説明

撥水膜の形成方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、および、インクジェット記録装置

【課題】基板と撥水膜の密着性を向上させることができ、耐磨耗性を向上させることができる撥水膜の形成方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基板10上に、Si−O結合を主として、Siに有機基が直接接合された中間層20を形成する中間層形成工程と、中間層20に励起光を照射し、中間層20表面のOH基を増加させる照射工程と、基板10および中間層20を加熱する加熱工程と、中間層20表面にシランカップリング剤31により有機膜を形成する有機膜形成工程と、を有することを特徴とする撥水膜30の形成方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、および、インクジェット記録装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水膜の形成方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、および、インクジェット記録装置に係り、特に、カップリング材料を用いた撥水膜の形成方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置で用いられるインクジェットヘッドでは、ノズルプレートの表面にインクが付着していると、ノズルから吐出されるインク液滴が影響を受けて、インク液滴の吐出方向にばらつきが生じることがある。インクが付着すると、記録媒体上の所定位置にインク液滴を着弾させることが困難となり、画像品質が劣化する原因となる。
【0003】
そこで、ノズルプレート表面にインクが付着することを防止し吐出性能を向上させるため、また、メンテナンス性能を向上させるため、ノズルプレート表面へ撥水膜を形成する方法が各種提案されている。
【0004】
例えば、下記の特許文献1には、基板上にプラズマ重合膜を成膜した後、アニールし下地膜を形成した後、下地膜の表面上に金属アルコキシドの撥液膜を成膜した部材が記載されている。また、特許文献2には、ノズルプレート表面をレーザー加工した後に、ノズルに付着した残渣物をプラズマ、イオンミリング、逆スパッタにて除去した後、撥水層を形成するインクジェット記録ヘッドの製造方法が記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、SiOの吸着水に関する考察が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4293035号公報
【特許文献2】特開平9−136421号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】平下紀夫ら、「Thermal Desorption and Infrared Studies of Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposited SiO Films with Tetraethyiorthosilicate」Japanese Journal of Applied Physics、Vol.32(1993)pp.1787-1793
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された部材では、撥水膜の下地層としてプラズマ重合膜を使用し、基板のOH基を増やすことで金属アルコキシド撥水材料の密着性を高めている。しかしながら、UV照射、プラズマ照射によりOH基を増やすことで、吸着水が付着しやすくなるため、撥水材料と結合するOH基が少なくなり、逆に密着性が低下するという問題があった。また、特許文献2の方法は、ノズルプレートに付着した有機物を除去するためにプラズマなどにより除去が行なわれており、吸着水を除去することについての検討はされていなかった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、基板と撥水膜の密着性を向上させることができる撥水膜の形成方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、および、インクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記目的を達成するために、基板上に、Si−O結合を主として、Siに有機基が直接接合された中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層に励起光を照射し、前記中間層表面のOH基を増加させる照射工程と、前記基板および中間層を加熱する加熱工程と、前記中間層表面にシランカップリング剤により有機膜を形成する有機膜形成工程と、を有することを特徴とする撥水膜の形成方法を提供する。
【0011】
中間層上に撥水膜を形成する場合、照射工程により中間層表面のOH基を増やすことにより、水素結合水吸着サイトが増加し、吸着水がOH基を覆ってしまうため、中間層上に形成される撥水膜の密着性が低下することが考えられる。本発明によれば、照射工程の後に加熱工程を行っているので、OH基に水素結合した吸着水を除去することができる。したがって、OH基と結合するシランカップリング剤の密着性を向上させることができるので、撥水膜の耐久性を向上させることができる。
【0012】
本発明は、前記加熱工程の後、前記中間層に水蒸気が付着しない環境を維持した状態で、前記有機膜形成工程を行うことが好ましい。
【0013】
本発明によれば、加熱工程の後、中間層上に水蒸気が付着しない環境を維持することで、OH基に水素結合水が吸着することを防止することができる。したがって、有機膜形成工程により形成される撥水膜の密着性を向上させることができる。
【0014】
本発明は、前記加熱工程と、前記有機膜形成工程と、を同一の真空チャンバ内で行うことが好ましい。
【0015】
本発明は、加熱工程と有機膜形成工程とを同一の真空チャンバ内で行なうことで、中間層のOH基に水素結合水が付着することを防止することができる。
【0016】
本発明は、前記シランカップリング剤がフッ素を含有したシランカップリング剤であることが好ましい。
【0017】
シランカップリング剤としてフッ素を含有したシランカップリング剤とすることにより、効果的に撥水性を付与することができる。
【0018】
本発明は、前記加熱工程が、50℃以上350℃以下で行なわれることが好ましい。
【0019】
本発明は、前記加熱工程が、200℃以上350℃以下で行なわれることが好ましい。
【0020】
本発明によれば、加熱工程を50℃以上350℃以下、より好ましくは200℃以上350℃以下で行なうことにより、中間層上に吸着している相互作用のない自由吸着水、および、OH基と相互作用する水素結合水を除去することができ、中間層で結合しているOH基のみ残すことができる。したがって、次の塗布工程において、OH基と金属アルコキシドカップリング材料とが結合しやすくすることができるので、密着性の高い撥水膜を製造することができる。
【0021】
本発明は上記目的を達成するために、上記記載の撥水膜の形成方法により形成された撥水膜を備えるノズルプレートを提供する。
【0022】
本発明は上記目的を達成するために、上記記載のノズルプレートを備えるインクジェットヘッドを提供する。
【0023】
本発明は上記目的を達成するために、上記記載のインクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置を提供する。
【0024】
上記記載の撥水膜の形成方法により形成された撥水膜は、ノズルプレート、インクジェットヘッド、インクジェット記録装置に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の撥水膜の形成方法によれば、吸着水を除去し、中間層上のOH基が自由な状態で撥水膜を形成することができるので、密着性の高い撥水膜を製造することができる。また、メンテナンス時の耐磨耗性を向上させることができるので、ノズルプレート、インクジェットヘッド、インクジェット記録装置として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】撥水膜の形成方法を説明する図である。
【図2】中間層を構成する分子の化学構造の概略図である。
【図3】インクジェット記録装置の概略を示す全体構成図である。
【図4】インクジェットヘッドの構造例を示す平面透視図である。
【図5】図4中IV−IV線に沿う断面図である。
【図6】比較例の結果を示す表図である。
【図7】実施例の結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について説明する。
【0028】
本実施形態に係る撥水膜の形成方法では、基板上にSi−O結合を主として、Siに有機基が直接接合された中間層を形成する中間層形成工程と、中間層に励起光を照射し、中間層表面の有機基をOH基とし、OH基を増加させる照射工程と、照射工程でOH基を高濃度化することで付着しやすくなった自由吸着水および水素結合水を除去する加熱工程と、自由吸着水および水素結合水を除去することでこれらとの結合がなくなったOH基にシランカップリング剤を塗布し、撥水性の有機膜を形成する有機膜形成工程と、を有する。
【0029】
上記の撥水膜の形成方法によれば、OH基を高濃度化することができ、さらに、OH基を高濃度化することにより付着しやすくなった吸着水を除去した後に、撥水性の有機膜を成膜しているので、高濃度のOH基と結合させることができるので、撥水膜の密着性を向上させることができ、耐磨耗性を向上させることができる。
【0030】
以下、各工程について説明する。
【0031】
[中間層形成工程]
図1(a)は、基板10上に中間層20を形成した化学構造の概略図である。
【0032】
中間層を形成する基板10の材質は、シリコン、ガラス、金属、セラミック、高分子フィルムの何れかであることが好ましい。本発明では、シリコン、ガラス、金属、セラミック、高分子フィルムの何れであっても、強固な撥水膜を形成することができる。
【0033】
そして、この基板10上に、Si−O結合を主として、Siに有機基(R)が直接接合した(以下、「Si-R結合」ともいう)薄膜を成膜する。有機基としては、脂肪族基、芳香族基及び複素環基などが挙げられる。例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、2−メチルブチル、1−メチルブチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチル、ビニル、プロペニル、ブテニル、アクリル、メタクリル、オクチニル、ドデセニル、ウンデセニル、シクロヘキセニル、フェニル、トリル、ピレニル、フェナントレニル、ナフチル、ビフェニリル、ターフェニリル、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチルの他、前記した各種複素環由来の複素環基を挙げることができる。製造コストの観点から、構造がより単純な、メチル基やエチル基などを好ましく用いることができる。
【0034】
Si−O結合を主として、Siに有機基が直接接合した薄膜は、モノメチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシランなど、シラン系のガスと酸素の混合ガスを、プラズマ導入し、プラズマCVD法またはcat−CVD法を用いることで形成することができる。cat−CVD法により形成する場合は、触媒としてタングステンワイヤを用いることができる。これにより有機基としてCH基が接合されたSi-O結合を主とした膜を成膜することができる。
【0035】
また、MSQ・有機SOG材料と呼ばれるメチルシロキサン材料、またはこれらの材料と類似構造を有する、Si−CH結合を有し、Si−O結合を主成分とする材料、例えば、日立化成製HSG、ハネウエル社製HOSP・アルバックULKS Ver3などの市販材料を、Si−Oを骨格としSiに有機基(R)が残存する条件で塗布・焼成することで、でポリオルガノシロキサン膜を作製することができる。
【0036】
[照射工程]
中間層形成工程で得られた中間層20に、励起光を照射することで、有機基を外し、Si−R結合をSi−OH化する。
【0037】
処理ガスに対する条件や処理の方法などについては、特開2008−105231号公報明細書に記載されている条件、方法などを好ましく用いることができる。
【0038】
本発明においては、励起光は、紫外線またはプラズマなどのエネルギー線を用いることができる。この方法によれば、エネルギー線が照射領域にのみ酸化処理を施すことができるので、OH基の増加をすることができる。
【0039】
プラズマ照射により行なう場合は、プラズマを発生するガス種として、酸素ガスを含むガスを用いる酸素プラズマ照射を用いるのが好ましい。酸素プラズマ照射によれば、酸素プラズマがアルキル基とSiとの結合を切断し、薄膜上にOH基を導入することができる。
【0040】
照射工程を行なう雰囲気は、減圧状態で行なうことが好ましい。減圧状態で行うことにより、薄膜が大気中に存在する水蒸気を吸着することを防止することができ、後の有機膜形成工程においてシランカップリング剤の密着性を向上させることができる。また、密閉条件(例えば、チャンバ内)で行なうことが好ましい。これにより、薄膜がプラズマ密度のより高い状態で酸化処理されるため、より多くのOH基を薄膜上に導入することができる。また、大気中の水蒸気は薄膜上に吸着水として付着することを防止することができる。
【0041】
[加熱工程]
基板10および中間層20の加熱を行い、中間層20に付着した吸着水の除去を行なう。
【0042】
図2(a)は、照射工程後の中間層20を構成する分子の化学構造の概略図であり、図2(b)は加熱工程後の中間層20を構成する分子の化学構造の概略図である。また、図1(b)が照射工程後、図1(c)が加熱工程後の化学構造の概略図である。図2に示すように、加熱より脱水する場合、3種類の水がある。
【0043】
自由吸着水αは、他の物質と相互作用しない自由吸着水である。通常、水は100℃で蒸発するが、図2は、微小な細孔部を示した図であり、自由吸着水もこの細孔部に入っているので、蒸気圧が上がっており、蒸発させるためには、通常より温度を高くする必要がある。自由吸着水αを脱離(蒸発)させるには、200℃が必要である。
【0044】
水素結合水βは、OH基と相互作用し、OH基と水素結合している吸着水である。したがって、水素結合水βを脱離させるには、200〜350℃が必要である。
【0045】
OH基γは、次の有機膜形成工程で金属アルコキシドカップリング材材料と反応し、撥水膜を形成する。したがって、OH基γは、脱離させずに残しておくことで、より密度の高い、密着性の高い膜を成膜することができる。なお、OH基γを脱離させる場合は、350℃以上の温度が必要である。
【0046】
したがって、加熱工程においては、50℃以上350℃以下の範囲で加熱することが好ましく、より好ましくは200℃以上350℃以下の範囲で加熱することが好ましい。この範囲で加熱することにより、自由吸着水α、水素結合水βの除去を行なうことができ、OH基γを残すことができるので、自由なOH基γを増やすことができる。
【0047】
基板、薄膜の加熱方法は特に限定されず、加熱炉で加熱するなど、通常の方法により加熱することができる。
【0048】
[有機膜工程]
有機膜工程は、加熱工程で得られた中間層20上にシランカップリング剤を蒸着させ有機膜を形成する工程である。図1(d)は、シランカップリング剤と中間層との結合前、図1(e)は結合後の化学構造の概略図である。
【0049】
シランカップリング剤31としては、塩素型、メトキシ型、エトキシ型、イソシアナト型などを用いることが好ましい。中間層20表面に、シランカップリング剤の反応サイトとなる水酸基:OH基を多数形成しているため、塗布工程により、シランカップリング剤が中間層20と高密度に結合し、高密度な撥水膜30を形成することができる。
【0050】
撥水膜30として、例えば、蒸着法などの物理的気相成長法で成膜することができる。蒸着法とは、成膜基板を真空チャンバ内にセットし、真空チャンバ内で成膜したい材料を、気化する条件(すなわち蒸気圧が十分となる条件)で気化し、成膜する方法である。シランカップリング剤の場合は、シランカップリング剤を加熱して気化する事により成膜する方法が一般的である。
【0051】
シランカップリング剤は、YSiX4−n(n=1、2、3)で表されるケイ素化合物である。Yはアルキル基などの比較的不活性な基、または、ビニル基、アミノ基、あるいはエポキシ基などの反応性基を含むものである。Xは、ハロゲン、メトキシ基、エトキシ基、またはアセトキシ基などの基質表面の水酸基あるいは吸着水との縮合により結合可能な基からなる。シランカップリング剤は、ガラス繊維強化プラスチックなどの有機質と無機質からなる複合材料を製造する際に、これらの結合を仲介するものとして幅広く用いられており、Yがアルキル基などの不活性な基の場合は、改質表面上に、付着や摩擦の防止、つや保持、撥水、潤滑などの性質を付与する。また、反応性基を含む場合は、主として接着性の向上に用いられる。
【0052】
さらに、Yに直鎖状のフッ化炭素鎖を導入したフッ素系シランカップリング剤を用いて改質した表面は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)表面のように低表面自由エネルギーを持ち、撥水、潤滑、離型などの性質が向上し、さらに撥油性も発現する。
【0053】
直鎖状のフルオロアルキルシランとして、例えば、Y=CFCHCH,CF(CFCHCH,CF(CFCHCHなどを挙げることができる。
【0054】
また、Yの部分は、パーフルオロエーテル(PFPE)基(−CF−O−CF−)を有する材料を用いることができる。
【0055】
また、シランカップリング剤としては、片側のみでなく、両側にシランカップリング基が結合した材料XSiYSiXを用いることもできる。
【0056】
また、ダイキン工業(株)製オプツール、(株)ハーベス製デュラサーフ、住友3M(株)製ノベックEGC1720、ソルベイソレクシス(株)製フルオロリンクS−10、(株)ティーアンドケイ製ナノス、信越化学工業(株)製サイフェルKY−100・AGC製サイトップMタイプなど、市販のシランカップリング撥水材料を用いることもできる。
【0057】
なお、図1(d)は、シランカップリング剤31が加水分解により、XがOH基に置換されている状態を示す。その後、中間層20上のOH基、または、隣り合うシランカップリング剤31同士で脱水縮合が起こり、図1(e)に示すような構造の膜を形成することができる。
【0058】
また、本発明においては、加熱工程から有機膜形成工程までを、中間層に水蒸気が付着しない環境を維持した状態で行なうことが好ましい。加熱工程により中間層に付着した吸着水を除去した状態を維持し、加熱工程から塗布工程までの間に大気中の水蒸気が中間層に付着することを防止することができるので、より密着性の高い膜を成膜することができる。
【0059】
水蒸気の付着を抑制する方法として、加熱工程の減圧状態を維持したまま有機膜形成工程を行うことにより実施することができる。例えば、同一の装置内で、真空状態をリークすることなく加熱工程から有機膜形成工程を行うことで実施することができる。装置としては、撥水膜蒸着装置内に加熱機構を設け、撥水膜蒸着装置で加熱工程と有機膜形成工程を実施する。加熱装置と蒸着装置を同じ真空チャンバ内に設置し、連続的に加熱工程と有機膜形成工程を行う方法により実施することもできる。
【0060】
また、真空とするのではなく、加熱工程から有機膜形成工程への搬送を、水蒸気を含まないガスの雰囲気下で実施することで、大気中の水蒸気が基板に接することを防止し、水蒸気の吸着を抑制することができる。ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを好ましく用いることができる。また、加熱工程と有機膜形成工程を同じ装置で行なう場合は、工程間を上記水蒸気を含まないガスの雰囲気下におくことで行なうこともできる。
【0061】
<インクジェット記録装置の全体構成>
次に本発明の撥水膜の形成方法により形成された撥水膜を適用した例として、ノズルプレート、ノズルプレートを備えるインクジェットヘッド、および、インクジェット記録装置について説明する。本発明の撥水膜の形成方法は、ノズルプレートの製造方法、インクジェットヘッドの製造方法、インクジェット記録装置の製造方法に対して好ましく用いることができる。
【0062】
図3は、インクジェット記録装置の構成図である。このインクジェット記録装置100は、描画部116の圧胴(描画ドラム170)に保持された記録媒体124(便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成する圧胴直描方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体124上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体124上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0063】
図示のように、インクジェット記録装置100は、主として、給紙部112、処理液付与部114、描画部116、乾燥部118、定着部120、及び排出部122を備えて構成される。
【0064】
(給紙部)
給紙部112は、記録媒体124を処理液付与部114に供給する機構であり、当該給紙部112には、枚葉紙である記録媒体124が積層されている。給紙部112には、給紙トレイ150が設けられ、この給紙トレイ150から記録媒体124が一枚ずつ処理液付与部114に給紙される。
【0065】
(処理液付与部)
処理液付与部114は、記録媒体124の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部116で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0066】
図3に示すように、処理液付与部114は、給紙胴152、処理液ドラム154、及び処理液塗布装置156を備えている。処理液ドラム154は、記録媒体124を保持し、回転搬送させるドラムである。処理液ドラム154は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)155を備え、この保持手段155の爪と処理液ドラム154の周面の間に記録媒体124を挟み込むことによって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0067】
処理液ドラム154の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置156が設けられる。処理液塗布装置156は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム154上の記録媒体124に圧接されて計量後の処理液を記録媒体124に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置156によれば、処理液を計量しながら記録媒体124に塗布することができる。
【0068】
処理液付与部114で処理液が付与された記録媒体124は、処理液ドラム154から中間搬送部126を介して描画部116の描画ドラム170へ受け渡される。
【0069】
(描画部)
描画部116は、描画ドラム(第2の搬送体)170、用紙抑えローラ174、及びインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yを備えている。描画ドラム170は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)171を備える。描画ドラム170に固定された記録媒体124は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yからインクが付与される。
【0070】
インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yはそれぞれ、記録媒体124における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(インクジェットヘッド)とすることが好ましい。インク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yは、記録媒体124の搬送方向(描画ドラム170の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0071】
描画ドラム170上に密着保持された記録媒体124の記録面に向かって各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部114で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体124上での色材流れなどが防止され、記録媒体124の記録面に画像が形成される。
【0072】
描画部116で画像が形成された記録媒体124は、描画ドラム170から中間搬送部128を介して乾燥部118の乾燥ドラム176へ受け渡される。
【0073】
(乾燥部)
乾燥部118は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、図3に示すように、乾燥ドラム176、及び溶媒乾燥装置178を備えている。
【0074】
乾燥ドラム176は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)177を備え、この保持手段177によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0075】
溶媒乾燥装置178は、乾燥ドラム176の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ180と、各ハロゲンヒータ180の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル182とで構成される。
【0076】
乾燥部118で乾燥処理が行われた記録媒体124は、乾燥ドラム176から中間搬送部130を介して定着部120の定着ドラム184へ受け渡される。
【0077】
(定着部)
定着部120は、定着ドラム184、ハロゲンヒータ186、定着ローラ188、及びインラインセンサ190で構成される。定着ドラム184は、処理液ドラム154と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)185を備え、この保持手段185によって記録媒体124の先端を保持できるようになっている。
【0078】
定着ドラム184の回転により、記録媒体124は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ186による予備加熱と、定着ローラ188による定着処理と、インラインセンサ190による検査が行われる。
【0079】
定着部120によれば、乾燥部118で形成された薄層の画像層内の熱可塑性樹脂微粒子が定着ローラ188によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体124に固定定着させることができる。また、定着ドラム184の表面温度を50℃以上に設定することで、定着ドラム184の外周面に保持された記録媒体124を裏面から加熱することによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができるとともに、画像温度の昇温効果によって画像強度を高めることができる。
【0080】
また、インク中にUV硬化性モノマーを含有させた場合は、乾燥部で水分を充分に揮発させた後に、UV照射ランプを備えた定着部で、画像にUVを照射することで、UV硬化性モノマーを硬化重合させ、画像強度を向上させることができる。
【0081】
(排出部)
図3に示すように、定着部120に続いて排出部122が設けられている。排出部122は、排出トレイ192を備えており、この排出トレイ192と定着部120の定着ドラム184との間に、これらに対接するように渡し胴194、搬送ベルト196、張架ローラ198が設けられている。記録媒体124は、渡し胴194により搬送ベルト196に送られ、排出トレイ192に排出される。
【0082】
また、図には示されていないが、本例のインクジェット記録装置100には、上記構成の他、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部114に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド172M,172K,172C,172Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体124の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0083】
なお、図3においてはドラム搬送方式のインクジェット記録装置について説明したが、本発明はこれに限定されず、ベルト搬送方式のインクジェット記録装置などにおいても用いることができる。
【0084】
〔インクジェットヘッドの構造〕
次に、インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yの構造について説明する。なお、各インクジェットヘッド172M、172K、172C、172Yの構造は共通しているので、以下では、これらを代表して符号250によってヘッドを示すものとする。
【0085】
図4(a)は、インクジェットヘッド250の構造例を示す平面透視図であり、図4(b)は、インクジェットヘッド250の他の構造例を示す平面透視図である。図5は、インク室ユニットの立体的構成を示す断面図(図4(a)中、IV−IV線に沿う断面図)である。
【0086】
記録紙面上に形成されるドットピッチを高密度化するためには、インクジェットヘッド250におけるノズルピッチを高密度化する必要がある。本例のインクジェットヘッド250は、図4(a)に示すように、インク滴の吐出孔であるノズル251と、各ノズル251に対応する圧力室252などからなる複数のインク室ユニット253を千鳥でマトリクス状に(2次元的に)配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙搬送方向と直交する主走査方向)に沿って並ぶように投影される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0087】
紙搬送方向と略直交する方向に記録媒体124の全幅に対応する長さにわたり1列以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図4(a)の構成に代えて、図4(b)に示すように、複数のノズル251が2次元に配列された短尺のヘッドブロック(ヘッドチップ)250’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体124の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成してもよい。また、図示は省略するが、短尺のヘッドを一列に並べてラインヘッドを構成してもよい。
【0088】
図5に示すように、各ノズル251は、インクジェットヘッド250のインク吐出面250aを構成するノズルプレート260に形成されている。ノズルプレート260は、例えば、Si、SiO2、SiN、石英ガラスのようなシリコン系材料、Al、Fe、Ni、Cuまたはこれらを含む合金のような金属系材料、アルミナ、酸化鉄のような酸化物材料、カーボンブラック、グラファイトのような炭素系材料、ポリイミドのような樹脂系材料で構成されている。
【0089】
ノズルプレート260の表面(インク吐出側の面)には、インクに対して撥液性を有する撥水膜262が形成されており、インクの付着防止が図られている。
【0090】
各ノズル251に対応して設けられている圧力室252は、その平面形状が概略正方形となっており、対角線上の両隅部にノズル251と供給口254が設けられている。各圧力室252は供給口254を介して共通流路255と連通されている。共通流路255はインク供給源たるインク供給タンク(不図示)と連通しており、該インク供給タンクから供給されるインクは共通流路255を介して各圧力室252に分配供給される。
【0091】
圧力室252の天面を構成し共通電極と兼用される振動板256には個別電極257を備えた圧電素子258が接合されており、個別電極257に駆動電圧を印加することによって圧電素子258が変形してノズル251からインクが吐出される。インクが吐出されると、共通流路255から供給口254を通って新しいインクが圧力室252に供給される。
【0092】
なお、ノズルの配置構造は図示の例に限定されず、副走査方向に1列のノズル列を有する配置構造など、様々なノズル配置構造を適用できる。
【0093】
また、ライン型ヘッドによる印字方式に限定されず、用紙の幅方向(主走査方向)の長さに満たない短尺のヘッドを用紙の幅方向に走査させて当該幅方向の印字を行い、1回の幅方向の印字が終わると用紙を幅方向と直交する方向(副走査方向)に所定量だけ移動させて、次の印字領域の用紙の幅方向の印字を行い、この動作を繰り返して用紙の印字領域の全面にわたって印字を行うシリアル方式を適用してもよい。
【0094】
[実施例]
厚さ625μmのシリコン基板の上に、以下の方法でSi−O結合主として、Siに有機基が直接接合された膜を成膜した。成膜は、cat−CVD法により行い、モノメチルシラン(CHSiH)と酸素の混合ガスをチャンバ内に導入し成膜した、触媒にはタングステンワイヤを用い、温度を1400℃とした。
【0095】
成膜後、セン特殊光源株式会社製PM1102−3低圧水銀ランプ(17mW/cm)を、所定時間照射した。その後、所定のアニール(加熱処理)を行なった後、ダイキン社オプツールDSXを蒸着して撥水膜を成膜した。照射条件、アニール条件、結果を図6、7に示す。
【0096】
耐磨耗性試験は、次の方法により評価を行った。マイクロファイバークロスをゴムローラに巻きつけ、サンプル表面とクロスの圧力が45kPaとなるようにセットした。その上で、マイクロファイバに、黒インク3wt%を純水に薄めた液に浸漬させ、クロス単独の擦り試験よりも加速の条件になるようにした。ローラを回転させてサンプル表面を劣化させ、所定回数ごと、水で静的接触角を測定することを繰り返した。いずれのサンプルも試験前は、接触角110〜120°と良好な接触角であり、それらが70°となったところを、耐磨耗点とした。70°が回転数と合致しなかった場合は、70°前後の回転回数で比例計算して、70°での磨耗点を求めた。例えば、2000回転で接触角80°、3000回転で接触角60°の場合は、2500回転を耐磨耗点とした。
【0097】
また、OH基γの量、水素結合水βの量に相当する脱水量は、所定の1cm角の試料を、電子科学株式会社製、昇温脱離ガス分析装置(TDS−MS)を用いて、水素結合水β(200〜350℃)、OH基γ(350℃以上)の脱水量を計測した。なお、OH基の量、結合水の量の測定は、別途サンプルを作製し、撥水膜蒸着装置の内部加熱機構を用いた実施例3においては、TDS−MS装置内部にて同様の加熱を行い、真空状態を維持したまま一度冷却し、再度TDS−MS測定を行うことで評価を行った。外部加熱炉を用いた実施例1、2は、TDS−MS装置で加熱した後、いったん大気開放し、所定時間放置した後、再度TDS−MS装置にセットすることで、同等の環境を作り、評価を行った。また、TDS−MSでは、蒸発した水分量を測定しているので、加熱により、2≡Si−OH → −Si−O−Si− + HO↑となるため、実際のOH基の量は、図中の2倍となる。
【0098】
図6は、アニール処理を行わなかった例である。UV照射によりOH量の増加が確認でき、比較例2までは、耐磨耗性も向上していた。しかしながら、比較例3、比較例4とOH量は増加しているが、耐磨耗性は悪化していた。OH基が増加することにより、付着する吸着水の量が増加し、金属アルコキシドカップリング材料と中間層との密着性が悪くなったからであると考えられる。
【0099】
図7は、UV照射により中間層上にOH基を増加させた後、アニール処理を行った例である。アニール処理は、撥水膜蒸着装置とは別の加熱炉を用いた例と撥水膜蒸着装置内部の加熱機構を用いた例の2種類で行なった。図中、それぞれ、「外部加熱炉」、「内部加熱機構」で記載する。また、外部加熱炉を用いた例では、外部加熱炉で脱水した後、撥水膜蒸着装置に極力素早く(5分程度)基板をセットしたサンプルと、30分程度放置した後、撥水膜蒸着装置にセットしたサンプルを製造した。
【0100】
図7より、外部加熱炉で加熱し、吸着水が付着しない程度に素早く行なった実施例1においては、比較例3と比較し、OH量の低下を見られるが、水素結合水の量も低下しており、耐磨耗性も向上していた。また、30分放置した後に測定した実施例2においても、実施例1よりは、水素結合水の付着は見られるが、耐磨耗性は比較例より向上していた。
【0101】
撥水膜蒸着装置の内部加熱機構を用い、アニール処理後においても、大気と接触させない実施例3においては、水素結合水が減少し、除去されているため、撥水材料の耐摩耗性を向上させることができた。
【符号の説明】
【0102】
10…基板、20…中間層、30、262…撥水膜、31…シランカップリング剤、100…インクジェット記録装置、112…給紙部、114…処理液付与部、116…描画部、118…乾燥部、120…定着部、122…排出部、124…記録媒体、154…処理液ドラム、156…処理液塗布装置、170…描画ドラム、172M、172K、172C、172Y…インクジェットヘッド、176…乾燥ドラム、180…温風噴出しノズル、182…IRヒータ、184…定着ドラム、186…ハロゲンヒータ、188…定着ローラ、192…排出トレイ、196…搬送ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、Si−O結合を主として、Siに有機基が直接接合された中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層に励起光を照射し、前記中間層表面のOH基を増加させる照射工程と、
前記基板および中間層を加熱する加熱工程と、
前記中間層表面にシランカップリング剤により有機膜を形成する有機膜形成工程と、を有することを特徴とする撥水膜の形成方法。
【請求項2】
前記加熱工程の後、前記中間層に水蒸気が付着しない環境を維持した状態で、前記有機膜形成工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の撥水膜の形成方法。
【請求項3】
前記加熱工程と、前記有機膜形成工程と、を同一の真空チャンバ内で行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の撥水膜の形成方法。
【請求項4】
前記シランカップリング剤がフッ素を含有したシランカップリング剤であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の撥水膜の形成方法。
【請求項5】
前記加熱工程が、50℃以上350℃以下で行なわれることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の撥水膜の形成方法。
【請求項6】
前記加熱工程が、200℃以上350℃以下で行なわれることを特徴とする請求項5に記載の撥水膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の撥水膜の形成方法により形成された撥水膜を備えるノズルプレート。
【請求項8】
請求項7に記載のノズルプレートを備えるインクジェットヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載のインクジェットヘッドを備えるインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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