化が求められる製品においては、電気的制御のための駆動源を設けないことがある。この場合、ある搬送経路を通る際には、搬送中の用紙からの押圧力により振り分け部材が可動してパスが開き、別のパスを通る際には自重もしくはバネ圧によりパスが閉じているという構成が用いられる。しかし、このような構成においては、用紙の押圧力(反力)により振り分け部材が可動する程度の自重もしくはバネ圧に設定されるため、振り分け部材は比較的小さい力で可動する。そのため、振り分け部材が用紙との摩擦により帯電すると、静電気力により、振り分け部材が可動した状態、つまりパスが開かれた状態からもとに戻らなくなるという現象が発生する可能性がある。この現象が発生すると、次の用紙を搬送する際に、用紙を正常に搬送できず、ジャムの原因となり得るという第2の課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の課題を解決するために、第一発明に係る搬送装置は、シートを狭持した状態で回転して前記シートを搬送する第1の搬送ローラ対と、前記シートを狭持した状態で回転して前記シートを搬送する第2の搬送ローラ対と、前記第1の搬送ローラ対が前記第2の搬送ローラ対の下流側に位置するように前記シートが搬送される第1の搬送経路と、前記第1の搬送ローラ対が前記第2の搬送ローラ対の上流側に位置するように前記シートが搬送される第2の搬送経路と、を備えている。前記シートが前記第1の搬送経路を搬送される際には|Va|>|Vb|、前記シートが前記第2の搬送経路を搬送される際には|Va|≦|Vb|という条件を満たすように、前記第1の搬送ローラ対と前記第2の搬送ローラ対の少なくとも一方の周速が切り換えられる。ここで、|Va|は前記第1の搬送ローラ対の周速の絶対値であり、|Vb|は前記第2の搬送ローラ対の周速の絶対値である。
【0013】
第2の課題を解決するために、第二発明に係る搬送装置は、搬送中のシートからの押圧力によって可動される可動部材と、前記可動部材と突き当たって前記可動部材の可動範囲を制限する突き当て部材と、を備えている。前記可動部材と前記突き当て部材は、帯電列において前記シートよりともに上位にあるか、あるいはともに下位にある材料から構成されている。
【発明の効果】
【0014】
上記第一発明によれば、第1の搬送経路および第2の搬送経路のいずれの経路でシートを搬送する際にも、第1および第2の搬送ローラ対同士の間で、用紙がパス外周に張り付いた後に座屈し、斜行やジャムが発生することを防ぐことができる。
【0015】
上記第二発明によれば、可動部材が搬送中の用紙からの押圧力で可動したときに、静電気力によって可動部材が元の状態に戻らなくなることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した搬送装置の一実施形態を示す縦断面図であり、(a)は通常パス(Uターンパス)搬送時、(b)は反転パス搬送時の用紙の位置を示している。
【図2】本発明を適用した搬送装置を含む記録装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図3】図2に示したスイングアーム式のPFローラの詳細を示した模式的斜視図である。
【図4】本発明を適用した搬送装置の駆動ギア列を模式的に示した斜視図である。
【図5】本発明を適用した搬送装置の駆動ギア列を模式的に示した側面図である。
【図6】図4,5に示したクラッチギアの構成を示した模式的斜視図である。
【図7】本発明を適用した搬送装置の搬送動作の概略を示すフローチャートである。
【図8】本発明を適用した搬送装置の制御装置の概略を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して、同一符号は、同一または対応する部分を示すものである。図2は本発明を適用した用紙搬送装置の一実施形態を示す縦断面図、図7はその搬送動作を説明するフローチャート、図8はその制御装置の概略を示したブロック図である。なお、図2,7,8に一実施形態として示す本発明に係る搬送装置は、プリンタや印刷機等の記録装置において、画像情報に基づいて記録ヘッドにより画像を記録する記録媒体としての用紙を搬送する搬送装置に限定されるものではない。本発明に係る搬送装置は、ファクシミリやスキャナ等の画像読取装置において、画像を読み取る原稿としてのシートを搬送する搬送装置など、用紙や原稿などを搬送するための種々の搬送装置に対しても同様に適用可能なものである。搬送されるシートも用紙に限られない。
【0018】
用紙Pの片面に記録を行う際の搬送装置の動作について、図2と、図7に示すフローチャートを用い、順を追って説明する。図2において、用紙積載部1に積載された用紙Pは、給紙駆動が開始されると(ステップF1)、給紙ローラ2により給送され(ステップF2)、分離土手3に設置された用紙分離手段4により1枚ごとに分離される。分離土手3の上部には、シートの搬送方向を振り分けるように可動する第1の振り分け部材5が設置されている。第1の振り分け部材5は、自重により、図1(a)に示すような通常パス搬送ポジションに位置するように構成されている。分離された用紙Pは第1の振り分け部材5により第1の搬送経路(以下、通常パスとも呼ぶ。)へ給送される(図1(a)も参照)。通常パスは、図1(a)におけるシートPが描かれている部分であり、U字状に湾曲していることが好ましい。通常パスへ給紙された用紙Pは、スイングアーム式のPF(ペーパーフィード)ローラ6と、PFローラ6に従動する従動ローラであるPFピンチローラ7とのニップ部へ送られる。ニップ部とは、PFローラ6とPFピンチローラ7とが互いに圧接されている部分である。従動ローラは、対応するローラまたは搬送中の用紙との摩擦力により回転する。ここで、PFローラ6とPFピンチローラ7とからなるローラ対を、中間ローラ対(第2の搬送ローラ対)と呼ぶ。通常パスでは、後述の搬送ローラ対10,11が当該中間ローラ対6,7の下流側に位置するように用紙Pが搬送される。
【0019】
図3にスイングアーム式のPFローラ6の詳細図を示している。スイングアーム式のPFローラ6は、揺動自在に構成されたスイングアーム8に保持されている。スイングアーム8は、用紙Pから受ける搬送抵抗の低下に応じて、中間ローラ対が用紙Pを狭持する力を低下させるようにPFローラ6を揺動させる。つまり、スイングアーム8は、用紙Pの搬送中の中間ローラ対よりも下流側の用紙Pの部分が中間ローラ対の周速よりも速く引っ張られるとPFローラ6を揺動させることになる。スイングアーム8の揺動軸となる揺動軸部材31は、スイングアーム支持部材32の軸受け部により回動可能に支持されている。またスイングアーム8には、PFローラ6へ駆動を伝達するため、PFローラシャフト33、PFインプットギア34、PFローラ6の回転軸と同一の軸上に配置されたギア35が保持されている。用紙PがPFローラ6およびPFピンチローラ7に狭持された後、給紙ローラ2の駆動が停止される(ステップF3)。この後、用紙Pは、PFローラ6により搬送される(ステップF4)。第2の振り分け部材9は、自重により、図1(b)中に示すような反転パス搬送ポジションに位置するように構成されている。PFローラ6により搬送中の用紙Pの先端は、第2の振り分け部材9を通常パス搬送ポジションに押し上げることにより、引き続き通常パスを搬送される。次いで用紙Pは、LF(ラインフィード)ローラ10と、LFローラ10に従動する従動ローラであるLFピンチローラ11とのニップ部へ給送される。以下、LFローラ10とLFピンチローラ11とからなるローラ対は、搬送ローラ対(第1の搬送ローラ対)と呼ばれる。中間ローラ対で搬送中の用紙Pの先端を、停止中または逆回転中の搬送ローラ対のニップ部(ニップライン)に沿って倣わせて、用紙の斜行を矯正する用紙方向矯正動作が行われる(ステップF5)。その後、用紙Pは、PFローラ6およびLFローラ10により、記録装置に設けられている記録手段(不図示)の下部に搬送される(ステップF6)。本例では、この際のLFローラ10の周速VaとPFローラ6の周速Vbの速度関係は、|Vb|=|Va|×0.66であり、LFローラ10の周速|Va|の方が速くなるよう構成されている。このように、LFローラ10の周速を早くすることで、スイングアーム式のPFローラ6にかかる搬送抵抗が低下または無くなる。これにより、PFローラ6は、PFピンチローラ7とともに狭持している用紙への狭持力を低下するように揺動する。したがって、用紙Pの斜行の矯正時に用紙に生じたねじれを、LFローラ10による用紙の搬送過程で解消でき、ねじれの矯正後に再び用紙Pが斜行することを防ぐことができる。また、搬送方向の下流側に相当するLFローラ10の周速|Va|の方が速いため、用紙Pが座屈して斜行やジャムが発生するという問題を防ぐこともできる。なお、LFピンチローラ11の周速はLFローラ10の周速と等しく、LFピンチローラ11の周速はLFローラ10の周速と等しい。その後、必要に応じて、記録手段により記録動作が行われる(ステップF7)。用紙の片面のみに記録を行う場合は、この後、用紙Pは排紙ローラ12と拍車13によって装置本体の外へ排出される(ステップF9)。
【0020】
次に、用紙Pの裏面にも印字を行う際の動作について順を追って説明する。図2の用紙積載部1から記録部まで用紙Pが給送され、用紙Pの表面に記録が行われる過程(ステップF1〜F7)は上記動作と同一である。用紙Pの裏面に記録を行う場合は、用紙Pの表面の記録が終了した後に排紙ローラ12による用紙Pの排出を行わない。排紙ローラ12は、逆回転して用紙Pを再び装置本体内へ給送する(ステップF11)。排紙ローラ12によって給送された用紙Pは、LFローラ10とLFピンチローラ11に狭持される。その後、LFローラ10によって搬送(ステップF12)される用紙Pは、図1(b)のように自重により反転パス搬送ポジションに位置している第2の振り分け部材9によって、第2の搬送経路(反転パス)へ給送される。本実施形態では、反転パスは、図1(b)におけるシートPが描かれている部分であり、LFローラ10とPFローラ6との間で円弧状に湾曲した湾曲部を有する。湾曲部の外周側の壁面は、反転パス外側ガイド部材14により構成されている。反転パスでは、搬送ローラ対10,11が中間ローラ対6,7の上流側に位置するように用紙Pが搬送される。用紙Pは、反転パス外側ガイド部材14および分離土手3の反転パス搬送面に沿って搬送され、第1の振り分け部材5に達する。第1の振り分け部材5は、自重によりUターンパス搬送ポジションに位置するように構成されているが、図1(b)のように用紙Pの先端が第1の振り分け部材5を押すことにより反転パス搬送ポジションに切り替わる。その後、用紙Pの先端はPFローラ6とPFピンチローラ7に再び狭持される。この際のLFローラ10の周速VaとPFローラ6の周速Vbの速度関係は、|Va|≦|Vb|となっている。これにより、PFローラ6の周速|Vb|が|Va|よりも遅い際に発生し得る問題、つまり用紙Pが反転パスの反転パス外側ガイド部材14に張り付いた後に座屈して斜行やジャムが発生するという問題を防ぐことができる。
【0021】
振り分け部材5,9は、通常パス(第1の搬送経路)と反転パス(第2の搬送経路)とを連結する連結部に設けられている。振り分け部材5,9は、搬送中の用紙Pからの押圧力によって用紙を第1の搬送経路と第2の搬送経路のいずれか一方に向かうように可動される。
【0022】
また、PFローラ6の周速|Vb|はLFローラ10の周速|Va|に対して速すぎないことが好ましい。反転パスでは、用紙Pの先端はPFローラ6およびPFピンチローラ7に狭持されるまで反転パスの外周側の壁面に張り付いて搬送される。しかし、PFローラ6の周速|Vb|がLFローラ10の周速|Va|に対して速すぎる場合、PFローラ6およびPFピンチローラ7に狭持された後に引っ張られることにより、用紙Pの中間部または後方がやがて反転パスの内周側の壁面に張り付くようになる。この場合、PFローラ6は、LFローラ10とLFピンチローラ11による用紙Pのニップ点をスリップさせるように強制的に用紙Pを引っ張る必要がある。そのため、PFローラ6は、用紙を搬送し難くなり、モータに過大な負荷がかかるか、あるいはPFローラ6とPFピンチローラ7による用紙Pのニップ点がスリップするといった問題が発生し得る。この問題の発生を防止するため、LFローラ10およびLFピンチローラ11(搬送ローラ対)と、PFローラ6およびPFピンチローラ7(中間ローラ対)との周速に所定の条件を課すことが好ましい。つまり、反転パスの外周側の壁面に張り付いて搬送される用紙Pの先端が中間ローラ対に狭持された時から用紙Pの後端が搬送ローラ対を抜ける時までの時間が、用紙Pの撓みが解消されて反転パスの内周側の壁面に張り付くまでの時間より短いという条件である。この条件は、以下の数式で表される。
【0023】
【数1】

【0024】
ここで、lmaxは搬送装置により搬送される最長の長さを有する用紙Pの長さである。Loutは反転パスの外周側の壁面に沿って測った、搬送ローラ対10,11から中間ローラ対6,7までの距離である。Linは反転パスの内周側の壁面に沿って測った、搬送ローラ対10,11から中間ローラ対6,7までの距離である。なお、これらの距離の始点と終点は、各ローラ対が狭持する用紙Pとのニップ点により規定した。上記数式の左辺は、最長の長さを有する用紙Pの先端をPFローラ6およびPFピンチローラ7が狭持した時点から当該用紙Pの後端がLFローラ10およびLFピンチローラ11を抜けるまでにかかる時間を表している。上記数式の右辺は、最長の長さを有する用紙Pの先端をPFローラ6およびPFピンチローラ7が狭持した時点から当該用紙Pのたわみが解消されて内周側の壁面に張り付いてしまうまでにかかる時間を表している。この式をVbが満たすべき条件の形に書き換えると以下のように書ける。
【0025】
【数2】

【0026】
なお、通常パスを搬送する際と反転パスを搬送する際とでは、LFローラ10は逆方向に回転するが、PFローラ6は同一方向に回転する。このことを考慮して、上記関係式のVaとVbには絶対値をつけている。ここでは、LFローラ10とPFローラ6を、上記条件を満たすように調節しているので、モータに過大な負荷がかかったり、PFローラ6とPFピンチローラ7による用紙Pのニップ点がスリップしたりするといった問題を解消することができる。
【0027】
その後、用紙Pの先端がPFローラ6とPFピンチローラ7に、用紙Pの後端がLFローラ10とLFピンチローラ11に狭持された状態で搬送が行われる(ステップF13)。用紙Pの先端が第2の振り分け部材9をUターンパス搬送ポジションに押し上げることにより、用紙Pは引き続きUターンパスを搬送される。搬送装置が対応する最長の用紙サイズにおいても用紙Pの後端がLFローラ10とLFピンチローラ11を十分に抜けるまで搬送が行われた後、LFローラ10を再び正転に切り替える(ステップF14)。次いで、用紙Pの先端はLFローラ10へ向けて給送され、用紙方向矯正動作(ステップF5)が行われる。その後、用紙Pは、LFローラ10よりも下流に配置された記録手段の下部に搬送されるが、この際のLFローラ10の周速|Va|は、PFローラ6の周速|Vb|よりも早いことが好ましい。ここでは、|Vb|=|Va|×0.66として、LFローラ10の周速|Va|の方が速くなるようにした。なお、この速度関係は、一例であり、この設定値に限定されるものではない。その後、記録手段により記録動作が行われ、記録が行われた用紙Pは、排紙ローラ12と拍車13によって装置本体外へ排出される。
【0028】
次に、搬送モータ41からLFローラ10およびPFローラ6へ駆動を伝える駆動ギア列の構成について説明する。小型化および低コスト化の観点からは、搬送ローラ対10,11と中間ローラ対6,7は単一のモータにより駆動されることが好ましい。駆動ギア列の模式的斜視図を図4に、その側面図を図5に示している。モータギア(不図示)は、アイドラギア42を介し、LFローラ10の一端部に取り付けられたLFインプットギア43に連結されている。LFインプットギア43には、モータの回転量を検出するための、マーキングが施されたコードホイール(不図示)が取り付けられており、エンコーダセンサ(不図示)によりこれを読み取りLFローラ10の回転量の制御が行われる。LFローラ10のもう一方の端部には、LFアウトプットギア44が取り付けられており、このLFアウトプットギア44からアイドラギア45を経てサンギア61へ駆動が伝達される。サンギア61はクラッチギアとして構成されている。すなわち、図6に示すようにサンギア61とサンギア62の内部にスプリング63が設置されている。サンギア61が正転(図6の矢印sの方向)する際にはスプリング63が締まり、サンギア61とサンギア62は連れ回る。サンギア61が逆転(図6の矢印tの方向)すると、スプリング63が開く方向であるため、サンギア62に負荷がかかるとサンギア61とサンギア62は互いに滑って連れ回らない。また、サンギア61の軸上にはスイングアーム64が設けられており、スイングアーム64にはプラネットギア65が取り付けられている。プラネットギア65とスイングアーム64との間にはスイングアームスプリング66が設けられており、フリクションによってサンギア61が回転する際にはスイングアーム64も連れ回る(揺動する)ように構成されている。サンギア62には多段ギア67の段68が連結されている。また多段ギア67の段69はプラネットギア65と連結可能な位置に設置されている。これらの構成により、サンギア61が正転する際には、サンギア61に入力された駆動は、サンギア61とともに連れ回るサンギア62によって多段ギア67の段68へ駆動が伝えられる。サンギア61が逆転する際には、スイングアーム64が図6の矢印uの方向へ動き、プラネットギア65と多段ギア67の段69が連結され、多段ギア67へ駆動が伝達される。なお、サンギア62はクラッチギアとなっているため、サンギア61の逆転時には、サンギア61,62同士は互いにすべり駆動を妨げない。このような駆動力の伝達方法によると、サンギア61が正転した場合でも逆転した場合でも多段ギア67の回転方向は同一である。また、サンギア62と多段ギア67の段68により伝達する場合と、プラネットギア65と多段ギア67の段69により伝達する場合の減速比は異なり、LFローラ10の周速VaとPFローラ6の周速Vbの関係を調整することができる。上記の例では、前者により駆動を伝達した場合|Vb|=|Va|×0.66、後者により駆動を伝達した場合|Vb|=|Va|となるよう構成されている。多段ギア67の軸上にはPFローラシャフト33が設けられており、PFローラシャフト33のもう一方の端部にPFインプットギア34が配置されている。PFインプットギア34、PFローラ6と同一軸上に配置されたギア35へ駆動を伝達し、PFローラ6を回転させる。なお、本構成ではクラッチギアとスイングアーム64により、LFローラ10からPFローラ6までの駆動ギア列を2系統設け、各駆動ギア列の減速比を変えている。これらの第1の駆動ギア列と第2の駆動ギア列とは切換可能に構成されている。駆動ギア列の切換により、単一のモータであっても、PFローラ6とLFローラ10の少なくとも一方の周速を切り換えることが出来る。なお、これは一例であり、本発明の駆動ギア列の構成を限定するものでない。
【0029】
図8を用いて搬送装置の制御装置の概略を説明する。制御装置は制御部B2を中心に構成されている。制御部B2は、操作パネルB1、もしくは搬送装置に接続されるパーソナルコンピュータ(PC)B10からの入力に従い、モータドライバB3,B12に対してモータ電流制御信号を出力する。紙搬送モータB4(モータ41)はモータドライバB3から入力される信号により、搬送駆動伝達系B5,B7を経て印字・排紙送りローラユニットB6、給紙ローラユニットB8、中間ローラユニットB9を駆動する。また、印字部モータB13はモータドライバB12から入力される信号により、印字部B14を駆動する。紙搬送部や印字部に設けられた各種センサB11により、用紙位置や、搬送ローラの回転数、印字部の印字位置等をセンシングし、信号を制御部B2に入力することにより、適切な制御信号を再びモータドライバB3,B12に対して出力する。
【0030】
図1(a),(b)に示すように、搬送装置は、第1の振り分け部材5と突き当たり第1の振り分け部材5の可動範囲を規制する突き当て部材32と、第2の振り分け部材9と突き当たり第2の振り分け部材9の可動範囲を規制する突き当て部材15と、を有する。これらの突き当て部材9,15は、用紙Pにより振り分け部材5,9が可動させられたときに、振り分け部材5,9が突き当たる面を有する。第1の振り分け部材5と、突き当て部材32と、第2の振り分け部材9と、突き当て部材15とは、いずれもポリスチレンから成る部材であることが好ましい。ポリスチレンは、用紙Pよりも帯電列において下位にあることが知られており、紙との摩擦で負の電荷を帯びる。前記4部材5,9,15,32はいずれも負の電荷を帯びるため、振り分け部材5,9が開いた際に反発する力が働き、静電気による引力により開いた状態から元に戻らないという現象が発生することはない。なお、ここでは前記4部材5,9,15,32をいずれもポリスチレンとしたが、振り分け部材5,9と、対応する突き当て部材15,32とは、帯電列において用紙Pよりともに上位にあるか、あるいはともに下位にある、という条件を満たす材料であれば良い。これにより同様の効果が得られる。
【0031】
なお、上記実施形態では、シートとしての用紙Pの搬送経路を振り分けるように可動する振り分け部材5,9の材料について言及した。このように帯電列を考慮した材料の選択は、搬送中の用紙Pからの押圧力により可動する可動部材と、当該可動部材と突き当たって可動部材の可動範囲を制限する突き当て部材と、を備えた搬送装置全般に適用できる。
【符号の説明】
【0032】
5 第1の振り分け部材
6 PFローラ
7 PFピンチローラ
8 スイングアーム
9 第2の振り分け部材
10 LFローラ
11 LFピンチローラ
15 突き当て部材
32 突き当て部材
41 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを狭持した状態で回転して前記シートを搬送する第1の搬送ローラ対と、
前記シートを狭持した状態で回転して前記シートを搬送する第2の搬送ローラ対と、
前記第1の搬送ローラ対が前記第2の搬送ローラ対の下流側に位置するように前記シートが搬送される第1の搬送経路と、
前記第1の搬送ローラ対が前記第2の搬送ローラ対の上流側に位置するように前記シートが搬送される第2の搬送経路と、を備え、
前記第1の搬送ローラ対の周速の絶対値を|Va|、前記第2の搬送ローラ対の周速の絶対値を|Vb|としたとき、前記シートが前記第1の搬送経路を搬送される際には|Va|>|Vb|、前記シートが前記第2の搬送経路を搬送される際には|Va|≦|Vb|という条件を満たすように、前記第1の搬送ローラ対と前記第2の搬送ローラ対の少なくとも一方の周速が切り換えられるように構成されている、搬送装置。
【請求項2】
前記第1の搬送ローラ対と前記第2の搬送ローラ対は単一のモータにより駆動される、請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記モータから前記第2の搬送ローラ対を構成する一方のローラへ駆動を伝達する第1の駆動ギア列と、前記モータから前記第2の搬送ローラ対を構成する前記一方のローラへ駆動を伝達し、前記第1の駆動ギア列とは異なる減速比の第2の駆動ギア列と、を備え、前記第1の駆動ギア列と前記第2の駆動ギア列は切換可能に構成されている、請求項2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記第2の搬送ローラ対を構成する一方のローラを揺動自在に保持するスイングアームを備え、
前記スイングアームは、前記シートの搬送中の前記第2の搬送ローラ対よりも下流側の前記シートの部分を前記第2の搬送ローラ対の周速よりも速く引っ張ることによって前記シートから受ける力に応じて、前記第2の搬送ローラ対が前記シートを狭持する力を低下させるように前記一方のローラを揺動させる、請求項1から3のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記第2の搬送経路は、前記第1の搬送ローラ対と前記第2の搬送ローラ対との間で円弧状に湾曲した部分を有しており、
maxを前記搬送装置が扱う最長の前記シートの長さ、Loutを前記第2の搬送経路の外周側の壁面に沿って測ったときの前記第1の搬送ローラ対から前記第2の搬送ローラ対までの距離、Linは前記第2の搬送経路の内周側の壁面に沿って測ったときの前記第1の搬送ローラ対から前記第2の搬送ローラ対までの距離としたとき、前記第1の搬送ローラ対および前記第2の搬送ローラ対により前記シートが前記第2の搬送経路を搬送されている際に、前記第1の搬送ローラ対および前記第2の搬送ローラ対の周速は、
【数1】

という条件を満たす、請求項1から4のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項6】
前記第1の搬送経路と前記第2の搬送経路とを連結する連結部に設けられ、搬送中の前記シートからの押圧力によって前記シートを前記第1の搬送経路と前記第2の搬送経路のいずれか一方に向かうように可動される振り分け部材と、
前記振り分け部材と突き当たって前記振り分け部材の可動範囲を制限する突き当て部材と、を備え、
前記振り分け部材と前記突き当て部材は、帯電列において前記シートよりともに上位にあるか、あるいはともに下位にある材料から構成されている、請求項1から5のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項7】
シートを搬送する搬送装置であって、
搬送中の前記シートからの押圧力によって可動される可動部材と、前記可動部材と突き当たって前記可動部材の可動範囲を制限する突き当て部材と、を備え、
前記可動部材と前記突き当て部材は、帯電列において前記シートよりともに上位にあるか、あるいはともに下位にある材料から構成されている、搬送装置。
【請求項8】
前記シートが搬送される第1の搬送経路と、
前記シートが搬送され、前記第1の搬送経路との連結部を有する第2の搬送経路と、を備え、
前記可動部材は、前記連結部において前記シートを前記第1の搬送経路と前記第2の搬送経路のいずれか一方に向かうように可動される振り分け部材である、請求項7に記載の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−40011(P2013−40011A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177862(P2011−177862)
【出願日】平成23年8月16日(2011.8.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】