説明

改善された生物適合性を有する無菌の生物侵食性の移植デバイスおよび方法

【課題】組織中でのデバイスの生物適合性を改善する。
【解決手段】このためにレチノイドを導入した移植可能なデバイスが提供される。このデバイスは、組織における治療薬剤の全身もしくは局所放出の目的のために生物侵食性であるか、または、生物適合性を高めるためにレチノイドで処理した表面を有する永久移植体であることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には移植可能なデバイス、より具体的には改善された生物適合性を有する移植可能な人工装具に関する。さらに具体的には、本発明は、組織において治療薬剤の全身放出を与える、改善された生物適合性を有する移植可能なデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
生理学的適合性および生物適合性が、治療薬剤の全身または局所放出を与えるための移植体、ならびに、機能的もしくは整形上の理由またはその両方の理由で利用される人工装具(即ち、移植体)に対する共通の問題であることを理解すべきである。
【0003】
移植体またはデバイスの機能的な生物適合性は、勿論、移植体およびその成分の化学特性および表面特性によって決まる。デバイスの一般的構成(機械的強度、弾性、柔軟性、耐疲労性、化学的不活性、水に対する不浸透性、酸に対する耐性などを含む)の全てが生物適合性に寄与する。この生物適合性は、勿論、移植体を挿入しようとする組織の種類にも依存する。最も重要なことは、身体組織と接触する移植体の表面が、免疫学的攻撃、細胞接着、パンヌス形成などに対して抵抗を示すはずであるということである。
【0004】
表面と相互作用する組織に起因する望ましくない性質は、移植体の有効性に大きな影響を及ぼし、ある種の医療デバイス(例えば、持続または制御された薬物放出デバイス)における移植体の意図する使用に対して反対に作用することもある。
【0005】
持続または制御された放出系の使用は、活性薬剤を比較的一定レベルの濃度で組織に供給するという周知の利点を有している。持続性の薬物放出系は、極めて多くの応用分野において利用されている(抗生物質および真菌剤、抗腫瘍薬物および抗炎症剤を用いて、眼内炎および他の硝子体網膜疾患のために硝子体に薬物放出させることを含む)。
【0006】
残念なことに、多くの場合に、特に、移植体を長期間にわたり組織と接触したままにしようとする場合に、種々の接触組織および生物学的液体に対する生理学的および化学的な安定性および適合性に関連する種々の問題が発生する。このことは、移植体が活性薬剤の持続または制御された放出において適切に機能するときであっても言える。
【0007】
例えば、合成ポリマーなどのバイオ材料は、血液と接触したときに、吸着されたタンパク質層を迅速に形成する。次いで、タンパク質の立体配座の変化および複合化が起こることができ、これが、凝固、血小板接着、凝集、白血球接着などの防御機構を活性化する。
【0008】
眼組織において、移植体は、肉芽組織の浸潤と共に角膜の表面血管新生を引き起こすことができる。生分解性ポリマーは、硝子体における炎症を含む軽い異物反応を引き起こすことができる。
【0009】
移植されたバイオ材料は、線維膜の形成と共に典型的な異物反応を引き起こすであろう。線維膜が移植体を取巻き、それを被包するであろう。この線維被膜の収縮は、その位置に依存して一時的な痛みから重度の後遺症までの範囲にわたることができる。顕著な炎症反応を伴う硝子体の線維浸潤は、牽引網膜剥離、網膜色素上皮の破壊または血液-網膜関門の損傷を導くことができる。組織および器官の接着が、線維炎症の結果として起こることができる。また、眼内移植体は白内障の形成を引き起こすことができる。虹彩-毛様体の接着は、眼張力の恒常性に大きな影響を及ぼすであろう。移植体は急性および慢性の炎症を引き起こすことができる。組織の壊死および瘢痕が血管新生と共に起こるであろう。バイオポリマーは、抗原性であることが多く、アレルギー現象または他の悪い現象を誘導することができる。血管系または心臓における移植可能な材料の場合には、血栓の形成および塞栓が起こるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの態様に従い、組織において治療薬剤を全身または局所放出させるための移植可能なデバイスが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このデバイスは、一般に、治療薬剤、ならびに、治療薬剤の全身放出が望まれる組織中に挿入するための大きさにしたキャリアーを含んでいる。このキャリアーは、治療薬剤の持続または制御された放出を与えるための手段を含んでいる。
さらに、組織におけるデバイスの生物適合性を改善するために、キャリアー中にレチノイド手段を存在させる。
【発明の効果】
【0012】
以下に詳しく記載するように、このレチノイドのこれまで認識されていなかった性質は、移植可能なデバイスの表面と相互作用する組織に起因する望ましくない属性を大きく軽減または防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
より具体的には、本発明に従って、レチノイド手段はレチノイド受容体アゴニストを含んでなることができ、治療薬剤、キャリアーおよびレチノイド手段は均質であってよい。この均質性は、単純な押出技術または射出成形を用いることによる製造の容易性を与える。
【0014】
具体的には、本発明のこの態様に従って、治療薬剤の時間放出を与える手段は、例えばポリ(乳酸)およびポリ(ラクチド-コ-グリコリド)などの生分解性ポリマーからなることができる。
【0015】
より具体的には、本発明の1つの態様に従って、キャリアーを強膜中に移植するための大きさにすることができ、レチノイド受容体アゴニストは、例えば、天然レチノイド、例えばビタミンA(レチノール)、ビタミンAアルデヒド(レチナール)、ビタミンA酸(レチン酸)ならびにこれらの合成および天然の同類物からなる群から選択されるレチノイド酸であることができる。これらには、限定するものではないが、全てのトランス、9-シス、11-シス、13-シス、9,11-ジシスおよび11,13-ジシス異性体、ならびに、これらの生理学的に適合するエーテル、エステル、アミドおよび塩が含まれる。7,8-ジヒドロおよび5,6-ジヒドロ同類物ならびにエトレチネート(etretinate)を本発明に使用することもできる。
【0016】
固有にまたは代謝されたときにレチノイドの生理学的性質を持つ化合物も、本発明の範囲内に含まれる。これらには、核のレチン酸受容体(RAR)およびレチノイドX受容体(RXR)に親和性を有する合成および天然のレチノイド化合物が含まれるであろう。
【0017】
より具体的には、レチノイド受容体アゴニストは、6-[2-(4,4-ジメチルチオクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸エチル、または6-[2-(4,4-ジメチルクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸、またはp-[(E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフチル)プロペニル]安息香酸であることができる。
【0018】
本発明のデバイスに対応して、組織における移植体の生物適合性を改善するための本発明の方法は、通常、治療薬剤を供給する工程、治療薬剤の放出が望まれる組織中に挿入するための大きさにしたキャリアーを供給する工程、治療薬剤の持続または制御された放出が可能なようにキャリアー中に治療薬剤を導入する工程、ならびに、組織におけるキャリアーの生物適合性を改善するのに有効な量でキャリアー中にレチノイドを導入する工程を包含する。
【0019】
本発明の別の態様は、移植可能なデバイス、具体的には、人工装具の生物適合性を改善するためのレチノイド手段と組合せた手術により移植することができる人工装具を包含する。より具体的には、このレチノイド手段は、人工装具上にフィルムの形態で存在するか、または別法によれば、人工装具の表面に結合させることができる。上記のように、このレチノイド手段は、天然レチノイド、例えばビタミンA(レチノール)、ビタミンAアルデヒド(レチナール)、ビタミンA酸(レチン酸)ならびにこれらの合成および天然の同類物からなる群から選択されるレチノイドであることができる。これらには、限定するものではないが、全てのトランス、9-シス、11-シス、13-シス、9,11-ジシスおよび11,13-ジシス異性体、ならびに、これらの生理学的に適合するエーテル、エステル、アミドおよび塩が含まれる。7,8-ジヒドロおよび5,6-ジヒドロ同類物ならびにエトレチネートを本発明に使用することもできる。
【0020】
固有にまたは代謝されたときにレチノイドの生理学的性質を持つ化合物も、本発明の範囲内に含まれる。これらには、核のレチン酸受容体(RAR)およびレチノイドX受容体(RXR)に親和性を有する合成および天然のレチノイド化合物が含まれるであろう。
【0021】
重要なことは、本発明が、レチノイドを人工装具と組合せる工程を含む方法を用いて、手術により移植することができる人工装具の生物適合性を改善するための方法を包含していることである。より具体的には、この工程は、人工装具上にレチノイドのフィルムを配置すること、または人工装具の表面にレチノイドを埋込むことを包含することができる。このレチノイドは、上記のようなレチノイドであってよく、天然レチノイド、例えばビタミンA(レチノール)、ビタミンAアルデヒド(レチナール)、ビタミンA酸(レチン酸)ならびにこれらの合成および天然の同類物からなる群から選択することができる。これらには、限定するものではないが、全てのトランス、9-シス、11-シス、13-シス、9,11-ジシスおよび11,13-ジシス異性体、ならびに、これらの生理学的に適合するエーテル、エステル、アミドおよび塩が含まれる。7,8-ジヒドロおよび5,6-ジヒドロ同類物ならびにエトレチネートを本発明に使用することもできる。
【0022】
固有にまたは代謝されたときにレチノイドの生理学的性質を持つ化合物も、本発明の範囲内に含まれる。これらには、核のレチン酸受容体(RAR)およびレチノイドX受容体(RXR)に親和性を有する合成および天然のレチノイド化合物が含まれるであろう。
【0023】
本発明の利点および特徴は、添付の図面を参照するとともに以下の説明からより充分に理解されるであろう。
【0024】
図1および図2を参照して、これらには、組織において治療薬剤の全身放出を与えるための移植可能なデバイス10が示されている。デバイス10は、治療薬剤を全身放出させるための極めて多数のデバイスの代表である。この特定の態様10は、薬学的に活性な化合物を眼内供給するための無菌の生物侵食性の栓子である。デバイス10の配置を図2に示すが、このデバイスを、強膜、絨毛膜、網膜および硝子体腔に薬物を放出させるために、目12中に、具体的にはレンズ16および虹彩18の近位の強膜14中に挿入することができる。例示すると、この網膜栓子またはデバイス10は、約0.5〜10mgの重量、約0.5〜2mmの直径、および1〜12mmの長さを有することができる。デバイス10の近位末端22を通る穴22は、図2に示すように、デバイス10を確保するために縫合糸24を使用することを可能にし、その遠位末端26は硝子体腔30中に突出する。
【0025】
任意の適当な治療薬剤を使用することができる。本発明により供給することができる治療薬剤の多様性は大きく、当業者には既知である。その例には、限定されるものではないが、抗生物質、抗真菌薬および抗ウイルス薬、例えばエリスロマイシン、テトラサイクリン、アミノグリコシド、セファロスポリン、キノロン、ペニシリン、スルホンアミド、ケトコナゾール、ミコナゾール、アシクロビア、ガンシクロビア、アジドチミジン、インターフェロン;抗痙攣薬、例えばフェニトインおよびバルプロ酸(valproic acid);抗鬱薬、例えばアミトリプチリンおよびトラゾドン;抗パーキンソン病薬;心臓血管薬、例えばカルシウムチャンネル遮断薬、アンチアリスミクス(antiarythmics)、ベータ遮断薬;抗腫瘍薬、例えばシスプラチンおよびメトトレキセート、コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、およびトリアムシノロン;NSAID、例えばイブプロフェン、サリチレート、インドメタシン、ピロキシカム;ホルモン、例えばプロゲステロン、エストロゲン、テストステロン;成長因子;炭酸脱水酵素阻害薬、例えばアセタゾールアミド;プロスタグランジン;抗脈管形成薬;神経保護薬;移植可能なデバイスからの制御または持続された放出の利益を受ける当業者には既知の他の薬物またはこれらの組合せが含まれる。
【0026】
これらの活性な薬剤を、生物侵食性のポリマー、例えば、ポリエステル、ポリ(オルトエステル)、ポリ(ホスファジン)、ポリ(ホスフェートエステル)、ポリカプロラクトン、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、天然ポリマー、例えばゼラチンまたはコラーゲン、またはポリマー混合物に導入することができる。さらに本発明は、非侵食性のポリマー移植体の生物適合性を改善することもできる。
【0027】
重要なことは、レチノイドが生物適合性の改善のためにデバイス10に導入されることである。デバイス10の全成分を、栓子の形状で、均質な系として押出す。
【0028】
デバイス10を、強膜および絨毛膜の侵食に耐えるように最適化して、硝子体腔30中への栓子10の分解または崩壊を防止することができる。これは、当分野で周知であるように、表面の改変、栓子10の仕上げ、別の生分解性の半透過性ポリマーによる栓子の被覆、または配合物への他のポリマーの添加によって達成することができる。この栓子は均質な系であるので、単純な押出技術または射出成形によって製造の容易性が得られる。
【0029】
薬物放出の機構および速度は、ポリマー、ポリマー分子量、ポリマー結晶度、コポリマー比、加工条件、表面仕上げ、幾何、賦形剤添加およびポリマー被覆の選択によって制御することができる。薬物は、拡散、侵食、溶解または浸透によってデバイス10から放出される。
【0030】
種々の強膜栓子の製造および薬物放出を制御する機構は、多くの刊行物に記載されているように、当分野では周知である。これら刊行物は、例えば、「硝子体において薬物放出を制御するための生分解性ポリマーの強膜栓子」、Mototane Hashizoe、Archophthalmol/Volume 112、第1380-1384頁、1994年10月;「移植可能な生分解性ポリマーデバイスを用いる新規な硝子体薬物供給系」、Hideya Kimuraら、Investigative Ophthalmology and Visual Science、Volume 35、第2815-2819頁、1994年5月;および、米国特許No.5,466,233であり、これらの全ては、強膜栓子の製造、使用および機構の説明の目的でその全体が本明細書の一部を構成する。
【0031】
栓子デバイス10において使用される活性成分の全ては、硝子体栓子によって導入され、硝子体腔において治療レベルを達成および維持するように計算される治療有効量で存在する。通常、治療量は、活性薬剤の強さ、栓子デバイス10による放出の速度によって変化するであろう。
【0032】
導入されるレチノイドの量は、使用されるレチノイドの強さおよび受容体選択性ならびに特定の移植体からのレチノイドの放出速度に依存するであろう。通常、使用されるレチノイドの量は、0.001〜50%であり、より普通には0.01〜20%である。
【0033】
レチン酸受容体アゴニストが、網膜色素上皮の増殖を防止するために使用されている。これについては、カンポチアロ(Campochiaro)の名称で出願された「レチン酸受容体アゴニストによって網膜色素上皮の増殖を防止する方法」と題する同時継続中の米国特許出願No.08/383,741を参照(硝子体腔30におけるレチン酸活性の使用の説明につては、この文献の全てが本明細書の一部を構成する)。
【0034】
重要なことは、レチノイドの使用により、組織におけるデバイス10の生物適合性を改善しうることを発見したことである。栓子デバイス10に関連して上で説明したように、レチノイドを均質物体の成分としてデバイスに導入することができるが、図3に示すように移植されるデバイス42上にフィルム40として配置したときには、このレチノイドにより生物適合性の改善を助長することができる。米国特許No.5,370,684に記載されているように、デバイス42は心臓弁の成分である(この特許は、生物適合性を改善するためのレチノイドとの組合せにおいて適する典型的な移植可能なデバイス42の説明において、その全体が本明細書の一部を構成する)。さらにこの特許は、移植体42の表面44にレチノイドを結合させるのに適する被覆または埋込み方法についても、本明細書の一部を構成する。
【0035】
移植体42の表面44に埋込みまたはフィルム40として適用されるときに、レチノイドは、使用されるレチノイドの強さおよび受容体選択性ならびに特定の移植体からのレチノイドの放出速度に依存する量で導入することができる。
【0036】
通常、使用されるレチノイドの量は、0.001〜50%であり、より普通には0.01〜20%である。
【0037】
レチノイドは、天然または合成のレチノイドのどちらであってもよく、例えばレチン酸受容体(RAR)アゴニストであることができる。
【0038】
本発明において使用するのに適する天然のレチノイドには、例えばビタミンA(レチノール)、ビタミンAアルデヒド(レチナール)、ビタミンA酸(レチン酸)ならびにこれらの合成および天然の同類物が含まれる。これらには、限定するものではないが、全てのトランス、9-シス、11-シス、13-シス、9,11-ジシスおよび11,13-ジシス異性体、ならびに、これらの生理学的に適合するエーテル、エステル、アミドおよび塩が含まれる。7,8-ジヒドロおよび5,6-ジヒドロ同類物ならびにエトレチネートを本発明に使用することもできる。
【0039】
固有にまたは代謝されたときにレチノイドの生理学的性質を持つ化合物も、本発明の範囲内に含まれる。これらには、核のレチン酸受容体(RAR)およびレチノイドX受容体(RXR)に親和性を有する合成および天然のレチノイド化合物が含まれるであろう。
【0040】
他の合成によって調製されるレチノイドも当分野で周知である。例えば、米国特許No.5,234,926は、RARアゴニストとしての選択活性を有する、ヘテロ芳香族およびヘテロ二環式基を持つ二置換のアセチレンを合成する方法を開示しており、この開示の全てが本明細書の一部を構成する。レチノイド様の活性を有する5,6,7,8-テトラヒドロナフタールおよびインダニルスチルベン誘導体を合成するための方法の開示については、米国特許No.4,326,055の開示の全てが本明細書の一部を構成する。
【0041】
本発明を実施する際に使用するのに適する合成アゴニストの例は、6-[2-(4,4-ジメチルチオクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸エチル(化合物168)および6-[2-(4,4-ジメチルクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸(化合物299)[これらの合成は、米国特許No.5,234,926にそれぞれ実施例6および24として開示されている];および、p-[(E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフチル)プロペニル]安息香酸(化合物183)[この合成は、米国特許No.4,326,055に開示されている]、および2-[(E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-3,5,5,8,8-ペンタメチルナフタレン-2-イル)プロペン-1-イル]チオフェン-4-カルボン酸(化合物701)[この合成は、米国特許No.5,324,840に開示されている]である。
【0042】
また、通常は均質である強膜栓子10は、図3に示すような非生物侵食性のデバイス42の生物適合性を改善するのと同様の方法で生物適合性を改善するために、レチノイドのフィルム50をその上に含むことができる。
【0043】
上記したデバイスに付随するのは、組織における移植体の生物適合性を改善するための本発明の方法であり、この方法は、治療薬剤を供給する工程、治療薬剤の放出が望まれる組織中に挿入するための大きさにしたキャリアーを供給する工程、治療薬剤の時間放出が可能なようにキャリアー中に治療薬剤を導入する工程、ならびに、組織におけるキャリアーの生物適合性を改善するのに有効な量でキャリアー中にレチノイドを導入する工程を包含する。勿論、この方法は図1および図2に示すデバイス10に対応している。
【0044】
これに対応して、図3に示すデバイス42に関連する本発明の方法は、レチノイド40を人工装具42と組合せることを包含する。この方法は、人工装具42上にフィルム40を沈着させることまたは人工装具の表面44にレチノイドを埋込むことを包含することができる。上記したレチノイドの全てを、本発明の方法に従って使用することができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて、本発明の方法およびデバイスの有効性を説明する。この実施例は例示の目的のみで記載するものであり、開示した特定の材料または方法のいずれかに限定するものとみなすべきではないことを理解すべきである。
【0046】
実施例1
移植可能なデバイス10を次のように調製した。
網膜栓子を、0.6DL/Gの固有粘度を有するポリ(D,L)乳酸(PLA)から製造した。レチノイド6-[(4,4-ジメチルチオクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸(AGN 190299)を、三次元ミキサーにおいてポリマーと混合した。次いで、この混合物を均質なロッドに85℃で押出した。レチノイドを、10%の濃度でポリマー栓子中に導入した。次いで、押出した栓子を3.0mmの長さに切断した。これは1.5mmの直径を有していた。0.5mmの穴を栓子の遠位末端にドリルで開け、強膜への縫合糸固定を可能にした。レチノイドを含まないプラシーボ栓子を、同じ寸法で製造した。これら栓子の平均重量は8mgであった。全ての栓子を、1Mラドのγ線で滅菌した。
【0047】
次いで、これら栓子を、図2に示すように色素沈着ウサギに移植した。ウサギの目を硝子体切除し、レチノイドが導入されたかまたは未導入の網膜栓子を、強膜切開により角膜強膜縁から3mm後ろに挿入した。次いで、栓子を、強膜切開を閉じるのに用いた縫合糸によって固定した。500,000個のヒトRPE細胞の硝子体内注射を行って、牽引網膜剥離を模擬した。ウサギを28日目に犠牲にし、組織病理検査を行った。
【0048】
これらの観察された結果を、プラシーボ栓子については図4に、上記したレチノイドを含有する栓子10については図5に示す。
【0049】
図4は、強膜から硝子体中に挿入して28日後の、プラシーボ栓子28の被包を示す図である。この栓子はポリ乳酸からなる。この栓子は目(A)の処理中に消失する。この栓子を取巻く組織をPASで染色し、プラシーボを先に配置した領域を取巻く線維被膜(B)を示す。ポリ乳酸栓子を取巻いた被膜は、炎症細胞の浸潤(C)を伴う極めて顕著な炎症反応を示す。
【0050】
図5は、挿入して28日後の、レチノイド含有栓子28の被包を示す図である。このポリ乳酸栓子は、10重量%のレチノイド 6-[(4,4-ジメチルチオクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸(AGN 190299)を含有していた。この栓子は目(A)の処理中に消失する。レチノイド含有栓子を取巻く組織をPASで染色した。この図は、AGN 190299栓子を取巻く被膜(B)が、極めて少ない線維浸潤(C)を有することを示す。
【0051】
以上において、本発明を用いて利益を受けることができる方法を説明するために、本発明に従う方法および移植可能なデバイスの特定の配置を説明したが、本発明がこれらに限定されないことを理解すべきである。即ち、当業者が行いうる任意の全ての修飾、変更または等価な配置は、特許請求の範囲に規定される本発明の範囲内にあると考えるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の1つの態様に従う移植可能なデバイス、具体的には、眼内組織に治療薬剤の局所供給を与えるための網膜栓子を示す図である。
【図2】図1に示す網膜栓子を、強膜および毛様体輪を介して目に配置することを示す図である。
【図3】本発明に従う別の態様、具体的には、レチノイドのフィルムで被覆された心臓弁成分などの手術により移植することができる人工装具の透視図である。
【0053】
【図4】強膜から硝子体中に挿入して28日後の、プラシーボ栓子28の被包を示す図である。この栓子はポリ乳酸からなる。この栓子は目(A)の処理中に消失する。この栓子を取巻く組織をPASで染色し、プラシーボを先に配置した領域を取巻く線維被膜(B)を示す。ポリ乳酸栓子を取巻いた被膜は、炎症細胞の浸潤(C)を伴う極めて顕著な炎症反応を示す。
【図5】挿入して28日後の、レチノイド含有栓子28の被包を示す図である。このポリ乳酸栓子は、10重量%のレチノイド 6-[(4,4-ジメチルチオクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸(AGN 190299)を含有していた。この栓子は目(A)の処理中に消失する。レチノイド含有栓子を取巻く組織をPASで染色した。この図は、AGN 190299栓子を取巻く被膜(B)が、極めて少ない線維浸潤(C)を有することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼組織における移植可能なデバイスの生物適合性を改善するための方法であって、以下の工程を含んでなる方法:
・治療薬剤を供給する工程;
・治療薬剤の放出が望まれる眼組織中に挿入するための大きさにしたキャリアーを供給する工程;
・治療薬剤の制御された放出が可能なようにキャリアー中に治療薬剤を導入する工程;ならびに
・眼組織におけるキャリアーの生物適合性を改善するのに有効な量で、6-[2-(4,4-ジメチルチオクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸エチル、6-[2-(4,4-ジメチルチオクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸およびp-[(E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフチル)プロペニル]安息香酸からなる群から選択されるレチノイドを、キャリアー中に導入する工程。
【請求項2】
眼組織における移植可能なデバイスの生物適合性を改善するための方法であって、以下の工程を含んでなる方法:
・治療薬剤の放出が望まれる眼組織中に挿入するための大きさにしたキャリアーを供給する工程;および
・眼組織におけるキャリアーの生物適合性を改善するのに有効な量で、6-[2-(4,4-ジメチルチオクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸エチル、6-[2-(4,4-ジメチルチオクロマン-6-イル)エチニル]ニコチン酸およびp-[(E)-2-(5,6,7,8-テトラヒドロ-5,5,8,8-テトラメチル-2-ナフチル)プロペニル]安息香酸からなる群から選択されるレチノイドを、治療薬剤としてキャリアー中に導入する工程。
【請求項3】
キャリアーが生分解性ポリマーを含んでなる請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
生分解性ポリマーがポリ(乳酸)を含んでなる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
生分解性ポリマーがポリ(ラクチド-コ-グリコリド)を含んでなる請求項3に記載の方法。
【請求項6】
キャリアーが強膜中に移植するための大きさである請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−272512(P2008−272512A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187428(P2008−187428)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【分割の表示】特願2000−507004(P2000−507004)の分割
【原出願日】平成10年8月10日(1998.8.10)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】