説明

摩擦撹拌接合部の接合径測定方法及び装置並びに摩擦撹拌接合品質検査方法及び装置

【課題】超音波を用いた非破壊測定により高い精度で拡散接合径を測定できる摩擦撹拌接合部の接合径測定方法、装置等を提供する。
【解決手段】摩擦撹拌点接合法による上,下板21,22相互の接合部の接合径の測定を次のように行なう。まず、超音波測定により接合径の推定値φAを求め、続いて、摩擦撹拌接合時の接合ツールのショルダの押込み位置と上板21の裏面との距離△Tを求める。そして、距離△Tが予め定めたしきい値を超える場合に推定値φAを接合径の測定値φA''とする。適切なしきい値を設定し、圧接面領域PEが与える影響(未接合でありながら接合しているという誤判定)を回避した接合径φA''を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合法を用いて2つの部材が接合された接合部の接合径を非破壊検査によって測定する摩擦撹拌接合部の接合径測定方法及び装置、並びに摩擦撹拌接合品質検査方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、2つの部材の固相接合法として摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)法が開発された。これは、先端に突起物(ピン)をもつ接合ツール(工具)を、重ね合わされた2つの部材の接合目標部に進入回転させて摩擦熱を与え、材料に可塑化した相を作り、材料の融点以下の温度で2つの部材を接合するという接合法である。
このような摩擦撹拌接合法を用いた、例えば摩擦撹拌点接合(スポットFSW)は、主にアルミ合金材の接合に用いられている。この接合の品質を確認するには破断径を測定すればよいが、破断による測定では接合物が破壊されてしまうため、非破壊にて接合領域を測定(接合径を推定)する特許文献1に記載の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2007/116629号(再公表特許公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来技術では、2つの接合部材間に圧接面が生じた場合、この圧接面領域を拡散接合領域と区別できず、拡散接合していない圧接面領域までも接合していると誤測定するという問題がある。これは、超音波を用いた上記従来技術による2つの接合部材の接合径測定結果と同接合部材の実際の破断面の観察による接合径測定結果との比較から確かめられる。
【0005】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたもので、超音波を用いた非破壊測定時に圧接面領域が拡散接合領域と誤測定されることを回避でき、より高い精度で拡散接合径を測定できる摩擦撹拌接合部の接合径測定方法及び装置を提供することを課題とする。
また本発明は、より高い精度で接合部の品質を検査できる摩擦撹拌接合品質検査方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、摩擦撹拌接合部の接合径測定方法及び装置並びに摩擦撹拌接合品質検査方法及び装置を下記各態様の構成とすることによって解決される。
各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴及びそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
【0007】
以下の各項のうち、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(5)項が請求項5に、(6)項が請求項6に、各々対応する。
【0008】
(1) 重ねられた2つの被接合部材が摩擦撹拌点接合法によって接合された接合部の接合径を測定する方法であって、超音波測定により前記接合径の推定値を求める第1ステップと、摩擦撹拌接合時の接合ツールのショルダの押込み位置と前記接合ツール側の被接合部材の裏面との距離を求める第2ステップと、前記距離が予め定めたしきい値を超える場合に前記推定値を前記接合径の測定値とする第3ステップと、を具備することを特徴とする摩擦撹拌接合部の接合径測定方法。
(2) 前記第2ステップで求める距離は、前記接合部における残母厚と、前記接合ツールのショルダの先端位置からピンの先端位置までの距離と、前記接合ツール側とは反対側の被接合部材の厚さとに基づいて算出されることを特徴とする(1)項に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定方法。
(3) 重ねられた2つの被接合部材が摩擦撹拌点接合法によって接合された接合部の接合径を測定する装置であって、超音波測定により前記接合径の推定値を求める接合径推定手段と、摩擦撹拌接合時の接合ツールのショルダの押込み位置と前記接合ツール側の被接合部材の裏面との距離を求める距離算出手段と、前記距離が予め定めたしきい値を超える場合に前記推定値を前記接合径の測定値とする接合径決定手段と、を具備することを特徴とする摩擦撹拌接合部の接合径測定装置。
(4) 前記距離算出手段で求める距離は、前記接合部における残母厚と、前記接合ツールのショルダの先端位置からピンの先端位置までの距離と、前記接合ツール側とは反対側の被接合部材の厚さとに基づいて算出されることを特徴とする(3)項に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定装置。
(5) 重ねられた2つの被接合部材が摩擦撹拌点接合法によって接合された接合部の検査方法であって、(1)項又は(2)項に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定方法による測定結果に基づいて前記接合部の品質の良否を検査することを特徴とする摩擦撹拌接合品質検査方法。
(6) 重ねられた2つの被接合部材が摩擦撹拌点接合法によって接合された接合部の検査装置であって、(3)項又は(4)項に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定装置による測定結果に基づいて前記接合部の品質の良否を判定する判定手段と、この判定手段の判定結果を出力する出力手段と、を具備することを特徴とする摩擦撹拌接合品質検査装置。
【発明の効果】
【0009】
(1)項に記載の発明によれば、摩擦撹拌点接合法によって接合された被接合部材相互の接合部の接合径の測定に当たって適切なしきい値を設定し、圧接面領域が与える影響、つまり未接合でありながら接合しているという誤判定を回避して上記の接合径を測定するようにしたので、同接合径を高い精度で測定できる。
(2)項に記載の発明によれば、(1)項の発明における第2ステップで求める距離を容易かつ正確に求めることができる。
(3)項に記載の発明によれば、摩擦撹拌点接合法によって接合された被接合部材相互の接合部の接合径の測定に当たって適切なしきい値を設定し、圧接面領域が与える影響、つまり未接合でありながら接合しているという誤判定を回避して上記の接合径を測定するようにしたので、同接合径を高い精度で測定できる。
(4)項に記載の発明によれば、(3)項の発明における距離算出手段で求める距離を容易かつ正確に求めることができる。
(5)項に記載の発明によれば、(1)項又は(2)項に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定方法による接合径測定結果に基づいて接合部の品質を検査するので、非破壊かつ高精度に接合部を検査可能な摩擦撹拌接合品質検査方法を提供できる。
(6)項に記載の発明によれば、(3)項又は(4)項に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定装置による接合径測定結果に基づいて接合部の品質を検査するので、非破壊かつ高精度に接合部を検査可能な摩擦撹拌接合品質検査装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による摩擦撹拌接合部の接合径測定装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】摩擦撹拌点接合法及び同接合法に用いる接合ツールの概略説明図である。
【図3】同上接合法によって接合された上板及び下板の接合部の縦断面を模式的に示す図である。
【図4】同上接合部の超音波測定の様子を説明するための図である。
【図5】摩擦撹拌点接合法によって接合された上板及び下板の接合部の測定結果による画像(正常測定時)を示す図である。
【図6】同じく上板及び下板の接合部の測定結果による画像(非正常測定時)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1は、本発明方法が適用された摩擦撹拌接合部の接合径測定装置の一実施形態を示すブロック図である。
この摩擦撹拌接合部の接合径測定装置は、重ねられた2つの被接合部材が摩擦撹拌点接合法によって接合された接合部の接合径を測定する装置であって、基本的には超音波測定装置1と摩擦撹拌接合部の接合径測定用のコンピュータプログラム(本発明方法を実行するコンピュータプログラム。以下、接合径測定用プログラムと略記する。)2とを備えてなる。
【0012】
ここで、超音波測定装置1は、測定対象物の表面から超音波を送信して反射波(エコー信号)を受信し、測定対象物の表面から超音波の反射位置までの距離や、反射位置相互間の距離等を非破壊にて測定可能な超音波測定用の公知の装置である。
この超音波測定装置1は、超音波測定装置本体3、超音波プローブ4、超音波送受信手段5、プローブ移動手段6、プローブ位置検出手段7、各種データ・パラメータ等の入力手段8及び出力手段9を備えてなる。
【0013】
超音波プローブ4を直線方向に移動させながら超音波測定を行なうことにより、その測定結果に基づいて、その直線上の各種数値データ(距離データ等)のみならず、超音波断層像を出力手段9に表示させることが可能である。
また、超音波プローブ4を面方向に移動(走査)させながら超音波測定を行なえば、測定対象物の表面に沿う方向における測定対象物内部の超音波反射面の画像、あるいは反射波の所定のピーク値に応じた輝度を画素値として構成した面画像等、測定対象物表面の各位置における反射波の強度に応じた輝度を画素値とした面画像も出力手段9に表示可能である。
【0014】
本実施形態において接合径測定用プログラム2は、外部記憶手段10に格納されている。接合径測定用プログラム2の実行に必要な各種データ・パラメータ等も接合径測定用プログラム2に付随して外部記憶手段10に格納されている。
超音波測定装置本体3は、超音波測定に必要なCPU及びメモリ(ROM、RAM)等からなる制御・処理手段11を備える。
超音波測定結果としての数値データや上記の画像(データ)、同画像を構成する反射波データ群等は、制御・処理手段11や外部記憶手段10に記憶させたり、記憶後、任意に読み出してディスプレイ装置等の出力手段9に再度表示させることも可能である。
【0015】
本実施形態において超音波測定装置本体3は、その制御・処理手段11が、外部記憶手段10に格納された接合径測定用プログラム2を実行することによって機能する接合径推定手段12、距離算出手段13及び接合径決定手段14を備える。
以下、これら各手段12〜14につき、図2及び図3を参照しつつ説明する。
【0016】
摩擦撹拌点接合(スポットFSW)法は、図2に示すように、重ねられた2つの被接合部材、ここでは上、下に重ねられた2枚の金属板、例えばアルミ板(以下、上板21、下板22と記す。)を、その接合目標部に対して、先端にピン23をもつ接合ツール24を上板21の上方から進入回転させて同上板21、下板22を固相接合する接合方法である。ピン23は上,下板21,22中に深く進入されるが、ショルダ25は上板21に若干押し込まれる程度である。ピン23の長さ(ショルダ25の先端位置からピン23の先端位置までの距離)Lやショルダ径Dは、上,下板21,22の厚さT1,T2等に応じて変えられる。
【0017】
図3は、本実施形態において測定対象物となる、上記の摩擦撹拌点接合法によって接合された上板21、下板22の接合部の縦断面を模式的に示す図である。
この図3において、T1は上板21の厚さ、T2は下板22の厚さ、Dは上記ショルダ径、Δtは残母厚、T3は上記ピン23の長さLと残母厚Δtとの加算値(T3=L+Δt)を示す。
△Tは、接合ツール24のショルダ25の押込み位置と接合ツール24側の被接合部材、つまり上板21の裏面(図3中、下面)との距離で、本実施形態では、上記の加算値T3から下板22の厚さT2を引算して求められる。
φAは、従来の接合径測定(推定)による接合径で、上,下板21,22間に圧接面領域PEが生じていて、その圧接面領域PEをも拡散接合領域として誤測定された場合の拡散接合径(誤測定接合径)である。図3に示すφAの範囲は一例であって、圧接面領域PEの発生範囲、位置等によって変化する。
φA'は、タガネ等で実際にせん断破壊して分かる真の拡散接合径(真の接合径)である。
φA''は、本実施形態に係る摩擦撹拌接合部の接合径測定装置によって測定された拡散接合径(本発明測定接合径)である。図3に示すφA''の範囲は一例である。
【0018】
図1〜図3において、接合径推定手段12は、超音波測定により、上記の摩擦撹拌点接合による上板21、下板22の接合部の接合径の推定値、すなわち、従来の接合径測定による接合径φA(誤測定接合径)を求める。
また距離算出手段13は、摩擦撹拌接合時の接合ツール24のショルダ25の押込み位置と接合ツール24側の被接合部材である上板21の裏面(図3中、下面)との距離△Tを求める手段である。本実施形態において距離算出手段13は、上記のように図2に示すピン23の長さLと残母厚Δtとの加算値T3(=L+Δt)から下板22の厚さT2を引算して求めている。残母厚Δtは、超音波測定による接合径測定時において容易に測定できる。
また接合径決定手段14は、上記距離△Tが予め定めたしきい値、例えば0.6(mm)を超える(△T>0.6)場合に上記の推定値を、上板21、下板22の接合部の接合径の測定値φA''(本発明測定接合径)とする接合径の決定を行なう手段である。
【0019】
本実施形態においては、これら接合径推定手段12、距離算出手段13及び接合径決定手段14(機能)が超音波測定装置本体3内に組み込まれて摩擦撹拌接合部の接合径測定を実行するものである。同実行に際して必要な各種パラメータ、本実施形態ではピン23の長さL、上板21の厚さT1、下板22の厚さT2、残母厚Δtは、接合径測定実行前に超音波測定装置本体3に入力される。ここでは、キーボード等の入力手段8を介して超音波測定装置本体3に直接入力される。超音波測定装置1による接合径測定時に、上板21の厚さT1、下板22の厚さT2、残母厚Δtを自動計測して、超音波測定装置本体3に自動的に入力されるようにしてもよい。
【0020】
次に動作について説明する。
まず図4に示すように、摩擦撹拌点接合法によって接合された上板21、下板22の上下面を反転させ、平坦面をなす下板22の表面(図4中、上面)上を、超音波プローブ4を移動させる。移動は、上板21、下板22の接合部を含む領域に対応する下板22表面の面領域全体が走査されるように行なわれる。
この移動の間、超音波プローブ4は超音波の送受信を連続的に又は間欠的に行ない、超音波測定装置本体3の制御・処理手段11には超音波プローブ4の位置に応じた反射波(エコー信号)が多数取り込まれる。
反射波の第1ピークは、超音波プローブ4が接触する下板22表面からの反射波に現われる。
反射波の第2ピークは、上板21、下板22の合計厚さT1+T2の範囲内における第1ピークを生じさせた位置よりも上板21の表面(図4中、下面)側におけるいずれかの位置からの反射波に現われる。上板21、下板22の接合部中央部においては、残母厚Δt部分の図4中の下面(大気との界面)からの反射波に現われる。上板21、下板22の接合部中央部を除いた部分においては、通常、その部分の図4中の下面(大気との界面)からの反射波に現われる。
【0021】
制御・処理手段11においては、この反射波(第1ピーク、第2ピーク)データと、同データが得られたときの超音波プローブ4の走査面上の位置データとに基づき、非破壊にて上板21、下板22の接合部を含む超音波プローブ走査領域内の各位置における超音波反射位置までの距離(深さ)が測定される。
例えば、第1,第2ピーク生じさせた各超音波反射位置によって、下板22表面(図4中、上面)から、超音波プローブ走査領域内における上,下板21,22の図4中の下面(大気との界面)までの距離が測定される。制御・処理手段11は、更にその距離測定の結果、換言すれば上記接合部及びその周辺部分の縦断面輪郭形状データと、超音波プローブ走査領域内、特にショルダ径Dの範囲内の各位置における反射波の強度とにより、同反射波の強度に応じた輝度を画素値とした面画像(図5、図6参照)を出力手段9に表示可能である。
【0022】
接合径推定手段12は、上記のような超音波測定により、摩擦撹拌点接合による上,下板21,22接合部の接合径の推定値(接合径φA:図3参照)を求める。
続いて距離算出手段13は、上記推定値を求めた上,下板21,22の摩擦撹拌点接合に係るピン23の長さL(図2参照)と残母厚Δtとの加算値T3から下板22の厚さT2を引算し、接合ツール24のショルダ25の押込み位置と上板21の裏面(図3中、下面)との距離△Tを求める。ピン23の長さLと残母厚Δtは、摩擦撹拌接合部の接合径測定の実行前に超音波測定装置本体3に入力される。残母厚Δtについては、上記の超音波測定時に計測された残母厚Δtを超音波測定装置本体3に自動的に入力されるようにしてもよい。
そして接合径決定手段14は、距離算出手段13によって求められた距離△Tが予め定めたしきい値を超える場合に、接合径推定手段12によって求められた推定値を、上記上,下板21,22接合部の接合径の測定値φA''(本発明測定接合径)とする接合径の決定を行なう。
【0023】
以下に、上記接合径の決定を行なう際のしきい値及びしきい値の設定について説明する。
発明者等の実験によれば、超音波測定を用いた従来の上,下板21,22接合部の接合径測定(推定)結果φAと、同接合部の実際の破断面(タガネ等で実際にせん断破壊した破断面)の観察による接合径測定結果φA'との間には、全く相関がないことが分かった。従来の接合径測定においては、上,下板21,22間に圧接面が生じた場合、この圧接面領域PE(図3参照)を拡散接合領域と区別できず、拡散接合していない圧接面領域PEまでも接合していると誤測定するからと考えられる。
上,下板21,22接合部の画像は、正しく測定されれば図5に例示するように外形状がほぼ円形の画像となるが、誤測定されると図6に例示するように外形状が円形から外側に大きく延出した画像となる。
なお、図5、図6に示す画像中の「×」状に交差する2本の線は、短い方が測定された接合径の短径を、長い方が長径を示す。図6に示す画像においては、長短径の差が大きく、接合部を示す円形状が大きく歪んでいる。
【0024】
そこで発明者等は、圧接面領域PEを拡散接合領域と区別できるようにすることとした。発明者等の鋭意研究によれば、まず、摩擦撹拌接合時の接合ツール24のショルダ25の押込み位置と接合ツール24側の被接合部材である上板21の裏面(図3中、下面)との距離△Tに着目した。そして、この距離△Tに対して適切なしきい値を設定してしきい値処理を施し、同しきい値処理結果が「OK」とされる(例えば距離△Tがしきい値を超える)場合に、圧接面領域PEが拡散接合領域と誤検出されることを回避可能という知見を得た。
これによれば、上記距離△Tに対して上記のしきい値処理を施してその結果が「OK」とされる場合の上記接合径測定結果、つまり接合径推定値φAを、上,下板21,22接合部の接合径の測定値φA''(本発明測定接合径)として接合径の決定を行なうことにより、本発明測定接合径φA''は、極力、真の接合径φA'に近づくことになる。
【0025】
しきい値の一例としては、上,下板21,22がアルミ材からなり、その厚さT1,T2が各々0.9mmである場合に、0.6mmに設定することが挙げられる。
図3において、距離ΔTが0.6mmを超える(△T>0.6)場合には、接合径推定値φAは真の接合径φA'あるいはその近傍値となる。しきい値が適切な値、本例では0.6とされている場合には、接合径推定値φAは上,下板21,22の境界面位置(図3中、高さT2の位置)で計測される。したがって、圧接面領域PEが与える影響がなくなるか少なくなり、未接合でありながら接合しているという誤判定が回避される。したがって、距離ΔTが0.6mmを超える場合の接合径推定値φAは本発明測定接合径φA''として決定され、これにより接合径φA'の誤測定は極力回避され、高い精度で拡散接合径を測定できる。
【0026】
距離ΔTがしきい値以下、ここでは0.6mm以下(△T≦0.6)の場合には、接合径推定値φAはショルダ径Dあるいはその近傍値となる。この場合、接合径推定値φAは、圧接面領域PE(未接合領域)を含んだ位置、つまり、上,下板21,22が強固に圧接しているため接合していると誤判定された位置を含んで計測される。したがって、距離ΔTが0.6mm以下の場合の接合径推定値φAは本発明測定接合径φA''とせず、これにより接合径φA'の誤測定は回避できる。
【0027】
なお、上記の距離ΔTが0.6mm以下(△T≦0.6)の場合には、接合径推定値φA内の外周側部分に圧接面領域PEが形成されていると仮定して、次のように接合径推定値φAを計測し、その接合径推定値φAを本発明測定接合径φA''としてもよい。
すなわち△T≦0.6の場合には、接合径推定値φAを上,下板21,22の境界面位置、つまり図3中、高さT2の位置より僅かに高い位置(圧接面領域PEを検出しない範囲での最小の高さ位置)αにて計測すれば、圧接面領域PEによる誤判定が回避される。したがって、この際の接合径推定値φAを補正接合径推定値φAと記すと、この補正接合径推定値φAを本発明測定接合径φA''としてもよく、これによっても接合径φA'の誤測定は回避され、高い精度で拡散接合径を測定できる。
【0028】
上記しきい値の設定は、例えば次のようにして行なわれる。
すなわち、予め適宜数の上,下板21,22について各々同一の条件で摩擦撹拌点接合をしておく。接合された上,下板21,22をテストピースと記す。
まず仮のしきい値を設定し、その仮のしきい値を超える測定結果が得られたテストピースとその値以下の測定結果が得られたテストピースに分けて、各々仮の測定接合径φA''を決定(測定)する。その後、各テストピースにつき、タガネ等で実際にせん断破壊した破断面による接合径測定結果φA'を計測し、上記の仮の測定接合径φA''と比較照合して、仮のしきい値が適切な値であるか否かを判定する。適切な値でない場合には、新たな仮のしきい値を設定して、上記と同様の工程を経て新たな仮のしきい値が適切な値であるか否かを判定する。以後、仮のしきい値が適切な値と判定されるまでこれを繰り返して、本発明測定接合径φA''の測定に用いるしきい値を設定する。
【0029】
上述した実施形態によれば、摩擦撹拌点接合法によって接合された被接合部材相互の接合部の接合径の測定に当たって適切なしきい値を設定し、圧接面領域が与える影響、つまり未接合でありながら接合しているという誤判定を回避して上記の接合径を測定するようにしたので、上,下板21,22接合部の接合径を高い精度で測定できる。
【0030】
上記の実施形態では、接合径の測定の方法、装置について説明したが、このような方法、装置による接合径の測定結果に基づいて接合部の品質の良否、例えば、接合径の測定値が予め定められた値よりも大きいか否かを検査(非破壊検査)することも可能である。
このような品質検査を行なう摩擦撹拌接合品質検査装置としては、上記の摩擦撹拌接合部の接合径測定装置に、例えば上記のように接合径の測定値が予め定められた値よりも大きいか否かを判定する判定手段と、この判定手段の判定結果を出力する出力手段とを付加することによって構成される。判定手段はコンピュータプログラムの実行によって機能するように構成し、上記の接合径測定用プログラムに付加させて外部記憶手段に格納してもよい。判定手段の判定結果を出力する出力手段は、上記の摩擦撹拌接合部の接合径測定装置の出力手段に兼用させることが可能である。
このように摩擦撹拌接合部の接合径測定装置の接合径測定結果に基づいて接合部の品質を検査することによれば、非破壊かつ高精度に接合部を検査することができる。
【符号の説明】
【0031】
1:超音波測定装置、2:接合径測定用プログラム、3:超音波測定装置本体、4:超音波プローブ、5;超音波送受信手段、8:入力手段、9:出力手段、11:制御・処理手段、12:接合径推定手段、13:距離算出手段、14:接合径決定手段、21:上板、22:下板、23:ピン、24:接合ツール、25:ショルダ、T1:上板の厚さ、T2:下板の厚さ、△T:接合ツールのショルダ押込み位置と上板裏面との距離、D:ショルダ径、L:ピンの長さ、Δt:残母厚、PE:圧接面領域、φA:誤測定接合径、φA':真の接合径、φA'':本発明測定接合径。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ねられた2つの被接合部材が摩擦撹拌点接合法によって接合された接合部の接合径を測定する方法であって、
超音波測定により前記接合径の推定値を求める第1ステップと、
摩擦撹拌接合時の接合ツールのショルダの押込み位置と前記接合ツール側の被接合部材の裏面との距離を求める第2ステップと、
前記距離が予め定めたしきい値を超える場合に前記推定値を前記接合径の測定値とする第3ステップと、
を具備することを特徴とする摩擦撹拌接合部の接合径測定方法。
【請求項2】
前記第2ステップで求める距離は、前記接合部における残母厚と、前記接合ツールのショルダの先端位置からピンの先端位置までの距離と、前記接合ツール側とは反対側の被接合部材の厚さとに基づいて算出されることを特徴とする請求項1に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定方法。
【請求項3】
重ねられた2つの被接合部材が摩擦撹拌点接合法によって接合された接合部の接合径を測定する装置であって、
超音波測定により前記接合径の推定値を求める接合径推定手段と、
摩擦撹拌接合時の接合ツールのショルダの押込み位置と前記接合ツール側の被接合部材の裏面との距離を求める距離算出手段と、
前記距離が予め定めたしきい値を超える場合に前記推定値を前記接合径の測定値とする接合径決定手段と、
を具備することを特徴とする摩擦撹拌接合部の接合径測定装置。
【請求項4】
前記距離算出手段で求める距離は、前記接合部における残母厚と、前記接合ツールのショルダの先端位置からピンの先端位置までの距離と、前記接合ツール側とは反対側の被接合部材の厚さとに基づいて算出されることを特徴とする請求項3に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定装置。
【請求項5】
重ねられた2つの被接合部材が摩擦撹拌点接合法によって接合された接合部の検査方法であって、
請求項1又は2に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定方法による測定結果に基づいて前記接合部の品質の良否を検査することを特徴とする摩擦撹拌接合品質検査方法。
【請求項6】
重ねられた2つの被接合部材が摩擦撹拌点接合法によって接合された接合部の検査装置であって、
請求項3又は4に記載の摩擦撹拌接合部の接合径測定装置による測定結果に基づいて前記接合部の品質の良否を判定する判定手段と、
この判定手段の判定結果を出力する出力手段と、
を具備することを特徴とする摩擦撹拌接合品質検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−47646(P2013−47646A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186070(P2011−186070)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】