説明

摩擦材

【課題】フェード現象時に発生するガスによる摩擦係数の低下を抑制し、且つ、十分な制動力を発揮する摩擦材を提供することを課題とする。
【解決手段】充填材と、樹脂からなる結合材と、繊維補強材と、摩擦調整材とを含む摩擦材であって、充填材は、平均粒径が略2mmの活性炭粒子からなる粒状体を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のブレーキは乗員等の安全を確保するため、苛酷な使用環境下においても所定の摩擦力を発揮することが要求される。苛酷な使用環境下とは、例えば高速走行からの急減速や山間部等での頻繁なブレーキ操作といった摩擦材を高温にするような使用環境である。
【0003】
摩擦材は、複数種の配合材料を樹脂からなる結合材で焼成することにより形成される。苛酷な使用環境下においても摩擦材が所定の摩擦力を発揮するようにするため、様々な種類の材料や添加材からなる摩擦材が開発されている(例えば特許文献1から4)。
【特許文献1】特開昭56−161429号公報
【特許文献2】特開平2−14223号公報
【特許文献3】特開昭57−205474号公報
【特許文献4】特開2005−207437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦材はブレーキングの際、ディスクロータとの摩擦によって高温となる。換言すると、摩擦材を構成している複数種の材料や樹脂からなる結合材が高温に晒される。摩擦材に含有された樹脂は、高温に晒されると熱分解してガスを発生する。ディスクロータと接触する面は、最も高温になるためガスの発生が著しい。摩擦材とディスクロータとの間に多量のガスが発生すると、摩擦係数が低下してフェード現象が発生する。一方、発生したガスを収容するための気孔やスリットを設けるとフェード現象時に発生するガスによる摩擦係数の低下は抑制されるものの、制動力の低下が懸念される。
【0005】
そこで本発明は、フェード現象時の摩擦係数の低下を抑制し、且つ、十分な制動力を発揮する摩擦材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するため、摩擦材であって、粒状体を構成する粒子の平均粒径が略2mmの活性炭粒子を含有することとした。これにより、フェード現象時に発生するガスによる摩擦係数の低下を抑制し、且つ、十分な制動力を発揮する摩擦材を提供することが可能となる。
【0007】
上述の摩擦材は、充填材と、結合材と、繊維補強材と、摩擦調整材とを主要な構成要素としている。充填材は摩擦力を発揮する役割を果たす構成要素であり、摩擦材の摩擦係数は充填材の材質によって大きく左右される。繊維補強材は摩擦材の骨格を成す構成要素であり、摩擦材に強度と弾性を与える。摩擦調整材は摩擦材の特性を調整する役割を果たす構成要素であり、摩耗特性、フェード特性、ノイズ特性を調整する。結合材は、これら充填材と繊維補強材と摩擦調整材とを結合させることによって摩擦材を硬化させる。
【0008】
結合材は、例えば粉末状又は液状のフェノール樹脂からなる結合材を、充填材、繊維補強材、及び摩擦調整材と一緒に混合したのち加熱成型する。フェノール樹脂である結合材は、加熱されることにより溶解し、充填材と繊維補強材と摩擦調整材とを結合する。
【0009】
摩擦材はディスクロータとの摩擦により高温に晒される。摩擦材は上述したように樹脂からなる結合材を含有しているため、結合材が高温に晒されると熱分解してガスを発生する。本発明に係る摩擦材は、自身が備える活性炭粒子からなる粒状体の間隙部分にガスを収容し、フェード現象時の摩擦係数の低下を抑制する。
【0010】
ここで、フェード現象時の摩擦係数の低下を十分に抑制するためには、多量のガスが発生しても十分に収容することが可能なように気孔が占める割合を大きくすればよい。しかしながら、気孔が占める割合を過度に大きくすると、摩擦材全体の耐摩耗性が低下する。また、気孔の割合が大きすぎると摩擦材を成型する際にクラック等が発生しやすくなる。
【0011】
フェード現象時の摩擦係数が所定の値よりも高くなるようにするため、平均粒径が略2mmの活性炭粒子からなる粒状体を含有させて摩擦材の気孔率を調整する。平均粒径が略2mmの活性炭粒子からなる粒状体を用いて気孔率を調整しているため、ガスの収容能力と物理的に接触する摩擦面の面積とのバランスの最適化を図ることが可能である。平均粒径が略2mmの活性炭粒子からなる粒状体を用いて気孔率を調整していることにより、フェード現象時の摩擦係数の低下を最小限に抑えつつ、高い制動力を発揮する摩擦材を形成することが可能となる。また、摩擦材の耐摩耗性や摩擦係数、耐フェード特性を最適化させることが可能となる。ここで、平均粒径とは、添加する粒状体を構成する全ての活性炭粒子の径の総和を粒子数で除算した値である。よって、粒状体を構成する全ての粒子の径がそれぞれ略2mmである必要は無い。また、所定の値とはフェード現象時における摩擦材の摩擦係数であり、例えば、摩擦材の設計仕様によって定められる所望の摩擦係数や、フェード現象時における最も高い摩擦係数である。なお、気孔率とは、粒状体の粒子間の間隙によって形成される気孔部分が摩擦材全体に占める割合である。
【0012】
以上により、フェード現象時の摩擦係数の低下を抑制し、且つ、十分な制動力を発揮することが可能となる。
【0013】
ここで、上記摩擦材は、粒状体が摩擦材の全質量に対して最大で12質量%含有されるようにしてもよい。上記摩擦材に添加する活性炭粒子からなる粒状体を摩擦材の全質量に対して最大で12質量%含有させることにより、要求される耐フェード特性を充足することが可能な気孔率となる。これにより、結合材の樹脂が分解し始める苛酷な使用環境下においてもフェード現象時の摩擦係数の低下を抑制し、且つ、十分な制動力を発揮することが可能となる。
【0014】
ここで、上記摩擦材は、粒状体がSiO2やMgOなどの金属酸化物を含む鉱物からな
る焼成バーミキュライト粒子を更に含むようにしてもよい。焼成バーミキュライト粒子を上記活性炭粒子と共に上記摩擦材に添加することにより、結合材の樹脂分解温度を超える使用環境下においてもフェード現象時の摩擦係数の低下を抑制することが可能となる。
【0015】
ここで、上記摩擦材は、活性炭粒子と焼成バーミキュライト粒子とからなる粒状体が、摩擦材の全質量に対して2〜8質量%含有されるようにしてもよい。即ち、上記摩擦材に添加する活性炭粒子と焼成バーミキュライト粒子からなる粒状体を摩擦材の全質量に対して2〜8質量%含有させることにより、要求される耐フェード特性を充足することが可能な気孔率となる。これにより、結合材の樹脂の分解温度を超える使用環境下においてもフェード現象時の摩擦係数の低下を抑制し、且つ、十分な制動力を発揮することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フェード現象時の摩擦係数の低下を抑制し、且つ、十分な制動力を発揮する摩擦材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明を実施するための最良の形態を例示的に説明する。以下に示す実施形態は例示であり、本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0018】
本実施例に係る摩擦材は、充填材と、結合材と、繊維補強材と、摩擦調整材とを主要な構成要素としており、各構成要素の成分の内訳は以下の表1に示す通りである。なお、摩擦材として、試験体1から4の4種類を挙げている。また、比較対象として、比較例1及び2の2種類のパターンの摩擦材を示す。なお、説明の便宜上、本実施例1においては活性炭粒子を含有した試験体3に係る摩擦材を中心に説明する。
【0019】
【表1】

【0020】
本実施例1に係る摩擦材(試験体3)の充填材は、表1に示すように、硫酸バリウムを摩擦材の全質量に対して19質量%、平均粒径が略2mmの活性炭粒子を7質量%含んでいる。活性炭粒子からなる粒状体は、粒径が約0.5〜3mmの粒子から成り、平均粒径が略2mmとなるように構成される。なお、硫酸バリウムに代わって炭酸カルシウム等を用いてもよい。
【0021】
結合材は、表1に示すようにフェノール樹脂からなる。フェノール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドとの重縮合体である。フェノール樹脂は、摩擦材の全質量に対して8質量%添加される。
【0022】
繊維補強材は、表1に示すようにスチール繊維とアラミド繊維とからなり、摩擦材の骨格を成すことで摩擦材に強度と弾性を与える。従来から用いられる石綿に代わり、これらの繊維を用いることでアスベストフリーの摩擦材を提供することが可能となる。
【0023】
摩擦調整材は、表1に示すように、ゴムダスト、酸化鉄、酸化クロム、銅粉、黒鉛からなる。これらの配合割合を変えることで、耐フェード特性、ノイズ特性、摩擦係数等を調整する。なお、これらの成分の他、アルミニウム、真鍮等の金属成分、アルミナ、シリカ、ムライト等の硬質粒子などを添加することで摩擦材の特性を調整することも可能である。
【0024】
上記充填材、結合材、繊維補強材、摩擦調整材を混合して攪拌した後、熱成型する。熱成型の条件は、例えば、圧力35MPa、プレス時間240秒、温度165℃である。これにより、摩擦材が形成される。なお、本実施形態に係る摩擦材においてはこれらの条件で熱成型しているが、圧力10〜60MPa、プレス時間180〜450秒、温度130〜180℃の範囲内において適宜設定する。
【0025】
表1において示す試験体1、2、3、及び比較例2に係る摩擦材を上記熱成型条件により形成した場合の気孔率の関係を図1のグラフで示す。右縦軸は、摩擦材の気孔率を体積%で示す。また、横軸の“0質量%”は表1の“比較例2”に対応し、“3.5質量%”は“試験体1”に、“7質量%”は“試験体3”に、“12質量%”は“試験体2”にそれぞれ対応している。また、左縦軸は、欧州AK−StandardのAK−MASTERに基づくフェード特性試験において、フェード現象時の最も低い摩擦係数(μ)の値(以下、フェードMinμという)を示す。
【0026】
上記フェード特性試験の概要は次のとおりである。
速度:100km/h→5km/h(フルストップ制動)
減速度一定:3.92m/S2
ロータ温度制御:100〜550℃
制動回数:15回
液圧最大値:16MPa
【0027】
図1のグラフから判るように、フェード現象時の摩擦係数の低下を十分に抑制する目的で気孔率を上昇させても、ある閾値(12%付近)を境にフェードMinμの上昇が止まる。そこで、本発明はこのようなフェード現象時の摩擦係数と気孔率との関係に着目し、平均粒径が略2mmの活性炭粒子からなる粒状体を含有させることで気孔率を調整し、フェード現象時の摩擦係数が所定の値よりも高くなるようにしている。図1のグラフが示すように、本実施例1に係る摩擦材によれば、活性炭粒子の添加量を少なくとも0質量%よりも多くし、最大で約12質量%(気孔率が約13〜22%)まで添加させると良好なフェード特性を発揮することが判る。なお、図1のグラフが示すように、活性炭粒子の添加量を3.5〜12質量%程度添加するとフェードMinμが0.2を超え、より好ましい摩擦係数になる。また、活性炭粒子の添加量を7〜12質量%程度添加するとフェードMinμが0.24を超え、更に好ましい摩擦係数になる。如何なる摩擦係数を前記所定の値にするかは、摩擦材の設計仕様等によって示される所望の値で定める。なお、添加量が13質量%程度に達すると摩擦材にクラックが生じやすく、製造等が困難になる。
【0028】
図2のグラフは、試験体3、4、比較例1、2に係る摩擦材について、上記AK−MASTERに基づくフェード特性試験の方法で試験した場合の、フェード現象試験開始時から終了時までの摩擦材の摩擦係数(μ)、及びロータ温度(℃)を示す。
【0029】
図2のグラフから判るように、活性炭粒子を添加していない従来技術の比較例1、2に係る摩擦材は、フェード現象の発生初期においては高い摩擦係数を発揮しているものの一旦大きく低下し、その後除々に回復している。即ち、フェード現象時に制動力が安定しない。このような特性は、車両運行上好ましいとは言い難い。一方、活性炭粒子を添加した本発明の試験体3、4に係る摩擦材は、フェード現象の発生初期から末期に至るまで、摩擦係数が比較的安定している。また、摩擦係数の最下限値(フェードMinμ)も比較例1、2に比べて0.02〜0.04程度高くなっており、従来技術よりも良好なフェード特性を発揮している。これは、車両の運行上好ましい特性と言える。即ち、フェード現象時に摩擦係数が大きく変動すると、摩擦力を一定に保つようにする必要があるため、運転者がブレーキペダルの踏み具合を調整したりする必要が生じる。本実施例1に係る摩擦材
によれば、このようなフェード現象時であっても十分な制動力が発揮され且つ摩擦係数が安定しているため、運転者にストレスを与えることがない。
【0030】
なお、本実施例1の摩擦材は、気孔率を、フェード現象時の摩擦係数が高くなるようにしている。しかしながら、本発明はこれに限られない。即ち、フェード現象時の摩擦係数を一定の変動幅の範囲内になるようにしてもよい。例えば、図2に示すように、摩擦係数の変動幅の最大値を0.05程度にしたい場合、活性炭粒子の添加量を7質量%(試験体3)にする。
【実施例2】
【0031】
次に、上述した実施例1の変形例を以下に説明する。上述した実施形態1に係る発明では活性炭粒子からなる粒状体を含有する摩擦材を中心に説明したが、以下に示す変形例においては焼成バーミキュライト粒子を更に含有する試験体4について、前述した試験体3との相違点を中心に説明する。
【0032】
本実施例2に係る摩擦材(試験体4)の充填材は、前述した実施例1に係る充填材と異なり、表1に示すように平均粒径が略2mmの活性炭粒子を3.5質量%と、焼成バーミキュライト粒子を3.5質量%含んでいる。その他の構成は同様である。
【0033】
図2で示すように、焼成バーミキュライト粒子を含有した本実施例2に係る摩擦材は、前記実施例1に係る摩擦材と同様に摩擦係数の最下限値や変動幅の特性が改善されている。この他として、本実施例2に係る摩擦材は、フェード現象の末期(ロータ温度500℃近辺)で実施例1に係る摩擦材よりも良好な摩擦係数となっていることが判る。具体的には、摩擦係数が0.01〜0.02程度上昇していることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】活性炭投入量とフェード効力、気孔率の関係を示すグラフである。
【図2】フェード現象時の摩擦係数と温度の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材と、樹脂からなる結合材と、繊維補強材と、摩擦調整材とを含む摩擦材であって、
前記充填材として、平均粒径が略2mmの活性炭粒子からなる粒状体を含有する摩擦材。
【請求項2】
前記粒状体が前記摩擦材の全質量に対して最大で12質量%含有される、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記粒状体が焼成バーミキュライト粒子を更に含む、請求項1又は2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記活性炭粒子と前記焼成バーミキュライト粒子とからなる粒状体が、前記摩擦材の全質量に対して2〜8質量%含有される、請求項3に記載の摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−29954(P2009−29954A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196176(P2007−196176)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】