説明

撮像装置

【課題】 画角による赤外カットの半値波長のシフト量が少なく、画面中心から画面周辺に至る広い範囲にわたり良好なる画質の画像情報が得られる撮像装置を得ること。
【解決手段】 画像情報を結像光学系によって、一方向に長い矩形状の受光部を有する受光手段に結像させて前記画像情報を得る撮像装置において、光路中に入射光束の分光特性を変化させて出射させる機能を有する多層膜を平行平板に施した分光特性調整手段を有し、
該分光特性調整手段は、前記一方向であって前記結像光学系の光軸に対し垂直方向の軸を回転軸として、該光軸に対して傾いて配置されており、該光軸に対する前記分光特性調整手段の面法線とのなす角度をα、前記受光手段に入射する光束のうち、最軸外主光線と光軸とのなす角度をθとするとき、
0.3θ<α
なる条件を満足すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像情報を結像光学系によって一方向に長い受光部より成る受光手段に結像させて画像情報を得るのに好適な撮像装置に関する。例えば走査光学系ユニットを用いて原稿の画像情報を読取るようにした、イメージスキャナーやデジタル複写機の装置に好適な画像読取装置や被写体を固体撮像に結像するカメラ等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりビデオカメラやデジタルスチルカメラ等のカメラやイメージスキャナー等の画像読取装置では画像情報を結像光学系によって受光手段に結像させ、受光手段で得られた信号より画像情報を得ている。カメラや画像読取装置等においては、対象となる画像情報を受光手段に結像するとき可視域以外の波長の光束、特に紫外光や赤外光が受光手段に到達することがある。そうすると受光手段に結像される画像情報の分光特性が観察したのと異なってくる。
【0003】
例えば受光手段で得られる画像情報の色味が実際に観察される画像情報の色味と異なってくる。このときの色味の差を軽減するための手段を光路中に設けた結像光学系が知られている(特許文献1、2)。特許文献1では、結像光学系を構成するレンズのレンズ面に赤外光をカットする光学膜を蒸着することによって赤外光を除去し、原稿面上の画像情報を高精度に読み取るようにした原稿読取装置が開示されている。特許文献2では特定波長のみを透過、または反射する高分子多層膜を有する分光特性調整手段を光路内に設けた画像読取装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−304918号公報
【特許文献2】特開2006−74575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
曲率を持つレンズ面に対し所望の多層膜を形成し、赤外光を遮光する方法は、新たな光学素子を必要とせず、装置全体の小型化には有利であるが、レンズ面に多層膜を均一に形成するのが難しい。一方、赤外光をカットする多層膜を透明な平行基板に施した光学素子を光路中に配置する方法は、多層膜の形成が容易で比較的容易に赤外光をカットすることができる。一般に多層膜を形成した光学素子を用いて赤外光をカットする方法は、多層膜の光学性質より光学素子への光束の入射角度によって透過率が半分(50%)となる半値波長が異なってくる。
【0006】
従ってこのような多層膜を有した光学素子を結像光学系に用いると、光軸上と軸外の位置において赤外光をカットする半値波長が異なってきて、画面中心と画面周辺において色味が異なってくる。
【0007】
この結果、画面全体で良好なる画質を得ることが難しくなる。例えば画像読取装置における結像光学系によって読み取るカラー画像情報は画面中心と画面周辺で色味が異なってきて画像情報を高精度に読み取ることが困難になる。またカメラにおいては画面中心と画面周辺とで色味が異なってきて高画質のカラー画質を得るのが困難になる。
【0008】
このため多層膜を用いた分光特性調整手段を光路中に用いて赤外光が受光手段に入射するのを軽減させる結像光学系においては、結像光学系に種々な画角の光束が入射しても赤外カットの半値波長のシフト量が画面全体にわたり少ないことが重要になってくる。
【0009】
本発明は、画角による赤外カットの半値波長のシフト量が少なく、画面中心から画面周辺に至る広い範囲にわたり良好なる画質の画像情報が得られる撮像装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の撮像装置は、画像情報を結像光学系によって、一方向に長い矩形状の受光部を有する受光手段に結像させて前記画像情報を得る撮像装置において、光路中に入射光束の分光特性を変化させて出射させる機能を有する多層膜を平行平板に施した分光特性調整手段を有し、
該分光特性調整手段は、前記一方向であって前記結像光学系の光軸に対し垂直方向の軸を回転軸として、該光軸に対して傾いて配置されており、該光軸に対する前記分光特性調整手段の面法線とのなす角度をα、前記受光手段に入射する光束のうち、最軸外主光線と光軸とのなす角度をθとするとき、
0.3θ<α
なる条件を満足することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、画角による赤外カットの半値波長のシフト量が少なく、画面中心から画面周辺に至る広い範囲にわたり良好なる画質の画像情報が得られる撮像装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1の画像読取装置の要部概略図である。
【図2】分光特性調整手段の分光特性の説明図である。
【図3】分光特性調整手段の回転による入射角変化の説明図である。
【図4】分光特性調整手段の分光特性の説明図である。
【図5】分光特性調整手段の回転角と入射角度差の変化の説明図である。
【図6】アス量の導出についての説明図である。
【図7】実施例2のカメラの要部概略図である。
【図8】分光特性調整手段の分光特性の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を、添付の図面に基づいて詳細に説明する。本発明の撮像装置は、被写体や原稿面上の原稿データ等の画像情報を結像光学系によって、一方向に長い矩形状の受光部を有する1次元センサーやイメージセンサー等の受光手段に結像させて画像情報を得るカメラや画像読取装置である。
【0014】
撮像装置は、光路中に入射光束の分光特性を変化させて出射させる機能を有する多層膜を平行平板に施した分光特性調整手段を有している。分光特性調整手段は、一方向(カメラのときは水平方向又は画像読取装置のときは主走査方向)であって結像光学系の光軸に対し垂直方向の軸を回転軸として、光軸に対して傾いて配置されている。光軸に対する分光特性調整手段の面法線とのなす角度をα、受光手段に入射する光束のうち、最軸外主光線(画面周辺に入射する光束の主光線)と光軸とのなす角度をθとするとき、
0.3θ<α
なる条件を満足している。
【0015】
画像読取装置のとき受光手段は、主走査方向に複数の画素を配列した1次元センサーを、光軸に対し直交し、かつ主走査方向と直交する副走査方向に複数配列した構成よりなっている。カメラのとき受光手段は水平方向に長い矩形状のイメージセンサーより成っている。
【0016】
[実施例1]
図1は本発明の実施例1の撮像装置をキャリッジ一体型の画像読取装置(フラットベッドスキャナー)に適用したときの要部概略図である。
【0017】
図1において、1は画像読取装置の本体である。102は原稿台ガラスであり、その面上に原稿101が載置されている。108はキャリッジであり、照明手段としての照明光源107、複数の反射ミラー(103a〜103e)103、結像光学系(結像レンズ)105、分光特性調整手段104、そして読取手段106等を保持している。キャリッジ108はモータなどの副走査機構Moにより図1中の副走査方向(A方向)へ走査し、読取手段106によって原稿101の画像情報を2次元的に読み取っている。尚、キャリッジ108は、原稿台ガラス101と相対的に副走査方向へ移動させれば良い。
【0018】
読み取られた画像情報は不図示のインターフェイスを通じて外部機器であるパーソナルコンピューターなどに送られる。照明手段107は図中記載の主走査方向に並んだ冷陰極管又はハロゲンランプからなり、各反射ミラー103a〜103eは各々順に原稿101からの光束の光路をキャリッジ108内部で折り曲げている。結像レンズ105は原稿101の1次元方向又は矩形領域からの光束をラインセンサー又はイメージセンサーよりなる読取手段106面上に結像させている。
【0019】
読取手段106はR、G、B光を受光する主走査方向に複数の画素を配列した少なくとも3つのラインセンサー(1次元センサー)を有している。読取手段106の画素の並び方向(紙面垂直方向)が主走査方向である。分光特性調整手段104は多層膜を透明基板に形成して構成されており、結像レンズ105と読取手段106との間の光路内に、その多層膜構成面が主走査方向に平行な軸を中心に回転して光軸105aに対して所定の角度αで配置されている。尚、分光特性調整手段104は原稿101と読取手段106との間の光路中であれば、どこに配置しても良い。
【0020】
分光特性調整手段104は波長約700nm以上の波長領域の光(赤外光)を減光することで、本来可視領域ではない赤外光を読取手段106の1つのラインセンサーのR列が受光するのを防止し、出力画像の色味が原稿の色味と異なることを防止している。本実施例における分光特性調整手段104は赤外領域の光を減じるよう設定され、0゜および23゜の入射光に対する分光透過率は図2のようになっており、入射角によって半値波長のシフトが起こっている。
【0021】
これは、画角(入射角度)が付くことで分光特性調整手段104中の光路長、および屈折角度が変化し、一般的に垂直入射に比べて入射角度の付いた光線の半値波長は短波長側に移動する傾向がある。ここで、分光特性調整手段104を主走査方向に平行な軸を中心に回転して配置する技術的な理由について説明する。
【0022】
分光特性調整手段104の多層膜構成面を光軸に対して垂直に配置した場合、本実施例における結像光学系105の主走査画角によって光軸上から最軸外にかけて約23゜の入射角差が生じる。分光特性調整手段104の半値波長は図2から入射角0゜のとき約675nm、入射角23゜の場合約639nmであり、軸上と軸外にかけてカット波長が36nm異なり、出力画像も軸上と軸外で色味の異なった画像になる可能性がある。
【0023】
そこで、分光特性調整手段の多層膜構成面を主走査方向に平行な軸を中心に10゜回転して配置すると、図3に示すように軸上での入射角は10゜、軸外での入射角は24.7゜となる。そして、分光特性調整手段104に対する軸上と軸外での入射角度の差は14.7゜と小さくなる。入射角10゜と、14.7゜の場合の分光透過率は図4のようになり、画角0゜の場合半値波長は668nm、画角23゜の場合半値波長は655nmである。これによって主走査方向の半値波長のシフトは赤外カット波長のシフトが約13nmとなり、分光特性調整手段104を回転しない場合に比べて50%以上低減される。
【0024】
分光特性調整手段104に対する主走査方向の最軸外画角θの主光線の入射角度φは、傾け角αに対して
【0025】
【数1】

【0026】
で表され、これをグラフにすると図5のようになる。図5は縦軸が分光特性調整手段104を傾けた際の軸上−軸外入射角度差であり、横軸が分光特性調整手段104の傾け角である。
【0027】
グラフには、画角30゜の場合、画角20゜、画角10゜の場合の相関をプロットしており、分光特性調整手段104を傾けるほど軸上−軸外入射角度差が小さくなることが分かる。また、入射角度差、つまり半値波長シフトを70%に低減させるには傾け角αをα≒0.3θとすることが有効であり、さらにより望ましくはα>0.67θとして半値波長シフトを50%程度低減すると、出力画像における色味のムラがより有効に低減される。
【0028】
また、分光特性調整手段104を傾けたことによって副走査方向の半値波長のシフトは悪化するが、一般的に画像読取装置のラインセンサーは副走査方向に各色の複数のラインセンサーが並んでいるため、主走査方向の色むらが改善できれば補正は容易である。
【0029】
ただし、分光特性調整手段104に入射する光線が平行光ではない場合、傾けすぎると非点収差(アス)が生じ、結像性能を低下させるため、少なくとも軸上でのアスが一定量以下になるよう設定することが望ましい。アス量は、ここでは主走査方向、副走査方向の波面収差の差で表わす。図6(A),(B)のように、分光特性調整手段104の位置における光軸105aに対する分光特性調整手段104の面法線角度をα、分光特性調整手段104の厚さをdとする。波長587.6nmの光での屈折率をnd、分光特性調整手段104に入射する軸上光束のNAをNAiとする。
【0030】
このとき分光特性調整手段104中の波長587.6nmの光での軸上主光線における主走査方向のマージナル光線701の光路長は
【0031】
【数2】

【0032】
となり、同様に副走査方向マージナル光線702の光路長は、上下の平均を取って
【0033】
【数3】

【0034】
と表すことができる。よってアス量はこの差の絶対値を波長で割って
【0035】
【数4】

【0036】
で表される。結像性能を低下させないためには、この光学系におけるアス量は5λ以下であることが望ましい。
【0037】
本実施例においては、d=1.1mm、Nd=1.516、Nai=0.4782゜、α=10゜より、アス量は1λ程度であり、許容範囲内と考えることができる。
【0038】
[実施例2]
図7(a)は本発明の実施例2の撮像装置をデジタルカメラに適用したときの要部概略図である。図7(a)において被写体からの光は結像レンズ801をとおしてフィルムや2次元センサー(イメージセンサー)といった受光手段802に結像される。分光特性調整手段803は図示しない被写体と受光手段802との間の光路上で、水平方向な軸804を中心に10゜回転して配置されている。
【0039】
ここで、分光特性調整手段803を光軸801aに対して垂直に配置した場合、図7(b)のように光軸801aと交わる位置での入射角度は0゜、垂直方向端部では1゜となり、1゜の入射角差が生じる。これに対し、受光手段802の四隅に相当する最軸外の通過位置では30.01゜となり、軸上に対して30.01゜の入射角度差がつく。
【0040】
本実施例における分光特性調整手段803の分光透過率は、垂直入射の場合、図8のようになっており、半値となる波長は入射角0゜のとき約675nmである。分光特性調整手段803に対する入射角が大きくなると、実施例1の場合と同様に半値波長は短波長側にシフトする。このとき図10のように入射角1゜の場合約674.3nm、入射角30.01゜の場合約654nmであり、垂直方向でのカット波長差が0.7nm、対角方向でのカット波長差が21nmとなる。このカット波長差のため、出力画像において垂直方向に比べて対角方向に色むらの大きい画像になる可能性がある。
【0041】
そこで、分光特性調整手段803を水平方向に平行な軸を中心に回転して配置すると、回転後最も入射角が大きくなる位置806での入射角θmaxは幾何的に求められる。すなわち分光特性調整手段803を光軸801aに対し垂直に配置した場合の分光特性調整手段803における、長辺方向端部に入射する光線の入射角をθ、短辺方向端部に入射する光線の入射角θとする。このとき、
【0042】
【数5】

【0043】
となる。
【0044】
図8(a)のように分光特性調整手段803を角度αとして10゜回転させた場合、入射角の最も小さい位置805の入射角度θはθ=α−θ=9゜、最も入射角が大きくなる位置806での入射角θmaxは31.34゜となる。また、α>θのとき、画角の狭い方向での入射角差は2θとなるのに対し、受光手段802の四隅に相当する位置806と入射角の最も小さい位置805との入射角度の差Δθは
【0045】
【数6】

【0046】
となる。
【0047】
これにより画角の狭い垂直方向では9°と11°の2゜の入射角差となる対し、受光手段802の四隅に相当する位置806と入射角の最も小さい位置805との入射角度の差Δθは22.34゜となる。
【0048】
分光特性調整手段803のカット波長は表1から入射角9゜のとき約669nm、入射角11゜の場合約667.5nm、入射角31.34゜の場合約653.6nmである。そして垂直方向でのカット波長差が0.7nm、対角方向でのカット波長差が21nmとなる。よって垂直方向でのカット波長差が1.5nm、対角方向でのカット波長差が15.4nmとなり、分光特性調整手段803を回転させたことにより、画角の広い水平方向の半値波長差を74%程度に改善することができる。
【0049】
受光手段802内の半値波長のムラを低減することによって色味のムラを改善することを考えると、入射角度差が最も大きい方向について、80%程度に低減できると効果があり、より効果を上げるためには70以下とすることが適当である。分光特性調整手段803を傾ける角度は、大きいほどより面内の半値波長ムラを改善することができるが、分光特性調整手段803に入射する光線の発散、集束度によっては、傾けたことによる波面収差の劣化が実施例1と同様に発生することが考えられる。このため、その撮像装置として許容できる範囲内とすればよい。
【0050】
【表1】

【0051】
以上、各実施例によれば平行平板の光学フィルタを用いつつ、画角による分光分布ムラを低減することができ、高画質の画像情報が得られるカメラや画像読取装置が得られる。
【0052】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
101 原稿 102 原稿台ガラス 103 折り返しミラー
104 分光特性調整手段 105 結像レンズ 106 読取手段
107 光源手段 108 キャリッジ 801 結像レンズ
802 受光手段 803 分光特性調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像情報を結像光学系によって、一方向に長い矩形状の受光部を有する受光手段に結像させて前記画像情報を得る撮像装置において、光路中に入射光束の分光特性を変化させて出射させる機能を有する多層膜を平行平板に施した分光特性調整手段を有し、
該分光特性調整手段は、前記一方向であって前記結像光学系の光軸に対し垂直方向の軸を回転軸として、該光軸に対して傾いて配置されており、該光軸に対する前記分光特性調整手段の面法線とのなす角度をα、前記受光手段に入射する光束のうち、最軸外主光線と光軸とのなす角度をθとするとき、
0.3θ<α
なる条件を満足することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記受光手段は、前記一方向に複数の画素を配列した受光部を光軸に対し直交し、かつ該一方向と直交する方向に複数配列した構成よりなることを特徴とする請求項1の撮像装置。
【請求項3】
前記受光手段は前記一方向に長い矩形状のイメージセンサーより成ることを特徴とする請求項1の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−165242(P2012−165242A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24903(P2011−24903)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】