説明

撮像装置

【課題】 反射型赤外カットフィルタを用いてもカットオフ光によるゴースト発生を防止できる。
【解決手段】 CCD撮像素子11と、被写体像を撮像素子11の撮像面14に結像する集光レンズ12と、撮像素子11と集光レンズ12との間に配置されて撮像面14に入射する光の分光特性を調節するための反射型赤外カットフィルタ13とを備えた撮像装置において、反射型赤外カットフィルタ13を撮像素子11の撮像面14に対して傾けて配置することにより、撮像面14で反射し更にフィルタ13で反射した光が再び撮像面14に戻るのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、CCD等の撮像素子を用いた撮像装置に係わり、特に撮像素子に入射する光の分光特性を調節するための反射型赤外カットフィルタを備えた撮像装置に関する。
【0002】
【従来の技術】CCD等の撮像素子には、一般にRGBのうちのR領域の感度が高いという分光感度特性がある。そこで、撮像素子を用いた撮像装置においては、撮像素子の前段に赤外カットフィルタを配置している。
【0003】赤外カットフィルタとしては、色素を混入した色ガラスのように吸収型のものとコーディングによる分光反射を利用した反射型のものがある。吸収型のものは、吸湿性による特性劣化が生じやすく、厚さも大きくコストも高いことから、反射型のものが有望視されている。図1に、撮像素子11と集光レンズ12との間に反射型赤外カットフィルタ13を挿入した例を示す。なお、図中の14は撮像素子11の受光面(撮像面)、15は赤外カットフィルタ13のフィルタ面である。
【0004】ところで、この種の反射型赤外カットフィルタを用いた撮像装置においては、例えば信号機等を撮像すると赤のゴーストが強く現れる現象がある。本発明者らは、赤のゴーストが現れる現象について考察したところ、次のような事実を見出した。即ち、反射型赤外カットフィルタの特性の一例は図2に示すように、400〜620nm付近の波長を透過するが、640nmを越える波長に対しては透過率が急峻に低くなっている。ここで、過度領域即ち630nm付近における透過特性(反射特性)は、急峻ではあるもののある程度の傾斜を持つ。つまり、この傾斜領域は極めて限られた領域であるが、ここでは赤外領域の光がかなり透過することになる。
【0005】このように、赤外領域の光は大部分は反射型赤外カットフィルタ13でカットされるものの、一部は透過して撮像素子11の受光面14に入る。そして、撮像素子11の受光面14で反射した赤外領域の光は、反射型赤外カットフィルタ13のフィルタ面15により反射され再び受光面14に入ることになり、これがゴースト像を発生する要因となる。この様子を図3に示す。ゴースト像を形成する被写体の各点像の散乱円の大きさδは、受光面14とフィルタ面15との距離をd、レンズ12の開口値をFとすると、δ=2d/Fとなる。
【0006】上記のゴーストの強度は、受光面14の分光反射率を別にすれば、T(λ)R(λ)=T(λ){1−T(λ)}
に比例するから、t≒0.5で最大となる。言い換えれば、過度領域ではT(λ)とR(λ)の何れか一方がほぼ0となるのでゴーストは生じることがないが、過度領域即ちカットオフ周波数近傍では特に強いゴーストを生じる、という特徴的な現象が存在している。そして、赤外カットの目的が色調整(撮像分光感度特性の最適化)にある場合には、これに対応するカットオフ波長λc0が例えば630nm等、感度領域に入らざるを得ない。
【0007】なお、光の周波数(振動数)νと波長λは、当該媒質中の高速度Cを仲立ちにしてC=λ・νの関係で1対1に対応するところから、本明細書記載においては慣用に基づき、文脈によりこれらを同一視して使用する。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】このように従来、反射型赤外カットフィルタを用いた撮像装置においては、フィルタの目的から必然的にカットオフ周波数が撮像素子の有効感度領域にあるため、カットオフ周波数近傍の波長の光源に対して特徴的なゴースト像を生じる問題があった。
【0009】本発明は、上記事情を考慮して成されたもので、その目的とするところは、反射型赤外カットフィルタを用いてもカットオフ光によるゴースト発生を防止できる撮像装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】(構成)上記課題を解決するために本発明は次のような構成を採用している。
【0011】即ち本発明は、撮像素子と、被写体像を前記撮像素子の撮像面に結像する撮像光学系と、前記撮像光学系と撮像素子との間に介挿された前記撮像面に入射する光の分光特性を調節するための反射型赤外カットフィルタとを備えた撮像装置において、前記反射型赤外カットフィルタは、そのカットオフ周波数が前記撮像素子の有効感度領域にあり、且つ前記撮像面に対して傾けて配置されたものであることを特徴とする。
【0012】ここで、本発明の望ましい実施態様としては次のものがあげられる。
【0013】(1) 反射型赤外カットフィルタと撮像素子との傾け角θは、傾け方向に対する撮像面長さをh、フィルタ反射面と撮像面との距離をdとしたとき、tan2θ≧h/dを満たすものであること。
【0014】(2) 反射型赤外カットフィルタと撮像素子との傾け角θは、45度であること。
【0015】(3) 反射型赤外カットフィルタを、ファインダ用分岐可視ハーフミラーと兼用したこと。
【0016】(4) 反射型赤外カットフィルタを、一眼レフファインダでクイックリターンミラーの下の空きスペースに配置したこと。
【0017】(作用)本発明によれば、反射型赤外カットフィルタを撮像面に対して傾けて配置することにより、撮像面で反射されフィルタで反射した光が再び撮像面に戻るのを防止することができ、これによりカットオフ光によるゴースト発生を防止することが可能となる。
【0018】ここで、反射型赤外カットフィルタと撮像素子との傾け角θを、tan2θ≧h/d(hは傾け方向に対する撮像面長さ、dはフィルタ反射面と撮像面との距離を)を満たすように設定することにより、カットオフ光の撮像面への再入射をより確実に防止することができる。また、反射型赤外カットフィルタを、ファインダ用分岐可視ハーフミラーと兼用することにより、構成の簡略化をはかることが可能となる。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明の詳細を図示の実施形態によって説明する。
【0020】(第1の実施形態)図4は、本発明の第1の実施形態に係わる撮像装置の光学系構成を示す図である。図中の11はCCD撮像素子、12は撮像素子11の受光面(撮像面)に被写体像を結像するためのレンズ、13は撮像素子11とレンズ12との間に挿入された反射型赤外カットフィルタ(カットオフ波長630nm)を示している。また、14は撮像素子の受光面(撮像面)、15は反射型赤外カットフィルタ13のフィルタ面を示している。
【0021】ここで、反射型赤外カットフィルタ13は光軸に対して垂直(撮像面と平行)から僅かに傾けて配置されている。この傾きにより、反射型赤外カットフィルタ13を透過し撮像素子11の受光面で反射し、さらにフィルタ13で反射した赤外光が撮像素子11に再び入射するのを防止している。
【0022】図5は、反射型赤外カットフィルタ13の傾きを如何にして設定するかを説明するための図である。ここでは、計算を簡単にするために、テレセントリック光学系を仮定し、また主光線について解析する。
【0023】反射型赤外カットフィルタ13を透過し撮像素子11の受光面14で反射し、さらに反射型赤外カットフィルタ13のフィルタ面15で反射した光が再度受光面14に入らないためには、受光面14の最上部で反射しフィルタ面15で再反射した光が受光面14の最下部よりも下に進行すればよいことから、フィルタ面15の傾きをθ、受光面14の高さをh、フィルタ面15から受光面14までの距離をdとしたとき、d・tan2θ≧hを満たすようにθを定めればよい。θ=45度であればd及びhの値に拘わらずこの条件を満たすことができるから、この場合を第1の実施形態の一つの好適実施例として挙げることができる。これに対して、この式が許す範囲でθをなるべく小さな値、例えばθ={tan-1(h/d)}/2とすれば、フィルタを傾けるために必要な光軸方向のスペースをより小さくすることができるから、これはまた第1の実施形態の他の一つの好適実施例である。
【0024】このように本実施形態によれば、撮像素子11とレンズ12との間に挿入された反射型赤外カットフィルタ13を撮像素子11の撮像面14に対して傾けて配置することにより、撮像面14で反射されフィルタ面15で再反射した光が再び撮像面14に戻るのを防止することができる。このため、反射型赤外カットフィルタ13を用いてもカットオフ光によるゴースト発生を防止することができる。また、格別の構成を付加する必要はなく、反射型カットフィルタ13を傾けるのみの簡易な構成で実現し得る利点がある。
【0025】(第2の実施形態)図6は、本発明の第2の実施形態に係わる撮像装置の光学系構成を示す図である。なお、図1と同一部分には同一符号を付して、その詳しい説明は省略する。
【0026】本実施形態では、反射型赤外カットフィルタ13を45度傾け、被写体側から来た光の一部をこのフィルタ13で反射し光学ファインダに導いている。つまり、反射型赤外カットフィルタ13を光学ファインダのためのハーフミラーとして用いている。
【0027】ここで、反射型赤外カットフィルタ13の透過率特性を、図7に示すように、620nmまでは70%とし、それを越えると急激に小さくなるようにすれば、約7割の光は撮像素子11の受光面14側に入り、通常通りの撮像が可能であり、約3割の光はファインダ側に入り、被写体像を確認することができる。なおこの場合、ファインダから見た像は若干赤くなるが、被写体像の確認のためには殆ど問題とならない。
【0028】このように本実施形態によれば、先に説明した第1の実施形態と同様の効果が得られるのは勿論のこと、反射型赤外カットフィルタ13を光学ファインダのためのハーフミラーとして用いることができ、これにより構成の簡略化をはかることができる。
【0029】なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。反射型赤外カットフィルタのカットオフ波長は630nmに限定されるものではなく、使用する撮像素子の特性に応じて適宜変更可能である。また、撮像素子はCCDに限るものではなく、仕様に応じて適宜変更可能である。
【0030】また、図8に示すように、一眼レフファインダにおいてクイックリターンミラー31を用いる場合、ミラー31の下の空きスペースに、例えば45度の板状部材の形で反射型赤外カットフィルタ13を挿入すれば、フィルタを傾けるために光軸方向のスペースを新たに必要としないため極めて好適である。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。
【0031】
【発明の効果】以上詳述したように本発明によれば、撮像素子の受光面に入射する光の分光特性を調節するための反射型赤外カットフィルタを撮像面に対して傾けて配置することにより、受光面における反射光がフィルタで反射して再度受光面に入るのを防止でき、反射型赤外カットフィルタを用いてもカットオフ光によるゴースト発生を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】撮像素子と集光レンズとの間に反射型赤外カットフィルタを挿入した従来例を示す図。
【図2】反射型赤外カットフィルタの光学特性を示す図。
【図3】図1の構成においてゴースト像を発生する様子を示す図。
【図4】第1の実施形態に係わる撮像装置の光学系構成を示す図。
【図5】第1の実施形態において反射型赤外カットフィルタの傾きを如何にして設定するかを説明するための図。
【図6】第2の実施形態に係わる撮像装置の光学系構成を示す図。
【図7】第2の実施形態に用いた反射型赤外カットフィルタの光学特性を示す図。
【図8】本発明の変形例を示す図。
【符号の説明】
11…CCD撮像素子
12…集光レンズ
13,23…反射型赤外カットフィルタ
14…受光面(撮像面)
15…フィルタ面
31…クイックリターンミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】撮像素子と、被写体像を前記撮像素子の撮像面に結像する撮像光学系と、前記撮像光学系と撮像素子との間に介挿された前記撮像面に入射する光の分光特性を調節するための反射型赤外カットフィルタとを具備してなり、前記反射型赤外カットフィルタは、そのカットオフ周波数が前記撮像素子の有効感度領域にあり、且つ前記撮像面に対して傾けて配置されたものであることを特徴とする撮像装置。
【請求項2】前記反射型赤外カットフィルタと前記撮像素子との傾け角θは、傾け方向に対する撮像面長さをh、フィルタ反射面と撮像面との距離をdとしたとき、tan2θ≧h/dを満たすものであることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】前記反射型赤外カットフィルタと前記撮像素子との傾け角θは、45度であることを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項4】前記反射型赤外カットフィルタを、ファインダ用分岐可視ハーフミラーと兼用したことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2001−218106(P2001−218106A)
【公開日】平成13年8月10日(2001.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−22759(P2000−22759)
【出願日】平成12年1月31日(2000.1.31)
【出願人】(000000376)オリンパス光学工業株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】