説明

擁壁用ブロック

【課題】勾配が変化する法面に応じて、ブロックの位置が前後にずれることなく上下方向の位置ずれを小さくし、容易に上下方向に隣接配置することができる擁壁用ブロックを提供する。
【解決手段】擁壁の露出面側を構成する正面体2と、正面体2の背面から後方へ突出する脚体部3とを備え、少なくとも上下方向に複数個を隣接配置して擁壁を形成する擁壁用ブロック1,21において、下位の擁壁用ブロック21に対して上位の擁壁用ブロック1を前後方向に傾斜させて連接するための接合手段を、正面体の上端面および下端面に設け、接合手段として、正面体の上端面4aを円弧面とし、下端面4bに上端面4aが転動可能に当接する平面部を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造成地等の法面に擁壁を構築するためのコンクリートブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、造成地等における擁壁工事において曲面を有する法面においてブロックを積み上げる場合に、隣接するブロックの間に隙間が生じたり、位置がずれたりする等の問題が発生している。一方、そのような曲面を有する法面において規則正しく並ぶ擁壁面を形成する方法として、ブロックの形状に特徴を持たせて解決が図られているものがある(例えば特許文献1〜3。)。
【0003】
特許文献1のブロックは、カーブ状の擁壁を形成するために、両ブロックの両側端面どうしを適宜当接させて組み合わせ、適宜前後方向に移動させたり、わずかに回転させたりすることにより、幅寸法を適宜変化させてカーブに対応した擁壁を築造できるものである。
【0004】
特許文献2のブロックは、隣接したブロックを上下方向に細長い面ないし線で接触させた状態で配置することで左右方向の位置のずれを解消するものであり、また、上下方向に湾曲した法面におけるずれにより隙間が発生した場合には、板片を差し込むことにより傾きの相違を吸収している。
【0005】
特許文献3のブロックは、水平方向に連接側端面の一方を円弧状凸面とし他方を円弧状凹面として隣り合うブロックと面接触するものであり、また、上下方向においても同様に連接側端面の一方を円弧状凸面とし他方を円弧状凹面として隣り合うブロックを面接触させることで、法面の勾配や湾曲度に応じてブロックの微調整が可能としている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−32012号公報
【特許文献2】特開2000−336674号公報
【特許文献3】実開平6−74645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のブロックは、水平方向に曲率がある法面においては擁壁を配置することができるが、勾配が変化する法面においては対応できるものではなく、ブロックを設置した場合には上下方向に位置ずれや隙間が生じてしまう。
【0008】
特許文献2のブロックは、勾配が変化する法面における位置ずれにより隙間が発生した場合には、板片を差し込むことにより傾きの相違を吸収している。しかしながら、位置ずれ自体は解消できるものではなく、また上下方向のずれに対して逐一隙間を確認しながら板片を差し込むのは手間がかかり、板片も別途準備する必要がある。
【0009】
特許文献3のブロックは、ブロックの形状が略直方体状であるためブロックの重量が嵩み、作業効率が劣る。また、ブロックの接触面が広いため、位置の微調整をする際には接触面における摩擦が大きく、ブロックを移動しにくい。
【0010】
また、特許文献1〜3のような従来の擁壁用ブロックを上下に隣接配置したときの模式図を図19に示す。説明を簡単にするために、擁壁用ブロックを下位、中位、上位に隣接配置した時に、図19(a)は勾配が一定である場合、図19(b)は中位ブロック92bが15°前方に傾斜した場合、図19(c)は中位ブロック92cが15°後方に傾斜した場合を示している。図19(a)において、下位ブロック93aの上端面の中心位置と上位ブロック91aの下端面の中心位置との距離はαである。図19(b)において、下位ブロック93bの上端面の中心位置と上位ブロック91bの下端面の中心位置との距離はβとなる。この時、傾斜による誤差β’が発生するため、距離βは距離αと誤差β’の和となる。同様に、図19(c)において、下段ブロック93cの上端面の中心位置と上段ブロック91cの下端面の中心位置との距離はγとなる。この時、傾斜による誤差γ’が発生するため、距離γは距離αと誤差がγ’の和となる。
【0011】
従って、擁壁用ブロック端面の中心位置間の距離は、勾配が一定の場合には一定の距離αを保ちながら擁壁用ブロックが配置されるが、前方または後方に傾斜する場合には、距離βまたは距離γ、即ち、誤差β’または誤差γ’を発生しながら配置されることとなる。このため、法面において位置ずれが発生して法面全体として歪みが発生し、擁壁を構築できないという問題がある。また、誤差β’,γ’を修正するために、図19(b),(c)において、中位ブロック92b,92cを下位ブロック93b,93cの上端面上にて前方または後方へ摺動させて上下の位置の誤差を修正することは、擁壁用ブロック間の前後のずれが発生すること、位置調整の作業が繁雑となること等から、好ましくない。
【0012】
そこで本発明の解決しようとする課題は、傾斜角度が一定でない曲面状の法面に沿って擁壁を容易に構築することのできる擁壁用ブロックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の擁壁用ブロックは、擁壁の露出面側を構成する正面体と、正面体の背面から後方へ突出する脚体部とを備え、少なくとも上下方向に複数個を隣接配置して擁壁を形成する擁壁用ブロックにおいて、下位の擁壁用ブロック対して上位の擁壁用ブロックを前後方向に傾斜させて連接するための接合手段を、正面体の上端面および下端面に設けたことを特徴とする。
【0014】
このような構成とすれば、当該擁壁用ブロックを上下方向に隣接配置する時、下位の擁壁用ブロック対して上位の擁壁用ブロックを前後方向に傾斜させて配置することが可能となるため、傾斜角度が一定でない曲面状の法面に沿って擁壁用ブロックを隣接配置することが可能となり、法面に沿った擁壁を構築することができる。
【0015】
ここで、接合手段として、正面体の上端面、下端面の一方に凸状部を設け、他方に凸状部が摺動可能に係合する凹状部を設ければ、凸状部と凹状部とが互いに係合することにより、外部からの力が加わったときにずれにくい接合状態を得ることができる。
また、接合手段として、正面体の上端面、下端面の一方に凸状部を設け、他方に凸状部が転動可能に当接する平面部若しくは凸状部を設ければ、凸状部と平面部、若しくは凸状部と凸状部が互いに当接し合うことにより、当接部分を外から目視可能となるため、接合状態を確認しながら施工を行うことができ、より確実な接合状態を形成することができる。
【0016】
更に、凸状部の少なくとも一部に、突出形状の円弧面を設けることにより、正面体の上端面と下端面とを面接触または線接触とすることができる。ここで、正面体の上端面,下端面の一方を円弧面、他方を凹状部とすると、上端面と下端面とが面接触して擁壁用ブロックが摺動可能に係合するため、擁壁用ブロック間には隙間が発生しない。このため、下位の擁壁用ブロックに対し上位の擁壁用ブロックを傾斜させても、擁壁用ブロック間の上下の位置ずれが発生しにくい状態で、容易に擁壁用ブロックを配置することができる。
【0017】
一方、正面体の上端面,下端面の一方を円弧面、他方を平面部若しくは円弧面とすると、上端面と下端面とが線接触し、接触線を変えながら転動して前後に傾斜することができる。このため、下位の擁壁用ブロックに対し上位の擁壁用ブロックを傾斜させても、擁壁用ブロック間の上下の位置ずれが発生しにくい状態で、容易に擁壁用ブロックを配置することができる。
【0018】
また、正面体と、正面体の背面側に配置される裏型枠と、を連結する連結棒に設けられた、少なくとも一部に凸状曲面を有する連結部を、着脱可能および傾動可能に係止するための係止部を、正面体の背面側、脚体部の少なくとも一方に設けることが望ましい。このような構成とすることにより、連結棒の連結部が係止部に係止され、係止部を支点として連結棒が上下方向に傾動可能となるため、正面体と裏型枠との対向角度,対向姿勢を変えることができる。このため、法面の傾斜状態に応じて、適切な対向角度,対向姿勢をとりながら、擁壁用ブロック及び裏型枠を配置することができる。従って、傾斜角度が一定でない曲面状の法面に沿って擁壁用ブロックを隣接配置することが可能となり、法面に沿った擁壁を構築することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0020】
(1)擁壁の露出面側を構成する正面体と、正面体の背面から後方へ突出する脚体部とを備え、少なくとも上下方向に複数個を隣接配置して擁壁を形成する擁壁用ブロックにおいて、下位の擁壁用ブロック対して上位の擁壁用ブロックを前後方向に傾斜させて連接するための接合手段を、正面体の上端面および下端面に設けたことにより、傾斜角度が一定でない曲面状の法面に沿って擁壁用ブロックを隣接配置することが可能となり、法面に沿った擁壁を構築することができる。
【0021】
(2)接合手段として、正面体の上端面、下端面の一方に凸状部を設け、他方に凸状部が摺動可能に係合する凹状部または凸状部が転動可能に当接する平面部若しくは凸状部を設けることにより、凸状部と凹状部とが互いに係合すれば、外部からの力が加わったときにずれにくい接合状態を得ることができる。また、凸状部と平面部、若しくは凸状部と凸状部が互いに当接すれば、接合状態を確認しながら施工を行うことができ、より確実な接合状態を形成することができる。
【0022】
(3)凸状部の少なくとも一部に、突出形状の円弧面を設けることにより、下位の擁壁用ブロックに対し上位の擁壁用ブロックを傾斜させても、擁壁用ブロック間の上下の位置ずれが発生しにくい状態で、容易に擁壁用ブロックを配置することができる。
【0023】
(4)正面体と、正面体の背面側に配置される裏型枠と、を連結する連結棒に設けられた、少なくとも一部に凸状曲面を有する連結部を、着脱可能および傾動可能に係止するための係止部を、正面体の背面側、脚体部の少なくとも一方に設けることにより、法面の傾斜状態に応じて、適切な対向角度,対向姿勢をとりながら、擁壁用ブロック及び裏型枠を配置することが可能となり、傾斜角度が一定でない曲面状の法面に沿って擁壁を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態である擁壁用ブロックについて説明する。図1は本発明の第1の実施の形態である擁壁用ブロック及び裏型枠を示す図であり、(a)は上位用のブロックと裏型枠の斜視図、(b)は最下位用のブロックと裏型枠の斜視図である。図2は、本発明の第1の実施の形態である擁壁用ブロックを示す図であり、(a)は背面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。図3は、裏型枠の正面図である。
【0025】
図1(a),図2,図3に示すように、本実施形態の擁壁用ブロック(以下、ブロックと表示する)1は、擁壁の前面側を構成しコンクリート製の矩形状の正面体2と、正面体2の背面下部から後方へ突出する脚体部3と、正面体2の下端部に備わる土台部5とから構成され、正面体2の背面側には、正面体2の背面および脚体部3に連結棒6が設けられ、連結棒6により正面体2と連結された裏型枠7が設置されている。この裏型枠7はプラスチック製の矩形状板で形成されている。正面体2の上端面4aには、この上に配置される正面体2の下端面4bと連接するための接合手段として突出した凸状部である円弧面が形成されている。正面体2の下端部には、土台部5が正面体2から下方に突出するように形成されており、土台部5から脚体部3が水平方向に突出している。また、正面体2の下方には、接合手段として平面状の下端面4bが形成されている。
【0026】
更に、正面体2の背面上部には、打設基準線9が設けられており、正面体2の背面中部および脚体部3には、連結棒6を係止する係止部8が備えられている。連結棒6は裏型枠7の連結棒用穴11を貫通し、図示しないナット等により固定されている。このように、正面体2と裏型枠7とを、連結棒6により所定の距離をおいて対向配置することができる。また、上端面4aから打設基準線9の距離Aは、下端面4bから土台部5の下端までの距離Bと同一としている。
【0027】
ここで、本実施形態においては正面体2に二つの脚体部3が備えられているが、これに限定するものではなく、安定に設置できる構造であれば一つまたは三つ以上とすることもできる。また、正面体2と裏型枠7のそれぞれの中央部付近には水抜きパイプ用穴10a,10bが設けられており、図4に示す水抜きパイプ12を配置することができる。
【0028】
次に、図1(b)に示すように、本実施形態の最下位用のブロック21は、土台部25および下端面24b以外は、図1(a)の上位用のブロック1と同一である。ブロック21は最下位用であるため、水平方向に対して施工時に最初に設置されるブロックである。そのためブロック21は安定して設置される必要があることから、下端面24bと土台部25の設置面を同一面とすることでブロック21の安定性を確保している。
【0029】
次に、図4を用いてブロックを設置する手順について説明する。図4は、図1に示す最下位用のブロック21の上に上位用のブロック1を隣接設置した状態を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。上位用のブロック1には、土中に蓄積した水を除去するための水抜きパイプ12を設けている。ブロック1,21の背面側には裏型枠7,27が配置されている。図4(b)に示すように、初めに、初期打設面31にブロック21と裏型枠27が設置され、このブロック21と裏型枠27との間の空間に、ブロック21の背面に備えられている打設基準線29までコンクリートが打設され、一層目のコンクリート層32が形成される。このように、水平方向の最下段については同様の工程によりブロック21と裏型枠27が設置され、コンクリートが打設される。
【0030】
次に、最下段のコンクリートが硬化後、上方向にブロック1を積み重ねる場合、打設基準線29まで打設された一層目のコンクリート層32上に、上位用のブロック1を設置する。この時、図2(a)において距離Aと距離Bが同一であるため、正面体22の上端面24aの上に、上位用の正面体2が設置される。ここで、上端面24aは突出した円弧面をなしており、この上端面24aと上位用の正面体2の下端面4bとが線接触している。
【0031】
更に、ブロック1と裏型枠7との間の空間に、打設基準線9までコンクリートが打設され、二層目のコンクリート層33が形成される。このように、二層目の水平方向において同様の工程によりコンクリートが打設される。三層目以降の工程に使用されるブロックは、上位用のブロック1のみであり、裏型枠は同一のものを使用している。このような工程を繰り返すことで、上下方向と水平方向に擁壁用ブロック1を積み上げることができる。
【0032】
図5は法面にブロック1,21と裏型枠7,27とを設置していることを示す概観側面図である。図5において、初期打設面31の水平面方向に最下位用のブロック21を設置し、これより上位においては、上位用のブロック1を設置している。これより上位にはブロック1が設置される。このように、法面81の勾配に応じてブロック1,21を設置することができる。ここで、後述するように、ブロック1と裏型枠7との配置を法面の傾斜状態に応じて、適切な対向角度,対向姿勢をとりながら、擁壁用ブロック及び裏型枠を配置することができる。この時、ブロック1と連結棒6との成す角度θを任意の傾斜に対して調節することができる。従って、傾斜角度が一定でない曲面状の法面81に沿ってブロック1を上下に隣接配置することが可能となり、法面81に沿った擁壁を構築することができる。
【0033】
次に、ブロック1,21の接合部分について詳細に説明する。図6は、図4(b)における正面体22の上端面24aと、正面体2の下端面4bとの接合部分を示す側面図である。図6に示すように、上端面24aは連接するための接合手段として突出した円弧面が形成されており、下端面4bは連接するための接合手段として平面部としているため、端面どうしが線接触している。また更に上位方向に積み上げる場合には、正面体2の上端面4aとその上段の正面体の下端面4bとが同様に線接触する。
【0034】
ここで、円弧面について詳細に説明する。図6において、上端面24aは、仮想軸41を中心に半径Rとして描いた円弧面となっており、断面は同一の円弧状をなしている。また上端面24aは、地面(図示せず)に対して仮想の平行面が形成される平行基準面42よりも上方部分において円弧面となっている。このことにより、正面体2は上端面24aを中心に端面どうしが線接触しながら前後に傾動可能となる。ここで、上端面24aは上端面4aと同一形状である。
【0035】
また、仮想軸41の位置を下方に設定したブロックを使用すれば、半径Rが大きくなり、突出する円弧面が緩やかになる。また仮想軸41を上方に設定したブロックを使用すれば、半径Rが小さくなり、より突出した円弧面とすることができる。
【0036】
ここで、正面体2に土台部5が備わることにより、前方向(図6の左方向)に力が加わった時に、土台部5が正面体22に当接してストッパの働きをして、ブロック1は上端面24aを隙間44しか移動しないため、ブロック1,21の前後のずれを防止することもできる。また、外から見た時に隙間45があるため、ブロック1,21の当接部分を外から目視可能となり、接合状態を確認しながら施工を行うことができ、より確実な接合状態を形成することができる。
【0037】
図7は、図4(b)における正面体22の上端面24aと、正面体2の下端面4bとの接合部分を示す他の実施形態を示す図である。図7のように、基準面43は地面と平行になることに限定するものではなく、正面体2,22の表面または背面と略垂直となるような基準面43を設定して円弧面を形成することもできる。このことにより、正面体2と正面体22の連接部分における隙間44が増え、ブロック1を傾動しやすい構造とすることができる。
【0038】
図8は、図6の下位の正面体22の上を上位の正面体2が前後に傾動していることを示す図である。正面体2は、設置する法面の勾配が一定である場合には正面体2aに位置し、前に傾く場合は正面体2bとなり、後ろに傾く場合は正面体2cとなる。従って、上端面24aと下端面4bとが線接触し、接触線を変えながら転動して前後に傾斜することができ、容易にブロック1,21を配置することができる。
【0039】
次に、図9は、ブロック1を上下に隣接配置したときの側面図の模式図である。実線が本発明のブロックであり、点線は図19に示す従来のブロックである。説明を簡単にするために、擁壁用ブロックを下位、中位、下位に隣接配置した時に、図9(a)は勾配が一定である場合、図9(b)は中位のブロック1bが15°前方に傾斜した場合、図9(c)は中位のブロック1cが15°後方に傾斜した場合を示している。ここで、ブロック1a,1b,1cの上下方向の長さはαである。
【0040】
図9(a)において、下位ブロック1aの上端面の中心位置と上位ブロック1aの下端面の中心位置との距離はαである。図9(b)のように傾斜させた場合、ブロック上端面が円弧面であるため図19の誤差β’が吸収され、下位ブロック1bの上端面の中心位置と上位ブロック1bの下端面の中心位置との距離βは略αとなる。同様に、図9(c)のように傾斜させた場合、図19の誤差γ’が吸収され、下位ブロック1cの上端面の中心位置と上位ブロック1cの下端面の中心位置との距離γは略αとなる。
【0041】
従って、ブロック1は、図19の誤差β’,γ’を吸収して誤差を小さいものとすることができ、距離略α、即ちブロック1自身の長さαの間隔を置きながら最短距離で設置されるため、上下の位置ずれX,Yを修正することができる。このため、上下方向に隣接配置した時に、下位のブロックに対して上位のブロックを前後方向に傾斜させても、ブロック間の位置ずれを小さくすることができる。このため、下位のブロックに対し上位のブロックを傾斜させても、擁壁用ブロック間の上下の位置ずれが発生しにくい状態で、容易に擁壁用ブロックを配置することができる。
【0042】
次に、正面体2と裏型枠7との構造について説明する。図10は連結棒6が係止部8に係止されていることを示す拡大斜視図であり、図11は連結棒6が係止部8に係止されていることを示す平面図である。
【0043】
図10において、正面体2の背面および脚体部3の背面には、係止部8が設けられており、係止部8は凹部8aと溝部材8bとから構成されている。溝部材8bにはU字状の溝8cが設けられている。係止部8は、正面体2および脚体部3のコンクリート体内に形成され、凹部8aと溝部材8bの形状をなす金具を嵌合することにより形成されている。また、連結棒6の端には連結部である半球状の球体6aが形成されており、球体6aの球面が連結棒6と繋がって滑らかな曲面を有している。この球体6aが凹部8aに入って下方へ移動させて溝部材8bの溝8cに嵌ることで係止され、連結棒6と正面体2および脚体部3とを容易に着脱可能に連結することができる。この時球体6aの球面が溝部材8bと接している。また、連結部としての球体6aが半球に限定されるものでなく、球であったり、他の曲面を有する形状であっても良い。
【0044】
また、図11に示すように、連結棒6は裏型枠7の穴11を貫通して、ナット61等で固定されている。このように、正面体2と裏型枠7とが連結棒6の長さにより一定の間隔をおくことができる。更に、正面体2と裏型枠7との間隔は連結棒6とナット61等により容易に調整することができる。ここで、一箇所に二つのナット61を設けているが、これに限定されるものではなく、一箇所に一つのナット61とすることもできる。また、脚体部3においても同様に、裏型枠7とを連結している。
【0045】
図12は、図11の連結棒6の係止部8側に半球状のナット62を設けて固定していることを示す平面図であり、ナット62を設けることで、連結棒6と正面体2および脚体部3とを固定することができる。このとき、連結棒6の係止部8側にはナット62が螺合するためのネジ構造(図示せず)が設けられている。
【0046】
次に、正面体2,連結棒6,裏型枠7との位置関係について説明する。図13は連結棒6の正面体2の係止部8内における位置を示す側面図であり、図14は裏型枠7に対する正面体2の位置を示す側面図である。
【0047】
図13に示すように、球体6aは溝部材8bに固着されずに係止しているため、上下方向には若干移動することができる。従って、球体6aを中心に連結棒6は上下に傾動可能となり、上方に傾いた連結棒6b、中位の連結棒6、下方に傾いた連結棒6cとなるように傾動可能とすることができる。また、図示しない脚体部3においても同様に傾動可能とすることができる。
【0048】
また、図14に示すようにブロック1の背面側には裏型枠7と連結棒6が固定されても、正面体を可動とすることができる。図を簡単にするため、脚体部3を図示しておらず、裏型枠7と脚体部3とを連結する連結棒6を省略してある。正面体2の下方の連接部を裏型枠7側へ移動させたい場合には正面体72bの位置に、裏型枠7と平行である場合には正面体72aの位置に、正面体2の下方の連接部を裏型枠7から離れる位置に移動させたい場合には正面体72cの位置にすることができる。ここで、裏型枠7と脚体部3とを連結する連結棒6については、裏型枠7への挿通する長さを調節すれば良い。
【0049】
従って、連結棒6の球体6aが係止部8に係止され、係止部8を支点として連結棒6が上下方向に傾動可能となるため、正面体2と裏型枠7との対向角度,対向姿勢を変えることができる。このため、法面の傾斜状態に応じて、適切な対向角度,対向姿勢をとりながら、位置ずれを生じにくい状態でブロック1及び裏型枠7を配置することができる。従って、傾斜角度が一定でない曲面状の法面に沿ってブロック1を隣接配置することが可能となり、法面に沿った擁壁を構築することができる。
【0050】
次に、本発明の第2〜5の実施の形態である擁壁用ブロックを図15〜18に示しており、正面体の端面どうしが接触することを示す側面図である。
【0051】
図15は第2の実施形態であるブロック101を示しており、正面体102bの下端面において、平面部104b1と、円弧面104b2とが設けられ、正面体102aの上端面104aは図7の円弧面である。円弧面104b2は平面部104b1から土台部105に亘り形成されている。この場合、円弧面を形成する仮想軸141が正面体102bと土台部105との間に位置し、半径Rの円弧面を形成している。ここで、端面104a,104b1とが接するC点と、端面104a,104b2とが接するD点の2箇所において線接触している。
【0052】
このため、法面の勾配が急になる場合には、上端面104aを平面部104b1が接しながら正面体102bが前に転動して図の左側へ傾斜し、逆に法面の勾配が緩くなる場合には、上端面104aを下端面104b2が接しながら正面体102bが後ろへ転動して図の右側へ傾斜することにより、正面体102bの傾斜角度を調節することができる。この時、端面どうしが接しているC点,D点は、正面体102bの傾斜とともに位置が変化し、上下の位置ずれを小さくすることができる。また、このような構成とすることにより、正面体102aと正面体102bとの隙間を小さくすることにより、ブロックどうしを密着に近い状態とすることができる。また、接点CおよびDを摺動させながら傾斜角度を調節することもできる。
【0053】
図16は第3の実施形態であるブロック201を示しており、正面体202bの端面204bが、円弧状の凹状部を形成しており、正面体202aの円弧面状の上端面204aが係合して互いに面接触しているため正面体202a,202b間には隙間が発生しない。このため、下位のブロック201に対し上位のブロック202を傾斜させても、ブロック201間の上下の位置ずれが発生しにくい状態で、容易にブロック201を配置することができる。また、端面どうしが互いに係合することにより、外部からの力が加わったときにずれにくい接合状態を得ることができる。
【0054】
図17は第4の実施形態であるブロック301を示しており、図6の円弧面と平面部とが逆の関係であることを示しており、上位の正面体302bの端面304bが円弧面であり、下位の正面体302aの上端面304aが平面部としており、端面304a,304bとは線接触している。効果は図6と同様である。
【0055】
図18は第5の実施形態であるブロック401を示しており、図16と逆の関係を示しており、正面体402bの端面404bが、円弧面であり、正面体402aの円弧面状の上端面404aが嵌合する形状であり面接触している。効果は図16と同様である。
【0056】
以上のような第2〜5の実施形態の擁壁用ブロックにおいても、上下方向に隣接配置する時、下位の擁壁用ブロック対して上位の擁壁用ブロックを前後方向に傾斜させて配置することが可能となるため、傾斜角度が一定でない曲面状の法面に沿って擁壁用ブロックを隣接配置することが可能となり、法面に沿った擁壁を構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の擁壁用ブロックは、勾配が変化する造成地等の法面おいて広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1の実施の形態である擁壁用ブロック及び裏型枠を示す図であり、(a)は上位用のブロックと裏型枠の斜視図、(b)は最下位用のブロックと裏型枠の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態である擁壁用ブロックを示す図であり、(a)は背面図、(b)は側面図、(c)は平面図である。
【図3】裏型枠の正面図である。
【図4】図1に示す最下位用の擁壁用ブロックの上に上位用の擁壁用ブロックを隣接設置した状態を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【図5】法面に擁壁用ブロックを設置していることを示す概観側面図である。
【図6】図4(b)における正面体の端面と、正面体の端面との接合部分を示す側面図である。
【図7】図4(b)における正面体の端面と、正面体の端面との接合部分を示す他の実施形態を示す図である。
【図8】図6の下位の正面体の上を上位の正面体が前後に起伏していることを示す図である。
【図9】ブロックを上下に隣接配置したときの側面図の模式図である。
【図10】連結棒が係止部に係止されていることを示す拡大斜視図である。
【図11】連結棒が係止部に係止されていることを示す平面図である。
【図12】図11の連結棒の係止部側に半球体のナットを設けて固定していることを示す平面図である。
【図13】連結棒の正面体の係止部内における位置を示す側面図である。
【図14】裏型枠に対する正面体の位置を示す側面図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態である擁壁用ブロックを示す側面図である。
【図16】本発明の第3の実施の形態である擁壁用ブロックを示す側面図である。
【図17】本発明の第4の実施の形態である擁壁用ブロックを示す側面図である。
【図18】本発明の第5の実施の形態である擁壁用ブロックを示す側面図である。
【図19】従来の擁壁用ブロックを示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1,1a,1b,1c,21,101,201,301,401 擁壁用ブロック
2,2a,2b,2c,22 正面体
3,23 脚体部
4a,24a 上端面
4b,24b 下端面
5,25 土台部
6,26 連結棒
6a 球体
7,27 裏型枠
8,28 係止部
8a 凹部
8b 溝部材
8c 溝
9,29 打設基準線
10a,10b 水抜きパイプ用穴
11 連結棒用穴
12 水抜きパイプ
31 初期打設面
32 一層目のコンクリート層
33 二層目のコンクリート層
41,141 仮想軸
42 平行基準面
43 基準面
44,45 隙間
51,52,53 正面体
61,62 ナット
71,72,73 正面体
81 法面
102a,202a,302a,402a 下位の正面体
104a,204a,304a,404a 上端面
102b,202b,302b,402b 上位の正面体
104b,204b,304b,404b 下端面
104b1 平面部
104b2 円弧面
105 土台部
A 端面から打設基準線の距離
B 端面から土台部の下端までの距離
C,D 接点
θ 角度
α,β,γ 下方ブロックの上端面と上方ブロックの下端面との距離
β’,γ’,X,Y 誤差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擁壁の露出面側を構成する正面体と、前記正面体の背面から後方へ突出する脚体部とを備え、少なくとも上下方向に複数個を隣接配置して擁壁を形成する擁壁用ブロックにおいて、
下位の擁壁用ブロック対して上位の擁壁用ブロックを前後方向に傾斜させて連接するための接合手段を、前記正面体の上端面および下端面に設けたことを特徴とする擁壁用ブロック。
【請求項2】
前記接合手段として、前記正面体の上端面、下端面の一方に凸状部を設け、他方に前記凸状部が摺動可能に係合する凹状部または前記凸状部が転動可能に当接する平面部若しくは凸状部を設けたことを特徴とする請求項1記載の擁壁用ブロック。
【請求項3】
前記凸状部の少なくとも一部に、突出形状の円弧面を設けたことを特徴とする請求項2記載の擁壁用ブロック。
【請求項4】
前記正面体と、前記正面体の背面側に配置される裏型枠と、を連結する連結棒に設けられた少なくとも一部に凸状曲面を有する連結部を、着脱可能および傾動可能に係止するための係止部を、前記正面体の背面側、前記脚体部の少なくとも一方に設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の擁壁用ブロック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−161378(P2006−161378A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−353264(P2004−353264)
【出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(591105568)株式会社九コン (3)
【Fターム(参考)】