説明

攪拌脱泡装置

【課題】どのような被処理物であっても、良好な攪拌脱泡が行える攪拌脱泡装置を提供する。
【解決手段】被処理物を収容する容器を備え、該容器は、公転及び自転の両方ができるように構成された攪拌脱泡装置であって、前記容器の公転が開始された後の任意の時点で該容器の自転が開始されるように該自転の開始時点を設定する自転開始時点設定手段17を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器に収容した被処理物を攪拌脱泡することができる攪拌脱泡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の攪拌脱泡装置としては、被処理物を収容する容器を回転テーブル上に備え、該容器は、回転テーブルの回転によって公転するだけでなく、回転テーブル上で容器自体が回転することによって自転もするように構成されたものが公知である。このような攪拌脱泡装置にあっては、容器を公転させることによって容器内の被処理物に遠心力が働き、その遠心力で被処理物が容器の内側の壁面に押し付けられ、それによって被処理物に含まれている泡と被処理物とを分離して脱泡することができ、さらに、容器を公転及び自転させることによって、被処理物を、公転による遠心力を働かせた状態で自転によって流動させて(攪拌力を作用させて)攪拌することができる。
【0003】
ところで、このような攪拌脱泡装置として、回転テーブルが回転して容器の公転が開始すると、それと同時に容器の自転も開始するように構成されたものが既に提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
かかる攪拌脱泡装置にあっては、容器の公転と自転とが同時に開始されるため、被処理物の処理の開始時点から、公転による遠心力と自転による攪拌力とを被処理物に作用させることができる。よって、被処理物が、例えば比重差の大きい2種類の材料(具体的には、粉材料と液体材料、例えば比重1.5以上の材料、特にセラミック材料であるアルミナ粉と比重0.9〜1.1程度の液体材料であるシリコン)からなる場合には、比重の大きい材料(粉材料)が、容器内の一箇所に圧縮されて、その全体又は一部が固まってしまうことなく、遠心力と攪拌力とで流動して、被処理物を攪拌・脱泡処理することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3213735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、被処理物が、例えば比重差の小さい2種類の材料(具体的には、複数の液体材料、例えば2種類のエポキシ材料)からなる場合には、前記遠心力と流動とが処理の開始時点から被処理物に作用すると、各材料(液体材料)に遠心力が十分にかかっていない状態、即ち公転が低い段階(低速段階)から自転が入ることにより被処理物が空気を巻き込んでしまう、所謂「泡噛み」が発生してしまい、十分に攪拌脱泡処理できなくなってしまう。特に、被処理物がエポキシ材料である場合などでは、一度巻き込まれた空気は、細分化されて被処理物から抜け難くなるため、特に脱泡が不十分になり易い。
【0007】
因みに、かかる比重差の小さい2種類の材料からなる被処理物における「泡噛み」を防止するために、容器の公転速度が所定速度になってから、容器の自転を開始する構成として、処理の開始段階では、公転による遠心力のみ被処理物に作用させることが考えられるが、このような構成にあっては、比重差の大きい2種類の材料(具体的には、粉材料と液体材料)からなる場合において、容器の公転速度が所定速度になるまで容器の自転による攪拌力が被処理物に作用しないため、被処理物が容器内の一箇所に圧縮されて、その全体又は一部が固まってしまい、十分に攪拌脱泡処理できなくなってしまう。
【0008】
そこで、本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであって、その解決しようとするところは、どのような被処理物であっても、良好な攪拌脱泡が行える攪拌脱泡装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明の攪拌脱泡装置は、前述の課題解決のために、被処理物を収容する容器を備え、該容器は、公転及び自転の両方ができるように構成された攪拌脱泡装置であって、前記容器の公転が開始された後の任意の時点で該容器の自転が開始されるように該自転の開始時点を設定する自転開始時点設定手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
該構成の攪拌脱泡装置にあっては、自転開始時点設定手段により、容器の公転に対する自転の開始時点を、攪拌脱泡処理する被処理物の構成材料の種類や性質に応じて、容器の公転が開始された後の任意の時点に設定することができる。よって、どのような被処理物であっても、所謂「泡噛み」や、被処理物の全体又は一部が固まってしまうことを防止して、良好な攪拌脱泡処理を行うことができる。
【0011】
また、前記自転開始時点設定手段は、前記自転開始時点設定手段が、前記容器の公転が開始されてから所定の公転速度になるまでの間の任意の時点で該容器の自転が開始されるように該自転の開始時点を設定する手段であってもよい。
【0012】
上記構成によれば、自転開始時点設定手段により、容器の公転に対する自転の開始時点を、攪拌脱泡処理する被処理物の構成材料の種類や性質に応じて、容器の公転が開始されて所定の公転速度になるまでの間の任意の時点に設定することができる。よって、どのような被処理物であっても、所謂「泡噛み」や、被処理物の全体又は一部が固まってしまうことを防止して、良好な攪拌脱泡処理を行うことができる。
【0013】
また、前記自転開始時点設定手段は、前記容器の自転の開始時点に関する自転開始時点データであって、前記開始時点が異なる複数の自転開始時点データを記憶するための自転開始時点データ記憶手段と、該自転開始時点データ記憶手段に記憶されている複数の自転開始時点データの中から一つを選択して容器の自転の開始時点として設定するための自転開始時点データ選択手段とを備えていてもよい。
【0014】
上記構成によれば、自転開始時点データ選択手段が自転開始時点データ記憶手段に記憶されている複数の自転開始時点データの中から一つを選択し、該選択した自転開始時点データの開始時点を、容器の自転の開始時点として設定するので、自転開始時点の設定を容易かつ迅速に行うことができる。
【0015】
また、前記複数の自転開始時点データは、前記容器が所定の公転速度になった時点で自転の開始となる第1自転開始データと、前記容器の公転が開始された時点で自転の開始となる第2自転開始データとを備え、前記自転開始時点データ選択手段は、第1自転開始データ又は第2自転開始データの一方を選択可能に構成されていてもよい。
【0016】
上記構成によれば、例えば比重差が大きな材料を攪拌する場合には、自転開始時点データ選択手段にて第2自転開始データを選択し、例えば比重差が小さな材料を攪拌する場合には、自転開始時点データ選択手段にて第1自転開始データを選択することができるので、自転開始時点データ(自転開始データ)を迅速に選択することができる。
【0017】
また、前記容器が所定の公転速度及び所定の自転速度において運転している運転状態から、容器の公転及び自転を減速させて停止させる停止制御手段を備え、該停止制御手段は、前記容器の公転の減速が開始してから停止するまでの間で自転の減速が開始して停止するように、該自転の減速開始時点及び停止時点を設定するように構成されていてもよい。
【0018】
上記構成によれば、停止制御手段によって、攪拌脱泡処理する被処理物を構成する複数の材料の種類や性質に応じて、公転に対する自転の減速開始時点及び停止時点を、公転が減速開始してから停止するまでの間の任意の時点に設定することができる。よって、どのような被処理物であっても、容器が所定の公転速度及び所定の自転速度から減速して停止する停止時において、被処理物に所謂泡噛みが発生したり、被処理物が容器内の一箇所に圧縮されて、その全体又は一部が固まってしまうことを防止して、良好な攪拌脱泡処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明における攪拌脱泡装置にあっては、容器の公転が開始されて所定の公転速度になるまでの間の任意の時点で容器の自転が開始されるように、該自転の開始時点を設定する自転開始時点設定手段を備えることによって、どのような被処理物であっても、容器の公転に対する自転の開始時点を的確に設定することができ、良好な攪拌脱泡を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る攪拌脱泡装置の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】同攪拌脱泡装置の一部を省略した縦断面図である。
【図3】本発明に係る攪拌脱泡装置の制御ブロック図である。
【図4】(a),(b)は公転と自転の駆動及び停止の2つのパターンを示すタイムチャートである。
【図5】(a),(b)は公転と自転の駆動及び停止の他の2つのパターンを示すタイムチャートである。
【図6】(a),(b)は公転と自転の他の2つの駆動パターンを示すタイムチャートである。
【図7】本発明に係る攪拌脱泡装置の他の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る攪拌脱泡装置の一実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
図1に、本実施形態における攪拌脱泡装置1を示している。この攪拌脱泡装置1は、複数の材料からなる被処理物を攪拌脱泡処理することができる装置である。尚、被処理物としては、例えば医療用材料や電子部品材料、液晶材料などの気泡を嫌う被攪拌材料の他、オフセット印刷機で使用するオフセットインキなどがある。
【0023】
図1に示す攪拌脱泡装置1は、上端に開口2Kが形成された上方開放型のケーシング2と、そのケーシング2内に収容された本体部3とを備えている。尚、本体部3の上部に、後述する容器5の上部及び錘9を移動操作する回転ハンドルHを露出させるための2つの開口K1,K2が形成された板状のカバー部材Kを設けている。
【0024】
本体部3は、図2に示すように、公転軸芯X1回りに回転可能に構成されたテーブル4と、被処理物を収容可能に構成され、テーブル4に設置されて自転軸芯X2回りに自転可能になるとともにテーブル4の公転軸芯X1回りの回転によって公転可能になる容器5と、容器5をテーブル4上で自転させる自転用駆動機構6と、テーブル4を回転させることにより容器5を公転させる公転用回転駆動機構7とを備えている。尚、テーブル4上には、容器5の公転又は公転と自転の両方が行われることにより発生する遠心力によって自ずと移動して容器5の重心位置とのバランスを取ることができるバランス調整装置Bを備えている。このバランス調整装置Bは、特開2011−36805号公報に示したものと同一であるため、詳細な説明は省略する。
【0025】
テーブル4は、公転軸芯X1が設定される支軸8に連結された中央部4Aと、この中央部4Aの外側に位置し、中央部4Aよりも低くなった水平部4Bと、この水平部4Bの回転径方向外側に連続して形成され、回転径方向外側ほど上方に位置する傾斜面4cが形成された傾斜部4Cとを備えている。また、テーブル4は、前記傾斜部4Cの傾斜面4cに容器5を自転軸芯X2回りに回転自在に取り付けることができるように構成されている。具体的には、傾斜部4Cの傾斜面4cには、容器5が着脱自在に内装可能に構成され、下部に円周状の溝5Mが形成された回転部材5Aが設けられている。また、テーブル4は、公転軸芯X1を基準にして容器5と回転径方向でほぼ対称の配置となるように、バランス調整装置Bを構成する錘9が水平部4Bに設けられている。尚、錘9は、その上端に設けられた回転ハンドルHを操作することにより、テーブル4の回転径方向に沿って移動可能に構成されている。また、容器5の回転軸である自転軸芯X2は、その上端側ほどテーブル4の公転軸芯X1側に接近するように傾斜している。
【0026】
公転用回転駆動機構7は、公転用の電動モータ7と、該電動モータ7の駆動回転軸(図示せず)に外嵌されて一体回転するように構成され、公転軸芯X1が設定される支軸8とを備える。そして、この支軸8の上端に、テーブル4の中央部4Aが連結されている。
【0027】
容器5は、一端が開口された有底円筒状の本体部51aと、この本体部51aの開口を密閉することができる蓋部51bとを備えている。
【0028】
自転用駆動機構6は、公転用の電動モータ7を駆動することにより支軸8と連れ回りするプーリ11と、プーリ11の回転力を前記回転部材5Aに伝動すべく、プーリ11と回転部材5Aの溝5Mとに渡って巻回された伝動ベルト12とを備えている。尚、前記プーリ11は、上下に溝11A,11Bが形成されており、上側の溝11Aに伝動ベルト12を介して前記回転部材5Aが連結され、下側の溝11Bに伝動機構13を介してパウダーブレーキ14が連結されている。
【0029】
伝動機構13は、パウダーブレーキ14から水平方向へ突出する出力軸14Aに一体回転自在に取り付けられた負荷用プーリ15と、負荷用プーリ15及び前記プーリ11の下側の溝11Bを連動連結する伝動ベルト16とを備えている。前記パウダーブレーキ14に印加する電圧を増減させることによって、プーリ11に加えられる回転負荷を可変することでプーリ11の回転数を変化させることができるようになっている。ここでは、伝動機構13として、伝動ベルト16を用いたベルト式の伝動機構としているが、歯車(ギヤ)を用いた歯車(ギヤ)式の伝動機構であってもよい。
【0030】
前記のように構成された攪拌脱泡装置は、制御装置U(図3参照)が備えられ、その制御装置Uによって制御されて動作するようになっている。ここで、その動作について説明する。まず、制御装置Uが、パウダーブレーキ14に加える電圧を0にして出力軸14Aをフリー(回転自在)にした状態で、公転用の電動モータ7を駆動すると、その回転が支軸8を介してテーブル4に伝動されてテーブル4が回転する一方で、負荷用プーリ15がフリー(回転自在)になっているため、負荷用プーリ15に伝動ベルト1を介して連結されているプーリ11が支軸8に対して連れ回りして伝動ベルト12はテーブル4の回転に対して相対的に回転駆動しない。その結果、容器5は、自転はせずに公転のみし、容器5内の被処理物に遠心力を作用させて被処理物に含まれている泡を被処理物から分離して脱泡することができる。
【0031】
前記とは逆に、制御装置Uが、パウダーブレーキ14に設定電圧を加えて、例えば出力軸14Aを非回転状態に固定した状態で、公転用の電動モータ7を駆動すると、その回転が支軸8を介してテーブル4に伝動されてテーブル4が回転する一方、負荷用プーリ15が非回転状態に固定されているため、該負荷用プーリ15に伝動ベルト16を介して連結されているプーリ11が支軸8の回転とは無関係に非回転状態になり、伝動ベルト12はテーブル4の回転に対して相対的に回転駆動して該回転駆動が回転部材5Aに伝動される。その結果、容器5は公転だけでなく自転もし、被処理物は、公転による遠心力で容器5の内側の壁面に押し付けられた状態で自転によって流動させられ、含まれている気泡を脱泡することができるとともに満遍なく攪拌することができる。尚、容器5は、テーブル4の回転方向とは逆方向に自転するとともにその最大自転速度がテーブル4の最大回転速度と同一速度になるように設定されているが、ギヤ比の設定変更や専用に設けられた自転モータを駆動制御することにより、公転速度と自転速度との比を1:1以外の比(例えば1:1.5など)にすることもできる。
【0032】
ここで、本実施形態における攪拌脱泡装置は、制御装置Uがパウダーブレーキ14に電圧を加えるタイミングを変更することによって、公転に対して自転を開始する時期を変更することができるように構成されており、その制御装置Uの構成について図3に基づいて説明する。
【0033】
制御装置Uは、容器5の自転を開始する時点を設定する自転開始時点設定手段17と、自転及び公転を行っている容器5の自転及び公転を停止させる停止制御手段18とを備えている。
【0034】
自転開始時点設定手段17は、容器5の公転が開始されてから所定の公転速度になるまでの間の任意の時点で容器5の自転が開始されるように自転を開始する時点を設定する手段である。
【0035】
また、自転開始時点設定手段17は、容器5の自転の開始時点に関する自転開始時点データであって、前記開始時点が異なる複数(ここでは2つ)の自転開始時点データを記憶するための自転開始時点データ記憶手段19と、自転開始時点データ記憶手段19に記憶されている2つの自転開始時点データの中から一つを選択して容器5の自転の開始時点として設定するための自転開始時点データ選択手段20とを備えている。
【0036】
2つの自転開始時点データは、容器5が所定の公転速度v1になった時点を、自転開始時点とする第1自転開始データ(図4(a)参照)と、容器5の公転が開始された時点を自転開始時点とする第2自転開始データ(図4(b)参照)であり、自転開始時点データ選択手段20は、これら2つの開始データのうちのいずれか一方を選択可能(切替可能)に構成されている。
【0037】
停止制御手段18は、容器5が所定の公転速度及び所定の自転速度において運転している運転状態から、容器5の公転及び自転をそれぞれ減速させて停止させる手段であり、より具体的には、公転の減速が開始してから停止するまでの間で自転の減速を開始して停止するように、容器5の自転の減速開始時点及び停止時点を設定する手段である。
【0038】
また、停止制御手段18は、容器5の自転の減速が開始される時点に関する減速開始時点データ及び自転が停止される時点に関する停止時点データからなる停止制御データを複数(ここでは2つ)記憶するための停止制御データ記憶手段21と、停止制御データ記憶手段21に記憶されている2つの停止制御データの中から一つを選択して容器5の自転の減速開始時点及び停止時点として設定するための停止制御データ選択手段22とを備えている。
【0039】
ここで、2つの停止制御データは、減速開始時点データが、容器5が所定の公転速度から減速を開始した時点で自転の減速を開始するデータであり、停止時点データが、自転の減速が開始したら直ちに自転が停止するデータである、第1停止制御データ(図4(a)参照)と、減速開始時点データが、容器5が所定の公転速度から減速を開始した時点で自転の減速を開始するデータであり、停止時点データが、公転が停止する時点で自転を停止するデータである、第2停止制御データ(図4(b)参照)とである。停止制御データ選択手段22は、これら2つの停止制御データのうちのいずれか一方を選択可能(切替可能)に構成されている。
【0040】
本実施形態における攪拌脱泡装置は、前記のように構成された制御装置Uにより、電動モータ7及びパウダーブレーキ14の駆動や停止を制御できるように構成されており、次に、かかる制御装置Uによる制御について説明する。
【0041】
まず、作業者が第1自転開始データと第1停止制御データとを制御装置Uの操作パネル(図示せず)に備えている例えば選択手段(例えば、切替ボタンや切替スイッチ)を操作して選択する(切替える)場合について説明する。かかる選択をすると、制御装置Uは、第1自転開始データに基づいて、パウダーブレーキ14へ供給する電圧を0にした状態で公転用の電動モータ7の駆動を開始する信号を、パウダーブレーキ14の電圧供給部及び電動モータ7へそれぞれ出力する。そうすると、図4(a)に示すように、容器5の自転は開始せずに公転のみ開始する。そして、公転が加速して公転速度が所定速度v1に達すると、制御装置Uは、パウダーブレーキ14へ電圧を供給する信号を電圧供給部に出力する。そうすると、パウダーブレーキ14が作動して容器5の自転が開始する。また、公転速度が所定速度v1に達すると、制御装置Uは、公転の所定速度v1での定速回転(つまり、テーブル4の定速回転)を所定時間行わせる信号を出力する。尚、図4(a)に示す場合では、パウダーブレーキ14の電圧供給部へ出力した信号は、パウダーブレーキ14が、作動してから所定時間経過後に、出力軸14Aを非回転状態に固定する状態となるように制御する信号である。よって、出力軸14Aを非回転状態に固定した状態では、自転速度が公転速度v1と同じ速度v1となる。また、容器5の自転速度が公転速度と同一速度v1になると、制御装置Uは、その速度を維持するようにパウダーブレーキ14へ電圧を供給する信号を電圧供給部に出力する。
【0042】
そして、前記定速回転が所定時間行われると、容器5の公転及び自転を減速して停止させる停止制御に移行する。制御装置Uは、前記所定時間が経過すると、第1停止制御データに基づいて、電動モータ7の回転を減速する信号を電動モータ7に出力すると同時に、パウダーブレーキ14への電圧を直ちに0にする信号を電圧供給部に出力して、図4(a)に示すように、容器5の公転の減速を開始させつつ自転を直ちに停止させる。図4(a)では、容器5の公転の減速開始時点と自転の停止時点とが同一となっているが、実際には若干のタイムラグがあるため、実質的に同一とみなせる範囲において、自転の停止時点が公転の減速開始時点よりも多少時間経過した側(図4(a)では右側)にずれることもある。
【0043】
次に、攪拌脱泡作業において、作業者が第2自転開始データと第2停止制御データを制御装置Uの操作パネル(図示せず)に備えている選択手段(例えば、切替ボタンや切替スイッチ)を操作して選択する場合について説明する。かかる選択をすると、制御装置Uは、第2自転開始データに基づいて、パウダーブレーキ14へ電圧を供給した状態で公転用の電動モータ7の駆動を開始させる信号を、パウダーブレーキ14の電圧供給部及び電動モータ7へそれぞれ出力する。これにより図4(b)に示すように、容器5の公転が開始すると同時に、自転も開始する。尚、図4(b)に示す場合では、パウダーブレーキ14の電圧供給部へ出力した信号は、パウダーブレーキ14が、作動してから所定時間経過後に、出力軸14Aを非回転状態に固定する状態となるように制御する信号である。よって、出力軸14Aを非回転状態に固定した状態では、自転速度が公転速度v1と同じ速度v1となる。そして、容器5の公転速度及び自転速度が所定速度v1に達すると、制御装置Uは、公転及び自転の所定速度v1での定速回転を所定時間行わせる信号を、電動モータ7及び電圧供給部に出力する。
【0044】
そして、前記定速回転が所定時間行われると、容器5の公転及び自転を減速して停止させる停止制御に移行する。制御装置Uは、前記所定時間が経過すると、第2停止制御データに基づき、電動モータ7の回転を減速する信号を電動モータ7に出力すると同時に、パウダーブレーキ14への電圧を時間経過とともに徐々に低下させる信号を電圧供給部に出力して、図4(b)に示すように、容器5の公転の減速度と同じ減速度で容器5の自転を減速させて公転の停止時点と自転の停止時点とを一致させる。
【0045】
ここで、自転開始自転データの2つの自転開始データ(第1自転開始データ及び第2自転開始データ)の選択と、2つの停止制御データ(第1停止制御データ及び第2停止制御データ)の選択とは、被処理物を構成する材料の種類や性質に応じてなされる。
【0046】
つまり、被処理物が、比重差の小さい2種類の材料(具体的には、複数の液体材料、例えば比重の異なる2種類のエポキシ材料)からなる場合、第1自転開始データと第1停止制御データを選択することによって、図4(a)に示すように、第1自転開始データに基づいて、容器5が所定の公転速度になった時点で自転が開始されることから、処理の開始時において、被処理物には、容器5の公転による遠心力のみ作用して自転による攪拌力は作用しない。従って、比重差の小さい各液体材料が容器5内で大きく流動することがなく、所謂「泡噛み」の発生を防止することができる。しかも、停止制御においては、第1停止制御データに基づいて、公転と自転とを行っている容器5の公転を減速させる時点で自転を直ちに停止することによって、容器5の停止制御中においても、被処理物には、容器5の公転による遠心力のみ作用して自転による攪拌力は作用しない。よって、比重差の小さな各液体材料が容器5内で大きく流動するのを防止して所謂「泡噛み」を防止することができる。特に、所謂「泡噛み」は、容器5の公転を減速している途中の低速時に自転している場合に発生し易いため、公転の減速開始時点で自転を直ちに停止する場合のように、自転の停止時点を公転の停止時点よりも手前(時間的に早く)に設定することが好ましい。
【0047】
また、被処理物が、比重差の大きい2種類の材料(具体的には、粉材料と液体材料)からなる場合、第2自転開始データと第2停止制御データを選択する(切替える)ことによって、図4(b)に示すように、第2自転開始データに基づいて、容器5の公転と自転とが同時に開始されることから、公転による遠心力によって容器5の底面から上端面までの全域に亘って押し付けられている被処理物を、自転による攪拌力によって全体的に流動させることができる。よって、容器内の一箇所に比重が大きい材料(粉材料)が圧縮されてその全体又は一部が固まってしまうことを防止して十分に攪拌脱泡処理することができる。しかも、第2停止制御データに基づいて、公転と自転とを行っている容器5を、同時に減速させて、同時に停止させることができるから、停止制御中においても、容器内の一箇所に比重が大きい材料(粉材料)が圧縮されてその全体又は一部が固まってしまうことを防止することができる。尚、比重差の大きい2種類の材料の組み合わせとしては、比重1.5以上の材料、特にセラミック材料であるアルミナ粉と比重0.9〜1.1程度の液体材料であるシリコンとの組み合わせの他、電極用カーボン粉(粒径数μm〜数10μm)と溶剤との組み合わせなどが挙げられる。
【0048】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0049】
前記実施形態では、2つの自転開始データと2つの停止制御データとから、図4(a),(b)に示す2つのパターンの制御を切替可能なようにしたが、2つの自転開始データと2つの停止制御データとの組み合わせを変更して、4つのパターンの制御を行うように構成してもよい。つまり、図4(a),(b)の2つのパターンと、図4(a)の自転開始データ(第1自転開始データ)と図4(b)の停止制御データ(第2停止制御データ)とを組み合わせた1つのパターンと、図4(b)の自転開始データ(第2自転開始データ)と図4(a)の停止制御データ(第1停止制御データ)とを組み合わせた1つのパターンとからなる4つのパターンであってもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、2つの自転開始データを自転開始時点データ記憶手段19に記憶させ、2つの停止制御データを停止制御データ記憶手段21に記憶させたが、3つ以上の自転開始データを自転開始時点データ記憶手段19に記憶させ、同じく3つ以上の停止制御データを停止制御データ記憶手段21に記憶させて、それらの中から1つの自転開始データと1つの停止制御データとを選択する構成であってもよい。
【0051】
ここで、自転開始データ及び停止制御データの他の例を図5(a),(b)に示している。図5(a)では、自転開始データは、公転速度が所定の速度になるように加速している途中の速度(公転速度が所定の公転速度v1のほぼ半分)になった時点から自転を開始するデータであり、公転と自転とは、ほぼ同じ加速度である。停止制御データは、公転の減速が開始した時点から自転の減速を開始し、公転が停止する時間よりも短い時間(公転の停止時間のほぼ半分の時間)で自転が停止するデータであり、公転の減速度よりも自転の減速度の方が大きくなっている。また、図5(b)では、自転開始データは、公転と自転とは同時に開始し、公転が所定の公転速度に達する前に(公転が所定の公転速度のほぼ半分に達した時点で)自転速度が所定の自転速度に達するデータであり、公転の加速度は自転の加速度より小さくなっている。停止制御データは、公転の減速が開始し後に(公転の速度がほぼ半分に減速された時点で)自転の減速を開始し、公転と自転とを同じ停止時点とするデータであり、自転の減速度が公転の減速度よりも大きくなっている。図5(b)に示すように、自転の加速度が公転の加速度よりも大きくし、自転の減速度が公転の減速度よりも大きくするためには、図7に示すように、公転用の電動モータ7と自転用の電動モータ23とを用いることになる。また、実施形態で示した自転開始時点設定手段17は、自転の開始時点を容器5の公転が開始されてから所定の公転速度になるまでの間の任意の時点で該容器5の自転が開始されるように該自転の開始時点を設定する手段であったが、容器5の公転が開始されてから所定の公転速度になった後の任意の時点で容器5の自転が開始されるように、該自転の開始時点を設定してもよい。要するに、容器5の公転が開始された後であれば、どのような時点に該容器5の自転の開始時点を設定してもよい。
【0052】
尚、自転開始データと停止制御データとを別々のデータとして記憶させる場合に限らず、1つの自転開始データと1つの停止制御データとを組み合わせた自転制御データを複数組記憶させ、記憶された複数の自転制御データの中から1つの自転制御データを選択する構成であってもよい。
【0053】
また、停止制御データを同一の1つのデータとし、自転開始データのみ複数の異なるデータから構成し、それら複数の自転開始データの中から1つの自転開始データを選択する構成であってもよい。
【0054】
また、前記実施形態では、自転速度及び公転速度が所定速度になると、定速制御を行うようにしたが、図6(a)に示すように、自転速度を可変にしてもよい。図6(a)のグラフでは、自転速度の波形が、速度v1からv2の間の速度範囲内で上下方向に一定周期で波打つ(正弦波状に波打つ)ように変化している。尚、自転速度が変化する速度範囲は、一定幅の範囲である場合に限らず、時間経過とともに徐々に増大又は減少するあるいは増大と減少を繰り返すように変化する場合であってもよい。また、自転が正転と逆転とを繰り返す構成であってもよい。この場合の正転と逆転との時間の比率は、どのように設定することも可能である。尚、図6(a)において、公転と自転とが同時に実行され、停止時点も同一にしているが、これらに限定されない。
【0055】
また、定速制御の代わりに、自転だけでなく公転も速度変化させる制御をすることも可能である。図6(b)では、公転速度の波形も自転速度の波形と同様に速度v1からv2の間の速度範囲内で上下方向に一定周期で波打つ(正弦波状に波打つ)ように変化している。尚、公転速度が変化する速度範囲についても、自転速度の速度範囲と同様に、時間経過とともに徐々に増大減少するあるいは増大と減少を繰り返すように変化する場合であってもよい。また、自転と同様に、公転が正転と逆転とを繰り返す構成であってもよい。特に、公転の回転方向に対して自転が正転方向又は逆転方向に回転する構成が好ましい。この場合の正転と逆転との時間の比率は、どのように設定することも可能である。尚、図6(b)において、公転と自転とが同時に実行され、停止時点も同一にしているが、これらに限定されない。
【0056】
尚、上記のように公転又は自転を正転及び逆転させるためには、図7に示すように、公転用の電動モータ7の他に、自転用の電動モータ23を備えさせて、それら2つの電動モータ7,23を駆動制御することになる。
【0057】
また、前記実施形態では、公転用の電動モータ7とパウダーブレーキ14とで容器5の自転を行わせるとともにパウダーブレーキ14への電圧の供給タイミングを変更することによって、少なくとも公転の開始時点に対する容器5の自転の開始時点を制御するようにしたが、図7に示すように、公転用の電動モータ7の他に、自転用の電動モータ23を備えさせて、それら2つの電動モータ7,23を駆動制御することによって、公転の開始時点に対する容器5の自転の開始時点を制御する構成であってもよい。要するに、容器5の公転と自転とを別々に制御できる構成であれば、公転に対する自転の開始時点を制御することができる。但し、電動モータ7とパウダーブレーキ14とを用いることによって、装置の構成を簡略化して小型化を図ることができ、一方、2つの電動モータ7,23を用いることによって、公転速度よりも自転速度を速くすることができるだけでなく、容器5の公転方向と自転方向とを自由に変更することができる利点がある。
【0058】
また、前記実施形態では、1つの容器5をテーブル4上に設けた構成にしたが、複数の容器5をテーブル4上に設けた構成であってもよい。
【符号の説明】
【0059】
1…攪拌脱泡装置、2…ケーシング、2K…開口、3…本体部、4…テーブル、4A…中央部、4B…水平部、4C…傾斜部、4c…傾斜面、5…容器、5A…回転部材、5M…溝、6…自転用駆動機構、7…公転用回転駆動機構(公転用の電動モータ)、8…支軸、9…錘、11…プーリ、11A,11B…溝、12…伝動ベルト、13…伝動機構、14…パウダーブレーキ、14A…出力軸、15…負荷用プーリ、16…伝動ベルト、17…自転開始時点設定手段、18…停止制御手段、19…自転開始時点データ記憶手段、20…自転開始時点データ選択手段、21…停止制御データ記憶手段、22…停止制御データ選択手段、23…電動モータ、51a…本体部、51b…蓋部、B…バランス調整装置、H…回転ハンドル、K…カバー部材、K1,K2…開口、U…制御装置、X1…公転軸芯、X2…自転軸芯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物を収容する容器を備え、該容器は、公転及び自転の両方ができるように構成された攪拌脱泡装置であって、
前記容器の公転が開始された後の任意の時点で該容器の自転が開始されるように該自転の開始時点を設定する自転開始時点設定手段を備えたことを特徴とする攪拌脱泡装置。
【請求項2】
前記自転開始時点設定手段が、前記容器の公転が開始されてから所定の公転速度になるまでの間の任意の時点で該容器の自転が開始されるように該自転の開始時点を設定する手段であることを特徴とする攪拌脱泡装置。
【請求項3】
前記自転開始時点設定手段は、前記容器の自転の開始時点に関する自転開始時点データであって、前記開始時点が異なる複数の自転開始時点データを記憶するための自転開始時点データ記憶手段と、該自転開始時点データ記憶手段に記憶されている複数の自転開始時点データの中から一つを選択して容器の自転の開始時点として設定するための自転開始時点データ選択手段とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の攪拌脱泡装置。
【請求項4】
前記複数の自転開始時点データは、前記容器が所定の公転速度になった時点で自転の開始となる第1自転開始データと、前記容器の公転が開始された時点で自転の開始となる第2自転開始データとを備え、前記自転開始時点データ選択手段は、第1自転開始データ又は第2自転開始データの一方を選択可能に構成されていることを特徴とする請求項3に記載の攪拌脱泡装置。
【請求項5】
前記容器が所定の公転速度及び所定の自転速度において運転している運転状態から、容器の公転及び自転を減速させて停止させる停止制御手段を備え、該停止制御手段は、前記容器の公転の減速が開始してから停止するまでの間で自転の減速が開始して停止するように、該自転の減速開始時点及び停止時点を設定するように構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の攪拌脱泡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−192352(P2012−192352A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58754(P2011−58754)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000145286)株式会社写真化学 (7)
【Fターム(参考)】