説明

摩擦攪拌接合装置及びその接合方法

【課題】接合ツールを備えて被接合物の摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌接合装置及びその管理方法であって、接合加工中に接合ツールの温度を監視できるものを提供する。
【解決手段】摩擦攪拌接合装置1において、接合ツール4が回転しながら移動して被接合物2の被接合部3を押圧する接合時に、被接合部3の接合ツール4と反対側に当接して被接合物2を支持する裏当て部材21に被検出点を設ける。さらに、この被検出点の温度を検出する熱電対34及び温度測定器35(温度検出手段)と、予め設定された接合ツール4の温度と裏当て部材21の温度との相関関係とに基づいて、検出された被検出点の温度から推定された接合ツール4の温度を算出して記録する記録手段と、推定された接合ツール4の温度に基づいて、接合ツール4が過熱されないように所定の処置を実行する制御手段とを、摩擦攪拌接合装置1に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の鋼製部材を接合するための摩擦攪拌接合装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の鋼製部材を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW;Friction Stir Welding)が知られている。この摩擦攪拌接合は、接合ツールの先端に設けられた突起部を、接合させる部材の被接合部に回転させながら押し付けることによって、被接合部周辺を摩擦熱で軟化させることと、被接合部周辺の軟化した部分を攪拌して塑性流動させることと、被接合部を接合ツールから離して冷却させることとを行って、複数の鋼製部材を接合する方法である。
【0003】
特許文献1及び特許文献2では、上記摩擦攪拌接合を利用してスポット接合を行う装置又は方法が開示されている。特許文献1では、被接合部に接合ツールを没入させる前にレーザー光で被接合部を軟化させて、接合ツールの突起部の摩耗を低減する摩擦攪拌装置が開示されている。また、特許文献2では、接合中の被接合部の温度に応じて接合ツールの動作制御を行って、複数の鋼製部材の被接合部が冷却時にマルテンサイト組織になることを抑制する摩擦攪拌接合方法が開示されている。この接合方法では、被接合部を介して接合ツールと反対側に配置されて接合ツールからの圧を受ける受け部材に、被接合部の温度を計測する温度センサを備えて、この温度センサで検出された被接合部の温度が金属組織がオーステナイトに変態するA3変態点以上になると、接合ツールの回転速度や押圧力などの加工条件を調整し、調整後、被接合部の温度が共析温度であるA1変態点以下になると、接合ツールを被接合部から引き抜くようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−21217号公報
【特許文献2】特開2008−73694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
摩擦攪拌接合において、接合加工中に接合ツール(特に、突起部)が摩耗することにより、接合ツールの被接合部への没入が早まって、接合ツールが過剰に温度上昇することがある。接合ツールの温度が過剰に上昇すると、接合ツール自身の寿命が低下し、接合ツールの交換頻度が高くなり経済的ではない。また、摩耗しすぎた接合ツールを用いて接合加工を行うと、接合不良が生じることがある。このような不具合を解消するために、接合加工中の接合ツールの温度状況を管理することが望ましい。ところが、従来の摩擦攪拌接合装置において接合ツールの温度を直接的に検出するためには、接合ツールが回転することから、接合ツールに備えた温度検出手段と計測装置本体との間に高価な遠隔測定システムを構築する必要が生じる。さらに、摩擦攪拌接合装置の接合ツールは定期的に交換されるが、このようなメンテナンスのたびに接合ツールに備えた温度検出手段を付けたり外したりする作業を行わねばならない。また、特許文献2に記載されているように、接合ツールからの圧を受ける受け部材に被接合部の温度を計測する温度センサを設けて被接合部の温度を検出する構成とすれば、前述したような接合ツールに温度検出手段を設ける場合に生じる課題は発生しない。しかし、一般に接合時の被接合部の温度は接合ツールの温度よりも低く、この被接合部の温度がA3変態点(約900℃)となれば接合ツールの実際の温度は1200℃を超えていることが想定され、特許文献2に記載された摩擦接合方法では接合ツールの寿命の低下に繋がるおそれがある。
【0006】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものであって、接合ツールを備えて被接合物の摩擦攪拌接合を行う摩擦攪拌接合装置及びその管理方法であって、接合ツールの寿命を無駄に低下させることのないように接合時に接合ツールの温度を監視するものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る摩擦攪拌接合装置は、先端に被接合物の被接合部と接触する突起部を有する接合ツールと、前記接合ツールを軸周りに回転させる回転駆動手段と、前記接合ツールを軸線方向に移動させる移動手段と、前記接合ツールが回転しながら移動して前記被接合物の被接合部を押圧する接合時に、前記被接合部の前記接合ツールと反対側に当接して前記被接合物を支持する裏当て部材と、予め設定された加工条件に基づいて前記回転駆動手段及び前記移動手段の動作を制御する制御手段と、前記裏当て部材に設けた被検出点の温度を検出する温度検出手段と、前記被検出点の温度を取得し、予め設定された前記接合ツールの温度と前記裏当て部材の温度との相関関係に基づいて前記被検出点の温度から推定された接合ツールの温度を算出して記録する記録手段とを、備えているものである。
【0008】
同じく、本発明に係る摩擦攪拌接合方法は、裏当て部材で支持された被接合物の被接合部を、軸周りに回転する接合ツールで押圧することにより、発生した摩擦熱で前記被接合部を軟化させ、この軟化した部分に前記接合ツールの少なくとも一部を没入させて攪拌することにより、前記被接合部を固相状態で摩擦接合する摩擦攪拌接合方法であって、前記裏当て部材に設けた被検出点の温度を検出するステップと、予め設定された前記接合ツールの温度と前記裏当て部材の温度の相関関係に基づいて、検出された前記被検出点の温度から推定された接合ツールの温度を算出して記録するステップとを、含むものである。
【0009】
上記によれば、接合時に接合ツールの裏当て部材に備えた温度検出手段で検出した温度から推定された接合ツールの温度を得て記録し、これを時系列に並べて分析することにより、接合ツールの温度状況を監視することができる。接合ツールの温度を監視することにより、接合ツールの過熱を知って、これを防止するための処置をとることが可能となる。さらに、接合時の接合ツールの温度の記録は、被接合物の各接合点の品質保証のために利用することができる。そして、接合ツールの温度を間接的に検出する温度検出手段は、回転する接合ツールではなく裏当て部材に設けられているので、装置における温度検出手段の配線が簡易であり、装置が複雑となったり巨大化したりすることがない。
【0010】
さらに、前記摩擦攪拌接合装置において、前記制御手段は、前記推定された接合ツールの温度が予め設定された上限温度に達すると、接合加工を強制的に終了させることがよい。同じく、前記摩擦攪拌接合方法において、前記推定された接合ツールの温度と予め設定された上限温度とを比較するステップと、前記推定された接合ツールの温度が前記上限温度に達すると、接合加工を強制的に終了するステップとを、更に含むことがよい。
【0011】
上記によれば、推定された接合ツールの温度が上限温度に達したときに、接合加工が強制終了されるので、接合ツールの過熱が未然に防止されて、接合ツールをその寿命を短縮させないように使用できる。また、接合ツールの過熱は、接合ツールの摩耗に起因するので、摩耗した接合ツールにより接合加工が行われて接合不良が生じることを防止できる。
【0012】
或いは、前記摩擦攪拌接合装置において、前記制御手段は、前記推定された接合ツールの温度が予め設定された上限温度に達すると、前記接合ツールの温度が前記上限温度以下となるように接合加工時間、前記接合ツールの回転数、及び前記接合ツールの前記被接合部に対する押圧力のうちいずれか一つ又は複数の組み合わせを変化させることがよい。同じく、前記摩擦攪拌接合方法において、前記推定された接合ツールの温度と予め設定された上限温度とを比較するステップと、前記推定された接合ツールの温度が前記上限温度に達すると、前記接合ツールの温度が前記上限温度以下となるように接合加工時間、前記接合ツールの回転数、及び前記接合ツールの前記被接合部に対する押圧力のうちいずれか一つ又は複数の組み合わせを変化させるステップとを、更に含むことがよい。
【0013】
上記によれば、接合ツールが上限温度を超えないように、接合加工の加工条件が調整されるので、接合ツールの過熱が未然に防止されて、接合ツールをその寿命を短縮させないように使用できる。
【0014】
また、前記摩擦攪拌接合装置において、前記記録手段は、接合加工を開始してから前記推定された接合ツールの温度がピークに達するまでのピーク温度到達時間を計測し、前記制御手段は、前記ピーク温度到達時間が予め設定された正常値の範囲から外れるときは、接合加工を強制的に終了させることがよい。同じく、前記摩擦攪拌接合方法において、接合加工を開始してから前記推定された接合ツールの温度がピークに達するまでのピーク温度到達時間を計測するステップと、前記ピーク温度到達時間が予め設定された正常値の範囲から外れるときは、接合加工を強制的に終了するステップとを、更に含むことがよい。
【0015】
上記において、ピーク温度到達時間が正常値の範囲から外れるとき(特に、短いとき)は、接合ツールの摩耗により没入が早まることが想定される。このようなときに、接合加工が強制終了されることで、接合ツールの過熱が未然に防止され、さらに、摩耗した接合ツールにより接合加工が行われて接合不良が生じることを防止できる。
【0016】
また、前記摩擦攪拌接合装置において、前記被検出点は、前記接合ツールの回転軸の延長線上に配置されていることがよい。さらに、前記摩擦攪拌接合装置において、前記被検出点は、前記裏当て部材の内部であって前記裏当て部材の前記被接合物と当接する面から0.3〜0.5mm離れたところに位置していることがよい。これにより、温度検出手段と接合ツールとを直接干渉させることがなく、且つ、温度検出手段で接合ツールの温度の変化をより精確に捉えることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、摩擦攪拌接合において、接合時に接合ツールの裏当て部材に備えた温度検出手段で検出した温度から推定された接合ツールの温度を記録して、接合ツールの温度変化を監視することができる。接合ツールの温度変化を監視することにより、接合ツールの温度状況を知って、接合ツールの過熱を防止するための処置をとることができ、ひいては、接合不良の発生防止を図ることができる。さらに、得られた接合ツールの温度変化に関する情報を被接合物の各接合点の品質を保証するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る摩擦攪拌接合装置の全体的な概略構成を示した図である。
【図2】接合時の接合ツールと支持具との様子を示す一部断面図である。
【図3】接合時の接合ツールのピン部と裏当て部材の裏当て部との温度の関係を示す図表である。
【図4】制御装置の処理の流れを説明するフローチャートである。
【図5】接合時の接合ツールのピン部の温度の時間変化を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複説明を省略する。
【0020】
(摩擦攪拌接合装置1の構成)
図1に示すように、本実施の形態に係る摩擦攪拌接合装置1は、軸周りに回転する接合ツール4を備えており、この接合ツール4を被接合物2の被接合部3に回転させながら押し付けて、被接合部3及びその周辺を摩擦熱によって軟化させ、軟化した被接合部3へ接合ツール4の一部を没入させ、接合ツール4の回転により軟化した被接合部3及びその周辺を攪拌して塑性流動させるように構成されている。この被接合部3が冷却されて硬化すると、被接合物2の被接合部3は固相接合された接合部となる。なお、被接合物2は、摩擦攪拌接合により接合可能な材料からなる複数の物であって、本実施の形態において、被接合物2は重ね合わされた2枚の鋼板2a,2bである。
【0021】
摩擦攪拌接合装置1は、基体12と、基体12に対して軸線L1方向に往復移動可能に設けられた移動体15と、移動体15の下端部に設けられたツール保持体16と、ツール保持体16の下端部に回転可能に設けられた回転ロッド17と、回転ロッド17に着脱可能に設けられた接合ツール4とを備えている。接合ツール4は、例えば、窒化ケイ素などの硬質セラミックスで構成されている。接合ツール4は、回転ロッド17に対して着脱可能に取り付けられており、接合ツール4が摩耗したときには、新しい接合ツール4と交換できるようになっている。なお、この接合ツール4に向けて不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段を、摩擦攪拌接合装置1に備えることもできる。
【0022】
摩擦攪拌接合装置1は、被接合物2の被接合部3に対して接合ツール4を接合加工に好適な位置へ移動させるために、例えば、多関節ロボット7のロボットアーム8の手首9に取り付けて使用される。摩擦攪拌接合装置1は、この装置を多関節ロボット7のロボットアーム8の手首9に着脱可能に取り付けるための接続フレーム11と、支持台20を下端部に設けた屈曲アーム19とを、基体12に固定して備えている。屈曲アーム19は略L字状に屈曲した形状を有し、その上端部は基体12に固定され、その下端部は接合ツール4の下方まで持ち出されて、そこに支持台20が設けられている。支持台20は、接合ツール4の回転軸(軸線L2)の延長線上に裏当て部材21を備えている。
【0023】
また、摩擦攪拌接合装置1は、基体12に内装されて移動体15を軸線L1方向に往復移動させる直線移動駆動部13(移動手段)と、移動体15に内装されて回転ロッド17を軸線L2を回転軸としてこの軸線L2まわりに回転させる回転駆動部14(回転駆動手段)とを、備えている。なお、軸線L1と軸線L2とは、略平行の関係にある。直線移動駆動部13は、サーボモータと、このサーボモータの回転力を軸線L1に沿う直線移動力として移動体15へ伝達する動力伝達手段とを、備えている。一方、回転駆動部14は、サーボモータと、このサーボモータの回転力を軸線L2まわりの回転として回転ロッド17へ伝達する回転用動力伝達手段とを、備えている。
【0024】
さらに、摩擦攪拌接合装置1は、多関節ロボット7、直線移動駆動部13及び回転駆動部14に電気的に接続されてこれらの動作を制御する制御手段として機能する制御装置22を備えている。後述するが、この制御装置22は、摩擦攪拌接合装置1の動作を制御する制御手段として機能するだけでなく、接合ツール4の温度状況を記録する記録手段としても機能する。
【0025】
制御装置22は、動作プログラムが記憶された記憶部、演算部、制御部、及び入出力部などを備えている。そして、制御装置22は、コンピュータ又はティーチングペンダントなどの図示しない入力装置から入力された指令に応答して、予め設定された動作プログラムを実行し、多関節ロボット7、直線移動駆動部13、及び回転駆動部14を所定の加工条件に従って制御して、裏当て部材21上に供給された被接合物2を点接合するように構成されている。上記において所定の加工条件には、例えば、接合ツール4の回転速度、被接合部3への没入量、接合加工時間(没入時間)、及び押圧力などが含まれる。
【0026】
ここで、裏当て部材21について詳細に説明する。裏当て部材21は、接合時に接合ツール4が回転しながら移動して被接合物2の被接合部3を押圧するときに、被接合部3の接合ツール4と反対側に当接して、接合ツール4から圧を受ける被接合物2を支持するものである。図2にも示すように、裏当て部材21は、略円柱状の裏当て部31と、裏当て部31をその上部を露出させた状態で収容するホルダ部32とで構成されている。なお、裏当て部材21の少なくとも裏当て部31は、窒化ケイ素等の硬質セラミックスで構成されている。裏当て部材21において、裏当て部31のホルダ部32から露出した一端面は、接合ツール4のピン部48と対峙するように配置され、この一端面が被接合物2の被接合部3と接触することとなる。以下では、裏当て部31の被接合物2の被接合部3と接触する一端面を「上面」とし、この上面と反対側の端面を「底面」という。
【0027】
裏当て部31には、底面に開口する直径2.0mm程度の検出用穴31aが形成されている。検出用穴31aは、接合ツール4の回転軸(軸線L2)の延長線上に配置され、検出用穴31aの穴底は、裏当て部31の上面から0.3〜0.5mm程度離れた場所に位置している。検出用穴31aの穴底には、例えば、アルミニウムなどの熱・電気の良導体から構成された均熱材33が敷き詰められている。この均熱材33には、熱電対34の検出点34aが接続されている。このように、熱電対34の検出点34aは、被接合部3や接合ツール4と直接接触して干渉しないように、裏当て部材21内に配置されている。熱電対34は、温度測定器35に接続されており、この温度測定器35は、電圧計を備えて熱電対34の冷接点と検出点34aとに生じた熱起電力から検出点34aで検出した被検出点の温度を測定するように構成されている。つまり、この熱電対34と、温度測定器35とは、裏当て部材21内の被検出点の温度を検出する温度検出手段として機能する。ここで、被検出点は、熱電対34の検出点34aが接触している裏当て部材21の検出用穴31aの穴底である。さらに、温度測定器35は制御装置22と電気的に接続されており、温度測定器35で得られた温度情報を制御装置22へ送信できるように構成されている。
【0028】
上述のように、摩擦攪拌接合装置1は、接合ツール4から圧を受ける被接合物2を支持する裏当て部材21の裏当て部31に温度検出手段の被検出点を備えて、接合ツール4の温度を間接的に検出できるようにしている。接合ツール4の温度は、それよりも低温の裏当て部材21の裏当て部31で間接的に検出されることから、例えば、クロメル−アルメル熱電対(K熱電対)程度の比較的安価で入手が容易な検出体を利用した温度検出手段を採用することが可能である。そして、熱電対34の検出点34aは、接合ツール4の温度の変化をより精確に捉えるために、接合ツール4の回転軸(軸線L2)の延長線上に配置されるが、多少のずれが発生してもよいように、均熱材33を備えて点よりも広い範囲で温度を検出できるようにしている。
【0029】
また、回転する接合ツール4ではなく、基体12に対して相対位置固定された裏当て部材21の裏当て部31に被検出点を設けることで、熱電対34と温度測定器35とを有線配線できるので配線構造が簡易となる。従って、熱電対34と温度測定器35とを摩擦攪拌接合装置1に付帯することによるボリュームや重量の著しい増加はない。さらに、裏当て部31は接合ツール4と比較して交換頻度が低いので、装置のメンテナンスのたびに裏当て部材21を解体して熱電対34を配線し直すなどの煩雑な作業は不要である。
【0030】
(摩擦攪拌接合装置1による接合加工の流れ)
ここで、上記構成の摩擦攪拌接合装置1による接合加工の流れを説明する。接合加工を行うに際して、接合される鋼板2a,2bの材質、板厚などに基づき、制御装置22に加工条件が設定される。この加工条件には、接合ツール4の目標回転数、押圧力、最大押込み量などが含まれる。また、被接合物2は、その被接合部3が裏当て部材21の裏当て部31の上面と当接するように位置決めされる。
【0031】
制御装置22は、接合加工を開始すると、まず、回転駆動部14に、回転ロッド17と接合ツール4とを一体的に回転させる。接合ツール4の回転数が目標回転数となったところで、制御装置22は、直線移動駆動部13に、接合ツール4を、そのピン部48が被接合物2の被接合部3に当接するまで軸線L1に沿って移動させる。これにより、被接合物2の被接合部3は、接合ツール4のピン部48と裏当て部材21の裏当て部31とで挟み込まれて加圧されるとともに、回転するピン部48との間で発生する摩擦熱により加熱される。やがて、被接合物2の被接合部3及びその周辺は、摩擦熱により軟化する。
【0032】
そして、接合ツール4の回転及び押圧を更に継続すると、接合ツール4のピン部48は、軟化した被接合部3に所定量だけ没入してその周りを攪拌する。これにより、被接合物2の被接合部3に塑性流動が生じる。制御装置22は、所定の接合加工時間(ピン部48の没入時間)が経過した後、回転駆動部14に、接合ツール4を逆回転させ、直線移動駆動部13に、接合ツール4を被接合物2の被接合部3から引き抜く方向へ移動させる。接合ツール4が被接合物2の被接合部3から引き抜かれると、被接合物2は冷却されて硬化し、被接合部3の接合が完了する。
【0033】
上述した摩擦攪拌接合装置1による接合加工中に、摩擦攪拌接合装置1では、所定のプログラムを実行することにより接合ツール4の記録手段として機能する制御装置22により接合ツール4の温度変化が記録されて監視されている。なお、本実施の形態では、制御装置22は、制御手段及び記録手段としての機能を併せ持っているが、これらはそれぞれ独立した装置として構成することもできる。
【0034】
図3は接合時の接合ツールのピン部と裏当て部材の裏当て部との温度の関係を示す図表であって、縦軸に温度をとり横軸に接合加工時間をとり、接合ツール4のピン部48の温度を菱形印で、裏当て部材21の裏当て部31の温度を四角形印でそれぞれ示している。なお、この図表は、実験により、接合時に被接合物2の被接合部3から接合ツール4のピン部48を抜き出した直後のピン部48の温度と、裏当て部材21の裏当て部31の温度とを、放射温度計で計測して得られたデータで作成されている。図3に示されるように、接合ツール4のピン部48の温度と裏当て部材21の裏当て部31の温度とは、相関関係を有していることから、裏当て部材21の裏当て部31の温度を検出することにより、接合時の接合ツール4のピン部48の温度を推定できることがわかる。この接合ツール4のピン部48の温度と裏当て部材21の裏当て部31の温度との相関関係は、被接合物2ごとに実験やシミュレーション等により求められて、式又はテーブルとして制御装置22に予め利用可能に格納されている。
【0035】
図4は制御装置の処理の流れを説明するフローチャートである。図4に示すように、記録手段として機能する制御装置22は、接合加工中に、熱電対34及び温度測定器35で検出された温度情報、即ち、裏当て部材21の裏当て部31の温度情報を取得して(ステップS1)、接合ツール4のピン部48の温度と裏当て部材21の裏当て部31の温度との相関関係に基づいて、推定された接合ツール4の温度を演算により算出し(ステップS2)、これを記録する(ステップS3)。記録された各接合点における推定された接合ツール4の温度は、被接合物2の各接合点の保証のために利用することができる。
【0036】
さらに、以下に示すように、記録手段として機能する制御装置22は、接合時に所定時間ごとに推定された接合ツール4の温度を取得して記録し、これを時系列に並べて、接合ツール4の温度変化を監視する。
【0037】
接合加工中の接合ツール4の温度は摩擦により上昇するが、その温度が異常なまで上昇すると接合ツール4は過熱によって寿命が短縮化されるので、接合ツール4の交換頻度が高くなり、経済的ではない。そこで、制御装置22は、推定された接合ツール4の温度と所定の上限温度とを比較し(ステップS4)、推定された接合ツール4の温度が所定の上限温度に到達すると(ステップS5のYES)、警告を発するとともに(ステップS6)、接合ツール4を過熱させないための所定の処置を実行する(ステップS7)ように構成されている。なお、所定の上限温度は、接合ツール4に応じて適宜定められて制御装置22に予め利用可能に格納されている。例えば、本実施の形態に係る接合ツール4は、窒化ケイ素を含んで構成されているので、接合ツール4の寿命を無駄に低下させることのない上限温度は約850℃に設定されている。
【0038】
上記において、接合ツール4を過熱させないための所定の処置とは、例えば、接合加工を強制的に終了させる処置、又は、加工条件を適宜調整する処置のいずれか一方のことであり、制御手段として機能する制御装置22によって行われる。加工条件を適宜調整する処置には、例えば、直線移動駆動部13の出力を調整して押圧力を加減する処置、回転駆動部14の出力を調整して接合ツール4の回転速度(回転数)を加減する処置、及び接合加工時間(接合ツール4の没入時間)を加減する処置のいずれか一つ又は複数の組み合わせが含まれる。
【0039】
このように、推定された接合ツール4の温度が上限温度に達したときに、接合加工が強制終了される或いは接合ツール4が上限温度を超えないように接合加工の加工条件が調整されるので、接合ツール4の過熱が未然に防止されて、接合ツール4をその寿命を短縮させないように使用することができる。さらに、接合ツール4の過熱は、接合ツール4の摩耗による摩擦面積増大に起因するので、摩耗した接合ツール4により接合加工が行われて接合不良が生じることを防止できる。
【0040】
一方で、接合ツール4のピン部48が摩耗すると、接合加工により得られた被接合物2の接合部の接合強度が十分でないことがあり、従って、接合ツール4が許容できないまでに摩耗したときには、接合ツール4を交換せねばならない。
【0041】
図5は接合時の接合ツールの温度の時間変化を示す図表であって、縦軸に接合ツールの温度をとり横軸に接合加工時間をとり、摩擦が正常時の接合ツールの温度変化を実線で示し、摩擦か過剰時の接合ツールの温度変化を二点鎖線で示している。図5に示されるように、接合ツール4が摩耗して摩擦面積が過剰に増大している場合には、摩擦が正常であるときと比較して早い接合加工時間で、所定のピーク温度に到達する。この特徴を利用して、制御装置22は、接合時に推定された接合ツール4の温度が所定のピーク温度に達するピーク温度到達時間を測定し、このピーク温度到達時間が所定の正常値の範囲から外れるときには、警告を発するとともに、接合加工を強制的に終了させる処置を採るように構成されている。
【0042】
このように、ピーク温度到達時間が正常値の範囲から外れるとき(特に、短いとき)は、接合ツール4の摩耗により接合ツール4の被接合部3への没入が早まることが想定されるので、接合加工が強制終了されることで、接合ツール4の過熱が未然に防止され、さらに、摩耗した接合ツール4により接合加工が行われて接合不良が生じることを防止できる。
【0043】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態では、摩擦攪拌接合装置1を、重ね合わせた2枚の鋼板2a,2bをスポット接合するために用いているが、これに限らず、被接合物2は、重ね合わせた2枚の鋼板2a,2bに限定されず、被接合物2を重ね合わせた3枚以上の鋼板としてもよい。さらに、この摩擦攪拌接合装置1はスポット接合に限らず、例えば、2枚の鋼板をつきあわせて接合する場合にも適用させることができる。この場合、線状に延びる接合部分を裏当て部材21で裏当てし、この裏当て部材21の全長にわたって温度計測可能に温度検出手段を設けて、この温度検出手段で間接的に検出された接合ツール4の温度に基づいて接合ツール4の制御を行うようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、特に、一般構造用鋼材、建築用構造用鋼材、及び軌道車両や自動車などの車両用鋼板などの鉄鋼材料からなる被接合物を接合するために好適な摩擦攪拌接合装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 摩擦攪拌接合装置
2 被接合物
3 被接合部
4 接合ツール
46 装着部
47 ショルダ部
48 ピン部(突起部)
11 接続フレーム
12 基体
13 直線移動駆動部(移動手段)
14 回転駆動部(回転駆動手段)
15 移動体
16 ツール保持体
17 回転ロッド
20 支持台
21 裏当て部材
22 制御装置(制御手段、記録手段)
31 裏当て部
31a 検出用穴
32 ホルダ部
33 均熱材
34 熱電対(温度検出手段)
35 温度測定器(温度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に被接合物の被接合部と接触する突起部を有する接合ツールと、
前記接合ツールを軸周りに回転させる回転駆動手段と、
前記接合ツールを軸線方向に移動させる移動手段と、
前記接合ツールが回転しながら移動して前記被接合物の被接合部を押圧する接合時に、前記被接合部の前記接合ツールと反対側に当接して前記被接合物を支持する裏当て部材と、
予め設定された加工条件に基づいて前記回転駆動手段及び前記移動手段の動作を制御する制御手段と、
前記裏当て部材に設けた被検出点の温度を検出する温度検出手段と、
前記被検出点の温度を取得し、予め設定された前記接合ツールの温度と前記裏当て部材の温度との相関関係に基づいて前記被検出点の温度から推定された接合ツールの温度を算出して記録する記録手段とを、備えていることを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記推定された接合ツールの温度が予め設定された上限温度に達すると、接合加工を強制的に終了させる、請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記推定された接合ツールの温度が予め設定された上限温度に達すると、前記接合ツールの温度が前記上限温度以下となるように接合加工時間、前記接合ツールの回転数、及び前記接合ツールの前記被接合部に対する押圧力のうちいずれか一つ又は複数の組み合わせを変化させる、請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項4】
前記記録手段は、接合加工を開始してから前記推定された接合ツールの温度がピークに達するまでのピーク温度到達時間を計測し、
前記制御手段は、前記ピーク温度到達時間が予め設定された正常値の範囲から外れるときは、接合加工を強制的に終了させる、請求項1に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項5】
前記被検出点は、前記接合ツールの回転軸の延長線上に配置されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項6】
前記被検出点は、前記裏当て部材の内部であって前記裏当て部材の前記被接合物と当接する面から0.3〜0.5mm離れたところに位置している、請求項5に記載の摩擦攪拌接合装置。
【請求項7】
裏当て部材で支持された被接合物の被接合部を、軸周りに回転する接合ツールで押圧することにより、発生した摩擦熱で前記被接合部を軟化させ、この軟化した部分に前記接合ツールの少なくとも一部を没入させて攪拌することにより、前記被接合部を固相状態で摩擦接合する摩擦攪拌接合方法であって、
前記裏当て部材に設けた被検出点の温度を検出するステップと、
予め設定された前記接合ツールの温度と前記裏当て部材の温度の相関関係に基づいて、検出された前記被検出点の温度から推定された接合ツールの温度を算出して記録するステップとを、含むことを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項8】
前記推定された接合ツールの温度と予め設定された上限温度とを比較するステップと、
前記推定された接合ツールの温度が前記上限温度に達すると、接合加工を強制的に終了するステップとを、更に含む、請求項7に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項9】
前記推定された接合ツールの温度と予め設定された上限温度とを比較するステップと、
前記推定された接合ツールの温度が前記上限温度に達すると、前記接合ツールの温度が前記上限温度以下となるように接合加工時間、前記接合ツールの回転数、及び前記接合ツールの前記被接合部に対する押圧力のうちいずれか一つ又は複数の組み合わせを変化させるステップとを、更に含む、請求項7に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項10】
接合加工を開始してから前記推定された接合ツールの温度がピークに達するまでのピーク温度到達時間を計測するステップと、
前記ピーク温度到達時間が予め設定された正常値の範囲から外れるときは、接合加工を強制的に終了するステップとを、更に含む、請求項7に記載の摩擦攪拌接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−115842(P2011−115842A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277908(P2009−277908)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】