説明

摩擦攪拌接合用工具、それを用いた接合法及びそれにより得た加工物

【課題】本発明の目的は、摩擦攪拌接合用工具について、1350℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物を摩擦攪拌接合した場合においても、材料強度、材料硬度、化学的安定性の向上、熱伝導性の低下により、摩擦熱伝達を向上させ、靭性の低下の抑制させるによって工具からの不純物の混入が少なく、摩耗が少なく、且つ、破壊されにくい工具を提供することである。
【解決手段】本発明に係る摩擦攪拌接合用工具は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、金属若しくは合金を主成分とし、酸化物或いはこれらの2種以上を含有する組成、窒化物或いはこれらの2種を含有する組成、若しくは、金属と酸化物若しくは窒化物との傾斜組成を有する材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高融点部材を摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding)するための摩擦攪拌接合用工具と、それを用いた摩擦攪拌接合法並びに該摩擦攪拌接合法によって得られた加工物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の接合方法として、摩擦攪拌接合法の技術が開示されている(例えば特許文献1又は2を参照。)。摩擦攪拌接合法は、被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、摩擦熱を利用して被加工物を接合する接合法である。そして、摩擦攪拌接合法は、鉄、アルミニウム合金などの金属相互の溶接は勿論異種金属の溶接すら可能な溶接法である。
【0003】
摩擦攪拌接合法については、融点が比較的低いアルミニウム及びアルミニウム合金を対象とした接合が多く検討されており、1350℃以上の高融点を有する金属又は合金を被加工物として摩擦攪拌接合法を適用した報告例は少ないが、高融点である白金を接合した技術の開示がある(例えば特許文献3を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特表平7−505090号公報
【特許文献2】特表平9−508073号公報
【特許文献3】特開2004−090050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような高融点を有する被加工物とする場合、摩擦攪拌接合用工具と被加工物との摩擦による発熱は、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金等の比較的融点が低い被加工物を対象とした場合と比較して、さらに高温まで上げる必要がある。したがって、摩擦攪拌接合用工具は、高融点の被加工物を接合し、長寿命であるために、摩擦によって高温に発熱させてもそれに耐える化学的安定性、耐熱強度、耐摩耗性及び耐熱衝撃性が要求される。
【0006】
そこで本発明の目的は、摩擦攪拌接合用工具について、1350℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物を摩擦攪拌接合した場合においても、摩擦攪拌接合用工具に酸化物又は窒化物を含有させることにより、摩擦攪拌接合用工具の材料強度及び材料硬度を向上させ、摩擦攪拌接合用工具の摩耗を減少させることである。それによって、工具を用いて安定した摩擦攪拌接合を実現し、摩擦攪拌接合用工具のロングライフ化を達成することを目的とする。このことにより、被接合物の不純物量を低減することを目的とする。さらには、熱伝導性を低下させ、発生した摩擦熱を被加工物へ効率よく加えることによって、被加工物を塑性流動域まで即時に達せさせることを目的とする。また、金属及び金属と酸化物、窒化物との傾斜構造等により、摩擦攪拌接合工具の靭性の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、摩擦攪拌接合用工具を形成する材料の組成を種々検討した結果、イリジウム、ロジウム又は白金或いはこれらの2種以上を含有し、所定の酸化物若しくは窒化物或いはその両方を副成分として含有する組成をもつ合金によって摩擦攪拌接合用工具を形成すると、高融点を有する被加工物を安定して摩擦攪拌接合できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明に係る摩擦攪拌接合用工具は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、下記A金属と、下記B酸化物又は下記C窒化物のいずれか一方又はその両方とを含有する組成を有することを特徴とする。ここで、A金属は、イリジウム、ロジウム又は白金或いはこれらの2種以上である。B酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウム或いはこれらの2種以上である。C窒化物は、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウム或いはこれらの2種以上である。
【0008】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム、ロジウム又は白金のいずれか一種と、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムのいずれか一種との2元系合金で形成されており、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムのいずれか一種の含有量が50.0〜99.9体積%であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム、ロジウム又は白金のいずれか一種と、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムのいずれか一種との2元系合金で形成されており、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムのいずれか一種の含有量が50.0〜99.9体積%であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、該摩擦攪拌接合用工具の少なくとも先端部分が回転軸方向に沿って傾斜組成を有し、工具最先端に近づくにつれて酸化物含有量若しくは窒化物含有量が連続的及び/又は段階的に増加すると共に金属含有量が連続的及び/又は段階的に減少する組成を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記摩擦攪拌接合用工具に含有され、傾斜組成とされる前記金属が、イリジウム、ロジウム又は白金であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記酸化物が、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムであることが好ましい。
【0013】
本発明に係る摩擦攪拌接合用工具では、前記窒化物が、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る摩擦攪拌接合法は、被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、前記被加工物は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、本発明に係る摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る摩擦攪拌接合部位を有する加工物は、前記摩擦攪拌接合法によって、接合されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、摩擦攪拌接合用工具について、1350℃以上の高融点を有する金属又は合金からなる被加工物を摩擦攪拌接合した場合においても、摩擦攪拌接合用工具に酸化物又は窒化物を含有させることにより、摩擦攪拌接合用工具の材料強度及び材料硬度を向上させ、摩擦攪拌接合用工具の摩耗を減少させることである。それによって、工具を用いて安定した摩擦攪拌接合を実現し、摩擦攪拌接合用工具のロングライフ化を達成することを目的とする。このことにより、被接合物の不純物量を低減することを目的とする。さらには、熱伝導性を低下させ、発生した摩擦熱を被加工物へ効率よく加えることによって、被加工物を塑性流動域まで即時に達せさせることを目的とする。また、金属及び金属と酸化物、窒化物との傾斜構造等により、摩擦攪拌接合工具の靭性の低下を抑制することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。最初に図1を参照して摩擦攪拌接合法のプロセスとその装置について説明する。
【0018】
摩擦攪拌接合法は、被加工物1A,1Bを相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域2を規定する工程、摩擦攪拌接合用工具3を回転させながら結合領域2に挿入して摩擦攪拌接合用工具3と結合領域2との間で摩擦熱を発生させる工程、発熱させた結合領域中に可塑性領域を発生させ、被加工物同士を接合する工程を備えるものである。接合後は、摩擦攪拌接合用工具3は結合領域2から取り外された状態となっている。
【0019】
ここで、摩擦攪拌接合用工具3は円柱形の肩状部5とその端面に形成されたペンシル部分4とを備える。なお、摩擦攪拌接合用工具3はモータ7によって回転する。摩擦攪拌接合用工具3と被加工物1A,1Bとの摩擦が行なわれなければならないので、被加工物1A,1Bは相互に当接されていなければならない。摩擦が行なわれることを条件に被加工物がほぼ当接していても良い。また、スポット接合ではなく連続した接合を行なうために結合領域2は細長でなければならず、結合領域2に大きな空間があると摩擦攪拌接合用工具3と被加工物1A,1Bとの摩擦が行なわれない。さらに、摩擦攪拌接合用工具3は摩擦熱に耐えなければならず、且つ回転によるねじれの応力に耐え得る強度を有する必要がある。また、被加工物1A,1Bの裏面側にはバックプレート6が配置される。
【0020】
次に摩擦攪拌接合法の原理について説明する。被加工物1A,1Bを突合せ、摩擦攪拌接合用工具3を回転させ、ペンシル部分4をゆっくりと結合領域2である突合せラインに挿入する。このとき、ペンシル部分4が設けられている円柱形の肩状部5の端面と、被加工物1A,1Bの表面が当接し合っている。このペンシル部分4の長さは溶接深さに必要なものとする。摩擦攪拌接合用工具3が回転して、結合領域2に接触すると摩擦が接触点の材料を急速に加熱させ、その結果、材料の機械的強度を低下させる。さらに力を加えると摩擦攪拌接合用工具3はその進行方向8に沿って材料をこね、押し出す。結合領域2では、摩擦攪拌接合用工具3の回転する肩状部5とペンシル部分4によって発生した摩擦熱が、肩状部5の端面部分とペンシル部分4の周りの金属に高温の可塑性領域を作る。被加工物1A,1Bが摩擦攪拌接合用工具3の動きと反対方向に動くかその逆に動くと、塑性化した金属は摩擦攪拌接合用工具3の進行方向8の前端で潰れ、機械的攪拌と摩擦攪拌接合用工具3の形状と回転方向による鍛造作用によって後端へ移動する。この結果、摩擦攪拌接合用工具3の前面の接合部を加熱し、可塑性領域を作り出す。そして被加工物に存在する酸化膜を破壊し潰れた金属を攪拌しながら、摩擦攪拌接合用工具3の後端で可塑性領域は接合される。
【0021】
摩擦攪拌接合法では、亀裂発生がなくなり、溶着金属の蒸発による合金要素のロスが無く、合金成分をそのまま保持でき、さらに溶接器具の圧入、攪拌及び鍛造作用によって微細な粒状組織が溶着金属に形成されるというメリットがある。
【0022】
第1形態に係る摩擦攪拌接合用工具3は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、下記A金属と、下記B酸化物又は下記C窒化物のいずれか一方又はその両方とを含有する組成を有するというものである。ここで、A金属は、イリジウム、ロジウム又は白金或いはこれらの2種以上である。B酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウム或いはこれらの2種以上である。C窒化物は、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウム或いはこれらの2種以上である。
【0023】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、接合目的の被加工物は、特に1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金である。もちろん1350℃未満の融点を有する金属若しくは合金を接合する目的としても使用できる。1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金としては、数例を例示すれば、チタン、チタン基合金、白金、白金基合金、ステンレス鋼、炭素含有量が2質量%以下の鋼である。ここでステンレス鋼は、12%以上のクロムを含む鋼であり、且つ、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系のいずれも含まれる。さらに、フェライト/オーステナイト2相混合組織をもつ2相ステンレス鋼、PHステンレス鋼も含まれる。なお、つき合わせる被加工物同士は異種組成のものであっても良い。さらに、強度強化のために酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化ハフニウム等の酸化物微粒子を分散させた酸化物分散強化型の金属若しくは合金も本実施形態における高融点を有する金属若しくは合金に含まれる。
【0024】
被加工物に接触させる部分とは、図1を参照すれば、円柱形の肩状部5とその端面に形成されたペンシル部分4である。少なくとも当該部分が特に化学的安定性、耐熱強度、耐摩耗性及び耐熱衝撃性が要求される。図1では肩状部5を長く形成して直接モータ7を取り付けているが、例えば肩状部5の上端部分に他材質からなる軸部(不図示)を固定し、該軸部にモータ7を取り付けることとしても良い。軸部は、直接摩擦される部分ではないため、上記要求特性は被加工物に接触させる部分と比較して高度に要求されないためである。ただし、軸となることから耐ねじれ強度は要求される。なお、軸部は被加工物に接触させる部分とはならないが、肩状部5とペンシル部分4と同一材料で形成されていても良い。
【0025】
被加工物に接触させる部分は、下記A金属と、下記B酸化物又は下記C窒化物のいずれか一方又はその両方とを含有する組成を有する材料で形成される。ここで、A金属は、イリジウム、ロジウム又は白金或いはこれらの2種以上である。B酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウム或いはこれらの2種以上である。C窒化物は、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウム或いはこれらの2種以上である。1350℃以上の高融点を有する被加工物を摩擦攪拌接合する際、摩擦攪拌接合用工具は、被加工物の結合領域に押し付けられた状態で回転させられるため、上記被加工物の融点に近い温度まで加熱された状態で、圧縮応力とねじれ応力が加えられる。
【0026】
したがって、金属として、イリジウム、ロジウム又は白金或いはこれらの2種以上を含有し、酸化物として、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウム或いはこれらの2種以上、及び/又は、窒化物として、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウム或いはこれらの2種以上を含有する組成を有する材料で摩擦攪拌接合用工具を形成することで、材料強度及び材料硬度、化学的安定性を向上させ、熱伝導性の低下により、摩擦熱伝達を向上させ、靭性の低下を抑制する。すなわち、摩擦攪拌接合用工具から見れば被加工物との摩擦による摩耗を減少させ、被加工物側から見れば摩擦攪拌接合用工具からの不純物の混入を少なくさせて、上記要求特性の向上を図る。
【0027】
また、これらの材料で摩擦攪拌接合用工具を形成することで高温強度が得られ、作業中に圧縮応力とねじれ応力が加えられてもそれに耐えうる。また、耐熱衝撃性も良好となるため、作業を行なうたびに昇温降温が繰り返されてもそれを原因として破壊されることは少ない。
【0028】
ここで被加工物に接触させる部分を、イリジウム、ロジウム又は白金のいずれか一種と、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムのいずれか一種との2元系合金で形成する場合には、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムのいずれか一種の含有量が50.0〜99.9体積%とする。より好ましくは60.0〜99.9体積%とする。酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムの含有量を50.0体積%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が99.9体積%を超えると、酸化物の特性が強くなり、破損し易い状況となる。
【0029】
上記2元系合金とは、具体的には、イリジウム−酸化ジルコニウム2元合金、イリジウム−酸化ハフニウム2元合金、イリジウム−酸化イットリウム2元合金、イリジウム−酸化マグネシウム2元合金、イリジウム−酸化チタン2元合金、イリジウム−酸化アルミニウム2元合金、ロジウム−酸化ジルコニウム2元合金、ロジウム−酸化ハフニウム2元合金、ロジウム−酸化イットリウム2元合金、ロジウム−酸化マグネシウム2元合金、ロジウム−酸化チタン2元合金、ロジウム−酸化アルミニウム2元合金、白金−酸化ジルコニウム2元合金、白金−酸化ハフニウム2元合金、白金−酸化イットリウム2元合金、白金−酸化マグネシウム2元合金、白金−酸化チタン2元合金、白金−酸化アルミニウム2元合金である。
【0030】
また、被加工物に接触させる部分を、イリジウム、ロジウム又は白金のいずれか一種と、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムのいずれか一種との2元系合金で形成する場合には、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムのいずれか一種の含有量が50.0〜99.9体積%とする。より好ましくは60.0〜99.9体積%とする。窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムの含有量を50.0体積%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が99.9体積%を超えると、酸化物の特性が強くなり、破損し易い状況となる。
【0031】
上記2元系合金とは具体的には、イリジウム−窒化ボロン2元合金、イリジウム−窒化シリコン2元合金、イリジウム−窒化ジルコニウム2元合金、イリジウム−窒化タンタル2元合金、イリジウム−窒化ニオブ2元合金、イリジウム−窒化ハフニウム2元合金、イリジウム−窒化イットリウム2元合金、ロジウム−窒化ボロン2元合金、ロジウム−窒化シリコン2元合金、ロジウム−窒化ジルコニウム2元合金、ロジウム−窒化タンタル2元合金、ロジウム−窒化ニオブ2元合金、ロジウム−窒化ハフニウム2元合金、ロジウム−窒化イットリウム2元合金、白金−窒化ボロン2元合金、白金−窒化シリコン2元合金、白金−窒化ジルコニウム2元合金、白金−窒化タンタル2元合金、白金−窒化ニオブ2元合金、白金−窒化ハフニウム2元合金、白金−窒化イットリウム2元合金である。
【0032】
なお、第1形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、被加工物に接触させる部分を、副成分が1成分である2成分系合金のみならず、副成分が2成分以上である3成分系以上の合金としても良い。例えば、イリジウム−酸化ジルコニウム−窒化ボロン合金、イリジウム−酸化イットリウム−酸化ジルコニウム合金などが有る。
【0033】
第2形態に係る本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具3は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、該摩擦攪拌接合用工具の少なくとも先端部分が回転軸方向に沿って傾斜組成を有し、工具最先端に近づくにつれて酸化物含有量若しくは窒化物含有量が連続的及び/又は段階的に増加すると共に金属含有量が連続的及び/又は段階的に減少する組成を有するというものである。
【0034】
ここで摩擦攪拌接合用工具に含有され、傾斜組成とされる前記金属は、例えば、イリジウム、ロジウム又は白金である。また、前記酸化物は、例えば、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムである。また、前記窒化物は、例えば、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムである。
【0035】
摩擦攪拌接合用工具の先端部分、例えば図1のペンシル部分4を傾斜組成とする。また、摩擦攪拌接合用工具全体を傾斜組成としても良い。傾斜組成は、摩擦攪拌接合用工具の回転軸方向に沿って形成することが好ましい。工具最先端に近づくにつれて酸化物含有量若しくは窒化物含有量が連続的及び/又は段階的に増加すると共に金属含有量が連続的及び/又は段階的に減少する組成傾斜材料とする。段階的に組成が変化する傾斜材料は、例えば原料粉末を段階的に組成に変化を持たせた積層構造とした状態でプレスして、その後焼結することにより形成できる。さらに、これを拡散させることにより連続的に組成が変化する傾斜材料を形成することができる。もちろん、原料粉末を連続的な組成変化となるように分布させた後、プレスして、その後焼結することにより形成することもできる。ここで、酸化物含有量若しくは窒化物含有量の高いイリジウム合金又は酸化物含有量若しくは窒化物含有量の高いロジウム合金又は酸化物含有量若しくは窒化物含有量の高い白金合金は、耐熱性と耐摩耗性に優れているため、被加工物側に配置する。1350℃以上の高融点を有する被加工物を摩擦攪拌接合する際、摩擦攪拌接合用工具は、被加工物の結合領域に押し付けられた状態で回転させられるため、上記被加工物の融点に近い温度まで加熱された状態で、圧縮応力とねじれ応力が加えられる。
【0036】
したがって、このような傾斜材料で摩擦攪拌接合用工具を形成することで、材料強度及び材料硬度、化学的安定性を向上させ、熱伝導性の低下により、摩擦熱伝達を向上させ、靭性の低下を抑制する。すなわち、摩擦攪拌接合用工具から見れば被加工物との摩擦による摩耗を減少させ、被加工物側から見れば摩擦攪拌接合用工具からの不純物の混入を少なくさせて、上記要求特性の向上を図る。
【0037】
また、これらの材料で摩擦攪拌接合用工具を形成することで高温強度が得られ、作業中に圧縮応力とねじれ応力が加えられてもそれに耐えうる。また、耐熱衝撃性も良好となるため、作業を行なうたびに昇温降温が繰り返されてもそれを原因として破壊されることは少ない。
【0038】
ここで被加工物に接触させる部分を、イリジウム、ロジウム又は白金のいずれか一種と、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムのいずれか一種との2元系合金の傾斜材料で形成する場合には、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムのいずれか一種の含有量が50.0〜99.9体積%となる範囲で傾斜組成とする。より好ましくは60.0〜99.9体積%となる範囲で傾斜組成とする。酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムの含有量を50.0体積%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が99.9体積%を超えると、酸化物の特性が強くなり、破損し易い状況となる。
【0039】
上記2元系合金とは、具体的には、イリジウム−酸化ジルコニウム2元合金、イリジウム−酸化ハフニウム2元合金、イリジウム−酸化イットリウム2元合金、イリジウム−酸化マグネシウム2元合金、イリジウム−酸化チタン2元合金、イリジウム−酸化アルミニウム2元合金、ロジウム−酸化ジルコニウム2元合金、ロジウム−酸化ハフニウム2元合金、ロジウム−酸化イットリウム2元合金、ロジウム−酸化マグネシウム2元合金、ロジウム−酸化チタン2元合金、ロジウム−酸化アルミニウム2元合金、白金−酸化ジルコニウム2元合金、白金−酸化ハフニウム2元合金、白金−酸化イットリウム2元合金、白金−酸化マグネシウム2元合金、白金−酸化チタン2元合金、白金−酸化アルミニウム2元合金である。
【0040】
また、被加工物に接触させる部分を、イリジウム、ロジウム又は白金のいずれか一種と、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムのいずれか一種との2元系合金の傾斜材料で形成する場合には、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムのいずれか一種の含有量が50.0〜99.9体積%となる範囲で傾斜組成とする。より好ましくは60.0〜99.9体積%となる範囲で傾斜組成とする。窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムの含有量を50.0体積%未満とすれば、耐摩耗性が不十分となる場合があり、一方含有量が99.9体積%を超えると、酸化物の特性が強くなり、破損し易い状況となる。
【0041】
上記2元系合金とは具体的には、イリジウム−窒化ボロン2元合金、イリジウム−窒化シリコン2元合金、イリジウム−窒化ジルコニウム2元合金、イリジウム−窒化タンタル2元合金、イリジウム−窒化ニオブ2元合金、イリジウム−窒化ハフニウム2元合金、イリジウム−窒化イットリウム2元合金、ロジウム−窒化ボロン2元合金、ロジウム−窒化シリコン2元合金、ロジウム−窒化ジルコニウム2元合金、ロジウム−窒化タンタル2元合金、ロジウム−窒化ニオブ2元合金、ロジウム−窒化ハフニウム2元合金、ロジウム−窒化イットリウム2元合金、白金−窒化ボロン2元合金、白金−窒化シリコン2元合金、白金−窒化ジルコニウム2元合金、白金−窒化タンタル2元合金、白金−窒化ニオブ2元合金、白金−窒化ハフニウム2元合金、白金−窒化イットリウム2元合金である。
【0042】
なお、第2形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、被加工物に接触させる部分を、副成分が1成分である2成分系合金のみならず、副成分が2成分以上である3成分系以上の合金としても良い。例えば、イリジウム−酸化ジルコニウム−窒化ボロン合金、イリジウム−酸化イットリウム−酸化ジルコニウム合金などが有る。
【0043】
第2形態に係る摩擦攪拌接合用工具の傾斜組成の一例をあげれば次の通りである。工具の母材を90.0質量%Ir−10.0質量%Reとし、内部から表面への方向に沿って、100質量%Ir(例えば0.5mm)、75.0質量%Ir−25.0質量%ZrO(例えば1mm)、50.0質量%Ir−50.0質量%ZrO(例えば1mm)、25.0質量%Ir−75.0質量%ZrO(例えば5mm)とする。Irの層は接合材としての役割を持たせている。25.0質量%Ir−75.0質量%ZrOが最表層の組成となる。作製当初は層状構造となるが、熱の付加により層間の拡散が発生する。
【0044】
第1形態に係る摩擦攪拌接合用工具と第2形態に係る摩擦攪拌接合用工具のいずれも焼結法により作製する。
【0045】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、イリジウムに対する副成分の組み合わせを複数例示しているが、副成分の選択は、被加工物に応じて使い分けても良い。
【0046】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具では、工具の形状には限定されない。工具の形状は、摩擦係数や攪拌効率を考慮して被加工物に応じて適宜選択する。
【0047】
本実施形態に係る摩擦攪拌接合法では、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなる被加工物を、本実施形態に係る摩擦攪拌接合用工具を使用して接合を図るものである。
【0048】
本実施形態の摩擦攪拌接合法を行なうことで、高融点を有する被加工物であっても、不純物の混入が少ない摩擦攪拌接合部位を有する加工物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】摩擦攪拌接合法の機構の一形態を示す概念図である。
【符号の説明】
【0050】
1A,1B,被加工物
2,結合領域
3,摩擦攪拌接合用工具(プローブピン)
4,ペンシル部分
5,肩状部
6,バックプレート
7,モータ
8,進行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、
少なくとも前記被加工物に接触させる部分が、下記A金属と、下記B酸化物又は下記C窒化物のいずれか一方又はその両方とを含有する組成を有することを特徴とする摩擦攪拌接合用工具。
A金属は、イリジウム、ロジウム又は白金或いはこれらの2種以上である。
B酸化物は、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウム或いはこれらの2種以上である。
C窒化物は、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウム或いはこれらの2種以上である。
【請求項2】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム、ロジウム又は白金のいずれか一種と、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムのいずれか一種との2元系合金で形成されており、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムのいずれか一種の含有量が50.0〜99.9体積%であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項3】
前記被加工物に接触させる部分が、イリジウム、ロジウム又は白金のいずれか一種と、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムのいずれか一種との2元系合金で形成されており、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムのいずれか一種の含有量が50.0〜99.9体積%であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項4】
1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金を被加工物として摩擦攪拌接合することができる摩擦攪拌接合用工具であって、
該摩擦攪拌接合用工具の少なくとも先端部分が回転軸方向に沿って傾斜組成を有し、工具最先端に近づくにつれて酸化物含有量若しくは窒化物含有量が連続的及び/又は段階的に増加すると共に金属含有量が連続的及び/又は段階的に減少する組成を有することを特徴とする摩擦攪拌接合用工具。
【請求項5】
前記摩擦攪拌接合用工具に含有され、傾斜組成とされる前記金属が、イリジウム、ロジウム又は白金であることを特徴とする請求項4に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項6】
前記酸化物が、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化チタン又は酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項4又は5に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項7】
前記窒化物が、窒化ボロン、窒化シリコン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化ニオブ、窒化ハフニウム又は窒化イットリウムであることを特徴とする請求項4、5又は6に記載の摩擦攪拌接合用工具。
【請求項8】
被加工物を相互に当接若しくはほぼ当接させて細長の結合領域を規定し、該結合領域に挿入した摩擦攪拌接合用工具を回転させつつ移動させて、前記被加工物を接合する摩擦攪拌接合法において、
前記被加工物は、1350℃以上の高融点を有する金属若しくは合金からなり、前記摩擦攪拌接合用工具として、請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載の摩擦攪拌接合用工具を使用することを特徴とする摩擦攪拌接合法。
【請求項9】
請求項8に記載の摩擦攪拌接合法によって、接合されたことを特徴とする摩擦攪拌接合部位を有する加工物。

【図1】
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