説明

撮像装置、画像処理装置、及び画像処理プログラム

【課題】自由度の高い電子ぼかし処理を実行するのに好適な撮影データを取得する。
【解決手段】本発明の撮像装置は、撮影光学系の被写界深度及び合焦距離の組み合わせを、予め決められたディープフォーカス用の組み合わせに設定する設定手段と、設定された前記組み合わせの下で前記撮影光学系が被写界を投影して形成した画像である実画像を取得する撮像手段と、前記実画像の取得元となった前記被写界の距離分布を測定する測定手段と、前記実画像に対して前記距離分布を対応付けたものを、前記被写界の撮影データとして記録する記録手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタルスチルカメラなどの撮像装置、撮像装置が取得した撮影データを処理する画像処理装置、及び画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラによるポートレート撮影やマクロ撮影では、背景をぼかして被写体を引き立たせることが望まれている。しかし、コンパクトカメラの撮影レンズのように小口径だと絞り値を開放にしても被写界深度を十分に浅くできないため、特にポートレート撮影ではボケ味の良好な画像を得ることが難しい。そこで近年、撮影後の画像へ電子ぼかし処理を施すカメラが提案された(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-294785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電子ぼかし処理は、画像に付与されたボケ味をユーザが後に調整することを想定していない。
【0005】
そこで本発明の目的は、自由度の高い電子ぼかし処理を実行するのに好適な撮影データを取得することのできる撮像装置、その撮影データを有効に利用して自由度の高い電子ぼかし処理を実行することのできる画像処理装置、及び画像処理プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の撮像装置は、撮影光学系の被写界深度及び合焦距離の組み合わせを、予め決められたディープフォーカス用の組み合わせに設定する設定手段と、設定された前記組み合わせの下で前記撮影光学系が被写界を投影して形成した画像である実画像を取得する撮像手段と、前記実画像の取得元となった前記被写界の距離分布を測定する測定手段と、前記実画像に対して前記距離分布を対応付けたものを、前記被写界の撮影データとして記録する記録手段とを備える。
【0007】
本発明の画像処理装置は、本発明の撮像装置が記録した前記撮影データを入力するデータ入力手段と、仮想撮影光学系の被写界深度及び合焦距離の組み合わせをユーザに指定させるインタフェース手段と、指定された前記組み合わせの下で前記仮想撮影光学系が前記被写界を投影した場合に形成される画像である仮想画像を前記撮影データに基づき作成する作成手段とを備える。
【0008】
本発明の画像処理プログラムは、本発明の撮像装置が記録した前記撮影データを入力するデータ入力手順と、仮想撮影光学系の被写界深度及び合焦距離の組み合わせをユーザに指定させるインタフェース手順と、指定された前記組み合わせの下で前記仮想撮影光学系が前記被写界を投影した場合に形成される画像である仮想画像を前記撮影データに基づき作成する作成手順とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自由度の高い電子ぼかし処理を実行するのに好適な撮影データを取得することのできる撮像装置、その撮影データを有効に利用して自由度の高い電子ぼかし処理を実行することのできる画像処理装置、及び画像処理プログラムが実現する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電子カメラの構成図。
【図2】距離分布センサ30と撮影レンズ2との関係を説明する図。
【図3】距離測定範囲と撮影範囲との関係を説明する図。
【図4】距離測定範囲と撮影範囲(ズーム操作時)との関係を説明する図。
【図5】特殊撮影モードにおけるCPU21の動作フローチャート。
【図6】第1の電子ぼかし処理のサブルーチン。
【図7】撮影時に設定されるボケフィルタ処理の特性を説明する図。
【図8】AFエリアFA1の例を示す図。
【図9】撮影時に作成されるぼかし画像の模式図。
【図10】再生モードにおけるCPU21の動作フローチャート。
【図11】第2の電子ぼかし処理のサブルーチン。
【図12】再生画面の模式図。
【図13】ボケフィルタの特性カーブ。
【図14】更新後の再生画面の模式図。
【図15】2つの合焦エリアが指定された状態を説明する図。
【図16】2つの合焦エリアが指定されたときに作成されるボケフィルタの特性カーブ。
【図17】2つの合焦エリアが指定されたときに作成されるぼかし画像の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
以下、本発明の実施形態として電子カメラを説明する。
【0012】
図1は、電子カメラの構成図である。図1に示すとおり電子カメラ1には、撮像素子11、信号処理回路12、バッファメモリ13、画像処理回路14、フィルタ処理回路15、表示制御回路16、内部モニタ17、圧縮・伸張回路18、カードインタフェース19、CPU21、撮像回路22、入力器23、外部接続端子24、距離分布センサ30などが備えられる。このうちバッファメモリ13、画像処理回路14、フィルタ処理回路15、表示制御回路16、圧縮・伸張回路18、カードインタフェース19、CPU21は、共通のバスに接続されている。
【0013】
撮像素子11は、撮影レンズ2が形成した被写界像を撮像する撮像素子(例えば単板式カラー撮像素子)である。
【0014】
信号処理回路12は、撮像素子11が撮像で取得したアナログ画像信号に対してアナログ信号処理及びA/D変換処理を順次に施し、ディジタル画像信号に変換する。
【0015】
バッファメモリ13は、信号処理回路12から出力されるディジタル画像信号を順次に蓄積する。撮像素子11の1フレーム分の電荷読み出し期間に亘ってこの蓄積が行われると、バッファメモリ13には1フレーム分のディジタル画像データが蓄積されることになる。以下、1フレーム分のディジタル画像データを単に「画像」と称し、特に、撮像直後にバッファメモリ13に蓄積された画像(画像処理回路14による画像処理が施される前の画像)を「RAW画像」と称す。
【0016】
画像処理回路14は、バッファメモリ13に格納されたRAW画像に対して、デベイヤ処理(色補間処理)を含む所定の画像処理(色補間処理、エッジ強調処理、コントラスト強調処理など)を施す。なお、画像処理回路14は、必要に応じて、バッファメモリ13上の画像に対して表示用の間引き処理(サイズ縮小処理)を施すこともできる。
【0017】
フィルタ処理回路15は、前述した所定の画像処理後の画像に対し、必要に応じてボケフィルタ処理を施す。ボケフィルタ処理の詳細は後述する。
【0018】
表示制御回路16は、表示用メモリを有しており、その表示用メモリに書き込まれた画像を内部モニタ17へ送出することにより、その内部モニタ17上へ画像を表示する。なお、外部接続端子24に外部モニタが接続されている期間には、表示制御回路16による画像の送出先は、内部モニタ17ではなく外部モニタとなる。但し、以下では簡単のため、外部接続端子24に外部モニタは接続されていないものと仮定する。
【0019】
内部モニタ17は、電子カメラ1の背面などに設けられ、電子カメラ1で取得された画像をユーザが確認する際などに使用されるモニタである。このモニタは、例えばLCDパネルなどで構成される。
【0020】
外部接続端子24は、外部モニタへ表示制御回路16を接続するための端子である。外部接続端子24は、例えば、USBポートなどで構成される。
【0021】
圧縮・伸張回路18は、前述した所定の画像処理後の画像に対し、所定方式のデータ圧縮処理を施す。また、圧縮・伸張回路18は、データ圧縮済みの画像に対し、同じ方式のデータ伸張処理を施すこともできる。以下、圧縮/伸張方式として周知のJPEG方式が適用されるものと仮定する。
【0022】
カードインタフェース19は、データ圧縮済みの画像(JPEGファイル)又はデータ圧縮されていないRAW画像(RAW画像ファイル)を、電子カメラ1のカードスロットに装着中のカードメモリ20へ書き込んだり、カードメモリ20に書き込まれているJPEGファイル又はRAW画像ファイルを読み込んだりする。なお、カードメモリ20は、可搬の記憶媒体である。
【0023】
撮像回路22は、撮影レンズ2に対して駆動信号を与えることにより、撮影レンズ2の焦点距離(ズーム位置)及び撮影レンズ2の合焦距離を調節する。また、撮像回路22は、撮像素子11及び信号処理回路12に対して駆動信号を与えることにより、両者の駆動タイミングを制御する。また、撮像回路22は、撮像素子11の1フレーム当たりの電荷蓄積時間を制御する。なお、電子カメラ1のシャッター速度は、撮像素子11の電荷蓄積時間と不図示のメカシャッタの開放期間との組み合わせによって設定できるが、ここでは簡単のため、撮像素子11の電荷蓄積時間のみによって設定されるものと仮定する。
【0024】
CPU21は、入力器23を介して入力されるユーザの指示と、CPU21の内部メモリ(ROM)に予め書き込まれたファームウエアとに従い、以上の各部を制御する。なお、CPU21のファームウエアは、電子カメラ1に搭載された不図示の通信回路(公知のネットワーク端子など)を介して適宜に更新される。
【0025】
入力器23は、電子カメラ1の上部に設けられたレリーズボタンや、電子カメラ1の背面に設けられたマルチセレクターなどの操作部材である。例えばユーザは、この入力器23を介して電子カメラ1のモードを撮影モードと再生モードの間で切り替えることができる。なお、本実施形態の電子カメラ1の撮影モードには、特殊撮影モードがある。特殊撮影モードは、距離分布付きのディープフォーカス画像を取得する撮影モードである。特殊撮影モードの詳細は、後述する。
【0026】
距離分布センサ30は、図2に示すとおり、電子カメラ1の前面側、すなわち、撮影レンズ2が設けられたのと同じ側に設けられている。距離分布センサ30は、撮影レンズ2の被写界側に向けて赤外線パルスレーザ光を照射し、被写界側に位置する物体の1点へ光スポットを形成する。また、距離分布センサ30は、その光スポットで反射したパルスレーザ光を受光し、そのパルスレーザ光が射出してから受光するまでの時間差を干渉原理などを利用して測定し、その時間差をスポットの形成先の距離に換算する。また、距離分布センサ30には、レーザ光の射出方向及び受光方向を変化させる光走査機構が設けられており、この光走査機構が駆動されると、光スポットが撮影レンズ2の被写界側を二次元走査する。よって、距離分布センサ30は、光スポットで撮影レンズ2の被写界側を二次元走査しながら距離の測定を繰り返すことで、走査範囲内の距離分布を検出することができる。距離分布センサ30が検出した距離分布は、CPU21へ送出される。
【0027】
なお、以上の距離分布センサ30の視野FOV30(=レーザ光を射出可能な角度範囲)は、図2に示すとおり、撮影レンズ2の最大の視野FOV2(=撮影レンズ2のズーム位置が最広角側であるときにおける撮影レンズ2の視野)をカバーしており、距離分布センサ30による距離測定範囲SA(=光スポットの走査範囲)は、図3に示すとおり、電子カメラ1の最広角側の撮影範囲AW(=撮影レンズ2のズーム位置が最広角側であるときに電子カメラ1が画像化できる範囲)をカバーしている。したがって、ユーザのズーム操作により電子カメラ1の撮影範囲が最広角側の撮影範囲AWと最望遠側の撮影範囲Atとの間で変化したとしても(図4参照)、電子カメラ1の撮影範囲が距離測定範囲SAから外れることは無い。
【0028】
また、電子カメラ1のCPU21は、撮影レンズ2のズーム位置と電子カメラ1の撮影範囲との関係を予め記憶しており、撮像素子11が取得した画像と、距離分布センサ30が検出した距離分布との対応関係を、撮影レンズ2のズーム位置に依らずに計算できるものとする。
【0029】
図5は、特殊撮影モードにおけるCPU21の動作フローチャートであり、図6は、図5における第1の電子ぼかし処理のサブルーチンである。以下、各ステップを順に説明する。なお、ここでは簡単のため、電子カメラ1のRAW記録の機能(RAW画像のまま保存する機能)はオフされているものとする。
【0030】
ステップS10:CPU21は、撮像回路22を介して撮像素子11をドラフトモードで連続駆動し始める。これによって撮像素子11はスルー画像の取得を開始する。CPU21は、このときに信号処理回路12から出力されるスルー画像の予め設定されたAEエリアからAE評価値を抽出し、そのAE評価値が適正となるよう、撮像回路22を介して電子カメラ1のシャッター速度と撮影レンズ22の絞り値との組み合わせを制御する(AE制御)。それと並行して、CPU21は、信号処理回路12から出力されるスルー画像の予め設定されたAFエリアからAF評価値を抽出し、そのAF評価値が適正となるよう、撮像回路22を介して撮影レンズ22の合焦距離を制御する(AF制御)。なお、CPU21は、スルー画像の取得期間中に入力器23からズーム調整指示が入力されると、その指示に応じて撮影レンズ2のズーム位置を調整する。
【0031】
ステップS11:CPU21は、レリーズボタンが半押しされたか否かを判別し、半押しされた場合は、ステップS12へ移行する。
【0032】
ステップS12:CPU21は、現時点における絞り値及びシャッター速度を固定すると共に(AEロック)、現時点における合焦距離を固定し(AFロック)、現時点におけるズーム位置も固定する(ズームロック)。そして、CPU21は、現時点における絞り値、シャッター速度、合焦距離、ズーム位置の各々のデータを、撮影時の指定絞り値、指定シャッター速度、指定合焦距離、指定ズーム位置として読み込む。
【0033】
ステップS13:CPU21は、距離分布センサ30を駆動することにより、距離測定範囲SA(図3参照)の距離分布を検出し、検出された距離分布から現時点の撮影範囲に対応する距離分布を抽出する。なお、抽出された距離分布は、撮影時における被写界の距離分布を表す。
【0034】
ステップS14:CPU21は、レリーズボタンが全押しされたか否かを判別し、全押しされていない場合はステップS15へ移行し、全押しされた場合はステップS16へ移行し、する。
【0035】
ステップS15:CPU21は、レリーズボタンの半押しが解除されたか否かを判別し、解除されていない場合はステップS14へ移行し、解除された場合は、AEロック、AFロック、ズームロックの各々を解除してからステップS11へ移行する。
【0036】
ステップS16:CPU21は、現時点の指定絞り値及び指定合焦点距離に拘わらず、電子カメラ1の絞り値及び合焦距離を、ディープフォーカス用の組み合わせに切り替える。すなわち、本ステップのCPU21は、撮影レンズ2の絞り値を最大絞り値に切り替え、撮影レンズ2の合焦距離を最も近距離(又は予め決められた近距離)に切り替える。また、CPU21は、絞り値を増大させた分だけ短い値に電子カメラ1のシャッター速度を切り替える。
【0037】
以上の設定の下、CPU21は、撮像回路22を介して撮像素子11をフレームモードで1フレームだけ駆動する。これによってディープフォーカス撮影が実行され、ディープフォーカス画像が取得される。このディープフォーカス画像は、信号処理回路12を介してバッファメモリ13へ蓄積される。
【0038】
ステップS17:CPU21は、ディープフォーカス画像に対して画像処理回路14による所定の画像処理を施してから、圧縮・伸張回路18によるデータ圧縮処理を施し、JPEGファイルを作成する。さらにCPU21は、撮影時の実際の絞り値、実際のシャッター速度、実際の合焦距離、実際のズーム位置、及び、ステップS13で抽出した距離分布を、そのJPEGファイルに付与してから、カードインタフェース19を介してカードメモリ20へ書き込む。これによって、距離分布付きのディープフォーカス画像が保存されたことになる。
【0039】
ステップS18:CPU21は、第1の電子ぼかし処理のサブルーチンを呼び出す。
【0040】
ステップS18−1:CPU21は、指定絞り値及び指定ズーム位置を、指定被写界深度に換算する。ここでいう指定被写界深度は、絞り値が指定絞り値に設定され、かつ、ズーム位置が指定ズーム位置に設定された仮想撮影レンズが有する被写界深度のことである。よって、CPU21は、指定絞り値が大きいときほど指定被写界深度を浅くし、指定ズーム位置が広角側であるときほど指定被写界深度を深くすればよい。
【0041】
ステップS18−2:CPU21は、ステップS18−1で算出した指定被写界深度と、上述した指定合焦距離と、撮影時の距離分布とをフィルタ処理回路15に与え、フィルタ処理を開始させる。
【0042】
フィルタ処理回路15は、CPU21から与えられた指定被写界深度と指定合焦距離と距離分布とに基づき、ボケフィルタ処理で各画素に適用されるボケフィルタ(ぼかし機能を有する空間フィルタ)を、次のとおり作成する。すなわち、フィルタ処理回路15は、各画素に適用されるボケフィルタの合焦度(ぼかし量の小ささ)を、ボケフィルタの適用先となる画素に写っている物体の距離(距離分布のうちその画素に対応する距離)に依存させる。ここで、フィルタ処理回路15が距離と合焦度との間に与える関係(特性カーブ)は、図7に示すようにピークを有している。この特性カーブの形状自体は、フィルタ処理回路15が予め記憶したとおりであるが、この特性カーブのピーク位置S1は、指定合焦距離に相当する位置に設定され、この特性カーブのピーク幅D1は、指定被写界深度に相当する幅に設定される。なお、この特性カーブのピーク高さは、最大の合焦度(ぼかし量ゼロ)に相当する高さに設定される(図7参照)。
【0043】
したがって、本ステップで作成されるボケフィルタには、被写界深度が指定被写界深度に設定され、かつ、合焦距離が指定合焦距離に設定された仮想撮影レンズのボケ味が反映されたことになる。
【0044】
ステップS18−3:フィルタ処理回路15は、ステップS18−2で作成したボケフィルタによりディープフォーカス画像へボケフィルタ処理を施し、ぼかし画像を作成する。ぼかし画像の作成が完了すると、フィルタ処理回路15は、ボケフィルタ処理の完了通知と共に、そのボケフィルタ処理で使用されたパラメータ(ピーク位置S1及びピーク幅D1)をCPU21へ与える。これを受けたCPU21は、図5のフローへ復帰する。
【0045】
ステップS19:CPU21は、作成されたぼかし画像に対して表示用の間引き処理(画像処理回路14によるサイズ縮小処理)を施してから、表示制御回路16の表示用メモリへ書き込み、内部モニタ17上に所定期間だけ確認表示する。これによってユーザは、ぼかし画像の確認をすることができる。
【0046】
なお、ここで確認表示されるぼかし画像は、ディープフォーカス画像から作成された仮想画像であるが、レリーズボタンの半押し時点でユーザが意図していた画像と同様の被写界深度及び合焦距離を有している。例えば、レリーズボタンの半押し時点で撮影レンズ2の被写界深度が浅く設定されており、かつ、電子カメラ1のAFエリアFA1が図8に示すとおり画面中央の人物上に位置していたとすると、ぼかし画像では、図9に示すとおり、その人物及びそれと等距離に位置していた各物体にピントが合い、その人物とは異なる距離に位置していた各物体はぼけることになる。
【0047】
また、本ステップのCPU21は、作成されたぼかし画像をデータ圧縮してJPEGファイルを作成すると共に、そのボケフィルタ処理で使用されたパラメータ(ピーク位置S1及びピーク幅D1)をそのJPEGファイルに付与してから、カードメモリ20へ書き込み、フローを終了する。これによって、ぼかし画像が保存されたことになる。
【0048】
以上、本実施形態の特殊撮影モードでは、ディープフォーカス画像が距離分布と共に保存される。このような距離分布付きのディープフォーカス画像は、その情報量は画像2枚分の情報量に過ぎないにも拘わらず、ボケ味が可変の電子ぼかし処理を可能とする有意な情報である。
【0049】
また、本実施形態の特殊撮影モードでは、ディープフォーカス画像の電子ぼかし処理を撮影直後に実行する。
【0050】
そのボケフィルタ処理のパラメータ(ピーク位置S1及びピーク幅D1)は、レリーズボタンの半押し時点における指定被写界深度及び指定合焦距離に応じて設定される。
【0051】
しかも、その際、指定被写界深度については、半押し時点における指定絞り値及び指定ズーム位置から自動的に認識され、指定合焦点距離については、半押し時点におけるAFエリアから自動的に認識されるので、ユーザによる特殊な操作は不要である。
【0052】
したがって、本実施形態の電子カメラ1のユーザは、ボケ味が可変の電子ぼかし処理に好適な情報(距離分布付きのディープフォーカス画像)と、ユーザの意図したボケ味を有するぼかし画像との双方を、通常の撮影と同様の操作のみで取得することができる。
【0053】
図10は、再生モードにおけるCPU21の動作フローチャートであり、図11は、図10における第2の電子ぼかし処理のサブルーチンである。以下、各ステップを順に説明する。なお、ここでは簡単のため、電子カメラ1のRAW再生の機能(RAW画像ファイルを再生する機能)はオフされているものとする。
【0054】
ステップS30:CPU21は、カードインタフェース19を介してカードメモリ20を参照し、カードメモリ20に格納されているJPEGファイルの一覧表示を行うべく、一覧表示用の画像を作成して表示制御回路16の表示用メモリへ書き込む。これによってユーザは、再生可能な1又は複数のJPEGファイルを確認し、任意の1つのJPEGファイルを電子カメラ1へ指定することができる。
【0055】
ステップS31:CPU21は、JPEGファイルが指定されたか否かを入力器23を介して判別し、指定された場合にはステップS32へ移行する。
【0056】
ステップS32:CPU21は、ユーザが指定したJPEGファイル(指定JPEGファイル)を参照し、指定JPEGファイルに距離分布が付与されているか否か(指定されたJPEGファイルが距離分布付きのディープフォーカス画像のファイルであるか)を判別し、付与されていなかった場合はステップS33へ移行し、付与されていた場合はステップS34へ移行する。
【0057】
ステップS33:CPU21は、指定JPEGファイルの画像を再生表示し、フローを終了する。すなわち、CPU21は、その画像に対して圧縮・伸張回路18によるデータ伸張処理を施してから、バッファメモリ13へ書き込むと共に、その画像に対して表示用の間引き処理(画像処理回路14によるサイズ縮小処理)を施してから、表示制御回路16の表示用メモリへ書き込み、フローを終了する。これによってユーザは、指定JPEGファイルの画像の詳細を内部モニタ17上で確認することができる。
【0058】
ステップS34:CPU21は、指定JPEGファイルの画像(ここではディープフォーカス画像)を再生表示する。なお、画像を再生表示する手順は、ステップS33におけるそれ同じである。
【0059】
但し、本ステップのCPU21は、図12に示すとおり、再生表示中の画像Iと共に、所定のGUI画像である調整バーB及びカーソルC2を内部モニタ17上に表示する(図12参照)。これらのGUI画像の表示も、表示制御回路16を介して行われる。
【0060】
図12に示す調整バーBは、再生表示中の画像Iに関する被写界深度をユーザが任意に調整するためのバーである。但し、ここでいう被写界深度は、撮影レンズ2の実際の被写界深度ではなく、第2の電子ぼかし処理(後述)で想定される仮想撮影レンズの被写界深度のことである。よって、調整バーBの調節範囲の最深値は、撮影レンズ2が実際に設定可能な最深の被写界深度に対応付けられているが、その調整範囲の最浅値は、撮影レンズ2が実際に設定可能な最浅の被写界深度より浅い値に対応付けられているものとする。表示開始当初、調整バーBの調整位置は、最深値(deep側)に設定されるものとする。
【0061】
図12に示すカーソルC2は、再生表示中の画像I上で任意サイズ・任意位置の合焦エリア(ここでは矩形状の合焦エリア)をユーザが描画するためのカーソルである。このカーソルC2によって描画される合焦エリア(指定合焦エリア)は、撮影レンズ2の実際の合焦エリアではなく、第2の電子ぼかし処理(後述)で想定される仮想撮影レンズの合焦エリアのことである。表示開始当初、カーソルC2は、何れのエリアをも描画していないものとする。
【0062】
ステップS35:CPU21は、調整バーBによる被写界深度の指定と、カーソルC2による合焦エリアの描画との少なくとも一方が行われたか否かを判別し、行われた場合には、現時点における指定被写界深度及び指定合焦エリアを参照してステップS36へ移行する。
【0063】
ステップS36:CPU21は、第2の電子ぼかし処理のサブルーチンを呼び出す。
【0064】
ステップS36−1:CPU21は、指定合焦エリアを指定合焦距離に換算する。ここでいう指定合焦距離は、指定合焦エリアに写っている物体の平均距離のことである。よって、CPU21は指定JPEGファイルに付与されていた距離分布のうち、指定合焦エリアに対応する距離分布を抽出し、抽出された距離分布の平均距離を指定合焦距離として算出すればよい。
【0065】
ステップS36−2:CPU21は、ステップS36−1で算出した指定合焦距離と、上述した指定被写界深度と、指定JPEGファイルに付与されていた距離分布とをフィルタ処理回路15に与え、フィルタ処理を開始させる。
【0066】
フィルタ処理回路15は、CPU21から与えられた指定被写界深度と指定合焦距離と距離分布とに基づき、ボケフィルタ処理で各画素に適用されるボケフィルタを次のとおり作成する。すなわち、フィルタ処理回路15は、各画素に適用されるボケフィルタの合焦度(ぼかし量の小ささ)を、そのボケフィルタの適用先となる画素に写っている物体の距離(距離分布のうちその画素に対応する距離)に依存させる。ここで、フィルタ処理回路15が距離と合焦度との間に与える関係(特性カーブ)は、図13に示すようにピークを有している。この特性カーブの形状自体は、フィルタ処理回路15が予め記憶したとおりであるが、この特性カーブのピーク位置S2は、指定合焦距離に相当する位置に設定され、この特性カーブのピーク幅D2は、指定被写界深度に相当する幅に設定される。なお、この特性カーブのピーク高さは、最大の合焦度(ぼかし量ゼロ)に相当する高さに設定される(図13参照)。
【0067】
したがって、本ステップで作成されるボケフィルタには、被写界深度が指定被写界深度に設定され、かつ合焦距離が指定合焦距離に設定された仮想撮影レンズのボケ味が反映されたことになる。
【0068】
ステップS36−3:フィルタ処理回路15は、ステップS36−2で作成したボケフィルタによりディープフォーカス画像へボケフィルタ処理を施し、ぼかし画像を作成する。但し、本ステップのフィルタ処理回路15は、第2の電子ぼかし処理が再実行されることを想定し、処理前の画像(ディープフォーカス画像)をバッファメモリ13から消去せずに保持し続けるものとする。そして、ぼかし画像の作成が完了すると、フィルタ処理回路15は、ボケフィルタ処理の完了通知と共に、ボケフィルタ処理で使用されたパラメータ(ピーク位置S2及びピーク幅D2)をCPU21へ与える。これを受けたCPU21は、図9のフローへ復帰する。
【0069】
ステップS37:CPU21は、作成されたぼかし画像を、その時点で再生表示中であった画像の代わりに内部モニタ17上に再生表示する。これによって、再生表示中の画像Iが更新されたことになる。
【0070】
なお、更新後の画像Iは、ディープフォーカス画像から作成された仮想画像であるが、再生画面上でユーザが指定したボケ味(被写界深度及び合焦距離)を有している。例えば、図14に示すとおり、ユーザが調整バーBを浅い側(shallow側)に設定し、画面右側に位置する人物上に合焦エリアFA2を描画したとすると、更新後の画像Iでは、図14に示すとおり、その人物及びそれと等距離に位置していた各物体にピントが合い、その人物とは異なる距離に位置していた各物体はぼけることになる。
【0071】
なお、ユーザは、再生表示中の画像Iの被写界深度に不満があれば調整バーBの調整位置を変更し、再生表示中の画像Iの合焦距離に不満があれば合焦エリアFA2を再描画すればよい。つまり、ユーザは、パラメータ(ピーク位置S2及びピーク幅D2)を変更しながら第2のぼかし処理を何度でも電子カメラ1に実行させることができる。
【0072】
ステップS38:CPU21は、入力器23を介してユーザから保存指示が入力されたか否かを判別し、保存指示が入力されていない場合はステップS35に戻り、入力された場合はステップS39へ移行する。
【0073】
ステップS39:CPU21は、現時点で再生表示されている画像(表示用の間引き処理前の画像)をデータ圧縮してJPEGファイルを作成すると共に、直前のボケフィルタ処理で使用されたパラメータ(ピーク位置S2及びピーク幅S2)をそのJPEGファイルに付与してから、カードメモリ20へ書き込み、フローを終了する。これによって、ぼかし画像が保存されたことになる。
【0074】
以上、本実施形態の再生モードでは、ユーザの指定した画像が距離分布付きのディープフォーカス画像であった場合には、ボケ味が可変の電子ぼかし処理をディープフォーカス画像へ施す。
【0075】
そのボケフィルタ処理のパラメータ(ピーク位置S2及びピーク幅D2)は、ユーザが再生画面上で指定した指定被写界深度及び指定合焦距離に応じて設定される。
【0076】
しかも、その際、指定合焦点距離については、再生画面上で描画された合焦エリアから自動的に認識されるので、ユーザによる具体的な距離指定は不要である。
【0077】
したがって、本実施形態の電子カメラ1のユーザは、ユーザの意図したボケ味を有するぼかし画像を、再生画面上の直感的な操作のみで取得することができる。
【0078】
[実施形態の補足]
なお、上述した実施形態の特殊撮影モードでは、撮影時に必ずぼかし画像が作成・保存されたが、その作成・保存の処理(ステップS18、S19)の実行の有無を、ユーザが電子カメラ1へ予め指定できるようにしてもよい。
【0079】
また、上述した実施形態の特殊撮影モード又は再生モードでは、距離分布付きのディープフォーカス画像と、そのディープフォーカス画像から作成されたぼかし画像とを別々に保存したが、両者を互いに関連づけて保存してもよい。例えば、両者を同一のファイルに保存してもよい(その場合は、距離分布付きのディープフォーカス画像に対して1又は複数枚のぼかし画像が付与されることになる。)。
【0080】
また、その場合の再生モードにおいて、少なくとも1つのぼかし画像が関連付けられたディープフォーカス画像が再生対象として指定された場合には、そのディープフォーカス画像を再生表示する代わりに、それに関連付けられたぼかし画像の1つを再生表示してもよい。
【0081】
また、上述した実施形態の再生モードでは、ユーザが指定可能な合焦エリアFA2の形状を矩形としたが(図14参照)、矩形以外の形状(楕円形など)としてもよい。また、合焦エリアFA2の形状をユーザが自由に変更できるようにしてもよい。また、面積を有した合焦エリアFAをユーザに指定させる代わりに、面積を有しない合焦エリア(合焦ポイント)をユーザに指定させてもよい。
【0082】
また、上述した実施形態の再生モードでは、ユーザが1度に指定可能な合焦エリアの個数を1としたが、2以上の複数としてもよい。例えば図15に示すとおり2つの合焦エリアFA3、FA4が指定された場合、ボケフィルタ処理の特性カーブは、例えば図16に示すとおり、合焦エリアFA3に写っている物体(手前の植物)の距離S3と、合焦エリアFA4に写っている物体(右の人物)の距離S4との各々にピークを有した特性カーブとなる。その場合、例えば図17に示すようなぼかし画像が作成される。このぼかし画像では、手前の植物及びそれと等距離に位置していた各物体にピントが合い、右の人物及びそれと等距離に位置していた各物体にピントが合い、その植物及びその人物の何れとも異なる距離に位置していた各物体は、ぼけることになる。
【0083】
また、ユーザが1度に指定可能な合焦エリアの個数が複数である場合は、被写界深度(すなわち特性カーブのピーク幅D)をエリア毎にユーザが調節できるようにしてもよい。
【0084】
また、上述した実施形態の再生モードでは、ボケフィルタ処理の特性カーブの形状を予め決められた形状とし、その特性カーブのピーク位置及びピーク幅のみをユーザに変更させたが、特性カーブの形状自体をユーザに変更させてもよい。
【0085】
また、上述した実施形態の特殊撮影モードでは、フォーカス制御が自動で行われ(AF制御)、露出制御が自動で行われた(AE制御)が、フォーカス制御及び露出制御の少なくとも一方が手動で行われても構わない。また、その露出制御は、半自動(絞り優先AE、シャッター速度優先AEなど)で行われても良い。
【0086】
また、上述した実施形態は、電子カメラの実施形態であったが、再生モードにおける電子カメラの動作を、電子カメラとは別体で設けられた画像処理装置、例えば、電子フォトフレーム、プリンタ、コンピュータなどに実行させてもよい。また、その動作を汎用コンピュータに実行させる場合は、その動作のコンピュータプログラムが通信網又は記憶媒体を介してコンピュータへインストールされることになる。
【符号の説明】
【0087】
1…電子カメラ、11…撮像素子、12…信号処理回路、13…バッファメモリ、14…画像処理回路、15…フィルタ処理回路、16…表示制御回路、17…内部モニタ、18…圧縮・伸張回路、19…カードインタフェース、21…CPU、22…撮像回路、23…入力器、24…外部接続端子、30…距離分布センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影光学系の被写界深度及び合焦距離の組み合わせを、予め決められたディープフォーカス用の組み合わせに設定する設定手段と、
設定された前記組み合わせの下で前記撮影光学系が被写界を投影して形成した画像である実画像を取得する撮像手段と、
前記実画像の取得元となった前記被写界の距離分布を測定する測定手段と、
前記実画像に対して前記距離分布を対応付けたものを、前記被写界の撮影データとして記録する記録手段と
を備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の撮像装置において、
仮想撮影光学系の被写界深度及び合焦距離の組み合わせをユーザに指定させるインタフェース手段と、
指定された前記組み合わせの下で前記仮想撮影光学系が前記被写界を投影した場合に形成される画像である仮想画像を前記撮影データに基づき作成する作成手段と
を備えたことを特徴とする撮像装置。
【請求項3】
請求項2に記載の撮像装置において、
前記インタフェース手段は、
前記被写界深度を前記ユーザに指定させる代わりに前記仮想撮影光学系の絞り値及びズーム位置の組み合わせを指定させ、指定された前記組み合わせを前記仮想撮影光学系の被写界深度に換算し、換算された被写界深度を前記ユーザが指定した被写界深度とみなす
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の撮像装置において、
前記インタフェース手段は、
前記合焦距離を前記ユーザに指定させる代わりに前記被写界内の合焦対象を前記ユーザに指定させ、指定された合焦対象の距離を前記距離分布に基づき算出し、算出された距離を前記ユーザが指定した合焦距離とみなす
ことを特徴とする撮像装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の撮像装置が記録した前記撮影データを入力するデータ入力手段と、
仮想撮影光学系の被写界深度及び合焦距離の組み合わせをユーザに指定させるインタフェース手段と、
指定された前記組み合わせの下で前記仮想撮影光学系が前記被写界を投影した場合に形成される画像である仮想画像を前記撮影データに基づき作成する作成手段と
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載の画像処理装置において、
前記インタフェース手段は、
前記合焦距離を前記ユーザに指定させる代わりに前記被写界内の合焦対象を前記ユーザに指定させ、指定された合焦対象の距離を前記距離分布に基づき算出し、算出された距離を前記ユーザが指定した合焦距離とみなす
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の撮像装置が記録した前記撮影データを入力するデータ入力手順と、
仮想撮影光学系の被写界深度及び合焦距離の組み合わせをユーザに指定させるインタフェース手順と、
指定された前記組み合わせの下で前記仮想撮影光学系が前記被写界を投影した場合に形成される画像である仮想画像を前記撮影データに基づき作成する作成手順と
をコンピュータに実行させることを特徴とする画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−249923(P2011−249923A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118511(P2010−118511)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】