説明

撥水性部材及びその製造方法

【課題】帯電を防止して微小水滴を除去し得る、撥水性を高めた撥水性膜を形成することにより、防汚性能や大気中水分の捕集性能に優れた撥水性部材を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂中にカーボンナノ粒子を含む撥水性膜が基材表面に形成された撥水性部材であって、前記フッ素樹脂に対する前記カーボンナノ粒子の質量比は1以上であり、前記カーボンナノ粒子は1次粒子又は1次凝集粒子の平均粒径が100nm以下であり、及び前記カーボンナノ粒子は凝集して導電経路を形成していることを特徴とする撥水性部材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性部材及びその製造方法に関し、特に、防汚性能や大気中水分の捕集性能などが要求される各種製品に使用される撥水性部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小な凹凸形状を表面に有する疎水性膜は、ハスの葉が水滴を弾くような性質である撥水性がある。このような微小な凹凸形状を表面に有する疎水性膜(以下、撥水性膜ともいう)を形成する方法としては、シリコーンやフッ素化合物などの疎水性物質を含むコーティング組成物を用いて形成された膜を機械的加工やエッチングする方法、当該コーティング組成物に微粒子を添加する方法などが多数提案されている。これらの方法の中でも、コーティング組成物に微粒子を添加する方法は、コーティング組成物を塗布して乾燥させることによって撥水性膜を容易に形成できることから、他の方法に比べて生産性や製造コストなどの面で有利である。
【0003】
微粒子を添加したコーティング組成物としては、疎水処理が施されたシリカ微粒子と、フッ素含有樹脂などの疎水性樹脂とを、溶媒揮発後の重量分率でそれぞれ30〜100%、0〜70%となるように含有し、超音波照射によってシリカ微粒子が分散されたもの(例えば、特許文献1参照)や、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどの微粒子を有機系塗料に添加したもの(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−147340号公報
【特許文献2】特開平8−323285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来のコーティング組成物は、撥水性膜を容易に形成することができるものの、この撥水性膜は帯電し易いという問題がある。一般に、撥水性膜の表面に水が付着すると水は球状の水滴となるが、このような帯電した撥水性膜では、大きな水滴は撥水性膜の表面から転がり落ちる得るものの、水滴の直径が1mm未満の微小水滴は、帯電によって撥水性膜の表面に付着したままで転がり落ち難くなる。つまり、撥水性膜の表面に付着した水(特に、微小水滴)を十分に除去することができず、撥水性膜の表面に付着した汚れを水と共に効率良く除去したり、撥水性膜の表面に付着した水を効率良く捕集して利用したりすることができないという問題がある。そのため、従来のコーティング組成物から得られる撥水性膜を有する撥水性部材は、防汚性能や大気中水分の捕集性能が十分でない。ここで、本明細書における「防汚性能」とは、汚れが付着し難い性能、及び付着した汚れが除去され易い性能を意味する。また、本明細書における「大気中水分の捕集性能」とは、結露水などの大気中水分を集める性能を意味する。
【0006】
一方、撥水性膜の帯電を防止する方法としては、撥水性膜の表面に帯電防止剤を塗布する方法や、撥水性膜を与えるコーティング組成物に導電性物質を添加する方法が考えられる。
しかしながら、撥水性膜の表面に帯電防止剤を塗布する方法は、撥水性膜の性質上、帯電防止剤の塗布自体が困難である。また、撥水性膜を与えるコーティング組成物に導電性物質を添加する方法は、シリコーンやフッ素化合物などの疎水性物質が高い絶縁性を有しているため、通常の添加方法では十分な導電性を付与することはできない。
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、帯電を防止して微小水滴を除去し得る、撥水性を高めた撥水性膜を形成することにより、防汚性能や大気中水分の捕集性能に優れた撥水性部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような問題を解決するために鋭意研究した結果、フッ素樹脂中に特定のカーボンナノ粒子を凝集させて導電経路を形成することにより、帯電防止効果に優れた撥水性膜が得られることを見出した。
すなわち、本発明は、フッ素樹脂中にカーボンナノ粒子を含む撥水性膜が基材表面に形成された撥水性部材であって、前記フッ素樹脂に対する前記カーボンナノ粒子の質量比は1以上であり、前記カーボンナノ粒子は1次粒子又は1次凝集粒子の平均粒径が100nm以下であり、及び前記カーボンナノ粒子は凝集して導電経路を形成していることを特徴とする撥水性部材である。
【0008】
また、本発明は、1次粒子又は1次凝集粒子の平均粒径が100nm以下のカーボンナノ粒子と、フッ素樹脂とを含むコーティング組成物であって、前記フッ素樹脂に対する前記カーボンナノ粒子の質量比が1以上であり、且つ前記1次粒子又は1次凝集粒子の少なくとも一部が1μm以下の平均粒径を有する二次凝集粒子を形成するコーティング組成物を基材表面に塗布して乾燥させることにより撥水性膜を形成することを特徴とする撥水性部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、帯電を防止して微小水滴を除去し得る、撥水性を高めた撥水性膜を形成することにより、防汚性能や大気中水分の捕集性能に優れた撥水性部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態1の撥水性部材の断面図である。
【図2】分散処理を施していないコーティング組成物から製造される撥水性部材の断面図である。
【図3】実施の形態2の撥水性部材の断面図である。
【図4】撥水性膜の一部が破損して剥がれた状態の撥水性部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
以下、本発明の撥水性部材の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態の撥水性部材の断面図である。なお、本明細書において示す図は模式図であるため、カーボンナノ粒子の大きさなどは現実のものと異なることは言うまでもない。図1において、撥水性部材は、フッ素樹脂3中にカーボンナノ粒子4を含む撥水性膜2が基材1の表面に形成されている。
【0012】
撥水性膜2において、フッ素樹脂3に対するカーボンナノ粒子4の質量比(カーボンナノ粒子4の質量/フッ素樹脂3の質量)は、1以上、好ましくは1以上5以下、より好ましくは1.2以上3以下である。このようにフッ素樹脂3に対するカーボンナノ粒子4の割合を多くすることにより、フッ素樹脂3中でカーボンナノ粒子4が凝集して導電経路が形成される。この導電経路によって撥水性膜2の帯電を防止し、微小水滴を除去することができる。さらに、このカーボンナノ粒子4の存在によって、撥水性膜2の表面に微小な凹凸が形成される。この表面の微小な凹凸構造により、撥水性膜2の撥水性も高めることができる。フッ素樹脂3に対するカーボンナノ粒子4の質量比が1未満であると、所望の帯電防止効果を有する撥水性膜2が得られない。一方、フッ素樹脂3に対するカーボンナノ粒子4の質量比が5を超えると、フッ素樹脂3の量が少なすぎるため、所望の強度を有する撥水性膜2が得られず、撥水性膜2が基材1から剥離してしまう場合がある。
【0013】
カーボンナノ粒子4は、1次粒子又は1次凝集粒子の平均粒径が100nm以下、好ましくは5nm以上100nm以下、より好ましくは10nm以上50nm以下である。ここで、本明細書における「1次粒子」とは、最小粒子、すなわち分割することのできない最小粒子を意味する。また、本明細書における「1次凝集粒子」とは、アグリゲートとも呼ばれ、1次粒子の化学結合により形成された凝集体を意味する。なお、本明細書における「平均粒径」とは、レーザー光散乱式又は動的光散乱式の粒度分布計で測定した時の値を意味する。
1次粒子又は1次凝集粒子の平均粒径が100nmを超えると、撥水性膜2の表面の凹凸が大きくなりすぎ、所望の撥水性を有する撥水性膜2が得られないことがある。また、外部からの物理的な刺激(例えば、異物の衝突や摩擦など)によって、撥水性膜2の表面形状が変化してしまい、撥水性が損なわれてしまうことがある。一方、かかる平均粒径が5nm未満であると、カーボンナノ粒子4が凝集し易くなり、撥水性膜2を与えるコーティング組成物の流動性が低下し、基材1上にコーティング組成物を塗布することが難しくなることがある。
【0014】
カーボンナノ粒子4の種類としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。カーボンナノ粒子4の例としては、ファーネス法、チャンネル法、アセチレン法などを用いて製造されたカーボンブラックなどが挙げられる。また、カーボンブラックの他に、フラーレンやカーバインなどを用いることも可能である。これらの中でも、アセチレン法で製造されたカーボンブラックは、導電性に優れているため好ましい。
【0015】
フッ素樹脂3としては、溶剤可溶型のものであれば特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。フッ素樹脂3の例としては、PVDF、フルオロオレフィン共重合体などが挙げられる。フルオロオレフィン共重合体を与えるモノマー成分としては、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、各種置換基を有するビニルエステルなどが挙げられる。
【0016】
撥水性膜2表面の凹凸の大きさは、特に限定されないが、Ra(中心線平均粗さ)が0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。Raが0.1μm未満又は5μm超過の場合、所望の撥水性を有する撥水性膜2が得られない場合がある。
撥水性膜2の厚さは、特に限定されないが、一般に0.2μm以上250μm以下である。撥水性膜2の厚さが0.2μm未満であると、所望の帯電防止効果や撥水性を有する撥水性膜2が得られないことがある。一方、撥水性膜2の厚さが250μmを超えると、基材1と撥水性膜2との間の密着性や撥水性膜2の膜強度が低下し、基材1から撥水性膜2が剥離したり、撥水性膜2が破損し易くなることがある。
【0017】
撥水性膜2は、上記のフッ素樹脂3及びカーボンナノ粒子4を含むコーティング組成物を用いて形成することができる。
このコーティング組成物は、フッ素樹脂3及びカーボンナノ粒子4と共に溶剤を含む。溶剤としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。溶剤の例としては、フッ素系溶剤;塩素系の溶剤;トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤;脂肪族炭化水素系溶剤;酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;メチルイソブチルケトンやアセトンなどのケトン系溶剤;エーテル系溶剤などが挙げられる。
【0018】
コーティング組成物におけるフッ素樹脂3及びカーボンナノ粒子4の合計含有量は、好ましくは2質量%以上50質量%以下、より好ましくは5質量%以上20質量%以下である。かかる合計含有量が2質量%未満であると、形成される撥水性膜2が薄くなりすぎてしまい、所望の撥水性を有する撥水性膜2が得られないことがある。一方、かかる合計含有量が50質量%を超えると、コーティング組成物の流動性が低下し、均質な撥水性膜2を形成することが困難になる場合がある。
【0019】
コーティング組成物は、フッ素樹脂3、カーボンナノ粒子4及び溶剤を混合することで調製することができる。この時、コーティング組成物におけるカーボンナノ粒子4の1次粒子又は1次凝集粒子の少なくとも一部は、凝集して2次凝集粒子を形成する。ここで、本明細書における「2次凝集粒子」とは、アグロメレートとも呼ばれ、1次粒子又は1次凝集体の物理的相互作用によって形成される凝集体を意味する。
【0020】
しかし、大きな2次凝集粒子を含有するコーティング組成物を用いると、大きな2次凝集粒子がそのまま取り込まれ、図2に示すような表面の凹凸が大きい撥水性膜2が形成される。このような構造の撥水性膜2であっても撥水性はある程度得られるものの、撥水性が低下してしまう。これは、大きな凹凸表面による水滴の接触面積の増加によって水滴、特に、微小水滴が付着し易くなることや、カーボンナノ粒子4が撥水性膜2の表面に露出し易くなることなどに起因する。また、このような撥水性膜2では、塵埃などが大きな凹凸表面に捕捉され易くなり、防汚性能が低下する。さらに、このような撥水性膜2では、大きな2次凝集粒子の存在によって面方向におけるカーボンナノ粒子4の接触が少なくなる。その結果、所望の帯電防止効果を有する撥水性膜2が得られない。
【0021】
従って、カーボンナノ粒子4の凝集を抑制する観点から、フッ素樹脂3、カーボンナノ粒子4及び溶剤を混合した後、この混合物に分散処理を施すことが好ましい。分散処理としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。具体的には、超音波振動子、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、圧力式やビーズ衝撃式の分散装置を用いて分散処理を行えばよい。このような分散処理を行うことにより、二次凝集粒子が特定の大きさに破壊されると共に、コーティング組成物中における再凝集も抑制され、コーティング組成物の安定性が向上する。
【0022】
コーティング組成物における2次凝集粒子の平均粒径は、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下である。2次凝集粒子の平均粒径が2μmを超えると、所望の撥水性及び帯電防止効果を有する撥水性膜2が得られないことがある。また、外部からの物理的な刺激によって、撥水性膜2の表面形状が変化してしまい、撥水性が低下してしまうことがある。
【0023】
コーティング組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、分散剤、レベリング剤、蒸発抑制剤、付着性改良剤などの公知の添加剤を必要に応じて添加することもできる。
コーティング組成物は、基材1上に塗布して乾燥させることにより撥水性膜2を形成することができる。ここで、コーティング組成物の塗布方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。塗布方法の例としては、スプレー塗布、浸漬塗布などが挙げられる。また、乾燥条件は、コーティング組成物の組成などに応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0024】
撥水性膜2が形成される基材1としては、特に限定されず、撥水性部材が使用される製品の種類に応じて適宜選択することができる。基材1の例としては、アルミニウム基板やステンレス基板などの金属基板、ガラス基板、プラスチック基板などが挙げられる。
【0025】
上記のような基材1及び撥水性膜2から構成される撥水性部材は、帯電を防止して微小水滴を除去し得る、撥水性を高めた撥水性膜2を有しているため、防汚性能や大気中水分の捕集性能などが要求される各種製品に使用することができる。
【0026】
実施の形態2.
以下、本発明の撥水性部材の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
図3は、本実施の形態の撥水性部材の断面図である。なお、図3において、図1と同一符号は同一又は相当部分を示すので説明を省略する。図3において、撥水性部材は、基材1と撥水性膜2との間に、フッ素樹脂層5が設けられている。このフッ素樹脂層5は、撥水性膜2の下地としての役割を有する層である。
【0027】
撥水性膜2は、多量のカーボンナノ粒子4を含有しているため、図1に示すように、基材1と間の密着性が乏しい。そのため、外部からの物理的な刺激によって基材1から撥水性膜2が剥離してしまうことがある。そこで、基材1と撥水性膜2との間に、基材1及び撥水性膜2との密着性に優れたフッ素樹脂層5を設けることによって、これらの間の密着性を向上させることができる。
また、撥水性膜2は、多量のカーボンナノ粒子4を含有しているため、フッ素樹脂2単独の膜に比べて強度が低い。そのため、外部からの物理的な刺激によって撥水性膜2が破損して剥れ、露出した基材1に微小水滴が付着することがある。そこで、基材1と撥水性膜2との間に、基材1との密着性に優れたフッ素樹脂層5を設けることによって、基材1の露出を防止することができる。ここで、撥水性膜2の一部が破損して剥れた状態の撥水性部材の断面図を図4に示す。図4に示すように、基材1と撥水性膜2との間にフッ素樹脂層5を設けることによって、仮に撥水性膜2が破損して剥れたとしても、フッ素樹脂層5が露出する。このフッ素樹脂層5は、撥水性膜2に比べて強度が高いと共に良好な撥水性を有する。また、このフッ素樹脂層5は、一般に帯電し易く、微小水滴が付着し易いとも考えられるが、露出したフッ素樹脂層5の表面は、帯電防止効果に優れた撥水性膜2に囲まれているため、帯電の影響はあまり受けず、微小水滴の付着を十分に抑制することができる。
【0028】
フッ素樹脂層5の厚さは、特に限定されないが、一般に0.05μm以上5μm以下である。撥水性膜2の厚さが0.05μm未満であると、フッ素樹脂層5を設けることによる効果が十分に得られないことがある。一方、フッ素樹脂層5の厚さが5μmを超えると、撥水性膜2を安定して形成することができず、帯電抑制効果が十分に発揮されないことがある。
【0029】
フッ素樹脂層5は、フッ素樹脂及び溶剤を含むフッ素樹脂溶液を用いて形成することができる。
フッ素樹脂としては、溶剤可溶型のものであれば特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。同様に、溶剤についても、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。特に、撥水性膜2を与えるコーティング組成物に用いられるフッ素樹脂3や溶剤と同じものを用いれば、撥水性膜2とフッ素樹脂層5との密着性が向上する。
【0030】
フッ素樹脂溶液におけるフッ素樹脂の含有量は、好ましくは0.2質量%以上40質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上20質量%以下である。フッ素樹脂の含有量が0.2質量%未満であると、形成されるフッ素樹脂層5が薄くなりすぎ、フッ素樹脂層5を形成することによる効果が十分に得られないことがある。一方、フッ素樹脂の含有量が40質量%を超えると、形成されるフッ素樹脂層5が厚くなりすぎ、フッ素樹脂層5の均一性が損なわれることがある。
【0031】
本実施の形態の撥水性部材は、まず、フッ素樹脂溶液を基材1表面に塗布して乾燥させることにより、フッ素樹脂層5を形成する。ここで、フッ素樹脂溶液の塗布方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。塗布方法の例としては、スプレー塗布、浸漬塗布などが挙げられる。また、乾燥条件は、フッ素樹脂溶液の組成などに応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。
次に、フッ素樹脂層5の表面にコーティング組成物を塗布して乾燥させることにより、撥水性膜2を形成する。この時、コーティング組成物に含まれる溶剤が、フッ素樹脂層5のフッ素樹脂を部分的に溶解させる。これにより、フッ素樹脂層5のフッ素樹脂と、撥水性膜2のフッ素樹脂が混合され、フッ素樹脂層5と撥水性膜2との界面がなくなる。その結果、フッ素樹脂層5と撥水性膜2との密着性が向上し、外部からの物理的な刺激によって撥水性膜2がフッ素樹脂層5から剥離し難くなる。さらに、フッ素樹脂層5のフッ素樹脂が部分的に溶解した際に、コーティング組成物に含まれるカーボンナノ粒子4の一部が、フッ素樹脂層5に侵入する。これにより、カーボンナノ粒子4が基材1付近にも分布することとなり、基材1が導電性である場合に電荷が伝わり易くなり、帯電防止効果がより一層向上する。
【0032】
上記のような基材1、撥水性膜2及びフッ素樹脂層5から構成される撥水性部材は、帯電を防止して微小水滴を除去し得る、撥水性を高めた撥水性膜2を有しており、しかもこの撥水性膜2は下地(フッ素樹脂層5)との密着性に優れているため、防汚性能や大気中水分の捕集性能などが要求される各種製品に使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(実施例1)
10gのフルオネートK−700(フッ素樹脂、DIC株式会社製)、25gのケッチェンブラック(カーボンナノ粒子、一次粒子の平均粒径:約40nm)、及び200gのトルエン(溶剤)を混合し、プロペラを用いて分散処理を3分間行うことによってコーティング組成物を得た。このコーティング組成物において、カーボンナノ粒子の二次凝集粒子の平均粒径を、レーザー光散乱式の粒度分布計を用いて測定したところ、0.80μmであった。
次に、得られたコーティング組成物を、ガラス基材上にスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより撥水性膜を形成し、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、14.3μmであった。
【0034】
(実施例2)
プロペラの代わりにホモジナイザーを用いて分散処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてコーティング組成物及び撥水性部材を得た。このコーティング組成物において、カーボンナノ粒子の二次凝集粒子の平均粒径を、レーザー光散乱式の粒度分布計を用いて測定したところ、0.50μmであった。また、この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、9.5μmであった。
【0035】
(実施例3)
5gのINT−332QC(フッ素樹脂、株式会社野田スクリーン製)、10gのケッチェンブラック(カーボンナノ粒子、一次粒子の平均粒径:約40nm)、及び500gのINT−Q(溶剤、株式会社野田スクリーン製)を混合し、ホモジナイザーを用いて分散処理を3分間行うことによってコーティング組成物を得た。このコーティング組成物において、カーボンナノ粒子の二次凝集粒子の平均粒径を、レーザー光散乱式の粒度分布計を用いて測定したところ、0.15μmであった。
次に、得られたコーティング組成物を、ガラス基材上にスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、2.5μmであった。
【0036】
(実施例4)
5gのPVDF(フッ素樹脂、ソルベイ・ソレクシス株式会社製)、10gのケッチェンブラック(カーボンナノ粒子、一次粒子の平均粒径:約40nm)、250gのNMP(溶剤)を混合し、ホモジナイザーを用いて分散処理を3分間行うことによってコーティング組成物を得た。このコーティング組成物において、カーボンナノ粒子の二次凝集粒子の平均粒径を、レーザー光散乱式の粒度分布計を用いて測定したところ、0.15μmであった。
次に、得られたコーティング組成物を、ガラス基材上にスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、1.8μmであった。
【0037】
(比較例1)
10gのフルオネートK−700(フッ素樹脂、DIC株式会社製)、アエロジルR972(疎水性シリカ微粒子、一次粒子の平均粒径:約16nm、日本アエロジル株式会社製)、及び200gのトルエン(溶剤)を混合し、ホモジナイザーを用いて分散処理を3分間行うことによってコーティング組成物を得た。このコーティング組成物において、カーボンナノ粒子の二次凝集粒子の平均粒径を、レーザー光散乱式の粒度分布計を用いて測定したところ、0.20μmであった。
次に、得られたコーティング組成物を、ガラス基材上にスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、9.2μmであった。
【0038】
(比較例2)
ホモジナイザーの代わりにプロペラを用いて分散処理を行ったこと以外は、比較例1と同様にしてコーティング組成物及び撥水性部材を得た。このコーティング組成物において、カーボンナノ粒子の二次凝集粒子の平均粒径を、レーザー光散乱式の粒度分布計を用いて測定したところ、2.80μmであった。また、この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、7.6μmであった。
【0039】
上記の実施例1〜4及び比較例1〜2で得られた撥水性部材について、微小水滴の付着性及び水の接触角を評価した。
微小水滴の付着性は、撥水性部材の撥水性膜を水平面に対して80°傾けて配置し、スプレー装置を用いて撥水性部材の撥水性膜に水を噴霧した後、写真を撮影し、10mm×10mmの範囲内に付着した微小水滴の個数を数えた。スプレー装置による水の噴霧は、微小水滴が撥水性膜の表面に残留し易いように噴霧条件(スプレー装置と撥水性部材と間の距離など)を調整し、全てのサンプルに対して同じ条件で行った。なお、あまりにも微小な水滴は蒸発により消失し易く、個数を正確に判定しにくいため、直径が0.1mm以上の1mm未満の微小水滴を評価対象とした。
水の接触角は、接触角計DM301(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。
これらの結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果からわかるように、実施例1〜4及び比較例1〜2における撥水性部材の撥水性膜はいずれも、水の接触角が大きく、撥水性が良好であることがわかった。しかしながら、撥水性膜に付着した微小水滴の数は、実施例1〜4では少なかったのに対し、比較例1〜2では多かった。この比較例1〜2の結果は、疎水性シリカ微粒子を用いていると共にコーティング組成物中の二次凝集粒子の平均粒径が所定の範囲内にないことにより、所定の構造を有する撥水性膜が形成されなかったためであると考えられる。
【0042】
(実施例5)
実施例2で調製したコーティング組成物をアルミ基材上にスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、8.3μmであった。
(実施例6)
実施例3で調製したコーティング組成物をアルミ基材上にスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、2.1μmであった。
(実施例7)
実施例4で調製したコーティング組成物をアルミ基材上にスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、2.2μmであった。
【0043】
(実施例8)
フルオネートK−700(フッ素樹脂、DIC株式会社製)、及びトルエン(溶剤)を混合してフッ素樹脂溶液を調製した。このフッ素樹脂溶液において、フルオネートK−700の含有量は2.5質量%とした。
次に、得られたフッ素樹脂溶液を、アルミ基材上にスプレーにて塗布した後、60℃で静置乾燥させることによりフッ素樹脂層を形成した。このフッ素樹脂層の厚さは、0.4μmであった。その後、このフッ素樹脂層上に、実施例2で調製したコーティング組成物をスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより撥水性膜を形成し、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、9.2μmであった。
【0044】
(実施例9)
INT−332QC(フッ素樹脂、株式会社野田スクリーン製)、及びINT−Q(溶剤、株式会社野田スクリーン製)を混合してフッ素樹脂溶液を調製した。このフッ素樹脂溶液において、INT−332QCの含有量は2.5質量%とした。
次に、得られたフッ素樹脂溶液を、アルミ基材上にスプレーにて塗布した後、60℃で静置乾燥させることによりフッ素樹脂層を形成した。このフッ素樹脂層の厚さは、0.4μmであった。その後、このフッ素樹脂層上に、実施例3で調製したコーティング組成物をスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより撥水性膜を形成し、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、2.5μmであった。
【0045】
(実施例10)
PVDF(フッ素樹脂、ソルベイ・ソレクシス株式会社製)、及びNMP(溶剤)を混合してフッ素樹脂溶液を調製した。このフッ素樹脂溶液において、PVDFの含有量は5.0質量%とした。
次に、得られたフッ素樹脂溶液を、アルミ基材上にスプレーにて塗布した後、60℃で静置乾燥させることによりフッ素樹脂層を形成した。このフッ素樹脂層の厚さは、0.3μmであった。その後、このフッ素樹脂層上に、実施例4で調製したコーティング組成物をスプレーにて塗布した後、室温にて静置乾燥させることにより撥水性膜を形成し、撥水性部材を得た。この撥水性部材における撥水性膜の厚さは、2.3μmであった。
【0046】
実施例5〜10で得られた撥水性部材について、JIS A1452に規定される落砂試験を行い、当該試験前後における水の接触角、及び当該試験後における微小水滴の付着性を評価した。なお、水の接触角及び微小水滴の付着性の評価方法は、上記と同じである。その結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2の結果からわかるように、アルミ基板と撥水性膜との間にフッ素樹脂層を設けた実施例8〜10の撥水性部材では、落砂試験後においても100°を超える高い接触角を有し、微小水滴の付着も少なかった。
これに対して、フッ素樹脂層を設けていない実施例5〜7の撥水性部材では、落砂試験前の接触角は高かったものの、落砂試験後において接触角が低下し、微小水滴の付着も増加した。
これらの結果を受けて、落砂試験後における撥水性部材の撥水性膜を顕微鏡観察したところ、実施例5〜7の撥水性部材の撥水性膜では、アルミ基材の表面が部分的に露出していることが確認された。これに対して実施例8〜10の撥水性部材の撥水性膜では、フッ素樹脂層が部分的に露出しているものの、アルミ基材の表面の露出は確認されなかった。
【0049】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、帯電を防止して微小水滴を除去し得る、撥水性を高めた撥水性膜を形成することにより、防汚性能や大気中水分の捕集性能に優れた撥水性部材及びその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 基材、2 撥水性膜、3 フッ素樹脂、4 カーボンナノ粒子、5 フッ素樹脂層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂中にカーボンナノ粒子を含む撥水性膜が基材表面に形成された撥水性部材であって、
前記フッ素樹脂に対する前記カーボンナノ粒子の質量比は1以上であり、前記カーボンナノ粒子は1次粒子又は1次凝集粒子の平均粒径が100nm以下であり、及び前記カーボンナノ粒子は凝集して導電経路を形成していることを特徴とする撥水性部材。
【請求項2】
前記撥水性膜と前記基材との間にフッ素樹脂層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の撥水性部材。
【請求項3】
前記撥水性膜中の前記カーボンナノ粒子の少なくとも一部は、前記フッ素樹脂層に侵入していることを特徴とする請求項2に記載の撥水性部材。
【請求項4】
1次粒子又は1次凝集粒子の平均粒径が100nm以下のカーボンナノ粒子と、フッ素樹脂とを含むコーティング組成物であって、前記前記フッ素樹脂に対する前記カーボンナノ粒子の質量比が1以上であり、且つ前記1次粒子又は1次凝集粒子の少なくとも一部が2μm以下の平均粒径を有する二次凝集粒子を形成するコーティング組成物を基材表面に塗布して乾燥させることにより撥水性膜を形成することを特徴とする撥水性部材の製造方法。
【請求項5】
前記コーティング組成物は、前記カーボンナノ粒子及び前記フッ素樹脂を混合した後、分散処理を施すことによって調製されることを特徴とする請求項4に記載の撥水性部材の製造方法。
【請求項6】
フッ素樹脂を含むフッ素樹脂溶液を基材表面に塗布して乾燥させることによりフッ素樹脂層を形成した後、前記コーティング組成物を前記フッ素樹脂層の表面に塗布して乾燥させることにより撥水性膜を形成することを特徴とする請求項4又は5に記載の撥水性部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−161322(P2011−161322A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24051(P2010−24051)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】