撓み噛合い式歯車装置
【課題】起振体軸受にころを用いながらスキューを防止し、伝達トルクのロスの低減を可能とする。
【解決手段】起振体104と、外歯歯車120と、起振体軸受110と、減速用内歯歯車130Aと、出力用内歯歯車130Bと、を備えた撓み噛合い式歯車装置100において、起振体104に起振体軸受110を組み込む前のころ116A、116Bと外輪118A、118Bとの間に、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部に向かって増大する隙間Gpが設けられ、その隙間Gpの大きさは起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態での外輪118A、118Bの変形量以上とされている。
【解決手段】起振体104と、外歯歯車120と、起振体軸受110と、減速用内歯歯車130Aと、出力用内歯歯車130Bと、を備えた撓み噛合い式歯車装置100において、起振体104に起振体軸受110を組み込む前のころ116A、116Bと外輪118A、118Bとの間に、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部に向かって増大する隙間Gpが設けられ、その隙間Gpの大きさは起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態での外輪118A、118Bの変形量以上とされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示す撓み噛合い式歯車装置は、起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−299765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の撓み噛合い式歯車装置においては、上述の如く、起振体軸受にころを用いている。このため、玉軸受を用いる場合に比べ起振体軸受を長寿命化させることができる。しかしながら、この起振体軸受のころは、起振体の外側を非円形軌道で公転することもあり、スキューを発生させやすく、結果的に伝達トルクのロスを招くおそれを抱えている。
【0005】
そこで、本発明は、前記の問題点を解決するべくなされたもので、起振体軸受にころを用いながらスキューを防止し、伝達トルクのロスの低減を可能とする撓み噛合い式歯車装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、前記起振体に前記起振体軸受を組み込む前の前記ころと前記外輪との間に、該ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、該隙間の大きさが前記起振体に前記起振体軸受を組み込んだ状態での前記外輪の変形量以上とされていることにより、前記課題を解決したものである。
【0007】
発明者等は、起振体に起振体軸受を組み込み起振体軸受の形状が起振体の形状に倣い非円形に変形した際に、外輪の軸方向において外輪の断面中央部が外側に張り出すような弓型形状に変形し、且つその変形量(変形形状の概念を含む)は、たとえ通常のクラウンニングをころに施していた場合であっても、吸収し得ないような大きさあるいは形状であることを見い出した。このため、ころの軸方向の端部が変形した外輪の内周面に当り、外輪からの荷重がその部分に集中することとなり、この荷重に対して安定な状態になろうとしてころが傾き、スキューが発生してしまっていた。
【0008】
そこで、本発明においては、起振体に起振体軸受を組み込む前のころと外輪との間に、ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、その隙間の大きさが起振体に起振体軸受を組み込んだ状態での外輪の変形量以上とされている。即ち、本発明においては、起振体に起振体軸受を組み込んだ状態の外輪の変形量を見越して、その変形量を許容可能な隙間を予め設けておくものである。これにより、外輪が変形してもころの端部における局所的な荷重の発生が防止できるので、ころのスキューを防止することが可能となる。なお、ころの端部で局所的な荷重が発生していない場合には、隙間の大きさが外輪の変形量とちょうど同一であってもよい。
【0009】
なお、本発明は、起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、前記起振体に前記起振体軸受を組み込む前の前記ころと前記外輪との間に、該ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、前記ころの軸方向における該隙間の長さが該ころの径方向における該隙間の長さの50倍以下とされている、と捉えることも可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、起振体軸受にころを用いながらスキューを防止し、伝達トルクのロスの低減を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置の全体構成の一例を示す分解斜視図
【図2】同じく全体構成の一例を示す断面図
【図3】同じく起振体を示す正面図(A)と断面図(B)
【図4】同じく起振体に起振体軸受を組み込む前の起振体軸受の隙間の状態の概略を示す断面図
【図5】同じく起振体に起振体軸受を組み込む前の起振体軸受の断面図(A)と組み込んだ状態の起振体軸受の断面図(B)
【図6】本発明の第2実施形態に係る起振体に起振体軸受を組み込む前の起振体軸受の断面図(A)と組み込んだ状態の起振体軸受の断面図(B)
【図7】従来技術に係る起振体に起振体軸受を組み込む前の起振体軸受の断面図(A)と組み込んだ状態の起振体軸受の断面図(B)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態の一例を詳細に説明する。なお、図4では、起振体軸受の隙間の様子が分かるように誇張して示している。
【0013】
最初に、本実施形態の全体構成について、概略的に説明する。
【0014】
撓み噛合い式歯車装置100は、図1、図2、図4に示す如く、起振体104と、起振体104の外周に配置され起振体104の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車120A、120B(120)と、起振体104と外歯歯車120との間に外歯歯車120を回転可能に支持するころ116A、116Bところ116A、116Bの外側に設けられた外輪118A、118Bとを有する起振体軸受110A、110B(110)と、外歯歯車120Aが内接噛合する剛性を有した減速用内歯歯車130A(内歯歯車)と、減速用内歯歯車130Aに並設され外歯歯車120Bと内接噛合する剛性を有した出力用内歯歯車130B(内歯歯車)と、を備えている。そして、起振体104に起振体軸受110を組み込む前のころ116A、116Bと外輪118A、118Bとの間には、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部に向かって増大する(径方向の)隙間Gpが設けられている。その隙間Gpの大きさは、起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態での外輪118A、118Bの変形量(径方向の変形量)以上とされている。なお、ころ116A、116Bの端部で局所的な荷重が発生していない場合には、隙間Gpの大きさが外輪118A、118Bの変形量とちょうど同一であってもよい。つまり、ここでの変形量とは、外輪118A、118Bの端部の変形がころ116A、116Bによって規制されず、外輪118A、118Bの端部が自由に変形できる場合において、起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態での外輪118A、118Bの変形量のことである。
【0015】
以下、各構成要素について詳細に説明を行う。
【0016】
起振体104は、図2、図3に示す如く、略柱形状である。詳しく説明すると、起振体104は、偏心(偏心量L)した位置を中心とする一定の曲率半径r1による噛合い範囲FAを備え、複数の曲率半径を組み合わせた形状とされている。そして、起振体104は、噛合い範囲FAで、外歯歯車120A、120Bと減速用内歯歯車130A、出力用内歯歯車130Bとの噛合い状態を実現するようにされている。起振体104には、中央に図示しない入力軸が挿入される入力軸孔106が形成されている。入力軸が挿入され回転した際に、起振体104が入力軸と一体で回転するように、入力軸孔106にはキー溝108が設けられている。
【0017】
起振体軸受110は、図2に示す如く、起振体104の外側と外歯歯車120の内側との間に配置される軸受である。図2に示す如く、起振体軸受110A(110B)は、内輪112、保持器114A(114B)、転動体としてのころ116A(116B)と、外輪118A(118B)と、から構成される。内輪112は、起振体軸受110A、110Bに対して一体化されており、起振体104の外周に接触配置され、ころ116A、116Bに接触している。ころ116A(116B)は保持器114A(114B)に回転可能に保持されている。なお、ころ116A(116B)は、円柱形状であればよく、ニードル形状を含む。外輪118A(118B)は、ころ116A(116B)の外側に配置される。外輪118A(118B)は、起振体104の回転により撓み変形し、その外側に配置される外歯歯車120A(120B)を変形させる。
【0018】
ここで、起振体104に組み込む前の状態の起振体軸受110を説明する。なお、起振体軸受110A、110Bは軸方向Oで位置が異なるだけで同一形状なので、以下では図4を用いて起振体軸受110Aについてのみ説明し、起振体軸受110Bについては説明を省略する。なお、図4では、保持器114Aを省略している。
【0019】
図4に示す如く、ころ116Aと外輪118Aとの間に、ころ116Aの軸方向Oの端部(両端部)に向かって増大する隙間Gpが設けられている。この隙間Gpは、ころ116Aの軸方向Oの端部の径r2がその中央部の径r3より小さくされることで形成されている。この隙間Gpについて、ころ116Aの軸方向Oにおける隙間Gpの長さLnは、ころ116Aの径方向Rにおける隙間Gpの長さDpの50倍以下(比Ln/Dp≦50)とされている。具体的な数値でいえば、例えば、ころ116Aの軸方向Oの長さを約8mmとした場合に、長さLnが2mmであれば、長さDpが40μm以上となる。
【0020】
起振体軸受110Aを起振体104に組み込む前においては、図4、図5(A)に示す如く、外輪118Aが軸方向Oに対して平行に伸びた状態とされており、外輪118Aところ116Aとの間には隙間Gpが形成されている。起振体軸受110Aを起振体104に組み込むと、図5(B)に示す如く、軸方向Oで外輪118Aの断面中央部が外側に張り出すような弓型形状に変形する。このとき、外輪118Aは偏りなく隙間Gpがなくなるあるいは少なくなるように変形するだけであり、外輪118Aの変形によるころ116Aの局部(端部)に集中するような荷重発生は回避されている。なお、図5(B)において、ころ116Aの中央部で、外輪118Aとの間に隙間が形成されているように記載されているが、当該中央部で外輪118Aところ116Aとは接触した状態とされている。
【0021】
外歯歯車120は、図1、図2に示す如く、基部材122と、外歯124と、から構成される筒型形状である。基部材122は、可撓性を有した筒状部材であり、起振体軸受110の外側に配置される。図2に示す如く、外歯124(124A、124B)は軸方向Oに分割された形態であるが、それぞれを支持する基部材122が一体とされ共通とされている。外歯124は、理論噛合を実現するようにトロコイド曲線に基づいて歯形が決定されている。
【0022】
減速用内歯歯車130Aは、図2に示す如く、剛性を有した部材で形成されている。減速用内歯歯車130Aは、外歯歯車120Aの外歯124Aの歯数よりもi(i=2、4、・・・)枚だけ多い歯数を備える。減速用内歯歯車130Aには、図示しないケーシングがボルト孔132Aを介して固定される。そして、減速用内歯歯車130Aは、外歯歯車120Aと噛合することによって、起振体104の回転の減速に寄与する。減速用内歯歯車130Aの内歯128Aは、トロコイド曲線に基づいた外歯124Aに理論噛合するように成形されている。
【0023】
一方、出力用内歯歯車130Bも、図2に示す如く、減速用内歯歯車130Aと同様に、剛性を有した部材で形成されている。出力用内歯歯車130Bは、外歯歯車120Bの外歯124Bの歯数と同一の内歯128Bの歯数を備える(等速伝達)。なお、出力用内歯歯車130Bには、図示しない出力軸がボルト孔132Bを介して取り付けられて、外歯歯車120Bの自転と同一の回転が外部に出力される。
【0024】
次に、撓み噛合い式歯車装置100の動作について、図2、図3を用いて説明する。
【0025】
図示しない入力軸の回転により、起振体104が回転すると、その回転状態に応じて、外歯歯車120が起振体軸受110を介して撓み変形する(即ち、外歯歯車120Bは外歯歯車120Aと同位相で撓み変形する)。
【0026】
外歯歯車120が起振体104で撓み変形されることにより、噛合い範囲FAで、外歯124が半径方向外側に移動して、内歯歯車130の内歯128に噛合する。
【0027】
噛合に際して、起振体軸受110A、110Bは、軸方向Oでそれぞれ、外歯124Aを支持する部分と、外歯124Bを支持する部分とされている。このため、減速用内歯歯車130Aと外歯124Aとの噛合を原因とするころ116Bのスキュー、及び出力用内歯歯車130Bと外歯124Bとの噛合を原因とするころ116Aのスキュー、のそれぞれが防止されている。
【0028】
そして、外歯124は、軸方向Oにおいて、減速用内歯歯車130Aに噛合する部分(外歯124A)と出力用内歯歯車130Bに噛合する部分(外歯124B)とに分割されている。このため、外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとが噛合する際に、仮に外歯124Bに変形などがあってもその変形で外歯124Aに変形を生じさせることがない。同様に、外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとが噛合する際に、仮に外歯124Aに変形などがあってもその変形で外歯124Bに変形を生じることがない。つまり、外歯124を分割しておくことで、一方の外歯124A(124B)の変形で他方の外歯124B(124A)を変形させてその噛合関係を悪化させるといったことを防ぐことができる。
【0029】
外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとの噛合位置は、起振体104の回転に伴い回転移動する。ここで、起振体104が1回転すると、外歯歯車120Aは減速用内歯歯車130Aとの歯数差だけ、回転位相が遅れる。つまり、減速用内歯歯車130Aによる減速比は((外歯歯車120Aの歯数−減速用内歯歯車130Aの歯数)/外歯歯車120Aの歯数)として求めることができる。
【0030】
外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとは共に歯数が同一であるので、外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとは互いに噛合する部分が移動することなく、同一の歯同士で噛合することとなる。このため、出力用内歯歯車130Bから外歯歯車120Bの自転と同一の回転が出力される。結果として、出力用内歯歯車130Bからは、起振体104の回転を減速用内歯歯車130Aによる減速比に基づいて減速した出力を取り出すことができる。
【0031】
本実施形態のように、筒形状の外歯歯車を備え起振体軸受に円筒形状のころを使用する撓み噛合い式歯車装置では、従来においても、起振体に起振体軸受を組み込み起振体軸受の形状が起振体の形状に倣い非円形に変形した際に、外輪の軸方向において外輪の断面中央部が外側に張り出すような弓型形状に変形する。この様子を図7に示す。図7(A)は起振体軸受を起振体に組み込む前の状態を示し、図7(B)は起振体軸受を起振体に組み込んだ状態を示す。従来のころ16Aの形状では、たとえ通常のクラウンニングをころ16Aに施していた場合であっても、そのクラウンニングの加工量あるいは加工形状は当該起振体軸受10Aを組み込んだときの変形量(変形形状の概念を含む)と対応していなかった。即ち、そのクラウニングの加工量あるいは加工形状は、当該変形量を吸収しえないような大きさあるいは形状であった。このため、ころ16Aの軸方向Oの端部Egが変形した外輪18Aの内周面に当り、外輪18Aからの荷重がその部分(端部Eg)に集中することとなり、この荷重に対して安定な状態になろうとしてころ16Aが傾き、スキューが発生してしまっていた。より具体的には、外輪18A及びころ16Aは軸方向Oに移動可能であるため、端部に集中した荷重のバランスが崩れて、スラスト力が発生し、スキューが発生してしまっていた。
【0032】
しかし、本実施形態においては、起振体104に起振体軸受110を組み込む前のころ116A、116Bと外輪118A、118Bとの間に、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部に向かって増大する隙間Gpが設けられている。そして、その隙間Gpの大きさは、起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態での外輪118A、118Bの変形量以上とされている。即ち、本実施形態においては、起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態の外輪118A、118Bの変形量を見越して、その変形量を許容可能な隙間Gpを予め設けておくものである。これにより、外輪118A、118Bが変形してもころ116A、116Bの端部における局所的な荷重の発生が防止できるので、ころ116A、116Bのスキューを防止することが可能となる。なお、ころ116A、116Bの端部で局所的な荷重が発生していない場合には、隙間Gpの大きさは外輪118A、118Bの変形量とちょうど同一であってもよい。
【0033】
また、本実施形態では、図4、図5(A)、(B)に示す如く、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部の径r2は、ころ116A、116Bの軸方向Oの中央部の径r3より小さくされている。即ち、ころ116A、116Bを相応に形成することで、上述してきた隙間Gpを設けることができる。このため、隙間Gpを容易に、且つ正確に設けることができる。
【0034】
即ち、本実施形態においては、起振体軸受110にころ116A、116Bを用いながらスキューを防止し、伝達トルクのロスの低減が可能となる。
【0035】
本発明について第1実施形態を挙げて説明したが、本発明は第1実施形態に限定されるものではない。即ち本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことは言うまでも無い。
【0036】
例えば第1実施形態においては、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部の径r2は、ころ116A、116Bの軸方向Oの中央部の径r3より小さくされていた。それにより、隙間Gpが設けられていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6(A)、(B)に示す第2実施形態の如くであってもよい。図6(A)は起振体軸受を起振体に組み込む前の状態を示し、図6(B)は起振体軸受を起振体に組み込んだ状態を示す。なお、図6(A)、(B)において起振体軸受210Aについてのみ示されているが、図5(A)、(B)のときと同一の理由で、起振体軸受210Aについてのみ説明することによる。また、図6(A)、(B)においても保持器の図示は省略する。
【0037】
第2実施形態では、外輪218A、218Bの軸方向Oの端部の厚みt2が外輪218A、218Bの軸方向Oの中央部の厚みt3より小さくされている。具体的には、外輪218A、218Bの軸方向Oの中央部の内径よりその端部の内径の方が大きくされている。即ち、図6(A)に示す如く、外輪218Aのころ216Aに向き合う内周面側に隙間Gpが設けられている。このため、起振体軸受210Aを起振体204に組み込んだ状態においては図6(B)に示す如く、外輪218Aの内周面が軸方向Oに沿って曲がる。しかし、外輪218Aの内周面は軸方向Oと平行になる程度までしか曲げられず、外輪218Aはころ216Aの端部に局所的に当ることを回避することができる。
【0038】
また、上記実施形態においては、隙間Gpを設けるのに、外輪あるいはころの端部をそれぞれの中央部に比べて小さく(薄く)していたが、本発明はこれに限定されず、外輪及びころの端部の両方をそれぞれの中央部に比べて小さく(薄く)して、隙間Gpを設けてもよい。
【0039】
また、上記実施形態においては、外歯にトロコイド曲線に基づいた歯形としたが、本発明はこれに限定されない。外歯は、円弧歯形でもよいし、その他の歯形を用いてもよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、減速用内歯歯車と出力用内歯歯車とを有する筒型の撓み噛合い式歯車装置が示されたが、本発明はこれに限定されず、内歯歯車が1つのいわゆるカップ型やシルクハット型の撓み噛合い式歯車装置にも適用可能である。
【0041】
また、第1実施形態においては、ころ116A、116Bの外径が、軸方向Oでころ116A、116Bの中央部から端部へ曲線的に変化していたが、本発明はこれに限定されず、ころの外径を軸方向Oでころの中央部から端部へ直線的に変化させていてもよい。
【0042】
また、第2実施形態においては、外輪218A、218Bの内径が軸方向Oで外輪218A、218Bの中央部から端部へ曲線的に変化していたが、本発明はこれに限定されず、外輪の内径を軸方向Oで外輪の中央部から端部へ直線的に変化させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
4、104、204…起振体
10A、110、110A、110B、210A…起振体軸受
12、112、212…内輪
16A、116A、116B、216A…ころ
18A、118A、118B、218A、218B…外輪
100…撓み噛合い式歯車装置
114A、114B…保持器
120、120A、120B…外歯歯車
122…基部材
124、124A、124B…外歯
128、128A、128B…内歯
130…内歯歯車
130A…減速用内歯歯車
130B…出力用内歯歯車
132A、132B…ボルト孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示す撓み噛合い式歯車装置は、起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−299765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の撓み噛合い式歯車装置においては、上述の如く、起振体軸受にころを用いている。このため、玉軸受を用いる場合に比べ起振体軸受を長寿命化させることができる。しかしながら、この起振体軸受のころは、起振体の外側を非円形軌道で公転することもあり、スキューを発生させやすく、結果的に伝達トルクのロスを招くおそれを抱えている。
【0005】
そこで、本発明は、前記の問題点を解決するべくなされたもので、起振体軸受にころを用いながらスキューを防止し、伝達トルクのロスの低減を可能とする撓み噛合い式歯車装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、前記起振体に前記起振体軸受を組み込む前の前記ころと前記外輪との間に、該ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、該隙間の大きさが前記起振体に前記起振体軸受を組み込んだ状態での前記外輪の変形量以上とされていることにより、前記課題を解決したものである。
【0007】
発明者等は、起振体に起振体軸受を組み込み起振体軸受の形状が起振体の形状に倣い非円形に変形した際に、外輪の軸方向において外輪の断面中央部が外側に張り出すような弓型形状に変形し、且つその変形量(変形形状の概念を含む)は、たとえ通常のクラウンニングをころに施していた場合であっても、吸収し得ないような大きさあるいは形状であることを見い出した。このため、ころの軸方向の端部が変形した外輪の内周面に当り、外輪からの荷重がその部分に集中することとなり、この荷重に対して安定な状態になろうとしてころが傾き、スキューが発生してしまっていた。
【0008】
そこで、本発明においては、起振体に起振体軸受を組み込む前のころと外輪との間に、ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、その隙間の大きさが起振体に起振体軸受を組み込んだ状態での外輪の変形量以上とされている。即ち、本発明においては、起振体に起振体軸受を組み込んだ状態の外輪の変形量を見越して、その変形量を許容可能な隙間を予め設けておくものである。これにより、外輪が変形してもころの端部における局所的な荷重の発生が防止できるので、ころのスキューを防止することが可能となる。なお、ころの端部で局所的な荷重が発生していない場合には、隙間の大きさが外輪の変形量とちょうど同一であってもよい。
【0009】
なお、本発明は、起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、前記起振体に前記起振体軸受を組み込む前の前記ころと前記外輪との間に、該ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、前記ころの軸方向における該隙間の長さが該ころの径方向における該隙間の長さの50倍以下とされている、と捉えることも可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、起振体軸受にころを用いながらスキューを防止し、伝達トルクのロスの低減を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置の全体構成の一例を示す分解斜視図
【図2】同じく全体構成の一例を示す断面図
【図3】同じく起振体を示す正面図(A)と断面図(B)
【図4】同じく起振体に起振体軸受を組み込む前の起振体軸受の隙間の状態の概略を示す断面図
【図5】同じく起振体に起振体軸受を組み込む前の起振体軸受の断面図(A)と組み込んだ状態の起振体軸受の断面図(B)
【図6】本発明の第2実施形態に係る起振体に起振体軸受を組み込む前の起振体軸受の断面図(A)と組み込んだ状態の起振体軸受の断面図(B)
【図7】従来技術に係る起振体に起振体軸受を組み込む前の起振体軸受の断面図(A)と組み込んだ状態の起振体軸受の断面図(B)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態の一例を詳細に説明する。なお、図4では、起振体軸受の隙間の様子が分かるように誇張して示している。
【0013】
最初に、本実施形態の全体構成について、概略的に説明する。
【0014】
撓み噛合い式歯車装置100は、図1、図2、図4に示す如く、起振体104と、起振体104の外周に配置され起振体104の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車120A、120B(120)と、起振体104と外歯歯車120との間に外歯歯車120を回転可能に支持するころ116A、116Bところ116A、116Bの外側に設けられた外輪118A、118Bとを有する起振体軸受110A、110B(110)と、外歯歯車120Aが内接噛合する剛性を有した減速用内歯歯車130A(内歯歯車)と、減速用内歯歯車130Aに並設され外歯歯車120Bと内接噛合する剛性を有した出力用内歯歯車130B(内歯歯車)と、を備えている。そして、起振体104に起振体軸受110を組み込む前のころ116A、116Bと外輪118A、118Bとの間には、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部に向かって増大する(径方向の)隙間Gpが設けられている。その隙間Gpの大きさは、起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態での外輪118A、118Bの変形量(径方向の変形量)以上とされている。なお、ころ116A、116Bの端部で局所的な荷重が発生していない場合には、隙間Gpの大きさが外輪118A、118Bの変形量とちょうど同一であってもよい。つまり、ここでの変形量とは、外輪118A、118Bの端部の変形がころ116A、116Bによって規制されず、外輪118A、118Bの端部が自由に変形できる場合において、起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態での外輪118A、118Bの変形量のことである。
【0015】
以下、各構成要素について詳細に説明を行う。
【0016】
起振体104は、図2、図3に示す如く、略柱形状である。詳しく説明すると、起振体104は、偏心(偏心量L)した位置を中心とする一定の曲率半径r1による噛合い範囲FAを備え、複数の曲率半径を組み合わせた形状とされている。そして、起振体104は、噛合い範囲FAで、外歯歯車120A、120Bと減速用内歯歯車130A、出力用内歯歯車130Bとの噛合い状態を実現するようにされている。起振体104には、中央に図示しない入力軸が挿入される入力軸孔106が形成されている。入力軸が挿入され回転した際に、起振体104が入力軸と一体で回転するように、入力軸孔106にはキー溝108が設けられている。
【0017】
起振体軸受110は、図2に示す如く、起振体104の外側と外歯歯車120の内側との間に配置される軸受である。図2に示す如く、起振体軸受110A(110B)は、内輪112、保持器114A(114B)、転動体としてのころ116A(116B)と、外輪118A(118B)と、から構成される。内輪112は、起振体軸受110A、110Bに対して一体化されており、起振体104の外周に接触配置され、ころ116A、116Bに接触している。ころ116A(116B)は保持器114A(114B)に回転可能に保持されている。なお、ころ116A(116B)は、円柱形状であればよく、ニードル形状を含む。外輪118A(118B)は、ころ116A(116B)の外側に配置される。外輪118A(118B)は、起振体104の回転により撓み変形し、その外側に配置される外歯歯車120A(120B)を変形させる。
【0018】
ここで、起振体104に組み込む前の状態の起振体軸受110を説明する。なお、起振体軸受110A、110Bは軸方向Oで位置が異なるだけで同一形状なので、以下では図4を用いて起振体軸受110Aについてのみ説明し、起振体軸受110Bについては説明を省略する。なお、図4では、保持器114Aを省略している。
【0019】
図4に示す如く、ころ116Aと外輪118Aとの間に、ころ116Aの軸方向Oの端部(両端部)に向かって増大する隙間Gpが設けられている。この隙間Gpは、ころ116Aの軸方向Oの端部の径r2がその中央部の径r3より小さくされることで形成されている。この隙間Gpについて、ころ116Aの軸方向Oにおける隙間Gpの長さLnは、ころ116Aの径方向Rにおける隙間Gpの長さDpの50倍以下(比Ln/Dp≦50)とされている。具体的な数値でいえば、例えば、ころ116Aの軸方向Oの長さを約8mmとした場合に、長さLnが2mmであれば、長さDpが40μm以上となる。
【0020】
起振体軸受110Aを起振体104に組み込む前においては、図4、図5(A)に示す如く、外輪118Aが軸方向Oに対して平行に伸びた状態とされており、外輪118Aところ116Aとの間には隙間Gpが形成されている。起振体軸受110Aを起振体104に組み込むと、図5(B)に示す如く、軸方向Oで外輪118Aの断面中央部が外側に張り出すような弓型形状に変形する。このとき、外輪118Aは偏りなく隙間Gpがなくなるあるいは少なくなるように変形するだけであり、外輪118Aの変形によるころ116Aの局部(端部)に集中するような荷重発生は回避されている。なお、図5(B)において、ころ116Aの中央部で、外輪118Aとの間に隙間が形成されているように記載されているが、当該中央部で外輪118Aところ116Aとは接触した状態とされている。
【0021】
外歯歯車120は、図1、図2に示す如く、基部材122と、外歯124と、から構成される筒型形状である。基部材122は、可撓性を有した筒状部材であり、起振体軸受110の外側に配置される。図2に示す如く、外歯124(124A、124B)は軸方向Oに分割された形態であるが、それぞれを支持する基部材122が一体とされ共通とされている。外歯124は、理論噛合を実現するようにトロコイド曲線に基づいて歯形が決定されている。
【0022】
減速用内歯歯車130Aは、図2に示す如く、剛性を有した部材で形成されている。減速用内歯歯車130Aは、外歯歯車120Aの外歯124Aの歯数よりもi(i=2、4、・・・)枚だけ多い歯数を備える。減速用内歯歯車130Aには、図示しないケーシングがボルト孔132Aを介して固定される。そして、減速用内歯歯車130Aは、外歯歯車120Aと噛合することによって、起振体104の回転の減速に寄与する。減速用内歯歯車130Aの内歯128Aは、トロコイド曲線に基づいた外歯124Aに理論噛合するように成形されている。
【0023】
一方、出力用内歯歯車130Bも、図2に示す如く、減速用内歯歯車130Aと同様に、剛性を有した部材で形成されている。出力用内歯歯車130Bは、外歯歯車120Bの外歯124Bの歯数と同一の内歯128Bの歯数を備える(等速伝達)。なお、出力用内歯歯車130Bには、図示しない出力軸がボルト孔132Bを介して取り付けられて、外歯歯車120Bの自転と同一の回転が外部に出力される。
【0024】
次に、撓み噛合い式歯車装置100の動作について、図2、図3を用いて説明する。
【0025】
図示しない入力軸の回転により、起振体104が回転すると、その回転状態に応じて、外歯歯車120が起振体軸受110を介して撓み変形する(即ち、外歯歯車120Bは外歯歯車120Aと同位相で撓み変形する)。
【0026】
外歯歯車120が起振体104で撓み変形されることにより、噛合い範囲FAで、外歯124が半径方向外側に移動して、内歯歯車130の内歯128に噛合する。
【0027】
噛合に際して、起振体軸受110A、110Bは、軸方向Oでそれぞれ、外歯124Aを支持する部分と、外歯124Bを支持する部分とされている。このため、減速用内歯歯車130Aと外歯124Aとの噛合を原因とするころ116Bのスキュー、及び出力用内歯歯車130Bと外歯124Bとの噛合を原因とするころ116Aのスキュー、のそれぞれが防止されている。
【0028】
そして、外歯124は、軸方向Oにおいて、減速用内歯歯車130Aに噛合する部分(外歯124A)と出力用内歯歯車130Bに噛合する部分(外歯124B)とに分割されている。このため、外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとが噛合する際に、仮に外歯124Bに変形などがあってもその変形で外歯124Aに変形を生じさせることがない。同様に、外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとが噛合する際に、仮に外歯124Aに変形などがあってもその変形で外歯124Bに変形を生じることがない。つまり、外歯124を分割しておくことで、一方の外歯124A(124B)の変形で他方の外歯124B(124A)を変形させてその噛合関係を悪化させるといったことを防ぐことができる。
【0029】
外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとの噛合位置は、起振体104の回転に伴い回転移動する。ここで、起振体104が1回転すると、外歯歯車120Aは減速用内歯歯車130Aとの歯数差だけ、回転位相が遅れる。つまり、減速用内歯歯車130Aによる減速比は((外歯歯車120Aの歯数−減速用内歯歯車130Aの歯数)/外歯歯車120Aの歯数)として求めることができる。
【0030】
外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとは共に歯数が同一であるので、外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとは互いに噛合する部分が移動することなく、同一の歯同士で噛合することとなる。このため、出力用内歯歯車130Bから外歯歯車120Bの自転と同一の回転が出力される。結果として、出力用内歯歯車130Bからは、起振体104の回転を減速用内歯歯車130Aによる減速比に基づいて減速した出力を取り出すことができる。
【0031】
本実施形態のように、筒形状の外歯歯車を備え起振体軸受に円筒形状のころを使用する撓み噛合い式歯車装置では、従来においても、起振体に起振体軸受を組み込み起振体軸受の形状が起振体の形状に倣い非円形に変形した際に、外輪の軸方向において外輪の断面中央部が外側に張り出すような弓型形状に変形する。この様子を図7に示す。図7(A)は起振体軸受を起振体に組み込む前の状態を示し、図7(B)は起振体軸受を起振体に組み込んだ状態を示す。従来のころ16Aの形状では、たとえ通常のクラウンニングをころ16Aに施していた場合であっても、そのクラウンニングの加工量あるいは加工形状は当該起振体軸受10Aを組み込んだときの変形量(変形形状の概念を含む)と対応していなかった。即ち、そのクラウニングの加工量あるいは加工形状は、当該変形量を吸収しえないような大きさあるいは形状であった。このため、ころ16Aの軸方向Oの端部Egが変形した外輪18Aの内周面に当り、外輪18Aからの荷重がその部分(端部Eg)に集中することとなり、この荷重に対して安定な状態になろうとしてころ16Aが傾き、スキューが発生してしまっていた。より具体的には、外輪18A及びころ16Aは軸方向Oに移動可能であるため、端部に集中した荷重のバランスが崩れて、スラスト力が発生し、スキューが発生してしまっていた。
【0032】
しかし、本実施形態においては、起振体104に起振体軸受110を組み込む前のころ116A、116Bと外輪118A、118Bとの間に、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部に向かって増大する隙間Gpが設けられている。そして、その隙間Gpの大きさは、起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態での外輪118A、118Bの変形量以上とされている。即ち、本実施形態においては、起振体104に起振体軸受110を組み込んだ状態の外輪118A、118Bの変形量を見越して、その変形量を許容可能な隙間Gpを予め設けておくものである。これにより、外輪118A、118Bが変形してもころ116A、116Bの端部における局所的な荷重の発生が防止できるので、ころ116A、116Bのスキューを防止することが可能となる。なお、ころ116A、116Bの端部で局所的な荷重が発生していない場合には、隙間Gpの大きさは外輪118A、118Bの変形量とちょうど同一であってもよい。
【0033】
また、本実施形態では、図4、図5(A)、(B)に示す如く、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部の径r2は、ころ116A、116Bの軸方向Oの中央部の径r3より小さくされている。即ち、ころ116A、116Bを相応に形成することで、上述してきた隙間Gpを設けることができる。このため、隙間Gpを容易に、且つ正確に設けることができる。
【0034】
即ち、本実施形態においては、起振体軸受110にころ116A、116Bを用いながらスキューを防止し、伝達トルクのロスの低減が可能となる。
【0035】
本発明について第1実施形態を挙げて説明したが、本発明は第1実施形態に限定されるものではない。即ち本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことは言うまでも無い。
【0036】
例えば第1実施形態においては、ころ116A、116Bの軸方向Oの端部の径r2は、ころ116A、116Bの軸方向Oの中央部の径r3より小さくされていた。それにより、隙間Gpが設けられていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6(A)、(B)に示す第2実施形態の如くであってもよい。図6(A)は起振体軸受を起振体に組み込む前の状態を示し、図6(B)は起振体軸受を起振体に組み込んだ状態を示す。なお、図6(A)、(B)において起振体軸受210Aについてのみ示されているが、図5(A)、(B)のときと同一の理由で、起振体軸受210Aについてのみ説明することによる。また、図6(A)、(B)においても保持器の図示は省略する。
【0037】
第2実施形態では、外輪218A、218Bの軸方向Oの端部の厚みt2が外輪218A、218Bの軸方向Oの中央部の厚みt3より小さくされている。具体的には、外輪218A、218Bの軸方向Oの中央部の内径よりその端部の内径の方が大きくされている。即ち、図6(A)に示す如く、外輪218Aのころ216Aに向き合う内周面側に隙間Gpが設けられている。このため、起振体軸受210Aを起振体204に組み込んだ状態においては図6(B)に示す如く、外輪218Aの内周面が軸方向Oに沿って曲がる。しかし、外輪218Aの内周面は軸方向Oと平行になる程度までしか曲げられず、外輪218Aはころ216Aの端部に局所的に当ることを回避することができる。
【0038】
また、上記実施形態においては、隙間Gpを設けるのに、外輪あるいはころの端部をそれぞれの中央部に比べて小さく(薄く)していたが、本発明はこれに限定されず、外輪及びころの端部の両方をそれぞれの中央部に比べて小さく(薄く)して、隙間Gpを設けてもよい。
【0039】
また、上記実施形態においては、外歯にトロコイド曲線に基づいた歯形としたが、本発明はこれに限定されない。外歯は、円弧歯形でもよいし、その他の歯形を用いてもよい。
【0040】
また、上記実施形態においては、減速用内歯歯車と出力用内歯歯車とを有する筒型の撓み噛合い式歯車装置が示されたが、本発明はこれに限定されず、内歯歯車が1つのいわゆるカップ型やシルクハット型の撓み噛合い式歯車装置にも適用可能である。
【0041】
また、第1実施形態においては、ころ116A、116Bの外径が、軸方向Oでころ116A、116Bの中央部から端部へ曲線的に変化していたが、本発明はこれに限定されず、ころの外径を軸方向Oでころの中央部から端部へ直線的に変化させていてもよい。
【0042】
また、第2実施形態においては、外輪218A、218Bの内径が軸方向Oで外輪218A、218Bの中央部から端部へ曲線的に変化していたが、本発明はこれに限定されず、外輪の内径を軸方向Oで外輪の中央部から端部へ直線的に変化させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0044】
4、104、204…起振体
10A、110、110A、110B、210A…起振体軸受
12、112、212…内輪
16A、116A、116B、216A…ころ
18A、118A、118B、218A、218B…外輪
100…撓み噛合い式歯車装置
114A、114B…保持器
120、120A、120B…外歯歯車
122…基部材
124、124A、124B…外歯
128、128A、128B…内歯
130…内歯歯車
130A…減速用内歯歯車
130B…出力用内歯歯車
132A、132B…ボルト孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、
前記起振体に前記起振体軸受を組み込む前の前記ころと前記外輪との間に、該ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、
該隙間の大きさは前記起振体に前記起振体軸受を組み込んだ状態での前記外輪の変形量以上とされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、
前記起振体に前記起振体軸受を組み込む前の前記ころと前記外輪との間に、該ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、
前記ころの軸方向における該隙間の長さは該ころの径方向における該隙間の長さの50倍以下とされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ころの軸方向の端部の径は、該ころの軸方向の中央部の径より小さくされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記外輪の軸方向の端部の内径は、該外輪の軸方向の中央部の内径より大きくされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項1】
起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、
前記起振体に前記起振体軸受を組み込む前の前記ころと前記外輪との間に、該ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、
該隙間の大きさは前記起振体に前記起振体軸受を組み込んだ状態での前記外輪の変形量以上とされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該起振体と該外歯歯車との間に該外歯歯車を回転可能に支持するころと該ころの外側に設けられた外輪とを有する起振体軸受と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、
前記起振体に前記起振体軸受を組み込む前の前記ころと前記外輪との間に、該ころの軸方向の端部に向かって増大する隙間が設けられ、
前記ころの軸方向における該隙間の長さは該ころの径方向における該隙間の長さの50倍以下とされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記ころの軸方向の端部の径は、該ころの軸方向の中央部の径より小さくされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記外輪の軸方向の端部の内径は、該外輪の軸方向の中央部の内径より大きくされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2013−87825(P2013−87825A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227262(P2011−227262)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】
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