説明

改善された核酸増幅のためのポリアニオン

【課題】非特異的なプライマー二量体増幅が、増幅反応の前に、規定されたポリアニオンを添加することにより回避されることを特徴とする、ホットスタートPCRを行う新規な方法の提供。
【解決手段】構造[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]nを含む化合物であって、3≦m≦6、30≦n≦60、x及びyはそれぞれ、互いに独立して、0又は1であり、X及びYはそれぞれ、互いに独立して、任意の光度測定可能部分であり、ただし、末端のXは-OH基又はリン酸基であってもよく、さらに、末端のYは-OH基であってもよいことを特徴とする新規な化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような鋳型依存性ポリメラーゼ触媒プライマー伸長反応の分野に関する。より正確には、本発明は、非特異的なプライマー二量体増幅が、増幅反応の前に、規定されたポリアニオンを添加することにより回避されることを特徴とする、ホットスタートPCRを行う新規な方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅、とりわけPCRの主な問題は、非特異的な増幅産物の生成である。多くの場合、これは、実際のサーマルサイクル手順自体に先立つ非特異的なオリゴヌクレオチドのプライミング及びその後のプライマー伸長事象が原因である。なぜなら、耐熱性DNAポリメラーゼは、周囲温度においても適度に活性を有するためである。例えば、偶然に発生したプライマー二量体化及びその後の伸長に最終的に起因する増幅産物が頻繁に観察される。この問題を克服するために、増幅反応に必須の一成分を、反応混合物の温度を初めて上昇させるまで反応混合物から分けておくか、又は不活性状態に維持しておく、いわゆる「ホットスタート」PCRを行うことが当技術分野で周知である。ポリメラーゼは、これらの条件下では機能できないため、プライマーが非特異的に結合できる期間は、プライマー伸長が起こらない。この効果を達成するために、いくつかの方法が適用されている。
【0003】
(a)DNAポリメラーゼの物理的分離
物理的分離は、例えば、DNAポリメラーゼを含有する区画を、その他の試薬をまとめて含有する区画から分離する固形ろうのバリアにより行うことができる。最初の加熱工程の間に、ろうは自動的に融解し、流体の区画が混合される(Chou, Q.ら、Nucleic Acids Res 20(1992)1717〜23頁、米国特許第5,411,876号)。或いは、DNAポリメラーゼが、増幅反応の前に固体支持体上に親和性により固定化され、熱により媒介される解離によってのみ、反応混合物中に放出される(Nilsson, J.ら、Biotechniques 22(1997)744〜51頁)。しかし、これらの方法はともに、時間がかかり、実行するには不便である。
【0004】
(b)DNAポリメラーゼの化学的修飾
この種のホットスタートPCRのために、DNAポリメラーゼは、化学的修飾の結果として可逆的に不活性化される。より正確には、熱不安定性のブロッキング基をTaq DNAポリメラーゼに導入して、室温では酵素を不活性にする(米国特許第5,773,258号)。これらのブロッキング基は、酵素が活性化されるように、プレPCRステップの間に高温で除去される。このような熱不安定性修飾は、例えば、シトラコン酸無水物又はアコニチン酸無水物(aconitric anhydride)を酵素のリジン残基に結合させることにより行うことができる(米国特許第5,677,152号)。このような修飾を有する酵素は、一方で、Amplitaq Gold(Moretti, T.ら、Biotechniques 25(1998)716〜22頁)又はFastStart DNAポリメラーゼ(Roche Molecular Biochemicals)のように、商業的に入手可能である。しかし、ブロッキング基の導入は、酵素の全ての立体的に利用可能なリジン残基で適宜生じる化学反応である。したがって、化学的修飾酵素調製物の再現性及び品質は、変動することがあり、ほとんど制御できない。
【0005】
(c)DNAポリメラーゼの組換え改変
Taqポリメラーゼの低温感受性変異体が、遺伝子工学により作製されている。これらの変異体は、N末端を欠損している点で野生型酵素とは異なっている(米国特許第6,241,557号)。天然又は野生型の組換えTaqポリメラーゼとは対照的に、これらの変異体は、35℃未満で完全に不活性であり、したがって、ホットスタートPCRを行うために用い得る場合がある。しかし、N末端切断低温感受性変異体は、低塩濃度の緩衝液を必要とし、野生型酵素に比較して処理能力(プロセッシビティ)がより低く、それゆえ短い標的核酸の増幅にしか用いることができない。さらに、切断型は、5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を失っているので、TaqMan検出フォーマットに基づくリアルタイムPCR実験に用いることができない。
【0006】
(d)核酸添加物によるDNAポリメラーゼ阻害
非特異的にアニーリングしたプライマーの伸長は、短鎖二本鎖DNA断片の添加により阻害されることが示されている(Kainz, P.ら、Biotechniques 28(2000)278〜82頁)。この場合、プライマー伸長は、短鎖二本鎖DNA断片の融点未満の温度で阻害されるが、競合DNA自体の配列に依存しない。しかし、過剰の競合DNAが核酸増幅反応の収率にどの程度影響するかは知られていない。
【0007】
或いは、規定された二次構造をもたらす特定の配列を有するオリゴヌクレオチドアプタマーを用いることができる。このようなアプタマーは、DNAポリメラーゼに対する非常に高い親和性のために、SELEX技術を用いて選択されている(米国特許第5,693,502号、Lin, Y.及びJayasena, S., D.、J. Mol. Biol. 271(1997)100〜11頁)。また実際のサーマルサイクル工程の前に増幅混合物中にこのようなアプタマーが存在すると、DNAポリメラーゼへの高い親和性での結合がもたらされ、その結果、その活性の熱不安定性阻害が生じる(米国特許第6,020,130号)。しかし、選択工程のために、現在のところ利用可能なアプタマーは全て、ある特定の種のDNAポリメラーゼとの組合せでしか用いることができない。
【0008】
(e)Taq DNA抗体
Taq DNAポリメラーゼの熱不安定性阻害を達成するための別の手法は、精製酵素に対して得られたモノクローナル抗体の添加である(Kellogg, D., E.ら、Biotechniques 16(1994)1134〜7頁;Sharkey, D., J.ら、Biotechnology (N Y) 12(1994)506〜9頁)。オリゴヌクレオチドアプタマーのように、抗体はTaq DNAポリメラーゼに周囲温度において高い親和性で阻害的に結合する(米国特許第5,338,671号)。複合体は、サーマルサイクル工程自体の前に、プレ加熱ステップで分解される。このことにより、特に、迅速なサーマルサイクルプロトコルが用いられる場合に、増幅が全体として、実質的に時間の浪費として延長される(WO 97/46706)。
【0009】
米国特許第5,985,619号は、Taqポリメラーゼの他に、例えば大腸菌(E.coli)由来のエキソヌクレアーゼIIIを、非特異的なプライマー二量体中間体を消化するために増幅混合物に補充物として加える、ホットスタート抗体を用いてPCRを行うための具体的な実施形態を開示している。上記で開示されるように、エキソヌクレアーゼIIIは、二本鎖DNAを、例えば標的/プライマーハイブリッド又は標的/プライマー伸長産物ハイブリッドのような基質として認識する。消化は、3'末端デオキシヌクレオチド残基の5'末端にて、ホスホジエステル結合の切断により起こる。このタイプのエキソヌクレアーゼは周囲温度にて活性であるので、全ての非特異的にアニーリングしたプライマー及びプライマー伸長産物は消化される。このことにより、いくつかの実施形態において、増幅反応の特異性が一様に増大される。しかし、プレインキュベーション時間の長さに依存する非特異的なプライマーの消化は、プライマー濃度の制御されない相当の減少を導くことがあり、このことが、増幅反応自体に影響を及ぼし得る。
【0010】
(f)改変プライマー単独、又はエキソヌクレアーゼとの組合せでの使用
EP0799888及びGB2293238は、3'でブロッキングされたオリゴヌクレオチドをPCR反応に添加することを開示している。3'ブロッキングのために、これらのオリゴヌクレオチドは、プライマーとして作用できない。ブロッキングされたオリゴヌクレオチドは、PCRプライマーと競合/相互作用するように設計され、このことにより、非特異的な産物が減少する。
【0011】
別の代替法は、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドプライマーを、エキソヌクレアーゼIIIと組み合わせてPCR反応混合物中で用いることである(EP0744470)。この場合、一本鎖DNA基質とともに二本鎖DNA基質も通常受け入れる3'エキソヌクレアーゼは、プライマー二量体のような二本鎖産物を消化し、且つアンプリコンを残す(carry over)が、一方で一本鎖増幅プライマーは分解されないままにする。同様に、塩基性修飾3'末端を有するプライマーの使用と、大腸菌エンドヌクレアーゼIVによる鋳型依存的除去が提案されている(米国特許第5,792,607号)。
【0012】
全般的な考え方の具体的な実施形態は、EP1275735に見出される。この明細書は、(i)耐熱性DNAポリメラーゼと、(ii)耐熱性3'-5'エキソヌクレアーゼと、(iii)該耐熱性DNAポリメラーゼにより伸長されない3'修飾末端残基を有する核酸増幅のための少なくとも1つのプライマーとを含む、核酸増幅反応を行うための組成物、及びこの組成物を用いてPCR反応を行う方法を開示している。
【0013】
しかし、各PCR反応について修飾プライマーが必要であり、各個別のアッセイの費用増加に関する要件を増加させる点が、この開示された代替法の主要な問題である。
【0014】
(g)その他のPCR添加物
DMSO、ベタイン、及びホルムアミドのような当該技術において公知の他の有機添加物(WO 99/46400号;Hengen, P., N.、Trends Biochem Sci 22(1997)225〜6頁;Chakrabarti, R.及びSchutt, C., E.、Nucleic Acids Res 29(2001)2377〜81頁)は、プライマー二量体形成の防止よりもむしろ、GCに富む配列の増幅の改善をもたらす。同様に、ヘパリンは、染色体DNAへの近接を可能にするためにおそらくヒストンのようなタンパク質の除去により、in vitroラン・オン転写(run-on transcription)を刺激し得る(Hildebrand, C., E.ら、Biochimica et Biophysica Acta 477(1977)295〜311頁)。
【0015】
一本鎖結合タンパク質(米国特許第5,449,603号)又はtRNA(Sturzenbaum, S., R.、Biotechniques 27(1999)50〜2頁)の添加が、これらの添加物をプライマーに非共有的に会合させることも知られている。この会合は、PCRの間に加熱すると分離する。DNAヘリカーゼを添加すると、プライマーのランダムアニーリングが妨げられることも見出された(Kaboev, O., K.ら、Bioorg Khim 25(1999)398〜400頁)。さらに、ポリグルタミン酸(WO 00/68411号)が、低温でのポリメラーゼ活性を阻害するために用いられることがある。
【0016】
さらに、ポリアニオンポリメラーゼ阻害剤が、用いるインキュベーション温度に依存して、耐熱性DNAポリメラーゼの活性を制御し得ることが知られている。米国特許第6,667,165号は、不活性のポリメラーゼ-阻害剤複合体が、40℃未満の温度で形成されることを特徴とするホットスタートの実施形態を開示している。40℃〜55℃では、阻害剤は、Taqポリメラーゼへの結合について鋳型DNAと競合するが、55℃を超える温度では、阻害剤はポリメラーゼ活性部位から離れる。しかし、阻害剤は、アニーリング温度がより低いプライマーを用いる場合に、得られる産物の収率を低減させる傾向にある。
【0017】
(h)マグネシウム隔離
耐熱性ポリメラーゼは、Mg2+陽イオンの存在下でのみ活性を有すると長い間知られているので、誤ったプライミング及び非特異的なプライマー伸長を避けるために、サーマルサイクルプロトコルの開始前にマグネシウムを隔離することが試みられている。米国特許第6,403,341号に開示されるように、Mg2+は、沈澱物の形で存在することができ、したがって、増幅反応の開始時に利用できない。サーマルサイクルの第1ラウンドの間の温度上昇の際に、沈澱物は溶解し、Mg2+は、最初の3サイクルの間に完全に利用可能になる。このような溶液は、かなり適切であり、良好なホットスタートの結果をもたらし得ることが示されている。一方、このような溶液については、核酸増幅反応を行うために必要な、プライマー及び標的核酸以外の全ての反応物(試薬)を含有するマスターミックスを調製することができない。その結果、アッセイ間のデータ再現性及びデータ比較が複雑である。さらに、所望のホットスタート効果を得るために、Mg2+結合ペプチドを増幅溶液に加えることが開示されている(PCT/EP2007/001585)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
概説した従来技術に鑑みて、本発明の目的は、増幅工程自体の前のみならずサーマルサイクル工程の間も非特異的プライミング及びプライマー伸長の阻害を可能にする、ホットスタートPCRのための改善された代替の組成物及び方法を提供することであった。より正確には、本発明の目的は、非特異的にアニーリングしたプライマーの伸長が生じることのない、ホットスタートPCRのための代替の組成物及び方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第一の態様において、本発明は、構造:
[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]n
を含む化合物であって、
3≦m≦6、
30≦n≦60、
x及びyはそれぞれ、互いに独立して、0又は1であり、
X及びYはそれぞれ、互いに独立して、ヌクレオシド残基、(デオキシ-)ヌクレオシド残基、誘導体化ヌクレオシド又は(デオキシ-)ヌクレオシド残基、及びヌクレオシド又は(デオキシ-)ヌクレオシド類似体からなる群より選択される部分であり、
ただし、m、x及びyはそれぞれ、各[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]単位について独立して選択され、さらに、末端のXは-OH基又はリン酸基であってもよく、さらに、末端のYは-H又は(CH2)m-OH基であってもよい
ことを特徴とする化合物を提供する。
【0020】
第二の態様において、本発明は、
- 上記で開示された化合物と、
- DNAポリメラーゼと、
- デオキシ-オリゴヌクレオシド三リン酸と
を含む組成物に関する。
【0021】
具体的な実施形態において、前記組成物は、有機疎水性部分での修飾を含むことを特徴とする5〜8塩基長のランダムオリゴヌクレオチドをさらに含む。
【0022】
第三の態様において、本発明は、
- 上記で開示された化合物と、
- DNAポリメラーゼと、
- デオキシ-オリゴヌクレオシド三リン酸と
を含むキットを提供する。
【0023】
具体的な実施形態において、そのキットは、有機疎水性部分での修飾を含むことを特徴とする5〜8塩基長のランダムオリゴヌクレオチドをさらに含む。
【0024】
第四の態様において、本発明は、
- 核酸を含有する試料を準備するステップと、
- 上記で開示された組成物を準備するステップと、
- 少なくとも第1のオリゴヌクレオチドプライマーを準備するステップと、
- ポリメラーゼ触媒プライマー伸長反応を行うステップと
を含む方法を提供する。
【0025】
ある実施形態において、前記核酸はDNAである。別の実施形態において、前記核酸はRNAであり、前記DNAポリメラーゼは、逆転写酵素活性を含む。
【0026】
具体的な実施形態において、前記ポリメラーゼは、耐熱性ポリメラーゼであり、反応はリアルタイムでモニターされる。その後、融解曲線分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】種々の量の化合物X40の存在下での種々の量の標的DNAのPCR増幅(実施例2)を示す図である。
【図2a】RT-PCRの後の融解曲線分析(実施例5)を示す図である。(a)X40の存在下での第1鎖cDNA合成と、その後のX40の不在下でのPCR。
【図2b】RT-PCRの後の融解曲線分析(実施例5)を示す図である。(b)X40の存在下での第1鎖cDNA合成と、その後のX40の存在下でのPCR。
【図2c】RT-PCRの後の融解曲線分析(実施例5)を示す図である。(c)X40の不在下での第1鎖cDNA合成と、その後のX40の不在下でのPCR。
【図2d】RT-PCRの後の融解曲線分析(実施例5)を示す図である。(d)X40の不在下での第1鎖cDNA合成と、その後のX40の存在下でのPCR。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、特異性が増大したプライマー伸長反応を行うための、改善された新しい解決法を提供する。特に、本発明は、特異性が増大した核酸増幅反応を行うための、改善された新しい解決法を提供する。いわゆるホットスタート効果は、望ましくないプライマー伸長を有効に阻害する。望ましくないプライマー伸長は、核酸試料中の、核酸標的の実際のプライマー結合部位とは異なる何らかの配列にプライマーが少なくとも部分的にハイブリダイズする、偶発的なハイブリダイゼーション事象に起因する。
【0029】
本発明に係る化合物
本発明は、構造:
[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]n
を含む化合物であって、
3≦m≦6、
30≦n≦60、
x及びyはそれぞれ、互いに独立して、0又は1であり、
X及びYはそれぞれ、互いに独立して、任意の光度測定可能部分であり、
ただし、m、x及びyはそれぞれ、各[Xx-Cm-リン酸-Yy]単位について独立して選択され、さらに、末端のXは-OH基又はリン酸基であってもよく、さらに、末端のYは-H又は(CH2)m-OH基であってもよい
化合物を提供する。
【0030】
本発明の化合物は、低温においてMg2+イオンの可逆的結合パートナーとして作用するように設計されている。一方、該化合物は、DNAポリメラーゼに結合する適当な親和性を有さないようである。BIAcore2000装置における、本発明に係る構造を有する固定化されたいくつかの化合物に対するTaqポリメラーゼの結合速度を決定するためのそれぞれの実験では、いずれの検出可能な特異的結合親和性も証明できなかった。
【0031】
温度上昇後、Mg2+イオンは溶液中に再び遊離する。ポリメラーゼ触媒プライマー伸長反応について、Mg2+イオンの濃度が、反応の特異性及び処理能力(プロセッシビティ)のために重要な役割を有することが知られている。したがって、ポリメラーゼ連鎖反応の開始時に、Mg2+イオンが、試料中に存在する本発明の化合物への温度依存的非共有結合により溶液から可逆的に除去されると、所望のホットスタート効果が得られる。すなわち、核酸試料の誤った標的領域に非特異的に結合したプライマーの伸長に基づく、低温での望ましくないポリメラーゼ活性が阻害される。本発明の化合物からMg2+イオンが可逆的に遊離すると、Mg2+イオンの有効濃度が再び増加し、ポリメラーゼによる特異的プライマー伸長が起こり得る。
【0032】
さらに、本発明の化合物とMg2+との結合が温度依存的に可逆的であるという事実のため、所望のホットスタート効果が、ポリメラーゼ連鎖反応の開始時の最初の温度上昇の前に達成されるだけでなく、増幅プロトコル全体におけるその後のサイクルでの各アニーリング段階の間にも起こる。
【0033】
各「[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]」単位について、X及びYは、存在しないか、又は光度測定可能部分であるかのいずれであってもよい。しかし、合成の容易性の理由から、本発明の化合物のほとんど又は全ての単位は、同一であることが好ましい。さらに、すべての単位が同一である場合、Xのみ又はYのみのいずれかが各単位に存在することが有利である。
【0034】
本発明において、本発明の化合物は、30〜60個の前記単位で構成されることが好ましい。所望のホットスタート効果を得るために少なくとも30単位が必要である一方、上限が60単位であることにより、本発明の化合物は、以下に開示する方法により容易に合成することができる。
【0035】
本発明の化合物は、UV又は可視光分光法による濃度の調整を促進するために、光度測定可能部分を有する。したがって、原則的に、標準的なオリゴヌクレオチド合成条件で安定であり、250nmより大きい吸収を有する任意の部分が適している。
【0036】
好ましくは、このような光度測定可能部分は、260nmでの各UV吸収測定によりその存在が検出可能な、例えば、デオキシ-アデノシン、デオキシ-グアノシン、デオキシ-シトシン、デオキシ-チミジン若しくはデオキシ-ウリジンのような(デオキシ-)ヌクレオシド残基、又は誘導体化ヌクレオシド残基若しくはヌクレオシド類似体である。
【0037】
光度測定可能部分の他の例は、ジニトロフェニル若しくはフェニルのようなアロメート(aromates)、ピレンのようなポリアロメート、又はアクリジンのようなヘテロアロメート、並びに蛍光及び非蛍光色素(例えばフルオレセイン、ローダミン、オキサジン、シアニン又はアゾ色素など)からなる群より選択することができる。
【0038】
したがって、本発明の関係において、X又はYは互いに独立して、存在しないか、又は色素若しくは任意選択で誘導体化されていてもよいヌクレオシドであるかのいずれであってもよい。X又はYのいずれかが化合物の内部の部分を表す場合、前記X及びYの部分は、好ましくは、デオキシ-アデノシン、デオキシ-グアノシン、デオキシ-シトシン、デオキシ-チミジン又はデオキシ-ウリジンのような(デオキシ-)ヌクレオシド残基である。
【0039】
一実施形態において、化合物は、構造:
X-[(CH2)m-リン酸]n-Y
であって、
3≦m≦6、
30≦n≦60、
Xは、ヒドロキシ基又はリン酸基のいずれかであり、
Yは、ヒドロキシ基、又は任意選択で誘導体化されていてもよい(デオキシ-)ヌクレオシド残基のような光度測定可能部分のいずれかである
ことを特徴とする構造を含む。
【0040】
好ましくは、全ての[(CH2)m-リン酸]単位は同一である。
【0041】
別の実施形態において、化合物は、構造:
X-[(CH2)m-リン酸-Y]n
であって、
3<m<6、
30<n<60、
Xは、ヒドロキシ基又はリン酸基のいずれかであり、
それぞれのYは、ヒドロキシ、又は任意選択で誘導体化されていてもよい(デオキシ-)ヌクレオシド残基のような光度測定可能部分のいずれかである
ことを特徴とする構造を含む。
【0042】
好ましくは、全ての-[(CH2)m-リン酸-Y]単位は同一である。
【0043】
さらなる実施形態において、化合物は、構造:
[X-(CH2)m-リン酸]-Yn
であって、
3≦m≦6、
30≦n≦60、
それぞれのXは、所望により誘導体化されていてもよい(デオキシ-)ヌクレオシド残基のような光度測定可能部分であり、
Yはヒドロキシ基である
ことを特徴とする構造を含む。
【0044】
好ましくは、全ての-[X-(CH2)m-リン酸]単位は同一である。
【0045】
異なる単位のリン酸基間の間隔は、内部のX及びY部分の存在又は不在に関連して、C原子の数に依存する。本発明においては、この間隔は、ある種の錯体結合、すなわち1つのMg2+イオンと、本発明の化合物内に存在する2つの近接するリン酸部分との間の非共有相互作用を有効に可能にするように選択される。
【0046】
本発明の化合物は、中央の単位(CH2)m-リン酸(式中、mは3〜6の自然数である)を主に特徴とするポリアニオンであり、すなわち、中央の単位は、2つの近接するリン酸部分の間の最小限の間隔の下限を定義する3〜6個のC原子を含む。
【0047】
しかし、X及びY部分をさらに挿入可能であることも証明されており、このことにより、リン酸部分を連結する原子の鎖長が伸長され、それによって、一見したところでは、これらの部分の間の距離が伸長される。しかし、実施例に示されるように、X及びY部分の存在は、Mg2+イオンの錯体結合に対して負の影響を有さない。このことは、おそらく、本発明の化合物の立体的柔軟性によるのであろう。
【0048】
本発明の化合物は、オリゴヌクレオチドの化学合成について当該技術において用いられるような標準的なホスホラミダイト化学を用いて合成することができる。より具体的には、[(CH2)m-リン酸]単位の組み込みは、保護された末端ヒドロキシル部分を含む市販のC原子リンカーホスホラミダイトを用いることにより達成される。光度測定可能部分としてのヌクレオシド残基の組み込みは、市販の標準的なヌクレオシドホスホラミダイトを用いることにより達成される。出発材料として、通常の市販の制御多孔性ガラス粒子が用いられる。本発明の化合物は、次いで、標準的な方法により切り出すことができ、末端リン酸若しくはOH又は末端ヌクレオシド部分が得られる。
【0049】
本発明に係る組成物
第二の態様において、本発明は、
- 上記で開示された化合物と、
- DNAポリメラーゼと、
- デオキシ-オリゴヌクレオシド三リン酸と
を含む組成物に関する。
【0050】
このような組成物は、PCR増幅反応を行うために特に有用である。なぜなら、プライマー二量体のような人工的な増幅産物の形成が回避されるからである。
【0051】
本発明の化合物の濃度は、PCR増幅反応の特異性及び収率が最適化されるように選択される。好ましくは、本発明の化合物の最終濃度は、特異的標的核酸の増幅の阻害も回避するために、0.1mM未満である。また、本発明の化合物の最終濃度は、実質的なホットスタート効果を達成するために、0.01mMを超えることが好ましい。
【0052】
一般的に、DNAポリメラーゼは、鋳型依存的プライマー伸長反応を行うことができる任意の酵素であってよい。このような鋳型依存的プライマー伸長反応は、遊離の3'ヒドロキシル基を有するプライマー核酸が、一本鎖5'突出を有する鋳型核酸とハイブリダイズすることを特徴とする全ての部分的に二本鎖の核酸ハイブリッドにおいて起こり得る。次いで、鋳型依存性ポリメラーゼは、鋳型の鎖内の反対側の位置のヌクレオチドに常に相補的なヌクレオチド残基を組み込むことにより、プライマーの3'末端の伸長を触媒する。この反応は、基質としてdNTPを用い、ピロリン酸の解離をもたらす。
【0053】
一実施形態において、前記DNAポリメラーゼは、RNA鋳型依存性ポリメラーゼ又はその任意の改変体である。このような酵素は、逆転写酵素と通常呼ばれる。その例は、AMV逆転写酵素又はMMLV逆転写酵素である。特に、Transcriptor逆転写酵素(Roche Applied Science、カタログ番号03 531 317 001)は、本発明の関係において用いることができる酵素である。このようなRNA依存性DNAポリメラーゼを含む本発明の組成物は、特に、調製用及び分析用cDNA合成の全ての種類及び用途、特に2ステップRT-PCRに有用である。
【0054】
別の実施形態において、DNAポリメラーゼは、DNA鋳型依存性DNAポリメラーゼ又はその任意の変異体若しくは改変体である。一つの有名な例は、Klenowポリメラーゼ(Roche Applied Science、カタログ番号11 008 404 001)である。好ましくは、DNAポリメラーゼは、耐熱性DNAポリメラーゼ又はその任意の変異体若しくは改変体である。典型的な例は、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)由来のTaq DNAポリメラーゼである(Roche Applied Science、カタログ番号11 647 679 001)。DNA依存性DNAポリメラーゼ酵素は、Pwoポリメラーゼ(Roche Applied Science、カタログ番号11 644 947 001)のように3'-5'校正活性を有してもよいし、又は有しなくてもよい。さらに、本発明のDNAポリメラーゼ成分は、Expand High Fidelityシステム(Roche Applied Science、カタログ番号11 732 641 001)のような校正活性を有するか又は有しない酵素の混合物を用いてよい。任意の種類の耐熱性ポリメラーゼを含む本発明の組成物は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の種々の調製用又は分析用の実施形態を行うために特に有用である。
【0055】
さらなる実施形態において、本発明のDNAポリメラーゼ成分は、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)由来のポリメラーゼ(Roche Applied Science、カタログ番号11 480 014 001)、又はRNA依存性DNAポリメラーゼ(すなわち逆転写酵素)と耐熱性DNA依存性DNAポリメラーゼとの混合物のような、RNA鋳型依存的逆転写酵素活性をさらに有する耐熱性DNA依存性DNAポリメラーゼである。このような成分を含む本発明の組成物は、1ステップRT-PCRを分析用に行うために特に有用である。
【0056】
デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)は、通常、dATP、dCTP、dGTP及びdTTPの混合物であるが、3種以下の異なるdNTPを用いることができる場合もある。さらに、このようなdNTPは、その基礎単位が、ポリメラーゼにより新生ポリヌクレオチド鎖に取り込まれ得る限り、任意の様式で化学的に修飾されていてもよい。例えば、この修飾ヌクレオチド化合物は、それぞれの塩基部分でのビオチン又は蛍光化合物修飾を有してよい。さらに、dNTP混合物の少なくとも1つのメンバーは、7デアザdGTPのようなdNTP類似体で部分的に又は完全に置換されてもよい。
【0057】
少なくとも1つのプライマーオリゴヌクレオチドは、通常、標的核酸の特定の領域に完全に又はほぼ完全に相補的なデオキシオリゴヌクレオチドである。さらに、前記プライマー部分は、遊離の3'ヒドロキシル基を有していなければならず、そのことによりDNAポリメラーゼにより伸長可能である。具体的な目的のために、このようなプライマーは、例えば、内部又はその5'末端にて化学的に修飾されていてもよい。しばしば用いられる修飾の例は、ビオチン標識、ジゴキシゲニン標識及び蛍光標識である。さらに、プライマーは、修飾ヌクレオシド又はヌクレオシド類似体を含むことができ、これらは、例えば、同じ試料中に存在し得る異なる対立遺伝子を増幅するために、例えば4'修飾塩基又はユニバーサル塩基(イノシンなど)のように、対立遺伝子特異的増幅のPCRの結果を向上させることが知られている。
【0058】
耐熱性DNA依存性DNAポリメラーゼがPCR反応のために設計されている場合、本発明の組成物は、通常、増幅されることになる標的配列に近接する標的核酸の反対の鎖に反対の配向でハイブリダイズする2つのプライマーオリゴヌクレオチドを含む。本発明の組成物は、マルチプレックスPCR増幅のために複数の対のオリゴヌクレオチドPCRプライマーを含むことも可能である。
【0059】
具体的な実施形態において、前記組成物は、有機疎水性部分での修飾を含むことを特徴とする5〜8塩基長ランダムオリゴヌクレオチドをさらに含む。より正確には、用語「ランダムオリゴヌクレオチド」は、その配列が4つの異なるヌクレオチド残基の全ての可能な組合せを大体等しく表すオリゴヌクレオチドのプールである。5塩基長の添加、及び8塩基長の添加は、所望のホットスタート効果を有することが証明されているが、6塩基長(ヘキサマー)ランダムオリゴヌクレオチドを用いる場合に、特に有利であることが分かっている。前記ランダムオリゴヌクレオチドは、10μM〜1mM、好ましくは25μM〜400μMの濃度範囲、最も好ましくは約100μMの濃度で、プライマー伸長反応又はPCR反応に加えることができる。ランダムオリゴヌクレオチドが、例えばリン酸部分によりブロッキングされていることもある、伸長不可能な3'末端を有することが特に有利であることも証明されている。このことにより、試料の核酸の任意の領域での任意のオリゴヌクレオチドの偶然のハイブリダイゼーションが起こった場合の、ポリメラーゼによる望ましくない伸長が回避される。
【0060】
ランダムオリゴヌクレオチドは、有機疎水性部分により化学的に修飾されている。前記部分は、通常、いずれの種類のプライマー伸長反応にも干渉しない。例えば、このような有機疎水性部分は、ナフタリン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、アントラキノン、カルバゾールフェナントロリン、キノリンなどのような多環縮合芳香族及び複素芳香族環からなる部分、又はスチルベン、又はコレステロールのようなステロイドの群から選択されうる。このような疎水性部分は、シアノ、メトキシ、メチル、ニトロ及びハロゲンのような嵩が小さい置換基により置換されてもよく、末端塩基対を安定化させるためにいわゆる「キャップ」として作用することが部分的に知られている。Narayanan, S.ら、Nucleic Acids Research 32(9) (2004) 2901〜2911頁; Dogan, Z.ら、Journal of the American Chemical Society 126(15) (2004) 4762〜4763頁。
【0061】
最も好ましくは、このような有機疎水性部分は、任意に置換されていてもよいピレン又は任意に置換されていてもよいスチルベンである、これらは以下の化学構造を有する:
【化1】

【0062】
最も好ましくは、このようなピレン又はスチルベンは、ランダムオリゴヌクレオチドの5'末端に結合し、このようなオリゴヌクレオチドの5'末端は、以下の構造を有する:
【化2】

【0063】
有機疎水性部分は、ランダムオリゴヌクレオチドの任意の部分に位置することができる。しかし、修飾は、ランダムオリゴヌクレオチドの5'末端に導入されることが好ましい。その理由は、このような5'修飾は、当該技術において周知である標準的な方法に従って、適切な末端ホスホラミダイトを用いてホスホラミダイト化学によりオリゴヌクレオチドに導入することができ、ピレンホスホラミダイト及びスチルベンホスホラミダイトが商業的に入手可能であるからである。
【0064】
ランダムオリゴヌクレオチドは、7デアザdGのような7デアザ類似体、7ブロモ7デアザ8アザ2アミノdAのような7デアザ8アザ類似体のような修飾塩基、又はプロピニルU、プロピニルCのような置換塩基を有するヌクレオ塩基類似体、或いは2'メトキシリボースのような修飾糖若しくはLNAにおけるロックド糖(locked sugar)又はヘキシトール及びアルトリトールのようなリボース類似体を有する類似体を含み得る。ランダム化の代わりに、ニトロインドール又はN8リボシル化-7デアザ8アザdAのようなユニバーサル塩基が用いられるが、好ましくは、ランダマーの1ヶ所でのみランダマーの代わりにユニバーサル塩基を用いる。ヌクレオシド間リン酸は、ホスホロチオエート若しくはメチルリン酸のようなリン酸擬似物、又はホスホラミダイトで置換してもよい。ランダムオリゴヌクレオチドは、好ましくは1つの疎水性部分を有するが、他の疎水性部分によりさらに置換されてもよく、疎水性部分は、互いに独立して選択される。
【0065】
まとめると、DNA依存性耐熱性DNAポリメラーゼ及び少なくとも1対の増幅プライマーの関係において上述した本発明のポリアニオン化合物を含む組成物は、PCR増幅反応を行うために特に有用である。その理由は、前記ポリアニオンの存在が、ポリメラーゼが触媒するプライマー二量体のような人工的増幅産物の形成を、それぞれの増幅プライマーのアニーリング温度未満の温度にて効率よく阻害することにより、ホットスタート効果を作り出すからである。
【0066】
上述したいずれかの組成物が標的核酸試料をさらに含む場合も、本発明の範囲内である。試料は、通常、例えば、ゲノムDNA又は断片化されたゲノムDNAを、DNA依存性DNAポリメラーゼとともに、あるいは細胞全RNA若しくはポリA+ RNAを、RNA依存性DNAポリメラーゼとともに含有することができる。
【0067】
本発明に係るキット
ある具体的な態様において、本発明は、詳細に上述したような組成物を調製するためのキットも提供する。したがって、本発明はまた、少なくともDNAポリメラーゼと、
[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]n
の構造を含む化合物とを含むキットに関し、ここで
3≦m≦6、
30≦n≦60、
x及びyはそれぞれ、互いに独立して、0又は1であり、
X及びYはそれぞれ、互いに独立して、任意の光度測定可能部分であり、
ただし、m、x及びyはそれぞれ、各[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]単位について独立して選択され、さらに、末端のXは-OH基又はリン酸基であってもよく、さらに、末端のYは-H又は(CH2)m-OH基であってもよいことを特徴とする。
【0068】
好ましくは、光度測定可能部分は、260nmでの各UV吸収測定によりその存在が検出可能な、例えば、デオキシ-アデノシン、デオキシ-グアノシン、デオキシ-シトシン、デオキシ-チミジン若しくはデオキシ-ウリジンのような(デオキシ-)ヌクレオシド残基、又は誘導体化ヌクレオシド残基若しくはヌクレオシド類似体である。つまり、本発明の関係において、X又はYは互いに独立して、存在しないか、又は任意選択で誘導体化されていてもよいヌクレオシドであるかのいずれであってもよい。X又はYのいずれかが化合物の内部の部分を表す場合、前記X及びY部分は、好ましくは、デオキシ-アデノシン、デオキシ-グアノシン、デオキシ-シトシン、デオキシ-チミジン若しくはデオキシ-ウリジンのような(デオキシ-)ヌクレオシド残基である。
【0069】
さらに、キットは、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)、及び適切な緩衝剤、並びにそれぞれのプライマー伸長反応を行うために有用なその他の試薬添加物のようなさらなる成分をさらに含んでよい。さらに、パラメータ特異的キットは、少なくとも1つの標的特異的プライマーオリゴヌクレオチドを含みうる。
【0070】
さらにまた、キットは、上記で開示された有機疎水性部分での修飾を含む5〜8塩基長ランダムオリゴヌクレオチドを含んでよい。特に、前記疎水性部分は、ピレンとすることができる。
【0071】
第一の具体的な実施形態において、キットは、cDNA合成のために設計され、上記で開示された逆転写酵素を含む。プライマー成分として、キットは、特定のcDNAの増幅のためのパラメータ特異的プライマーを含み得る。
【0072】
第二の具体的な実施形態において、キットは、PCRを行うために設計され、1種のDNA依存性耐熱性ポリメラーゼ、又は複数種のDNA依存性耐熱性ポリメラーゼの混合物を含む。そしてキットは、例えばdNTP及び/又は緩衝液及び/又は少なくとも1つ若しくは複数の対の増幅プライマーをさらに含んでよい。より具体的には、キットが1ステップRT-PCRのために設計されている場合、酵素成分は、DNA依存性耐熱性DNAポリメラーゼであり、これは、逆転写酵素活性をさらに含む。
【0073】
第三の具体的な実施形態において、キットは、2ステップRT-PCRのために設計され、上記で開示された第一及び第二の実施形態の成分から選択される成分の種々の組合せを含むことができる。
【0074】
さらに、第二及び第三の具体的な実施形態に係るキットは、PCR増幅産物の検出のために有用な成分を含んでもよい。例えば、キットがリアルタイムPCR(=qPCR)のために設計されている場合、このようなキットは、SybrGreen(Roche Applied Science、カタログ番号04 707 516 001)、又はLC480 ResoLight色素(Roche Applied Science、カタログ番号04 909 640 001)のような二本鎖DNA結合色素成分をさらに含んでよい。或いは、このようなキットは、TaqManプローブ(米国特許第5,804,375号)、モレキュラービーコン(米国特許第5,118,801号)、FRETハイブリダイゼーションプローブ(米国特許第6,174,670号)又はシンプルプローブ(WO 02/14555号)のような蛍光標識ハイブリダイゼーションプローブをさらに含んでよい。
【0075】
本発明に係る方法
本発明は、組成物及びキットだけでなく、全般的にプライマー伸長反応を、特にPCR又は逆転写反応を行う方法にも関する。つまり、その最も広い意味において、本発明に係る方法は、
- 標的核酸を含むと疑われる試料を準備するステップと、
- 上記で開示されたいずれかの組成物を添加するステップと、
- 少なくとも第1プライマー伸長反応を行うステップと
を含む。
【0076】
より正確には、本発明に係る方法は、
- 標的核酸を含むと疑われる試料を準備するステップと、
- 以下:
- DNAポリメラーゼ、
- デオキシヌクレオチド、
- 少なくとも1つのプライマーオリゴヌクレオチド、及び
- 構造:[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]n
を含む化合物であって、
3≦m≦6、
30≦n≦60、
x及びyはそれぞれ、互いに独立して、0又は1であり、
X及びYはそれぞれ、互いに独立して、任意の光度測定可能部分であり、
ただし、m、x及びyはそれぞれ、各[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]単位について独立して選択され、さらに、末端のXは-OH基又はリン酸基であってもよく、さらに、末端のYは-H又は(CH2)m-OH基であってもよいことを特徴とする化合物
を添加するステップと、
- 少なくとも第1プライマー伸長反応を行うステップと
を含む。
【0077】
好ましくは、光度測定可能部分は、260nmでの各UV吸収測定によりその存在が検出可能な、例えば、デオキシ-アデノシン、デオキシ-グアノシン、デオキシ-シトシン、デオキシ-チミジン若しくはデオキシ-ウリジンのような(デオキシ-)ヌクレオシド残基、又は誘導体化ヌクレオシド残基若しくはヌクレオシド類似体である。つまり、本発明の関係において、X又はYは互いに独立して、存在しないか、又は任意選択で誘導体化されていてもよいヌクレオシドであるかのいずれであってもよい。X又はYのいずれかが化合物の内部の部分を表す場合、前記X及びY部分は、好ましくは、デオキシ-アデノシン、デオキシ-グアノシン、デオキシ-シトシン、デオキシ-チミジン若しくはデオキシ-ウリジンのような(デオキシ-)ヌクレオシド残基である。
【0078】
化合物の濃度は、PCR増幅反応の特異性及び収率が最適化されるように選択される。好ましくは、本発明の化合物の最終濃度は、特異的標的核酸の増幅の阻害を回避するために、0.1mM未満である。また、本発明の化合物の最終濃度は、実質的なホットスタート効果を達成するために、0.01mMを超えることが好ましい。
【0079】
第一の実施形態において、試料は全RNA又はポリA+ RNAのいずれかであり、DNAポリメラーゼは逆転写酵素であり、プライマーオリゴヌクレオチドは具体的な種類のcDNAに相補的な特異的プライマーである。
【0080】
第二の実施形態において、試料は、ゲノムDNAに由来し、DNAポリメラーゼは、1種の耐熱性DNAポリメラーゼ又は複数種の耐熱性DNAポリメラーゼの混合物であり、少なくとも1対又は複数の対の増幅プライマーは、PCR増幅反応の前に添加される。好ましくは、核酸増幅反応は、当該技術において公知の標準的な方法に従ってリアルタイムでモニターされるポリメラーゼ連鎖反応である(例えば米国特許第5,210,015号、米国特許第5,338,848号、米国特許第5,487,972号、WO 97/46707号、WO 97/46712号、WO 97/46714号を参照されたい)。
【0081】
具体的な実施形態において、生成された増幅産物は、増幅産物を経時的な熱勾配に供することにより、融解曲線分析を行う(米国特許第6,174,670号、米国特許第6,569,627号)。この種の実験において、それぞれの標識ハイブリダイゼーションプローブの結合によるか、又はDNA結合色素に起因する蛍光による蛍光強度をモニターする。次いで、ハイブリダイゼーションプローブ又は2つのアンプリコン鎖の融解による蛍光強度の減少の最初の誘導を、それぞれ温度勾配に対してプロットする。
【0082】
まとめると、本発明の方法は、当該技術において既に開示された方法に対して、いくつかの利点を有するということができる。本発明に係る化合物が、逆転写又はPCR又はRT-PCRのようなプライマー伸長反応の間に存在することは、それぞれの反応の特異性を明らかに増大させる。
【0083】
本発明の方法の一つの主要な利点は、使用が容易であることと、短い活性化時間で低温でのポリメラーゼの阻害がなくなることである。簡単に説明すると、構造[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]nを含む化合物(3≦m≦6、30≦n≦60、x及びyはそれぞれ互いに独立して0又は1であり、X及びYはそれぞれ互いに独立して任意の光度測定可能部分である。ただし、末端のXは-OH基又はリン酸基であってもよい、さらに、末端のYは-OH基であってもよいことを特徴とする)が、PCR反応の構成に加えられる必要がある。任意選択で、有機疎水性部分での修飾を含むことを特徴とする5〜8塩基長ランダムオリゴヌクレオチドを、所望のホットスタート効果をさらに最適にするために加えることができる。
【0084】
PCRサーマルサイクルの間に、二本鎖DNA鋳型を一本鎖に分離するために通常必要とされる各サイクルの前の変性時間は、本発明の化合物からMg2+イオンを解離させるために十分である。つまり、非特異的なプライマー伸長は、PCR反応の開始前だけでなく、サーマルサイクル工程全体にわたって阻害される。
【0085】
さらに、本発明の化合物は、当該技術において十分に確立されている標準的なホスホラミダイト化学の方法に従って合成することができる。リンカーホスホラミダイトとともにヌクレオシド残基も、制限されない柔軟性を有する本発明の化合物の合成の間に導入することができる。つまり、本発明のPCR添加物の製造経費は、他のホットスタート解決法に比較して、かなり低い。
【0086】
さらに、本発明の方法、組成物及びキットは、どの特異的標的核酸配列を調製し、増幅し、検出し、又は分析するべきかに関係なく、任意の種類のプライマー伸長、逆転写又はPCR増幅に全般的に用いることができる。
【実施例1】
【0087】
本発明に係る3つの化合物の合成
X40化合物:各単位の間にチミジンヌクレオシドが存在し、両末端にさらなるチミジン残基を有する、8個の[C3-リン酸]5単位を含む化合物。
X30化合物:各単位の間にチミジンヌクレオシドが存在し、両末端にさらなるチミジン残基を有する、6個の[C3-リン酸]5単位を含む化合物。
X20化合物:各単位の間にチミジンヌクレオシドが存在し、両末端にさらなるチミジン残基を有する、4個の[C3-リン酸]5単位を含む化合物(本発明の範囲に包含されない)。
【0088】
合成は、ABI 394合成機で、4回の10μmolスケールでオリゴヌクレオチド合成と同様にして行った。標準的な合成のための全てのその他の化学薬品は、Glen Researchから得た。市販のdT CPGを支持体材料として用いた。dTホスホラミダイト(5'-ジメトキシトリチル-2'-デオキシチミジン,3'-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホラミダイト)、及びスペーサーホスホラミダイトC3(3-(4,4'-ジメトキシトリチルオキシ)プロピル-1-[(2-シアノエチル)-(N,N-ジイソプロピル)]-ホスホラミダイト)を、固相合成のために用いた。
【0089】
標準的なオリゴヌクレオチド合成プロトコルを合成のために用いた。生成物を、支持体から、濃アンモニア水を用いて室温にて2時間で切り離した。粗オリゴを、MonoQカラムを用いてIEXクロマトグラフィーにより精製した。クロマトグラフィー:緩衝液A:10mM NaOH水溶液、緩衝液B:10mM NaOH 1 M NaCl水溶液。溶離液のUV吸収を、260nmにて測定した。所望の全長生成物を含有する主要画分を得た。塩を透析により除去し、溶媒をロータリエバポレータを用いることにより除去した。濃度は、260nmでの吸収を測定することにより調節した(吸光係数は標準的なプログラムにより算出した)。
【実施例2】
【0090】
種々の濃度のX40の存在下でのPCR
種々の濃度のX40をPCRで分析した。X40の存在下又は不在下でのPCR反応を、50ng、25ng、10ng、5ng又は1ngのヒトゲノムDNA、30mM Tris-HCl, pH8.6、50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.4μMプライマー(配列番号1:CTG AGA ATC GGC AAG AGA CC及び配列番号2:CTG CAC AGT AAT GCA TGC CG)、0.2mMデオキシヌクレオチド、及び2.5単位のTaq DNAポリメラーゼを含有する50μlの容量で行った。DNAを、以下のサイクル条件で増幅した。すなわち94℃にて4分間の最初の変性、並びに94℃にて20秒間の変性、62℃にて30秒間のアニーリング及び72℃にて60秒間の伸長を35サイクル。増幅産物を、アガロースゲルで分離し、エチジウムブロミド染色により可視化した。結果を図1に示す。図1において、各レーンは以下を表す:
レーン1〜6:それぞれ50ng、25ng、10ng、5ng、1ng、0ngの鋳型DNAを用いた添加物の不在下での対照反応。
レーン7〜12:それぞれ50ng、25ng、10ng、5ng、1ng、0ngの鋳型DNAを用いたX40(0.3mM)の存在下でのPCR反応。
レーン13〜18:それぞれ50ng、25ng、10ng、5ng、1ng、0ngの鋳型DNAを用いたX40(0.15mM)の存在下でのPCR反応。
レーン19〜24:それぞれ50ng、25ng、10ng、5ng、1ng、0ngの鋳型DNAを用いたX40(0.075mM)の存在下でのPCR反応。
レーン25〜30:それぞれ50ng、25ng、10ng、5ng、1ng、0ngの鋳型DNAを用いたX40(0.0375mM)の存在下でのPCR反応。
レーン31〜36:それぞれ50ng、25ng、10ng、5ng、1ng、0ngの鋳型DNAを用いたX40(0.018mM)の存在下でのPCR反応。
【0091】
添加物の不在下での対照反応は、標的濃度の減少を伴うプライマー二量体の形成の増加を示した。0.1mMを超える高濃度のX40の存在下では、DNA合成が阻害された。0.1mM未満の濃度、すなわち低濃度のX40を用いると、プライマー二量体の形成は大きく低減された。
【実施例3】
【0092】
X40、X30及びX20の存在下でのリアルタイムPCR
X40、X30及びX20を、リアルタイムPCRで分析した。PCR反応を、X40(40μM若しくは70μMの最終濃度)、X30(70μM若しくは100μMの最終濃度)、X20(40〜100μMの種々の濃度)の存在下、又は添加物の不在下で行った。反応物は、30ng、3ng又は0.3ngのヒトゲノムDNA、50mM Tris-HCl, pH8.6、0.2mM CHAPS、1mM BigChap、20mM KCl、3mM MgCl2、0.5μMの各プライマー(配列番号3:GGA AGT ACA GCT CAG AGT TCT及び配列番号4:GAA TCT CCA TTC ATT CTC AAA AGG ACT)、0.2mMデオキシヌクレオチド、1:20000希釈のSYBR Green(Molecular Probes)及び2.4単位のTaq DNAポリメラーゼを含んでいた。PCRは、20μlの容量で、LightCycler(登録商標)480装置(Roche Applied Science、カタログ番号05 015 278 001)にて、以下のサイクル条件で行った。すなわち95℃にて2分間の最初の変性、並びに95℃にて1秒間の変性、65℃にて5秒間のアニーリング及び72℃にて15秒間の伸長を45サイクル。融解プロフィールは、製造者の使用説明に従って、95℃にて1秒間、60℃にて30秒間、及び95℃までの連続加熱により1℃毎に5回の取得で測定した。リアルタイムPCR検出は、SybrGreen法で行った。
【0093】
融解曲線分析により、添加物の不在下では、より低い融解温度の第二の産物が形成されたことがわかった。X40又はX30の存在下では、非特異的な産物の形成が低減されたが、X20(本発明の範囲に包含されない)の存在下では、非特異的な産物の形成が低減されなかった。
【実施例4】
【0094】
RT-PCRの添加物としてのX40とピレンでキャップしたヘキサマーとの組合せ
X40の効果を、ピレンでキャップしたヘキサマーとの組合せで、1ステップリアルタイムRT-PCRにおいて、特異的産物に加えて一連の非特異的な産物を生じるプライマー対を用いて試験した。
【0095】
反応混合物は、0.5μMの各プライマー(配列番号5:CCC TCT TCA CCC TGG CTA A及び配列番号6:ACC CTC TTC ACC CTG GCT A)、0.2μM dATP、0.2μM dCTP、0.2μM dGTP、0.6μM dUTP、30mM Tris-HCl, pH8.5、30mM KCl、3mM MgCl2、0.1mg/ml BSA、0.01% Tween、SYBR Green 1:20000、1.2 UのTaq DNAポリメラーゼと、0.6単位のTranscriptor逆転写酵素(Roche Applied Science、カタログ番号04 379 012 001)からなるものとした。X40を、75μMの濃度で加えた。添加物の組合せを含むアッセイ混合物は、40μM X40と40μMピレンでキャップしたヘキサマーとを含んでいた。HeLa細胞由来の全RNAを鋳型として、それぞれ1ng、100pg、10pg及び1pgで用いた。水を、鋳型を含まない対照として用いた。RT-PCRは、20μlの容量で、LightCycler(登録商標)480装置(Roche Applied Science、カタログ番号05 015 278 001)にて、以下のサイクル条件で行った。すなわち50℃にて10分間の逆転写と、95℃にて5分間の最初の変性、並びに95℃にて10秒間の変性、57℃にて10秒間のアニーリング、及び72℃にて13秒間の伸長を含むPCR。融解プロフィールは、製造者の使用説明に従って、95℃にて1秒間、40℃にて10秒間、及び95℃までの連続加熱により1℃毎に5回の取得で測定した。
【0096】
添加物の不在下では、多くの非特異的なPCR増幅産物が生じた。X40の存在下では、産物の数が著しく低減したが、X40とピレンでキャップしたヘキサマーとの組合せでは、1種の単一の特異的増幅産物しか形成されなかった。
【実施例5】
【0097】
リアルタイムRT-PCR
特異性の増大が、PCR増幅ステップ前のcDNA合成においても観察できるかを評価するために、2ステップRT-PCR実験を、1ステップRT-PCRの条件に近い反応の設定で行った。4つの反応を並行して行った:
(a)X40を用いる第1鎖cDNA合成と、その後のX40の不在下でのPCR、
(b)X40の存在下での第1鎖cDNA合成と、その後のX40の存在下でのPCR、
(c)X40の不在下での第1鎖cDNA合成と、その後のX40の不在下でのPCR、
(d)X40の不在下での第1鎖cDNA合成と、その後のX40の存在下でのPCR。
【0098】
G6PDH forw(配列番号7:GCA AAC AGA GTG AGC CCT TC)及びG6PDH rev(配列番号8:GGG CAA AGA AGT CCT CCA G)を、RT-PCR反応中に存在するRNAの量が少ない場合に非特異的な産物を形成する原因となるプライマー対として選択した。cDNAを、0.5μMプライマー、0.6単位のTranscriptor(Roche Applied Sciences、カタログ番号03531317001)、30mM Tris-HCl, pH8.6、3mM MgCl2、200μM dATP、200μM dGTP、200μM dCTP、600μM dUTP、20mM KCl、0.2mM CHAPSO、1mM BigChap、125ng/ml T4遺伝子32タンパク質、最終希釈1:20000でのSYBR Green及び10pgのHeLa細胞由来の全RNAを含む20μlの反応で合成した。cDNA合成のための2つの試料、すなわち一方は100μMのX40を含むもの、他方はX40を含まないものを調製した。反応物を50℃にて10分間、95℃にて2分間インキュベートし、氷の上で冷却した。次いで、両方の反応物を分け、2μlのcDNA反応混合物、0.5μMのプライマー、1.2単位のTaqポリメラーゼをcDNA反応混合物について記載したものと同じ緩衝液中で用いる20μlの反応容量で、100μMの最終濃度のさらなるX40の存在下又は不在下で、PCRを行った。4つの異なる反応物を、LightCycler 480装置(Roche Applied Science、カタログ番号05 015 278 001)において、95℃で2分間、及び95℃/10秒間、60℃/10秒間、72℃/13秒間の45サイクルでインキュベートした。製造者の使用説明に従って決定した増幅産物の融解プロフィールを、図2a〜dに示す。X40がcDNA合成の間及びその後のPCRにおいて存在する反応では(図2b)、予想された融点を有する1種の単一産物を示す1つの融解ピークしか生成されなかった。X40の不在下でcDNA合成を行った場合(図2c及び2d)、PCRの間に、特異的産物とは異なる融点を有するいくつかの産物が生じた。X40がcDNA合成の間にしか存在せず、その後の増幅には存在しない場合(図2a)であっても、X40が全く存在しない場合よりも良好な結果をもたらした。つまり、この結果は、X40がPCR DNA増幅の間、及びRNAの逆転写の間に非特異的な産物の形成を抑制できることを示す。
【配列表フリーテキスト】
【0099】
配列番号1〜8:Artificial(一本鎖DNA、プライマー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造:
[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]n
を含む化合物であって、
3≦m≦6、
30≦n≦60、
x及びyはそれぞれ、互いに独立して、0又は1であり、
X及びYはそれぞれ、互いに独立して、ヌクレオシド残基、(デオキシ-)ヌクレオシド残基、誘導体化ヌクレオシド又は(デオキシ-)ヌクレオシド残基、及びヌクレオシド又は(デオキシ-)ヌクレオシド類似体からなる群より選択される部分であり、
ただし、m、x及びyはそれぞれ、各[Xx-(CH2)m-リン酸-Yy]単位について独立して選択され、さらに、末端のXは-OH基又はリン酸基であってもよく、さらに、末端のYは-H又は(CH2)m-OH基であってもよい
ことを特徴とする化合物。
【請求項2】
請求項1記載の化合物、
DNAポリメラーゼ、及び
デオキシ-オリゴヌクレオチド
を含む組成物。
【請求項3】
有機疎水性部分での修飾を含むことを特徴とする5〜8塩基長のランダムオリゴヌクレオチドをさらに含む、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
請求項1記載の化合物、又は請求項2若しくは3記載の組成物、
DNAポリメラーゼ、及び
デオキシ-オリゴヌクレオチド
を含むキット。
【請求項5】
有機疎水性部分での修飾を含むことを特徴とする5〜8塩基長のランダムオリゴヌクレオチドをさらに含む、請求項4記載のキット。
【請求項6】
核酸を含有する試料を準備するステップと、
請求項2又は3記載の組成物を準備するステップと、
少なくとも第1のオリゴヌクレオチドプライマーを準備するステップと、
ポリメラーゼ触媒プライマー伸長反応を行うステップと
を含む方法。
【請求項7】
前記核酸がRNAであり、前記DNAポリメラーゼが逆転写酵素活性を含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ポリメラーゼが耐熱性ポリメラーゼであり、前記反応がリアルタイムでモニターされる、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記反応により生成された増幅産物を融解曲線分析に供する、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【公開番号】特開2010−63456(P2010−63456A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−205508(P2009−205508)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】