説明

摺動部材及び摺動部材の製造方法

【課題】無潤滑条件下の滑り摩擦において、凝着摩耗が発生することなく、摩擦係数を低減することができる摺動部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】摺動する基材11の表面に、未硬化状態の硬化性樹脂12aを塗膜する工程と、未硬化状態の硬化性樹脂12aに、複数の半球状の凸部34aが等間隔に配列された成形型34を押込む工程と、成形型34が押込まれた状態を保持しつつ、未硬化状態の硬化性樹脂12aを硬化させる工程と、硬化性樹脂から前記成形型34を取り外し、硬化性樹脂の表面に複数のディンプルを形成する工程と、ディンプルが形成された硬化性樹脂の表面に銀めっき被膜を成膜する工程と、を含む

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に銀めっき被膜が形成された摺動部材及びその製造方法に係り、特に、無潤滑状態であっても、摩擦係数を低減することができる摺動部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等において、エンジン、トランスミッションなど様々な機器に摺動部材が用いられている。耐摩耗性、低摩擦性、焼付け性に優れた摺動部材を用いることは、自動車の安全性を確保するばかりでなく、地球環境保全のため、自動車から排出される二酸化炭素の削減にも繋がる。そこで、摺動環境下において、摺動部材の表面の形状や粗さなどの表面テクスチャー(表面性状)を改善することや、摺動部材の表面に耐摩耗性及び低摩擦性を有した被膜を被覆することなどにより、摺動特性を向上させるようにトライボロジーに関する様々な研究が取り組まれている。
【0003】
表面性状を改善する技術として、例えば、潤滑油を介して摺動する一対の摺動部材の表面に、滑り方向への潤滑油の流れを促進するように、微細な凹部が形成された摺動部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の摺動部材によれば、微細な凹部を形成することにより、該凹部に潤滑油を取り込み、これにより、摺動時における摺動面の油膜厚さの減少を抑えて、摩擦低減効果を発現することができる。
【0005】
また、表面に被膜を被覆する技術として、例えば、内燃機関のコンロッドとクランクシャフトの間に介装される軸受メタル(摺動部材)において、クランクシャフトを軸受する軸受メタルの内面と、コンロッドに接合する背面の両方に、銀メッキ被膜を被覆した軸受メタルが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
特許文献2に記載の摺動部材(軸受メタル)によれば、銀めっき被膜を用いることにより、摺動部における摩擦熱を伝導することができる。さらには、油膜厚みが減少して境界潤滑又は混合潤滑における摺動状態になった場合であっても、フレッチング摩耗(微動摩耗)を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−095721号公報
【特許文献2】特開平07−054834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の摺動部材は、潤滑油を用いた湿式条件下での表面性状を規定しているが、無潤滑条件下(乾式条件下)において、表面の微細な凹部が有効に作用するものではなく、摺動部材の摺動面間において、軟質である銀めっき被膜を適用しても、凝着摩耗が発生し易い。
【0009】
また、一般的に軸受メタル(摺動部材)は、クランク室内のエンジンオイルが供給される構造であり、特許文献2に記載の摺動部材も、湿式条件下におけるフレッチングを想定したものである。従って、このような銀めっき被膜が形成された摺動部材を、単に乾式条件下に用いたとしても、摺動部材の摺動面間における凝着摩耗を裂けることは難しい。
【0010】
このように、無潤滑条件下において凝着摩耗が発生した場合には、摺動面が荒れた状態になると共に、発生した摩耗粉は摺動面間に介在されたままとなり、摩擦係数も0.1〜1の高い範囲となる。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、無潤滑条件下の滑り摩擦において、凝着摩耗が発生することなく、摩擦係数を低減することができる摺動部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、摺動面の表面に、規則性をもって密に配列されたディンプルを有した銀めっき被膜を形成することにより、ディンプルの周縁部が凸部(頭頂部)となって摺動時に高面圧が作用し、これにより、摺動条件下において、銀固有のせん断力の低減効果を有効に発現することができるとの新たな知見を得た。
【0013】
本発明は前記新たな知見に基づくものであり、このような摺動部材を製造する方法として、本発明に係る摺動部材の製造方法は、摺動する基材の表面に、未硬化状態の硬化性樹脂を塗膜する工程と、前記未硬化状態の硬化性樹脂に、複数の半球状の凸部が等間隔に配列された成形型を押込む工程と、前記成形型が押込まれた状態を保持しつつ、前記未硬化状態の硬化性樹脂を硬化させる工程と、前記硬化性樹脂から前記成形型を取り外し、前記硬化性樹脂の表面に複数のディンプルを形成する工程と、前記ディンプルが形成された硬化性樹脂の表面に銀めっき被膜を成膜する工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0014】
本発明によれば、基材の表面性状を定めるべく、成形型を用いて、等間隔に配列された複数の半球状の凸部を未硬化の硬化性樹脂に押込んで、これを硬化させてから脱型することにより、基材の硬化性樹脂の表面に、球状凹面を有した複数のディンプルを等間隔に配列することができる。そして、樹脂表面に、銀めっき被膜を成膜することにより、銀めっき被膜の表面に球状凹面を有した複数のディンプルを等間隔に配列することができる。ここで、本発明にいう「半球状の凸部」とは、球体の曲面のうち、少なくとも半分以上の曲面を有する凸状の部分のことをいう。
【0015】
このようにして得られた摺動部材は、銀めっき被膜の表面のディンプル間に形成された頭頂部が、摺動面の凸部として規則性をもって格子状に配列される。そして、摺動時において、この規則性をもった頭頂部が、相手材(相手側の摺動部材)の表面に接触しながら摺動する。この際、凸部である格子状に配列された頭頂部に相手材からの面圧が作用するので、軟質である頭頂部の銀が、ディンプルに流動して摺動時に発生するせん断力(摩擦力)を低減し、この結果、無潤滑条件下の滑り摩擦において、銀めっき被膜が凝着摩耗することなく、摺動部材の摩擦係数を低減することができる。
【0016】
また、より好ましくは、成形型に配列された複数の半球状の凸部が最密充填状(六方最密状に)、等間隔に配列されていることがより好ましい。これにより、ディンプルの周縁に、頭頂部が形成される。これにより、摺動時に、この頭頂部がより高面圧で接触し、摩擦係数のさらなる低減を図ることができる。
【0017】
上述した成形型は、複数の半球状の凸部が等間隔に配列され、硬化性樹脂を成形することができるのであれば、特にその材質等は限定されるものではなく、また、硬化性樹脂は、たとえば、熱硬化性樹脂、光架橋性樹脂などを挙げえることができ、成形型の表面形状に対応するディンプルを形成することができるものであれば、特にその種類は限定されるものではない。
【0018】
しかしながら、本発明に係る摺動部材の製造方法で用いられる前記成形型は、光透過性材料からなり、前記硬化性樹脂は、光架橋性樹脂からなることがより好ましい。
【0019】
本発明によれば、成形型が光透過性材料からなるので、成形型を押込みながら、基材に熱などによる影響を与えることなく、成形型に光を透過させて、未硬化の硬化性樹脂を硬化させることができる。
【0020】
光透過性材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアミド、メタクリル、メチルペンテンポリマー等を使用することができ、成形型に光を透過させることができるのであれば、特に、その材料は限定されるものではないが、成形型への製造のし易さ等を考慮すると、より好ましくは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)である。
【0021】
また、光架橋性樹脂としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、エポキシアクリレート系などの樹脂を挙げることができ、紫外線、電子線などの光を照射することにより硬化する樹脂であれば特に限定されるものではない。
【0022】
本発明に係る摺動部材の製造方法は、前記成形型の前記半球状の凸部の曲率半径が、2.9〜8.6μmの範囲にあることが望ましく、前記硬化性樹脂を硬化させる工程において、ディンプルの周縁の直径が5〜15μmとなるように、前記成形型の半球状の凸部を押込むことがより好ましい。
【0023】
このような曲率半径の半球状の凸部を用いて、摺動面にディンプルを形成することにより、摺動部材の摩擦係数を低減することができる。すなわち、ディンプルの周縁の直径が、5μmよりも小さい場合、及び、15μmよりも大きい場合には、摩擦係数を低減することができない場合がある。
【0024】
本発明に係る摺動部材は、球状凹面を有した複数のディンプルが等間隔に配列された基材の表面に、銀めっき被膜が形成されていることを特徴としている。上記製造方法で製造した摺動部材は、基材の表面に、球状凹面を有した複数のディンプルが等間隔に配列された(硬化性)樹脂が被覆されており、該樹脂の表面には、前記ディンプルが形成されるように銀めっき被膜が被覆されることになる。
【0025】
さらに、本発明にかかる摺動部材は、銀めっき被膜の表面において、等間隔に配列されたディンプルの周りには、6つのディンプルが最密に配列(すなわちディンプルがヘキサゴナルに配列)され、ディンプル間には頭頂部が形成されていることがより好ましい。これにより、ディンプルの全周縁が頭頂部となり、頭頂部が、銀めっき被膜の表面に、規則性を以って格子状に配列されることになる。これにより、上述したような摩擦係数の低減を図ることができる。そして、このディンプルの周縁の直径は、5〜15μmであることがより好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、無潤滑条件下の滑り摩擦において、凝着摩耗が発生することなく、摩擦係数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係る摺動部材を示した図であり、(a)は、摺動部材の断面図であり、(b)は、摺動部材の摺動面を撮影した写真図。
【図2】本実施形態に係る摺動部材の製造方法の全体構成図を示しており、図2(a)は、成形型用基材に微小水滴を形成させる工程、図2(b)は、成形型用基材からハニカム状多孔質膜を成形する工程、図2(c)は、ハニカム状多孔質膜に成形型用樹脂を充填し硬化させる工程、図2(d)は、ハニカム状多孔質膜から成形型を剥離する工程、図2(e)は、摺動部材の未硬化状態の樹脂に成形型を押込む工程、図2(f)は、未硬化状態の樹脂を硬化させて樹脂成形部を形成する工程、図2(g)は、樹脂成形部から成形型を脱型する工程を示した図。
【図3】図3(a)は、図2(b)で製造されたハニカム状多孔質膜の上面を顕微鏡で観察したときの写真図であり、図3(b)は、ハニカム状多孔質膜の断面の写真図である。また、図3(c)は、図2(d)で製造された成形型の写真図であり、図3(d)は、図2(e)で得られた樹脂成形部の表面の写真図。
【図4】実施例1と比較例1〜3の摩擦係数の結果を示した図。
【図5】実施例2に係るディンプル径と摩擦係数との関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、図面を参照して、本発明に係る摺動部材を好適に製造することができる実施形態に基づいて説明する。
【0029】
図1は、本実施形態に係る摺動部材10を示した図であり、(a)は、摺動部材の断面図であり、(b)は、摺動部材の摺動面を撮影した写真図である。
【0030】
図1(a)及び(b)に示すように、本実施形態に係る摺動部材10は、基材11の表面に樹脂成形部12が形成され、樹脂成形部12の表面に、銀めっき被膜13が形成されている。樹脂成形部12の表面には、略同一の曲率半径となる球状凹面を有した複数のディンプルが形成されている。なお、本発明の摺動部材でいう基材は、この樹脂成形部12を含むものである。
【0031】
さらに、樹脂成形部12の表面には、樹脂成形部12の形状に応じて、同じ膜厚となるように銀めっき被膜13が被覆されている。これにより、銀めっき被膜13の表面には、略同一の曲率半径となる球状凹面を有した複数のディンプル14が等間隔に配列されることになる。このディンプル14は、球の表面の一部(球状凹面)を有した窪み部(凹陥部)である。
【0032】
そして、各ディンプル14の周りには、6つのディンプル14が、六方最密状に配列されている。これにより、ディンプル14,14間には、ディンプル14の曲面を底面として凸部となる頭頂部15が形成され、頭頂部15が、各ディンプル14の周縁16を囲うように、摺動面の凸部として規則性をもって格子状に配列される。さらに、3つのディンプル14により形成される頭頂部15が、交わる部分が最も高い最頂部となっている。
【0033】
そして、摺動時において、この規則性をもった頭頂部15が、相手材(図示せず)の表面に接触しながら摺動する。この際、凸部である格子状に配列された頭頂部15に相手材からの面圧が局所的に作用するので、軟質である頭頂部15の銀がディンプル14に流動して、摺動時に発生するせん断力(摩擦力)を低減し、この結果、無潤滑条件下の滑り摩擦において、銀めっき被膜13が凝着摩耗することなく、摺動部材10の摩擦係数を低減することができる。
【0034】
また、ディンプル14の周縁の直径Dは、5〜15μmの範囲にあることがより好ましい。このようなディンプル14を、摺動面に形成することにより、摺動部材10の摩擦係数を低減することができる。すなわち、直径Dが、5μmよりも小さい場合、15μmよりも大きい場合には、摩擦係数を低減することができない場合がある。
【0035】
このような摺動部材10は、図2に示すように、自己組織化を利用したハニカム状多孔質膜33を成膜し(例えば、特開2001−157574や特開2008−296502参照)、このハニカム状多孔質膜33から成形型34を製造し、この成形型を用いて製造することができる。以下のその具体的な製造方法を説明する。
【0036】
図2は、本実施形態に係る摺動部材の製造方法の全体構成図を示している。図2(a)は、成形型用基材に微小水滴を形成させる工程、図2(b)は、成形型用基材からハニカム状多孔質膜を成形する工程、図2(c)は、ハニカム状多孔質膜に成形型用樹脂を充填し硬化させる工程、図2(d)は、ハニカム状多孔質膜から成形型を剥離する(取り外す)工程、図2(e)は、摺動部材の未硬化状態の樹脂に成形型を押込む工程、図2(f)は、未硬化状態の樹脂を硬化させて樹脂成形部を形成する工程、図2(g)は、樹脂成形部から成形型を脱型する工程を示している。
【0037】
また、図3(a)は、図2(b)で製造されたハニカム状多孔質膜の上面を顕微鏡で観察したときの写真図であり、図3(b)は、ハニカム状多孔質膜の断面の写真図である。また、図3(c)は、図2(d)で製造された成形型の写真図であり、図3(d)は、図2(e)で得られた樹脂成形部の表面の写真図である。
【0038】
まず、図2(a)に示すように、高分子樹脂材料に対して、両親媒性化合物と、疎水性有機溶媒とを混合して得られたキャスト液(疎水性有機溶液)の成形型用基材31に、高湿度の空気を吹き付けて、結露により、成形型用基材31に等間隔に配列された球状の微小水滴32を形成する。
【0039】
ここで、吹き付ける空気の湿度及び空気の吹き付け時間(加湿時間)を変化させ、微小水滴の直径を制御することができる。これにより、後述する成形型の半球状の凸部の曲率半径を所定の半径に制御して、その結果、ディンプル14の周縁の直径を、5〜15μmの範囲にすることができる。例えば、湿度を高くし、加湿時間を長くすれば結露する量が多くなり、微小水滴の径が大きくなる。その結果、摺動部材の表面に、より大きなディンプルを形成することができる。
【0040】
ここで、高分子樹脂材料としては、疎水性有機溶媒に可溶であれば特に制限されないが、水には不溶もしくは難溶であることが好ましい。高分子樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリカプロラクトン、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミドなどを例示することができる。
【0041】
また、両親媒性化合物としては、特に限定されず、例えば、Capなどを用いることができ、この他にも、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムやジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリムなどを用いてもよい。
【0042】
さらに、疎水性有機溶媒は、常温で液体の疎水性の有機溶媒であれば特に限定されない。例えば、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン系有機溶媒や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、その他にも、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶剤エーテル系溶剤等を挙げることができる。このようにして、疎水性有機溶液をキャストして形成されたキャスト液の成形型用基材31に、同一曲率半径の球状の微小水滴を形成させることができる。
【0043】
次に、図2(b)に示すように、その微小水滴を蒸発させ、ハニカム状多孔質膜33を得ることができる。このハニカム状多孔質膜33の空孔は、図3(a),(b)に示すように、球状の微小な孔が六方最密状に規則性をもって配列される。
【0044】
次に、図2(c)に示すように、このようにして得られたハニカム状多孔質膜33に、アクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、又はポリアミドなどの光透過性材料を充填し、光透過性材料からなる成形型34を成形する。
【0045】
次に、図2(d)に示すように、ハニカム状多孔質膜33から成形型34を取り除き(剥離させ)、成形型34の表面を洗浄する。これにより、成形型34の表面には、最密充填状に等間隔に配列された複数の同じ曲率半径の半球状の凸部34aを得ることができる(図3(c)参照)。
【0046】
図2(e)に示すように、摺動部材10の基材11の表面(摺動面)に、未硬化状態の光架橋性樹脂(硬化性樹脂)12aを塗膜する。そして、図2(d)で得られた成形型を、未硬化状態の光架橋性樹脂12aに押込む。これにより、図2(f)に示すように、最密充填状に等間隔に配列された複数の半球状の凸部34aが光架橋性樹脂12aに押込まれる。
【0047】
そして、成形型が押し込まれた状態を維持しつつ、成形型34の背面から紫外線を照射させ、これにより、光架橋性樹脂12aを硬化させ、図2(g)に示すように、成形型34を取り外し、樹脂成形部12を得ることができる。この樹脂成形部12は、表面に等間隔に複数のディンプルが形成される。ディンプルは、六方最密状(ヘキサゴナル)に配列されることになる(図3(d)参照)。すなわち、この表面は、上述した図1(a)に示す銀めっき被膜の表面に略等しい。
【0048】
その後、樹脂成形部12の表面に対して、オゾン処理や過マンガン酸処理で、活性化処理を行ったり、スパッタリング処理を行ったりすることにより、白金パラジウムなどの触媒を吸着させ、その後、硝酸銀により無電解銀めっき処理を行う。このようにして、上述した図1(a)及び(b)に示す銀めっき被膜を成膜することができ、本実施形態に係る摺動部材を製造することができる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明を実施例により説明する。以下の実施例は、上に示した本実施形態に沿って行われたものであるが、本発明を限定するものではない。
【0050】
(実施例1)
1)ハニカム状多孔質膜の作製
まず、ポリスチレンPS(Mw=280000,Aldrich,Chart1)に対して、質量比10%の両親媒性化合物(Cap)を混合した混合物(PS:Cap=10:1)に、CHCl溶液(5g/L)を直径9cmのガラスシャーレにキャストし成形型用基材を得た。これに高湿度の空気(相対湿度70%程度)を吹き付け、水分を結露させ、六方最密状(ヘキサゴナル)に等間隔に配列された微小水滴を成形型用基材に形成し、球状の微小水滴を蒸発させることにより、自己組織化によるハニカム状多孔質膜を作製した。
【0051】
2)成形型の作製
1)で作製されたハニカム状多孔質膜に、ポリジメチルシロキサン(PDMS,Dow Corning)のプレポリマーにキャタリスト(Dow Corning)を質量比10%加えた混合液を注ぎ込んで充填した。バキュームオーブン(ADP200,ヤマト科学)で30分間脱気し、PDMS中の気泡と取り除いた。その後、卓上小型マッフル炉(KDF007EX,デンケン)で250℃、2時間加熱しPDMSを硬化させた。硬化したPDMSを、ハニカム状多孔質膜から剥がし取り、CHClに浸漬させ、PSを洗い流すことによって洗浄し、PDMSによるハニカム構造用ネガ(光透過性材料からなる成形型)を製作した。
【0052】
3)摺動部材(試験片)の作製
次に、基材である、直径30mm、厚さ5mmの円板状の鉄の表面に、光架橋性樹脂(スピログリコール系、イソボロニルメタクリレート系モノマーの配合品,共立化学)を約0.3ml塗り広げて、その上から、成形型を押し込んだ。この押込まれた状態を保持しつつ、さらに、その成形型の上から、水銀−キセノンランプ(LIGHGTNINGCURE LC6,浜松ホトニクス)により紫外線を照射し、光架橋性樹脂を架橋させて、光架橋性樹脂を硬化させた。その後、成形型を剥がし取った。成形型を剥がし取った後、紫外線を照射し、さらに100℃で2〜3時間追架橋することで、光架橋性樹脂内部まで完全に硬化させた。これにより、六方最密状に等間隔に配列された複数のディンプルを、樹脂成形部の表面に成形した。
【0053】
そして、以下の手順で、この基材の樹脂成形部の表面に、銀めっき被膜を成膜した。まず、スパッタリング装置(E−1030,HITACHI)として、樹脂成形部のディンプルが形成された表面に、白金パラジウム層をスパッタリングにより付加した。このとき、白金パラジウムは、50秒間スパッタし、約10nm程度の厚みの層を形成した。そして、無電解銀めっき浴として、まず200mlの脱イオン水を横型染色パットに入れ、25℃の振盪恒温槽に10分間浸し、温度を一定に保った。
【0054】
その後、銀の供給源として、硝酸銀(試薬特級、和光純薬工業株式会社)を426mg秤入れ攪拌し、錯化剤であるアンモニア水(28%、試薬特級、和光純薬工業株式会社)を18.4g秤入れ攪拌した。このとき溶液中に、一瞬黒色の沈殿物が生成されるが、攪拌し続けるとすぐに溶解し、無色透明に変化した。また、pH調整剤である酢酸(試薬特級、和光純薬工業株式会社)を4.4g秤入れて攪拌した。最後に、ヒドラジン(ヒドラジン−水和物(80%)、ナカライテクス株式会社)を入れて攪拌後、試験片を2分間浸漬し、脱イオン水で充分に洗浄後、乾燥させ、膜厚0.5μmの銀めっき被膜を成膜した。なお、ディンプル径は10μm、深さ3μmであった。
【0055】
(比較例1)
実施例1と同じようにして、摺動部材を作製した。実施例と相違する点は、成形型を用いずに、製作した点であり、具体的には、円板状の鉄の表面に同じ光架橋性樹脂を塗膜し、紫外線を照射して架橋させて、これを硬化した。その後、その表面に、膜厚0.5μmの銀めっき被膜を形成した点である。
【0056】
(比較例2)
実施例1と同じように、摺動部材を作製した。実施例1と相違する点は、銀めっき被膜を成膜しなかった点である。
【0057】
(比較例3)
比較例1と同じように、摺動部材を作製した。比較例1と相違する点は、銀めっき被膜を成膜しなかった点である。
【0058】
なお、以下の表1は、実施例1及び比較例1〜3の摺動部材の相違点を示したものである。
【0059】
【表1】

【0060】
[評価試験]
実施例1〜比較例1〜3に対して、摩擦試験を行った。具体的には、作製された円板状の試験片の表面に、先端部に30mmの曲率半径を有した直径4mm、長さ4mmの円柱試験片(JIS規格:S50C)の先端部を、荷重50mNで押し当てて、周速62.8mm/分で試験を行い、無潤滑条件下で摩擦係数を測定した。この結果を図4に示す。
【0061】
[結果1]
図4に示すように、実施例1の摺動部材の摩擦係数は、0.04であるのに対して、比較例1〜3は、それよりも大きく、0.1に近い値となった。実施例の摺動部材の摩擦係数が比較例1〜3のものに比べて低かったのは、各ディンプルの外周部である(頭頂部)が、相手材と接触し、高面圧条件下で、せん断が発生したことによると考えられる。
【0062】
[実施例2]
実施例1と同じようにして、摺動部材を作製した。実施例1と相違する点は、それぞれの試験片に対して、吹き付ける空気の湿度、及び吹き付け時間(加湿時間)、を変化させ、微小水滴の直径を制御して、図5に示すように、ディンプルの周縁の直径を、1〜20μm(具体的には、1,4,7,9,15,20μm)の範囲とした点である。そして、実施例1と同様の摩擦試験を行い、摩擦係数を測定した。この結果を図5に示す。
【0063】
[結果2]
図5に示すように、ディンプルの周縁の直径を変化させることにより、摩擦係数を変化させることができる。そして、ディンプルの周縁の直径が5〜15μmの範囲にあれば、摩擦係数を低減することができる。
【0064】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0065】
10…摺動部材,11…基材,12…樹脂成形部,12a…光架橋性樹脂、13…銀めっき被膜,14…ディンプル,15…頭頂部,31:成形型用基材、32:微小水滴、33…ハニカム状多孔質膜、34:成形型、34a…半球状の凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動する基材の表面に、未硬化状態の硬化性樹脂を塗膜する工程と、
前記未硬化状態の硬化性樹脂に、複数の半球状の凸部が等間隔に配列された成形型を押込む工程と、
前記成形型が押込まれた状態を保持しつつ、前記未硬化状態の硬化性樹脂を硬化させる工程と、
前記硬化性樹脂から前記成形型を取り外し、前記硬化性樹脂の表面に複数のディンプルを形成する工程と、
前記ディンプルが形成された硬化性樹脂の表面に銀めっき被膜を成膜する工程と、
を含むことを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記成形型は、光透過性材料からなり、前記硬化性樹脂は、光架橋性樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記硬化性樹脂を硬化させる工程において、ディンプルの周縁の直径が5〜15μmとなるように、前記成形型の半球状の凸部を押込むことを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項4】
球状凹面を有した複数のディンプルが等間隔に配列された基材の表面に、銀めっき被膜が形成されていることを特徴とする摺動部材。
【請求項5】
前記ディンプルの周縁の直径は、5〜15μmであることを特徴とする請求項4に記載の摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−12767(P2011−12767A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157936(P2009−157936)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】