説明

改良されたケイ素腐食特性を有する水性組成物

ケイ素系の微小電気機械プリンター構造で用いられる水性組成物と、インクジェット用インクの印刷方法は、水性組成物と接触した際に、ケイ素デバイス成分が通常崩壊することを開示する。該工程において使用される他の水性組成物およびインクジェット用インクは、有機芳香族アゾ化合物の可溶性塩を、ケイ素腐食を抑制するのに十分な濃度で含有する。ケイ素構成に基づく微小電気機械の流体装置の有用な寿命は延長される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性のインクジェット用インク組成物を印刷するための方法と、インクジェットプリンターにおいて有用な水性組成物に関する。特に、インクまたは使用される他の水性組成物が、インクと接触する有用な微小電気機械デバイスを含むケイ素系材料の腐食を最小限にする有機芳香族アゾ化合物の可溶性塩を含有することを特徴とする該方法に関する。インク組成物は、連続インクジェット印刷用途における印刷装置の寿命を延ばすのに特に有用である。
【背景技術】
【0002】
ケイ素が構造の主たる物質であるケイ素系材料は、多くの集積回路(IC)および微小電気機械システム(MEMS)デバイスに使用されている。しかしながら、ケイ素系センサーおよびアクチュエータが、水性の化学環境下で使用される場合、シリコン系材料の腐食(エッチング)は装置の摩耗と故障を早期に生じさせることが、長年に亘り知られている。実際、ケイ素の湿潤腐食(エッチング)に基づくケイ素加工法が、一般に多く使用されている。kendalD.L、Shoultz,R.A著「ケイ素およびSiOの湿潤化学エッチング、および微小機械に関する10人の挑戦者」、「微細加工、マイクロマシニングおよびマイクロリソグラフィーに関するSPIEハンドブック」第2巻、SPIEオルティカルプレス、第41頁〜第97頁、1997年、Ed.P.Rai-Choudhuryを参照。近年、MEMS技術は流体管理システムに適用されている。ケイ素系MEMSデバイスを含むマイクロ流体用流体管理システムの例は、連続インクジェット(CIJ)印刷である。
【0003】
連続インクジェット(CIJ)プリンターは、一般に2つの主な構成要素から構成される:流体系およびプリントヘッド、またはマルチプルプリントヘッド。インクは供給タンクから供給ラインを介して、複数のオリフィスへインクを分配させる、一般に直線配列に配置されるマニホールドへと送り出され、十分な圧力条件下において、インク流をプリントヘッドのオリフィスから放射させる。刺激がプリントヘッドに施されて、これらのインク流に、均一サイズで間隔を有する液滴流を形成させ、該流れはプリントまたは非プリントパス内へ偏向される。非印刷液滴は液滴受けを介して供給タンクへ戻され、ラインへ戻される。米国特許第3761953号A明細書、同第4734711号明細書および同第5394177号明細書ならびに欧州特許第1013450号明細書は、CIJ装置向けの流体システムの構造を具体的に開示する。ケイ素系MEMSのCIJプリントヘッドの製造および印刷装置に関するより近年の研究は、米国特許第6588888号明細書および同第6943037号明細書に開示されている。印刷システムの液滴発生器において使用されるノズルプレート(プリントヘッドダイ)の構造は、MEMS CIJ技術における特徴的な要素のうちの一つである。単結晶ケイ素ダイは、ノズルプレート用基材として使用でき、相補型金属酸化半導体(CMOS)エレクトロニクスは装置の一部に含まれる。表面ノズル構造および関連するオンボードCMOSエレクトロニクスは、ケイ素集積回路の構築に使用される材料群と、同じ製造技術とを用いて製造される。プリントヘッドダイもケイ素を介して流れる流体系に含まれる。液滴の生成中に、装置中のヒーターは、熱エネルギーを、各ノズル介して噴射される流体へ伝達する。
【0004】
上記記載のように、CIJプリントヘッドは複数の構成要素を具備する。プリントヘッドおよび操作に関する詳細な説明は、ケイ素と該流体との相互作用に重点をおいて、本明細書により開示され、ケイ素-流体の相互作用が本発明と特に関連する。これらの構成要素には、流体系と整合し、流体系によって供給されるインクまたは他の流体を受け入れ、プリントヘッドの他の成分へこれらの流体を搬送するマニホールドと;
プリントヘッドにより生成されるインク含有液滴から、支持体(固定式または非固定式)に印刷される画像の、液滴形成に関する情報をプリントヘッドに供給する外部筆記システムによってもたらされる電子信号と連動する、電気相互接続システムと;
マニホールドから液滴形成部品へ供給されるインクまたは他の流体から液滴を形成するための機能を備える、液滴形成部品が含まれる。
ケイ素系CIJ印刷システムにおいて液滴形成をもたらす液滴形成部品は、ケイ素集積回路の構築に使用される同一技術を用いて製造されるケイ素系デバイスを使用する。ケイ素系デバイスはマルチプル流体チャネルと、複数の小さなオリフィス(ノズルとも称される)を含有でき、それは、流体系によって供給されるインクまたは他の流体を、流体ジェットとも称される流体の1種以上のコラム構造を介して、マニホールドから支持体へ流れることを可能とし、それは、適当な圧力が施されたときにケイ素系デバイスから退出させる。流体コラムまたは流体ジェットは、適当な条件下にて、明確に定義された液滴に変換させる。ケイ素系CIJ印刷システムにおいて採用される圧力は、一般に、69kPa以上であり1380kPa未満である。ケイ素系MEMS CIJプリントヘッドにおけるケイ素系デバイスを構築する材料は、多岐に亘り、流体システムまたはマニホールドによって供給されるインクまたは他の流体と接触する構造体の材料は、本発明において特に興味深い。
【0005】
流体から液滴を形成させる構成要素として使用されるケイ素系デバイスは、一般に単結晶ケイ素から調製される基材を用いて製造される。デバイス製造用の大粒の多結晶ケイ素基材の使用は先行技術において既知である。基材は、50ミクロン〜1mmを越えるものまで、種々の厚さを有してもよく、基材表面は、デバイス用途に適当な任意の結晶配向を有してもよい。例えば、ケイ素基材は<100>、<111>、<110>で表わされるミラー指数によって定義される配向で調製できる。デバイス基材における種々の結晶配向の使用は、半導体装置製造に関する技術の当業者に既知である。単結晶ケイ素基材は、種々の電気的特性を有し得る。例えば、単結晶ケイ素の電気的特性は、少量の外部不純物(ドーパントまたはキャリアとも称される)を組み込むことによって、多岐に亘る。これらの外部不純物、例えばホウ素またはリンなどは、ケイ素結晶における多数キャリア種の電荷が負であるか正であるかにより決定される。このような改質基材は、それぞれn-型ケイ素およびp-型ケイ素として既知である。ケイ素系デバイスの製造においてp-型およびn-型ケイ素基材を使用することは当該技術分野において既知である。抵抗率が100Ω-cm未満である低抵抗率のケイ素基材の使用と、抵抗率が1000Ω-cmよりも高い高抵抗率ケイ素基材の使用は、キャリア種および基材の結晶配向に関係なく、半導体デバイス製造の技術分野において既知である。
【0006】
種々の方法によって調製される絶縁層上に、種々の方法により行われるケイ素の蒸着、および種々の方法により行われる多結晶または非晶質のケイ素の層の蒸着による基材の更なる調製、例えば、ケイ素基材の熱酸化によって形成される二酸化ケイ素絶縁体上に蒸着されるポリケイ素の調製(絶縁体またはSOI上のケイ素としても既知である)は、当該技術分野において既知である。層を含有する、得られた積層ケイ素は、ドープまたは非ドープの、p-型またはn-型であってもよく、さらに、多結晶(層内の3次元空間におけるケイ素原子の配列が、単結晶ケイ素において見出される配列と同一であることを意味する)であってもよく、非晶質または不十分な結晶性(層内の3次元空間におけるケイ素原子の配列が、単結晶ケイ素において見出される配列から逸脱し、単結晶ケイ素において見出される原子配置と比較して無秩序を示すことを意味する)であってもよい。更なる蒸着層の使用により基材表面の品質を制御した後に、デバイス特性が改良されることが見出されており、この観察は、半導体装置製造の技術分野におけるこれらの知識と同様である。
【0007】
所望によりケイ素を含有する、後蒸着層の使用は、半導体装置製造の技術分野において既知である。所望によりケイ素を含有する蒸着層は、半導体装置製造の技術分野において既知である任意の方法によって調製でき、所望によりプラズマの補助を受けるか、低圧(<1torr)および高圧(>1torr)の条件下、低温(<400℃)および高温(>400℃)にて増強される化学蒸着が含まれる。所望によりケイ素を含有する蒸着層は、所望によりプラズマの助力または増強を受ける物理的蒸着(蒸発)による蒸着によって調製でき、ならびに、エピタキシャル成長法によっても行なえる。その結果、所望によりケイ素を含有する層は、種々の程度で、電気的に絶縁されるか電気的に電導性を有し、ドープまたは非ドープの、p-型またはn-型であってもよく、さらに、多結晶(層内の3次元空間における原子配列が、同一の元素組成を有する単結晶ケイ素において見出される配列と同一であることを意味する)であってもよく、非晶質または不十分な結晶性(層内の3次元空間における原子の配列が、同一組成の単結晶ケイ素において見出される配列から逸脱し、単結晶ケイ素において見出される原子配置と比較して無秩序を示すことを意味する)であってもよい。技術分野において、ケイ素含有蒸着層は、種々の量で更なる外来原子を含有してもよく、例えば、電気的性質を制御する上述のドーパントホウ素およびリンを含有してもよく、蒸着処理またはそれらの組み合わせから生じる、格子型または他の更なる原子を含有してもよい。ドーパントの例には、ホウ素、リン、ヒ素、窒素、炭素、ゲルマニウム、アルミニウムおよびガリウムが含まれる。格子型または非格子型の外来原子には、水素、酸素、窒素、炭素、周期表のVIB群に記載の要素から選択される原子(O、S、Se、Te)および周期表のVIIB群に記載の要素から選択される原子(F、Cl、Br、I)が含まれる。水素、酸素、窒素および炭素は、デバイスおよび微小電気機械システムを含有するデバイスにおいてケイ素と共に一般に存在し、酸素、窒素、および炭素の各成分は、化学量論または非化学量論の二元化合物、三元化合物および四元化合物の形態でケイ素と結合する場合があり、種々の組成の水素化ケイ素、種々の組成の酸化ケイ素、および亜酸化ケイ素を含む水和物および酸化および亜酸化ケイ素水和物、種々の組成の窒化ケイ素、種々の組成のオキシ窒化物、種々の組成のケイ素炭化物および種々の組成のケイ素オキシ炭化物などである。これらのケイ素含有二元および三元組成物は、デバイスにおける離散層であってもよく、ケイ素、ポリケイ素および非晶質ケイ素の表面組成の一部であってもよい。さらに、他の成分、例えばAl、Ti、Ta、W、Zr、HfおよびCuは、デバイスにおけるケイ素および/またはケイ素含有二元化合物、例えば酸化ケイ素および炭化ケイ素と共に用いられる場合があり、また、ケイ素との金属間化合物合金として観察される場合もある。
【0008】
ケイ素含有間合金の例には、チタン含有シリサイドの全組成、タンタル含有シリサイドの全組成、チタン含有シリサイドの全組成、タングステン含有シリサイドの全組成、ジルコニウム含有シリサイドの全組成、ハフニウム含有シリサイドの全組成、銅含有シリサイドの全組成、ならびに三元アルミニウム酸化ケイ素、三元ハフニウム酸化ケイ素、四元ジルコニウム酸化ケイ素が含まれる。半導体デバイス製造技術における当業者は、種々の合金、処理中に形成できる二元化合物、三元および四元化合物について既知であり、このことは当該技術分野における常識である。
【0009】
連続インクジェット印刷システムを作動させる場合、流体は実質的に常に、液滴発生器のノズルを介して流れている。インクで印刷する前に、流体搬送系を洗浄するために、開始流体を、プリンター内に通過させてもよい。実行時間は、時間から週へと多岐であるので、プリンターを稼働させるまでの長期間、インクは印刷系中に残存する。流体のフラッシングはインクを変更する間に行うか、または日常のメンテナンスの一部として行われる。装置が印刷する際、インクのごく一部のみが液滴発生器を通過して実際に支持体に印刷される。インクの大部分は収集され、再利用のために流体搬送系へ戻される。最後に、流体を遮断し、流体搬送システムおよびプリントヘッドからインクを洗浄するために貯蔵した流体を使用し、系は、貯蔵後、再び使用されるまで確実に保存される。
【0010】
プリントヘッドは、確実に数百〜数千時間稼働することが望ましい。CIJプリントヘッドを通過する流体体積は大きいので、望ましいプリントヘッドの寿命までに、数千リットルの溶液がプリントヘッドダイを通過する。したがって、CIJシステムの流体に対する、ケイ素系ノズルプレートの過大な暴露が生じる。腐食(またはエッチングまたは分解)による、これらの溶液中のケイ素系材料の分解は、大きな関心である。
【0011】
稼働させる間に、十分な圧力勾配(100kPaであってもよい)が連続インクジェットプリントヘッドノズルプレートに対して施され、大きな荷重の下でデバイスの破損を生じさせる。ケイ素系基材の腐食は、プリントヘッドダイ自体の完全な破裂を導くか、チャネルサイズに微小な増加をもたらし、およびインク流が通過するオリフィスは、液滴噴出の欠陥、例えば恒久的に湾曲したジェットまたは液滴サイズの誤りをもたらす。デバイス背面の広範囲におよぶ腐食は、背面ダイの熱質量を変更し、デバイス内の熱管理を危うくし、ジェットから形成される液滴に関して更なる潜在的な問題を生じさせる。ケイ素系MEMS CIJ印刷および、ケイ素を腐食させ得る溶液にケイ素を曝す他の適用において、ケイ素系材料の腐食を防ぐか腐食を最小限にする必要がある。ケイ素系デバイスの腐食に関する問題に対処する方法は、デバイスに対して不動態化コーティングを施すことである。不動態化コーティングは、一般に、比較的低いエッチング速度を示す保護コーティングである。ケイ素自体は、天然の酸化ケイ素コーティングを直ぐに形成させることが知られており、これらの薄い天然の酸化ケイ素コーティグ(約1nm)は、腐食過程の影響下にあり、ケイ素金属の保護には不十分である。不動態化コーティングの例には、熱的に生成された酸化ケイ素、種々の窒化ケイ素およびタンタル酸化物が含まれる(G.F.EriksenおよびK.Dybye、「過酷な環境における保護コーティング」J.Micromech.Microeng.(1996年)第6巻、55〜57頁;C.Christensen等による「センサー向け保護コーティングとしてのタンタル酸化物薄膜」J. Micromech.Microeng.(1999年)、第9巻、113〜118頁)。
【0012】
しかしながら、不動態化コーティングは問題を有する。なぜならば、それは、加工に対して更なるコーティング工程の導入を必要とし、デバイス中においてコーティングは所望でない効果をもたらし(負荷など)、そして、ピンホール様のコーティングの欠陥は、不動態化コーティングの有効性を低下させる。さらに、多くのコーティング法がマイクロ流体デバイスに対して使用できない。なぜならば、被覆される範囲(例えば流体チャネルなど)は、デバイスの内部に存在するからであり、あるいは、コーティング法が要求する条件(例えば温度など)は、デバイスと適合しないからである。ケイ素腐食に関するインク性能を改良する他の一般法は、適切な緩衝溶液を使用することによりインクのpH値を調整することである。例えば、イノウエ等による米国特許第7370952号B2明細書によると、インクのpH値を調整するのに使用できる緩衝剤は、ドロップ・オン・デマンド型インクジェットプリンターにおいて使用され、腐食の効果を低減させると記載されている。このことは、主に、ケイ素の腐食はより高いpH値(よりアルカリ性)の溶液(例えば、湿潤エッチング法において使用される溶液)によって促進されることが知られているからである。同時に、インクジェット用インクに有用な組成物は、溶液の完全性を維持するため、例えば、インク成分の沈殿を防ぐためにアルカリ性であることが要求される場合がある。しかしながら、CIJ等の技術に関して、ちょうど10〜100時間の操作の後、エッチ速度を減少させても(すなわち、100nm/h以下の範囲であっても)、システム性能は相応に低下し、最悪、デバイス損傷を生じさせる。ケイ素腐食速度(エッチ速度とも称される)の直接測定も、Dockerylらによる米国特許出願公開第2009/0065478号明細書において開示されている。
【0013】
顔料分散液としても既知の、コロイド状のガスブラック懸濁液の調製における安定剤として使用するため、およびインク、インクジェット用インク、表面コーティングおよび着色印刷インクの調製においてその後使用するための、有機ナフタレン型(naphthalenic)アゾ化合物の使用が、Zochらにより米国特許第7160377号B2明細書に記載されている。この参照文献は、このようなアゾ化合物を用いずに事前に分散させた顔料へ添加されるケイ素腐食阻害剤として、それらの使用を教示せず、他の顔料とのそれらの使用を教示せず、または実質的に顔料を含まない溶液へのそれらの使用を教示しない。さらに、この参照文献は、ナフタレン型アゾ化合物へ限定し、それは不便である。なぜならば、アゾ化合物はインク配合前の顔料分散液に添加されるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第3761953号A明細書
【特許文献2】米国特許第4734711号明細書
【特許文献3】米国特許第5394177号明細書
【特許文献4】欧州特許第1013450号明細書
【特許文献5】米国特許第6588888号明細書
【特許文献6】米国特許第6943037号明細書
【特許文献7】米国特許第7370952号B2明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2009/0065478号明細書
【特許文献9】米国特許第7160377号B2明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】kendalD.L、Shoultz,R.A著「ケイ素およびSiO2の湿潤化学エッチング、および微小機械に関する10人の挑戦者」
【非特許文献2】「微細加工、マイクロマシニングおよびマイクロリソグラフィーに関するSPIEハンドブック」第2巻、SPIEオルティカルプレス、第41頁〜第97頁、1997年、Ed.P.Rai-Choudhury
【非特許文献3】G.F.EriksenおよびK.Dybye、「過酷な環境における保護コーティング」J.Micromech.Microeng.(1996年)第6巻、55〜57頁
【非特許文献4】C.Christensen等による「センサー向け保護コーティングとしてのタンタル酸化物薄膜」J. Micromech.Microeng.(1999年)、第9巻、113〜118頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
水性流体を噴射する際の、微小電気機械ケイ素プリントヘッドの耐久性を高めることは、インク組成物と接触するケイ素系材料を含有するインクジェットプリンターで水性インク組成物を印刷する方法において必要とされており、該方法は、プリンターに水性インク組成物を装填することと、記録材料に対してインク組成物を噴射することを含む。この場合において、インク組成物は、少なくとも第1着色剤と、インク組成物を接触させる際に、ケイ素系材料の腐食を抑止するのに十分な濃度の可溶性有機芳香族アゾ化合物とを含有する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
さらに、本発明は、ケイ素系材料を含有するインクジェットプリンターに水性組成物を装填すること、およびプリンターのケイ素系材料に水性組成物を接触させることを含む方法であって、該水性組成物は、水性組成物とケイ素系材料を接触させる際に、該ケイ素系材料の腐食を抑止するのに十分な濃度の可溶性有機芳香族アゾ化合物を含有し、該水性組成物は2重量パーセント未満の任意の着色剤を含有することを特徴とする、該方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、水性インク組成物と接触するケイ素系材料を含有するインクジェットプリンターにおいて使用する水性インク組成物であって、
該組成物は、少なくとも第1着色剤と、水性組成物とケイ素系材料を接触させる際に、ケイ素系材料の腐食を抑止するのに十分な濃度の可溶性有機芳香族アゾ化合物とを含有し、該可溶性有機アゾ化合物の濃度が0.001〜1.0重量パーセント未満であることを特徴とする、該組成物を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、水性組成物と接触するケイ素系材料を含有するインクジェットプリンターにおいて使用する水性インク組成物であって、
該組成物は、水性組成物とケイ素系材料を接触させる際に、該ケイ素系材料の腐食を抑止するのに十分な濃度の可溶性有機芳香族アゾ化合物を含有し、該水性組成物は2重量パーセント未満の任意の着色剤を含有することを特徴とする、該組成物を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は多くの効果を有する。可溶化有機芳香族アゾ化合物を有する、インクジェット用インクと他の水性組成物の配合物は、インクおよび他の組成物と接触するケイ素系材料の腐食を最小限にすることにより十分な改良をもたらすことが、最も思いがけなく見出された。本発明は、ケイ素系プリントヘッドを介してインクジェット組成物を印刷するための方法と、水中でのケイ素デバイス成分の自然崩壊を抑える、改良された水性流体で印刷する方法も提供する。ケイ素系微小電気機械流体デバイスの有用な寿命と頑強な性能が延長される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による1実施態様において、水性インクジェット組成物は、少なくとも1種の第1着色剤と、本発明において開示される種類のアゾ化合物を含有する。本発明の別の態様において、水性組成物は、非結像型の水性流体、例えば比較的透明な保護膜流体または洗浄流体または保守流体などを含有すると共に、本発明において開示される種類のアゾ化合物は、ケイ素腐食を抑える濃度で存在するが、インクジェット用インク印刷に対して有用な着色剤強度をもたらさない。本発明は、ケイ素腐食性が最小限のインクジェット結像インク配合物および他の流体に関して有用であり、特にCIJにおける使用に有用である。
【0022】
本発明に従って採用される可溶性有機芳香族アゾ化合物は、下記一般式(I)で表わされる塩であってもよい:
【0023】
【化1】

(式中、Yは置換または非置換の芳香族置換基であり、Sは有機基、例えば置換または非置換の芳香族、脂肪族、環状、非環式または多環式基であり、ただし、YまたはSの少なくとも1つは、少なくとも1つの可溶化基で更に置換される)。
【0024】
本発明に従って採用される有機芳香族アゾ化合物に対して使用できる芳香族置換基は、炭素環式芳香族環またはヘテロ環式芳香族環を含有でき、その構造は化学文献において既知であり、単一の芳香族環および結合させた芳香族環あるいは縮合芳香族環を含む。炭素環式芳香族置換基の例には、例えば、フェニルまたはナフチルが含まれる。ヘテロ環式芳香族(ヘテロ芳香族)置換基の例には、ピロリル、ピリジニル、フリル、およびプリル(puryl)が含まれる。
【0025】
可溶性のイオン性塩は、SまたはYにおいて置換された様々な可溶化官能基から形成できる。本発明による好ましい実施態様において、可溶化基にはカルボン酸基またはスルホン酸塩基が含まれる。本発明による更に好ましい実施態様において、可溶化基はスルホン酸塩である。塩の対イオンは、幅広い範囲の無機または有機カチオンから選択できる。所望により、無機カチオンは一価であると共に低い原子番号を有し、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム対イオンである。有機カチオンは、アミン塩基からアルカリ性条件下で望ましく形成される。有機アミンは、少なくとも1つの有機置換基を含むアミンであり、本発明において使用される置換基は、望ましくは脂肪族基である。アミンと他のインク原料との化学反応に関する可能性を少なくするために、第1級アミンよりも第2級アミンがより好ましい。最も好ましいものは、中央のアミン基が3つの有機置換基を有する、第3級アミンである。同様に、アミン脂肪族基は、インクジェット用インクの適用に適合する任意適当な官能基で置換できる。
【0026】
具体例には以下のものが含まれる:ベンジルアミン、2-フェニルエチルアミン、N-メチルベンジルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N-プロピルベンジルアミン、N-t-ブチル-N-エチルアニリン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、N,N-ジメチル-n-プロピルアミン、N,N-ジメチル-i-ブチルアミン、テトラメチルジプロピレントリアミン、ペンタメチルジプロピレントリアミン、ペンタメチレンジエチレントリアミン、2,2,2-トリフルオロエチルアミン、および3,3,3-トリフルオロ-n-プロピルアミン。他の例には、以下のものが含まれる:モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンおよびジメチルピペラジン。より好ましくは、ヒドロキシル基で置換された脂肪族アミン、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、3-アミノ-1-プロパノール、N-メチルエタノールアミン、N-ベンジル-Nメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、N,N-ジメチル-2-(2-アミノエトキシ)エタノール、N-メチルジエタノールアミンおよびN,N-ジメチルエタノールアミンである。アミノプロパンジオール誘導体の例には、1-メチル-アミノ-2,3-プロパンジオール、1-アミノ-2,3-プロパンジオール、1-アミノ-2-エチル-2,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオールおよび2-アミノ-2,3-プロパンジオールが含まれる。
【0027】
好ましい1実施態様において、本発明において使用されるアゾ化合物は、下記一般式(2)によって表わされる:
【0028】
【化2】

【0029】
置換基R、R、R、R、R、Rは同一であってもよく、異なっていてもよく、それぞれ単独でまたは共同で、水素、疎水性基および親水性基、脂肪族、芳香族、非環式、環式および多環系であってもよく、ただし、R、R、R、R、RおよびRの少なくとも1つは、式S-N=N-(式中、Sは式(1)における上記定義のとおりである)で表わされる置換アゾ基を示し、
およびRは、H、あるいは式(1)に関して記載したような無機または有機カチオンである。
【0030】
別の可能なR、R、R、R、RおよびR置換基の例には、ヒドロキシル(HO)、アルコキシ、アミノ(NH)(置換アミノを含む)、例えば、ジアルキルおよびモノアルキルアミンなど、アミド、ニトロ、アゾ、水素、アルキル、アリール、または官能化アルキルまたはアリール基などである。本発明におけるより好ましい実施態様において、少なくとも1つのR、R、R、R、RおよびR置換基は、ヒドロキシルであり、少なくとも1つは置換アゾ基(S-N=N-)である。本発明による別のより好ましい実施態様において、少なくとも1つのR、R、R、R、RおよびR置換基は、ヒドロキシルであり、他はアミノ基またはアミド基から選択されると共に、少なくとも1つは、置換アゾ基(S-N=N-)である。RおよびRは、同一であってもよく異なってもよい。RおよびRの例には、水素、アルカリ金属カチオン(例えばナトリウムおよびカリウムなど)およびアンモニウムが含まれる。
【0031】
本発明において使用されるアゾ化合物の別の好ましい実施態様に関する別の化学式は、式(3)によって表わされる:
【0032】
【化3】

(式中、Sは、式(1)における上記定義のとおりであり、置換基R〜R13は、同一であってもよく、異なっていてもよく、それぞれ、水素、疎水性基および親水性基、脂肪族、芳香族、非環式、環式および多環系であってもよく、ただし、R〜R13の少なくとも1つは、スルホン酸(-SOH)またはスルホン酸の共役塩基(例えば、-SONa)である。本発明のより好ましい実施態様において、R〜R13の少なくとも1つはスルホン酸またはスルホン酸の共役塩基であり、R〜R13のうちの一つがニトロ基である)。
【0033】
本発明において使用される種類のアゾ化合物の具体例は、下記の通りである:
【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

【0038】
【化8】

【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
本発明による実施態様に従い使用されるインクジェット用インク組成物の着色剤系は、染料ベースであってもよく、顔料ベースであってもよく、染料および顔料の組み合わせであってもよい。顔料を包含する組成物が特に有用である。好ましくは、顔料を基剤とするインク組成物が使用される。何故ならば、このようなインクは、他の種類の着色剤から形成される印刷画像と比較して、より高い光学密度とより良好な耐光性と耐オゾン性を有する印刷画像を提供するからである。本発明においては、幅広い種類の有機顔料および無機顔料を使用でき、単独で使用でき、または他の顔料もしくは染料と組合せて使用できる。本発明において使用される顔料には、例えばUS5026427、US5086698、US5141556、US5160370およびUS5169436に記載される顔料が含まれる。顔料の的確な選択は、具体的な用途および性能要件、例えば色再現および画像安定性によって決まる。
【0045】
本発明における使用に適する顔料には以下のものが含まれる(ただし、これらに限定されない):アゾ顔料、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、アゾ顔料レーキ、β−ナフトール顔料、ナフトールAS顔料、ベンゾイミダゾロン顔料、ジアゾ縮合顔料、金属錯体顔料、イソインドリノン顔料およびイソインドリン顔料、多環式顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラピリミドン顔料、フラバントロン顔料、アンタントロン顔料、ジオキサジン顔料、トリアリールカルボニウム顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、二酸化チタン、酸化鉄、およびカーボンブラック。
【0046】
使用できる顔料の典型例には、以下のものが含まれる:カラーインデックス(C.I.)ピグメントイエロー1,2,3,5,6,10,12,13,14,16,17,62,65,73,74,75,81,83,87,90,93,94,95,97,98,99,100,101,104,106,108,109,110,111,113,114,116,117,120,121,123,124,126,127,128,129,130,133,136,138,139,147,148,150,151,152,153,154,155,165,166,167,168,169,170,171,172,173,174,175,176,177,179,180,181,182,183,184,185,187,188,190,191,192,193,194;C.I.ピグメントレッド1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,21,22,23,31,32,38,48:1,48:2,48:3,48:4,49:1,49:2,49:3,50:1,51,52:1,52:2,53:1,57:1,60:1,63:1,66,67,68,81,95,112,114,119,122,136,144,146,147,148,149,150,151,164,166,168,169,170,171,172,175,176,177,178,179,181,184,185,187,188,190,192,194,200,202,204,206,207,210,211,212,213,214,216,220,222,237,238,239,240,242,243,245,247,248,251,252,253,254,255,256,258,261,264;C.I.ピグメントブルー1,2,9,10,14,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,15,16,18,19,24:1,25,56,60,61,62,63,64,66、橋かけアルミニウムフタロシアニン顔料;C.I.ピグメントブラック1,7,20,31,32;C.I.ピグメントオレンジ1,2,5,6,13,15,16,17,17:1,19,22,24,31,34,36,38,40,43,44,46,48,49,51,59,60,61,62,64,65,66,67,68,69;C.I.ピグメントグリーン1,2,4,7,8,10,36,45;C.I.ピグメントバイオレット1,2,3,5:1,13,19,23,25,27,29,31,32,37,39,42,44,50;またはC.I.ピグメントブラウン1,5,22,23,25,38,41,42。本発明の1実施態様によると、シアン、マゼンタまたはイエロー顔料を含有する着色剤が特に使用される。
【0047】
補助的なホワイトインク組成物において使用できる白色顔料は、上記インク組成物を白色にすることができるものである。この技術分野において常套に使用される、種々の白色顔料を使用できる。このような白色顔料として使用できるものには、例えば、白色無機顔料、白色有機顔料、および白色中空ポリマー微粒子が含まれる。白色顔料は、無機顔料、例えば、アルカリ土類金属の硫酸塩(例えば硫酸バリウムなど)、アルカリ土類金属の炭酸塩(例えば、炭酸カルシウムなど)、シリカ(例えば珪酸微粉末など)、合成珪酸塩、珪酸カルシウム、アルミナ、アルミナ白、酸化チタン、酸化亜鉛、タルクおよび粘度が含まれる。特に、酸化チタンが、所望の被覆特性、着色(色つけ)特性、および所望の分散粒径を示す白色顔料として既知である。白色有機顔料には、特開11-129613号公報に記載の有機化合物塩、および特開11-140365号公報および特開2001-234093号公報に記載のアルキレンビスメラミン誘導体が含まれる。上記白色顔料に関する具体的な商品は、Shigenox OWP、Shigenox OWPL、Shigenox FWP、Shigenox FWG、Shigenox UL、およびShigenox U(全て商品名、Hakkoruケミカル社)である。更なる白色中空ポリマー微粒子、例えば実質上有機ポリマーから構成される熱可塑性微粒子であり、US4089800に記載されるものを使用できる。
【0048】
本発明において有用である非分散型顔料を用いる、顔料ベースのインク組成物は、インクジェット印刷の技術分野の当業者において既知である任意の方法によって調製できる。有用な方法は、一般的に以下の2つの工程を含む:(a)顔料を1次粒子へと分割する分散工程または粉砕工程(なお該1次粒子は、粒子系において同定可能な最も小さい分割物として定義される)、および(b)前記工程(a)で得られた顔料分散体を残りのインク成分で希釈して、使用する粘度のインクを調製する希釈工程。
【0049】
粉砕工程(a)は、任意の種類の粉砕機、例えば、媒体ミル、ボールミル、2−ロールミル、3−ロールミル、ビーズミルおよびエアジェットミルなど、磨砕機、または液体相互作用機(liquid interaction chamber)を使用して行われる。粉砕工程(a)において、顔料は、一般的に、工程(b)において顔料分散体を希釈するために使用される媒体と同一または類似の媒体中で、必要に応じて懸濁される。不活性の粉砕媒体は、顔料を1次粒子へ分割するのを容易にするために、粉砕工程(a)において必要に応じて存在させる。不活性な粉砕媒体には、たとえば、US特許5891231に記載されているようなプラスチック、ポリマービーズ、ガラス、セラミックスおよび金属などの物質が含まれる。US特許5679138号明細書に記載される粉砕媒体は、最終的な粒径の顔料分散系を得るために特に好ましい。粉砕媒体は、工程(a)で得られた顔料分散体、または工程(b)で得られたインク組成物から取り除かれる。
【0050】
分散剤は、顔料を1次粒子に分割することを容易にするために、粉砕工程(a)で必要に応じて存在する。工程(a)で得られる顔料分散体、または工程(b)で得られるインク組成物に対して、分散剤は、粒子安定性を維持し、凝固を防止するために必要に応じて存在させる。本発明における使用に適する分散剤は、インクジェット印刷の技術分野で一般的に使用されているものが含まれるが、これらに限定されない。水性顔料ベースのインク組成物に関して、特に有用な分散剤には、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または非イオン界面活性剤、例えば硫酸ドデシルナトリウムまたはカリウムオレイルメチルタウレートもしくはナトリウムオレイルメチルタウレートなどが含まれる(たとえば、US特許第5679138またはUS特許5651813またはUS特許5985017を参照)。
【0051】
分散剤または界面活性剤を使用することなく分散可能な自己分散型顔料は、本発明において使用できる。この種の顔料は、表面処理、例えば、酸化/還元、酸処理/塩基処理、または結合化学(coupling chemistry)による官能化などの処理に付されている。該表面処理は、顔料の表面にアニオン性基、カチオン性基または非イオン性基を付与できるので、個別の分散剤を必要としない。インクジェット印刷に適する共有結合的に官能化された自己分散型顔料を調製および使用することは、以下の文献に記載されている:US特許第6758891号B2明細書および同6660075号B2明細書(バーグマン他)、US特許第5554739号明細書(ベルモント)、US特許第5707432号明細書(アダムスおよびベルモント)、US特許第5803959号明細書およびUS特許第5922118号明細書(ジョンソンおよびベルモント)、US特許第5837045号明細書(ジョンソン他)、US特許6494943号B1明細書(ユウ他)、国際特許出願公開第96/18695明細書、同96/18696号明細書、同96/18689号明細書、同99/51690号明細書、同00/05313号明細書および同01/51566号明細書、US特許第6280513号B1明細書およびUS特許第6506239号B1明細書(オオスミ他)、US特許第6503311号明細書(カール他)、US特許第6852156号B2明細書(イー他)、US特許第6488753号B1明細書(イトウ他)、欧州特許出願公開第1479732号A1明細書(モモセ他)。
【0052】
商業的に入手可能な自己分散型顔料の例には、以下のものが含まれる:CAB-O-JET(登録商標)200、CAB-O-JET(登録商標)250、CAB-O-JET(登録商標)260、CAB-O-JET(登録商標)270およびCAB-O-JET(登録商標)300(キャボット・スペシャリティケミカル社製)、ならびにBONJET(登録商標)CW−1およびCW−2(オリエント化学工業社製)。
【0053】
ポリマー分散剤も既知であり、水性顔料ベースのインク組成物に有用である。粉砕工程(a)の前または粉砕工程(a)の間に、ポリマー分散剤を顔料分散体に添加してもよく、該ポリマー分散剤には、例えば、ホモポリマーおよびコポリマー;アニオン性、カチオン性または非イオン性ポリマー;または、ランダム、ブロック、分枝鎖状もしくはグラフトポリマーなどのポリマーが含まれる。粉砕工程で有用なポリマー分散剤には、親水部分および疎水部分を有するランダムコポリマーおよびブロックコポリマー(例えば、US特許第4597794号明細書、同第5085698号明細書、同第5519085号明細書、同第5272201号明細書、同第5172133号明細書、同第6043297号明細書および国際特許出願公開第2004/111140号A1明細書を参照)と、グラフトコポリマーが含まれる(例えば、US特許第5231131号明細書、同第6087416号明細書、同第5719204号明細書または同第5714538号明細書を参照)。一般的に、これらのポリマー樹脂は、疎水性モノマーと親水性モノマーから構成されるコポリマーである。この場合、コポリマーは、疎水性のモノマーと親水性モノマーの配列および割合に基づいて、顔料に対する分散剤として機能を果たすことを目的とする。顔料粒子は、分散剤によってコロイド的に安定し、ポリマーを分散させた顔料分散体と称される。ポリマー安定化顔料分散体は、インク受像基材上で乾燥させたインクへの画像耐久性を付与するといった更なる利点を有する。
【0054】
ポリマー分散体(コポリマー)は、コポリマーを含むモノマー配列に限定されない。モノマー配列は、全体的にランダムであってもよく、またはAB若しくはABAなどのブロック状に配置されてもよい(なお、Aは疎水性モノマーであり、Bは親水性モノマーである)。さらに、ポリマーはランダムターポリマー構造またはABCトリブロック構造を有してもよい(なお、A、BおよびCブロックの少なくとも1つは親水性モノマーが選択され、残りのブロックは、相互に類似しない疎水性のブロックである)。
【0055】
特に有用なコポリマー分散剤は、疎水性モノマーが、ベンジルメタクリレートもしくはベンジルアクリレート、または直鎖状または分枝鎖状であり、12個以上の炭素原子を有する脂肪族鎖を含有するメタクリル酸エステルもしくはアクリル酸エステルから選択される分散剤である。12個以上の炭素原子を有するメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの例には、以下のものが含まれる;ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルアクリレート、トリデシルメタクリレート、テトラデシルアクリレート、テトラデシルメタクリレート、セチルアクリレート、イソ−セチルアクリレート、ステアリルメタクリレート、イソ-ステアリルメタクリレート、ステアリルアクリレート、ステアリルメタクリレート、デシルテトラデシルアクリレート、デシルテトラデシルメタクリレートなど。好ましくは、メタクリレートモノマーまたはアクリレートモノマーは、ステアリルもしくはラウリルメタクリレートまたはアクリレートである。ポリマーの疎水性部分は、1種または複数種の疎水性モノマーから調製できる。
【0056】
好ましいコポリマー分散剤は、親水性モノマーがカルボキシル化されたモノマーから選択されるポリマー分散剤である。好ましいポリマー分散剤は、アクリル酸モノマーまたはメタクリル酸モノマー、あるいはこれらの組合せである、少なくとも1種の親水性モノマーから調製される。好ましくは、親水性モノマーはメタクリル酸である。特に有用なポリマー顔料分散剤は、US2006/0012654号A1明細書およびUS2007/0043144号明細書に更に記載されている。
【0057】
一般的に、コポリマー分散剤の重量平均分子量は、50000ダルトンより小さい上限値を有する。コポリマーの重量平均分子量は、望ましくは25000ダルトン未満、より好ましくは15000ダルトン未満、最も好ましくは10000ダルトン未満である。好ましくは、コポリマー分散剤は、500ダルトンより大きい下限値を示す重量平均分子量を有する。
【0058】
カプセル型ポリマー分散剤およびこれらのポリマー分散顔料も本発明において使用できる。具体例が以下の明細書に記載されている:US6723785、同6852777、US特許出願公開第2004/0132942号A1明細書、同2005/0020731号A1明細書、同2005/00951号A1明細書、同2005/0075416号A1明細書、同2005/0124726号A1明細書、同2004/0077749号A1明細書および同2005/0124728号A1明細書。高い分散安定性を維持し、インク組成との相互作用が低いので、カプセル型ポリマー分散剤が特に有用である。着色剤相とポリマー相を有する複合着色剤粒子は、本発明において使用される水性顔料ベースのインクにも有用である。顔料の存在下でモノマーを重合させることによって、複合着色剤粒子が生成される。例えば、US特許出願公開第2003/0199614号A1明細書、同第2003/0203988号A1明細書または同第2004/0127639号明細書を参照できる。マイクロカプセル型顔料粒子も有用であり、該粒子は樹脂膜で被覆された顔料粒子からなる。たとえば、US6074467を参照できる。
【0059】
本発明において有用な顔料粒子は、プリントヘッドを介して噴射できる任意の粒径を有し得る。好ましくは、顔料粒子は、0.5ミクロン未満、より好ましくは0.2ミクロン未満の平均粒度を有する。
【0060】
分散顔料着色剤に加えてまたはそれに換えて、本発明のある実施態様において使用される水性インクは、第1着色剤または補助的な着色剤として染料を含有してもよい。本発明における使用に適する染料には、インクジェット印刷の技術分野において常套のものが含まれるが、これらに限定されない。本発明による水性インク組成物用の、このような染料には、以下のものが含まれる:水溶性の反応染料、直接染料(direct dyes)、アニオン染料、カチオン染料、酸性染料、食品用染料、金属錯体染料、フタロシアニン染料、アントラキノン染料、アントラピリドン染料、アゾ染料、ローダミン染料、溶剤系染料など。
本発明において有用な染料の具体例には、以下のものが含まれる(ただし、これらに限定されない):アシッドイエロー、リアクティブイエロー、フードイエロー、アシッドレッド、ダイレクトレッド、リアクティブレッド、フードレッド、アシッドブルー、ダイレクトブルー、リアクティブブルー、フードブルー、アシッドブラック、ダイレクトブラック、リアクティブブラック、フードブラック、CAS No. 224628-70-0(日本化薬株式会社から JPD Magenta EK-1 液として販売されている)、CAS No. 153204-88-7(クランプトン・アンド・クノールズカラー社から、INTRAJET(登録商標)MAGENTA KPRとして市販されている)、およびUS特許5997622と同6001161に記載されている金属アゾ染料。伝統的な、ニッケルベースの連続インクジェットプリントヘッド用の、有用な染料ベースの着色剤系は、EP0781818B1に開示されている。補助的な着色剤として本発明において有用なものは、ポリマー染料またはポリマー染料または添加染料/ラテックス粒子(loaded-dye/latex particles)である。ポリマー染料の例は、US6457822B1と該明細書内の参考文献に記載されている。添加染料/ラテックス粒子の例は、US6431700B1、US2004/0186199A1、US2004/0186198A1、US2004/0068029A1、US2003/0119984A1およびUS2003/0119938A1に記載されている。本発明において使用されるインク組成物において使用される補助的な着色剤は、任意の効果的な量で存在でき、一般に1.0〜10重量%、好ましくは2.0〜6重量%の量で存在できる。
【0061】
本発明に係るケイ素エッチ抑制物質として有用なアゾ化合物の一部も染料化合物である。本発明の特に有利なことは、水性インク配合物中に十分な染料密度をもたらすことが要求されることよりも、ケイ素エッチの抑制をもたらすために、一般的に、このような化合物に関してより低い濃度が要求されることである。したがって、比較的低濃度、例えば2重量パーセント未満、または1重量パーセント未満、または0.1重量パーセント以下の濃度が、効果的に腐食を最小限に抑えるために使用されるが、それらが組み込まれる水性配合物の着色に対する影響が最小限である濃度で使用される。より低い濃度であってもある程度役に立つが、腐食抑制に関するこのような化合物の有効量は、一般に0.001重量パーセントから始まる。
【0062】
インクジェット技術において既知であり、本発明の他の要素と適合できる、任意の水溶性保湿剤を使用できる。水溶性に関しては、使用される保湿剤と水の混合物が均質であることを意味する。単一の保湿剤を使用できるが、有用なインクジェットインクは、各保湿剤がインクジェットインクに対して有用な特性を付与する、2種、3種またはそれ以上の保湿剤の混合物を使用できる。水性インク組成物において使用される保湿剤および共溶媒の代表例には、以下のものが含まれる:(1)アルコール、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、イソ-ブチルアルコール、フルフリルアルコールおよびテトラヒドロフルフリルアルコールなど;(2)多価アルコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、200〜5000ダルトンの平均分子量を有するポリエチレングリコール、200〜5000ダルトンの平均分子量を有するポリプロピレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2,4-ブタントリオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,8-オクタンジオール、グリセロール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-プロパンジオール、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-プロパンジオール、単糖アルコールおよび糖アルコール並びにチオグリコールなど;(3)多酸素化(polyoxygenated)ポリオールおよびこれらの誘導体、例えばジグリセロール、ポリグリセロール、グリセロールエトキシド、グリセロールプロポキシド、グリセリス(glyceryths)、アルキル化およびアセチル化グリセリス、ペンタエリトリトール、ペンタエリトリトールエトキシドおよびペンタエリトリトールプロポキシド、ならびにこれらのアルキル化誘導体およびアセチル化誘導体など;(4)窒素含有化合物、例えば尿素、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、イミダゾリジノン、N-ヒドロキシエチルアセトアミド、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリジノン、1-(ヒドロキシエチル)-1,3-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンおよび1,3-ジヒドロキシ-2-イミダゾリジノンなど;(5)硫黄含有化合物、例えば2,2'-チオジエタノール、ジメチルスルホキシド、及びテトラメチレンスルホンなど;および(6)水溶性のN-オキシド、例えば4-メチルモルホリン-N-オキシドなど。これらのうち、上記のグリセロールおよびこれらの多価アルコール誘導体が好ましく、グリセロールが特に好ましい。グリセロールの多価アルコール誘導体には、グリセロールエトキシド、グリセロールプロポキシドおよびグリセリスが含まれる。保湿剤は単独で使用してもよく、1種または複数種の上記保湿剤を更に組合せて使用してもよい。有用な保湿剤が、対象とするプリンター装置の一般的な操作温度よりも低い融点を示すことで、プリントヘッド装置またはメンテナンス装置に結晶質の沈殿物が形成されることを防ぐ。実際には、このことは、有用な保湿剤は30℃よりも低い融点、好ましくは20℃よりも低い融点、より好ましくは10℃よりも低い融点を有することを意味する。グリセロールおよびこれらの多価アルコール誘導体が使用される場合、それらは好ましくは1〜20重量%、より好ましくは2〜15重量%、最も好ましくは3〜10重量%で使用される。単独または組合せて使用される水溶性の保湿剤と動的表面張力減少剤は任意の量で使用できるが、水溶性の保湿剤と動的表面張力減少剤の総量は、好ましくは3〜30重量%、より好ましくは8〜20重量%である。
【0063】
シート供給ドロップ・オン・デマンド印刷と対比して、CIJは極めて高い印刷処理速度を有し、300m/sを越える基材搬送速度で、紙のロール供給ウェブ搬送が行われるように稼働させることが望ましい。もっぱら、印刷速度は、より低速のドロップ・オン・デマンド印刷技術と比較して、インク配合物に幾つかの制限を課し、このことは、単に、巻き取り前のプレス機においてフルスピードで移動する印刷済み基材を十分に乾燥させるのに要求される時間が短いことに起因する。しかしながら、驚くべきことに、他の点におけるCIJプリントヘッド操作の特徴は、DOD印刷において可能なインク配合と比べて、より幅広いインク配合が可能なことである。従来からのCIJ印刷に特有のインク配合条件は、W.Wnek、IEEE、Trans.1986年、第1475頁〜第81頁に記載されており、該文献は、液滴形成に関して必要なインク性能、非印刷液滴を偏向および捕獲すること、後の印刷に用いるために、貯蔵部からプリントヘッドへ向かうインクを再循環させること、および市販のインク媒体画像の品質と耐久性について開示する。
【0064】
連続インクジェットプリンターにおいて使用するインクジェット用インク組成物は、主要なビヒクルまたはキャリア媒体としての水、着色剤、保湿剤、殺生物剤、および界面活性剤を所望により含有する。該組成物は、1種又は複数種の他の成分を更に所望により含有できる(下記のものを含むが、これらに限定されない):フィルム形成バインダーまたは媒染剤、可溶化剤、共溶媒、塩基、酸、pH緩衝剤、湿潤剤、キレート剤、防食剤、粘度調整剤、浸透剤、湿潤剤、耐泡剤、消泡剤、抗真菌剤、噴射助剤、フィラメント長改良剤、多価カチオン性凝集塩の痕跡、伝導率調整剤溶液、または帯電帯状電極上でインクを乾燥させる場合に、静電偏向電荷のショートを防ぐための化合物。
【0065】
CIJ印刷向けインクジェット用インク組成物の総保湿剤濃度は、望ましくは0〜10重量%である。インクの総保湿剤濃度は、保湿剤成分の個々の源の合計であり、それは、インクの配合中に直接添加された保湿剤、例えば追加成分としての市販の殺生物剤調合液に付随する保湿剤、または、Harz等による、US2005/0075415A1の記載のように、ボトルキャップの周囲で形成される乾燥顔料ケーキに関する所謂「ペイント-フレーク」を防ぐために存在する、市販の顔料分散調合液に付随する保湿剤を含むことができる。より望ましくは、高速プリンターにおいてインクジェット印刷用記録材料の乾燥を促進させると共に、インクによる洗浄と再分散、または流体の流入および停止による洗浄と再分散、あるいはプリントヘッド貯蔵流体による洗浄と再分散に対して、ハードウェア上の乾燥インクフィルムについてより高い平衡含水率を促すために、総保湿剤濃度は1%〜5%である。
【0066】
本発明において使用される水性インク組成物のpHは、有機もしくは無機酸もしくは塩基を添加することによって調整できる。有用なインクは、使用される染料または顔料の種類に応じて、および使用される別のインク成分の電荷特性に応じて、2〜11の好ましいpHを有する。アニオン電荷安定化させた耐摩耗性ポリマーは、6よりも高いpH、好ましくは7〜11の範囲、より好ましくは7.5〜10の範囲のpHを有するインクにおいて使用される。代表的な無機酸には、硝酸、塩酸、リン酸、硫酸が含まれる。代表的な有機酸には、メタンスルホン酸、酢酸、ギ酸、および乳酸が含まれる。代表的な無機塩基にはアルカリ金属水酸化物および炭酸塩が含まれる。代表的な有機塩基には、アンモニア、トリエタノールアミンおよびテトラメチルエチレンジアミンが含まれる。インク組成物のpHは7〜9.5となるように望ましくは調整され、より望ましくはpHが8〜9となるように調整される。CIJ印刷に対する、本発明における適用において特に望ましいアミン塩基には、3-アミノ-1-プロパノール、N,N-ジメタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、およびトリエタノールアミンが含まれる。
【0067】
本発明において使用されるインクは、インクの静的表面張力または動的表面張力を調整するために添加される界面活性剤を、適当な濃度で含有してもよい。界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、両性または非イオン性であってもよく、例えば、インク組成物の0.01〜5%の濃度で使用できる。リン酸エステル、ポリシロキサン、またはアセチレンジオールから成る脱泡剤は、所望により、CIJに対するインク組成物と共に使用され、液滴の捕捉およびインクの再循環に関連する流体の攪拌に起因する発泡を最小限にさせる。
【0068】
インクジェットインク組成物は、非着色粒子、例えば、無機粒子またはポリマー粒子を含有してもよい。このような粒状添加剤の使用は、特に、写真品質画像をもたらすことを目的とするインクジェットインク組成物において、近年増加している。例えば、US特許5925178においては、画像記録素子上の顔料粒子の耐摩擦性と光学濃度を改良するために、顔料を基剤とするインク中に無機粒子を使用することが開示されている。別の例の場合、例えばUS特許6508548B2においては、印刷画像の耐光性と耐オゾン性を改善するために、染料を基剤とするインクにおいて、水分散性ポリマーの使用を開示する。印刷画像の光沢差、耐光性および耐オゾン性、耐水性、耐摩擦性およびその他の種々の性質を改善するために、そのような粒子の使用が、例えば、US6598967B1において記載されている。非着色粒子を含有するが着色剤を含有しない無色のインク組成物も使用できる。無色のインク組成物は、普通紙上での色間にじみおよび耐水性を低減させるために、着色インク組成物の下部、上部に印刷されるか、または共に印刷される不溶性流体または「定着液」などとして、本技術分野において、しばしば使用される(たとえば、米国特許第5866638号または同第6450632号明細書を参照)。また、無色インクは、一般に、耐引っ掻き性および耐水性を改良させるために使用され、印刷画像へオーバーコート付与する(例えば、US2003/0009547A1またはEP1022151A1を参照)。また、無色インクは、印刷画像における光沢差を低減させるために使用される(たとえば、US6604819B2、US2003/0085974A1、US2003/0193553A1、またはUS2003/0189626A1を参照)。本発明において使用されるインクおよび水性組成物において有用な無機粒子の例には、アルミナ、ベーマイト、クレー、炭酸カルシウム、二酸化チタン、熱分解クレー、アルミノシリケート、シリカ、または硫酸バリウムが含まれる(ただしこれらに限定されない)。
【0069】
また、本発明には、印刷システムの点検用途において使用され、本発明に係るアゾ化合物を配合した実質的に無色のメンテナンス流体組成物も含まれる。これらの溶液は液滴形成に用いられても用いられなくてもよく、基材のマーキングを対象としない。幾つかの例として、プリントヘッド貯蔵流体、ライン洗浄流体、装置洗浄流体、プリントヘッドアライメント製造流体などが含まれる。プリントヘッド貯蔵流体は、不活性の場合、MEMSプリントヘッドの貯蔵と湿潤状態での運転停止を行うために使用できる。機能性成分、例えば殺生物剤、界面活性剤、洗浄剤、溶媒(例えば、イソプロパノール)、ソルボ界面活性剤(solvosurfactant)(例えば、グリコールエーテル)、pH緩衝剤、および金属防食剤などを含有できる。湾曲した噴射を整えるために、洗浄流体を、交差した洗浄モード状態で、プリントヘッド中を再循環させて使用できる。
【0070】
本発明の幾つかの実施態様において、実質的に無色の組成物を用いる場合、アゾ化合物は、腐食を最小限にするのに十分な量で存在するが、印刷された場合には、著しい着色密度を示すには不十分である。例えば、アゾ化合物は1.0重量パーセント以下、より好ましくは0.001〜1.0重量パーセント未満、および最も好ましくは0.01〜0.2重量パーセントの濃度で存在し得る。さらに、このような実質的に無色の組成物は、2重量パーセント未満の任意の着色剤、より好ましくは1.0重量パーセント未満の着色剤である任意の化合物、および最も好ましくは0.1重量パーセント未満の着色剤である任意の別の化合物を更に含有する。pHの影響を受ける化合物、例えばpHに影響を受ける分散体などを含まなくてもよいので、メンテナンス流体はインクと比べてより幅広い範囲のpH値を有することができる。これらのメンテナンス流体は、印刷以外のケイ素MEMS技術、例えば流体装置を洗浄または貯蔵するなどの技術においても適用できる。望ましくは、本発明において使用されるアゾ化合物は、2w/w%以下の濃度で存在する。より望ましくは、本発明において使用されるアゾ化合物は、1w/w%以下の濃度で存在する。最も望ましくは、アゾ化合物は、0.001%〜0.1%の間の濃度で存在する。
【0071】
インク組成物において使用される非着色粒子は、任意の有効量で存在することができ、一般に0.01〜20重量%、および好ましくは0.01〜6重量%である。非着色粒子の的確な選択は、印刷画像の具体的な用途および要求される性能に基づく。
【0072】
殺生物剤は、インクジェット用インク組成物に添加され、水性インク中における微生物、例えばかび、菌類、などの増殖を抑制できる。インク組成物向けの好ましい殺生物剤は、0.0001〜0.5wt%の最終濃度でのProxel(登録商標)GXL(Arch ケミカル社)、または同じ濃度範囲のKordek(登録商標)MLX(ローム・アンド・ハース社)である。インクジェット用インク組成物中に所望により存在できる更なる添加剤には、増粘度剤、乾燥剤、耐水剤、染料可溶化剤、キレート化剤、バインダー、光安定剤、増粘剤(viscosifier),緩衝剤、かび防止剤、カール防止剤、耐腐食剤、安定剤および脱泡剤が含まれる。インク組成物の的確な選択は、それらが噴出されるプリントヘッドの具体的な用途および要求される性能に基づく。現在の連続インク排出モードに関して、許容できる粘度は10cP以下、好ましくは1.0〜5.0cPの範囲である。
【0073】
本発明の1態様において、連続インクジェットプリンターにおいて使用されるインクジェット用インク組成物は、連続的な流体流から生成される複数の液滴体積を使用する方法で印刷され、印刷液滴と異なる体積の非印刷液滴は、再循環用の溝内へ液滴偏向手段によって迂回させられる。このことは、US特許第6588888B2(ジーンマイヤー等)、US特許第6554410B2(ジーンマイヤー等)、US特許第6682182B1(ジーンマイヤー等)、US2003/0202054A1(ジーンマイヤー等)、US特許第6793328B2(D.ジーンマイヤー等)、US特許第6866370B2(D.ジーンマイヤー等)、US特許第6575566B1(ジーンマイヤー等)、US特許第6517197B2(ホーキンス等)において記載されている。別の好ましい実施態様において、インクジェット用インク組成物は、液滴の崩壊を初期化し、得られる液滴を誘導する役割を果たす、流体流れへの熱を非対象的に施すことによって、形成される印刷物と非印刷液滴の方向を制御できる装置を用いて印刷され、このことはUS特許第6079821B2(Chwalek等)、およびUS特許第6505921B2(Chwalek等)において開示されている。CIJ顔料インクジェット用インク組成物用の、有用なインク撹拌、熱インク供給部およびプリントヘッド、並びに流体ろ過方法は、クロケット等によるUS特許第6817705B13に記載されている。インク品質を維持するため、およびインク揮発性成分の蒸発の影響に対抗するためのプリンター補給システムは、US特許第5526026(M.ボワーズ等)、US特許第5473350(マダー等)、およびEP0597628A1(ロイド等)に記載されている。
【実施例】
【0074】
下記の実施例は、本発明の有用性を説明する。
【0075】
実施例1 緩衝液
この実施例は、緩衝液における腐食を最小限にするために、本発明において記載された材料がどのように使用されているかを示す。緩衝液は、水へN-メチルジエタノールアミン(MDEA)を添加し、酢酸(HOAc)を添加して、実験的なpH値へ適応させることにより調製された。ケイ素の腐食は、温度、圧力および流れを調節できる再循環系を用いるUS2009/0065478A1(ドッケリー等)において開示された方法を使用して、低コヒーレンス干渉法によるインサイチュでのケイ素(Si(100))クーポン(26mm×26mm、厚さ0.3mm)に基づき測定される。観察されたエッチング速度はケイ素腐食の直接的な尺度をもたらすので、ケイ素腐食の抑制を評価することの決定的手段となる。表1において細述された実験の全ては、131kPaの圧力で行われた。
【0076】
【表1】

【0077】
項目1および2で示されたデータは、若干のアルカリ性緩衝液であっても、ケイ素の腐食が著しいことを明らかにするとともに、実験条件下において1時間あたり10分の1ミクロンの範囲でエッチ速度が観察された。温度の上昇に伴いエッチ速度が上昇すること(項目2と項目1の対比)は、加熱によって腐食が促進されることを示す。観察されたエッチ速度に基づくと、MDEA緩衝液を備えるケイ素エッチングに関するアレニウス活性化障壁は算出され14kcalとなる。緩衝液単体の状態で観察された急速なケイ素エッチングと対照的に、本発明(表1における項目3および4)に従い配合された緩衝液を有する場合、エッチ速度は検出限界(1nm/時)に近づき、すなわち、本発明による配合物は比較配合物と比べて100倍低いケイ素腐食を示す。項目3で示されたデータは、本発明にかかるアゾ化合物の濃度が低い場合であっても、本発明において開示された種類の配合物が効果的な腐食抑制を可能とすることを示す。
【0078】
実施例2、インクビヒクル溶液
この実施例において、ケイ素の腐食は、インクジェット用インク配合物において一般に使用される種類の界面活性剤と保湿剤を含有する溶液から調製された一連の配合物に関して評価されている。これらの実施例は、実施例1において用いられた緩衝液配合物と比較して、より実用的な本発明における実施態様を用いて、本発明による配合物のケイ素腐食抑制を評価する手段を提供する。基本となる溶液(溶液1、Sol.1)の配合を表2に記載する。
【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
表3における項目1および2において示される比較データは、平均値であるとともに、複数の実験結果から得られる標準偏差である。項目1に関すると、得られたデータは2つの測定の平均値である。項目2に関すると、得られたデータは、16回の測定の平均である。表3の項目1〜3で示されるデータは、保湿剤と界面活性剤を含有する緩衝溶液が、直ちにケイ素を腐食させることを示すと共に、腐食過程は温度によって促進されることを示す。Sol.1に関して観察されたエッチ速度は、単体の緩衝液に関するエッチ速度に相当する(表1の項目1と表3の項目1の比較)。スルホン化ナフタレン誘導体を含有する単純な非アゾ系化合物(比較例.1)をSol.1(表3の項目4)へ添加した場合、Sol.1単体と比べてより急速なケイ素腐食が観察された。
【0082】
本発明に従う種類の配合に関するケイ素腐食の結果は、表3の項目5〜14において示されている。緩衝溶液(表1における項目3および4)において見受けられるように、アゾ1は、界面活性剤と保湿剤と共に配合される場合にも効果的なケイ素腐食抑制剤であることが見出されており、また、昇温条件下でもケイ素エッチングは観察されていない(表3の項目5)。本発明によるより好ましい実施態様(例えば項目6〜8など)は、約1nm/時またはそれ未満の最小限のケイ素エッチ速度を有すると共に、効果的にケイ素腐食を抑制することも見出されている。本発明に係る溶液に関する腐食の速度は、同等の温度での比較溶液Sol.1の配合物の速度と比べて、約100倍低い。本発明による好ましい実施態様(例えば、表3における項目9および10など)も、ケイ素腐食の抑制を示す。項目11および12において、より好ましい水酸化したスルホン化アゾナフタレン誘導体、およびやや好ましい水酸化したスルホン化アゾナフタレン誘導体が評価されている。アゾ7を含有するより好ましい配合物は、やや好ましいアイソマー(アゾ8)(表3の項目12と表3の項目2の比較)に関する腐食速度と比べより良好な程度で、実験条件下において効果的に抑制されたケイ素腐食を示す。表3における最終的な項目(項目13および14)は、水酸化したスルホン化ナフタレンを含有しない、本発明において使用されるアリールアゾ化合物に関する腐食特性を提供する。いずれの配合も腐食を抑制することが見出されており、アゾ9はケイ素エッチングの抑制に特に効果的であることが見出された。
【0083】
比較.1(CAS番号第9084-06-4(LomarLS、コグニス社)):
【0084】
【化14】

【0085】
実施例3、連続インクジェット用インク組成物
略記(wt%)は、構成要素の重量パーセントを表す。カーボンブラック顔料分散体の含有量は、カーボンブラックの重量パーセントに基づく。
【0086】
ポリマー分散剤の調製
ポリマー分散剤P-1
1リットルの、還流冷却器を備える3つ口の丸底フラスコ中へ、窒素雰囲気下にて、37.0gのベンジルメタクリレート、30.0gのステアリルメタクリレート、および33.0gのメタクリル酸、1.5gの1-ドデカンチオール、400mLのメチルエチルケトン、並びに1.2gのAIBNを混合させた。溶液を撹拌し、20分間窒素でパージし、一定温度の浴槽中で70℃まで加熱した。24時間後、得られた溶液を冷却した。得られたポリマー溶液を、水とジメチルアミノエタノールで混合させ、100%の酸中和をもたらした。その後、混合物全体を、減圧条件下50℃にて蒸留させ、有機溶媒を除去した。最終的なポリマー溶液は水中で約20wt%の濃度を有し、そのpHは約7であった。重量平均分子量は10800ダルトンであった。
【0087】
ポリマー分散剤P-2
5リットルの、機械撹拌器と還流冷却器およびガス注入口を備える3つ口の丸底フラスコを、225gの1-メトキシ-2-プロパノールで充填させ、窒素を拡散させた。Akzo-ノーベル化学社製の開始剤PerKadox AMBN-GR(1.9g)を撹拌させながら添加した。反応容器を225gの1-メトキシ-2-プロパノール、23.4gの1-ドデカンチオール、203.5gのベンジルメタクリレート、165.0gのステアリルメタクリレートおよび181.5gのメタクリル酸で充填し、溶液を窒素拡散によって脱気させた。その中に、AMBN-GR(7.7g)を添加し混合させた。反応温度を77℃まで上昇させ、360分にわたり2.3mL/分の速度にて、容器から反応物を送り出した。反応混合物を77℃で少なくとも12時間撹拌させた。ジメチルアミノエタノールを用いて完全にポリマーを中和させ、45分間撹拌させた。反応混合物を2580gの水で希釈し、Pall社製のUltipleatポリプロピレンカートリッジフィルターを介してろ過した。最終的なポリマー溶液は約20wt%の固形分濃度を有し、そのpHは8.6であった。重量平均分子量の平均は9070ダルトンであった。
【0088】
顔料分散体の調製
顔料分散体K-1
2.5ガロンで、9-インチの直径と12-インチの深さを有し、4つのバッフルを具備する、2重壁のステンレススチール製混合容器へ、水(1273g)とポリマー分散体P-1の溶液(20.6wt%溶液を727g)を添加した。チャーレスロス&ソン社の形式HSM-100LH-2高せん断ミキサーにより駆動される、わずか4インチの環状の分散羽根(ホックマイヤー・エクイプメント社、D-ブレード)を、撹拌容器の底から2インチ上方の中心位置へ配置し、撹拌を開始する。デグサ社製のNIPex(登録商標)180IQカーボンブラック顔料(500g)を流体内へゆっくりと調合させる。50マイクロメーターの平均粒径を有するポリスチレン樹脂ビーズ(スチレンとジビニルベンゼン/エチルビニルベンゼン混合物のコポリマー)を含有する粉砕媒体(3000g)を、羽根車の速度を上昇させながら、ゆっくりと添加する。混合物を、初期温度25〜35℃にて、20時間、約19m/秒の撹拌翼の先端速度で粉砕する。マイクロトラック社製のNanotrac(登録商標)150動的光散乱分析器によって粒径を測定するために、サンプルを定期的に取り出し、希釈および濾過した。粉砕が完了した際に、分散体/粉砕媒体混合物を、10%の最終顔料濃度と、5000gの理論分散バッチサイズを有するように、水(2475g)とローム・アンド・ハース社製のKordek(登録商標)MLX防腐剤(25g)との溶液でさらに希釈する。羽根を分散体/粉砕媒体混合物から取り出し、真空分離フィルタープローブを浸漬させる。フィルタープローブは、密閉された2−インチ長の1.25インチOD管状の、38マイクロメータスクリーン(ジョンソンスクリーン)へ連結された0.25インチのID Tygon(登録商標)プラスチックチューブから構成される。ぜん動性ポンプは、粉砕媒体から分散体を分離するために使用され、その後、それらは、0.3マイクロメーターの除去効率を示す、奥行きのあるフィルターであるパール社製のProfileII(登録商標)を用いて、除去される。おおよそ4kgの分散体が回収され、収率は約80%である。体積加重した50番目の百分位数(50th percentile)粒径での分布粒径は62nmであり、95番目の百分位数(95th percentile)粒径での分布粒径は110nmである。
【0089】
顔料分散体K-2
顔料分散体K-1に類似する手順を用いて、20時間にわたり、50マイクロメーターの平均粒径を有するポリマー樹脂製の粉砕媒体(3000g)を用いながら、NIPex180IQカーボンブラック顔料(500g)を、水(1000g)とポリマー分散剤P−2の溶液(20.1wt%溶液を1000g)との溶液中に分散させる。粉砕に続けて分散体/粉砕媒体混合物を、10%の最終顔料濃度と、5000gの理論分散バッチサイズを有するように、水(2475g)とKordek(登録商標)MLX(25.0g)との溶液で希釈する。分散体を粉砕媒体から分離し、その後、0.3マイクロメーターの効果的な孔径を有し奥行きのあるフィルターを介して、それを濾過する。およそ4kgの分散体が回収され、収率は約80%である。体積加重した50番目の百分位数(50th percentile)粒径での分布粒径は60nmであり、95番目の百分位数(95th percentile)粒径での分布粒径は105nmである。
【0090】
連続インクジェット用インクサンプルの調製
ブラック着色した連続インクジェット用インク組成物インクA〜Fを、表4において記載された相対的比率で原料を混合することにより、顔料分散体K-1およびK-2から調製した。代表的な方法の場合、下記の機能性成分オーダーで、マグネチック撹拌子を具備する1リットルのポリエチレンビーカー中に、表Iに従い均整のとれた良好な混合で原料を混合することによって、500gのインクを調製する:水、酸、塩基、保湿剤、殺生物剤、防食剤、アゾ化合物(アゾ1、ダイレクトブラック19)、顔料分散体、界面活性剤および消泡剤。インク組成物は、原料を添加する間に2分間混合され、次いで、消泡剤の添加後に1時間撹拌させる。インク組成物は76Torrの真空条件下、47mmのパール社製Versapor(登録商標)1200膜を介して濾過し、次いで、密封したボトルに貯蔵した。
【0091】
28wt%の有機ポリマー分散ピグメントイエロー74顔料分散体(0.1wt%のアゾ9を有する約10wt%Sunbrite(登録商標)イエロー顔料(サンケミカル社));0.08wt%の界面活性剤;6wt%の保湿剤;20%酢酸カリウム抵抗率改質剤の水性溶液を1wt%;0.2wt%の消泡剤;20%有機ポリマーバインダーの水性溶液を3.3wt%、0.1wt%のコブラテック社製TT-50S金属防食剤、0.1wt%のProxelGXL殺生物剤、および61wt%の脱イオン水を混合することによって、イエロー色素性の連続インクジェット用インクGを、ブラック色素性インクと同様の方法で調製した。
【0092】
この実施例においては、色素性のインクジェット用インクの腐食特性を評価する。インクは、本発明による腐食抑制剤を有して配合されるか、または該腐食抑制剤を有さずに配合される。比較インクは、顔料(例えばカーボンブラックなど)に加えて、Sol.1で示したような緩衝剤、保湿剤および界面活性剤を含有する。また、本発明に係る配合物は、本発明において使用されるケイ素腐食抑制剤を含有する。結果を、表4に要約する。比較配合物に関する、表5における項目1〜7より、ケイ素の腐食がインクジェットインクに生じ得ることが明らかである。比較的適度な温度(表5における項目2および7)であっても、また、若干のアルカリ溶液(表5の項目3)であっても、1時間あたり数十nm以上のエッチ速度で、ケイ素が腐食することが判る。一方、本発明に係る対応するブラックインク配合物(項目8および9)は、より減少させたケイ素腐食の傾向を示す。例えば、表5の項目8と表5の項目4を比較すると、本発明に係る実施例の項目8は、エッチ速度に基づき、少なくとも50倍以下の腐食であることが判る。表5の項目9において示されるデータは、昇温条件下およびよりアルカリ性(高いpH値)のインク配合物であっても、ケイ素腐食は低い状態であることを示す。
【0093】
【表4】

【0094】
表5の最終項目において、イエローインクの本発明に係る配合物(インクG)も、望ましい最小限のケイ素腐食を示す。
【0095】
【表5】

【0096】
実施例4、プリントヘッドノズルプレート再循環試験
この実施例は、連続流インクジェット用プリントヘッドダイを備える連続流インクジェット系においてインクが使用される場合において、当該技術分野で既知の種類のインクと比べ、本発明に係るインクの有利な点を示す。この実施態様において、圧力、流れおよび温度を調整でき測定できるアッセンブリに固定物が連結される状態で、連続流インクジェット再循環系は、ケイ素を基剤とするMEMS連続流インクジェットプリントヘッドダイ(87mmの長さと5mmの幅を有し、1cmあたり236個のノズルを有し、ノズル径は9μmである)へ取り付けられることにより組み立てられる。この実施例において、圧力と温度が一定となるように調整した。実験条件および結果を表6にて概説する。
【0097】
【表6】

【0098】
比較インク(表6、項目1)を使用したMEMS CIJプリントヘッドダイの場合、観察された流速が突然上昇し、414kPaの一定圧を維持できなくなることから示されるように、インクを100時間噴出した後にプリントヘッドは損傷した。損傷したデバイスの外観検査によると、プリントヘッドダイ中のチャネルを区切るケイ素膜が腐食しており、プリントヘッドダイへの物理的な損傷が原因であることが判る。一方、本発明に係るインクを噴出した場合、188時間後であっても、系において圧力または流れの変化は観察されなかった。本発明によるインクを使用したプリントヘッドダイの外観検査によると、ケイ素チャネルの腐食に関する形跡はみつからなかった。CIJ系において本発明によるインクを使用することは、構造安定性を著しく改良させることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリンターに水性インク組成物を充填すること、および記録材料に対して該インク組成物を噴出することを含み、
インク組成物と接触するケイ素系材料を含有するインクジェットプリンターを用いて、水性インク組成物を印刷するための方法であって、
該インク組成物が、少なくとも第1着色剤と、インク組成物により接触させる場合に、該ケイ素系材料の腐食を抑制するのに十分な濃度で可溶性有機芳香族アゾ化合物を含有する該方法。
【請求項2】
可溶性有機芳香族アゾ化合物が式(1)で表わされる化合物を含有する、請求項1に記載の方法:
【化1】

(式中、Yは置換または非置換の芳香族置換基であり、Sは置換または非置換の芳香族、脂肪族、環状、非環式または多環式有機基であり、ただし、YまたはSの少なくとも1つは、少なくとも1つの可溶化基で置換される)。
【請求項3】
YまたはSの少なくとも1つが、少なくとも1つのスルホン酸塩基で置換される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
可溶性有機芳香族アゾ化合物が式(2)で表わされる化合物を含有する、請求項1に記載の方法:
【化2】

(式中、R、R、R、R、RおよびRは同一であってもよく、異なっていてもよく、それぞれ単独でまたは共同で、水素、疎水性基および親水性基、脂肪族、芳香族、非環式、多環式および環状系を示し、ただし、R、R、R、R、RおよびRの少なくとも1つは、式S-N=N-(式中、Sは置換または非置換の芳香族、脂肪族、環状、非環式または多環式有機基である)で表わされる置換アゾ基を示し、ならびに、RおよびRは、H、あるいは無機または有機カチオンを示す)。
【請求項5】
少なくとも1つの置換基R、R、R、R、R、Rがヒドロキシルである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの置換基R、R、R、R、R、Rがヒドロキシルであり、少なくとも他のものがアミノまたはアミドである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
可溶性有機芳香族アゾ化合物が式(3)で表わされる化合物を含有する、請求項1に記載の方法:
【化3】

(式中、Sは、置換または非置換の芳香基、脂肪族、環状、非環式または多環式有機基であり、R〜R13は、同一であってもよく、異なっていてもよく、それぞれ、水素、疎水性基および親水性基、脂肪族、芳香族、非環式、多環式および環状系から選択され、ただし、R〜R13の少なくとも1つは、スルホン酸基またはスルホン酸基の共役塩基である)。
【請求項8】
〜R13の少なくとも1つがニトロ基である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
可溶性芳香族アゾ化合物が1.0重量パーセント以下の濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
可溶性芳香族アゾ化合物が0.001〜1.0重量パーセント未満の濃度で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
着色剤が顔料を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項12】
着色剤が染料を含有する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
着色剤がイエロー、マゼンタ、またはシアン染料若しくは顔料を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
インクジェットプリンターが、ケイ素系の液滴形成プリントヘッドを用いる連続インクジェットプリンターである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも第1着色剤と、水性組成物により接触させる場合に、ケイ素系材料の腐食を抑制するのに十分な濃度で可溶性有機芳香族アゾ化合物を含有し、
該水性インク組成物と接触するケイ素系材料を含有するインクジェットプリンターにおいて使用するための水性インク組成物であって、
該可溶性有機アゾ化合物の濃度が0.001〜1.0重量パーセント未満である、該組成物。
【請求項16】
可溶性有機芳香族アゾ化合物が式(1)で表わされる化合物を含有する、請求項15に記載のインク組成物:
【化4】

(式中、Yは置換または非置換の芳香族置換基であり、Sは置換または非置換の芳香族、脂肪族、環状、非環式または多環式有機基であり、ただし、YまたはSの少なくとも1つは、少なくとも1つの可溶化基で置換される)。
【請求項17】
着色剤がイエロー、マゼンタ、またはシアン染料若しくは顔料を含有する、請求項15に記載のインク組成物。
【請求項18】
水性組成物により接触させる場合に、ケイ素系材料の腐食を抑制するのに十分な濃度で可溶性有機芳香族アゾ化合物を含有し、
該水性組成物と接触するケイ素系材料を含有するインクジェットプリンターにおいて使用するための水性組成物であって、
該水性組成物が2重量パーセント未満の任意の着色剤を含有する、該水性組成物。
【請求項19】
水性組成物が0.001〜1.0重量パーセント未満の可溶性有機アゾ化合物を含有すると共に、1.0重量パーセント未満の着色剤である任意の化合物を含有する、請求項18に記載の水性組成物。
【請求項20】
可溶性有機芳香族アゾ化合物が式(1)で表わされる化合物を含有する、請求項19に記載の水性組成物:
【化5】

(式中、Yは置換または非置換の芳香族置換基であり、Sは置換または非置換の芳香族、脂肪族、環状、非環式または多環式有機基であり、ただし、YまたはSの少なくとも1つは、少なくとも1つの可溶化基で置換される)。

【公表番号】特表2012−528026(P2012−528026A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513050(P2012−513050)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2010/001558
【国際公開番号】WO2010/138191
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】