説明

摩擦真空ポンプ

摩擦真空ポンプ(10)が、羽根なしポンプステータを形成するケーシング(12)と、ロータ駆動装置と、羽根(18)を有するポンプロータ(16)を回動可能に保持するロータ支承部とを有していている。ケーシング(12)は、ポンプロータ(16)とロータ駆動装置とロータ支承部との軸線方向の全長を取り囲んでいる。公知先行技術によるケーシングは、複数の部分から構成されていて、したがってケーシング部分の間にはシールを有している。シールは不完全に被層可能であり、シールは不密性の個所でありまたはそうなり得る。これに対して本発明によるケーシング(12)は、一体に形成されているので、ケーシング(12)の、いずれにせよ真空ガスと接触している領域はシールなしである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根なしポンプステータとロータ駆動装置とロータ支承部とを有するケーシングを備えた摩擦真空ポンプに関する。
【0002】
このような摩擦真空ポンプ、たとえばターボ分子ポンプまたはホルウェックポンプのケーシングは、ポンプロータとポンプ駆動装置とポンプ支承部との軸線方向の全長を取り囲む。WO2004/015272A1号明細書からスクリューポンプが公知である。このスクリューポンプのケーシングは、主として、軸線方向で互いに続いている3つの部分から成っていて、これら3つの部分は、たとえば互いに螺合されることで接合されてケーシングを形成する。3つのケーシング部分とは、ステータケーシング部分と、モータおよび/または支承部を有するカートリッジを保持する流出ケーシング部分と、軸受けケーシング部分とである。それぞれ互いに隣接する2つのケーシング部分の間には、必要なシール性を形成するために相応なシールが配置されていて、これらのシールは、場合によっては、たとえば防食性のコーティングによって容易に被層できないか、または全く被層できない。組付け時のあらゆる注意にもかかわらず、不密性はシールの領域においては完全に排除することはできない。さらに全ケーシングの温度特性は、ケーシングが複数の部分から成っているため不均一である。
【0003】
米国特許出願公開第2002/00448666号明細書から、2つの分部から成るケーシングを備えたスクリューポンプが公知である。この場合、吐出側のケーシング部分は、軸受けケーシングとモータケーシングとに一体に結合されている。ケーシングが2つの部分から成っていることにより、ここでも上述の欠点が生じる。
【0004】
本発明の課題は、摩擦真空ポンプの物理的な特性を改良することである。
【0005】
この課題は、本発明によれば請求項1に記載の特徴によって解決される。
【0006】
本発明による摩擦真空ポンプの場合、ケーシングはその軸線方向の全長にわたって一体に形成されているので、この一体のケーシングは、ポンプロータとロータ駆動装置とロータ支承部との軸線方向の全長を取り囲んでいる。ケーシングの一体性により、ケーシングの均一な温度特性が保証される。シールの省略により、さらにケーシングの気密性は長期にわたっても保証されている。ケーシング自体を複数の部分から組み立てる必要がないので、組立て作業およびこの作業から生じる故障原因はなくなる。ケーシングの領域におけるシールの省略により、ケーシング内面は簡単かつ隙間なく被層可能である。摩擦真空ポンプケーシングは、たとえば、支持的な機能を有していない端部側のカバーしか有しておらず、したがって組付けの時の特別な正確性は必要ではない。
【0007】
ケーシングの一体の構成により、摩擦真空ポンプの多くの物理的な特性、特に温度特性とシール性とケーシング内面のコーティングの質は改善される。
【0008】
有利な構成によれば、ロータ支承部とロータ駆動装置とはカートリッジ内に配置されていて、このカートリッジはケーシングによって保持されており、このケーシングによりカートリッジの軸線方向の全長にわたって取り囲まれている。カートリッジとは、本例ではカートリッジケーシングから成っていて、このカートリッジケーシングがポット状または完全に閉鎖されて形成されており、カートリッジケーシング内で軸がロータ支承部において回動可能に支承されており、この軸が、カートリッジ内に位置するロータ駆動装置により駆動可能な形式のアセンブリを意味する。支承部と駆動装置とは、閉鎖されたまたはほぼ閉鎖されたカートリッジ内に予め完全に組み立てられて配置されている。摩擦真空ポンプを組み立てる際には、カートリッジから突出している軸がまずポンプロータに結合され、続いてこの装置はケーシングに装入され得る。この場合、カートリッジはケーシング内室に固定される。こうして摩擦真空ポンプの組立ては簡単かつ確実に実施可能である。摩擦真空ポンプケーシングの一体性および唯一の駆動装置・支承部カートリッジの設置が、摩擦真空ポンプのモジュール状の構造になる。両手段をまとめることで、組立てもしくは解体は簡略化され、これによりやはり組立て正確性は改良され、組立て手間は軽減され、メンテナンスもしくは修理は簡略化され促進される。
【0009】
有利には、カートリッジは摩擦真空ポンプケーシングと一体に形成されているポット状のケーシングを有している。ロータ支承部とロータ駆動装置とをポット状のケーシングに装入した後で、ポット開口はカートリッジカバーにより閉鎖される。摩擦真空ポンプケーシングが、ポット状のカートリッジケーシングとの一体に形成されていることにより組立ては総じて簡略化されて、不密性は減じられ、特にカートリッジもしくはロータ駆動装置およびロータ支承部の正確な位置決めが保証される。
【0010】
有利な構成によれば、カートリッジの軸線方向の長さは、ポンプロータによって少なくとも50%取り囲まれていて、つまりカートリッジは、その軸線方向長さの少なくとも半分をポット状のポンプロータに軸線方向で突入している。こうして、軸線方向全長に関連した、摩擦真空ポンプのコンパクトな構成が実現される。
【0011】
さらに有利な構成によれば、カートリッジケーシングの一部分は、摩擦真空ポンプケーシングによって形成される。カートリッジケーシングは2つの区分を有していて、つまり1つは、ケーシングにおけるカートリッジの固定個所から見てロータ側に、もう1つは、ロータと反対の側に方向付けられている。ロータと反対の側のカートリッジの区分は、摩擦真空ポンプケーシングによって形成されていてよく、すなわちポット状のカートリッジケーシングは、カートリッジに適合するカバーを有しておらず、摩擦真空ポンプケーシングにより閉じられる。これにより構成部材の数は総じて減じられる。
【0012】
さらに有利な構成によれば、ケーシングは内側に環状の段部を有していて、この段部にカートリッジが有利には吸込み側で当接していて、そこに固定されている。カートリッジはロータと一緒に有利には吸込み側からケーシングに装入される。カートリッジは環状の段部に載置され、有利には段部の吐出側から適切な固定手段、たとえばねじ締結によって固定される。環状の段部は簡単に形成可能であり、ケーシングにおけるカートリッジのガス密な固定が可能になる。
【0013】
さらに有利には、ポンプロータはホルウェックポンプロータである。ケーシング側のステータ壁とロータ側のハブとの間の半径方向平面面積は、吐出側に向かって縮小され得る。
【0014】
これにより、摩擦真空ポンプの流入横断面は比較的大きく設定されるので、ガス流量も比較的大きい。
【0015】
以下に、本発明の実施例を図面につき詳細に説明する。
【0016】
図面には、スクリューポンプであり、ホルウェックポンプ(Holweck−Pumpe)とも呼ばれる摩擦真空ポンプ10が示してある。この摩擦真空ポンプ10は主として、吸込み側に向かってホッパ形に狭幅しているケーシング12と、このケーシング12内に配置されて固定されている、ロータ支承部(図示せず)およびロータ駆動装置(図示せず)を内蔵しているカートリッジ14と、スクリュー状に配置された多数の羽根18を有するポンプロータ16とから成っている。
【0017】
ケーシング12は一体、つまりワンピースで形成されていて、ポンプロータ16と、ロータ駆動装置およびロータ支承部を内蔵するカートリッジ14との軸線方向の全長を取り囲んでいる。ケーシング12の吐出側の端部は、端面側のケーシングカバー20により閉鎖されている。
【0018】
ケーシング12の内周面には環状の段部22が設けられていて、この段部22において、カートリッジ14の相応な環状の段部24がガス密に支持される。ケーシング12およびカートリッジ14の段部22,24は互いに螺合されている。
【0019】
カートリッジ14の吸込み側の端部から、ロータ16を保持するロータ軸26が突出していている。ロータ16はロータ軸26に、たとえば螺合によって結合されている。
【0020】
ロータ16のロータハブ28は、吸込み側に向かって縮径される。ケーシング12の内面はステータ壁30を形成していて、このステータ壁30は吸込み側に向かって拡大される。吸込み側に向かっての、ステータ壁30の内径の拡大およびロータハブ28の外径の縮小により、ステータ壁30とロータハブ28との間の半径方向平面面積は、吸込み側に向かって拡大され、吐出側に向かって縮小さている。
【0021】
ケーシング12の吸込み側の軸線方向の端部は、ガス流入部32を有している。ポンプロータ16の吐出側には、半径方向のガス流出部34が設けられている。
【0022】
ケーシング12はその一体による構成により、真空を囲む部分では隣接するケーシング部分とのシールを有していない。これにより特にケーシング12の真空にさらされている領域では、均一の温度特性が実現される。ステータ壁30の被層部は不連続ではない。2つのケーシング部分の間のシールの欠如により不密性も生ぜしめられ得ない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による摩擦真空ポンプの縦断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦真空ポンプ(10)であって、
羽根なしポンプステータを形成するケーシング(12)と、
ロータ駆動装置と、羽根(18)を有するポンプロータ(16)を保持するロータ支承部とが設けられており、
ケーシング(12)が、ポンプロータ(16)と、ロータ駆動装置と、ロータ支承部との軸線方向の全長を取り囲む形式のものにおいて、
ケーシング(12)が一体に形成されていることを特徴とする、摩擦真空ポンプ。
【請求項2】
ロータ支承部とロータ駆動装置とが、カートリッジ(14)内に配置されており、該カートリッジ(14)が、ケーシング(12)によって保持されており、該ケーシング(12)により、カートリッジ(14)の軸線方向の全長にわたって取り囲まれている、請求項1記載の摩擦真空ポンプ。
【請求項3】
カートリッジが、ポット状のケーシングを有しており、該ケーシングが、摩擦真空ポンプケーシングと一体に形成されている、請求項2記載の摩擦真空ポンプ。
【請求項4】
カートリッジ(14)の軸線方向の長さが、ポンプロータ(16)によって少なくとも50%取り囲まれている、請求項2または3記載の摩擦真空ポンプ。
【請求項5】
カートリッジケーシングの一部分が、摩擦真空ポンプケーシングによって形成されている、請求項2記載の摩擦真空ポンプ。
【請求項6】
ケーシング(12)が、環状の段部(22)を有しており、該段部(22)にカートリッジ(14)が固定されている、請求2から5までのいずれか1項記載の摩擦真空ポンプ。
【請求項7】
ポンプロータ(16)がスクリューポンプロータである、請求項1から6までのいずれか1項記載の摩擦真空ポンプ。
【請求項8】
ポンプステータ(30)と、ポンプロータ(16)のハブ(28)との間の半径方向平面面積が、吐出側に向かって縮小される、請求項1から7までのいずれか1項記載の摩擦真空ポンプ。

【図1】
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【公表番号】特表2008−514862(P2008−514862A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−534008(P2007−534008)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054735
【国際公開番号】WO2006/037730
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(507102296)エーリコン ライボルト ヴァキューム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (17)
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Leybold Vacuum GmbH
【住所又は居所原語表記】Bonner Str. 498, D−50968 Koeln, Germany
【Fターム(参考)】