説明

摩擦伝動ベルト

【課題】エチレン・α−オレフィンエラストマーの加硫が過剰に促進されることを防いで、心線と心線支持層との接着性が経時劣化することを防止し、ポップアウト現象を抑制して長寿命を達成することができる摩擦伝動ベルトを提供する。
【解決手段】ベルト長手方向に沿って心線1を埋設した心線支持層2と、心線支持層2に積層される圧縮層3とを備えた摩擦伝動ベルトに関する。心線支持層2が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、アミン系老化防止剤を0.7〜2.0質量部、加硫促進剤として、スルフェンアミド系加硫促進剤と、チウラム系加硫促進剤と、チアゾール系加硫促進剤をそれぞれ0.5〜1.0質量部含有するゴム組成物を硫黄加硫して形成されたものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝動に用いられる摩擦伝動ベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車用などに使用される摩擦伝動ベルトとしては、クロロプレンゴム、NBR等のゴムが一般に使用されているが、自動車のエンジンルーム内で部品が密集して配置される傾向があり、それに起因してエンジンルーム内の雰囲気温度が上昇してきている。そしてこのような高温雰囲気では、これらのゴムでは硬化して劣化し易く、クラックが生じ易いという問題がある。
【0003】
これに対して、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー等のエチレン・α−オレフィンエラストマーは、優れた耐熱性や耐寒性を発揮することが知られており、そこで高温雰囲気で使用される摩擦伝動ベルトをこのようなエチレン・α−オレフィンエラストマーで作製することが行なわれている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
一方、近年ではエンジンの小型化に起因する多軸にわたった複雑なレイアウトや伝達効率の向上を目的として小型プーリが使用されており、摩擦伝動ベルトに耐屈曲疲労性能の向上が要求されている。しかし、エチレン・α−オレフィンエラストマーは、クロロプレンゴムやACSM、NBR等に比べてポリマー自体の物理的性質では耐引裂き抵抗力や耐屈曲亀裂性が劣っている。このため、小型プーリに使用する摩擦伝動ベルトにおいて、心線を埋設した心線支持層をエチレン・α−オレフィンエラストマーを配合したゴム組成物で形成すると、ベルト側端面から心線が飛び出す、いわゆる心線ポップアウトが発生するという問題が生じるものであった。
【0005】
この心線ポップアウトの現象は、心線支持層を形成するエチレン・α−オレフィンエラストマーの物理的性質に起因する他に、心線支持層と心線との接着力の低下(心線支持層や心線の物理的な疲労、又は熱劣化による接着力低下)、更にはエチレン・α−オレフィンエラストマー自体のラジカル反応が活発であること、つまり加硫後においても加硫促進剤の反応が停止し難く、経時的に加硫が促進される傾向があることにも起因し、さらに未加硫状態で起こる現象であるが加硫促進剤がゴム表面付近に移行して、空気中の酸素で分解され、これによっても加硫が促進されることにも起因すると考えられる。すなわちこのようにエチレン・α−オレフィンエラストマーの加硫が経時的に過剰に促進されると、経時劣化により、エチレン・α−オレフィンエラストマーと心線との共架橋が損なわれて接着性が低下し、心線ポップアウト現象が生じ易くなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−314520号公報
【特許文献2】特開2008−304053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、エチレン・α−オレフィンエラストマーの加硫が過剰に促進されることを防いで、心線と心線支持層との接着性が経時劣化することを防止し、ポップアウト現象を抑制して長寿命を達成することができる摩擦伝動ベルトを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る摩擦伝動ベルトは、ベルト長手方向に沿って心線1を埋設した心線支持層2と、心線支持層2に積層される圧縮層3とを備えた摩擦伝動ベルトにおいて、心線支持層2が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、アミン系老化防止剤を0.7〜2.0質量部、加硫促進剤として、スルフェンアミド系加硫促進剤と、チウラム系加硫促進剤と、チアゾール系加硫促進剤をそれぞれ0.5〜1.0質量部含有するゴム組成物を硫黄加硫して形成されたものであることを特徴とするものである。
【0009】
この発明によれば、老化防止剤としてアミン系老化防止剤を用い、またその配合量を適量に設定することによって、心線支持層2を形成するゴム組成物中の加硫促進剤の分解を未加硫時や加硫後を問わず抑制することができるものであり、また加硫促進剤として、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系のものを組み合わせると共にその配合量を制限することによって、過剰な加硫促進反応を抑制することができるものであり、心線1と心線支持層2との共架橋を継続して保持して、心線1と心線支持層2との接着性が経時劣化することを防止することができ、ポップアウト現象を抑制してベルトの長寿命を達成することができるものである。
【0010】
また本発明において、上記ゴム組成物には、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、カーボンブラックを30〜70質量部、シリカを10〜50質量部含有することを特徴とするものである。
【0011】
心線支持層2を形成するゴム組成物にこのようなカーボンブラックやシリカを配合することによって、心線支持層2の圧縮弾性率を高めることができ、ポップアウト現象をより効果的に抑制することができるものである。
【0012】
また本発明において、上記心線支持層2は、硬度(JIS−A)が70〜85であることを特徴とするものである。
【0013】
心線支持層2の硬度がこの範囲であることによって、ポップアウト現象をより効果的に抑制することができるものである。
【0014】
また本発明において、上記圧縮層3が、エチレン・α−オレフィンエラストマーを含有するゴム組成物からなることを特徴とするものである。
【0015】
このように圧縮層3のゴムが心線支持層2と同種であることによって、心線支持層2と圧縮層3の層間密着性を高く得ることができるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、老化防止剤としてアミン系老化防止剤を用い、またその配合量を最適に規定するようにしているので、心線支持層2を形成するゴム組成物中の加硫促進剤の分解を抑制することができるものであり、また加硫促進剤として、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系のものを組み合わせると共にその配合量を制限するようにしているので、心線1と心線支持層2との接着力低下の原因となる加硫促進反応を抑制することができるものであり、この結果、心線1と心線支持層2との共架橋を継続して保持して、心線1と心線支持層2との接着性が経時劣化することを防ぐことができ、ポップアウト現象を抑制してベルトの長寿命を達成することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るVリブドベルトの実施の形態の一例を示す一部破断した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1は本発明の摩擦伝動ベルトの一例を示すものであり、心線1をベルト長手方向に沿って埋設した心線支持層2と、この心線支持層2の内周側に積層される圧縮層3と、心線支持層2の外周側の面に積層される伸張層4とからなるものである。摩擦伝動ベルトにはVリブドベルト、Vベルト、平ベルトなどがあるが、図1の実施の形態では、圧縮層3にベルト長手方向に沿って断面略V字形の複数のリブ5を設けて、Vリブドベルトとして形成するようにしてある。
【0020】
そして本発明では、心線支持層2を形成するゴム組成物として、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、アミン系老化防止剤を0.7〜2.0質量部、加硫促進剤として、スルフェンアミド系加硫促進剤と、チウラム系加硫促進剤と、チアゾール系加硫促進剤をそれぞれ0.5〜1.0質量部含有して調製されたものを用いるものである。
【0021】
心線支持層2を形成するゴム組成物のゴム成分として、上記のようにエチレン・α−オレフィンエラストマーを用いるが、エチレン・α−オレフィンゴムとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、あるいはオクテンなど)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体などを用いることができる。このジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。具体的にはEPMやEPDMなどのゴムを代表例として挙げることができる。
【0022】
心線支持層2を形成するゴム組成物の老化防止剤として、本発明では上記のようにアミン系老化防止剤を用いる。このアミン系老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、オクチル化ジフェニルアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、アルキル化ジフェニルアミン、4,4’−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどを挙げることでき、例えば、精工化学社製の「ノンフレックスOD−3」、「オゾノン6C」、大内新興化学社製の「クラックODA」、「ノクラックCD」等が挙げられる。
【0023】
アミン系老化防止剤の配合量は、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して0.7〜2.0質量部の範囲に設定されるものである。アミン系老化防止剤は、硬化促進剤の分解を抑制して過剰な架橋による接着破壊を防ぐことができるものであり、アミン系老化防止剤の配合量が0.7質量部未満であると、アミン系老化防止剤の配合によって加硫促進剤の分解を抑制する効果を十分に得ることができず、ポップアウト現象を十分に防ぐことができない。アミン系老化防止剤を2.0質量部を超えて配合しても、加硫促進剤の分解を抑制する効果に向上はみられないので、経済的に不利になる。
【0024】
また加硫促進剤として本発明では、上記のようにスルフェンアミド系加硫促進剤と、チウラム系加硫促進剤と、チアゾール系加硫促進剤を併用し、これらを組み合わせて用いるものである。
【0025】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、CBS(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、TBBS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなどのスルフェンアミド系化合物などが挙げられる。
【0026】
チウラム系加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド)、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジペンタメチレンチウラムヘキサスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどのチウラム系化合物を使用することができる。
【0027】
チアゾール系加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、MBT(2−メルカプトベンゾチアゾール)、MBTS(ジベンゾチアジルジスルフィド)、2−メルカプトベンゾチアゾールのナトリウム塩、シクロヘキシルアミン塩、2−(2,4−ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2−(2,6−ジエチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾールなどのチアゾール系化合物などを使用することができる。
【0028】
このように加硫促進剤として、スルフェンアミド系と、チウラム系と、チアゾール系の各加硫促進剤を併用することによって、加硫状態では加硫促進剤のブルームを抑制して接着力を保持し、一方、加硫後においては未反応物を減らして過剰な加硫促進を抑制することができるものである。
【0029】
これらスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤の配合量は、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、それぞれ0.5〜1.0質量部の範囲に設定されるものである。各加硫促進剤の配合量が1.0質量部を超えると、過剰な加硫促進で接着破壊が起こるおそれがあり、ポップアウト現象を抑制することが難しくなる。逆に各加硫促進剤の配合量が0.5質量部未満であると、加硫による架橋密度が不十分になり、ゴム物性を十分に得ることができなくなるおそれがある。
【0030】
またこれらの加硫促進剤を合計した配合量の範囲は、特に限定されるものではないが、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、1.5〜3.0質量部の範囲が好ましい。
【0031】
加硫促進剤としては、上記のスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤の他に、架橋度を上昇させるために、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、マレイミド系加硫促進剤などを配合することもできる。チオウレア系加硫促進剤としては、チアカルバミド、ジエチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジオルトトリルチオ尿素などのチオ尿素化合物等を、グアニジン系加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン、ジオルトトリルグアニジン、トリフェニルグアニジン等を挙げることができる。これらの加硫促進剤の配合量は、特に限定されるものではないが、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して0.5〜1.0質量部の範囲が好ましい。
【0032】
心線支持層2を形成するゴム組成物には、上記の成分の他に、カーボンブラックやシリカを配合することができる。
【0033】
カーボンブラックとしては、ヨウ素吸着量が70〜125g/kgで、DBP吸油量が80〜135ml/100gであるものが好ましく、特に限定されるものではないが、例えばHAF、MAF、GPF、ISAF、FEF、EPCなどを用いることができる。カーボンブラックの配合量は、エチレン・α−オレフィンゴム100質量部に対して30〜70質量部の範囲が好ましく、より好ましくは40〜60質量部である。カーボンブラックの配合量が30質量部未満であると、カーボンブラックの量が不十分であって心線支持層2の圧縮弾性率が低下し、心線1から応力集中を受けたときの歪の抑制効果が働かず、心線1にポップアウトが発生し易くなる。ポップアウト現象を防ぐにはカーボンブラックの配合量を多くする必要があるが、配合量が70質量部を超えると、カーボンブラックの量が多くなり過ぎて圧縮弾性率が上昇し過ぎ、混練りが困難になる。
【0034】
シリカの配合量は、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して10〜50質量部の範囲が好ましく、より好ましくは15〜40質量部である。配合量が10質量部未満であると心線支持層2の圧縮弾性率が低下し、心線1から応力集中を受けたときの歪の抑制効果が働かず、心線1にポップアウトが発生し易くなる。ポップアウト現象を防ぐにはシリカの配合量を多くする必要があるが、配合量が50質量部を超えると、シリカの量が多くなり過ぎて圧縮弾性率が上昇し過ぎ、混練りが困難になる。
【0035】
カーボンブラックとシリカの合計の配合量は、エチレン・α−オレフィンゴム100質量部に対して55〜80質量部が好ましく、より好ましくは60〜80質量部である。55質量部未満であると心線支持層2の圧縮弾性率が低下して10%未満になり、心線1のポップアウトが短時間で起こるおそれがある。一方、80質量部を超えるとゴム組成物のムーニー粘度が高くなって心線1の周りへの心線支持層2の流れが不十分になって、極微小な空隙が生じ、これが起点となってポップアウト現象が発生し易くなる。
【0036】
また上記のゴム組成物には、加硫のための架橋剤として、硫黄が配合される。硫黄の配合量は、特に限定されるものではないが、エチレン・α−オレフィンゴム100質量部に対して0.5〜2質量部の範囲が好ましい。
【0037】
心線支持層2を形成するゴム組成物には、さらに必要に応じて、共架橋剤、補強剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤、短繊維等を配合するようにしてもよく、そして上記の各成分をバンバリーミキサー、ニーダー等の通常用いられる手段を用いて混練りすることができる。
【0038】
一方、心線1としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN繊維)、ポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT繊維)等のポリエステル繊維や、アラミド繊維等を材料として、撚り合わされた繊維コ−ドを用いることができる。特に、ポリエステル繊維又はアラミド繊維を用いることが好ましい。ポリエステル繊維は、熱による収縮があるため、ベルトの張力維持性に優れている。一方、アラミド繊維は、ポリエステル繊維よりも引張強度が高いため、高張力、高負荷の要求に対して、ポリエステル繊維では実現できない部分を補うことができる。
【0039】
心線1は接着処理を施した状態で使用することが望ましい。例えば(1)未処理コードをエポキシ化合物やイソシアネート化合物から選ばれた処理液を入れたタンクに含浸してプレディップした後、(2)160〜200°Cに温度設定した乾燥炉に30〜600秒間通して乾燥し、(3)続いてRFL液(レゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物をゴムラテックスと混合したもの)からなる接着液を入れたタンクに浸漬し、(4)210〜260°Cに温度設定した延伸熱固定処理器に30〜600秒間通し、−1〜3%延伸して延伸処理コードとする、という各工程で接着処理することができる。
【0040】
また、圧縮層3はゴム組成物を加硫して形成されるものであるが、このゴム組成物において、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィンゴムを用いるのが好ましい。例えば、エチレン・α−オレフィンゴム単独、又は、エチレン・α−オレフィンゴムとその他の種類のゴムを混ぜ合わせたブレンドゴムなどを用いることができる。エチレン・α−オレフィンゴムにブレンドするゴムの種類としては、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、天然ゴム(NR)の少なくとも一種のゴムを挙げることができる。尚、本発明の摩擦伝動ベルトを構成するゴム組成物の全てを、エチレン−α−オレフィンゴム組成物で構成することにより、耐熱性に優れた摩擦伝動ベルトを得ることができるものである。そして必要に応じて、加硫剤、加硫促進剤、共架橋剤、補強剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤、短繊維等を配合して、バンバリーミキサー、ニーダー等の通常用いられる手段を用いて混練りすることによって、圧縮層3を形成するためのゴム組成物を調製することができる。
【0041】
ここで、圧縮層3のリブ5の表面には綿、ナイロン(登録商標)、p−アラミド、m−アラミドなどの短繊維を突出させるようにしてあり、耐摩耗性やベルト走行時の静粛性を確保できるようにしてある。このようにリブ5の表面に短繊維を突出させて設けるには、圧縮層3を形成するゴム組成物に短繊維を含有させ、圧縮層3を切削してリブ5を形成する際に、リブ5の表面に短繊維の一部を突出させるようにして行なうことができる。また圧縮層3の表面である摩擦伝動面には、綿、46ナイロン、6ナイロン,66ナイロンなどのポリアミド短繊維、レーヨン短繊維、p−アラミド,m−アラミドなどのアラミド短繊維等の短繊維を含有する複数の素材の短繊維を固着した植毛層を設けるようにしてもよい。
【0042】
また伸張層4は、帆布を用いないゴム組成物からなる場合と、帆布からなる場合がある。ゴム組成物の場合には、圧縮層3を構成するゴム組成物と同じもので形成することができるが、短繊維が含まれない場合もある。伸張層4をゴム組成物で形成する場合、伸張層4の背面には、綿、46ナイロン、6ナイロン,66ナイロンなどのポリアミド短繊維、レーヨン短繊維、p−アラミド,m−アラミドなどのアラミド短繊維等の短繊維を含有する複数の素材の短繊維を固着した植毛層を設けるようにしてもよい。
【0043】
伸張層4を帆布で形成する場合、帆布としては、織物、編物、不織布などから選択される繊維基材を用いることができる。この繊維素材としては、公知公用のものが使用できるが、例えば綿、麻等の天然繊維や、金属繊維、ガラス繊維等の無機繊維、そしてポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリフロルエチレン、ポリアクリル、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリエステル、アラミド等の有機繊維が挙げられる。織物の場合は、これらの糸を平織、綾織、朱子織等することにより製織される。この帆布は、公知技術に従ってRFL液に浸漬して使用することが好ましい。またRFL液に浸漬した後、未加硫ゴムを帆布に擦り込むフリクションを行ない、さらにゴムを溶剤に溶かしたソーキング液に浸漬処理することもできる。尚、RFL液には適宜カーボンブラック液を混合して処理帆布を黒染めし、また公知の界面活性剤を0.1〜5.0質量%加えてもよい。
【0044】
次に、図1に示すVリブドベルトの製造方法の一例を説明する。第1の方法としては、まず、円筒状の成形ドラムの周面に伸張層4を構成する部材と、心線支持層2を形成するゴム組成物からなるゴムシートとを巻き付けた後、このゴムシートの上にコードからなる心線1を螺旋状にスピニングし、更に圧縮層3を形成するゴムシートを巻き付け、未加硫スリーブを作製する。次にこの未加硫スリーブを加硫して加硫スリーブを得る。この後、加硫スリーブを駆動ロールと従動ロールに所定の張力下で掛架して走行させながら、回転させた研削ホイールをこの走行させた加硫スリーブに当接するように移動させ、加硫スリーブの圧縮層3の表面に3〜100本の複数の溝を切ることによってリブ5を形成する。このようにリブ5を形成したスリーブを駆動ロールと従動ロールから取り外し、スリーブを他の駆動ロールと従動ロールの間に掛架して走行させながら、カッターによって所定幅に輪切りするように切断することによって、個々のVリブドベルトに仕上げることができる。
【0045】
第2の方法としては、周面にリブ溝状刻印を設けた円筒状の成形ドラムに、圧縮層3を形成するゴムシート、心線支持層2を形成するゴムシートを巻き付けた後、その上に心線1をスピニングし、さらにその上から伸張層4を形成する部材を巻き付けて未加硫スリーブを作製する。この後、この未加硫スリーブを成形ドラムに押圧しながら加硫することによって、圧縮層3にリブ5を型付けした加硫スリーブを得る。次に、必要に応じてリブ5の表面を研磨した後、加硫スリーブを所定幅に輪切りするように切断することによって、個々のVリブドベルトに仕上げることができる。
【0046】
第3の方法としては、円筒状の成形ドラムに装着された可撓性ジャケットの上に、伸張層4を構成する部材、心線支持層2を形成するゴムシートを巻き、その上に心線1をスピニングした後、さらに圧縮層3を形成するゴムシートを巻き付けて未加硫スリーブを作製する。そして、可撓性ジャケットを膨張させて、未加硫スリーブをリブ5に対応した溝状刻印を有する外型に押圧しながら、加硫成形する。このようにしてリブ5を成形した加硫スリーブを作製することができるものであり、必要に応じてリブ5の表面を研磨した後、加硫スリーブを所定幅に輪切りするように切断することによって、個々のVリブドベルトに仕上げることができる。
【0047】
上記のように作製したVリブドベルトにあって、心線支持層2の硬度(JIS−A)は70〜85の範囲であることが望ましい。心線支持層2の硬度が70未満であると、ベルトが屈曲したときに心線支持層2にかかる歪が大きくなり、ポップアウト現象が発生し易くなる。心線支持層2の硬度は70より大きいほうが好ましいが、硬度が85を超えると、ベルトの屈曲疲労性が低下して、ベルト寿命が短くなるおそれがある。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0049】
エチレン・α−オレフィンエラストマーとして、EPDM(ジエン成分がエチリデンノルボルネンであり、エチレン含量55質量%、ジエン成分含量2.9質量%、残がプロピレンのエチレン−プロピレン−ジエン・ターポリマー)を用い、表1(心線支持層)の配合量で各材料を配合し、これをバンバリーにより混練することによって、実施例1〜7及び比較例1〜5のゴム組成物を得た。そしてこのゴム組成物をカレンダーロールで圧延することによって、心線支持層形成用の未加硫ゴムシートを得た。
【0050】
一方、上記のEPDM100質量部、亜鉛華5質量部、ステアリン酸1質量部、HAFカーボンブラック65質量部、老化防止剤2質量部、共架橋剤(N,N’−m−フェニレンジマレイミド)、有機過酸化物8質量部、硫黄0.3質量部、そして短繊維、ポリエーテルエステル系可塑剤、ポリエーテル系可塑剤、パラフィン系オイル、界面活性剤からゴム組成物を調製し、バンバリーミキサーで混練した後、カレンダーロールで圧延することによって、圧縮層形成用の未加硫ゴムシートを得た。
【0051】
そしてまず、表面が平滑な円筒状の成形モールドに、2プライのゴム付綿帆布と、心線支持層用のゴムシートを巻き付け、その上にPET心線をスピニングし、更にその上に圧縮層用のゴムシートを巻き付けた。次に圧縮層用のゴムシートの上に加硫用ジャケットを挿入し、成形モールドを加硫缶内に入れて加硫した。そして、このように加硫した筒状の加硫スリーブを成形モールドから取り出し、加硫スリーブの圧縮層をグラインダーにより研削して複数のリブを形成した後、カッターで輪切りするように所定幅で切断することによって、Vリブドベルトに仕上げた。ここで、圧縮層には短繊維が含まれており、短繊維はベルト幅方向に配向していた。
【0052】
【表1】

上記の心線支持層形成用のゴム組成物についてムーニー粘度、PET心線の平剥離力を測定した。またVリブドベルトについての高温低張力逆曲げ試験を行ない、心線ポップアウト時間(ただし400時間で打ち切り)を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
◎ムーニー粘度
混練した心線支持層用の混練りゴムについて、ムーニー粘度をJIS K6300−1に準拠して測定した。
【0054】
◎平剥離力測定
表1のゴム配合の厚さ4mmのゴムシートの上に、PET心線を25mm幅に並べ、プレス板で2.0MPaの圧力をかけ、163°Cで30分間加硫することによって、剥離試験用の試料を作製した。そして、この試料を120℃で5日熱老化した後、120℃の雰囲気温度でJIS K6256に準じて平剥離力を測定した。
【0055】
◎硬度(JIS−A)
表1のゴム配合の厚さ4mmのゴムシートにプレス板で2.0MPaの圧力をかけ、163°Cで30分間加硫した。この加硫ゴムについて、JIS K6253に従って硬度(JIS−A)を測定した。
【0056】
◎高温低張力逆曲げ試験
駆動プーリ(直径120mm)、アイドラープーリ(直径85mm)、従動プーリ(直径120mm)、テンションプーリ(直径45mm)を順に配置して構成した走行試験機を用いた。そして、試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、Vリブドベルトのテンションプーリへの巻き付け角度を90°、アイドラープーリへの巻き付け角度を120°にして、雰囲気温度120°C、駆動プーリの回転数4900rpm、ベルト張力55kgf/3リブ、75kgf/3リブの試験条件で駆動プーリに荷重を付与し、従動プーリに負荷12PSを与えてVリブドベルトを走行させる耐熱耐久試験を行なった。試験は、走行400時間を打ち切りとし、心線に達する亀裂が6個発生するまでの時間を調べた。
【0057】
【表2】

表2にみられるように、実施例1〜5では心線の平剥離力が高く、高温低張力逆曲げ試験においても400時間、ポップアウトが発生することなく走行させることができるものであった。
【0058】
実施例6,7は、カーボンブラックとシリカの配合量が規定範囲から外れており、硬度も規定範囲から外れているので、心線の平剥離力には特に問題がないが、耐久性では劣る結果になった。
【0059】
これに対して、比較例1,2ではアミン系老化防止剤が配合されず、あるいは配合量が過少であるため、心線の平剥離力が低く、早期にポップアウト現象が発生するものであった。また比較例3〜5では、加硫促進剤の配合量が過多であるため、心線の平剥離力が低目であって、早期にポップアウト現象が発生するものであった。
【符号の説明】
【0060】
1 心線
2 心線支持層
3 圧縮層
4 伸張層
5 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト長手方向に沿って心線を埋設した心線支持層と、心線支持層に積層される圧縮層とを備えた摩擦伝動ベルトにおいて、心線支持層が、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、アミン系老化防止剤を0.7〜2.0質量部、加硫促進剤として、スルフェンアミド系加硫促進剤と、チウラム系加硫促進剤と、チアゾール系加硫促進剤をそれぞれ0.5〜1.0質量部含有するゴム組成物を硫黄加硫して形成されたものであることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
上記ゴム組成物には、エチレン・α−オレフィンエラストマー100質量部に対して、カーボンブラックを30〜70質量部、シリカを10〜50質量部含有することを特徴とする請求項1に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
上記心線支持層は、硬度(JIS−A)が70〜85であることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
上記圧縮層が、エチレン・α−オレフィンエラストマーを含有するゴム組成物からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
Vリブドベルトであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の摩擦伝動ベルト。

【図1】
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【公開番号】特開2011−117576(P2011−117576A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277596(P2009−277596)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】