説明

摩擦材

【課題】 特に高温・高負荷におけるフェード性能を要求されるDP用摩擦材において、AMSフェード試験時の350℃を超える高温度、高減速度域においても摩擦係数が高く、フェード性能が良く、耐摩耗性にも優れる摩擦材を提供することを課題とする。
【解決手段】 繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくともコークスを10〜16体積%、カシューダストを5〜10体積%、未焼成バーミキュライトを7〜14体積%含有することを特徴とする摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材と、結合材と、充填材とを含有する摩擦材に関し、特に高温度、高減速度域におけるフェード性能が良好なDP用摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、大型トラック等には、その制動のために摩擦材が使用されており、この摩擦材には、耐摩耗性に優れていること、摩擦係数が高いこと、耐フェード性に優れていること等の性能が要求されており、これらの諸性能を実現すべく様々な提案がなされている。
ところで、自動車、大型トラック等の商品展開はグローバルであり、各国、各地域により要求性能が異なる。この中で欧州向けの仕様については、アウトバーン等にて超高速運転をすることもあり、国内では考えられないような過酷な性能を要求される場合がある。
その中でも、高温・高負荷におけるフェード性能、すなわちAMSフェード連続制動試験時の連続制動7回目以降(摩擦材の表面温度350℃以上)における摩擦材の効き(リカバリー)は大きな問題であり、従来からのフェード性能改善策では追いつかないものである。
【0003】
特許文献1には高温・高負荷で使用するロースチール系DPとして、平均粒子径50〜150μmのコークス及び平均粒子径5〜30μmの硬質無機粒子を含有する摩擦材が開示されている。この摩擦材は高負荷時において耐摩耗性、摩擦係数等優れたものである。また特許文献2には最大径0.005〜0.05mmの真鍮繊維を使用することにより気孔率を10〜25体積%とした摩擦材が開示されている。この摩擦材も摩擦係数、耐フェード性に優れたものである。
しかし夫々優れたこれらの発明でも、非常に過酷なフェード試験であるAMSフェード連続制動試験時の350℃を超える高温度、高減速度域においては、摩擦係数、耐フェード性が共に不充分となるので、さらに改良、改善された摩擦材が求められている現状がある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−155843公報
【特許文献2】特許第2961177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので摩擦材、特に高温・高負荷におけるフェード性能を要求されるDP用摩擦材において、AMSフェード試験時の350℃を超える高温度、高減速度域においても摩擦係数が高く、フェード性能が良く、耐摩耗性にも優れる摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来フェード性能向上のために当業者が用いてきた手法は下記の通りである。
(イ)摩擦材表面を高温熱処理(ヒートシア)しておき、摩擦材原料中の分解成分を予め除去しておくこと。
(ロ)摩擦材自身の気孔率を大きくして、分解成分を除去すること。
(ハ)分解成分の発生源となるカシューダスト、ゴム、フェノール樹脂等の添加量の削減又は添加しない、もしくはそれ自身の耐熱性の向上。
本発明者は上記課題を達成するには、従来の手法の組み合わせでは困難との視点に立ち鋭意検討を実施したところ、フェード性能向上に関しては添加量を削減又は添加しない方が好ましいと考えられていたカシューダストが、意外なことに熱劣化し分解することで300℃近辺以上で摩擦材の表面に気孔を形成することを理解した。
そしてさらに検討を加えた結果、中〜高温域において摩擦係数を高く保つ効果のあるコークスを添加し、さらに熱劣化・分解して摩擦対面に移着したカシューダスト被膜を均一に除去する為に未焼成バーミキュライトを添加することで、AMSフェード試験時の350℃を超える高温度、高減速度域においても摩擦係数が高く、フェード性能が良く、耐摩耗性にも優れる摩擦材を提供することが出来ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
即ち、本発明は下記の摩擦材を提供する。
(1)繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくともコークスを10〜16体積%、カシューダストを5〜10体積%、未焼成バーミキュライトを7〜14体積%含有することを特徴とする摩擦材。
(2)繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくともコークスを12〜14体積%、カシューダストを6〜8体積%、未焼成バーミキュライトを9〜12体積%含有することを特徴とする摩擦材。
【発明の効果】
【0008】
本発明は摩擦材、特に高温・高負荷におけるフェード性能を要求されるDP用摩擦材において、AMSフェード試験時の350℃を超える高温度、高減速度域においても摩擦係数が高く、フェード性能が良く、耐摩耗性にも優れる摩擦材を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくともコークスを10〜16体積%、カシューダストを5〜10体積%、未焼成バーミキュライトを7〜14体積%含有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明に使用されるコークスは通常摩擦材に使用される汎用品であれば使用可能である。その平均粒子径は30〜250μm、より好ましくは50〜150μmである。平均粒子径がこれより大きいと摩擦係数が低下する傾向があり、小さいと高温域で耐摩耗性が改善されない。
また摩擦材組成物全量に対する添加量は10体積%〜16体積%、好ましくは12体積%〜14体積%である。これより少ないと摩耗性能が悪化し、また多いと摩擦係数の保持が難しい。
【0011】
第2に本発明では、未焼成バーミキュライトを使用する。その粒子の平均粒径は710μm以下、好ましくは480〜680μmである。平均粒子径がこれより大きいと分散性および摩擦材の機械的強度が劣り、小さいと摩擦対面に移着したカシューダスト被膜を均一に除去することが困難になる。
またその摩擦材組成物全量に対する添加量は7体積%〜14体積%、好ましくは9体積%〜12体積%である。これより少ないとフェード性能が出にくくなり、またこれより多いと摩耗性が落ちる。
【0012】
第3に本発明では、カシューダストを用いる。このカシューダストは従来フェード性能向上に関しては添加量を削減又は添加しない方が好ましいと考えられていたものである。しかし本発明では熱劣化し分解することで300℃近辺以上で摩擦材の表面に気孔を形成する性質を知見し使用するものである。
その粒子の平均粒径は250μm以下、好ましくは70〜200μmである。平均粒子径がこれより大きいと熱劣化し分解する時に摩擦係数が大幅に低下し、小さいと熱劣化分解後の気孔形成能力が不十分となる。
またその摩擦材組成物全量に対する添加量は5体積%〜10体積%、好ましくは6体積%〜8体積%である。この範囲から外れるとAMSフェード性能に問題が生じる。
【0013】
その他充填材としては摩擦材に通常用いられる充填材が使用出来る。充填材は有機充填材と無機充填材に分けられる。有機充填材として、たとえばタイヤリク、アクリルゴムダスト、メラミンダスト等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。一方無機充填材としては、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、黒鉛、四三酸化鉄、硫化鉄、マイカ等の他、青銅、銅、錫等の金属粉が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
これらの充填材の添加量は、摩擦材組成物全量に対して好ましくは30〜80体積%、より好ましくは40〜80体積%である。
【0014】
繊維基材としては摩擦材に通常用いられる繊維基材が挙げられる。たとえばスチール、ステンレス、銅、真鍮、青銅、アルミニウム等の金属繊維;チタン酸カリウム繊維、ガラス繊維、ロックウール、ウォラストナイト等の無機繊維;アラミド繊維、炭素繊維、ポリイミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維等の有機繊維;等である。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。繊維基材全体の添加量は、摩擦材組成物全量に対して好ましくは5〜50体積%、より好ましくは10〜40体積%である。これらは本発明の効果を維持できる範囲で、適宜添加することができる。
【0015】
結合材としては摩擦材に通常用いられるものを使用することができる。たとえば、フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、NBRゴム変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、NBR、アクリルゴム(未加硫品)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。この結合材の添加量は摩擦材組成物全量に対して好ましくは10〜30体積%、より好ましくは15〜30体積%である。
【0016】
本発明の摩擦材の製造方法は、上記成分をレディゲミキサー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて均一に混合して成形金型内で予備成形し、この予備成形物を成形温度130〜180℃、成形圧力15〜49MPaで、3〜10分成形するものである。
次に、得られた成形品を140〜250℃の温度で2〜12時間熱処理(後硬化)した後、必要に応じて塗装、焼き付け、研磨処理を施して完成品が得られる。
なお自動車等のディスクパッドを製造する場合には、予め洗浄、表面処理、接着剤を塗布した鉄またはアルミ製プレート上に予備成形物を載せ、この状態で成形用金型で成形、熱処理、塗装、焼き付け、研磨することにより製造することができる。
【0017】
本発明の摩擦材は、特に高温・高負荷におけるフェード性能を要求されるDP用摩擦材において用いられるものであるが、自動車、鉄道車両、各種産業機械等の制動用ブレーキにも用いることが出来る。
【実施例】
【0018】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
実施例及び比較例において、コークスとして平均粒径100μmのものを使用した。また未焼成バーミキュライトは平均粒径580μmのものを使用した。さらにカシューダストは平均粒径140μmのものを使用した。なお平均粒径はレーザー回折粒度分布法により測定した50%粒径の数値を用いている。
【0019】
表1に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、加圧型内で10MPaにて20秒加圧して予備成形をした。この予備成形品を成形温度150℃、成形圧力20MPaの条件下で10分間成形した後、180℃で5時間熱処理(後硬化)を行ない、摩擦材を作製した。
得られた摩擦材について、摩擦係数、耐フェード性、摩耗性を評価した。結果を表1に、評価基準を表2、を表3、グー音試験法を表4に示す。
【0020】
表1


【0021】
表2


【0022】
表3



【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくともコークスを10〜16体積%、カシューダストを5〜10体積%、未焼成バーミキュライトを7〜14体積%含有することを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
繊維基材、結合材、充填材を含有する摩擦材において、該充填材として少なくともコークスを12〜14体積%、カシューダストを6〜8体積%、未焼成バーミキュライトを9〜12体積%含有することを特徴とする摩擦材。


【公開番号】特開2007−112952(P2007−112952A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308025(P2005−308025)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】