説明

撥油性表面コーティング

【課題】オリフィス出口付近で、撥油性であるプリントヘッド前面コーティング方法を提供する。
【解決手段】金属表面(例えば、ピエゾ方式プリントヘッドの前面または開口板、トランスフィックス用ロール)上に撥油性ポリマー表面コーティングを得る。そのために、導電面を得ることと;導電面をシラン含有組成物で処理し、シラン含有組成物の薄層をえるとと;電解質及びモノマーを含む電解質溶液を得ることと:処理した導電面で電気化学重合をことを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、表面コーティングに関し、特に、ピエゾ方式プリントヘッドの前面または開口板のための表面コーティングに関する。より特定的には、本開示は、導電面または金属面(例えば、ピエゾ方式プリントヘッドの前面または開口板および画像トランスフィックス用ロールまたはベルト)に塗布される、フルオロアルキル部分を含むポリピロールで構成される撥油性表面コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
液体インクジェットシステムは、典型的には、液滴を記録媒体に向けて放出する複数のインクジェットを有する1個以上のプリントヘッドを備えている。プリントヘッドのインクジェットは、プリントヘッドのインク供給室または多岐管からインクを受け、ひいては、供給源(例えば、溶融インク容器またはインクカートリッジ)からインクを受ける。各インクジェットは、片方の端がインクを供給する多岐管と液体が流れるようにつながった経路を備えている。インク経路のもう片方の端は、インク液滴を放出するオリフィスまたはノズルを備えている。インクジェットのノズルは、インクジェットのノズルに対応する開口部を有する開口板またはノズル板に作られていてもよい。操作中に、液滴を放出する信号は、インクジェットのアクチュエータを作動させ、インクジェットノズルから記録媒体へ液滴を発射する。液滴を発射するインクジェットのアクチュエータを選択的に作動させることによって、記録媒体および/またはプリントヘッドのアセンブリが互いに関連して動くため、堆積した液滴が正確な模様を描き、記録媒体の上に特定の文字および画像を作成することができる。長尺プリントヘッドの例は、米国特許公開第2009/0046125号に記載されており、この内容は、その全体が本明細書に参考として組み込まれる。
【0003】
一般的に、インクジェット印刷用インクとしては、例えば、水系インクおよび非水系インクが挙げられる。非水系インクの例としては、周囲温度では固相であるが、インクジェット印刷デバイスを操作する高い温度では液相で存在するような相変化インク(時に、「ホットメルトインク」と称する)が挙げられる。インクジェットの操作温度で、液体インクの液滴が印刷デバイスから放出され、このインク液滴を、記録基材の表面に直接接触させるか、または中間で加熱した転写ベルトまたは転写ドラムを介して接触させると、インク液滴はすばやく固化し、固化したインク液滴が所定の模様を形成する。カラー印刷用の相変化インクは、典型的には、相変化する有機相変化キャリア組成物を含んでおり、相変化インクに適合する着色剤と組み合わさっている。
【0004】
適切な着色剤の代表例としては、例えば、米国特許第5,221,335号に開示されているような染料または顔料を挙げることができる。
【0005】
米国特許第5,621,022号は、相変化インク組成物において、特定の種類のポリマー染料を使用することを開示している。さらに、米国特許第7,699,922号は、ナノ粒子を含有する有機相変化インクを開示している。
【0006】
また、インクジェット印刷に適したインクとしては、紫外線硬化性インクを挙げることができる。このようなプリントヘッドで吐出させることが可能な紫外線硬化性ゲルインクの例は、米国特許第7,632,546号;第7,625,956号;第7,559,639号;第7,553,011号;米国特許公開第2007/0123606号に記載されている。
【0007】
液体インクジェットシステムが直面する困難のひとつは、インクがプリントヘッド前面を濡らすか、垂れるか、または溢れることである。プリントヘッド前面がこのように汚染されると、これ単独で、または濡れて汚れてしまった前面と組み合わさって、インクジェットノズルおよび経路の目詰まりを引き起こすか、目詰まりの原因となる場合があり、記録媒体上で、液滴が発射されないか、または欠落し、液滴の大きさが小さくなるか、またはそれ以外で間違った大きさになり、周囲に飛ぶか、または間違った方向に飛ぶことを引き起こすか、その原因となる場合があり、それにより印刷の品質が悪くなる。
【0008】
従来のプリントヘッド前面のコーティングは、典型的には、スパッタリングによるポリテトラフルオロエチレンコーティングである。プリントヘッドが傾いた場合、UVゲルインクは、約75℃の温度で(75℃は、UVゲルインクの典型的な吐出温度をあらわしている)、固体インクは、約105℃の温度で(105℃は、固体インクの典型的な吐出温度をあらわしている)、プリントヘッド前面の表面上を簡単には滑り落ちない。その代わりに、これらのインクは、プリントヘッド前面に沿って流れ、プリントヘッド上にインクフィルムまたは残渣を残し、これが吐出を妨害する場合がある。この理由から、UVインクおよび固体インクのプリントヘッド前面は、例えば、UVインクおよび固体インクで汚れる傾向がある。ある場合には、汚れたプリントヘッドを、メンテナンスユニットを用いて新しくするか、またはクリーニングしてもよい。しかし、このようなアプローチは、システムを複雑にし、さらなるハードウェアコストがかさみ、信頼性の課題も生じてしまうことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、撥油性表面の特性を有するデバイスを調製するための材料および方法が依然として必要である。さらに、インクジェットプリントヘッド前面に対して現時点で利用可能なコーティングが、これらの意図する目的に適しているが、プリントヘッド前面がUVインクまたは固体インクで濡れるか、垂れるか、溢れるか、または汚れることを減らすか、または完全になくすような、改良されたプリントヘッド前面を設計する必要性が依然として存在する。さらに、オリフィス出口付近で、撥油性であり、既知の表面エネルギーを有する表面を与えるような、改良されたプリントヘッド前面コーティングの必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態では、撥油性ポリマー表面コーティングを有するデバイスを調製する方法が記載されており、導電面を得ることと;上述の導電面を、シラン含有組成物で処理し、シラン含有組成物の薄層を得ることと;電解質およびモノマーを含む電解質溶液を得ることと;上述の処理した導電面で電気化学重合を行い、撥油性ポリマー表面コーティングを得ることとを含む。
【0011】
さらなる実施形態は、電気化学的に堆積した撥油性ポリマーを含む、ピエゾ方式プリントヘッドの前面または開口板のための表面コーティングに関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】印刷装置の一実施形態の実例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(定義)
本明細書および添付の特許請求の範囲では、「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」のような単数形は、他の意味であることが明確に示されていない限り、複数形のものも含む。本明細書に開示されているすべての範囲は、明記されていない限り、すべての端点および中間の値を含む。それに加え、以下に定義されるような多くの語句が引用されていてもよい。
【0014】
用語「炭化水素」および「アルカン」は、例えば、分岐しているか、または分岐していない、一般式C2n+2を有する分子を指し、ここで、nは、1以上の数、例えば、約1〜約60である。例示的なアルカンとしては、メタン、エタン、n−プロパン、イソプロパン、n−ブタン、イソブタン、tert−ブタン、オクタン、デカン、テトラデカン、ヘキサデカン、エイコサン、テトラコサンなどが挙げられる。アルカンは、水素原子が1個以上の官能基と置き換わることによって置換され、アルカン誘導体化合物を生成していてもよい。
【0015】
用語「官能基」は、例えば、その基が結合している基および分子の化学的性質を決定づけるような様式で整列している原子群を指す。官能基の例としては、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボン酸基などが挙げられる。
【0016】
用語「アルキル基」は、例えば、炭素原子を約1〜約50個、例えば、約5〜約35個、または約6〜約28個含む、直鎖または分枝鎖の、飽和または不飽和の、環状または非環状の炭化水素基を指す。
【0017】
用語「フルオロアルキル基」は、例えば、炭素原子を約1〜約50個、例えば、約5〜約35個、または約6〜約28個含み、直鎖または分枝鎖の、飽和または不飽和の、環状または非環状の炭化水素基のうち、炭化水素基の1個以上の水素原子がフッ素原子で置換されている基を指す。
【0018】
用語「ペルフルオロアルキル基」は、例えば、炭素原子を約1〜約50個、例えば、約5〜約35個、または約6〜約28個含み、直鎖または分枝鎖の、飽和または不飽和の、環状または非環状の炭化水素基のうち、炭化水素基のすべての水素原子がフッ素原子で置換されている基を指す。
【0019】
用語「長鎖」は、例えば、nが、約8〜約60、例えば、約20〜約45、または約30〜約40の炭化水素鎖を指す。用語「短鎖」は、例えば、nが、約1〜約7、例えば、約2〜約5、または約3〜約4の炭化水素鎖を指す。
【0020】
用語「硬化性」は、例えば、重合(例えば、遊離ラジカル経路を含む)によって硬化可能な物質、および/または放射線感受性の光開始剤を用いることによって、重合が光によって開始するような物質を記述するものである。
【0021】
「任意の」または「場合により」は、例えば、その後に記載されている状況が起こってもよく、起こらなくてもよい場合を指し、その状況が起こる場合と、その状況が起こらない場合を含む。
【0022】
用語「1つ以上の」および「少なくとも1つの」は、例えば、その後に記載されている状況の1つが起こる場合、およびその後に記載されている状況のうち2つ以上が起こる場合を指す。同様に、用語「2つ以上の」および「少なくとも2つの」は、例えば、その後に記載されている状況の2つが起こる場合、およびその後に記載されている状況のうち3つ以上が起こる場合を指す。
【0023】
用語「撥油性」は、本明細書で使用される場合、油に対して強い親和性を持たないことに関連するような、ある分子の物理的性質を述べるものとして記載されてもよい。水およびフッ化炭素が、撥油性化合物の一例であってもよい。
【0024】
用語「非常に撥油性」は、本明細書で使用される場合、炭化水素系の液体(例えば、ヘキサデカンまたはインク)の液滴が、表面に対して大きな接触角をもつ場合、例えば、約50°、または約50°より大きく、約100°までの接触角をもつものとして記載されてもよい。
【0025】
用語「超撥油性」は、本明細書で使用される場合、炭化水素系の液体(例えば、ヘキサデカンまたはインク)の液滴が、表面に対して大きな接触角を持つ場合、例えば、100°よりも大きな接触角、または約100°よりも大きく、約160°まで、または、約120°よりも大きく、約160°までの接触角を持つものとして記載されてもよい。
【0026】
用語「超撥油性」は、本明細書で使用される場合、炭化水素系の液体(例えば、ヘキサデカンまたはインク)の液滴が、表面に対して、約1°〜約30°未満、または約1°〜約25°未満、または約25°未満、または約15°未満、または約10°未満のすべり角を持つものとして記載されてもよい。
【0027】
一般的な状況として、表面に対する液体の濡れ性または広がりは、表面化学および表面トポロジーに関係がある場合、液体と、液体表面と、その周囲にある空気との相互作用力、特に、表面の自由エネルギーに支配される。
【0028】
表面張力は、凝集力と接着力との相互作用として記述することができるパラメータであり、液体が表面を濡らしているか否か、または表面への広がりが起こっているか否かを決定づける。
【0029】
ヤングの式は、乾燥表面に対し、液滴によって生じる力のバランスを定義するものであり、以下のように定められている。
γSL + γLVcosΘ = γSV
式中、γSL=固体と液体との相互作用力、
γLV=液体とその周囲にある空気との相互作用力、
γSV=固体とその周囲にある空気との相互作用力、
Θ=その表面に関連する、液滴の接触角。
【0030】
また、ヤングの式は、液体の表面張力が表面エネルギーよりも小さい場合には、接触角はゼロであり、液体が表面に濡れることも示している。
【0031】
表面エネルギーは、例えば、固体の化学組成および結晶構造、特に、その表面の化学組成および結晶構造、その表面の幾何特性、粗さ、および固体を簡単に覆ってしまい、表面エネルギーを顕著に変えるような、固体表面に物理的に吸着しているか、または化学的に結合している分子の存在のようないくつかの因子に依存している。
【0032】
所与のシステムでは、表面エネルギーは、表面に塗布されている一番外側の原子層または分子層に基づいて決定されることが多い。その下にあるコーティングされている固体粒子の化学的性質は、典型的には、表面の状態、固体粒子を覆う層または汚染の状態に関する重要度はごくわずかである。
【0033】
表面張力が低い液体(例えば、油およびワックス系インク)に濡れることを防ぐために、固体の表面張力が非常に低いことが必要とされる。したがって、撥油性表面または超撥油性表面を作る現行アプローチはそれほど多く存在せず、典型的には、フッ素化された表面材料で覆われた凹型の表面曲率をもつ特殊な設計を含んでいる(例えば、Cohenら、Science 2008,318,1618−1622を参照)。
【0034】
しかし、このような精密な表面構造の加工は、高価であり、困難であり、多くの後処理工程を必要とする。したがって、例えば、金属面(例えば、ピエゾ方式プリントヘッドの前面または開口板、トランスフィックス用ロール)での使用に関し、有効で、費用効果の高い様式で、撥油性または超撥油性の表面コーティングを得るためのプロセスは有用であろう。
【0035】
(電気化学重合)
ピロールまたはピロール混合物を、コモノマーを用いて電気化学重合させることが開示されている(例えば、Guittardら、J.Am.Chem.Soc.2009,7928−7933を参照)。この手順では、ピロールまたはピロール/コモノマー混合物を、導電性塩存在下、電解質溶液で電解し、アノード酸化の結果、ピロールポリマーが生成し、アノードに蓄積する。
【0036】
本開示は、撥油性ポリマー表面コーティングを有するデバイスを調製する方法に関し、導電面を得ることと;上述の導電面を、シラン含有組成物で処理し、シラン含有組成物の薄層を得ることと;電解質およびモノマーを含む電解質溶液を得ることと;上述の処理した導電面で電気化学重合を行い、撥油性ポリマー表面コーティングを得ることとを含む。
【0037】
本開示は、さらに、標準的な電気化学条件における、モノマーとしてピロールを含有するフルオロアルキル基(例えば、N−フルオロアルキルピロール)の電気化学重合に関する。実施形態では、電気化学重合は、約20℃から約100℃までの範囲の温度で行われてもよい。
【0038】
実施形態では、2電極セル中、例えば、定電流条件下で、処理した導電表面を電解質溶液に浸すことによって、この導電面で電気化学重合反応を行うことによって撥油性コーティングを基剤上に堆積させる。
【0039】
実施形態では、撥油性表面コーティングは、ナノ多孔性構造を示しており、接触角の測定によって示されるように、きわめて低い表面自由エネルギーを与える。実施形態では、撥油性表面コーティングは、平均径が約0.025μm〜約3μm、または約0.5μm〜約2μm、または約0.75μm〜約1.80μmの範囲の複数の孔を含んでいる。
【0040】
本開示の撥油性表面コーティングを有するデバイスは、まず、導電面を有する基材を得ることによって調製される。
【0041】
(導電面)
実施形態では、導電面は、導電性基材(例えば、導電性金属、導電性金属酸化物、または導電性ポリマー)によって得られてもよく、または、導電面層を非導電性基材(例えば、プラスチックフィルム基材)に塗布することによって得られてもよい。適切な導電面層の代表例としては、導電性材料(例えば、金属、導電性ポリマー、金属アロイまたはコンポジット、導電性カーボン、または導電性カーボンで構成されている導電性コンポジット、例えば、カーボンナノチューブまたはグラフェン)で作られる層が挙げられる。
【0042】
導電面層に適した金属基材または金属の代表例としては、例えば、Al、Ag、Au、Pt、Pd、Cu、Fe、Co、Cr、In、Ni、特に、遷移金属、例えば、Ag、Au、Pt、Pd、Cu、Cr、Ni、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0043】
基材に適した金属酸化物の代表例としては、酸化亜鉛、アルミニウム−チタン酸化物(ATO)、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム、ジルコニウムチタン酸バリウム、セラミックなどが挙げられる。
【0044】
基材に適した導電性ポリマー材料の代表例としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが挙げられる。
【0045】
適切な金属アロイまたは金属コンポジットの代表例としては、Au−Ag、Ag−Cu、Ag−Ni、Au−Cu、Au−Ni、Au−Ag−Cu、Au−Ag−Pdが挙げられるが、これに限定されない。
【0046】
導電性カーボンで構成される適切な導電性コンポジットの代表例としては、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、グラフェンなどが挙げられる。導電性コンポジットの他の例としては、カーボンナノチューブ/金属コンポジットを挙げることができる。
【0047】
カーボンナノチューブに関し、多層カーボンナノチューブ(MWNT)および単層カーボンナノチューブ(SWNT)の一般的な2種類のカーボンナノチューブが存在する。SWNTは、円筒形のシート状の、六角形に配列した炭素原子の厚みが1原子分のシェルを有しており、カーボンナノチューブは、典型的には、共通の軸の周囲にある直径が均一に増加していく複数の同軸円筒形で構成されている。このように、SWNTは、カーボンナノチューブと、さらにひも状のカーボンナノチューブの構造が基本構造であると考えてもよく、これは、SWNTに固有に並べられた配列である。本開示では、「多層カーボンナノチューブ(MWNT)」を、「カーボンナノチューブ(CNT)」、「ナノチューブ」とも呼ぶ。
【0048】
カーボンナノチューブの一例は、米国特許出願第12/272,347号に記載されている。カーボンナノチューブコンポジットの他の例としては、カーボンナノチューブ/金属コンポジット、例えば、米国特許出願第12/618,816号に開示されているものが挙げられる。
【0049】
上述のように、非導電性基材(例えば、プラスチックフィルム基材)の場合、導電面を得るために、非導電性基材の表面に導電面層を塗布する。
【0050】
適切なプラスチックフィルム基材の代表例としては、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドなど、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定されない。実施形態では、基材は、耐熱性樹脂から作られていてもよい。適切な耐熱性樹脂の代表例としては、耐熱性が大きく、強度が高い樹脂、例えば、ポリイミド、芳香族ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフタルアミド、ポリエステル、および液晶材料(例えば、サーモトロピック液晶ポリマー)などが挙げられる。
【0051】
実施形態では、基材は、任意の適切な厚みを有していてもよく、例えば、約5マイクロメートル〜約1000マイクロメートル、または約10マイクロメートル〜約500マイクロメートルであってもよい。
【0052】
さらなる実施形態では、撥油性表面コーティングは、インクジェットプリントヘッド(例えば、ピエゾ方式プリントヘッドの開口板)に、適切な導電性基材として配置されてもよい。
【0053】
実施形態では、プリントヘッド開口板(またはオリフィス板またはプリントヘッドの前面板)は、任意の適切な材料で作られていてもよく、デバイスに適した任意の形状であってもよい。正方形または長方形のオリフィス板は、典型的には、製造が容易なため選択される。オリフィス板は、任意の適切な組成物で作られてもよい。実施形態では、開口板またはオリフィス板は、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、銅、アルミニウム、ポリイミドまたはシリコンで構成されている。また、オリフィス板は、金のような真鍮材料で選択的にめっきされたステンレス鋼から作られいてもよい。
【0054】
図は、ここに開示されている撥油性表面コーティングを利用することが可能な画像形成装置10の一実施形態の図である。画像形成装置は、この図面の平面に直交するX軸に対して平行な回転軸の周りを回転可能な印刷ドラム14の支持表面に塗布されている中間転写面12に、インクの液滴26を放出するように動かして利用するのに適した形態で支持されているプリントヘッド11を備えている。インクは、固体インクまたは相変化インクが溶融したものであってもよく、例えば、印刷ドラム14を加熱してもよい。
【0055】
適切なインクの代表例としては、水系インクおよび非水系インクが挙げられる。実施形態では、非水系インクは、着色剤と、ポリエチレンワックス、ポリメチレンワックス、ダイマー酸に由来するテトラ−アミド、モノアミド、ステアリルステアリン酸アミド、ウレタンイソシアネート系材料、尿素イソシアネート系材料、ウレタン/尿素イソシアネート系材料、ポリエステル、(メタ)アクリレートモノマー、ジオールジアクリレートモノマー、ジオールジメタクリレートモノマー、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ポリウレタンアクリレートオリゴマー、およびこれらの混合物からなる群から選択されるインクビヒクルとを含む。
【0056】
中間転写面12は、アプリケータアセンブリ16のローラ16Aのようなアプリケータと接触させることによって塗布することが可能な、機能性油のような液体の層であってもよい。
【0057】
代表例として、アプリケータアセンブリ16は、ローラ16Aおよび計量ブレード16Bを支えるハウジング16Cを備えていてもよい。ハウジング16Cは、計量ブレードによって印刷ドラムから除去された液体を入れるための容器として機能してもよい。アプリケータアセンブリ16は、印刷ドラム14と選択的にかみ合うような構成であってもよい。
【0058】
画像形成装置10は、さらに、転写ローラ23の反対側の作動面と、印刷ドラム14によって支えられている中間転写面12との間に作られたニップ22によって、印刷媒体基材21(例えば、用紙)を導く基材ガイド20と、媒体予熱器27とを備えている。転写ローラは、中間転写面12と接触した状態で選択的に移動させることができる。剥離爪24は、回転可能な状態で取り付けられ、堆積したインク液滴を含む画像26が印刷媒体基材21に転写された後、印刷媒体基材21を中間転写面12から剥がすのに役立ってもよい。
【0059】
(シラン含有組成物の薄層)
導電面が得られたら、その後、シラン含有組成物の薄層を、任意の適切な方法(例えば、スプレーコーティングまたは浸漬コーティング)によって基材導電面の望ましい領域に蓄積させる。
【0060】
シラン含有組成物として、適切なシラン含有組成物の代表例としては、アミノアルキルシラン、メルカプトアルキル−シラン、シラン含有ピロール、およびこれらの混合物からなる群から選択される加水分解性シランを含む組成物が挙げられるが、これに限定されない。
【0061】
アミノ官能基を有する適切なアルコキシシランの代表例としては、2−アミノエチルトリメトキシシラン、2−アミノエチルトリエトキシシラン、2−アミノエチルトリブトキシシラン、2−アミノエチルトリプロポキシシラン、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリプロポキシシラン、2−アミノプロピルトリブトキシシラン、1−アミノプロピルトリメトキシシラン、1−アミノプロピルトリエトキシシラン、1−アミノプロピルトリブトキシシラン、1−アミノプロピルトリプロポキシシラン、N−アミノメチルアミノエチルトリメトキシシラン、N−アミノメチルアミノメチルトリプロポキシシラン、N−アミノメチル−2−アミノエチルトリメトキシシラン、N−アミノメチル−2−アミノエチルトリエトキシシラン、N−アミノエチル−2−アミノエチルトリプロポキシシラン、N−アミノメチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−アミノメチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−アミノメチル−3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、N−アミノメチル−2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−アミノメチル−2−アミノプロピルトリプロポキシシラン、N−アミノプロピルトリプロポキシシラン、N−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−2−アミノエチルトリプロポキシシラン、N−(2−アミノエチル)−アミノエチルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−アミノエチルトリプロポキシシラン、N−(2−アミノエチル)−2−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−2−アミノプロピルトリプロポキシシラン、N−(2−アミノプロピル)−2−アミノエチルトリメトキシシラン、N−(3−アミノプロピル)−2−アミノエチルトリエトキシシラン、N−(3−アミノプロピル)−2−アミノエチルトリプロポキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリエトキシシラン、N−メチルアミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−ジエチレントリアミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノイソブチル−メチルジエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチル−トリメトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチル−トリエトキシシラン、(アミノエチルアミノメチル)フェネチル−ジメトキシメチルシラン、3−(アミノフェノキシ)プロピルトリメトキシシラン、3−(アミノフェノキシ)プロピルトリエトキシシラン、3−(アミノフェノキシ)プロピルジメトキシメチルシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリエトキシシラン、アミノフェニルジメトキシメチルシラン、アミノフェニルジエトキシメチルシラン、これらの混合物などが挙げられる。
【0062】
メルカプト官能基を有する適切なアルコキシシランの代表例としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジエトキシシラン、[3−トリエトキシシリル]プロピル]−ジスルフィド、[3−トリメトキシシリル]プロピル]−ジスルフィド、[3−ジエトキシメチルシリル]プロピル]−ジスルフィドビス[3−トリエトキシシリル]プロピル]−テトラスルフィド、[3−ジエトキシメチルシリル]プロピル]−テトラスルフィド、[3−トリメトキシシリル]プロピル]−テトラスルフィド、これらの混合物などが挙げられる。それに加え、適切なシラン含有ピロールの例としては、以下のもの
【化1】



が挙げられ、Yは、シラン部分を含む置換基である。Yの代表例としては、3−メチルジメトキシシリルプロピル、3−メチルジエトキシシリルプロピル、3−トリメトキシシリルプロピル、3−トリエトキシシリルプロピルなどが挙げられる。
【0063】
実施形態では、シラン含有組成物の薄層は、任意の適した厚みを有していてもよい。実施形態では、シラン含有組成物の薄層を、基材の上に約25〜約5,000ナノメートル、または約3,000ナノメートルの厚みで蓄積させてもよい。
【0064】
(撥油性表面コーティング)
シラン含有組成物の薄層を導電面の表面に塗布したら、撥油性表面コーティングを得るために、電解質およびモノマーを含む電解質溶液が与えられ、基材デバイスの表面で電気化学重合させる。
【0065】
実施形態では、モノマーは、以下のもの
【化2】



およびこれらの混合物からなる群から選択されてもよく、式中、Rは、フルオロアルキル部分またはペルフルオロアルキル部分を含む置換基をあらわし;Aは、水素またはアルキル基をあらわす。
【0066】
適切な電解質の代表例としては、イオン導電性塩、例えば、BF、AsF、SbF、PF、SbCl、ClO、HSO、SO2−からなる群から選択されるアニオンを含有するアルカリ金属塩、アンモニウム塩、またはホスホニウム塩が挙げられる。さらなる実施形態では、テトラアルキルアンモニウム塩を電解質として使用してもよい。
【0067】
実施形態では、得られたポリマーに電解質を部分的に組み込むか、または完全に組み込み、本開示の電気化学重合プロセスによって調製したポリマーに対し、10Ohm−1cm−1までの高い導電性を付与する。
【0068】
実施形態では、モノマーとして0.01M N−フルオロアルキルピロールを含み、0.1M テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート(BuNPFは電解質として作用する)を含む無水アセトニトリル溶液を含む2電極セルで、定電流条件下で電気化学重合を行ってもよい。
【0069】
ポリ(N−フルオロアルキルピロール)コーティングを調製する実施形態では、N−フルオロアルキル置換された3,4−エチレンジオキシピロールモノマーを得ることができる。
【0070】
実施形態では、撥油性ポリマーは、以下のもの
【化3】



からなる群から選択される繰り返し単位、およびこれらの混合物を含むフルオロポリマー組成物を含み、
式中、Rは、水素、アルキル、フルオロアルキル、ペルフルオロアルキル、フルオロアルコキシル、−(CH2)−L−(CH2)CnF2n+1からなる群から選択される置換基であり;
Lは、二価のエーテル結合またはエステル結合であり、xおよびyは、独立して、0〜約6の整数をあらわし、nは、約1〜約20の整数であり;
Aは、水素、アルキル基、フルオロアルキルからなる群から選択される置換基であり;
Yは、シラン部分を含む置換基である。
【0071】
実施形態では、撥油性ポリマーは、ポリ(N−フルオロアルキルピロール)を含んでいてもよい。
【0072】
本開示の実施形態では、撥油性表面コーティングは、非常に「インクをはじく」ものであり、インクジェットプリントヘッドの前面にとって非常に望ましい表面特質(例えば、濡れを非常に大きく予防するための、インクに対する大きな接触角、高い保持圧、自己洗浄し、洗浄を容易にするための低い滑り角)を有する。一般的に、インク接触角が大きいほど、保持圧は良好であるか、または高い。保持圧は、インクタンク(容器)の圧力が増加したときに、ノズルの開口部からインクが浸み出すのを防ぐ開口板の能力を測定する。
【0073】
実施形態では、表面コーティングは、フルオロアルキル部分を含むポリピロール(例えば、撥水性を有するポリ(N−フルオロアルキルピロール))で構成されている。コーティング表面の撥水度は、接触角によって概算することができ、この接触角は、接触点で、コーティング表面と、液滴(例えば、ヘキサデカン)の表面に対する接線とによって作られる角度である。実施形態では、本明細書に開示されている表面コーティングは、ヘキサデカンでの接触角が、約50〜約140°、または約55〜約100°であってもよい。
【0074】
実施形態では、本開示の表面コーティングは、上述の板に沿ってプリントヘッド前面に配置され、オリフィス出口付近で、既知の表面エネルギーを有する表面を与えてもよい。
【0075】
本開示を以下の実施例でさらに説明する。
【実施例】
【0076】
DuPont Chemical Co.(デラウェア州ウィルミントン))製のポリイミド基材(KAPTON(登録商標)フィルムを、洗浄剤溶液で洗浄し、アルカリ水酸化物溶液でエッチングすることによって処理した後、アミノシランカップリング剤で処理した。浸漬コーティング技術を用い、基材を銀ナノ粒子分散物でコーティングした。銀ナノ粒子分散物のコーティングは、ヘキサデシルアミンで安定化された銀ナノ粒子(例えば、米国特許出願第12/408,897号に開示されているもの)1.5部とトルエン8.5部の混合物に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.1部を加え、次いで、150℃で10分間アニーリングし、導電性が約2.5×10S/cmのポリイミド基材上に薄い銀金属膜を形成させることによって得た。
【0077】
次いで、既知の手順(例えば、Guittardら、J.Am.Chem.Soc.2009,7928−7933)に開示されているもの)にしたがって、Agが堆積した基材に、0.01Mのモノマーと、0.15Mのテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートとを含むアセトニトリル溶液中、N−フルオロアルキル置換されたピロールを電気化学重合することによって撥油性表面コーティングを塗布した。
【0078】
ポリ(N−フルオロアルキルピロール)表面コーティングの撥油性は、ヘキサデカンの液体を用いた接触角測定によって概算することができる。本明細書に記載されているように、適切なモノマー、電気化学重合条件を選択することによって、例えば、60°を超える高い接触角を有する表面コーティングを得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥油性ポリマー表面コーティングを有するデバイスを調製する方法であって、
導電面を得ることと;
前記導電面を、シラン含有組成物で処理し、シラン含有組成物の薄層を得ることと;
電解質およびモノマーを含む電解質溶液を得ることと;
前記処理した導電面で電気化学重合を行い、撥油性ポリマー表面コーティングを得ることとを含む、方法。
【請求項2】
電気化学的に堆積した撥油性ポリマーを含む、ピエゾ方式プリントヘッドの前面または開口板のための表面コーティング。
【請求項3】
非水系インクと、非水系インクを吐出するためのインクジェットプリントヘッドとを含み、前記インクジェットプリントヘッドが、
【化1】



からなる群から選択される繰り返し単位およびこれらの混合物を含む電気化学的に堆積した撥油性ポリマーで構成されている前面コーティングを含み、
式中、Rは、ペルフルオロアルキル部分を含む置換基をあらわし;
Aは、水素またはアルキル基をあらわす、画像形成装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−240702(P2011−240702A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108757(P2011−108757)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】