説明

摩擦攪拌接合用自動検査装置

【課題】摩擦攪拌接合部における非破壊検査作業を自動化するとともに接合部の検査費用を安価にすることができる摩擦攪拌接合用自動検査装置を提供する。
【解決手段】摩擦攪拌接合用自動検査装置は、部材押付ローラ20の進行方向前方に、摩擦攪拌接合によって生じるバリを切削除去するための切削ヘッド40を備え、部材押付ローラ20の進行方向後方には、検査ヘッド30を備えている。検査ヘッド30は、渦電流を発生させて非破壊検査を行う検査プローブ31の前後に、検査プローブ31の下面と部材10の接合部の表面との間の隙間を一定に保持し、左右の追従性を良好にするとともに接合部の進行方向の上下うねりに対する追従性を良好にするためのボール型ローラ33,34を備え、またボール型ローラ34の前方には乗り上げ用ローラ34を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌接合部の非破壊検査に使用する自動検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合方法は、接合すべき部材に挿入した丸棒(以下、「回転工具」という)を回転させながら接合線に沿って移動させ、接合部を発熱、軟化させ、塑性流動させ、固相接合する方法である。回転工具は、共通の回転軸を有する大径部と小径部からなっており、接合に際しては、小径部を部材に挿入し、大径部の端面を部材に接触させて用いられる。2つの部材間に隙間がある場合には、その補填材として接合部に予め凸部を設けておき、挿入された回転工具の回転に伴って凸部の材料を補填材として隙間に流動させている。回転工具の軸心は若干傾斜しているので、接合線に沿って移動する際に、材料の塑性流動が促進される。また、回転工具の大径部に切削用の刃を設置して、接合しつつ前記凸部を切削するようにしている。凸部の上面から切粉を除くために空気で吹き飛ばすようにしている。これらは、特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−47262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接によって接合した場合、溶接部にボイドが発生することがある。ボイドは、その形状が一般に球形であるので、強度的には重大な障害にならない。しかしながら、摩擦攪拌接合の場合はボイドが球形の欠陥にはならず、連続した欠陥になりやすい。この場合は強度的に重大な欠陥となる。
【0005】
一般に、摩擦攪拌接合の非破壊検査は超音波を発生する探傷子を接合部に沿って手動で滑らせて行うので、熟練を必要としている。また、摩擦攪拌接合の接合部においては、両側にバリが発生しやすい。接合部の表面に半円状の文様が発生し、これもバリとなりやすい。こうしたバリの存在のため、接合部の表面からの検査が困難である。更に、超音波による検査の場合には探傷子と表面との密着性が重要となるが、接合部の表面には半円状の凹みができ、この点も検査を困難にしている。
【0006】
このため、摩擦攪拌接合が終了した後、別工程でバリ等を切削し、そして検査することが考えられる。これによれば、時間がかかり、検査費用も高価になる。
本発明の目的は、摩擦攪拌接合部の非破壊検査作業を自動化することとともに当該検査費用を安価にすることができる検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、回転工具を接合すべき部材に対して相対的に移動させて摩擦攪拌接合を行いつつ、接合した部分を切削しつつ、それよりも後方において、渦電流を発生させる検査プローブを接合部表面から一定の距離を離した非接触状態で接合部表面に沿って非破壊検査を行うこと、によって達成できる。
【0008】
即ち、この発明による摩擦攪拌接合用自動検査装置は、摩擦攪拌接合で接合された部材の接合部の欠陥を検査する非破壊検査装置であって、検査プローブの進行方向前後位置に、前記検査プローブの下面と前記接合部の表面との間の隙間を一定に保持し、左右の追従性を良好にし且つ前記接合部の進行方向の上下うねりに対する追従性を良好にするためのボール型ローラを配備していることを特徴とする。
【0009】
この摩擦攪拌接合用自動検査装置において、前記検査ヘッドには、前記検査ヘッドと前記スライドユニットの間に位置する箇所に部材のない状態から部材への乗り上げを円滑に行うための乗り上げ用ローラを配備していることができる。また、前記検査ヘッドには、前記検査ヘッドと前記スライドユニットの間に位置する箇所に部材のない状態から部材への乗り上げを円滑に行うための乗り上げ用ローラを配備することができる。
【0010】
また、この発明による摩擦攪拌接合用自動検査装置は、摩擦攪拌接合で接合された部材の接合部の欠陥を検査する非破壊検査装置であって、前記接合部上面に発生するバリを除去するための切削工具を検査装置の前方に配置しており、前記切削工具と検査装置本体とを上下スライドユニットで接続することで、前記切削工具の自重により前記切削工具を前記接合部上面に押し付け力を一定にするとともに前記接合部の進行方向の上下うねりに追従可能とすることを特徴とする。この場合、前記切削工具と前記接合部上面との押し付け代を一定にするためのローラを、前記切削工具の進行方向前後に配置することができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、回転工具を接合すべき部材に対して相対的に移動させて摩擦攪拌接合を行いつつ、接合した部分を切削しつつ、それよりも後方において、渦電流を発生させる検査プローブを接合部表面と一定の距離離した状態で接合部表面に沿って、摩擦攪拌接合部の非破壊検査を自動化で行うことができ、検査費用を安価に行う摩擦攪拌接合用自動検査装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による摩擦攪拌接合用自動検査装置の一実施例の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1に示した摩擦攪拌接合用自動検査装置の検査ヘッドを拡大して検査プローブ近傍を示す側面図である。
【図3】図2に示す検査ヘッドに用いられるボールローラをその進行方向から見た正面図である。
【図4】図1に示した摩擦攪拌接合用自動検査装置の検査ヘッド及びスライドユニットの概略図である。
【図5】図1に示した摩擦攪拌接合用自動検査装置の検査ヘッド乗り上げ用ローラの動作概略図である。
【図6】図1に示した摩擦攪拌接合用自動検査装置のバリ除去用の切削ヘッドの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施例を説明する。図1は、本発明による摩擦攪拌接合用自動検査装置100の一実施例の全体構成を示す側面図である。摩擦攪拌接合用自動検査装置100は、部材押付ローラ20を具備する部材押付ユニット25と検査ヘッド30と切削ヘッド40を備えている。
検査対象である部材10を部材押付ローラ20にて押し付けることで、検査中に振動などを抑制することができる。摩擦攪拌接合用自動検査装置100においては、部材押付ローラ20の進行方向前方に、摩擦攪拌接合によって生じるバリを切削除去するための切削ヘッド40が配備されており、部材押付ローラ20の進行方向後方には、検査ヘッド30が配備されている。部材押付ローラ20を具備する部材押付ユニット25を部材の押付を必要とする検査ヘッド30と切削ヘッド40との間の位置に配置することにより、効果的に部材を押し付けることができる。部材押付ローラ20また、検査ヘッド30は、検査プローブ31とボールローラ32,33、及び乗り上げ用ローラ34で構成されている。
【0014】
図2は、図1に示した検査ヘッド30の詳細を示している。検査ヘッド30は、検査プローブ31の進行方向前後にボール型のローラ32及び33を備えている。検査プローブ31は、渦流探傷検査に使用するプローブである。部材10と検査プローブ31とを接触させないように、部材10の表面と検査プローブ31の先端面との間には一定の隙間hを保つ必要がある。一定(所定)の隙間hはおおよそ0. 5mmである。検査プローブ31の前後にボールローラ32及び33を配置し、ボールローラ32及び33の少なくともどちらか一方が部材10に密着することにより、一定の隙間hを保つことが可能となっている。また、鉄道車両のような接合長さが20m〜25mある場合においては、その接合線のほとんどが直線ではなく、大きく曲がっている場合があり、部材10に密着しているローラの左右方向(接合線に直交する方向)への追従性をスムーズにするために、ローラとしてボール型のローラが採用されている。
【0015】
図3は、ボールローラ33を進行方向から見た図である。検査対象である部材10の摩擦攪拌接合部12にボールローラ33(32)が密着しており、左右への移動がスムーズに行われる構造となっている。
【0016】
図4は、検査ヘッド30と部材押付ユニット25とを繋ぐ部分の外観図である。検査ヘッド30と部材押付ユニット25とはスライドユニット35で繋がれている。即ち、スライドユニット35は、部材押付ユニット25に対して縦方向に延びる態様で固定されたスライドレールに対して、検査ヘッド30が取り付けられたスライダが矢印で示すように縦方向に低摩擦でスライド可能に構成されている。部材10に対して検査ヘッド30のボールローラ32,33を密着させて検査を実施しているが、鉄道車両のような接合長さが20m〜25mの部材の場合、進行方向が大きく上下にうねる場合がある。そのうねりに対して、検査ヘッド30をその自重によってボールローラ32,33を部材10に追従させ、その際の上下のうねりに起因した部材押付ユニット25と検査ヘッド30との相対変位をスライドユニット35によって吸収させているので、ボールローラ32,33の部材10に対するスムーズな密着状態を確保することできる。本構造による検証の結果、全長20mの部材が上下に±1. 5mm変動している場合において、検査ヘッド30と部材10との隙間を0. 5±0. 1mm以内に抑えることが可能であることを確認している。
【0017】
図5は、検査ヘッド30において前方に配設されている乗り上げ用ローラ34の概略を示している。乗り上げ用ローラ34は、検査ヘッド30のケーシングに対して適当なブラケットを介して回転自在に支持されている。部材10の特にエッジ部分に検査ヘッド30が近づく場合において、検査ヘッド30は自重によりスライドユニット35の最下点まで下がっている。部材10に検査ヘッド30が接触すると、先ず乗り上げ用ローラ34が部材10に乗り上げることで、スライドユニット35を介して(スライダがスライドレールに対して若干スライド上昇する)検査ヘッド30を押し上げる。その後、ボールローラ32が部材10に乗り上げ、検査を開始する。ボールローラ32が部材10に乗り上げる前に、乗り上げ用ローラ34で部材10に乗り上げることで、検査直前の乗り上げ時の衝撃を緩和でき、安定的な検査が可能となっている。
【0018】
図6は、検査ヘッド30の前方に配備されている切削ヘッド40の概略図を示している。切削ヘッド40は、検査ヘッド30の場合と同様にスライドユニット45を介して、部材10に対して自重による一定の押し付け力で接触している。また、切削ブラシ41を一定の押し付け量で部材10に押し付けるために、切削ブラシ41の進行方向前後に押付ローラ42,43を配備する構成となっている。即ち、押付ローラ42,43が部材10に当接する状態で、切削ブラシ41はそれ以上部材に接近することがなく、一定の押し付け量が確保される。また、切削ブラシ41は、回転モータ40(回転軸線は縦方向に延びる)により回転しながらバリを除去する機構となっている。
【符号の説明】
【0019】
10:部材 11:凸部
12:摩擦攪拌接合部 20:部材押付ローラ、
25:部材押付ユニット
30:検査ヘッド 31:検査プローブ
32,33:ボール型ローラ 34:ボール乗り上げ用ローラ
35,45:スライドユニット 40:切削ヘッド、
41:切削ブラシ 42,43:押付ローラ
44:回転モータ 100:検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦攪拌接合で接合された部材の接合部の欠陥を検査する非破壊検査装置において、
検査プローブの進行方向前後位置に、前記検査プローブの下面と前記接合部の表面との間の隙間を一定に保持するためのボール型ローラを配備していること、
を特徴とする摩擦攪拌接合用自動検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦攪拌接合用自動検査装置において、
前記検査プローブ及び前記ボール型ローラを備える検査ヘッドと、部材押付ユニットとを上下スライドユニットで接続すること、
を特徴とする摩擦攪拌接合用自動検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の摩擦攪拌接合用自動検査装置において、
前記検査ヘッドには、前記検査ヘッドと前記スライドユニットの間に位置する箇所に部材のない状態から部材への乗り上げるための乗り上げ用ローラを配備していること、
を特徴とする摩擦攪拌接合用自動検査装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載される摩擦攪拌接合用自動検査装置において、
前記接合部上面に発生するバリを除去するための切削工具を前記検査プローブの進行方向の前方に配置しており、前記切削工具と前記部材押付ユニットとを上下スライドユニットで接続することで、前記切削工具の自重により前記切削工具を前記接合部上面に押し付けること、
を特徴とする摩擦攪拌接合用自動検査装置
【請求項5】
請求項4に記載の摩擦攪拌接合用自動検査装置において、
前記切削工具と前記接合部上面との押し付け代を確保するための押付ローラを、前記切削工具の進行方向前後に配置すること、
を特徴とする摩擦攪拌接合用自動検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−121110(P2011−121110A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283146(P2009−283146)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】