説明

操舵装置

【課題】大きな舵角を取ることを可能として、舵を船舶の制動に利用できるようにした操舵装置を提供する。
【解決手段】船外に配置された舵板18から上方向に突出した舵軸18Aの上端部にセンターギヤ20が取付けられ、2つの油圧シリンダ21、22の両端部からシリンダ軸21A、22Aの両端が突出する。ブラケット23、24の両端部がシリンダ軸21A、22Aの両端部とそれぞれ連結され、2つ存在するラック25、26の基端部が、ブラケット23、24の上部に上側からネジ止められることで、ブラケット23にラック25が固定されるとともに、ブラケット24にラック26が固定される。ラック25、26の歯面とされる先端部は、センターギヤ20と噛み合うように2つのラック25、26がセンターギヤ20を挟んだ形で、センターギヤ20と対向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな舵角を取ることを可能として、舵を船舶の制動に利用できるようにした操舵装置に関し、水上船舶に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、船舶は装備している舵により自由な方向への航行を可能としていることが知られているが、一般的に、大きな舵角を取ったときには、プロペラからの水流が舵の表面から剥がれて水流を十分に偏向できないことになる。このことから、単に船舶が旋回するためであれば、大きな舵角を必要としていなかった。また、舵角変更のためには、例えば2つのピストンである油圧シリンダ等を組み合わせた構造を一般的に採用し、これら2つの油圧シリンダ等の動力を舵に直接伝達することによって、左右35度程度の計70度の範囲で舵を回動するようにしていた。
【0003】
他方、大きな舵角を取るための構造としてシリング・ラダーというものが知られているが、これは舵板を特殊な形状とするとともに舵板の上下端に整流板が取り付けた構造とされていて、舵に当ったプロペラからの水流を逃さずに偏向可能としている。また、このシリング・ラダーの採用に伴って、操舵のためにより大きな駆動範囲を得る必要があることから、ロータリーベーン式舵取り機構が採用されている。このような構造とした結果として、最大で左右70度までの計140度の範囲での舵角が得られるので、最大の舵角ではほとんど前進力は失われ、船尾は横に移動することになる。
【0004】
これとは別に、船舶は水上を航行することから緊急時においても、急停止することは困難であった。このことから、舵が船体に対して直角になるように舵角を左右最大90度の計180度までの範囲で回動して、舵をブレーキとして使用することが考えられる。しかし、ロータリーベーン式舵取り機構であっても、構造的に計180度までの範囲で舵を回動することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002−510263公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上より、船舶を制動するために舵角を左右最大90度の計180度までの範囲で回動することは考えられているが、操舵のために十分な動力を得ることは従来困難であった。なお、特許文献1のようにラダーフラップを有した舵に関しては、ラックとピニオンによりフラップを回動する構造が示唆されている。しかし、この特許文献1では、明細書における説明と図面の内容が一致してなく内容が不明瞭であるものの、例えばこの特許文献1の図3に関しては、後部ラダーフラップが符号6の位置から符号6Aの位置との間で回動するように見える。ただし、このような構造であっても船舶を制動するための制動力を得ることはできない。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、大きな舵角を取ることを可能として、舵を船舶の制動に利用できるようにした操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した請求項1記載の発明は、舵板から突出した舵軸に取り付けられて回転とともに舵軸を回転し得るギヤと、
シリンダ軸を有し、駆動してシリンダ軸を往復動する油圧シリンダと、
ギヤと噛み合うとともにシリンダ軸に連結されて、シリンダ軸と一体的に往復動することで、ギヤの回転を介して舵板の舵角を全体的に変えるラックと、
を含む操舵装置である。
【0009】
請求項1に係る操舵装置によれば、油圧シリンダが駆動するのに伴いシリンダ軸を往復動し、このシリンダ軸と一体的にラックが往復動することで、ラックと噛み合っているギヤの回転を介して舵板の舵角が変えられる。
【0010】
以上より、本請求項に係る操舵装置によれば、油圧シリンダ等の動力を舵に直接伝達する構造を採用したり、あるいはロータリーベーン式舵取り機構等を採用したりする従来技術と異なって、ギヤとラックの動力伝達を利用することとしたので、可動範囲が増大して大きな舵角を取ることが可能となった。このことから、舵板を回動して例えば左右90度ずつ以上の計180度以上の範囲とされる大きな舵角を取ることで、舵を船舶の制動に利用できるようにもなった。
【0011】
請求項2の発明は、油圧シリンダおよびラックがギヤを挟んでそれぞれ2つ存在し、各ラックがギヤと噛み合わされる請求項1記載の操舵装置である。
【0012】
油圧シリンダのシリンダ軸の往復動に伴い往復動されるラックがギヤを挟んで2つ有ることで、各ラックがギヤと噛み合わされて、より大きな動力がギヤおよび舵板に伝達されるようになる。
【0013】
請求項3の発明は、駆動油を供給し得る送油駆動源が有り、2つの油圧シリンダがこの送油駆動源から送られた駆動油により相互に逆方向に沿ってシリンダ軸を往復動する請求項2記載の操舵装置である。
【0014】
送油駆動源が2つの油圧シリンダに駆動油が供給されることになるが、この際に送油駆動源から送られた駆動油で相互に逆方向に2つの油圧シリンダが往復動することで、確実に大きな動力がギヤおよび舵板に伝達されるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、大きな舵角を取ることを可能として、舵を船舶の制動に利用できるようにした操舵装置が提供されるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態が適用される船舶の船尾断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る操舵装置の背面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る操舵装置の平面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る操舵装置の斜視図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る操舵装置の分解斜視図である。
【図6】変形例に係る操舵装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る操舵装置の一実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。
図1及び図2に示すように、本実施の形態に係る操舵装置10が適用される船舶1の船尾部分における船底1A上には支持プレート12が設置されていて、この支持プレート12上の中央には図4に示す保持台14が固定されている。これら船底1A、支持プレート12及び保持台14を同軸上に貫通する穴部16に、船外に配置された舵板18から上方向に突出した舵軸18Aが挿入されている。この舵軸18Aの上端部に、図3及び図4に示すキー19を介してセンターギヤ20が取付けられることで、これらが一体的回転するように相互に固定されている。
【0018】
したがって、センターギヤ20の回転に合わせて舵軸18Aが回転することで、舵板18の舵角が変えられるようになる。また、図1に示すように、この船舶1の船尾部分における舵板18より前方箇所には、推進力を得るためのプロペラ40が配置されている。このため、プロペラ40の回転により送り出された水流が舵板18に当たるので、舵角の変更に伴って船舶1の進行方向が変化することになる。
【0019】
図2および図4に示すように、支持プレート12上における保持台14の両隣部分には、油圧により駆動される2つの油圧シリンダ21、22が相互に平行にそれぞれ配置されている。これら2つの油圧シリンダ21、22の両端部からは、油圧によって往復動されるシリンダ軸21A、22Aの両端がそれぞれ突出している。また、図5に示すようにこれら油圧シリンダ21、22の上部には、シリンダ軸21A、22Aの延びる方向に沿って溝部21B、22Bが形成されている。
【0020】
これら溝部21B、22Bには、図4および図5に示すように逆U形に形成されたブラケット23、24の上部がそれぞれ嵌め合わされていて、このブラケット23、24の両端部に有る貫通穴23A、24Aがシリンダ軸21A、22Aの両端部とナットにより締結されてそれぞれ連結されて、ブラケット23とシリンダ軸21Aとが相互に固定されるとともに、ブラケット24とシリンダ軸22Aとが相互に固定されている。
【0021】
そして、2つ存在するラック25、26の基端部が、ブラケット23、24の上部に上側から嵌め合わされるとともにネジ止められることで、ブラケット23にラック25が固定されるとともに、ブラケット24にラック26が固定されている。この結果として、2つのラック25、26が相互に平行に配置されているだけでなく、各ラック25、26の歯面とされる先端部は、センターギヤ20と噛み合うように2つのラック25、26がセンターギヤ20を挟んだ形で、このセンターギヤ20とそれぞれ対向している。
以上より、シリンダ軸21A、22Aにそれぞれ連結されたラック25、26がシリンダ軸21A、22Aと一体的に往復動することで、センターギヤ20の回転を介して舵板18の舵角を変えることになる。
【0022】
他方、支持プレート12に隣り合った船底1Aの部分には、2つの油圧シリンダ21、22に駆動油を供給し得るとともに、これら2つの油圧シリンダ21、22から駆動油を回収するための送油駆動源30が配置されている。また、この送油駆動源30には、送油ポンプ及び駆動油を貯めるためのタンク等が図示しないものの内蔵されている。
【0023】
これに対応して2つの油圧シリンダ21、22の両端側には、送油駆動源30から延びる配管31A、31B、32A、32Bがそれぞれ接続されている。具体的には、図3における右側の油圧シリンダ21の上端側に配管31Aが接続され、下端側に配管31Bが接続されている。同じく図3における左側の油圧シリンダ22の上端側に配管32Aが接続され、下端側に配管32Bが接続されている。
【0024】
次に、本実施の形態に係る操舵装置10の作用を以下に説明する。
本実施の形態に係る操舵装置10によれば、送油駆動源30から駆動油が供給されることで、2つの油圧シリンダ21、22の各シリンダ軸21A、22Aが往復動され、これに伴い往復動される2つのラック25、26が噛み合わされつつセンターギヤ20を挟んで存在している。したがって、油圧シリンダ21、22が駆動するのに伴いシリンダ軸21A、22Aを往復動し、このシリンダ軸21A、22Aと一体的にラック25、26が往復動することで、ラック25、26と噛み合っているセンターギヤ20の回転を介して舵板18の舵角が変えられる。
【0025】
以上より、本実施の形態に係る操舵装置10によれば、従来技術と異なってセンターギヤ20とラック25、26の動力伝達を利用することとしたので、可動範囲が増大して大きな舵角を取ることが可能となった。このことから、舵板18を回動して例えば左右90度ずつ以上の計180度以上の範囲とされる大きな舵角を取ることで、図1および図2に示す二点鎖線のように舵板18の姿勢が例えば90度だけ変わって、舵を船舶1の制動に利用できるようにもなった。
【0026】
このように舵を船舶1の制動に利用するには大きな力が必要となるが、上記のようにラック25、26がセンターギヤ20を挟んで2つ有るのに伴い、各ラック25、26がセンターギヤ20と噛み合わされて、より大きな動力がセンターギヤ20および舵板18に伝達できるようになる。
【0027】
また、操舵の際には、送油駆動源30から2つの油圧シリンダ21、22に駆動油が供給されることになるが、この際に送油駆動源30から送られた駆動油で相互に逆方向に2つの油圧シリンダ21、22が往復動することで、確実に大きな動力がセンターギヤ20および舵板18に伝達されるようになる。
【0028】
具体的には、図3における右側の油圧シリンダ21の上端側の配管31Aに駆動油が送り込まれるとともに、左側の油圧シリンダ22の下端側の配管32Bに同一量の駆動油が送り込まれる。これに伴い、右側の油圧シリンダ21の下端側の配管31B及び左側の油圧シリンダ22の上端側の配管32Aから駆動油が排出される。この結果として、図3における右側のシリンダ軸21A及びラック25が矢印のように下方に移動するとともに、左側のシリンダ軸22A及びラック26が矢印のように上方に移動することで、センターギヤ20が時計回転方向に回転して、舵板18の舵角が変えられる。なお、センターギヤ20を反時計回転方向に回転する場合には上記と逆の配管に駆動油を送り込むとともに、上記と逆の配管から駆動油を排出することになる。
【0029】
次に、上記実施の形態の変形例に係る操舵装置10について、図6に基づき説明する。
上記実施の形態では、油圧シリンダ、ブラケットおよびラックがそれぞれ2つずつ存在しているが、本変形例では、一つの油圧シリンダ21、一つのブラケット23および一つのラック25のみの構造とされている。つまり、必要とされる動力がえられるのであれば、本変形例のように油圧シリンダ、ブラケットおよびラックは各1のみであっても良い。
【0030】
なお、上記実施の形態においては、油圧シリンダのシリンダ軸とラックとの間にブラケットが介在されているが、シリンダ軸とラックとの間を直接連結できるのであれば、ブラケットは無くとも良い。さらに、このブラケットの両端部に有る貫通穴の替りにU字状の凹部としても良い。このようにU字状の凹部を採用することで、操舵装置の組立て性が向上することになる。
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、本発明は係る実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、水上艦艇等の船舶の操舵部分に適用可能なものである。
【符号の説明】
【0032】
10 操舵装置
18 舵板
18A 舵軸
20 センターギヤ(ギヤ)
21 油圧シリンダ
22 油圧シリンダ
21A シリンダ軸
22A シリンダ軸
25 ラック
26 ラック
30 送油駆動源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
舵板から突出した舵軸に取り付けられて回転とともに舵軸を回転し得るギヤと、
シリンダ軸を有し、駆動してシリンダ軸を往復動する油圧シリンダと、
ギヤと噛み合うとともにシリンダ軸に連結されて、シリンダ軸と一体的に往復動することで、ギヤの回転を介して舵板の舵角を全体的に変えるラックと、
を含む操舵装置。
【請求項2】
油圧シリンダおよびラックがギヤを挟んでそれぞれ2つ存在し、各ラックがギヤと噛み合わされる請求項1記載の操舵装置。
【請求項3】
駆動油を供給し得る送油駆動源が有り、2つの油圧シリンダがこの送油駆動源から送られた駆動油により相互に逆方向に沿ってシリンダ軸を往復動する請求項2記載の操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86578(P2013−86578A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226708(P2011−226708)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000129851)株式会社ケイセブン (39)