説明

携帯端末装置のスピーカ特性補償方法

従来は、携帯端末内でスピーカ間に生じるクロストークを低減させる処理ステップを備えたスピーカ特性補償方法はなかった。そのため、携帯端末でスピーカ間に生じるクロストークを低減させることができなかった。この発明にかかるスピーカ特性補償方法は、筐体内部に少なくとも2つのスピーカが収容されている携帯端末装置において、その相互に生じるクロストークを低減させる処理ステップを備え、スピーカ間に生じるクロストークを低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、携帯端末装置内のスピーカ間に生じるクロストークを低減させるスピーカ特性補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のクロストークキャンセラーは、入力信号が対応する仮想音像が聴取者の右耳又は左耳に到達するとされる伝達関数に対して、聴取者の右耳又は左耳に到達するクロストーク成分をキャンセルするための伝達関数が畳み込まれたフィルタを特徴とする。
【0003】
【特許文献1】日本国特許出願出願公開番号 特開平09−327099(第1−2頁)
【0004】
【特許文献2】日本国特許出願出願公開番号 特開2002−111817(第1−2、第9−10頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、スピーカから聴取者の耳に対応する伝達関数に対して、聴取者の右耳又は左耳に到達するクロストーク成分をキャンセルするための伝達関数を畳み込まれたフィルタは存在したが、携帯端末装置の筐体内におけるスピーカ相互間のクロストークを適切に減少させることができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明にかかるスピーカ特性補償方法は、筐体内部に少なくとも2つのスピーカが収容された携帯端末装置のスピーカ特性補償方法において、スピーカへの入力信号に対して、筐体内でスピーカ間に生じるクロストークを低減させる処理を行う処理ステップを備えて構成される。
【発明の効果】
【0007】
この発明にかかるスピーカ特性補償方法は、筐体内部に少なくとも2つのスピーカが収容された携帯端末装置において、スピーカへの入力信号に対して、筐体内でスピーカ間に生じるクロストークを低減させる処理を行う処理ステップを備えて構成されるものであり、携帯端末装置の筐体内におけるスピーカ相互間のクロストークを適切に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
[図1]実施の形態1−7におけるスピーカ再生システムの再生モデルを示す図である。
[図2]実施の形態1におけるスピーカ特性補償回路の概念図である。
[図3]実施の形態2におけるスピーカ特性補償回路の概念図である。
[図4]実施の形態3におけるスピーカ特性補償回路の概念図である。
[図5]実施の形態4におけるスピーカ特性補償回路の概念図である。
[図6]実施の形態5におけるスピーカ特性補償回路の概念図である。
[図7]実施の形態7におけるスピーカ特性補償回路の概念図である。
[図8]実施の形態8におけるスピーカ再生システムの再生モデルを示す図である。
[図9]実施の形態8におけるスピーカ特性補償回路の概念図である。
【符号の説明】
【0009】
1R 第1のスピーカ
1L 第2のスピーカ
2R スピーカ1R用のチャンネル
2L スピーカ1L用のチャンネル
3LR 第1の加工手段
3RL 第2の加工手段
4R 第1の加算手段
4L 第2の加算手段
5RR 第1の直接加工手段
5LL 第2の直接加工手段
6LR 第1の交差加工手段
6RL 第2の交差加工手段
7RR 第1の後加工手段
7LL 第2の後加工手段
8LR 第1の乗算加工手段
8RL 第2の乗算加工手段
9LR 第1のサブバンド分割手段
9RL 第2のサブバンド分割手段
10LR 第1のサブバンド加工手段
10RL 第2のサブバンド加工手段
11LR 第1のサブバンド合成手段
11RL 第2のサブバンド合成手段
13 相関算出手段
14 制御手段
15LR 第1のスイッチ
15RL 第2のスイッチ
16LR 第1の信号加工手段
16RL 第2の信号加工手段
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態1.
発明者による研究の結果、携帯端末装置のサイズを小型化するために後気室を共通にした場合、一方のスピーカから再生される音波が筐体内で音響的に結合して、他方のスピーカに漏れこむという現象が生じることが判明した。図1はこの現象をモデル化したものである。
【0011】
図1に示す第1のスピーカ1R(一方のスピーカ)と第2のスピーカ1L(他方のスピーカ)とは図示しない携帯端末の筐体内に設置されており、後気室を共通にしている。また同図に示すように、第2のスピーカ1Lを駆動するための駆動信号Ldが少なくとも筐体内での音響結合により変形されて、第1のスピーカ1Rから放射されるまでの伝達特性をHLRで表し、第1のスピーカ1Rを駆動するための駆動信号Rdが少なくとも筐体内での音響結合により変形されて、第2のスピーカ1Lから放射されるまでの伝達特性をHRLで表す。更に、第1のスピーカ1Rを駆動する駆動信号Rdがアンプ又はスピーカ特性などによって変形されて、第1のスピーカ1Rから放射されるまでの伝達特性をHRRで表し、第2のスピーカ1Lを駆動する駆動信号Ldがアンプ又はスピーカ特性などによって変形されて、第2のスピーカ1Lから放射されるまでの伝達特性をHLLで表わす。また、上記の変形により第1のスピーカ1Rから放射されるスピーカ放射信号をSRで表し、第2のスピーカ1Lから放射されるスピーカ放射信号をSLで表す。
【0012】
図1に示したとおり、筐体内で音響結合がある携帯端末装置では、駆動信号RdはHRRという伝達特性が付与され、また駆動信号LdがHLRという特性で音響結合される。そして、当該両信号は、加算されて放射される。一方、駆動信号LdはHLLという特性が付与され、また駆動信号RdがHRLという特性で音響結合される。そして、当該両信号は、加算されて放射される。従って、第1のスピーカSR、第2のスピーカSLから放射される信号、スピーカ放射信号SR、スピーカ放射信号SLは、下記数式1のように表わすことができる。
【0013】

この数式1より、スピーカ放射信号SRには駆動信号Rdと駆動信号Ldの両方の成分が含まれ、スピーカ放射信号SLには駆動信号Ldと駆動信号Rdの両方の成分が含まれることが判る。これは、2以上のスピーカにおいて成立する。従って、筐体内で音響結合ある場合には、複数のスピーカで再生しても再生音像が極端に狭くなったり、臨場感のある再生が実現できなかったりするのである。
【0014】
発明者は、以上の現象に着目し、図2に示すスピーカ特性補償回路を図1に示す再生システムモデルの前段に設けることにより、筐体内でスピーカ間に生じるクロストークの低減を図ることとした。
【0015】
図2はこの発明の実施の形態1にかかる携帯端末装置に用いられるスピーカ特性補償回路の概略図である。図2に示すように、この実施の形態にかかるスピーカ特性補償回路は、上述第1のスピーカ1R用のチャンネル2R及び、上述第2のスピーカ1L用のチャネル2Lとを備える。また、このスピーカ特性補償回路は、第2のスピーカ1Lへの入力信号Lを加工して第1のスピーカ1Rに対する交差成分を生成する第1の加工手段3LRと、この第1の加工手段3LRの出力信号を、第1のスピーカ1Rへの直接成分である入力信号Rに加算して駆動信号Rdを出力する第1の加算手段4Rとを備える。同様にこのスピーカ特性補償回路は、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rを加工して第2のスピーカ1Lに対する交差成分を生成する第2の加工手段3RLと、この第2の加工手段3RLの出力信号を、第2のスピーカ1Lへの直接成分である入力信号Lに加算して駆動信号Ldを出力する第2の加算手段4Lとを備える。
【0016】
この実施の形態では、この駆動信号Rd、駆動信号Ldを上述の図1で説明した駆動信号Rd、駆動信号Ldとしてそれぞれ使用する。なお、この実施の形態では、第1の加工手段3LRと第2の加工手段3RLそれぞれの出力(交差成分)がそれぞれ他方のスピーカから一方のスピーカに漏れこむ音を低減させる低減信号に相当する。
【0017】
次に、動作について説明する。本発明の携帯端末装置に入力された入力信号Rは分岐されて、一方は第2の加工手段3RLに入力され、他方は直接成分として第1の加算手段4Rにそれぞれ入力される。同様に、本発明の携帯端末装置に入力された入力信号Lは分岐されて、一方は第1の加工手段3LRに入力され、他方は直接成分として第2の加算手段4Lにそれぞれ入力される。
【0018】
第1の加工手段3LRに入力された入力信号Lは第1の加工手段3LRによって、例えば−HLR/HRRという特性を持つフィルタを通過し、第1の加算手段4Rに入力される。第1の加算手段4Rでは、第1の加工手段3LRからの出力信号(交差成分)と、入力信号R(直接成分)とを加算することによって、駆動信号Rdを生成する。同様に、第2の加工手段3RLに入力された入力信号Rは第2の加工手段3RLによって、例えば−HRL/HLLという特性を持つフィルタを通過し、第2の加算手段4Lに入力される。第2の加算手段4Lでは、第2の加工手段3RLからの出力信号(交差成分)と、入力信号L(直接成分)とを加算することによって、駆動信号Ldを生成する。
【0019】
上記処理によって生成された駆動信号Rd、駆動信号Ldで第1のスピーカ1R、第2のスピーカ1Lを駆動すると、図1より、スピーカRから放射されるスピーカ放射信号SRは、数式2のようになる。
【0020】


また、第2のスピーカ1Lから放射されるスピーカ放射信号SLは、数式3のようになる。
【0021】

【0022】
よって、スピーカ放射信号SR、スピーカ放射信号SLともに、それぞれの入力信号R成分、入力信号L成分だけが放射され、反対側の信号成分がキャンセルされていることが判る。すなわち、この実施の形態によると、筐体内の音響結合がキャンセルされた信号を再生することが可能となるため、スピーカセパレ−ションを高めることができるという効果を得ることができる。
【0023】
なお、この実施の形態では、筐体内で、他方のスピーカから一方のスピーカに漏れこむ音を低減させる低減信号を、上記他方のスピーカへの入力信号を加工することにより得る場合について説明した。しかし、この発明はこれに限定されるものではなく、その生成方法はどのようなものであってもよい。別途作成した信号を加工することにより上記低減信号を生成してもよい。
【0024】
また、伝達特性HRLと伝達特性HLR、伝達特性HRRと伝達特性HLLが、共通している場合又は共通しているとみなせるほど近似している場合にはHLR=HRL=HX、HRR=HLL=HDとみなすことができる。この場合、第1の加工手段3LRと第2の加工手段3RLの伝達特性は、−HX/HDとすることができる。そして、第1のスピーカ1R、第2のスピーカ1Lから放射されるスピーカ放射信号SR、SLはそれぞれ数式4、数式5のようになる。
【0025】

【0026】

よって、例えば、スピーカが筐体内において左右対称又は上下対称に配置されている場合など、この加工手段3の共通化により、信号加工手段の製造コスト削減の効果を得ることができる。
【0027】
また、この発明の実施の形態においては、2チャネル入力、2スピーカ再生の場合のスピーカ特性補償方法について説明した。しかし、この特性補償方法は、2チャネル入力、2スピーカ再生の場合に限定されるものではなく、N(Nは3以上)個のスピーカの特性補償方法についても該当する。
【0028】
また、伝達特性HLR,伝達特性HRLは、筐体内での音響結合に加えて、スピーカ特性が含まれる場合がある。
【0029】
実施の形態2.
実施の形態1においてはクロストークを低減させる処理ステップとして、第1の加工手段3LRと第2の加工手段3RLを用いたが、本実施の形態においては後述する第1の直接加工手段5RR、第2の直接加工手段5LL、第1の交差加工手段6LR、第2の交差加工手段6RLを用いる場合について説明する。なお、スピーカから再生される音波が筐体内で音響的に結合して、他のスピーカに漏れこむ現象については実施の形態1における図1と同様であるために、ここでは説明を省略する。
【0030】
図3はこの発明の実施の形態2にかかる携帯端末装置に用いられるスピーカ特性補償回路の概略図である。図3に示すように、この実施の形態にかかるスピーカ特性補償回路は、上述第1のスピーカ1R用のチャンネル2R及び、上述第2のスピーカ1L用のチャンネル2Lとを備える。また、このスピーカ特性補償回路は、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rを加工して第1のスピーカ1Rに対する直接成分を生成する第1の直接加工手段5RRと、第2のスピーカ1Lへの入力信号Lを加工して第1のスピーカ1Rに対する交差成分を生成する第1の交差加工手段6LRと、上記両加工によって生成される信号を加算して駆動信号Rdを出力する第1の加算手段4Rとを備える。同様に、第2のスピーカ1Lへの入力信号Lを加工して第2のスピーカ1Lに対する直接成分を生成する第2の直接加工手段5LLと、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rを加工して第2のスピーカ1Lに対する交差成分を生成する第2の交差加工手段6RLを、上記両加工によって生成される信号を加算して駆動信号Ldを出力する第2の加算手段4Lとを備える。
【0031】
次に、動作について説明する。本発明の携帯端末装置に入力された入力信号Rは分岐されて、一方は第2の交差加工手段6RLに入力され、他方は第1の直接加工手段5RRに入力される。同様に、本発明の携帯端末装置に入力された入力信号Lは分岐されて、一方は第1の交差加工手段6LRに入力され、他方は第2の直接加工手段5LLに入力される。
【0032】
第1の交差加工手段6LRに入力された入力信号Lは第1の交差加工手段6LRによって、例えば−HLRという特性を持つフィルタを通過し、第1の加算手段4Rに入力される。第1の直接加工手段5RRに入力された入力信号Rは第1の直接加工手段5RRによって、例えばHLLという特性を持つフィルタを通過し、第1の加算手段4Rに入力される。この第1の加算手段4Rにより、駆動信号Rdを生成する。同様に、第2の交差加工手段6RLに入力された入力信号Rは第2の交差加工手段6RLによって、例えば−HRLという特性を持つフィルタを通過し、第2の加算手段4Lに入力される。第2の直接加工手段5LLに入力された入力信号Lは第2の直接加工手段5LLによって、例えばHRRという特性を持つフィルタを通過し、第2の加算手段4Lに入力される。この第2の加算手段4Lにより、駆動信号Ldを生成する。
【0033】
上記処理によって生成された駆動信号Rd、駆動信号Ldで第1のスピーカ1R、第2のスピーカ1Lを駆動すると、図1より、スピーカRから放射されるスピーカ放射信号SRは、数式6のようになる。
【0034】

また、第2のスピーカ1Lから放射されるスピーカ放射信号SLは、数式7のようになる。
【0035】

よって、スピーカ放射信号SR、スピーカ放射信号SLとも、それぞれ入力信号R成分、L成分だけが放射され、反対側の信号成分がキャンセルされていることが判る。すなわち、この実施の形態によると、筐体内の音響結合がキャンセルされた信号を再生することが可能となるため、スピーカセパレ−ションを高めることができるという効果を得ることができる。
【0036】
また、実施の形態1に比べて、本実施の形態の場合には、スピーカに対する入力信号に対して、第1のスピーカ1Rのスピーカ放射信号SR、第2のスピーカ1Lのスピーカ放射信号SLによる音響の振幅及び位相が、左右において相対的に維持されるという効果もある。
【0037】
また、伝達特性HRLと伝達特性HLR、伝達特性HRRと伝達特性HLLが、共通している場合又は共通しているとみなせるほど近似している場合にはHLR=HRL=HX、HRR=HLL=HDとみなすことができる。よって、第1の直接加工手段5RRと第2の直接加工手段5LLの伝達特性は、HDとすることができる。同様に第1の交差加工手段6LRと第2の交差加工手段6RLの伝達特性は、−HXとすることができる。
【0038】
この場合、第1のスピーカ1R、第2のスピーカ1Lから放射されるスピーカ放射信号SR、SLは数式8、数式9のようになる。
【0039】

【0040】

よって、例えば、スピーカが筐体内において左右対称又は上下対称に配置されている場合など、当該、直接加工手段5又は交差加工手段6の共通化により、信号加工手段の製造コスト削減の効果を得ることができる。
【0041】
なお、この実施の形態では、発明の実施の形態1と同一又は相当する部分については同一の符号を付する等して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明した。
【0042】
実施の形態3.
実施の形態2においてはクロストークを低減させる処理ステップとして、第1の直接加工手段5RR、第2の直接加工手段5LL、第1の交差加工手段6LR、第2の交差加工手段6RLを用いたが、本実施の形態においては、スピーカ放射信号とスピーカへの入力信号の振幅、位相について略一致するように更に、後述する、第1の後加工手段7RR、第2の後加工手段7LLを用いる場合について説明する。
【0043】
なお、スピーカから再生される音波が筐体内で音響的に結合して、他のスピーカに漏れこむ現象については実施の形態1における図1と同様であるために、ここでは説明を省略する。
【0044】
また、第1の直接加工手段5RR、第2の直接加工手段5LL、第1の交差加工手段6LR、第2の交差加工手段6RLについては実施の形態2における図3と同様であるためここでは説明を省略する。
【0045】
図4はこの発明の実施の形態3にかかる携帯端末装置に用いられるスピーカ特性補償回路の概略図である。図4に示すように、この実施の形態にかかるスピーカ特性補償回路は、実施の形態2で説明した、第1の直接加工手段5RR、第2の直接加工手段5LL、第1の交差加工手段6LR、第2の交差加工手段6RLに加えて、第1の加算手段4Rで加算された信号を更に加工して第1のスピーカ1Rを駆動する駆動信号Rdを生成する第1の後加工手段7RR及び第2の加算手段4Lで加算された信号を更に加工して第2のスピーカ1Lを駆動する駆動信号Ldを生成する第2の後加工手段7LLを備える。この実施の形態では、この駆動信号Rd,駆動信号Ldを上述の図1で説明した駆動信号Rd、駆動信号Ldとしてそれぞれ説明する。
【0046】
次に動作について説明する。第1の加算手段4Rで加算された信号は、第1の後加工手段7RRに入力される。第1の後加算手段7RRに入力された信号は、第1の後加工手段7RRによって、例えば、1/(HLL・HRR−HLR・HRL)という特性を持つフィルタを通過し、駆動信号Rdを生成する。同様に第2の加算手段4Lで加算された信号は、第2の後加工手段7LLに入力される。第2の後加工手段7LLに入力された信号は、第2の後加工手段7LLによって、例えば、1/(HLL・HRR−HLR・HRL)という特性を持つフィルタを通過し、駆動信号Ldを生成する。
【0047】
上記処理によって生成された駆動信号Rd、駆動信号Ldでそれぞれ第1のスピーカ1R、第2のスピーカ1Lを駆動すると、図1より、スピーカRから放射されるスピーカ放射信号SRは、数式10のようになる。
【0048】


また、第2のスピーカ1Lから放射されるスピーカ放射信号SLは、数式11のようになる。
【0049】

よって、スピーカ放射信号SR、スピーカ放射信号SLとも、それぞれ、入力信号R成分、L成分だけが放射され、反対側の信号成分がキャンセルされていることが判る。すなわち、この実施の形態によると、筐体内の音響結合がキャンセルされた信号を再生することが可能となるため、スピーカセパレ−ションを高めることができるという効果を得ることができる。
【0050】
また、実施の形態1、実施の形態2に比べて、本実施の形態の場合には、スピーカ特性や筐体内の音響結合の影響をより一層完全にキャンセルすることができる。つまり、スピーカによる出力信号をスピーカへの入力信号と振幅又は位相を略一致させることができる。
【0051】
また、伝達特性HRLと伝達特性HLR、伝達特性HRRと伝達特性HLLが、共通している場合又は共通しているとみなせるほど近似している場合にはHLR=HRL=HX、HRR=HLL=HDとみなすことができる。よって、第1の後加工手段7RRと第2の後加工手段7LLの伝達特性は、1/(HD−HX)とすることができる。同様にこの場合、第1のスピーカ1R、第2のスピーカ1Lから放射されるそれぞれのスピーカ放射信号SR、スピーカ放射信号SLは数式12、数式13のようになる。
【0052】

【0053】

よって、例えば、スピーカが筐体内において左右対称又は上下対称に配置されている場合など、この後加工手段7の共通化により、信号加工手段の製造コスト削減の効果を得ることができる。
【0054】
また、この実施の形態では、発明の実施の形態1及び発明の実施の形態2と同一又は相当する部分については同一の符号を付する等して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明した。
【0055】
また、この実施の形態では、第1の後加工手段7RR、第2の後加工手段7LLを第1の直接加工手段5RR、第2の直接加工手段5LL、第1の交差加工手段6LR、第2の交差加工手段6RLの後にするものとして説明した。しかし、この発明はこれに限定されるものではなく、第1の直接加工手段5RR、第2の直接加工手段5LL、第1の交差加工手段6LR、第2の交差加工手段6RLの前にスピーカ放射信号とスピーカへの入力信号の振幅、位相について略一致するように加工する、前加工手段である場合もある。
【0056】
実施の形態4.
実施の形態1においてはクロストークを低減させる処理ステップとして、第1の加工手段3LRと第2の加工手段3RLを用いたが、本実施の形態においては後述する、第1の乗算加工手段8LR、第2の乗算加工手段8RLを用いる場合について説明する。
【0057】
なお、スピーカから再生される音波が筐体内で音響的に結合して、他のスピーカに漏れこむ現象については実施の形態1における図1と同様であるために、ここでは説明を省略する。
【0058】
図5はこの発明の実施の形態2にかかる携帯端末装置に用いられるスピーカ特性補償回路の概略図である。図5が示すようにこの実施の形態にかかるスピーカ特性補償回路は第2のスピーカ1Lへの入力信号Lを加工して第1のスピーカ1Rに対する交差成分を生成する第1の乗算加工手段8LRと、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rを加工して第2のスピーカ1Lに対する交差成分を生成する第2の乗算加工手段8RLを備える。
【0059】
次に、動作について説明する。本発明の携帯端末装置に入力された入力信号Rは分岐されて、一方は第2の乗算加工手段8RLに入力され、他方は直接成分として第1の加算手段4Rにそれぞれ入力される。同様に、本発明の携帯端末装置に入力された入力信号Lは分岐されて、一方は第1の乗算加工手段8LRに入力され、他方は直接成分として第2の加算手段4Lにそれぞれ入力される。
【0060】
第1の乗算加工手段8LRに入力された入力信号Lは第1の乗算加工手段8LRによって、例えば1未満のスカラー値βを乗算し、符号を反転させるという特性を持つフィルタを通過し、第1の加算手段4Rに入力される。第1の加算手段4Rでは、第1の乗算加工手段8LRからの出力信号と、入力信号Rとを加算することによって、駆動信号Rdを生成する。同様に、第2の乗算加工手段8RLに入力された入力信号Rは第2の乗算加工手段8RLによって、例えば1未満のスカラー値αを乗算し、符号を反転させるという特性を持つフィルタを通過し、第2の加算手段4Lに入力される。第2の加算手段4Lでは、第2の乗算加工手段8RLからの出力信号と、入力信号Lとを加算することによって、駆動信号Ldを生成する。
【0061】
上記処理によって生成された駆動信号Rd、駆動信号Ldで第1のスピーカ1R、第2のスピーカ1Lを駆動すると、図1より、スピーカRから放射されるスピーカ放射信号SRは、数式14のようになる。
【0062】

また、第2のスピーカ1Lから放射されるスピーカ放射信号SLは、数式15のようになる。
【0063】

【0064】
次に、第1の乗算加工手段8LRに使用する最適な係数βを決定する。すなわち、第1のスピーカ1Rのスピーカ放射信号SRが第2のスピーカ1Lへの入力信号Lとのセパレーションを高めるためには、(βHRR−HLR)の値がゼロに最も近くなるような値を決定するにすればよいことが判る。つまり、最適な係数βは、数式16になる。
【0065】

このことは、第1の乗算加工手段8LRにおいて、入力信号Lに対して最適な係数βを乗算することによって、駆動信号RdにおいてR成分だけが放射され、他の信号成分(L成分)がキャンセル又は減少されることが判る。同様に、第2の乗算加工手段8RLに使用する最適な係数αを決定する。すなわち、第2のスピーカ1Lのスピーカ放射信号SLが第1のスピーカへの入力信号Rとのセパレーションを高めるためには、(αHLL−HRL)の値がゼロに最も近くなるような値を決定するにすればよいことが判る。つまり、最適な係数αは、数式17になる。
【0066】

このことは、第2の乗算加工手段8RLにおいて、入力信号Rに対して最適な係数αを乗算することによって、駆動信号LdにおいてL成分だけが放射され、他の信号成分(R成分)がキャンセル又は減少されることが判る。
【0067】
以上のことからα、βを決定しα、βを、第1の乗算加工手段8LR、第2の乗算加工手段8RLに用いることで、筐体内の音響結合がキャンセルされた信号を再生することが可能となるため、スピーカセパレ−ションを高めることができるという効果を得られる。
【0068】
また、上記乗算加工手段8は製造コストが安価であるために、低いコストでスピーカの特性補償を実現できるという効果がある。
【0069】
なお、この実施の形態では、発明の実施の形態1と同一又は相当する部分については同一の符号を付する等して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明した。
【0070】
実施の形態5.
実施の形態1においてはクロストークを低減させる処理ステップとして、第1の加工手段3LRと第2の加工手段3RLを用いたが、本実施の形態においては後述する、第1のサブバンド分割手段9LR、第1のサブバンド加工手段10LR、第1のサブバンド合成手段11LR、第2のサブバンド分割手段9RL、第2のサブバンド加工手段10RL、第2のサブバンド合成手段11RL、を用いる場合について説明する。
【0071】
なお、スピーカから再生される音波が筐体内で音響的に結合して、他のスピーカに漏れこむ現象については実施の形態1における図1と同様であるために、ここでは説明を省略する。また、第1の加算手段4R,第2の加算手段4Lにおける加算は、実施の形態1と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0072】
図6はこの発明の実施の形態5にかかる携帯端末装置に用いられるスピーカ特性補償回路の概略図である。図6が示すようにこの実施の形態にかかるスピーカ特性補償回路は、第2のスピーカ1Lへの入力信号Lを加工して第1のスピーカ1Rに対する交差成分を生成する第1のサブバンド分割手段9LR、第1のサブバンド加工手段10LR、第1のサブバンド合成手段11LRと、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rを加工して第1のスピーカ1Rに対する交差成分を生成する第2のサブバンド分割手段9RL、第2のサブバンド加工手段10RL、第2のサブバンド合成手段11RLを備える。
【0073】
次に、動作について説明する。第2のスピーカ1Lへの入力信号Lは、第2の加算器4L及び第1のサブバンド分割手段9LRに入力される。サブバンド分割手段9LRでは、入力信号Lを周波数の高低を基準にK個のサブバンドに分割する。サブバンド分割手段9LRによって分割された信号を低域から順に信号L1、L2、…LKとする。信号L1は、第1のサブバンド加工手段10LR1へ入力される。信号L2は、第1のサブバンド加工手段10LR2へ入力される、順番に信号LKまで、それぞれ対応する第1のサブバンド加工手段10LRj(j=1,2…K)へと入力される。第1のサブバンド加工手段10LRjでは、入力された信号Ljを加工して出力する。例えば、−HLR/HRRという特性の中で帯域jに相当する帯域と同等の特性を切り出し、入力された信号Ljを加工する。さらに当該信号Ljに対してある係数γjを乗算した特性を付加する加工を施す。加工された第1のサブバンド加工手段10LRjからの出力信号は、第1のサブバンド合成手段11LRによって合成され、第1の加算手段4Rに入力される。第1の加算手段4Rでは、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rと第1のサブバンド合成手段11LRからの出力信号を加算して第1のスピーカ1Rを駆動するための駆動信号Rdを出力する。
【0074】
同様に、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rは、第1の加算器4R及び第2のサブバンド分割手段9RLに入力される。サブバンド分割手段9RLでは、入力信号Rを周波数の高低を基準にK個のサブバンドに分割する。サブバンド分割手段9RLによって分割された信号を低域から順に信号R1、R2、…RKとする。信号R1は、第2のサブバンド加工手段10RL1へ入力される。信号R2は、第2のサブバンド加工手段10RL2へ入力される、順番に信号RKまで、それぞれ対応する第2のサブバンド加工手段10RLj(j=1,2…K)へと入力される。第2のサブバンド加工手段10RLjでは、入力された信号Rjを加工して出力する。例えば、−HRL/HLLという特性の中で帯域jに相当する帯域と同等の特性を切り出し、入力された信号Rjを加工する。さらに当該信号Rjに対してある係数γjを乗算した特性を付加する加工を施す。加工された第2のサブバンド加工手段10RLjからの出力信号は、第2のサブバンド合成手段11RLによって合成され、第2の加算手段4Lに入力される。第2の加算手段4Lでは、第2のスピーカ1Lへの入力信号Lと第2のサブバンド合成手段11RLからの出力信号を加算して第2のスピーカ1Lを駆動するための駆動信号Ldを出力する。
【0075】
以上の処理により、全ての帯域でγjを1とすれば、実施の形態1と同様の効果が得られる。γjを変化させれば、帯域ごとに加工の度合いを変化させることができ、例えば、低域信号のγjを大きめに設定することにより、出力信号の低域信号成分を強調することが可能となる。
【0076】
なお、この実施の形態では、上述の実施の形態と同一又は相当する部分については同一の符号を付する等して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明した。
【0077】
実施の形態6.
実施の形態1においてはクロストークを低減させる処理ステップとして、第1の加工手段3LRと第2の加工手段3RLを用いたが、本実施の形態においては図示されていないが後述する、第1の低域通過手段、第2の低域通過手段を用いる場合について説明する。なお、当該実施の形態は図2における第1の加工手段3LRを第1の低域通過手段に置き換え、第2の加工手段3RLを第2の低域通過手段に置き換えた図に等しい。
【0078】
また、スピーカから再生される音波が筐体内で音響的に結合して、他のスピーカに漏れこむ現象については実施の形態1における図1と同様であるために、ここでは説明を省略する。
【0079】
この実施の形態にかかるスピーカ特性補償回路は、第2のスピーカ1Lへの入力信号Lを加工して第1のスピーカ1Rに対する交差成分を生成する第1の低域通過手段と、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rを加工して第2のスピーカ1Lに対する交差成分を生成する第2の低域通過手段を備える。
【0080】
次に、動作について説明する。第2のスピーカ1Lへの入力信号Lは、第2の加算器4L及び第1の低域通過手段に入力される。第1の低域通過手段では、例えば、−HLR/HRRにLPF(Low Pass Filer低域通過フィルタ)を通して得られる特性を付与する加工を施す。加工された第1の低域通過手段からの出力信号は、第1の加算手段4Rに入力される。第1の加算手段4Rでは、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rと第1の低域通過手段からの出力信号を加算して第1のスピーカ1Rを駆動するための駆動信号Rdを出力する。同様に、第1のスピーカ1Rへの入力信号Rは、第1の加算器4R及び第1の低域通過手段に入力される。第2の低域通過手段では、例えば、−HRL/HLLにLPF(Low Pass FiLteR:低域通過フィルタ)を通して得られる特性を付与する加工を施す。加工された第2の低域通過手段からの出力信号は、第2の加算手段4Lに入力される。第2の加算手段4Lでは、第2のスピーカ1Lへの入力信号Lと第2の低域通過手段からの出力信号を加算して第2のスピーカ1Lを駆動するための駆動信号Ldを出力する。
【0081】
本実施の形態によれば、低域信号成分のみについて、音響結合のキャンセル処理を行うことになる。従って、高域信号成分をキャンセルする信号の位相の不整合によって起こる、高域成分の強調感を減少させることができるため、快適に音響信号を受聴することができるようになるという効果がある。
【0082】
なお、この実施の形態では、発明の実施の形態1と同一又は相当する部分については同一の符号を付する等して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明した。
【0083】
また、この実施の形態に記載した技術は、実施の形態1以外にも適応可能である。
【0084】
実施の形態7.
実施の形態1においてはクロストークを低減させる処理ステップとして、第1の加工手段3LRと第2の加工手段3RLを用いたが、本実施の形態においては後述する、相関算出手段13、制御手段14、第1のスイッチ15LRa、第1のスイッチ15LRb、第2のスイッチ15RLa、第2のスイッチ15RLb、第1の信号加工手段16LR、第2の信号加工手段16RL、を用いる場合について説明する。
【0085】
なお、スピーカから再生される音波が筐体内で音響的に結合して、他のスピーカに漏れこむ現象については実施の形態1における図1と同様であるために、ここでは説明を省略する。また、第1の加算手段4R,第2の加算手段4Lにおける加算は、実施の形態1と同様であるためここでは説明を省略する。
【0086】
図7はこの発明の実施の形態7にかかる携帯端末装置に用いられるスピーカ特性補償回路の概略図である。図7が示すようにこの実施の形態にかかるスピーカ特性補償回路は、第1のスピーカ1Rへの入力信号R、第2のスピーカ1Lへの入力信号Lの周波数成分毎の相関を算出する相関算出手段13と、入力信号L及び入力信号Rの相関に基づいて第1のスイッチ15LR及び第2のスイッチ15RLを制御する制御手段14と、入力された信号を加工する第1の信号加工手段16LR、第2の信号加工手段16RLを備える。第1のスイッチ15LRは、第1の信号加工手段16LR1〜第1の信号加工手段16LRKのいずれか一つと第2のスイッチ15RLは、第2の信号加工手段16RL1〜第2の信号加工手段16RLKのいずれか一つと接続させる。
【0087】
次に、動作について説明する。第1のスピーカ1Rへの入力信号Rは、第1の加算器4R、第2のスイッチ15RLa、及び相関算出手段13に入力される。第2のスピーカ1Lへの入力信号Lは、第2の加算器4L、第1のスイッチ15LRa、及び相関算出手段13に入力される。相関算出手段13では、入力信号R及び入力信号Lの相関を周波数成分ごとに算出し、算出結果を制御手段14に入力する。算出結果が入力された制御手段14では、入力信号R及び入力信号Lの周波数ごとの相関係数に応じて、第1のスイッチ15LRa、第1のスイッチ15LRb及び第2のスイッチ15RLa、第2のスイッチ15RLbを切り替える。例えば、ある帯域の相関が高い場合には、その帯域に相当する帯域の信号強度をゼロとする第1の信号加工手段16RL又は第2の信号加工手段16LRに接続されるように第1のスイッチ15LR又は第2のスイッチ15RLを制御する。第1の信号加工手段16RLとしては、例えば、ある特定の帯域の信号強度をゼロにしてから、−HLR/HRRという特性を付与する加工を施す場合がある。第2の信号加工手段16LRとしては、例えば、ある特定の帯域の信号強度をゼロにしてから、−HRL/HLLという特性を付与する加工を施す場合がある。
【0088】
ここで、ある帯域の相関が高いときには、入力信号L、入力信号Rのある帯域の信号成分が同相に近いことを意味する。このとき、音響結合をキャンセルするための処理によって、元の信号と、元の信号の逆相に近い信号を加算することになるため、相関が高い帯域の成分が減少してしまい、聴感上の劣化が生じることになる。しかしながら、上記の実施例によると、相関が高い帯域の信号成分は、ゼロを加算することになるため、上記のような聴感上の劣化が発生しなくなるという効果がある。
【0089】
さらに、もともと同相成分は中央に定位する音であるため、同相成分に対しては音響結合をキャンセルしなくても、受聴者は良好な音像を得ることが可能である。
【0090】
なお、この実施の形態では、発明の実施の形態1と同一又は相当する部分については同一の符号を付する等して説明を省略し、異なる部分についてのみ説明した。
【0091】
実施の形態8.
複数のスピーカからなる再生システムをモデル化したものを図8に示す。図8に示した通り、この再生システムでは、N個のスピーカの気室が共通となるため、筐体内において相互に音響結合が生じる。この音響結合を筐体内クロストーク成分と呼ぶこととする。また、本再生システムでは、再生システムのあるチャネルに入力された信号が直接伝達して該当するスピーカから放射される特性も考慮する。これを筐体内ダイレクト成分と呼ぶこととする。図8において以下の記号を定義する。再生システムでi番目のスピーカを駆動する信号を、駆動信号Sdiと、再生システムでi番目のスピーカから放射される信号を、スピーカ放射信号Siと、iチャネルの駆動信号Sdiが、スピーカ特性やアンプ特性、音響結合等により変形されてiスピーカから放射されるまでの伝達特性を伝達特性Hiiと、iチャネルの駆動信号Sdiが、スピーカ特性やアンプ特性、音響結合等により変形されj個目のスピーカから放射されるまでの伝達特性を伝達特性Hij、とする。
【0092】
図8の再生システムから放射される放射信号S、スピーカを駆動させる駆動信号Sd、伝達特性Hは、数式18のようにおける。
【0093】

【0094】

【0095】

すると、数式21のようになる
【0096】

数式21より、スピーカから放射されるスピーカ放射信号Siは、他のチャネルの筐体内クロストーク成分を含むことが分かる。
【0097】
図9に、数21に示した筐体内クロストーク成分をキャンセルすることができる処理を示す。チャネルiの入力信号XiをフィルタGijで処理して、チャネルjに加算し、スカラー値σを乗算する筐体内クロストークキャンセルフィルタである。ここで、入力信号Xi及びフィルタGijを、
【0098】

とすると、Gのフィルタ特性として、例えば、
【0099】

とおく。ただし、Qijは、行列Hの(i,j)成分の余因子である。図9の構成で処理を施すと、
【0100】


となる。detHは周波数特性をもった定数であり、図2の処理を通ってスピーカから放射される信号Sは、detHという特性が付加されるものFFの、筐体内クロストーク成分が完全に除去されることが判る。Sを入力信号Xに完全に一致させたい場合には、図8の処理の前段か後段に1/σ・detHという特性のフィルタをスピーカ数、すなわちNだけ設ければよい。
【0101】
なお、伝達特性Hii及びHijが共通している場合又は共通しているとみなせるほど近似している場合には、Hii=HD及びHij=HXとみなせることができる。これにより、例えば、スピーカが対称的に携帯端末装置に備えられている場合には伝達特性の共通化により製造コストの削減がはかられる。
【0102】
以下具体的に、スピーカが3個の場合について説明する。まず、スピーカが3個の場合は再生システムから放射される信号S、スピーカを駆動させる駆動信号Sd、伝達特性Hは、は以下のようになる。
【0103】

【0104】

【0105】

このとき、スピーカから放射される信号Sは、
【0106】

となり、他のチャネルの筐体内クロストーク成分を含むことが分かる。今、Gのフィルタ特性として以下を考える。
【0107】

Gのフィルタを数式29のようにおく。ここで、Qijは、行列Hの(i,j)成分の余因子である。図9の構成で処理を施すと、
【0108】

となる。よって、スピーカから放射されるスピーカ放射信号Sは、σ・detHという特性が付加されるもの、筐体内クロストーク成分が完全に除去されることが判る。本処理のブロックズを図9に示す。スピーカから放射される放射信号Sを入力信号Xに完全に一致させたい場合には、図3の処理の前段か後段に1/σ・detHという特性のフィルタをスピーカの個数すなわち、3個設ければよい。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内部に少なくとも2つのスピーカが収容された携帯端末装置のスピーカ特性補償方法において、上記スピーカへの入力信号に対して、上記筐体内で上記スピーカ間に生じるクロストークを低減させる処理ステップを備えたことを特徴とするスピーカ特性補償方法。
【請求項2】
上記処理ステップは、上記筐体内で、他方の上記スピーカから一方の上記スピーカに漏れこむ音を低減させる低減信号を、上記一方のスピーカへの入力信号に加算するステップを備えたことを特徴とする請求項1に記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項3】
上記低減信号は、上記他方のスピーカへの入力信号を加工することにより生成されたものであることを特徴とする請求項2に記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項4】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、上記他方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくとも音響結合により変形されて上記一方のスピーカから放射されるまでの伝達特性を、上記一方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくともアンプ又はスピーカ特性により変形されて上記一方のスピーカから放射されるまでの伝達特性で、除算し、符号を反転させた特性に基づいて行われることを特徴とする請求項3に記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項5】
上記処理ステップは、一方のスピーカへの直接成分となる入力信号を加工する第1の直接加工ステップと、他方のスピーカへの入力信号を加工して上記一方のスピーカに対する交差成分を得る第1の交差加工ステップと、上記両加工後の信号を加算して上記一方のスピーカを駆動するための駆動信号を生成する第1の加算ステップと、他方のスピーカへの直接成分となる入力信号を加工する第2の直接加工ステップと、一方のスピーカへの入力信号を加工して上記他方のスピーカに対する交差成分を得る第2の交差加工ステップと、上記両加工後の信号を加算して上記第2のスピーカを駆動するための駆動信号を生成する第2の加算ステップとを備えたことを特徴とする請求項1記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項6】
上記第1の直接加工ステップは、上記他方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくともアンプ又はスピーカ特性により変形されて上記他方のスピーカから放射されるまでの伝達特性に基づく加工であり、上記第1の交差加工ステップは、上記他方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくとも音響結合により変形されて上記一方のスピーカから放射されるまでの伝達特性に基づく加工であり、上記第2の直接加工ステップは、上記一方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくともアンプ又はスピーカ特性により変形されて上記一方のスピーカから放射されるまでの伝達特性に基づく加工であり、上記第2の交差加工ステップは、上記一方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくとも音響結合により変形されて上記他方のスピーカから放射されるまでの伝達特性に基づく加工であることを特徴とする請求項5記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項7】
上記一方の加算された信号を、上記一方のスピーカから放射されるスピーカ放射信号が、上記一方のスピーカへの入力信号の振幅又は位相に略一致するように更に加工する後加工ステップを備えたことを特徴とする請求項5記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項8】
上記両加工をする前に、上記一方のスピーカ放射信号が、上記一方のスピーカへの入力信号の振幅又は位相に略一致するように上記一方への入力信号を加工する前加工ステップを備えたことを特徴とする請求項5に記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項9】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、上記他方のスピーカへの入力信号のサブバンド単位で行うことを特徴とする請求項3又は請求項4のいずれかに記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項10】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、上記特性に低域通過フィルタを通して得られる特性に基づいて行われることを特徴とする請求項4に記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項11】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、周波数成分単位で上記他方のスピーカへの入力信号と上記一方のスピーカへの入力信号との相関をもとめ、当該相関に応じて行うことを特徴とする請求項3又は請求項4のいずれかに記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項12】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、上記他方のスピーカへの入力信号に1未満のスカラー値を乗算し、符号を反転させた特性に基づいて行われることを特徴とする請求項3記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項13】
一方の直接加工ステップと他方の直接加工ステップ又は一方の交差加工ステップと他方の交差加工ステップとは、略共通することを特徴とする請求項5記載のスピーカ特性補償方法。
【請求項14】
筐体内部に少なくとも2つのスピーカが収容された携帯端末装置において、上記スピーカへの入力信号に対して、上記筐体内で上記スピーカ間に生じるクロストークを低減させる処理手段を備えたことを特徴とする携帯端末装置。
【請求項15】
上記処理手段は、上記筐体内で、他方の上記スピーカから一方の上記スピーカに漏れこむ音を低減させる低減信号を、上記一方のスピーカへの入力信号に加算することを特徴とする請求項14に記載の携帯端末装置。
【請求項16】
上記低減信号は、上記他方のスピーカへの入力信号を加工することにより生成したものであることを特徴とする請求項15に記載の携帯端末装置。
【請求項17】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、上記他方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくとも音響結合により変形されて上記一方のスピーカから放射されるまでの伝達特性を、上記一方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくともアンプ又はスピーカ特性により変形されて上記一方のスピーカから放射されるまでの伝達特性で、除算し、符号を反転させた特性に基づいて行われることを特徴とする請求項16に記載の携帯端末装置。
【請求項18】
上記処理手段は、一方のスピーカへの直接成分となる入力信号を加工する第1の直接加工手段と、他方のスピーカへの入力信号を加工して上記一方のスピーカに対する交差成分を得る第1の交差加工手段と、上記両加工後の信号を加算して上記一方のスピーカを駆動するための駆動信号を生成する第1の加算手段4Rと、他方のスピーカへの直接成分となる入力信号を加工する第2の直接加工手段と、一方のスピーカへの入力信号を加工して上記他方のスピーカに対する交差成分を得る第2の交差加工手段と、上記両加工後の信号を加算して上記第2のスピーカを駆動するための駆動信号を生成する第2の加算手段4Lとを備えたことを特徴とする請求項14に記載の携帯端末装置。
【請求項19】
上記第1の直接加工手段は、上記他方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくともアンプ又はスピーカ特性により変形されて上記他方のスピーカから放射されるまでの伝達特性に基づく加工であり、上記第1の交差加工手段は、上記他方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくとも音響結合により変形されて上記一方のスピーカから放射されるまでの伝達特性に基づく加工であり、上記第2の直接加工手段は、上記一方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくともアンプ又はスピーカ特性により変形されて上記一方のスピーカから放射されるまでの伝達特性に基づく加工であり、上記第2の交差加工手段は、上記一方のスピーカを駆動させるための駆動信号が少なくとも音響結合により変形されて上記他方のスピーカから放射されるまでの伝達特性に基づく加工であることを特徴とする請求項18に記載の携帯端末装置。
【請求項20】
上記一方の加算された信号を、上記一方のスピーカから放射されるスピーカ放射信号が、上記一方のスピーカへの入力信号の振幅又は位相に略一致するように更に加工する後加工手段を備えたことを特徴とする請求項18に記載の携帯端末装置。
【請求項21】
上記両加工をする前に、上記一方のスピーカ放射信号が、上記一方のスピーカへの入力信号の振幅又は位相に略一致するように上記一方への入力信号を加工する前加工ステップを備えたことを特徴とする請求項18に記載の携帯端末装置。
【請求項22】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、上記他方のスピーカへの入力信号のサブバンド単位で行うことを特徴とする請求項16又は請求項17のいずれかに記載の携帯端末装置。
【請求項23】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、上記特性に低域通過フィルタを通して得られる特性に基づいて行われることを特徴とする請求項17に記載の携帯端末装置。
【請求項24】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、周波数成分単位で上記他方のスピーカへの入力信号と上記一方のスピーカへの入力信号との相関をもとめ、当該相関に応じて行うことを特徴とする請求項16又は請求項17のいずれかに記載の携帯端末装置。
【請求項25】
上記他方のスピーカへの入力信号の加工は、上記他方のスピーカへの入力信号に1未満のスカラー値を乗算し、符号を反転させた特性に基づいて行われることを特徴とする請求項16に記載の携帯端末装置。
【請求項26】
一方の直接加工手段と他方の直接加工手段又は一方の交差加工手段と他方の交差加工手段とは、略共通することを特徴とする請求項18に記載の携帯端末装置。
【請求項27】
筐体内部にN個のスピーカが収容された携帯端末装置のスピーカ特性補償方法において、i番目のスピーカから放射されるスピーカ放射信号Siが、上記i番目のスピーカを駆動するための駆動信号Sdiが少なくとも筐体内の音響結合により変形されてj番目のスピーカから放射されるまでの伝達特性Hijとi番目のスピーカを駆動するための駆動信号が少なくともアンプ又はスピーカ特性により変形されてi番目のスピーカから放射されるまでの伝達特性Hiiとを備えたH行列を用いて以下の数1であらわされる場合に、

上記i番目のスピーカの駆動信号Sdiを、上記i番目のスピーカに対する入力信号Xiに対して、上記行列Hの(i,j)成分の余因子Qijに基づく下記のフィルタ特性Gによる処理を行う事により生成することを特徴とするスピーカ特性補償方法。

【請求項28】
筐体内部にN個のスピーカが収容された携帯端末装置において、i番目のスピーカから放射されるスピーカ放射信号Siが、上記i番目のスピーカを駆動するための駆動信号Sdiが少なくとも筐体内の音響結合により変形されてj番目のスピーカから放射されるまでの伝達特性Hijとi番目のスピーカを駆動するための駆動信号が少なくともアンプ又はスピーカ特性により変形されてi番目のスピーカから放射されるまでの伝達特性Hiiとを備えたH行列を用いて以下の数3であらわされる場合に、


上記i番目のスピーカの駆動信号Sdiを、上記i番目のスピーカに対する入力信号Xiに対して、上記行列Hの(i,j)成分の余因子Qijに基づく下記のフィルタ特性Gによる処理を行う事により生成することを特徴とする携帯端末装置。


【国際公開番号】WO2005/062671
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516448(P2005−516448)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018186
【国際出願日】平成16年12月7日(2004.12.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】