説明

擬微小重力環境下での骨髄細胞を用いた3次元軟骨組織構築方法

本発明は、RWV等のバイオリアクターによって実現される擬微小重力環境下において骨髄細胞を培養することにより、3次元に軟骨組織を構築する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、擬微小重力環境下における骨髄細胞を用いた3次元軟骨組織構築方法に関する。
【背景技術】
近年、整形外科領域では軟骨欠損部位の修復に、患者から採取した自家軟骨より単離した軟骨細胞を、一旦生体外で培養・増殖させてから欠損部位に再移植する技術が活発に研究され、一部では実用に至っている。しかし、軟骨細胞はシャーレのような容器で2次元培養すると脱分化して繊維芽細胞になってしまうため、軟骨基質産生能等の軟骨細胞本来の機能を失ない、移植しても十分な治療効果が望めないという問題がある。
この問題を解決する手段は3次元培養であるが、常に重力の影響を受ける地上では、水より比重が若干大きい細胞は培養液中に沈降してしまうため、結局2次元培養しか望めないことになる。そのため、3次元培養を行うためには、通常適当な足場材料を用いて培養を行うことが必要となる。
一方、攪拌培養法による3次元組織構築へのアプローチもある。しかし、従来の攪拌培養法では、細胞に与えられる機械的刺激や損傷が強く、大きな組織を得ることは困難か、あるいは得られたとしても内部で壊死を起こしていることが多い。
これに対し、重量を最適化するために設計された一連のバイオリアクターが存在する。その1つであるRWV(Rotating Wall Vessel)バイオリアクターは、NASAが開発したガス交換機能を備えた回転式バイオリアクターである(例えば、米国特許5,002,890号参照)。RWVバイオリアクターは、横向き円筒形バイオリアクター内に培養液を満たし、細胞を播種した後、その円筒の水平軸方向に沿って回転しながら培養を行う。回転による応力のため、バイオリアクター内は地上の重力に比較して100分の1程度の微小重力環境となる。したがって、細胞は培養液中に均一に懸濁された状態で増殖することが可能となり、凝集して、大きな組織塊を形成できる。
RWVバイオリアクターの他にも、RCCS(Rotary Cell Culture SystemTM:Synthecon Incorporated)や3D−clinostatなど、数種の擬微小重力環境を実現する装置が開発され(例えば、特開平8−173143号、特開平9−37767号、特開2002−45173号参照)、実用に供されている。さらに、こうした擬微小重力環境下での細胞培養の結果も、既に特許や論文として発表されている(例えば、米国特許5,153,133号、米国特許5,155,034号、米国特許6,117,674号、米国特許6,416,774号参照)。擬微小重力環境下での軟骨組織構築については、PLGAなどの足場材料と軟骨細胞とのコンポジットを作製することにより、軟骨組織を構築する方法が知られている。
一方、軟骨組織再生における自家軟骨の採取は、正常組織に与える侵襲が大きく、その採取量にも限界があるといった問題も有する。したがって、軟骨以外の細胞を利用した、生体外での効率的な軟骨組織再生技術が望まれている。
【発明の開示】
本発明は、自家軟骨を侵襲することなく、3次元的に軟骨組織を構築する技術を提供することを目的とする。
かかる課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、自家軟骨の代わりに骨髄に含まれる間葉系幹細胞を利用し、これを軟骨細胞に分化増殖させることを考えた。この方法であれば、正常組織に侵襲を与えることなく、多くの軟骨細胞を得ることができる。さらに、RWV(Rotating Wall Vessel)バイオリアクターを用いて、擬微小重力環境下で培養することにより、大きな軟骨組織を特別な足場材料を利用することなく構築できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は擬微小重力環境下で骨髄細胞を3次元的に培養することにより、軟骨組織を構築する方法に関する。
前記方法において、擬微小重力環境は時間平均して地球の重力の1/10〜1/100程度であることが好ましい。このような擬微小重力環境は、回転で生じる応力によって地球の重力を相殺することにより擬微小重力環境を地上で実現するバイオリアクターを用いて得ることができる。
前記バイオリアクターとしては、1軸回転式バイオリアクターが望ましく、例えばRWV(Rotating Wall Vessel)バイオリアクターを挙げることができる。RWV(Rotating Wall Vessel)バイオリアクターを用いた場合の培養条件は、例えば、播種密度10〜10/cm、回転速度8.5〜25rpm(直径5cmベッセル)程度であるが、これに限定されるものではない。
また本発明の方法では、培養液中に、TGF−β、デキサメタゾン等の軟骨分化誘導因子を添加することが好ましい。さらに、骨髄細胞はコンフルエントになるまで2次元培養した後、さらにサブカルチャーしてから、擬微小重力環境下での培養に供することが望ましい。
本発明の1つの実施形態として、患者から採取された骨髄細胞を用いる方法が挙げられる。患者から採取された骨髄細胞により構築される軟骨組織は、拒絶反応等の問題がないため、当該患者の軟骨欠損部の再生・修復に好適に用いることができる。
本発明によれば、自家軟骨を侵襲することなく、効率的に生体外で3次元構造をもった軟骨組織を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1の実験プロトコールを説明した図である。
図2は、RWVのベッセル(上)と15mlコニカルチューブを示す写真(下)である。
図3は、実施例1によって構築された軟骨組織切片の染色像を示す写真である〔上段:ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、中段:アルシアンブルー染色、下段:サフラニンO染色〕。
図4は、培養後に形成された組織塊を比較したものである〔左:RWVを用いた回転培養・TGF−β添加、中:静置培養(ペレット培養)・TGF−β添加、右:静置培養(ペレット培養)・TGF−β非添加(10%FBS)〕。
図5は、RWVの回転速度変化を示すグラフである。
図6は、アルカリフォスファターゼ活性測定の結果を示すグラフである〔左:静置培養(ペレット培養)・TGF−β添加、中:静置培養(ペレット培養)・TGF−β非添加(10%FBS)、右:RWVを用いた回転培養・TGF−β添加〕。
図7は、RT−PCRの結果(A:Collagen type II、B:Aggrecan)を示す〔グラフ中、左:静置培養(ペレット培養)・TGF−β添加、右:RWVを用いた回転培養〕。
図8は、培養4週間後の軟骨組織の圧縮強度(左)と正常ウサギ関節軟骨組織の圧縮強度(右)を比較したグラフである。
図9は、培養組織(生体外で2週間培養)をウサギ膝関節全層欠損に移植して、4週間後のマクロ所見(A:RWVで培養した軟骨組織:bar=10mm、B:全層欠損:bar=5mm、C:移殖直後所見、D:移殖後4週間所見)を示す写真である。
図10は、移植部の硬度(左)と正常ウサギ関節軟骨組織の硬度(右)を比較したグラフである。
図11は、移殖組織(移植部分を四角枠で示す)のHE染色像(A:ウサギ関節軟骨組織、B:移植組織)を示す写真である。
図12は、移殖組織のサフラニンO染色像(A:ウサギ関節軟骨組織、B:移植組織)を示す写真である。
図13は、移殖組織の免疫組織学染色像(A:ウサギ関節軟骨組織、B:移植組織)を示す写真である。
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2003−413758号、および特願2004−96686号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.擬微小重力環境
本発明において、「擬微小重力環境」とは、宇宙空間等における微小重力環境を模して人工的に作り出された微小重力(simulated microgravity)環境を意味する。こうした擬微小重力環境は、例えば、回転で生じる応力によって地球の重力を相殺することにより実現される。すなわち、回転している物体は、地球の重力と応力のベクトル和で表される力を受けるため、その大きさと方向は時間により変化する。結局、時間平均すると物体には地球の重力(g)よりもはるかに小さな重力しか作用しないこととなり、宇宙空間によく似た「擬微小重力環境」が実現される。
前記「擬微小重力環境」は、細胞が沈降することなく均一に分散した状態で増殖分化し、3次元的に凝集して、組織塊を形成できるような環境であることが必要となる。言い換えれば、播種細胞の沈降速度に同調するように回転速度を調節して、細胞に対する地球の重力の影響を最小化することが望まれる。具体的には、培養細胞にかかる微小重力は、時間平均して地球の重力(g)の1/10〜1/100程度であることが望ましい。
2.バイオリアクター
本発明では、擬微小重力環境を実現するために、回転式のバイオリアクターを使用する。そのようなバイオリアクターとしては、例えば、RWV(Rotating−Wall Vessel:US 5,002,890)、RCCS(Rotary Cell Culture SystemTM:Synthecon Incorporated)、3D−clinostat、ならびに特開平8−173143号、特開平9−37767号、および特開2002−45173号に記載されているようなもを用いることができる。なかでも、RWVおよびRCCSはガス交換機能を備えているという点で優れている。また、1軸式と2軸式では、1軸式の回転式バイオリアクターのほうが好ましい。2軸式(例えば、2軸式のclinostat等)では、ずれ応力(シェアストレス)を最小化することができず、またサンプル自体も回転するため、1軸式のようにベッセル内にふわふわと浮かんだ状態を再現することができないからである。このふわふわと浮かんだ状態が、特別な足場材料なしに大きな3次元的組織塊を得るための重要な条件となる。
本発明の実施例で用いられているRWVは、NASAによって開発されたガス交換機能を備えた1軸式の回転式バイオリアクターである。RWVは、横向き円筒形バイオリアクター内に培養液を満たし、細胞を播種した後、その円筒の水平軸方向に沿って回転しながら培養を行う。バイオリアクター内には、回転による応力のため、実質的に地球の重力よりもはるかに小さい「微小重力環境」が実現される。この擬微小重力環境下において、細胞は培養液内に均一に懸濁され、最小のずり応力下で必要時間培養増殖され、凝集して組織塊を形成する。
RWVを用いた場合の好ましい回転速度は、ベッセルの直径および組織塊の大きさや質量に応じて適宜設定され、例えば直径5cmのベッセルを用いた場合であれば8.5〜25rpm程度であることが望ましい。このような回転速度で培養を行うとき、ベッセル内の細胞に作用する重力は実質的に地上の重力(g)の1/10〜1/100程度となる。
3.骨髄細胞
本発明では軟骨組織構築の材料として骨髄細胞を用いる。本発明に用いられる骨髄細胞は、分化・増殖能力を有する未分化の細胞であり、特に骨髄由来の間葉系幹細胞が好ましい。前記細胞は、樹立された培養細胞株のほか、患者の生体から単離された骨髄細胞を好適に用いることができる。該細胞は患者から採取された後、常法に従って結合組織等を除去して調製することが好ましい。また、常法により一次培養を行い、予め増殖させてから用いてもよい。さらに患者から採取した培養は、凍結保存されたものであってもよい。つまり、予め採取した骨髄細胞を凍結保存しておき、必要に応じて利用することもできる。
4.細胞の培養条件
細胞の分化増殖に用いられる培地としては、MEM培地、α−MEM培地、DMEM培地等、骨髄細胞の培養に通常用いられる培地を、細胞の特性に合わせて適宜選んで用いることができる。また、該培地には、FBS(Sigma社製)やAntibiotic−Antimycotic(GIBCO BRL社製)等の抗生物質等を添加しても良い。
さらに培養液中には、軟骨細胞分化促進作用を有する、デキサメタゾン、FK−506やシクロスポリン等の免疫抑制剤、BMP−2、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7及びBMP−9等の骨形成タンパク質(BMP:Bone Morphogenetic Proteins)、TGF−β等の骨形成液性因子から選ばれる1種又は2種以上を、グリセリンリン酸、アスコルビン酸リン酸等のリン酸原とともに、添加してもよい。特に、TGF−βとデキサメタゾンのいずれかまたは両方を適当なリン酸原とともに添加することが好ましい。この場合、TGF−βは1ng/ml〜10ng/ml程度、デキサメタゾンは100nMを上限として加えられる。
細胞の培養は、3〜10%CO、30〜40℃、特に5%CO、37℃の条件下で行うことが望ましい。培養期間は、特に限定されないが、少なくとも7日、好ましくは21〜28日である。
特に、RWV(直径5cmベッセル)を使用する場合、骨髄細胞を10〜10/cmの播種密度で播種し、8.5〜25rpmの回転速度(直径5cmのベッセル)で培養を行うとよい。この条件であれば、播種細胞の沈降速度とベッセルの回転速度が同調し、細胞に対する地球の重力の影響が最小化されるからである。なお、オーバーコンフルエントにまで2次元培養した細胞をサブカルチャーした後、RWVで培養すると大きな組織塊が得られる。
5.本発明の利用
本発明の方法を再生医療に応用すれば、自己の骨髄細胞を利用した軟骨組織の再生が可能になる。すなわち、患者から採取した骨髄細胞を擬微小重力下で3次元的に培養して、軟骨組織を構築し、該患者の軟骨欠損部に適用する。構築された軟骨組織は拒絶反応の危険性がないうえ、自家軟骨の使用に比較して正常組織の侵襲が少ないため、より安全な軟骨再生を可能にする。
【実施例】
[実施例1]ウサギ骨髄由来間葉系幹細胞からの軟骨組織構築
1.ウサギ骨髄由来間葉系幹細胞の培養
(1)ウサギ骨髄由来間葉系幹細胞の調製
ウサギ骨髄由来間葉系幹細胞は、2週齢のJW系家兎(雌)の大腿骨よりManiatopoulosらの方法(Maniatopoulos,C.,Sodek,J.,and Melcher,A.H.(1988)Cell Tissue Res.254,p317−330)に従って採取した。採取した細胞を、10% FBS(Sigma社製)およびAntibiotic−Antimycotic(GIBCO BRL社製)を含むDMEMで3週間にわたって培養し、増殖させた。
(2)ウサギ骨髄由来間葉系幹細胞の培養
上記のようにして調製したウサギ骨髄由来間葉系幹細胞を、10−7M Dexamethasone(Sigma社製)、10ng/ml TGF−β3(Sigma社製)、50μg/ml アスコルビン酸(Wako製)、ITS+Premix(BD製)、40μg/ml L−proline(Sigma社製)およびAntibiotic−Antimycotic(GIBCO BRL社製)を含むDMEM培養液(Sigma社製)10mlに、1x10cells/mlとなるように懸濁し、4週間にわたって静置培養(ペレット培養)もしくはRWVバイオリアクター(Synthecon社製)による回転培養を行なった。
静置培養は、15mlコニカルチューブに上記細胞懸濁液10mlを入れ、50gで5分間遠心して作製したペレット組織を、37℃、5%CO条件下でペレット培養した。また、TGF−βを添加しない条件下でも同様にしてペレット培養を行った。一方、RWVバイオリアクターによる回転培養は、直径5cmのベッセルを用いて、回転数:8.0〜24rpm、37℃、5%COの条件下で行った。回転数は、目視で組織塊が液中に浮いている状態になるように頻繁に調整した(RWVの回転速度変化を図5に示す)。また、細胞の呼吸により泡が生じるが、これは擬微小重力環境を乱すことから頻繁に除去した。図1に本実施例のプロトコルを、また図2にRWVのベッセルと、15mlコニカルチューブの写真を示す。また、培養後の組織塊を比較した結果を図4に示す。図4は左から、TGF−βを添加して行ったRWVを用いた回転培養、TGF−βを添加して行った静置培養(ペレット培養)、TGF−βを添加せずに行った静置培養(ペレット培養)の結果を示す。
2.培養組織の評価方法
(1)組織染色
静置培養(ペレット培養)および回転培養で得られたそれぞれの軟骨組織は、1週間ごとにヘマトキシリン・エオジン(HE)、サフラニンOおよびアルシアンブルーで組織染色を行い、軟骨基質産生能を評価した。まず、培養組織は、4%パラホルムアルデヒド,0.1%グルタルアルデヒドでマイクロウェーブ固定した後、翌日 10%EDTA,100mM Tris(pH7.4)中で約1週間脱灰した。脱灰後、エタノールで脱水し、パラフィンに包埋した。5μmの厚さで切片を作製した。次いで、各切片について脱パラフィン後、常法にしたがい、ヘマトキシリン・エオジン、サフラニンO、およびアルシアンブルー染色を行った。結果を図3に示す。
(2)アルカリフォスファターゼ活性
静置培養(ペレット培養)および回転培養で得られたそれぞれの軟骨組織について、1週間ごとにアルカリフォスファターゼ(ALP)活性測定を行った。ALP活性の測定は、培養組織を100mM Tris(pH7.5),5mM MgClで洗浄後、スクレイパーで集め、500μlの100mM Tris(pH7.5),5mM MgCl,1% Triton X−100に懸濁して超音波破砕した。破砕後6,000gで5分間遠心して上清を回収した。酵素活性は、0.056M 2−amino−2−methyl−1,3−propandiol(pH9.9),10mM p−nitrophenyl phosphate,2mM MgClに各上清5μlを加え、37℃で30分間インキュベートした後、すぐにマイクロプレートリーダーで吸収波長405nmの吸光度を測定して求めた。検量線はρ−nitrophenolを用いて作製した。結果を図6に示す。グラフ中、「RWV」はRWVを用いた回転培養、「TGF−β」はTGF−βを添加して行ったペレット培養、10%FBSはTGF−βを添加せずに行ったペレット培養の結果を示す。
(3)定量的RT−PCR
静置培養(ペレット培養)および回転培養で得られたそれぞれの軟骨組織について、1週間毎に軟骨特異的遺伝子であるcollagen Type IIやAggrecanの発現量を定量的RT−PCRにより測定した。
培養組織からのRNAの抽出は、TRizol Reagent(Invitrogen)を用いた。方法はプロトコールに従い、組織をTRIzol中で溶解したのち、200μlのクロロホルムを添加、よく振り混ぜて15000rpmで遠心。イソプロバノール沈澱、エタノール沈澱の後、DEPC水に溶解し、吸光度測定により濃度を計算し、約1μgのtotalRNAをRTに供した。
RTは、キットFirst−Strand cDNA Synthesis Using SuperScript III for RT−PCR(Invitrogen)およびTAKARA RNA PCR kit(AMV)Ver.2.1(TaKaRa)を使用して実施した。First−Strand cDNA Synthesis Using SuperScript III for RT−PCRは、50℃ 60分、70℃ 15分の条件でRT反応を行なった。TAKARA RNA PCR kit(AMV)Ver.2.1(TaKaRa)は、30℃ 10分、42℃ 30分、99℃ 5分、5℃ 5分の条件でRT反応を行なった。RTで用いたプライマーは以下のとおりである。
[RTプライマー]

リアルタイムPCRは、FastStartDNA Master CYBR Green Iキット、PCR装置としてLight Cycler(Roche)を使用し、以下のプライマーと反応条件で実施した。
[PCRプライマー]

[PCR反応条件]
Denature:95℃ 5秒 1サイクル
Amprification:95℃ 15秒、60℃ 5秒、72℃ 15秒 40サイクル
Melting curve:70℃ 10秒
Cooling:40℃ 30秒
RT−PCRの結果を図7に示す(A:Collagen type II、B:Aggrecan)。グラフの「RWV」はRWVを用いた回転培養、「TGF−β」はTGF−βを添加して行ったペレット培養の結果を示す。
3.結果
3週間後、静置培養(ペレット培養)では細胞が沈降しているが凝集が弱く、組織は直径5mm程度であった。これに対し、RWVバイオリアクターによる回転培養では細胞同士が擬微小重力下で凝集し、直径1cm〜1.5cm程度の三次元組織が形成された。この三次元組織はサフラニンOおよびアルシアンブルーで染色され、軟骨基質産生能を持つことが示された。また、定量的RT−PCRの結果からCollagen Type IIやAggrecanの発現が確認された。以上の結果から、骨髄由来間葉系幹細胞からRWVバイオリアクターを用いて軟骨三次元組織を再生することができることが確認された。
さらに、RWVを用いた最適培養条件を検討したところ、オーバーコンフルエントにまで2次元培養した細胞をサブカルチャーした後、RWVで培養すると大きな組織塊が得られることがわかった。
[実施例2]RWV培養組織の強度測定
RWV培養組織の強度をEIKO TA−XT2i(EKO INSTRUMENTS社製)を使用して測定した。実施例1に従って作製したRWV培養組織を2mm角に成形し、0.1mm/secの速度で圧縮した。その負荷(Pa)と距離(mm)に基づくstress−strain曲線から、強度を計測した。
図8に、培養4週間後の軟骨組織の圧縮強度を、正常ウサギ関節軟骨組織のそれと比較した結果を示す。
[実施例3]RWV培養組織のウサギ膝関節全層欠損部移植実験
1.ウサギ膝関節全層欠損部への移植
実施例1に従って作製したRWV培養組織(生体外で2週間培養)をウサギ膝関節全層欠損部に移植し、移植部の硬度と組織所見について評価した。
ウサギはソムノペンチル0.6mg/kgを用いて静脈麻酔酔した。手術部位は、左大腿骨顆部(左膝関節)荷重部とした。膝蓋骨外側に縦皮切を入れ、関節包を内側傍膝蓋骨アプローチにより切開した。膝蓋骨を外側に翻転して脱臼させた後、大腿骨滑車部に径5mmのドリルを用いて深さ4mmの軟骨全層欠損を作成した(底面は先が平らなドリルを用いて平滑に整え、辺縁は円刃でトリミングした)。軟骨塊を皮抜きポンチを用いて径5mmに成形し、欠損部に移殖した。膝蓋骨を整復し、関節包、皮膚を4−0ナイロンで縫合、膝関節屈曲進展にて膝蓋骨が脱臼しないことを確認して手術を終了した。
2.移殖組織の硬度
移殖組織の硬度は、計測部位にプローブをあて、Venus Rod(Axiom社製)を用いて周波数の変化を計測することにより測定した。図10に、移植部(左)と正常ウサギ関節軟骨組織(右)の硬度測定の結果を示す。
3.組織所見
移植組織は、マクロ所見に加えて、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)、サフラニンO染色(SO染色)、免疫組織学的染色により評価した。
図9に、移植4週間後のRWV培養組織の写真(A:RWVで培養した軟骨組織:bar=10mm、B:全層欠損:bar=5mm、C:移殖直後所見、D:移殖後4週間所見)を示す。また、図11〜13に、移殖組織のHE染色、SO染色、免疫組織学染色の結果(A:ウサギ関節軟骨組織、B:移植組織)をそれぞれ示す。
4週間RWVを用いた回転培養をした結果、長径15mmの軟骨組織を構築できた(図9(A))、全層欠損モデルに移植後4週間たった欠損箇所の組織所見(図9(B),(C))は、きわめて滑らかな表面が観察でき、良好な軟骨再生が実現したと考えられた。4週後の組織切片のHE染色像では、正常軟骨組織と同様の軟骨再生像を観察することができた(図11)。軟骨の基質を特異的に染色するサフラニンO染色像でも、正常軟骨組織と類似の染色像が得られ、軟骨基質を産生しつつ再生されたことを確認した(図12)。また、軟骨に特異的なII型コラーゲンの発現も確認できた。
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
産業上の利用の可能性
本発明によれば、自家軟骨を侵襲することなく、骨髄細胞から効率的に軟骨組織を構築することができる。本発明の方法は、基礎研究はもとより、軟骨欠損部の修復を目的とした再生医療に利用することができる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
配列番号2−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
配列番号3−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
配列番号4−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
配列番号5−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
配列番号6−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬微小重力環境下で骨髄細胞を3次元的に培養することにより、軟骨組織を構築する方法。
【請求項2】
前記擬微小重力環境が、時間平均して地球の重力の1/10〜1/100に相当する重力を物体に与える環境である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記擬微小重力環境が、回転で生じる応力によって地球の重力を相殺することにより擬微小重力環境を地上で実現するバイオリアクターを用いて得られるものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記擬微小重力を地上で実現するバイオリアクターが、1軸回転式バイオリアクターである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記擬微小重力を地上で実現するバイオリアクターが、RWV(Rotating Wall Vessel)バイオリアクターである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
骨髄細胞の播種密度が10〜10/cm、RWVの回転速度が直径5cmベッセルに対して8.5〜25rpmの条件下で培養が行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
培養液中にTGF−βおよび/またはデキサメタゾンを添加して培養が行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
コンフルエントになるまで2次元培養した後、さらにサブカルチャーした骨髄細胞を擬微小重力環境下で培養する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記骨髄細胞が患者から採取された細胞である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/056072
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516155(P2005−516155)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018339
【国際出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】