説明

撥油性コーティング物品およびその製造方法

【課題】高い撥水性・撥油性と高い転落角とを有する物品表面を提供すること
【解決手段】平滑表面に、粒径100nm以上の微粒子から形成される一次凹凸と粒径7〜90nmの微粒子から形成される2次凹凸とを有し、さらに撥油剤がコーティングされてなることを特徴とする、22.6mN/m以下の低表面張力液体に対する接触角が150°以上の超撥油特性を有することを特徴とする超撥油性コーティング物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に高い撥油性を持たせたコーティング物品、および該コーティング物品の製造方法に関する。より詳細には、プラスチックス、ガラス、セラミックス、金属などの平滑表面に対して、22.6mN/m以下の低表面張力液体の接触角が150°以上という超撥油特性を付与したコーティング物品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、プラスチックス、紙、繊維製品、金属などの固体表面に対して撥水性を付与することは多く行なわれているが、撥油性の付与はあまり行なわれていない。
しかし、これらの固体表面に、油汚れなどに対してより高い防汚効果を求める場合には、水のみでなく、油を代表とする低表面張力物質に対しても高い接触角と低い転落角とを有することが望まれる。つまり、撥水性と撥油性との両方を兼ね備えたコーティング膜の形成が求められ、さらに、高い撥水性・撥油性、すなわち超撥水性と超撥油性を兼ね備えたコーティング膜が望まれている。
【0003】
特許文献1には、建築材料用のコーティング組成物で、撥水性と撥油性とを同時に付与しようとする組成物が記載されている。具体的には、加水分解性パーフルオロアルキルシラン、ポリオルガノシロキサン、及び加水分解反応を促進する触媒成分を含む組成物であるが、その撥水性接触角は100〜110度程度、撥油性接触角が90〜100度程度にしか過ぎないので、さらに高い接触角が要求される。
また、特許文献2では、油の接触角が150度を超える超撥油状態を作製するための方法として、表面粗さを600nm以上に調整し、フルオロアルキルシランなどの表面エネルギーを低下させる材料で撥油層を形成する方法が開示されている。具体的には、ベーマイトのエマルジョンを準備し、ガラス表面にスピンコートし焼成するサイクルを12回繰り返した後、パーフルオロアルキルシランをCVD処理する方法が開示されているが、この方法では、工程数も多く複雑である。そして、特許文献2には、オレイン酸(表面張力32mN/m)に対する接触角が150°の表面が得られたことの記載はあるが、オレイン酸より低い表面張力を有する液体に対する超撥油特性は得られていない。
【0004】
さらに、特許文献3記載の発明では、皮膜表面における二乗平均粗さ(RMS)値を5〜60nmの範囲にすることにより、水に対する接触角が140度以上、ドデカンに対する接触角が100度以上である撥水撥油性皮膜を得たというが、実際得られている皮膜は、最高で水に対する接触角が149度/148度(前進接触角/後退接触角)、ドデカンに対する接触角が117度/104度(前進接触角/後退接触角)というものであり、水に対する接触角が150度以上であって且つ油に対する接触角が130度以上という超撥水且つ高撥油性の皮膜は得られていない。しかも、特許文献4には、得られた皮膜の転落角は記載されておらず、本発明者らの追試によると、90度にしても水滴は転落しなかった。
また、特許文献4には、撥水性および撥油性を有する物品であって、撥水性および撥油性を有する層は、下層が疎水性を有するポリマーからなる凹凸構造を有する撥水性層であり、上層がフッ素含有シランカップリング剤からなる撥油性層であるものが記載されている。この表面は、撥水性が水に対する接触角が150度以上、撥油性がサラダ油に対する接触角が100度以上であるというが、下層の凹凸構造を有するポリマー層を形成するために電解酸化(還元)重合を行い、その上に撥油性層を設けるという複雑な工程を必要としている。
【0005】
さらにまた、特許文献5には、表面が500〜10ミクロンの凸凹と10ナノメートル〜10ミクロンの凸凹に複合加工されており、それぞれの凸凹の表面が撥水撥油防汚性薄膜で被われていることを特徴とする着氷着雪防止アンテナ及び電線、碍子が記載されているが、そこで得られている接触角は水に対して150°以上であるものの、シリコーンオイルに対しては120°程度である。
また、特許文献6には、ミクロンスケールの粒径およびナノスケールの表面粗さを有するナノ/ミクロン二元構造の球状粉体を含む超疎水性のセルフクリーニング粉体であって、前記二元構造の球状粉体の平均粒径が1〜25μm、表面粗さRaが3〜100nmであり、かつ、前記二元構造の球状粉体が酸化ケイ素、金属酸化物またはこれらの組み合わせを含む材料からなる超疎水性のセルフクリーニング粉体が記載されている。しかし、該セルフクリーニング粉体を表面に塗布した物品について、水に対する接触角が140°程度であることが記載されているだけである。
またさらに、非特許文献1においては、特定撥油剤の有機溶媒を浸漬することにより、羽毛や繊維表面を撥油処理する方法で、オクタン(表面張力21.8mN/m)に対して140°、メタノール(表面張力22.7mN/m)に対して148°の表面が得られたことが記載されている。しかし、この文献に記載されているのは、元々凹凸を有する羽毛や繊維表面に対する撥油処理であり、20.0mN/m以下のようなより低表面張力を有する液体に対して150°以上のような超撥油特性が得られているものではない。
【0006】
このような従来技術の中で、本発明者等は、既に、簡便な方法で、より高い撥水性と撥油性とを同時に有し、且つ転落角の低い表面を得る方法を特許出願した(特許文献7)。この方法においては、エチレングリコール(表面張力47.7mN/m)や菜種油(表面張力35〜37mN/m)に対して150°以上の接触角が得られているが、20.0mN/m以下のようなより低表面張力を有する液体に対して150°以上の超撥油特性を得るには充分でなかった。
このような状況の中で、22.6mN/m以下のような低表面張力液体の接触角が150°以上という超撥液特性を付与したコーティング物品およびその製造方法、特に、プラスチックス、ガラス、セラミックス、金属などのような平滑表面に対して、そのような超撥油特性が付与された物品やその製造方法の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−283663号公報
【特許文献2】特開2006−257336号公報
【特許文献3】特開2005−162795号公報
【特許文献4】特開2007−196383号公報
【特許文献5】特開2008−282750号公報
【特許文献6】特開2009−29690号公報
【特許文献7】特願2008−261484号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Adv.Mater.2009,21,2190-2195
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記の従来技術の問題点を解決することであって、高い撥水性と高い撥油性を同時に有する物品表面を提供することにある。より具体的には、22.6mN/m以下のような低表面張力液体の接触角が150°以上という超撥液特性を付与したコーティング物品およびその製造方法、特に、プラスチックス、ガラス、セラミックス、金属などに対して、そのような超撥油特性が付与された物品やその製造方法を提供することにある。さらに、衣類などの繊維製品に対して、クリーニング工程において、高い撥水性と撥油性とを付与できるような、コーティングを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、より高い撥水性・撥油性を有するコーティング物品を提供するため、鋭意検討した結果、被コーティング物品表面に、粒径100nm以上の微粒子で一次凹凸を形成し、さらに、粒径7〜90nmの微粒子から2次凹凸を形成し、さらに撥油剤をコーティングさせることによって、所望のコーティング物品が得られることを見出した。
このようなコーティングによれば、超撥油性が得られにくいプラスチックス、ガラス、セラミックス、金属などのような平滑表面に対してでも、22.6mN/m以下のような低表面張力液体の接触角が150°以上という超撥油特性が得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
(1)22.6mN/m以下の低表面張力液体に対する接触角が150°以上の超撥油特性を有することを特徴とする超撥油性コーティング物品。
(2)転落角が60°以下である上記(1)記載の超撥油性コーティング物品。
(3)平滑表面に、粒径100nm以上の微粒子から形成される一次凹凸と粒径7〜90nmの微粒子から形成される2次凹凸とを有し、さらに撥油剤がコーティングされてなることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の超撥油性コーティング物品。
(4)撥油剤がパーフロロ基をもつ炭素数6個以下の有機物である上記(3)に記載の超撥油性コーティング物品。
(5)(1)ゾルゲル法により粒径100nm以上の微粒子を製造し、(i)該微粒子を分散した分散液に被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)該微粒子を分散した分散液を被コーティング物品にスプレーして乾燥する第一工程、
(2)次いで、(i)粒径7〜90nmの微粒子と撥油剤とを含む分散液に該被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)粒径7〜90nmの微粒子と撥油剤とを含む分散液を該被コーティング物品にスプレーして乾燥する第二工程、
を含むことを特徴とする撥油性コーティング物品の製造方法。
(6)(1)ゾルゲル法により粒径100nm以上の微粒子を製造し、(i)該微粒子を分散した分散液に被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)該微粒子を分散した分散液を被コーティング物品にスプレーして乾燥する第一工程、
(2)次いで、(i)粒径7〜90nmの微粒子を分散した分散液に該被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)粒径7〜90nmの微粒子を分散した分散液を該被コーティング物品にスプレーして乾燥する第二工程、
(3)撥油剤溶液に該被コーティング物品を浸漬する第三工程、
を含むことを特徴とする撥油性コーティング物品の製造方法。
(7)上記(4)または(5)に記載の撥油性コーティング物品の製造方法において、第一工程及び/または第二工程のスプレーをスプレー距離10〜20cm、噴霧圧0.4〜0.8MPaで行うことを特徴とする撥油性コーティング物品の製造方法。
(8)撥油剤がパーフロロ基をもつ炭素数6個以下の有機物である上記(5)〜(7)のいずれかに記載の超撥油コーティング物品の製造方法。
(9)少なくとも、粒径100nm以上の微粒子を分散した分散液と、粒径7〜90nmの微粒子を分散した分散液とを含む上記(5)〜(8)のいずれかに記載の撥油性コーティング物品を製造するために使用するコーティング剤キット。

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、22.6mN/m以下のような低表面張力液体に対しても、接触角が高い超撥水・撥油性コーティング物品が簡便に得られた。
また、本発明によれば、得られる超撥水・撥油性コーティング物品は、60°以下という低い転落角も有する。
さらに、本発明のコーティング物品の製造方法は、コーティング組成物に物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいはスプレーして乾燥という、特殊な装置を必要としない簡単な方法で、物品に撥水性と撥油性とを同時に付与できるという利点を有する。
さらにまた、本発明のコーティング物品の製造方法は、衣類などの繊維製品に対して、クリーニング工程において適用できるという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ストーバー法による微粒子の製造方法の一例を示す。
【図2】浸漬法によるコーティング法の一例を示す。
【図3】浸漬法によるコーティング法の別の一例を示す。
【図4】スプレー法によるコーティング法の一例を示す。
【図5】ストーバー法により製造された微粒子のSEM写真。
【図6】浸漬法により作製されたコーティング物品の接触角と転落角を示す。
【図7】浸漬法により作製されたコーティング物品のSEM写真。
【図8】スプレー法により作製されたコーティング物品のSEM写真(断面)
【図9】スプレー法により作製されたコーティング物品のSEM写真(平面)
【図10】スプレー法により作製されたコーティング物品のSEM写真(平面;スプレー距離の比較)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
本発明は、固体物品の表面を撥水・撥油処理するのに用いられる。固体物品は、金属、セラミック、ガラス、プラスチックなどの硬い素材でも、紙、繊維などの柔らかい素材でもいずれでも適用できるが、プラスチックス、ガラス、セラミックス、金属などの表面が平滑な物品に対して適用するのが有用である。
【0015】
本発明は、液体の表面張力が22.6mN/m以下のような低表面張力液体に対して超撥油特性を有することを特徴とするものである。背景技術の項で説明したとおり、このような低表面張力を有する液体に対して、150°を超えるような超撥油性表面は、従来得られていなかった。
表1に、代表的な液体の表面張力を示す。
本発明は、エタノール、オクタン、ヘプタンのような表面張力が22.6mN/m以下の低表面張力液体に対しても150°を超えるような超撥油性表面を提供するものである。
【0016】
【表1】

本発明のコーティング物品を得るために、第一工程として、ゾルゲル法により粒径100nm以上の微粒子を作製し、(i)該微粒子を分散した分散液に被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)該微粒子を分散した分散液を被コーティング物品にスプレーして乾燥する工程を含む。
【0017】
ゾルゲル法により粒径100nm以上の微粒子を製造するためには、ストーバー法が好ましい(Colloid Interface Sci.1968,26,62-69 ; Langmuir,2009,25(4),2456-2460)。
ストーバー法による微粒子製造のための、好ましい原料は、オルトケイ酸テトラアルキルであり、特に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)が好ましい。
オルトケイ酸テトラアルキルをオルトケイ酸テトラアルキルの加水分解用触媒とともに溶媒に溶解し、攪拌後、遠心分離することによって、粒径100nm以上の微粒子を得る。微粒子の粒径は、100nm以上であれば良いが、300〜600nmが好ましく、500nm程度が最も好ましい。
好ましい触媒は、アンモニア、水酸化ナトリウムであり、特にアンモニアが好ましい。
溶媒はアルコールが好ましく、特に、メタノール、エタノール、プロピルアルコールが好ましい。
ストーバー法による微粒子製造工程の一例を図1に示した。
【0018】
(i)該微粒子を分散した分散液に被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)該微粒子を分散した分散液を被コーティング物品にスプレーして乾燥する工程によって、被コーティング物品表面に一次凹凸を形成する。この工程の概略は次のとおりである。
粒径100nm以上の微粒子と、接着剤(架橋剤)としてのオルトケイ酸テトラアルキル、水、pH調整剤もしくは加水分解触媒としての塩酸を混合・攪拌して分散液を作製し、該分散液を被コーティング物品表面に浸漬、あるいはスプレーによって付着させる。接着剤(架橋剤)としてのオルトケイ酸テトラアルキルは、TEOSが好ましい。攪拌時間はいずれでもよいが、10分〜2時間が好ましい。
浸漬、引き上げ、乾燥は、室温で行い、この工程は1回でもよいが、複数回繰り返すのが好ましい。浸漬速度は、0.2〜20mm/secが好ましく、10mm/secが最も好ましい。引き上げ速度は、0.2〜20mm/secが好ましく、0.3mm/secが最も好ましい。引き上げ速度が遅いと、コーティングが付着しにくく、引き上げ速度が速いと均一に付着しない。
スプレーは、該分散液を室温で、ノズルと物品間の距離(スプレー距離)5〜30cm程度で行うが、距離は10〜20cm程度が好ましい。距離が短すぎると、膜厚は厚くできるが乾燥しにくいために適切な凹凸が形成できない。距離が長すぎると、微粒子の付着密度及び膜厚が低くなり適切な凹凸が形成できない。
また、スプレーの噴霧圧は0.4〜0.8MPa程度が好ましく、0.4MPaが最も好ましい。噴霧圧が高すぎると分散液が基材から跳ね返り、付着量が減少してしまうという欠点がある。また、噴霧される分散液と跳ね返る分散液とがぶつかりあって適切な凹凸構造が基材表面に形成し難いという欠点もある。一方、噴霧圧が低すぎると基材への付着力が弱く、また分散液のミスト径も大きい為、液滴が基材に付着してから乾燥までに時間がかかるために適切な凹凸構造が形成できない。
この工程の好ましい一例を図2〜4に示す。
【0019】
次いで、(i)粒径7〜90nmの微粒子と撥油剤とを含む分散液に該被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)粒径7〜90nmの微粒子と撥油剤とを含む分散液を該被コーティング物品にスプレーして乾燥する第二工程によって、被コーティング物品表面に二次凹凸を形成する(請求項4の方法)。撥油剤は分散液に添加せず、第三工程として別個に適用しても良い(請求項5の方法)。
この工程の概略は次のとおりである。
粒径7〜90nmの微粒子として、市販のシリカ微粒子を用いることが出来る。例えば、日本アエロジル株式会社製、アエロジル200、300、380、90G、OX50、R 972、972V、R972CF、R974、R812、R805、RX200、RX300、RY200などが挙げられる。中でもOX50が好ましく、この粒径は40nmである。
粒径7〜90nmの微粒子と撥油剤とを含む分散液は、粒径7〜90nmのシリカ微粒子、接着剤(架橋剤)としてのオルトケイ酸テトラアルキル、水、pH調整剤もしくは加水分解触媒としての塩酸を混合して分散液を作製し、該分散液を被コーティング物品表面に浸漬、あるいはスプレーによって付着させ二次凹凸を形成する。
この第二工程の好ましい詳細(原料、浸漬、スプレー法など)は、第一工程と同じである。
この工程の一例も図2,3に示した。
【0020】
用いる撥油剤は、パーフルオロアルキルシラン(FAS)が好ましい。パーフルオロアルキルシランは、アルキルシランのアルキル基のいくつかがフッ化炭素基(パーフルオロ基)に置換されたものであり、例えば、CF3(CH2)2Si(OCH33、CF3(CF25(CH22Si(OCH33、CF3(CF27(CH22Si(OCH33、CF3(CF27(CH22SiCH3(OCH32、CF3(CF23(CH22Si(OCH33、CF3(CF27(CH22SiCl3が挙げられるが、その中でも、C8のへプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、C6のトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、あるいはC4のノナフルオロヘキシルトリメトキシシランが好ましく、安全面と撥油特性からすればC6のトリデカフルオロオクチルトリメトキシシランがより好ましい。
【0021】
撥油剤は分散液に添加せず、第三工程として別個に適用しても良い(請求項5の方法)。
このときの撥油剤は、トルエンなどの揮発性溶媒に溶解させて、被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥することによって表面にコーティングすることができる。
この工程の一例は図4に示した。
また、衣類などの繊維製品に対して、撥油性と撥水性とを付与するとき、第一工程をスプレー法で行っても浸漬法で行っても良い。第二工程は、衣類を微粒子と撥油剤とを含む分散液に浸漬した後、衣類乾燥機により乾燥することで、通常のクリーニング工程に組み込んで実施できる。
【0022】
以下には、本発明の実施例を詳述するが、本発明はこれに限られるものではない。
実施例において、接触角および転落角は、接触角計(協和界面科学製: CA-DT)で測定した。測定は、接触角計に10μlの水または液体を滴下して行なった。
【実施例1】
【0023】
<ストーバー法による粒径100nm以上の微粒子の製造>
TEOS:3.75ml、メタノール:15.625ml、2-プロパノール:46.875ml、アンモニア:13.125mlを混合して6時間攪拌、その後遠心分離によって沈殿を分離し、アセトン洗浄を2回行うことによって、シリカ微粒子1.4〜1.2gを得た(図1参照)。
得られたシリカ微粒子のSEM写真を図5に示した。図5から分かるように、実施例1によって粒径約500nmの微粒子が製造されている。
【実施例2】
【0024】
<浸漬法によるコーティング物品の製造>
分散液の製造
実施例1によって得られたシリカ微粒子1.4〜1.2gを36.74gのアセトンに溶解し、30分攪拌した。TEOS0.8gを添加し、さらに10分攪拌、HCl水溶液(1M)0.1g、水0.736gを添加して10分攪拌した。
浸漬、引き上げ、乾燥による一次凹凸の形成(第一工程)
こうして製造した粒径約500nmの微粒子を含む分散液を用いて、ガラス基板を室温で浸漬処理した。
浸漬処理は、浸漬速度1cm/sec、引き上げ速度0.3mm/sec、室温での乾燥の工程を4回繰り返した。最後に130℃で12時間乾燥した。
浸漬、引き上げ、乾燥による二次凹凸の形成(第二工程)
市販のシリカ微粒子(OX50:粒径40nm)1.2gをアセトン36.74gに分散して30分攪拌、TEOS0.8gとC8のFASであるへプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン0.45gを添加し10分攪拌、HCl水溶液(1M)0.1g、水0.736gを添加して10分攪拌した。このように製造した粒径40nmのシリカ微粒子(OX50)と撥油剤を含有する分散液を用いて、上記の一次凹凸形成されたガラス基板を室温で浸漬処理した。
浸漬処理は、浸漬速度1cm/sec、引き上げ速度0.3mm/sec、室温での乾燥の工程を2〜4回繰り返した。最後に130℃で12時間乾燥した。
これらの製造工程については、図2に示されている。
コーティング物品の特性
上記で得られたコーティング物品の特性(接触角と転落角)を表2及び図6に示す。
表2及び図6には、対照例として、第一工程の一次凹凸形成後にへプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン溶液を浸漬して乾燥した物品(St4/FAS)の特性も示した。なお、表2及び図6には、第一工程の一次凹凸形成後に、上記の第二工程の分散液にへプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを添加せず第二工程を行い、第三工程としてへプタデカフルオロデシルトリメトキシシランのトルエン溶液を浸漬して乾燥して製造した物品(St4/ OX4/ FAS)の特性も示した(請求項5の方法;図3参照)。なお、表2において×は表面に滴下した液体が転がってしまい、転落角が測定できないことを示す。また、表2において、St4/(OX+FAS)nは、第一工程でストーバー法により製造した粒子分散液による浸漬処理を4回繰り返し、第二工程でシリカ微粒子とFASを含む分散液による浸漬処理をn回繰り返し、乾燥して製造した物品であることを示す。
【0025】
【表2】

この結果から、一次凹凸及び二次凹凸を浸漬法により形成する方法によりコーティング物品を製造すれば、水及びオレイン酸に対する接触角が150°以上であり転落角も60°以下の優れた撥液性を有するコーティング物品が得られることが分かった。
また、図7には、上記の第二工程の浸漬処理を3回繰り返す場合(St4/(OX+FAS)3)のSEM写真を示した。一次凹凸と二次凹凸が形成されていることが分かる。
【実施例3】
【0026】
<スプレー法によるコーティング物品の製造>
分散液の製造
実施例2と同様にして、粒径約500nmの微粒子を含む分散液を製造した。
スプレー、乾燥による一次凹凸の形成(第一工程)
こうして製造した粒径約500nmの微粒子を含む分散液を用いて、ガラス基板にスプレーし、室温で乾燥した。スプレー圧は0.8MPaにした。
スプレーノズルと基板間の距離は、15〜35cmの間で変動させた。
スプレー、乾燥による二次凹凸の形成(第二工程)
実施例2と同様にして製造した粒径40nmのシリカ微粒子(OX50)と撥油剤を含有する分散液を用いて、上記の一次凹凸形成されたガラス基板にスプレーし、室温で乾燥してコーティング物品を製造した。撥油剤は、C8のへプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、C6のトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、あるいはC4のノナフルオロヘキシルトリメトキシシランを用いた。
スプレー圧は0.8MPaで、スプレーノズルと基板間の距離は、15〜35cmの間で変動させた。なお、第一工程と第二工程のスプレー距離は同じにした。
これらの製造工程については、図4に示した。
コーティング物品の特性
上記で得られたコーティング物品の特性(接触角と転落角)を表3に示す。
表3には、コーティング条件(用いる撥油剤の種類、スプレーノズルと基板間の距離)を変動させ、デカン、エタノール、オクタン、及びヘプタンの接触角と転落角(括弧内)の結果を示した。表3において、(×)は、表面に滴下した液体が転がってしまい、転落角が測定できないことを示す。
【0027】
【表3】

表3の結果から、一次凹凸及び二次凹凸をスプレー法により形成する方法によりコーティング物品を製造すれば、ヘプタン(表面張力20.0mN/m)に対しても、接触角が150°以上という超撥油性表面が得られることが分かる。
また、図8には、表3のC8/0.8MPa/20cmのサンプル、すなわち、C8のへプタデカフルオロデシルトリメトキシシランを撥油剤として用い、スプレーノズルと基板間の距離を20cmとして得られたコーティング物品の断面SEM、図9には平面SEM写真を示した。これらから、コーティング物品表面には、カリフラワーあるいはブロッコリー状の凹凸が形成されていることが分かる。
さらに、C8/0.8MPa/20cmのサンプルについて、水に対する接触角、メタノールに対する接触角と転落角とを測定したところ、次の結果が得られた。
水の接触角 160°
メタノールの接触角 160° 転落角15°
【実施例4】
【0028】
<コーティング条件>
より高い撥水性と撥油性を得るためのスプレー条件を知るために、スプレー距離(ノズルと被コーティング物品間の距離)、及び噴霧圧を変動させて、コーティングを行った。
この試験では、撥油剤として、炭素数8のフルオロアルキルシランより安全性が高い炭素数6のフルオロアルキルシラン(トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン)を用いた。
その他のコーティング物品の製造条件は実施例3に準じて行った。
結果を表4に示した。
【表4】

表4の結果から、スプレー距離10〜20cm、噴霧圧0.4MPaで、撥油・撥水特性の最適なコーティングが得られることが分かった。
スプレー距離を変動させて得たコーティング物品の表面のSEM写真を図10に示した。この写真からスプレー距離15cmの場合、カリフラワーあるいはブロッコリー状の表面が得られていることが分かる。
【実施例5】
【0029】
実施例2に記載した一次凹凸形成用の粒径約500nmの微粒子を含む分散液に綿製の白衣を3時間浸漬し、室温で乾燥し、その後実施例2に記載した二次凹凸形成用の粒径40nmのシリカ微粒子と撥油剤を含有する分散液に3時間浸漬させた。その後、回転式衣類乾燥機の中で80℃にて40分間乾燥させた。その結果白衣には表面に均一に超撥水・超撥油表面が形成された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、接触角が高く転落角の低い撥水・撥油性コーティング物品が簡便に得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
22.6mN/m以下の低表面張力液体に対する接触角が150°以上の超撥油特性を有することを特徴とする超撥油性コーティング物品。
【請求項2】
転落角が60°以下である請求項1記載の超撥油性コーティング物品。
【請求項3】
平滑表面に、粒径100nm以上の微粒子から形成される一次凹凸と粒径7〜90nmの微粒子から形成される2次凹凸とを有し、さらに撥油剤がコーティングされてなることを特徴とする請求項1または2に記載の超撥油性コーティング物品。
【請求項4】
撥油剤がパーフロロ基をもつ炭素数6個以下の有機物である請求項3に記載の超撥油性コーティング物品。
【請求項5】
(1)ゾルゲル法により粒径100nm以上の微粒子を製造し、(i)該微粒子を分散した分散液に被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)該微粒子を分散した分散液を被コーティング物品にスプレーして乾燥する第一工程、
(2)次いで、(i)粒径7〜90nmの微粒子と撥油剤とを含む分散液に該被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)粒径7〜90nmの微粒子と撥油剤とを含む分散液を該被コーティング物品にスプレーして乾燥する第二工程、
を含むことを特徴とする撥油性コーティング物品の製造方法。
【請求項6】
(1)ゾルゲル法により粒径100nm以上の微粒子を製造し、(i)該微粒子を分散した分散液に被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)該微粒子を分散した分散液を被コーティング物品にスプレーして乾燥する第一工程、
(2)次いで、(i)粒径7〜90nmの微粒子を分散した分散液に該被コーティング物品を浸漬、引き上げ、乾燥、あるいは(ii)粒径7〜90nmの微粒子を分散した分散液を該被コーティング物品にスプレーして乾燥する第二工程、
(3)撥油剤溶液に該被コーティング物品を浸漬する第三工程、
を含むことを特徴とする撥油性コーティング物品の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の撥油性コーティング物品の製造方法において、第一工程及び/または第二工程のスプレーをスプレー距離10〜20cm、噴霧圧0.4〜0.8MPaで行うことを特徴とする撥油性コーティング物品の製造方法。
【請求項8】
撥油剤がパーフロロ基をもつ炭素数6個以下の有機物である請求項5〜7のいずれかに記載の超撥油コーティング物品の製造方法。
【請求項9】
少なくとも、粒径100nm以上の微粒子を分散した分散液と、粒径7〜90nmの微粒子を分散した分散液とを含む請求項5〜8のいずれかに記載の撥油性コーティング物品を製造するために使用するコーティング剤キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−140625(P2011−140625A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181198(P2010−181198)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 応用物理学会発行『2010年(平成22年)春季 第57回応用物理学関連連合講演会 公式ガイドブック』(発行日 平成22年3月17日)に発表。
【出願人】(502435454)株式会社SNT (33)
【Fターム(参考)】