説明

撥水性を有するマグネシウム又はマグネシウム合金

【課題】基材としてのマグネシウム又はマグネシウム合金の表面に成長させた水酸化物等のマグネシウムナノ構造体と、疎水性官能基を有する有機薄膜との接着性が飛躍的に向上し、優れた撥水性を有するマグネシウム又はマグネシウム合金を提供する。
【解決手段】
マグネシウム又はマグネシウム合金において、基材としてのマグネシウム又はマグネシウム合金の表面に、マグネシウムナノ構造体、中間層としてのシリカ膜及び疎水性官能基を有する有機薄膜を、順次設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性を有するマグネシウム又はマグネシウム合金に関するものであり、詳しくは、耐久性に優れ、さらに様々な構造色を付与することができるマグネシウム又はマグネシウム合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品、電子機器類の筐体、溶液中の毒性公害物質の吸着剤、超撥水表面の構造体形成技術、耐食性皮膜作製等の様々な分野において、マグネシウム水酸化物Mg(OH)2や[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2O等のマグネシウム・アルミニウム水酸化物のナノ構造体に注目が集まっている。特に、生体材料や、溶液中の毒性公害物質の吸着剤、超撥水表面の構造体形成技術としてナノスケールを有するMg(OH)2構造体が注目されている。
【0003】
また、マグネシウムやその合金についてはその軽量性から様々な応用が検討されているが、耐食性の向上とともに、電子部品の筐体には、意匠性が必要なため、金属感を有する色彩を付与する技術が求められている。
【0004】
そこで、従来よりマグネシウム水酸化物等のナノ構造体を形成することの方策が様々に検討されてきている(例えば非特許文献1及び2を参照)。
【0005】
しかしながら、従来の方法では、オートクレーブ等の反応容器内で金属源となるマグネシウム塩と界面活性剤等の有機物を用いて合成するため、有機物が不純物としてマグネシウム構造体に取り込まれる。この結果、作製した構造体の機能を低下させることがあった。
【0006】
また、これらの手法では、作製した水酸化マグネシウムのナノ及びマイクロ構造体を基板上に固定化する必要があり、密着性が低いという問題点があった。このため、密着性を向上させるために加熱処理を行う必要があった。
【0007】
さらに、作製したMg(OH)2のナノ及びマイクロ構造体を基板上に固定化するため、構造体を基材に対して垂直方向に制御することが困難であった。
【0008】
また、例えば、耐食性の向上のために、物理的に湿式ブラスト処理し、その後、相対湿度80%以上で、高温水蒸気処理して、硫化マグネシウム等の耐食性皮膜を形成することも提案されている(特許文献1)。
【0009】
しかし、このような方法では、ブラスト処理や加熱処理により表面構造、結晶構造等が変化し、目的とする機能が低下する原因となっていた。
【0010】
さらに、加熱処理に伴う、高エネルギー消費、高CO2排出、プロセスの複雑化なども問題となっていた。しかも、実際的には多くの薬剤を使用するため処理後の廃液処理が必要であり、環境負荷の高いことも問題であった。
【0011】
以上のような状況から、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、水酸化物等のマグネシウムナノ構造体をその機能性を損なうことなく、しかも基材としてのマグネシウムがその合金と一体化して形成することを可能とし、簡便な操作で効率的にナノ構造体を形成可能とする新しい技術手段を完成するに至っている(特願2009−191376号)。
【0012】
この技術的手段によれば、マグネシウム又はマグネシウム合金基材表面に、マグネシウム水酸化物等のナノ構造体を形成し、そのナノ構造体の形成状態の違いにより様々な構造色を発現することができ、また、その表面に有機分子膜を被覆することにより、撥水性を付与することができる。しかしながら、ナノ構造体と有機分子膜の接着性に関しては未だ改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−54238号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Ding, Y.; Zhang, G.; Wu, H.; Hai, B.; Wang, L.; Qian, Y. Nanoscale Magnesium Hydroxide and Magnesium Oxide Powders: Control over Size, Shape, and Structure via Hydrothermal SynthesisChem. Mater., 2001, 13, 435
【非特許文献2】Li, Y.; Sui, M.; Ding, Y.; Zhang, G.; Zhuang, J. Wang, C.Preparation of Mg(OH)2 NanorodsAdv. Mater., 2000, 12, 818.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
すなわち、本発明は、前記特願2009-191376号の発明を発展飛翔させ、この発明に記載の構造体の機能を損なうことなく、基材としてのマグネシウム又はマグネシウム合金の表面に成長させた水酸化物等のマグネシウムナノ構造体と、疎水性官能基を有する有機薄膜との接着性が飛躍的に向上し、優れた撥水性を有するマグネシウム又はマグネシウム合金を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、前記手段として以下のことを特徴としている。
<1>基材としてのマグネシウム又はマグネシウム合金の表面に、マグネシウムナノ構造体、中間層としてのシリカ膜及び疎水性官能基を有する有機薄膜を、順次設けたマグネシウム又はマグネシウム合金である。
<2>上記<1>に記載の発明のマグネシウム又はマグネシウム合金において、マグネシウムナノ構造体がマグネシウム水酸化物に起因する。
<3>上記<1>に記載の発明のマグネシウム合金において、基材としてのマグネシウム合金がアルミニウム含有マグネシウム合金であって、マグネシウムナノ構造体がマグネシウム・アルミニウム水酸化物に起因する。
<4>上記<3>に記載の発明のマグネシウム合金において、マグネシウムナノ構造体が、マグネシウム水酸化物のナノ構造体に起因する。
<5>上記<1>から<4>に記載の発明のマグネシウム又はマグネシウム合金において、マグネシウムナノ構造体の成長状態を制御することにより表面の構造色を変更したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金は、基材としてのマグネシウム又はマグネシウム合金の表面に、マグネシウム水酸化物Mg(OH)2や、[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2O等のマグネシウムナノ構造体、中間層としてのシリカ膜及び疎水性官能基を有する有機薄膜を、順次設けたことから、優れた撥水性を有し、さらに中間層の優れた接着性により耐久性、耐食性に優れたものである。さらに、ナノ構造体の成長条件を制御することにより、構造色を変化させたマグネシウム及びマグネシウム合金とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】マグネシウム合金(AZ31)上のMg(OH)2及び[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oナノ構造体のXRDパターン。(a)反応時間:3時間、(b)反応時間:6時間、(c)反応時間:12時間、(d)反応時間:24時間。
【図2】マグネシウム合金(AZ31)上のMg(OH)2及び[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oナノ構造体のFE−SEM像。(a)反応時間:1時間、(b)反応時間:2時間、(c)反応時間:3時間、(d)反応時間6時間。
【図3】多結晶性Mg(OH)2ナノ構造体を形成したマグネシウム合金の断面FE−SEM像。(a)反応時間:3時間、(b)反応時間:6時間、(c)反応時間:12時間。
【図4】多結晶性Mg(OH)2ナノ構造体を形成したマグネシウム合金(AZ31)表面の外観写真。(a)反応時間:0時間、(b)反応時間:1時間、(c)反応時間:3時間、(d)反応時間:4時間、(e)反応時間:6時間、(f)反応時間:9時間。
【図5】多結晶性Mg(OH)2ナノ構造体を形成したマグネシウム合金(AZ31)表面の分光反射率スペクトル。(a)反応時間:0時間、(b)反応時間:1時間、(c)反応時間:3時間、(d)反応時間:6時間、(e)反応時間:9時間。
【図6】マグネシウム合金(AZ31)上に形成した多結晶性Mg(OH)2ナノ構造体のX線光電子分光(XPS)測定結果。反応時間:6時間。
【図7】多結晶性Mg(OH)2ナノ構造体を形成(6時間の処理)したマグネシウム合金(AZ31)表面上に疎水性官能基を有する有機薄膜を被覆した表面上での水滴挙動。
【図8】未処理のマグネシウム(a)及び本処理を施したマグネシウム部材(b)を72時間の塩水噴霧試験(5wt%、35℃の環境下)に供した後の表面の外観写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明においては、基材としてマグネシウム又はマグネシウム合金を用いる。この場合のマグネシウム合金としては、組成においてマグネシウムを主として、少なくとも50原子%を含有し、マグネシウム合金の特性、機能を発現する各種のものを用いることができ、共存してもよい添加元素としては、例えばアルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)等を挙げることができる。このような合金としては、例えば、アルミニウムとの合金であるAZ31、AZ91D、AM60B等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
また、このような基材としては、様々な手段において成形された各種の形状のものを用いることができる。
【0022】
本発明では、前記基材表面にマグネシウムナノ構造体を成長(形成)させる。
【0023】
この方法としては、密閉容器内の純水中に前記の基材を浸漬し、その後、加熱炉において加熱、加圧することで、基材表面にマグネシウム水酸化物Mg(OH)2や合金添加成分との複合物としてのマグネシウム・アルミニウム水酸化物[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2O等のマグネシウムナノ構造体を成長させる。
【0024】
本発明の「ナノ構造体」の用語の意味については、成長過程における点状や線状等の様々な状態のナノ構造体を意味する。
【0025】
また、「ナノ」の用語については、本発明では、通常は、1μm未満のナノスケールの大きさであることを意味する。
【0026】
基材を浸漬する密閉容器内の純水は、例えば抵抗率18.2MΩの超純水を好適に用いることができる。また、密閉容器内の圧入は1MPa以下、例えば0.1〜0.4MPaとすることが好ましい。さらに加熱温度は100〜130℃の範囲、また加熱時間は3〜12時間の範囲である。
【0027】
本発明においては、多結晶性のMg(OH)2及び[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oナノ構造体を以上のような条件の選択をもってナノ構造体の成長を制御することにより、様々な色彩を構造色として付与することができる。ここで、マグネシウム・アルミニウム水酸化物を示す化学式中の係数xについては合金の種類、組成等によって定まる。
【0028】
本発明においては、上記マグネシウム水酸化物Mg(OH)2や、[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2O等のマグネシウムナノ構造体と疎水性官能基を有する有機薄膜の接着性等を向上させるために、両者の間に中間層を介することが必要であり、その成分として、シランカップリング反応による化学結合の向上を最大限引き出すという観点からシリカを用いることが必要である。
【0029】
ナノ構造体の表面に中間層のシリカ膜を成形する方法としては、一般に公知の成膜法を用いて成膜することができるが、高純度の薄膜形成ができることから、熱CVD法を用いて成膜することが好ましい。
【0030】
中間層の熱CVD法による成形条件としては、加熱温度50〜150℃、反応時間1〜24時間とするのが好ましい。
【0031】
この中間層のシリカ膜を設けたことにより、マグネシウムナノ構造体と有機薄膜を強固に接着させることができる。
【0032】
そして、本発明では、この中間層のシリカ膜の表面に疎水性官能基を有する有機薄膜を被覆させることにより優れた撥水性を付与することができる。
【0033】
このような疎水性官能基を有する有機成分としては、例えばアルキルアルコキシシランを用いることができ、これらのものとしては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0034】
また、ノニルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、ペンタデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘプタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、ノニルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ウンデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ノニルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、ペンタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘプタデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0035】
本発明では特に、オクタデシルトリメトキシシランを好適に用いることができる。
【0036】
中間層のシリカ膜の表面に撥水性を有する有機薄膜を被覆する方法としては、一般に公知の種々の成膜法を用いることができるが、熱CVD法を用いて成膜することが好ましい。
【0037】
有機薄膜の熱CVD法による被覆条件としては、加熱温度120〜200℃、反応時間3〜24時間とするのが好ましい。
【0038】
この有機薄膜の膜厚は、基材の構造色に影響を及ぼさない範囲であれば特に制限なく設定することができるが、有機単分子膜であることが好ましい。
【0039】
本発明は、このように基材の構造色を様々に変更、付与し、さらに優れた撥水性と耐久性を付与したものであり、自動車部品、電子機器類の筐体、溶液中の毒性公害物質の吸着剤、超撥水表面の構造体、耐食性皮膜の一部等として好適に利用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<表面処理及び着色性>
抵抗率18.2MΩの超純水20mLとマグネシウム合金(AZ31)を密閉容器内に入れ、電気炉を用いて密閉容器を加熱し、密閉容器内を120℃、内圧0.2MPaに所定時間(1〜24時間)、マグネシウム合金(AZ31)を超純水に浸漬した状態で保持し、反応を行った(超純水溶液pH=7.5)。
【0041】
反応終了後、エタノール中で10分間の超音波洗浄を行い、アルゴンガスで乾燥させた。
【0042】
Mg(OH)2及び[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oナノ構造体の形成により、反応時間に応じて基材表面が赤色や緑色等に着色した。
【0043】
これは、Mg(OH)2及び[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oナノ構造体形成における可視光の波長に対応した数百nmオーダーの凹凸や膜厚によるものと考えられる。
【0044】
また、着色はマグネシウム合金表面の全面に渡って均一であり、構造体の均一性を示している。
【0045】
エタノール中での超音波処理30分において、形成したMg(OH)2及び[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oナノ構造体の破壊や剥離、色彩の変化は見られなかった。
【0046】
マグネシウム合金上に形成したMg(OH)2及び[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oナノ構造体のXRDパターンを示す(図1)。
【0047】
2θ=18.5,37.9,及び50.8°の位置に回折線が観察され、Mg(OH)2(JCPDS No.44-1482)の001,101,102,110及び111回折線に帰属された。また、2θ=11.3,22.6,60.1及び62.1°の位置に回折線が観察され、[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oの003,006,110及び1013回折線に帰属された。
【0048】
Mg(OH)2の101回折線の強度は非常に強く、高い配向を示している。
【0049】
(101)面に垂直方向の結晶子サイズは、回折線半値幅よりシェラーの式を用いて約15.17nmと見積もられた。
【0050】
マグネシウム合金表面には、Mg(OH)2及び[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oに起因する構造体が形成されており、その構造は、ナノスケールの凹凸を有していた(図2)。
【0051】
Mg(OH)2及び[Mg1-xAl(OH)2](CO3)x/2・nH2Oナノ構造体の大きさ及び密度は、反応時間とともに増加した。占有面積は反応時間とともに増加した(図2(a)、(b)、(c)、(d))。
【0052】
Mg(OH)2及び[Mg1-xAlx(OH)2](CO3)x/2・nH2Oナノ構造体で形成される膜厚は処理時間に依存して増加した。例えば、処理時間が3、6、12時間の時の膜厚はそれぞれ400、600、1800nmであった(図3(a)、(b)、(c)矢印表示)。
【0053】
多結晶性Mg(OH)2ナノ構造体を形成したマグネシウム合金(AZ31)表面の外観写真を示す(図4)。反応時間1時間では、金属光沢は無く黒灰色を呈した(b)。反応時間3時間では、赤みを帯びた黄色を呈した(c)。一方、反応時間4、6時間では、青みを帯びた緑色を呈した(d)、(e)。反応時間9時間では、緑と赤色が入り混じった色を示した(f)。
【0054】
反応時間に応じて、様々な色彩に対応した反射スペクトルのピークを確認できる(図5(a)、(b)、(c)、(d)、(e))。
【0055】
Mg(OH)2ナノ構造体は、Bruciteタイプの多結晶性 Mg(OH)2相により構成されていた。
【0056】
また、6時間反応後のナノ構造体の酸化状態をX線光電子分光法(XPS)により測定した結果、形成した構造体は酸化物(MgO)ではなく水酸化物(Mg(OH)2)であった(図6)。
【0057】
6時間反応させ多結晶性Mg(OH)2ナノ構造体を形成したマグネシウム合金(AZ31)表面に疎水性官能基を有する有機薄膜を被覆した表面での水滴挙動について、その表面は157°の水滴接触角となり、超撥水性を示した(図7)。
【0058】
多結晶性Mg(OH)2ナノ構造体を形成したマグネシウム合金(AZ31)表面の色彩は、その表面を観察する角度に依存して変化した。この変化は、構造色に起因する。
<被覆処理による撥水性及び耐食性>
上記ナノ構造体を形成した表面に熱CVD法(温度:120℃、反応時間:5時間)によりシリカ膜を成形した。シリカ膜を成形した表面に、熱CVD法(温度:150℃、反応時間:5時間)にてオクタデシルトリメトキシシランを被覆し撥水性を付与した。
【0059】
6時間反応させ多結晶性Mg(OH)2ナノ構造体を形成したマグネシウム合金(AZ31)表面に熱CVD法によりシリカ膜を成形し、図7にそのシリカ膜上に疎水性官能基を有する有機薄膜を被覆した表面での水滴挙動を示す。その表面は157°の水滴接触角となり、超撥水性を示した。さらに、本処理を施しても見た目の構造色の変化は認められなかった。
【0060】
また、未処理のマグネシウム部材と、本処理を施したマグネシウム部材について、塩水5wt%、35℃の環境下で72時間の塩水噴霧試験を行った。図8に試験後の表面の外観写真を示す。これらの結果から明らかなように、未処理のマグネシウム部材は腐食反応が表面全体で大幅に進行しているのに対し(a)、本処理を施したマグネシウム部材は、腐食反応がほとんど進行しなかった(b)。
【符号の説明】
【0061】
1 腐食生成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としてのマグネシウム又はマグネシウム合金の表面に、マグネシウムナノ構造体、中間層としてのシリカ膜及び疎水性官能基を有する有機薄膜を、順次設けたことを特徴とするマグネシウム又はマグネシウム合金。
【請求項2】
マグネシウムナノ構造体がマグネシウム水酸化物に起因することを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム又はマグネシウム合金。
【請求項3】
基材としてのマグネシウム合金がアルミニウム含有マグネシウム合金であって、マグネシウムナノ構造体がマグネシウム・アルミニウム水酸化物に起因することを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金。
【請求項4】
マグネシウムナノ構造体が、マグネシウム水酸化物のナノ構造体に起因することを特徴
とする請求項3に記載のマグネシウム合金。
【請求項5】
マグネシウムナノ構造体の成長状態を制御することにより表面の構造色を変更したものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマグネシウム又はマグネシウム合金。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−87395(P2012−87395A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237342(P2010−237342)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】